説明

編物

【課題】織物布帛(ジャケット、パンツ)のようなハリコシ感と編物特有の膨らみ感、ソフトで清涼感のある爽やかな風合い、適度な吸湿性とストレッチ性のある快適な着用感、深みのある色調や絹のような高級感のある光沢等、快適な着用感と高級感に優れた衣料用の編物を提供する。
【解決手段】編物は、少なくとも水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸と弾性糸とで構成されている。該セルロース系フィラメント糸の混率は50%以上でする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編物に関し、更に詳しくは織物布帛(ジャケット、パンツ)のようなハリコシ感、編物特有の膨らみ感、ソフトで清涼感のある爽やかな風合い、適度な吸湿性とストレッチ性のある快適な着用感、深みのある色調や絹のような高級感のある光沢等、快適な着用感と高級感に優れた衣料用の編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非弾性糸と弾性糸とを用いた編物は、スポーツ衣料を中心に、特に水着分野等に機能性を発揮し広く用いられている。例えば、特開2001−348762号公報(特許文献1)や特開2001−355165号公報(特許文献2)、特開2002−13052号公報(特許文献3)、或いは特開2008−240183号公報(特許文献4)には、非弾性糸と弾性糸とを用いた編物が開示されている。
【0003】
特許文献1〜3によれば、非弾性糸としてウール、絹等の天然繊維、キュプラ、レーヨン等のセルロース系繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維が使われ、弾性糸にはポリウレタン系、ポリエーテルエステル系等の繊維が使われており、特許文献4では非弾性糸にポリエステル系繊維、アクリル繊維、レーヨン等の再生繊維、生分解性繊維等が使われ、弾性糸には各種の弾性糸やゴム糸が使われている。
【0004】
特許文献1は弾性編地の経・緯方向の伸度を所定の値に規定するとともに、経・緯方向のいずれかの方向を拘束して、他の方向を所定の値まで伸長した際に拘束された方向の編み地にかかる応力を所定の値の範囲にあるよう規定するものである。特許文献2では、弾性糸の繊度と非弾性糸と繊度との比を規定するとともに、非弾性繊維の繊度を所定の範囲内にあるように規定している。また特許文献3では、経挿入される弾性糸の直径比を規定している。特許文献4は、弾性繊維、非弾性繊維を用いた多層構造編地であって、低融点の合成繊維を交編するものである。
【0005】
しかして、これらの特許文献1〜4には、非弾性糸の使用素材について多様な繊維を挙げてはいるものの、それらの文献中の実施例に記載された非弾性糸の素材は3種類(特許文献2、ナイロン、綿、キュプラ)を挙げているが、他の特許文献1〜3では非弾性糸としてポリステルあるいはナイロンを例示するに止まっている。
【0006】
しかしながら、衣料分野においてポリエステル系フィラメント糸やポリアミド系フィラメントを使うと、ポリエステル系フィラメント糸の高ヤング率からくる硬い風合い、石油由来のワキシー感(蝋の様なぬめりのある感触)、低吸湿性からくるムレ感や静電気発生、屈折率が高いことからくる金属感のある光沢、鮮明な発色性に欠けるなどの問題があり、ポリアミド系フィラメント糸では風合いはソフト過ぎてハリコシに欠け、ワキシー感のある風合い等の問題がある。
【0007】
一方、上記特許文献2のように、非弾性糸としてレーヨンフィラメント糸を用いることが考えられるが、通常のレーヨンは水膨潤性による収縮が問題となり、洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度などの問題や保水性が高く乾燥速度が遅いなどの問題がある。また、綿やレーヨンスパン糸を用いた編物であれば、紡績糸特有の毛羽外観と風合いを有し、速乾性にも劣り、本発明の目的とする高級感のある光沢や鮮明な発色性に欠ける編物となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−348762号公報
【特許文献2】特開2001−355165号公報
【特許文献3】特開2002−13052号公報
【特許文献4】特開2008−240183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、織物布帛(ジャケット、パンツ)のようなハリコシ感と編物特有の膨らみ感、ソフトで清涼感のある爽やかな風合い、適度な吸湿性とストレッチ性のある快適な着用感、深みのある色調や絹のような高級感のある光沢等、快適な着用感と高級感に優れた衣料用の編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の基本構成は、少なくとも水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸と弾性糸とで構成され、該セルロース系フィラメント糸の混率が50%以上である織物布帛調の編物にある。前記セルロース系フィラメント糸がセルロースアセテート繊維フィラメント糸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたストレッチ性を有し、編物でありながら、織物布帛(ジャケット、パンツ)のようなハリコシ感と編物特有の膨らみ感を有し、ソフトで清涼感のある爽やかな風合い、適度な吸湿性とストレッチ性のある快適な着用感、深みのある色調や絹のような高級感のある光沢等、快適な着用感と高級感に優れた衣料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸とは、セルロースを原料として再生或いは半合成された繊維のフィラメントであればよく、再生繊維としては例えばビスコースレーヨン、リヨセル等が、半合成繊維としては例えばセルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等が挙げられるが、その製法や種類を特に限定するものではない。
