説明

編針案内構造、編針、編成方法、編み地、および手袋

【課題】 編機の構成を大きく変えることなく、容易かつ経済的に編み目の密度を大幅に増加させることができ、薄くて風合いの良い編み地を得ることができる技術を提供する。
【解決手段】 複数並んだ各針溝に沿って編針を案内しながら往復動作させることにより編み地を編成する編機の編針案内構造において、各針溝に、単または複数のフックを有する編針を、単独で又は複数重ねられた状態で配置し、これにより、1つの針溝に対して一体的に動作する少なくとも2つ以上のフックを備えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編機における編針案内構造、編針、編成方法、編み地、および手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
編機の代表的な例として、よこ編機においては、針床に多数の針溝を形成し、各針溝内に収容する編針を往復動作させることによって、編み地を編成する。
【0003】
従来、編針はステムの先端に1つのフックが形成される(たとえば、特許文献1)。そして、このフック内に編糸が引き込まれて編目ループが形成される。1つの針溝には1本の編針が収容されることから、1つの針溝に対して1つのループが形成されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭49−43152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
編成させる編み地は、編目が細かくて多い場合、薄く風合いの良い編製品が得られる。しかし、単位長(例えば、1インチ)あたりの編み目の数を密にするためには、1インチあたりに収容される編針数(ゲージ)を多くする必要がある。しかし、編針を多く収容するためには、編針を収容する針溝を多く設置する必要があり、針床上に針溝を加工するための手間と時間が増大する。また、針溝の数が増加するほど、針溝の間隔が狭くなり、針溝の加工が難しくなる。さらに、編針の可動を決定するために選針装置を用いるが、この選針装置を構成する部品の数は、使用する編針の本数に応じて増加する。そのため、使用する編針の本数を増やすほど選針装置の部品コストが増加する。これらの理由により、ゲージ数を多くすること、特に20ゲージ程度までハイゲージ化を行うことは、編機1台あたりの費用が高くなる。したがって、コストパフォーマンスが低く、ハイゲージ化が難しくなっている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、編機の構成を大きく変えることなく、容易かつ経済的に編み目の密度を大幅に増加させることができ、薄くて風合いの良い編み地を得ることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に係る編針案内構造は、複数並んだ各針溝に沿って編針を案内しながら往復動作させることにより編み地を編成する編機の編針案内構造において、各針溝に、単または複数のフックを有する編針を、単独で又は複数重ねられた状態で配置し、これにより、1つの針溝に対して一体的に動作する少なくとも2つ以上のフックを備えさせる。
【0008】
第2の態様に係る編針案内構造は、第1の態様に係る編針案内構造であって、各針溝にジャックを設け、該ジャックを介して前記単独で又は複数重ねられた状態で配置された編針を該針溝に沿って一体的に往復動作させる。
【0009】
第3の態様に係る編針案内構造は、第2の態様に係る編針案内構造であって、前記複数重ねられた状態で配置された編針は、前記複数の編針それぞれを前記ジャックに係合して、一体化させている。
【0010】
第4の態様に係る編針は、第1の態様に係る編針案内構造に用いられる編針であって、先端側に複数の分枝部を有するステムと、前記ステムの各分枝部の先端に1つずつ設けられる複数のフックとを備える。
【0011】
第5の態様に係る編針は、編み地を編成する編機に用いられる編針であって、先端側に複数の分枝部を有するステムと、前記ステムの各分枝部の先端に1つずつ設けられる複数のフックとを備える。
【0012】
第6の態様に係る編成方法は、第1から第3の態様に係る編針案内構造を有する編機により編み地を編成する方法であって、前記各針溝に設けられた前記少なくとも2つ以上のフックが、一体的に同じ編成動作を行うことにより編み地を編成する。
【0013】
第7の態様に係る編み地は、第6の態様に係る編成方法によって編成される。
【0014】
第8の態様に係る手袋は、第7の態様に係る編み地を有する。
【0015】
第9の態様に係る手袋は、第6の態様に係る編成方法によって編成される手袋であって、指先の編み地が各針溝のフックの数ごとに段差状に広がっている。
【発明の効果】
【0016】
