説明

緩衝器

【課題】ピストン速度が低速領域における減衰特性のみを調節可能であって、かつ、構成が複雑とならない緩衝器を提供することである。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段における緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、ロッド2の中間部に設けられるとともにシリンダ1内に摺動自在に挿入されて二つの圧力室R1,R2を隔成するピストン3とを備えて両ロッド型に設定される緩衝器において、リザーバRと、リザーバRと一方の圧力室R1を連通する一方通路4と、リザーバRと他方の圧力室R2とを連通する他方通路5と、一方通路4の途中に設けた可変チョーク6と、他方通路5の途中に設けた可変チョーク7とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の両ロッド型の緩衝器にあっては、たとえば、シリンダと、シリンダ内に挿通されるロッドと、ロッドの中間に設けられるとともにシリンダ内に二つの圧力室を隔成するピストンとを備えて構成されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この両ロッド型の緩衝器は、ロッドの一端側がシリンダ外に形成されるサブ油室内に挿通されており、このサブ油室を別途形成の容室へ連通し、ロッドがサブ油室に出入りする際にサブ油室で過不足となるロッド体積分の作動油を容室で吸収するようになっている。
【0004】
そして、この両ロッド型の緩衝器にあっては、サブ油室と容室とを連通する通路の途中に可変減衰弁を設けており、当該可変減衰弁の調整によって圧側の発生減衰力を変更することが可能なようになっている。
【特許文献1】特開2004−293659号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、近年、特に、車両における乗り心地や操縦安定性に影響を与えるピストン速度が低速で作動する際の減衰特性(ピストン速度に対する緩衝器が発生する減衰力の性質)に対する要求が高まっており、緩衝器には、ピストン速度が低速領域を超える領域における減衰特性はそのままに、ピストン速度が低速領域で作動する際の減衰特性の調整を行えるようにとの要望がある。
【0006】
しかしながら、従来の両ロッド型の緩衝器にあっては、圧縮作動時にロッドをシリンダ内の圧力室とは別個独立のサブ油室に進入させ、過剰となる作動油がサブ油室から容室へ移動する際に、可変減衰弁で抵抗を与えるようになっており、ロッド断面積にサブ油室内の圧力を乗じた減衰力をピストン部に設けた減衰弁による減衰力に付加するようになっていることから、ピストン速度が低速領域における減衰特性のみを変更することができず、可変減衰弁を調整すると、ピストン速度の全領域に亘って減衰特性が変更されてしまう。
【0007】
さらに、従来の両ロッド型の緩衝器にあっては、作動油の温度変化時の体積変化を補償するためだけに設けられたリザーバをサブ油室や容室の他に独立して設けており、構造が複雑である。
【0008】
そこで、本発明は、上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、ピストン速度が低速領域における減衰特性のみを調節可能であって、かつ、構成が複雑とならない緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段における緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、ロッドの中間部に設けられるとともにシリンダ内に摺動自在に挿入されて二つの圧力室を隔成するピストンとを備えて両ロッド型に設定され、リザーバと、リザーバと一方の圧力室を連通する一方通路と、リザーバと他方の圧力室とを連通する他方通路と、一方通路の途中に設けた可変チョークと、他方通路の途中に設けた可変チョークとを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の緩衝器によれば、リザーバと一方の圧力室を連通する一方通路と、リザーバと他方の圧力室とを連通する他方通路と、一方通路および他方通路の途中のそれぞれに可変チョークを設けており、ピストン速度が低速領域にあるときのみ可変チョークが機能するので、ピストン速度が低速領域における減衰特性のみを調節可能となる。
