説明

編組シールド電線

【課題】耐捻回性に優れた編組シールド電線を提供すること。
【解決手段】編組シールド14は、素線10を束ねて構成された素線束12を編んで形成される。この編組シールド10は余長を備えた素線で編まれており、捻回された場合にこの素線の余長部分が伸長するため、素線にかかる歪みを抑えることができる。また、この素線は波形状に形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編組シールド電線に関し、さらに詳しくは、自動車等の車両や民生機器等の配線に用いて好適な編組シールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器や制御機器に用いられる配線用の電線には、外部からのノイズの侵入や、外部へ放射するノイズをカットするために、外皮である絶縁シースの内側に、シールド層が設けられたシールド電線が使用されている。上記シールド電線のシールド層としては、金属細線(素線)を多数本、編んで形成された編組シールドが多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、図3に示されるように、伸直な素線100を束ねて構成された素線束102を編み込んで形成された編組シールド104を有する編組シールド電線が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−164754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の編組シールド電線は、以下のような問題があった。すなわち、編組シールド電線が捻回された場合、各素線に直に荷重が加わる。そのため、素線が曲げ疲労や塑性歪みなどによって破断してしまい、シールド特性が劣化するという問題があった。
【0006】
特に、捻回荷重を受ける場所が多い自動車などでは、耐捻回性が良好な編組シールド電線が望まれていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐捻回性に優れた編組シールド電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る編組シールド電線は、編組シールドが余長を備えた素線で編まれていることを要旨とするものである。
【0009】
ここで、上記素線は、波形状に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
従来構造の編組シールド電線では、捻回荷重が加わると、編組シールドの素線に塑性歪みが生じて、素線が断線し易かった。
【0011】
これに対し、本発明に係る編組シールド電線によれば、編組シールド電線の編組シールドは、余長を有する素線を編組して形成されている。そのため、この編組シールド電線が捻回されると、その捻回された部分の素線の余長部分が伸長する。これにより、素線が塑性変形し難くなる。したがって、従来に比較して、素線にかかる歪みを抑えられ、素線の断線を抑制することができ、任意の方向に対して耐捻回性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の編組シールドが屈曲された場合でも、屈曲された部分の素線の余長部分が伸長する。そのため、屈曲に対しても同様に素線にかかる歪みを抑えることができる。したがって、本発明の編組シールド電線は耐屈曲性にも優れる。
【0013】
この際、素線を波形状に形成した場合には、素線の伸長がより容易になり、編組シールドに生じた荷重を効果的に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る編組シールド電線は、特定の形状を有する金属細線(素線)により構成された編組シールドを有している。編組シールドは、編組シールド電線の外皮である絶縁シースの内側に設けられている。この編組シールドの下には、通常、絶縁体を介して導体が設けられている。具体的な編組シールド電線の構造としては、導体の外周に絶縁体が形成され、この絶縁体の外周に編組シールドを備え、さらに編組シールドの外周に外皮を有する同軸線や、1対の信号線が撚り合わされたツイストペア線の外周に編組シールドを備え、この編組シールドの外周に外皮を有するツイストペアケーブルなどを例示することができる。
【0016】
ここで、上記編組シールドは、余長を備えた素線で編み込まれている。余長とは、捻回などで編組シールドの素線に引っ張り荷重が加わった際に、素線が延伸されることで素線への歪みを軽減する弛みをいう。余長を備えた素線としては、例えば、波形状としたものや、スパイラル状としたものなどを例示することができる。波形状の素線は、加工しやすい点で好ましい。
【0017】
図1に波形状とした素線の一例を示す。図1に示すように、素線10は一定の振幅が所定の周期で繰り返された構造を備えている。振幅としては、1.0〜2.0mmが好ましく、また周期としては、10〜20mmが好ましいが、特にこれに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0018】
なお、素線に付与される余長の形態は、これに限定されるものではない。なお、捻回した際に歪みがほぼ抑えられる程度に伸長できる形態であればよい。
【0019】
素線の材料としては、軟銅、錫メッキ軟銅、アルミニウム合金、合成樹脂繊維の外周に金属層を有したもの等を例示することができ、特にこれに限定されない。また、素線径は、特に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。
【0020】
編組シールドは、上記素線を束ねて構成される。素線束は、1種の素線からなる束でもよいし、2種以上の素線からなる束でもよい。また、編組シールドは、1種の素線からなる束で編んでもよいし、2種以上の素線からなる束で編んでもよい。さらに、1種もしくは2種以上の素線束をいくつか組み合わせて、編組シールドを形成することもできる。