第1の態様に係る編針案内構造によれば、1つの針溝に対して一体的に動作する少なくとも2つ以上のフックを備えさせるので、1つの針溝に対して備えられたフックの数に相当する数の編目を形成することが可能となる。したがって、編機の構成を大きく変えることなく編み目の数を大幅に増やすことができ、容易かつ経済的に薄くて風合いの良い編み地を得ることができる。
【0017】
第2の態様に係る編針案内構造によれば、模様編みおよび複雑な形状の編み地の編成を行う場合においても、編機の構成を大きく変えることなく編み目の数を大幅に増やすことができ、容易かつ経済的に薄くて風合いの良い編み地を得ることができる。
【0018】
第3の態様に係る編針案内構造によれば、複数の編針を一体化して構成されているので、針の一部が破損した場合には、破損した編針のみを交換すればよく、編針の交換を経済的に行うことが可能となる。
【0019】
第4の態様および第5の態様に係る編針によれば、編針の本数を増加させることなく、容易に編み目の数を増加させることが可能となる。
【0020】
第6の態様に係る編成方法によれば、効率よく目の細かい編み地を編成することが可能となる。
【0021】
第7の態様に係る編み地によれば、編み目が細かい編み地を得ることができるので、薄く風合いの良い編製品を製造することが可能となる。
【0022】
第8の態様に係る手袋によれば、手袋全体として編み目が細かくなるので、風合いの良い手袋を得ることが可能となる。
【0023】
第9の態様に係る手袋によれば、手袋の指先の編み地が各針溝のフックの数ごとに段差状に広がっているので、編密度が低くなって、編糸の余裕ができる。したがって、指に沿った丸みを持つ形状になりやすく、着け心地のよい手袋を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る編機の断面の一部の例を示す概略図である。
【図2】キャリッジの構成を示す概略図である。
【図3】本発明の第1実施形態である編針案内構造の構成を示す図である。
【図4】編針案内構造に配置される編針の構成を示す図である。
【図5】編針の製造方法の例を説明するための図である。
【図6】3つのフックを有する編針の構成を示す図である。
【図7】第1実施形態の編針案内構造における編針の編成動作を示す図である。
【図8】第2実施形態の編針案内構造に配置される編針の構成を示す図である。
【図9】編針が選針ドラムによって選針される状態を説明する概略図である。
【図10】第2実施形態である編針案内構造の構成を示す図である。
【図11】第2実施形態の変形例である編針の形態の例を示す図である。
【図12】第2実施形態の変形例である編針の形態の例を示す図である。
【図13】フックの形態がひげ針の例である編針を示す図である。
【図14】フックの形態が両頭針の例である編針を示す図である。
【図15】実施例による手袋を示す図である。
【図16】横編機に従来の編針案内構造(単選針)を用いて編成した手袋の指先の編成工程の概略図を示す。
【図17】横編機に本発明の編針案内構造を用いて編成した手袋の指先の編成工程の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
(1)第1実施形態
<編機の全体構成>
【0026】
図1は、編機20の断面の一部の例を示す概略図である。図2は、キャリッジ10の構成を示す概略図である。図1では、本発明に係る編機の例として、平型編機である横編機の例を示している。編機20は、針床2である一対の前針床2Aおよび後針床2Bを備えている。前針床2Aおよび後針床2Bは、間隔(歯口4)をおいて横断面が略逆V字形に配置されている。前針床2Aおよび後針床2Bには、べら針、かぎ針等の多数の編針50が、前針床2Aおよび後針床2Bの上に歯口4に向かって進退自在に配置されている。
【0027】
針床2には、後述するキャリッジ10の移動方向となる矢印F(図2)に垂直な方向に、一定のピッチで後述する針溝が形成される。編針50は、各針溝内に、歯口4に対して進退する摺動可能な状態で収容される。また、編針50の一端側には、前針床2Aおよび後針床2Bの上面側から突き出たバット60が設けてある。
【0028】
図2に示すように、キャリッジ10は、前針床2Aおよび後針床2Bの上面を編針50の配列方向に往復摺動するカム装置を備える。そして、キャリッジ10は、図示しない制御装置によって制御されて、編針50に編成運動を与える。キャリッジ10の制御方法については、公知であるので省略する。キャリッジ10は、カム装置とその下面に選択された編針50のバット60との係合によって、編針50を歯口4に向けて編成位置まで前進させて編糸11を編成するものである。
【0029】