【0011】
また、リザーバは、温度変化による体積補償のみならず、ピストン速度が低速である場合には、圧力室および圧力室に過不足となる液体を給排して、低速作動時においても体積補償するようになっている。
【0012】
したがって、緩衝器の減衰特性を調節するのに、作動油の温度変化時の体積変化を補償するためだけに設けられたリザーバとは別個のサブ油室を設ける必要性はなく、緩衝器の構成は従来構造に比較して複雑とならずに済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。図2は、一実施の形態における緩衝器の拡大AA断面図である。図3は、一実施の形態における緩衝器の可変チョークの拡大図である。図4は、一実施の形態における緩衝器の減衰特性の一例を示した図である。
【0014】
図1から図3に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、ロッド2の中間部に設けられるとともにシリンダ1内に摺動自在に挿入されて二つの圧力室R1,R2を隔成するピストン3と、リザーバRと、リザーバRと一方の圧力室R1を連通する一方通路4と、リザーバRと他方の圧力室R2とを連通する他方通路5と、一方通路4の途中に設けた可変チョーク6と、他方通路5の途中に設けた可変チョーク7とを備えて両ロッド型の緩衝器として構成されている。なお、図1にあっては、図が複雑となるため、可変チョーク6,7の記載を省略しており、可変チョーク6,7は、図2に示すように、後述するバルブハウジング9に設けた弁孔9a,9b内に収容されて設けられている。
【0015】
以下、各部材について詳細に説明すると、シリンダ1は、筒状とされ、上端にはヘッド部材8が嵌合されて、シリンダ1の上端が閉塞されている。また、シリンダ1の下端には筒状のバルブハウジング9が嵌合され、バルブハウジング9の内周に保持されたボトム部材10によってシリンダ1の下端が閉塞されている。
【0016】
このように、シリンダ1は、上端と下端がそれぞれヘッド部材8とボトム部材10によって閉塞され、シリンダ1内に摺動自在に挿入されたピストン3によって、シリンダ1内には二つの圧力室R1,R2が区画されている。
【0017】
また、ピストン3は、環状とされてシリンダ1内に移動自在に挿通されたロッド2の中間に取付けられ、上記圧力室R1と圧力室R2とを連通するポート3a,3bを有している。
【0018】
このピストン3の図1中上方には、ポート3aを開閉するリーフバルブ11aが積層されてロッド2の中間部に取付けられ、ピストン3の図1中下方には、ポート3bを開閉するリーフバルブ11bが積層されてロッド2の中間部に取付けられている。
【0019】
さらに、ロッド2における図1中下端となる一端2aは、シリンダ1の図1中下端を閉塞する環状のボトム部材10の内側に固定される筒状のベアリング10aに挿通されてシリンダ1外へ突出させてあり、図1中上端となる他端2bはシリンダ1の図1中上端を閉塞する環状のヘッド部材8の内側に固定される筒状のベアリング8aに挿通されシリンダ1外へ突出させてある。
【0020】
また、シリンダ1の外方には、このシリンダ1を覆って、シリンダ1との間の環状隙間で一方通路4の一部を形成するアウターチューブ12が設けられている。この外筒12の図1中内周には、ヘッド部材8が固定されるとともに、当該アウターチューブ12の下端には、当該下端外周に螺合されるバルブハウジング9を介してボトム部材10が連結され固定されている。そして、シリンダ1は、アウターチューブ12にそれぞれ固定されるヘッド部材8とバルブハウジング9とによって挟持され、アウターチューブ12に対して軸方向に位置決められて固定されている。
【0021】
そして、アウターチューブ12とヘッド部材8との間にはシールリング13が介装されるとともに、ヘッド部材8の上方には、シール部材14が積層され、当該シール部材14でロッド2の他端2bとヘッド部材8との間がシールされ、アウターチューブ12およびシリンダ1の上端が封止されている。なお、シール部材14およびヘッド部材8はアウターチューブ12の上端内周に螺合されるナット32によって固定される。
【0022】