水分率(R)は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下1桁にして得られる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m:試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。また、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。
【0013】
また、セルロース系フィラメント糸は、単糸の断面形状、表面形状、艶、繊度等を特に限定するものではなく、得ようとする編物表現を考慮して任意に選定すればよい。
【0014】
セルロース系フィラメント糸の水分率(R)が8%を超えると水膨潤性が大きくなり、洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度などの問題や保水性が高く乾燥速度が遅いなどの問題が生じる。また、セルロース系フィラメント糸と合繊フィラメント糸とを混用する場合には、これ等の問題を改善するために合繊フィラメント糸の混率を高める必要があり、本発明の目的とするものは得られない。
【0015】
本発明における弾性糸とはポリウレタン系、ポリエーテルエステル系からなる弾性糸が挙げられるが、その製造や種類を特に限定するものではない。通常のポリウレタン系弾性糸では、例えば乾式紡糸又は湿式紡糸したものが使用可能であり、ポリマーや紡糸方法は特に限定しない。繊度は15〜80dtexのものが好ましく、15〜44dtexのものが更に好ましい。また、破断伸度は400〜800%のもので伸縮性に優れ、染色加工時の熱セット工程の処理温度170〜190℃で伸縮性を損なわない高耐熱性タイプが好ましく用いられる。弾性糸は2〜3倍ドラフトした状態でそのまま用いる場合と、市販のポリエステル系マルチフィラメント仮撚加工糸とカバーリングしたものを用いる場合があるが特に限定するものではなく、編物表現を考慮して任意に選定すればよい。弾性糸の混率は特に限定するものではないが、衣料用としての快適な伸縮性が得られればよいので1%〜15%の範囲が好ましく用いられる。
【0016】
本発明における編地の組織や密度、目付け等は特に限定されるものではなく、経編や丸編物等、布帛調編物の表現を考慮して任意に選定すればよい。例えば、経編ではデンビー、ハーフ等が、丸編ではポンチローマ、ベアスムース等が好ましく用いられる。また、仕上げ密度は高めに設定しコンパクトに仕上げると織物布帛調表現が得易く好適である。なお、弾性糸とセルロース系フィラメント糸は複合糸として用いてもよいが、編物の高級感を上げるために、主にセルロース系フィラメント糸を生地表面に配し、生地裏面に弾性糸を配する交編手法を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明においてはセルロース系フィラメント糸の有する爽やかな清涼感、絹の様な高級感のある光沢とソフトな風合い等を充分に発揮させるために、水分率(R)が8%以下のセルロース系繊維フィラメント糸の混用率は50%以上が必要である。
【0018】
本発明における水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸としてはセルロースジアセテート繊維フィラメント糸やセルローストリアセテート繊維フィラメント糸が好ましく用いられる。これ等は低屈折率による優れた発色性、高級感のある光沢、セルロース由来のソフトで爽やかな清涼感に優れた風合い、更には分散染料可染性、熱セット性などを有しており好ましく用いられる。因みに、セルロースジアセテート繊維フィラメント糸の水分率(R)は6.5%、セルローストリアセテート繊維フィラメント糸は3.5%であり適度な吸湿性と速乾性を有している。また風合いや光沢の高級感の点からセルローストリアセテート繊維フィラメント糸の使用が更に好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。風合いや外観、発色性等はハンドリングと目視によって評価した。
【0020】
(実施例1)
フルダル50dtex34f(fはフィラメントの略。以下fで記載)の菊型断面糸のトリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製)をフロント部に配し、市販のFTY30/30(旭化成せんい社製、ポリウレタン系弾性糸33dtex3fを2.5倍ドラフトしたものに、東レ社製、ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸33dtex12fをカバーリングした糸)をバック部に配し、経編機(カールマイヤー社製、ゲージ32G)で編成した。編立組織はフロント1−0/1−2、バック1−2/1−0のデンビー組織で、編物のトリアセテートフィラメント糸の混率は55%、ポリウレタン系弾性糸の混率は10%であった。この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾150cm、65ウエール/2.54cm、120コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いは適度なハリコシと反発感があり、セルロース系繊維の有するソフトで爽やかな清涼感に加え、フルダルのドライ感が加味した心地の良いものであった。また密度がコンパクトに仕上がっており、織物布帛調の外観が得られた。更に、適度な伸縮性と、深みのある黒色や高級感のある光沢もあり、快適な着用感と高級感に優れた衣料用に好適な織物布帛調の編物が得られた。
【0021】
(比較例1)
実施例1のトリアセテートフィラメント糸をフルダル56dtex36fの丸断面のポリエステルマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製)に変えた以外は組織も、仕上げ密度も同じにしたものを作成した。得られた編物は、布帛調外観は得られたが、実施例1に比べて風合いが硬くワキシーで、光沢が強く高級感に欠け、爽やかさや清涼感にも欠けるものであった。また実施例1の黒色に比べ深みや鮮明性に劣るものであった。
【0022】
(実施例2)