キャリッジ10には、カム装置として、例えば、上げカム12、センターカム13、下げカム14、ガードカム15などが設けられる。上げカム12および下げカム14は、編針50の上下方向すなわち長手方向への往復運動を発生させる。センターカム13は、上げカム12で押し上げられた編針50をさらに最高位置まで押し上げる。ガードカム15は、編針50の必要以上の上昇を防ぎ、下げカム14へ編針50のバット60を移動させる通路を作る。バット60は、この通路を案内されることによって、編針50を先端のフック51の方向に上昇する。そして、編成動作を行う位置まで上昇されるときに編針50のフック51に糸が供給される。編針50が下降するときは、糸を引っ張りながら編目を形成する。
<編針案内構造の構成>
【0030】
図3は、本発明の第1実施形態である編針案内構造30Aの構成を示す図である。編機の編針案内構造30Aは、複数並んだ各針溝32内に編針50Aを案内しながら往復動作させることで編み地を編成する。針床2には、複数のニードルプレート31が紙面に垂直な方向に等間隔で立設されて、針溝32が設けられる。針床2には、ニードルプレート31を差し込むための溝が設けられており、針床2の溝にニードルプレート31を差し込むことで、ニードルプレート31間に編針50を配置するための針溝32が形成される。編針案内構造30Aには、各針溝32に複数のフック51を有する編針50Aが配置される。
【0031】
図4は、編針案内構造30Aに配置される編針50Aの構成を示す図である。図4の(a)は、編針50Aの外観構成を示し、(b)は、編針50Aの平面図である。編針50Aは、べら針である。編針50Aは、胴体部分のステム52Aの先端側が2つに分枝した分枝部55a,55bを有する。そして、分枝部55aの先端側に編糸11を引っ掛けるためのフック51aが連設され、分枝部55bの先端側にフック51bが連設されている。フック51a,51bは、フックの先端61で屈曲している。べら53は、リベット54によって回動自在に取付けられており、鈎状部分とステム52Aとの間を、べら53で開閉する。開き口が開閉されるフック51a,51bの内側では、編糸11を捕捉して形成する編目を係止することが可能である。また、編針50Aは、前述したように、キャリッジ10に取り付けられたカム装置によって、編針50A全体を編針50Aの上下方向への往復運動を発生させるためのバット60Aを編針50Aの後端側に備える。
【0032】
編針50Aの製造方法としては、編針50Aのべら53及びその他の本体部分を一体的に工作機械で製造した後、べら53を該本体部分にリベット54によって取付ける。また、図5(a)に示すように、第1フック本体部57、接続部58、第2フック本体部59のように各部位ごとに製造した後に、各部位を溶接によって接合させて一体化することによって、製造することも可能である。図5(b)は、第1フック本体部57、接続部58、第2フック本体部59を接合した後の形状を示す図である。
【0033】
本発明の編針においては、1本のステムに所望の数のフックを備えることが可能であるが、フックの強度、編目の編成の複雑さの観点から、フックの数は2つまたは3つとすることが望ましい。図6は、3つのフックを有する編針50Bの構成を示す図である。図6に示すように、編針50Bは、胴体部分のステム52Bの先端側が3つに分枝した分枝部55a,55b,55cを有する。そして、分枝部55a,55b,55cの先端側にそれぞれフック51a,51b,51cが連設されている。
【0034】
編針案内構造30Aでは、例えば、1つのステムに対して複数のフックを有する編針が配置されているので、1つの針溝32に対して備えられたフックの数に相当する数の編目を形成することが可能となる。したがって、配置する編針の本数を増加させることなく、容易に編み目の数を大幅に増やすことが可能となる。
<編成動作>
【0035】
次に本発明の編針案内構造に配置される編針の編成動作を説明する。本発明の編針案内構造においては、1つの針溝に設けられた編針の複数のフックが、同じ編成動作を行って編み地を編成する。
【0036】
図7は、第1実施形態の編針案内構造30Aにおける編針50Aの編成動作を示す図である。図7(a)に示すように、キャリッジ10が移動すると、上げカム12は編針50Aのバット60Aに働き、編針50Aを上昇させ、センターカム13の頂点で最高位置に達し、新たな編糸11がフック51内に供給される。
【0037】
図7(b)に示すように、下げカム14によって、フック51内に編目を係止する状態で編針50Aが下方に移動すると、係止されていた既成編目17が、べら53でフック51を閉じる。
【0038】
図7(c)に示すように、係止されていた既成編目17が、閉じたべら53の上を上方に移動してべら53の先端56から離脱し、フック51内に供給された編糸によってニューループ18をつくる。そして、フック51内のニューループ18のみが、既成編目17に連なる状態で編針50Aに係止される。
【0039】
図7(d)に示すように、次に編針50Aが再び上方に移動すると、ニューループ18で閉じているべら53を開き、ニューループ18はステム52Aの下方に移動して既成編目17になる。