アウターチューブ12とバルブハウジング9との間にはシールリング15が介装されるとともに、バルブハウジング9の内周とロッド2の一端2aとの間は、ボトム部材10の下方に積層されるシール部材16によってシールされ、アウターチューブ12およびシリンダ1の下端が封止される。
【0023】
また、シール部材14には、ヘッド部材8における通孔8bを通じて圧力室R1内の圧力がロッド2の外周へ押付けるように作用し、同様に、シール部材16にも、ボトム部材10とロッド2との間を介して圧力室R2内の圧力がロッド2の外周へ押付けるように作用している。
【0024】
なお、バルブハウジング9の最下端内周には、ナット17が螺合されており、このナット17によって、バルブハウジング9の内周に嵌合されるシール部材16とボトム部材10を積層状態で締付け固定している。
【0025】
また、ヘッド部材8のシリンダ1に嵌合する嵌合部8cの外周には切欠8dが形成されるとともに、ヘッド部材8のリザーバRに臨む段部8eには切欠8dに通じる溝8fが形成され、当該切欠8dおよび溝8fとで圧力室R1をシリンダ1とアウターチューブ12との間に形成される一方通路4へ連通させている。
【0026】
つづいて、バルブハウジング9は、筒状であって、図1中上端側がアウターチューブ12に螺着され、図1中下端がリザーバRを形成するリザーバハウジング18に連結されている。
【0027】
リザーバハウジング18は、バルブハウジング9にナット33によって連結されるリザーバ外筒19と、バルブハウジング9の内周に螺合されるナット17の内周に装着されるリザーバ内筒20とを備えて構成され、リザーバ内筒20は、リザーバ外筒19の内周に設けた段部19aとナット17の内周に設けた段部17aとで挟持されてリザーバ外筒19に対して軸方向に不動とされ、このリザーバ外筒19とリザーバ内筒20との間の環状隙間で環状のリザーバRを形成している。そして、リザーバ外筒19とリザーバ内筒20との間には、環状のフリーピストン21が摺動自在に嵌合されており、このフリーピストン21でリザーバR内を液体が充填される液室Lと気体が充填される気室Gとに区画している。
【0028】
また、ロッド2の図1中下端となる一端2aは、上記リザーバ内筒20内に挿通されており、ロッド2のストローク範囲の全体をリザーバ外筒19およびリザーバ外内筒20でカバーしている。
【0029】
なお、ロッド2が進退するリザーバ外筒19およびリザーバ内筒20で形成される空間は、大気開放しておくと、ロッド2に内圧による推力を与えずにすむが、ロッド2の進退による圧力変動でロッド2のストロークに大きな影響を与えないようであれば密閉状態とされてもよい。
【0030】
さらに、リザーバ外筒19の図1中下端には、緩衝器Dを図示しない車両の車軸へ連結可能なようにブラケット22を備えており、ロッド2の図1中上端となる他端2bを、図示しない車両の車体へ連結することが可能とされている。
【0031】
戻って、図1および図2に示すように、バルブハウジング9の肉厚には弁孔9a,9bが側方から設けられている。一方の弁孔9aは、通孔9cを介してシリンダ1とアウターチューブ12との間の環状隙間へ連通されるとともに、通孔9dを介してリザーバRへ連通されている。他方の弁孔9bは、通孔9eを介してシリンダ1内の圧力室R2へ連通されるとともに、通孔9fを介してリザーバRへ連通されている。
【0032】
すなわち、この実施の形態の場合、圧力室R1とリザーバRを連通する一方通路4は、シリンダ1とアウターチューブ12との間の環状隙間、一方の弁孔9aおよび通孔9c,9dによって形成され、圧力室R2とリザーバRを連通する他方通路5は、他方の弁孔9bおよび通孔9e,9fによって形成されている。
【0033】
そして、一方通路4の途中となる上記した一方の弁孔9a内には、図2および図3に示すように、可変チョーク6が設けられ、他方通路5の途中となる上記した他方の弁孔9b内にも可変チョーク7が設けられている。したがって、この緩衝器Dにあっては、温度変化による各圧力室R1,R2内の液体の体積変化について一方通路4および他方通路5を介してリザーバR内の気体の体積変化で吸収して体積補償するようになっている。
【0034】
なお、可変チョーク6,7はともに同じ構成とされており、可変チョーク6(7)は、筒状とされるとともに内周に小径部23aを備えて弁孔9a(9b)内に収容されるバルブケース23と、バルブケース23内に収容されてバルブケース23の小径部23a内に進退可能な軸24aを備えた弁体24とを備えて構成され、軸24aと小径部23aとの間の環状の隙間でチョーク通路25を形成するようにしている。