ブライト135dtex33fの菊型断面糸のトリアセテートマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製)を丸編みのリブ面に配し、市販のFTY30/50(旭化成せんい社製、ポリウレタン系弾性糸33dtex3fを2.5倍ドラフトしたものに、東レ社製、ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸56dtex24fをカバーリングした糸)をダイヤル側の天竺面に配し、福原製丸編機(20ゲージ、30×2.54cm)でポンチローマ組織を作成した。この編物のトリアセテートフィラメント糸の混率は78%、ポリウレタン系弾性糸の混率は3%であった。この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾125cm、40ウエール/2.54cm、68コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いは適度なハリコシと反発感があり、セルロース系繊維の有するソフトで爽やかな清涼感に加え、丸編物の膨らみ感が加味した心地の良いものであった。また密度がコンパクトに仕上がっており、織物布帛調の外観が得られた。更に、適度な伸縮性と、深みのある黒色や高級感のある光沢もあり、快適な着用感と高級感に優れた衣料用に好適な編物が得られた。
【0023】
(実施例3)
ブライト62dtex20fの六角断面糸のトリアセテートマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製)を双糸合撚で800回/m施したものを丸編みのリブ面に配し、市販のFTY40/50(旭化成せんい社製、ポリウレタン系弾性糸44dtex4fを2.5倍ドラフトしたものに、東レ社製、ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸56dtex24fをカバーリングした糸)をダイヤル側の天竺面に配し、福原製丸編機(28ゲージ、38×2.54cm)でポンチローマ組織を作成した。この編物のトリアセテートフィラメント糸の混率は66%、ポリウレタン系弾性糸の混率は8%であった。この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾155cm、50ウエール/2.54cm、66コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いは適度なハリコシと反発感があり、セルロース系繊維の有するソフトで爽やかな清涼感に加え、丸編物の膨らみ感が加味した心地の良いものであった。また密度がコンパクトに仕上がっており、織物布帛調の外観が得られた。更に、適度な伸縮性と、深みのある黒色や高級感のある光沢もあり、快適な着用感と高級感に優れた衣料用に好適な編物が得られた。
【0024】
(実施例4)
フルダル66dtex80fの菊型断面糸のトリアセテートマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製)とセミダル22dtex24fの丸断面のポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸(南亜社製)をZ撚りで1200回/m合撚を施したものを丸編みのダイヤル、シリンダー両側配し、22dtex2fのポリウレタン弾性糸(オペロンテックス社製)を2.5倍ドラフトしたものをダイヤル側にプレーティング挿入し、福原製丸編機(28ゲージ、38×2.54cm)でベアスムース組織を作成した。この編物のトリアセテートフィラメント糸の混率は71%、ポリウレタン系弾性糸の混率は5%であった。この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾130cm、60ウエール/2.54cm、68コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いは適度なハリコシと反発感があり、セルロース系繊維の有するソフトで爽やかな清涼感に加え、丸編物の膨らみ感が加味した心地の良いものであった。また密度がコンパクトに仕上がっており、織物布帛調の外観が得られた。更に、適度な伸縮性と、深みのある黒色や高級感のある光沢もあり、快適な着用感と高級感に優れた衣料用に好適な編物が得られた。
【0025】
(比較例2)
実施例2のトリアセテートフィラメント糸をブライト167dtex48fの丸断面のポリエステルマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製)に変えた以外は、組織も、仕上げ密度も同じにしたものを作成した。得られた編物は、布帛調外観は得られたが、実施例2に比べて風合いが硬くワキシーで、光沢が強く高級感に欠け、爽やかさや清涼感にも欠けるものであった。また実施例2の黒色に比べ深みや鮮明性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の測定方法で求めた水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸と弾性糸とで構成され、該セルロース系フィラメント糸の混率が50%以上である編物。
水分率(R)は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下1桁にして得られる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m:試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。また、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。
【請求項2】
前記セルロース系フィラメント糸がセルロースアセテート繊維フィラメント糸である請求項1記載の編物。

【公開番号】特開2010−242265(P2010−242265A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93593(P2009−93593)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】