【0040】
上記の編成動作においては、上下方向に編針50Aのステム52Aが移動するとき、隣り合う分枝部55a,55bの先端側に設けられたフック51a,51bおよびべら53a,53bは、それぞれ同じ動作を行う。すなわち、隣り合うフック51aと51bとの相対位置および隣り合うべら53aと53bとの相対位置が同じとなるように、一体的に動作する。
【0041】
したがって、1つの針溝に対して一体的に動作する複数のフックを備えるので、本発明の編針案内構造では、効率よく目の細かい編み地を編成することが可能となり、容易かつ経済的に薄くて風合いの良い編み地を得ることができる。
(2)第2実施形態
【0042】
第1実施形態の編針案内構造30Aでは、各針溝32に複数のフック51を有する編針50Aが配置されていた。一方、第2実施形態の編針案内構造は、編み地のサイズや形状によって編針を選択的に駆動させるための選針ドラムが編機20に設けられる場合の形態である。第2実施形態の編針案内構造では、編機20に設けられる選針ドラムが備えるセレクタと係合するジャックと連ねて係合される編針が針溝32に配置される。
【0043】
図8は、第2実施形態の編針案内構造に配置される編針50Cの構成を示す図である。図9は、編針50Cが選針ドラム90によって選針される状態を説明する概略図である。図10は、第2実施形態である編針案内構造30Bの構成を示す図である。第2実施形態の編針案内構造30Bおよび編針50Cの構成は、前述の第1実施形態の編針案内構造30Aおよび編針50Aと類似しているため、同様の構成については同じ符号を付して説明を省略し、異なる構成について説明する。特に、ジャック70が編針50Cに係合されている以外の構成は第1実施形態と同じである。
【0044】
図8に示すように、編針50Cでは、ステム52の後部にジャック70を係合させている。ジャック70は、キャリッジ10のカム装置の作用を受ける編成動作用バット75を有する。
【0045】
図9に示すように、ジャック70の後部では、ジャック70とセレクタ80とが連なって係合している。セレクタ80と編針の間にジャックを介している理由は、セレクタ80の上下運動が直接編針に伝わると、編針が針床2から浮いてしまって、編針50Cの動きが不安定になることを防止するためである。選針ドラム90は、回転軸91上に取り付けられている。選針ドラム90の外周面には、回転軸方向に沿って延びる横溝92が形成されている。横溝92には、所定の配列パターンで選針ピン93が備えられている。ジャック70の後方には、ジャック70を上下に揺動させることによって、編成動作用バット75がキャリッジ10と係合可能にするセレクタ80が設けられる。セレクタ80は、支点81の回りに揺動可能に設けられている。また、セレクタ80は、ジャック70の末端部を摺動自在に保持する。セレクタ80の下縁部には選針ドラム90の横溝92に入り込む突片82が形成される。選針ドラム90から編針50Bへの作用は、1つの選針ピン93からセレクタ80を通じて編成動作用バット75に作用して、針の可動を決定することによって行なう。
【0046】
そして、選針ドラム90は、横溝92の間隔に合わせて周方向に一ピッチずつ回転する。このとき横溝92内の選針ピン93によって、選針ピン93と対応するジャック70が上方に押し上げられる。すなわち、選針ピン93の有無で、セレクタ80が上下することになる。このように、上方に押し上げられたジャック70のみが、キャリッジ10と係合可能となることによって、編物のサイズや形状に応じて必要な編針50Cだけを選択的に駆動させることができる。また、バット60Cをキャリッジ10と係合させて、編成動作を行うことも可能である。
また、図10に示すように、編針案内構造30Bにおいては、各針溝32にジャック70を設け、ジャック70を介して編針50Cが配置される。
【0047】
第2実施形態では、編針50Cは、ステム52Cの先端側に2つのフック51が連設されていたが、ステムの先端側に1つのフックが連設されている複数の編針それぞれを1本のジャックに係合させることによって、複数の編針を一体化させて、複数の編針を重ねられた状態で配置する構成でもよい。図11,12は、第2実施形態の変形例である編針50D,50Eの形態の例を示す図である。図11は、ジャック70によって結合されている編針50D,50Eを示し、図12は、連結を行う前の編針50D,50Eを示す図である。図11,12に示すように、編針50D,50Eは、各々1つのフック51を有しており、1本のジャック70によって連結されている。具体的には、編針50Dの後端の溝部85と、編針50Eの後端の溝部95とが、ジャック70の先端にある突起76と係合される。本形態例の編針50D,50Eによれば、編針50Cよりも製造が容易である。また、2つのフック各々が連接されるステムが一体となっていないので、編針50D,50Eのどちらかのフック51が破損した場合には、破損した編針のみを交換すればよく、メンテナンスを容易かつ安価に行うことができる。