【0035】
そして、弁体24をバルブケース23内で軸方向に移動させることによって、チョーク通路25の軸方向長さ(チョーク通路長)を変更し、チョーク通路25における流路抵抗を変更することができるようになっている。
【0036】
また、バルブケース23の側部には、ポート23bが設けられており、通孔9d(9f)を介して弁孔9a(9b)へ導かれる液体は、ポート23b、チョーク通路25および通孔9c(9e)を通過して圧力室R1(R2)からリザーバRへ移動するようになっている。
【0037】
他方、このバルブケース23にあっては、小径部23aにおける肉厚を貫通してチョーク通路25を迂回するバイパス26が形成されており、液体がリザーバRから圧力室R1(R2)へ向かう場合、バイパス26を通じて移動するようになっている。
【0038】
具体的には、バイパス26には、リザーバRから圧力室R1(R2)へ向かう液体の流れに対しては開弁して当該流れを許容するチェックバルブ27を設けており、このチェックバルブ27は、小径部23aの形成によってバルブケース23に設けられる段部23cに積層されるワッシャ28と、当該ワッシャ27とバルブケース23の内周に固定される筒体29との間に介装されてバイパス26を閉塞する方向へワッシャ28を附勢するバネ30とによって構成されている。
【0039】
チェックバルブ27は、液体が圧力室R1(R2)からリザーバRへ移動する際には、バイパス26を閉塞したままとなってチョーク通路25を有効に機能させ、反対に、液体がリザーバRから圧力室R1(R2)へ移動する際には、バイパス26を開放し、液体はチョーク通路25を迂回してバイパス26を通過して移動する。
【0040】
弁体24は、先端に設けられて小径部23aの内径より小径な外径を持つ軸24aと、筒体29の内周に摺接する胴部24bと、胴部24bから図3中下方へ伸びる螺子部24cと備え、軸24aは、中間より上方側の先端部24dは中間より下方の基端部24eより小径とされるとともに当該先端部24dの図3中上端側部に少なくとも三つ以上の凸部24fが設けられ、当該各凸部24fは、バルブケース23の小径部23aの内周に摺接して、軸24aを小径部23aに対して調芯するようになっている。
【0041】
このように構成された弁体24は、その螺子部24cを筒体29の内周の一部に設けた螺子部29aに螺合させるとともに、軸24aを小径部23a内に突出させて、バルブケース23内に収容され、弁体24の螺子部24bと筒体29の螺子部29aとで送り螺子機構が構成されている。
【0042】
また、この弁体24の場合、軸24aの先端部24dのみが小径部23a内に進入している場合には、凸部24f間および先端部24dと小径部23aとの間の隙間の流路面積が大きい流路を液体が通過するので、液体は殆ど抵抗なく当該流路を通過することができるようになっている。
【0043】
他方、軸24aの先端部24dより大径となる基端部24eが小径部23a内に進入している場合には、基端部24eとバルブケース23の小径部23aとの間の狭い環状隙間を液体が通過することになり、液体の通過に抵抗を与えるようになっている。すなわち、この弁体24の場合、小径部23aの内周と軸24aの基端部24eの外周との間の環状の隙間でチョーク通路25を形成するようにしている。
【0044】
そして、弁体24を筒体29に対して回転させて弁体24をバルブケース23内で軸方向に移動させることで、小径部23aの内周に対向する軸24aの基端部24eの長さを変更することによって、チョーク通路25の長さを変更することができ、軸24aの終端に形成の段部24gを段部23cの内周部に当接させるまで軸24aを小径部23a内に侵入させるとチョーク通路25を閉塞することもできるようになっている。
【0045】
上述のように、本実施の形態の緩衝器Dにあっては、軸24aの先端部24dを小径部23aに対向させることによって、一方通路4および他方通路5を全開させることができるようになっているので、緩衝器Dの組立時におけるリザーバRへの液体注入作業を簡単且つ速やかに行うことが可能となる。
【0046】
