説明

編物

【課題】風合いや経済性を犠牲にすることなく、洗濯を繰り返しても形態が安定したアクリル系繊維を含む編物を提供する。
【解決手段】高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)が質量比20:80〜80:20の範囲でサイドバイサイド構造に接合されたアクリル系複合繊維を30質量%以上含む編物であって、JIS L0217 103法における10回洗濯後の寸法変化率が5%未満である編物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し洗濯によっても形態安定性のあるアクリル系繊維含有の編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系繊維を含む編物は、バルキー性を有することから、保温、調温に適した素材生地として、スポーツ衣料、インナー、セーター等の用途に使用されている。その一方で、洗濯により収縮し、着丈が短くなる等の欠点がある。また、編地が糸でループを形成することによって得られるものであることから、編地、特に鹿の子等のタック目と呼ばれる編み方で得られる編地は、編地構造が緩く形成されているため、洗濯による収縮は不可避である。
【0003】
かかるアクリル系繊維を含む編物の洗濯による収縮を抑止或いは軽減するために、従来から種々の方法は提案されている。例えば、非伸縮性アクリル系繊維と弾性繊維から構成されるコアスパンヤーン糸を用いる方法がある(特許文献1)が、コアスパンヤーン糸は、その製造には特殊な精紡機を必要とするためコストが高く経済性に問題があり、またアクリル系繊維は、非伸縮性繊維として用いるため捲縮度を下げる必要があり、その結果風合いや柔軟性が損なわれるという問題がある。
【0004】
また、アクリル系繊維等を含む編物を架橋性親水加工剤で加工することにより、風合いや柔軟性を付与する方法がある(特許文献2)が、繊維の親水化で表面形態は安定化されるものの、洗濯による収縮は抑止することはできないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−27344号公報
【特許文献2】特表2002−294564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、風合いや経済性を犠牲にすることなく、洗濯を繰り返しても形態が安定したアクリル系繊維を含む編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)が質量比20:80〜80:20の範囲でサイドバイサイド構造に接合されたアクリル系複合繊維を30質量%以上含む編物であって、JIS L0217 103法における10回洗濯後の寸法変化率が5%未満である編物、にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アクリル系繊維を含有させて構成しながら、繰り返し洗濯しても形態が安定した編物を提供すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、アクリル系複合繊維を構成する一方の複合成分である高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)は、アクリロニトリルに、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体2〜8質量%、親水性単量体2〜8質量%を共重合させたアクリロニトリル系重合体であり、後述する条件で、単体で紡糸して得られた繊維での膨潤度が2〜10%の高膨潤性を有するものである。アクリロニトリル系重合体における親水性単量体が2質量%未満では、単体で紡糸して得られる繊維での膨潤度が2%未満となり、親水性単量体が8質量%を超えると、得られる複合繊維での強伸度が低下し、紡績工程でのネップ発生量が増大する。
【0010】
また、他方の複合成分である低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)は、アクリロニトリルに、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体4〜9質量%、親水性単量体0〜1質量%を共重合させたアクリロニトリル系重合体であり、後述する条件で、単体で紡糸して得られた繊維での膨潤度が1%未満の低膨潤性を有するものである。アクリロニトリル系重合体における親水性単量体が1質量%を超えると、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)との膨潤度の差が小さくなり、得られる複合繊維での乾燥、湿潤時の形態変化が小さくなるだけでなく、製造コストを増加させる。
【0011】
高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)或いは低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)におけるアクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0012】
また、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)或いは低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)におけるアクリロニトリルと共重合させる親水性単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能で、かつ親水性の官能基を有する単量体であり、例えば、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ナトリウム、アクリルアミドメチルスルホン酸ナトリウム、ソディウムパラスルホフェニルメタリルエーテル等が挙げられる。
【0013】
高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)、低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)の膨潤度の測定は、それぞれの重合体の単体を、ジメチルアミドに溶解して紡糸原液とし、40℃のジメチルアミド50質量%水溶液の凝固浴条件で、紡糸された繊維を、熱水中で5倍に延伸し、油剤付与、乾燥、捲縮付与を行い、300kPa蒸気中で緩和し、室温で冷却して、単繊維繊度3.3dtexの繊維を作成した。
【0014】
繊維端に0.4mg/dtexの荷重をかけたときの繊維長L1を測定し、荷重を取り除き30℃の水中に1時間浸漬した後、取り出して表面の水分を拭き取り、繊維端に再度0.4mg/dtexの荷重をかけたときの繊維長L2を測定した。その後、20時間風乾して、繊維長L1、繊維長L2を測定する操作を2回繰り返して行い、繊維長L1、繊維長L2の平均値を求め、下記式により膨潤度を算出した。