【0048】
第2実施形態の編針案内構造においても、前述の第1実施形態の編針案内構造と同様の効果を達成することができる。さらに、1本のジャックが2以上のフックを備える編針と連結することによって、1つの選針ピンによって、2以上のフックを動かすことができるので、選針ドラムおよびセレクタを構成する部品の数を大幅に削減することができる。
【0049】
また、第2実施形態の編針案内構造によって、模様編みおよび複雑な形状の編み地の編成を行う場合においても、編機の構成を大きく変えることなく編み目の数を大幅に増やすことができ、容易かつ経済的に薄くて風合いの良い編み地を得ることができる。
(3)変形例
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上記説明した内容のものに限定されるものではない。
【0050】
例えば、上記実施形態では、平型編機である場合について説明したが、円形編機等のその他のよこ編機、およびたて編機等、その他の編機に本発明の編針案内構造を備える構成でもよい。また、本発明の編針は、針溝を有さない編機においても用いることができる。
【0051】
また、第1実施形態では、編針50Aの形態はべら針であったが、これに限られない。例えば、1つの針溝に対し、ひげ針、両頭針など、他の形態のフックを少なくとも2つ以上備える編針案内構造であってもよい。図13は、フックの形態がひげ針の例である編針50Fを示す図である。図13の(a)は、編針50Fの外観構成を示し、(b)は、編針50Fの平面図である。図14は、フックの形態が両頭針の例である編針50Gを示す図である。図14の(a)は、編針50Gの外観構成を示し、(b)は、編針50Gの平面図である。
これらの変形例によっても、前記実施の形態と同様の効果を、達成することができる。
(4)編み地製品
【0052】
本発明の編針案内構造に配置される編針の編成動作によって、手袋、靴下、ストッキング、サポータ、人体への加圧機能を有する衣料等、その他のニット製品の製造を行うことができる。特に、手袋、靴下等の指のある衣料において、指先部分は編みはじめから指部中盤まで徐々に編み幅を広げていく方法にて指先の丸味を作る。これまでは編み幅を増やす時に両端で使用する編針を1針ずつ増やしていく方法がとられており、この方法では指先部分の編密度が高く、 指先の側端部は横に出っ張った形状になってしまう。ここで、本発明のように両端の編み幅を増やす時に針を2本ずつ増やしていくと、編み目の段差が大きくなってすきまが増えるために、編密度が低くなり、指に沿った丸みを持つ形状になりやすいことが分かった。本発明の編針案内構造に配置される編針の編成動作によって編成したニット製品の実施例として、手袋の例を示す。
【実施例】
【0053】
手袋は、横編機に本発明の編針案内構造30Bを用いて編成した。図15は、本実施例による手袋110を示す図である。手袋110は、小指111、薬指112、中指113、人差指114の各指袋を編成した後、これらの指袋を互いの指股部形成位置で接合しながら一つの筒状体として四本胴116を編成する。次に親指指袋115を編成した後、親指指袋115と四本胴116を接合して一つにした五本胴117を編成した。最後に手首部118を編成した。
【0054】
横編機のゲージは13ゲージ(1つの針溝に対し、2つのフックが備えられるため、公知の編針であれば、26ゲージに相当する。)とした。編糸としてウーリーナイロン(70デニール/24フィラメント)の単糸を給糸装置から供給し、シームレスの手袋110を編成した。編成された編み地の組織のコースは85/インチ、ウェールは43/インチであった。
【0055】
次に、横編機に本発明の編針案内構造30Bを用いて編成した手袋の指先の編み地の構造について説明する。図16は、横編機に従来の編針案内構造(単選針)を用いて編成した場合の手袋の指先の編成工程の概略図を示す。また、図17は、横編機に本発明の編針案内構造30B(複選針)を用いて編成した場合の手袋の指先の編成工程の概略図を示す。図16,17の図中に示すF1〜F20は前針床のフックを示し、B1〜B20は後針床のフックを示す。また、○は、編み目を表す。図17のMF1〜MF10は、編針のステムの先端が2つに分枝した構造であることを表している。図16,17においては、フックのピッチは同じとし、縦のコース数が同じになるようしている。選針は1個ずつ増えるものとする。より具体的には、単選針の場合はフックが1個ずつ増え、複選針の場合は2個ずつ増えることになる。
【0056】