また、軸24aの先端部24dの先端に小径部23aの内周に摺接する凸部24fを設けたので、軸24aが小径部23aに対して調芯されて、基端部24eと小径部23aの間の環状の隙間間隔に偏りが生じることが無く、製品毎にバラツキの無い均一なチョーク通路25を形成することができ、特に、二つの可変チョーク6,7を備える緩衝器Dにあっても、可変チョーク6,7毎に使用感、減衰特性が著しく異なるといった心配も無い。
【0047】
なお、チョーク通路25の形成に当たっては、上述した構成の他にも、たとえば、軸24aに先端部24dおよび基端部24eを設けず、軸24aの外径を小径部23a内に摺接する径に設定しておき、軸24aに軸線に沿って溝を設けて、この溝と小径部23aとの間の隙間でチョーク通路25を形成するようにしてもよい。
【0048】
また、この弁体24の螺子部24cの図3中下端には、ナット31が螺着されており、弁体24を筒体29に対して回転してチョーク通路長さを決定した後、ナット31を締め込むことで弁体24を筒体29に対して回動不能なロック状態とすることができるようになっている。
【0049】
このように、可変チョーク6,7が、筒状とされるとともに内周に小径部23aを備えて一方通路4および他方通路5の途中に設けられるバルブケース23と、バルブケース23内に収容されてバルブケース23の小径部23a内に進退可能な軸24aを備えた弁体24とを備えて構成され、軸24aの基端部24eと小径部23aとの間の隙間でチョーク通路25を形成するとともに、軸24aを送り螺子機構によって進退させてチョーク通路長が調節されるようになっているので、外部操作によるチョーク通路長の調節が容易でチョーク通路長を微細に調節することが可能となる。
【0050】
このように構成された緩衝器Dは、ピストン3がシリンダ1に対して図1中上方向に移動して伸長作動する際、ピストン速度が低速であると、圧力室R1と圧力室R2の差圧が小さく、ピストン3に積層されてポート3bを閉塞しているリーフバルブ11bを開くことができず、圧縮される圧力室R1内の液体は一方通路4を介してリザーバRへ移動するとともに、容積拡大する圧力室R2へは、他方通路5を介してリザーバRから液体が供給される。
【0051】
そして、圧力室R1からリザーバRへ移動する液体は、一方通路4の途中に設けた可変チョーク6を通過するので、可変チョーク6で生じる圧力損失に見合って圧力室R1内が増圧され、緩衝器Dは、ピストン2の図1中上方への移動を抑制する減衰力を発生する。なお、リザーバRから圧力室R2へ移動する液体は、他方通路5の途中のチョーク通路25を迂回するバイパス26を通過するので、圧力損失が殆ど生じず、圧力室R2内の圧力はリザーバR内と略同圧に保たれ、他方通路5における可変チョーク7は伸長作動時における減衰力に影響を与えない。
【0052】
つづいて、ピストン3がシリンダ1に対して図1中上方向に移動して伸長作動し、ピストン速度が低速領域を超えると、圧力室R1と圧力室R2の差圧が大きくなって、ピストン3に積層されてポート3bを閉塞しているリーフバルブ11bを開き、圧縮される圧力室R1内の液体はポート3bを介して圧力室R2へ移動するようになる。このようにピストン速度が速くなって、ポート3bが開放される場合、可変チョーク6における流路抵抗よりポート3bにおける流路抵抗の方が小さく、液体は通過しがたい可変チョーク6に優先してポート3bを通過することになり、ピストン速度が高速となる場合の減衰力はリーフバルブ11bによるものが支配的になる。
【0053】
同様に、ピストン3がシリンダ1に対して図1中下方向に移動して圧縮作動する際には、ピストン速度が低速であると、ポート3aが開放されず、緩衝器Dは、可変チョーク7によって減衰力を発生し、ピストン速度が高速となると、ポート3aが開放されて、リーフバルブ11bによって減衰力を発生するようになる。
【0054】
すなわち、この緩衝器Dにあっては、リザーバRと一方の圧力室R1を連通する一方通路4と、リザーバRと他方の圧力室R2とを連通する他方通路5と、一方通路4および他方通路5の途中のそれぞれに可変チョーク6,7を設けており、ピストン速度が低速領域にあるときのみ可変チョーク6,7が機能するので、ピストン速度が低速領域における減衰特性のみを、図4の一例に示したように、所定の設定幅内で減衰特性の傾きを原点周りに調節可能となるのである。なお、本実施の形態においては、緩衝器Dの減衰特性を説明するため、便宜上、ピストン速度に、可変チョーク6,7のみが機能する領域である低速と、リーフバルブ11a,11bが開弁してリーフバルブ11a,11bで減衰力を発生する領域である高速とでなる区分を設けているが、これらの区分の境の速度はそれぞれ任意に設定することができる。