膨潤度=[(L2−L1)/L1]×100
【0015】
本発明におけるアクリル系複合繊維は、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)とを複合成分とし、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)とが質量比で20:80〜80:20の範囲の複合比でサイドバイサイドに接合された複合構造を有する。
【0016】
高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)との質量比が20:80〜80:20の範囲外では、複合繊維に不規則な捲縮が発生し風合いが悪化する。
【0017】
本発明におけるアクリル系複合繊維の製造方法は、膨潤度2〜10%の高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と膨潤度が1%未満の低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)とを複合成分とし、それぞれ固形分濃度15〜25質量%になるようにジメチルアセトアミド等の溶剤に溶解して紡糸原液を調製し、2種の紡糸原液を、複合紡糸口金を用い、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と膨潤度が1%未満の低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)とを質量比で20:80〜80:20でサイドバイサイド構造に接合させて、20〜40℃、ジメチルアセトアミド等の30〜55質量%水溶液の凝固浴条件で、複合紡糸し、熱水中で5倍に延伸し、油剤付与、乾燥、捲縮付与し、引き続き300kPa蒸気中で緩和した後、室温にて冷却することからなる。
【0018】
本発明の編物は、高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)が質量比20:80〜80:20の範囲でサイドバイサイド構造に接合されたアクリル系複合繊維を30質量%以上含んで構成され、さらに編物においてJIS L0217 103法における10回洗濯後の寸法変化率が5%未満であるいう形態安定性を有する。
【0019】
そして、本発明の編物は、水に浸漬したときと乾燥したときとで、編物を構成するアクリル系複合繊維によった編組織が可逆的に変化し、繊維の湿潤時に生じた収縮が乾燥時に解放されて元に戻り、繰り返しの洗濯によっても形態が安定したものである。
【0020】
本発明の編物は、洗濯による収縮を抑えるうえでは、糸が動き難い組織であることが好ましく、ゴム編、パール編、両面編、片畦編、両畦編、ミラノリブ、リンクス編、添え糸編、逆添え糸編、パイル編のいずれか一種の編組織からなることが望ましい。編物の編成条件はアクリル系複合繊維を望ましくは前述の編組織とする以外は特に制限はなく、編物にアクリル系複合繊維が30質量%以上含まれるように編物を製造する。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、各特性値の測定は、次の方法に拠った。
【0022】
(寸法変化率)
試料編地を20cm角に裁断し、タテ方向とヨコ方向の寸法を測定した後、JIS L0217 103法に従って洗濯、脱水を行い、タテ方向が垂直に、ヨコ方向が水平になるように吊り下げ、一昼夜乾燥した。洗濯と乾燥の操作を10回繰り返し行った後、タテ方向とヨコ方向の寸法を再度測定し、下記式で寸法変化率を算出した。
寸法変化率(%)=[(洗濯前の寸法−洗濯後の寸法)/洗濯前の寸法]×100
○:寸法変化率が5%未満
×:寸法変化率が5%以上
【0023】
(風合い)
10名の判定員により、試料編地の表面を手で触ったときの官能評価により風合いを判定した。
○:判定員全員が良好と判定
×:判定員のうちの1名以上が不良好と判定
【0024】
(紡績通過性)
糸欠点検知機で測定したネップ数から判断した。
○:ネップ数が10ケ/1000m未満
×:ネップ数が10ケ/1000m以上
【0025】
(総合評価)
寸法変化率、風合い、紡績通過性の評価結果より、○の数で示した。
【0026】
(実施例1〜6、比較例1〜8)
表1に示した単量体(モノマー)共重合の2種のアクリロニトリル系重合体(AN系ポリマーA、B)をそれぞれ固形分濃度24質量%になるようにジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液を調製した。この2種の紡糸原液を、複合紡糸口金を用い、表1に示す質量比で、40℃、ジメチルアセトアミド50質量%水溶液の凝固浴条件で、複合紡糸し、熱水中で5倍に延伸し、油剤付与、乾燥、捲縮付与し、引き続き300kPa蒸気中で緩和した後、室温に放置冷却して単繊維繊度2.2dtexの複合繊維を得た。得られた複合繊維を、繊維長51mmにカットし、た複合繊維のみかなる構成或いはレギュラーアクリル繊維(三菱レイヨン社製、V17、単繊維繊度3.3dtex、繊維長51mm)混綿の構成で、紡績して、2/48番手の紡績糸を作成した。得られた紡績糸を、カチオン染料(保土谷化学工業社製、カチロン ブルーCDRLH)2%(対繊維質量)で60分の沸騰染色をした後、染め糸で、12ゲージで表1に示した編組織に編成して仕立てた。各特性値の測定結果は表1に示した。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の編物は、アクリル系繊維を含みバルキー性を有することから、保温、調温に適し、しかも風合いや経済性を犠牲にすることなく、洗濯を繰り返しても形態が安定した、スポーツ衣料、インナー、セーター等の用途分野に極めて有用なるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高膨潤度アクリロニトリル系重合体(A)と低膨潤度アクリロニトリル系重合体(B)が質量比20:80〜80:20の範囲でサイドバイサイド構造に接合されたアクリル系複合繊維を30質量%以上含む編物であって、JIS L0217 103法における10回洗濯後の寸法変化率が5%未満である編物。
【請求項2】
編物が、ゴム編、パール編、両面編、片畦編、両畦編、ミラノリブ、リンクス編、添え糸編、逆添え糸編、パイル編のいずれか一種の編組織からなる請求項1に記載の編物。



【公開番号】特開2009−228163(P2009−228163A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75690(P2008−75690)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】