手袋は図16,17のSTART地点に示すように、まず編み出し編成を行う。編み出しコースは前針床の針F1〜F20と後針床の針B1〜B20にジグザグ状に給糸して形成する。指先部分が丸く指先形状に沿った形となるように編み幅を減らした後、増やすといった公知の編成が編み出しコースの編成に引き続いて行われる。このようにして指先先端部分を丸く形成していく。
【0057】
次に、図16,17の矢印に示すように、編み出し時に前針床の針で編まれた部分の紙面上から見て左側端に位置するフックF20の編目から、対向する後針床のフックB14へ給糸される。次に、フックB14からフックB7まで編み出し編成の編目の後段を編成する。そして、後針床の針で編まれた部分の紙面上から見て右側端に位置するフックB7の編目から、対向する前針床のフックF7へ給糸され、同様にフックF14まで編み出し編成の編目の後段を編成する。以後、同様な処理が繰り返される。
【0058】
このようにして得られた手袋110は、全体として編み目が細かく、着用すると、風合いの良い手袋であった。また、手袋の指先においては、指に沿った丸みを持つ形状となるため、着け心地のよいものであった。
【0059】
一般には、編み地の段が増える時、前針床から後針床に斜めに糸が流れ、手袋を立体型にかぶせた時、斜めに糸が流れる部分が突っ張り、手型に沿いにくくなる。図16,17に示すように、本実施例では、例えば、単選針においてフックF14からフックB15に糸が流れた場合の間隔aよりも、本実施例の複選針においてフックF14からフックB16に糸が流れた場合の間隔bのほうが大きく、複選針においてフックF14からフックB16に流れる糸の長さも長くなる。本実施例では、この斜めに流れる糸が長いことにより、手袋指先の糸の余裕が発生する。言い換えると、手袋の指先の編み地が各針溝のフックの数ごとに段差状に広がっているので、手袋の指先の編み地の編密度が低くなり、糸の余裕ができる。このため、従来の手袋に見られるような、指先の側端部が横に出っ張った形状になってしまうことを抑制することが可能となり、手型に沿いやすい指に沿った丸みを持つ形状の手袋を製造することが可能となる。
【0060】
なお、上記実施形態ならびに変形例で説明した構成は、矛盾が生じない限り適宜一部の構成を入れ換えてもよい。
【符号の説明】
【0061】
2 針床
10 キャリッジ
11 編糸
20 横編機
30 編針案内構造
31 ニードルプレート
32 針溝
50 編針
51 フック
52 ステム
53 べら
55 分枝部
60 バット
70 ジャック
90 選針ドラム
110 手袋





【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数並んだ各針溝に沿って編針を案内しながら往復動作させることにより編み地を編成する編機の編針案内構造において、
各針溝に、単または複数のフックを有する編針を、単独で又は複数重ねられた状態で配置し、これにより、1つの針溝に対して一体的に動作する少なくとも2つ以上のフックを備えさせることを特徴とする編針案内構造。
【請求項2】
各針溝にジャックを設け、該ジャックを介して前記単独で又は複数重ねられた状態で配置された編針を該針溝に沿って一体的に往復動作させることを特徴とする請求項1に記載の針溝案内構造。
【請求項3】
前記複数重ねられた状態で配置された編針は、前記複数の編針それぞれを前記ジャックに係合して、一体化させていることを特徴とする請求項2に記載の針溝案内構造。
【請求項4】
請求項1記載の編針案内構造に用いられる編針であって、
先端側に複数の分枝部を有するステムと、
前記ステムの各分枝部の先端に1つずつ設けられる複数のフックと、
を備えることを特徴とする編針。
【請求項5】
編み地を編成する編機に用いられる編針であって、
先端側に複数の分枝部を有するステムと、
前記ステムの各分枝部の先端に1つずつ設けられる複数のフックと、
を備えることを特徴とする編針。
【請求項6】
請求項1〜3に記載の編針案内構造を有する編機により編み地を編成する編成方法であって、
前記各針溝に設けられた前記少なくとも2つ以上のフックが、一体的に同じ編成動作を行うことにより編み地を編成することを特徴とする編成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の編成方法によって編成されることを特徴とする編み地。
【請求項8】
請求項7に記載の編み地を有することを特徴とする手袋。
【請求項9】
請求項6に記載の編成方法によって編成される手袋であって、指先の編み地が各針溝のフックの数ごとに段差状に広がっている手袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−12757(P2012−12757A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120971(P2011−120971)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】