【0055】
また、本実施の形態の緩衝器Dにあっては、上述したところから理解できるように、リザーバRは、温度変化による体積補償のみならず、ピストン速度が低速である場合には、圧力室R1および圧力室R2に過不足となる液体を給排して、低速作動時においても体積補償するようになっている。
【0056】
したがって、緩衝器Dの減衰特性を調節するのに、作動油の温度変化時の体積変化を補償するためだけに設けられたリザーバとは別個のサブ油室を設ける必要性はなく、緩衝器Dの構成は従来構造に比較して複雑とならずに済む。
【0057】
さらに、減衰力の調整に可変チョーク6,7を用いているので、ピストン速度に対する減衰力がリニアに変化する減衰特性を実現することができ、ピストン速度が非常に低速であるときにあっても減衰力を充分に発揮することができる。
【0058】
また、この緩衝器Dにあっては、可変チョーク6,7がバルブハウジング9の側方から開口する弁孔9a,9b内に収容されるので、緩衝器Dを車両の車体と車軸との間に介装した状態で、可変チョーク6,7における弁体24を操作することが可能であるので、減衰特性の調整が非常に簡単となる。
【0059】
また、この緩衝器Dによれば、リザーバRが環状とされてロッド2がリザーバR内に進入することが無く、ロッド2にリザーバR内の圧力が作用しないので、リザーバR内の圧力の設定に制限を受けることがなく、リザーバR内の圧力を自由に設定することができ、緩衝器Dの発生減衰力や応答性の設定の自由度が飛躍的に高まり、リザーバR内の圧力を車両における乗り心地にとって最適となるように設定することができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上させることができる。
【0060】
さらに、リザーバR内の圧力を圧力室R1,R2を介してロッド2の外周をシールするシール部材8,10へ作用させることができ、リザーバR内の圧力の設定によってロッド2とシール部材8,10との間の摩擦力をチューニングすることができ、特に、ロッド2とシール部材8,10との間の摩擦力を大きくするようにしておくことによって、緩衝器Dの発生する減衰力に摩擦力を重畳させて、ピストン3がシリンダ1に対して移動する際のピストン速度が低い場合における減衰力を高めて、車体のローリング、ピッチング、スクワット等の挙動をしっかりと抑制することができるようになる。
【0061】
また、さらに、リザーバRが、筒状とされてロッド2の挿通を許容するバルブハウジング9に連結されてロッド2の一端2aが挿通されるリザーバ内筒20とリザーバ外筒19との間の隙間で形成されるので、圧力室R1,R2と可変チョーク6,7とリザーバRとが順に軸方向に配置される格好となって、一方通路4と他方通路5が緩衝器Dの軸方向に延びる配置となるため、緩衝器Dの外径が無用に大型化せず、緩衝器Dの車両への搭載性を悪化させることが無い。
【0062】
さらに、この実施の形態の場合、ロッド2の一端2aがリザーバ外筒19によってカバーされるので、ロッド2の外周の滑らかな摺動面を飛石や泥等から保護することができる。
【0063】
加えて、この実施の形態の場合、シリンダ1の外方にアウターチューブ12を設けているので、アウターチューブ12を強度部材とすることでシリンダ1に横力や軸力が直接的に作用することを回避できるとともに、シリンダ1とアウターチューブ12との間で一方通路4を形成することができる。
【0064】
なお、上述したところでは、緩衝器Dを、シリンダ1を車軸側に設置するいわゆる正立型としているが、ヘッド部材とボトム部材の取付を天地逆とすれば、ロッド2の他端2bを車軸側に取付ける、いわゆる倒立型とすることも可能である。なお、倒立型にする場合には、リザーバR内には、気液分離用のフリーピストンを設けずともよい。
【0065】
さらに、可変チョーク6,7は、上記した構成を採用することで、上述したように、チョーク通路長の調整を簡単なものとすることができ、調整を微細に行うことができる利点があるが、上記した構成に限らず、他の構成の可変チョークを採用してもよい。
【0066】
また、アウターチューブ12、バルブハウジング9、ヘッド部材8、ボトム部材10、リザーバハウジング18の連結は、上記実施の形態では、螺子締結によっているが、これに限定されるものではない。