【0021】
ここで、編組シールドの一例について説明する。図2に示すように、編組シールド14は、素線10を束ねて構成された素線束12を編んで形成される。一般的に、1本の素線束12を構成する素線10の数を持ち本数と言い、また、編組シールド14を構成する素線束12の数を打ち本数と言う。そして、編組シールド14の全体の素線数は、「持ち本数」×「打ち本数」で表される。持ち本数としては、2〜20が好ましく、打ち本数としては、8〜40が好ましいが、特にこれに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0022】
また、この素線束12は、電線に沿って螺旋状に巻かれるために、あるピッチで同じ素線束12がくるが、この螺旋状に一回転したときの距離を撚りピッチという。撚りピッチとしては、10〜60mmが好ましいが、これに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0023】
次に、編組シールドの製造方法の一例について説明する。編組シールド14は、一般的な編組編み機を用いて製造することができる。編組機は、素線束12を送出する送出機構と、素線束12を被シールド電線に編み込む編組機構とから構成される。まず、ボビンにセットされた所定の持ち本数の素線10を、所定の打ち本数分用意し、編組機の送出機構にセットする。そして、各ボビンの回転と移動により、素線束12を送り出しながら、被シールド電線に素線束12を編み込み、編組シールド14を作製する。
【0024】
このとき、素線10の余長は素線束12とする前に予め付与してもよいし、編み込む際に付与してもよい。
【0025】
また、編組機で素線束12を編み込む際、歪みがかからない程度に、素線10に張力を多少かけることによって、従来と同様に編組シールドを作製することができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例について詳細に説明する。
【0027】
(実施例)
本実施例では、振幅1.5mm、周期15mmの波形状を、径0.1mmの軟銅線に付与した素線を用いて編組シールドを作製した。
【0028】
編組シールドは、持ち本数を5本、打ち本数を16打、撚りピッチを15mmとした。さらに、中心導体に径0.1mmの軟銅線を7本用いた同軸線の外周に、上記編組シールドを形成し、シース径3mmの編組シールド電線を作製した。
【0029】
(比較例)
上記実施例で余長のない伸直な素線を用いた以外は同一構造として、編組シールド電線を作製した。
【0030】
上述のようにして作製した実施例および比較例の編組シールド電線について、捻回試験および屈曲試験を行い、両者を相対比較した。
【0031】
(捻回試験)
捻回試験は、実施例および比較例の編組シールド電線を、長さ50mm間で保持し、0〜90°の捻回(1往復で1回)を50,000回行い、素線破断率を測定した。
【0032】
(屈曲試験)
屈曲試験は、曲げ半径15mmの一対の円筒状の支持具で挟み、測定する編組シールド電線の一端を固定し、他端部に5Nの荷重を付加した状態で、編組シールド電線を左右90°に繰り返し屈曲させ、編組シールドの素線が20%破断するまでの屈曲回数を測定した。
【0033】
次に、これらの結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
捻回試験の結果、素線破断率は、比較例では60%であったのに対し、実施例では15%であり4分の1程度まで抑えられていることがわかる。
【0036】
このとき比較例では、編組シールドの素線束および素線に乱れが生じ、とくに素線が断線した箇所での乱れが顕著となり、素線がばらばらになっていたが、実施例では、編組シールドの素線束および素線に乱れはほとんど生じなかった。
【0037】
この結果から、余長を備えた素線で編まれた編組シールドを編組シールド電線に用いることで、耐捻回性が向上することが確認できた。
【0038】
また、屈曲試験の結果、編組の素線が20%破断するまでの屈曲回数が比較例では30,000回であったのに対し、実施例では150,000回となり、実施例の編組シールド電線の耐屈曲性は、耐捻回性と同様に、比較例に比べ大幅に向上した。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る編組シールド電線は、自動車等の車両や民生機器等への配線に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る編組シールドの素線の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る編組シールドの一例を示す平面図である。
【図3】従来の編組シールドを示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
10 素線
12 素線束
14 編組シールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編組シールドが余長を備えた素線で編まれていることを特徴とする編組シールド電線。
【請求項2】
前記素線は、波形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の編組シールド電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−123749(P2008−123749A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304098(P2006−304098)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】