【0067】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【図2】一実施の形態における緩衝器の拡大AA断面図である。
【図3】一実施の形態における緩衝器の可変チョークの拡大図である。
【図4】一実施の形態における緩衝器の減衰特性の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0069】
1 シリンダ
2 ロッド
2a ロッドの一端
2b ロッドの他端
3 ピストン
3a,3b ポート
4 一方通路
5 他方通路
6,7 可変チョーク
8 ヘッド部材
8a ヘッド部材におけるベアリング
8b ヘッド部材における通孔
8c ヘッド部材における嵌合部
8d ヘッド部材における切欠
8e ヘッド部材における段部
8f ヘッド部材における溝
9 バルブハウジング
9a,9b バルブハウジングの弁孔
9c,9d,9e,9f バルブハウジングの通孔
10 ボトム部材
10a ボトム部材におけるベアリング
11a,11b リーフバルブ
12 アウターチューブ
13 シールリング
14 シール部材
15 シールリング
16 シール部材
17 ナット
17a ナットにおける段部
18 リザーバハウジング
19 リザーバ外筒
19a リザーバ外筒における段部
20 リザーバ内筒
21 フリーピストン
22 ブラケット
23 バルブケース
23a バルブケースにおける小径部
23b バルブケースにおけるポート
23c バルブケースにおける段部
24 弁体
24a 弁体における軸
24b 弁体における胴部
24c 弁体における螺子部
24d 軸における先端部
24e 軸における基端部
24f 軸における凸部
24g 弁体における段部
25 チョーク通路
26 バイパス
27 チェックバルブ
28 ワッシャ
29 筒体
29a 筒体における螺子部
30 バネ
31,32,33 ナット
D 緩衝器
G 気室
L 液室
R リザーバ
R1 一方の圧力室
R2 他方の圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、ロッドの中間部に設けられるとともにシリンダ内に摺動自在に挿入されて二つの圧力室を隔成するピストンとを備えて両ロッド型に設定される緩衝器において、リザーバと、リザーバと一方の圧力室を連通する一方通路と、リザーバと他方の圧力室とを連通する他方通路と、一方通路の途中に設けた可変チョークと、他方通路の途中に設けた可変チョークとを設けたことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
可変チョークは、筒状とされるとともに内周に小径部を備えて一方通路および他方通路の途中に設けられるバルブケースと、バルブケース内に収容されてバルブケースの小径部内に進退可能な軸を備えた弁体とを備え、軸と小径部との間の隙間でチョーク通路を形成するとともに、軸を送り螺子機構によって進退させることでチョーク通路長が調節されることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
シリンダの一端にバルブハウジングを設け、バルブハウジングは側方から開口して可変チョークを収容する弁孔を備えてなることを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
バルブハウジングが筒状とされてロッドの挿通を許容するとともに、リザーバが、バルブハウジングに連結されてロッドの一端が挿通されるリザーバ内筒とリザーバ外筒との間の隙間で環状に形成されることを特徴とする請求項3に記載の緩衝器。
【請求項5】
シリンダを覆うアウターチューブを設け、シリンダとアウターチューブとの間の隙間で一方通路を形成してなる請求項1から4のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−127760(P2009−127760A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304106(P2007−304106)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】