説明

緩衝器

【課題】 鞍乗り用車両におけるフロントフォークやリアクッションユニット等として利用される緩衝器の改良に関する。
【解決手段】 緩衝器本体内に収容されるダンパ3がシリンダ30と、シリンダ30内を二つの作用室A,Bに区画するピストン31と、ロッド32と、シリンダ30の反ロッド側に連設されるサブタンク33と、サブタンク33内を液溜室Cと気室Dとに区画して液溜室C側に附勢されるフリーピストン35と、サブタンク33に形成されて気室Dとリザーバ室Rとを連通する通孔6とを備える緩衝器において、環状に形成されて弾性を有するシール材4と、フリーピストン35に形成されて液溜室Cと気室Dとを連通する流路5と、流路5の途中に設けられてシール材4が収容される環状の収容溝50とを備え、液溜室Cの内圧が所定よりも高まるとシール材4が変形して上記流路5を連通し、液溜室Cの作動流体を上記リザーバ室Rにブローする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車等の鞍乗り用車両におけるフロントフォークやリアクッションユニット等として利用される緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗り用車両におけるフロントフォークやリアクッションユニット等として利用される緩衝器として、これまでに各種提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フロントフォークとして利用される緩衝器が開示されており、このフロントフォークは、二輪車の前輪を懸架して前輪に入力される路面振動を吸収する。
【0004】
上記フロントフォークは、アウターチューブとこのアウターチューブ内に摺動自在に挿入されるインナーチューブとからなる緩衝器本体と、
この緩衝器本体内に収容されるダンパと、このダンパと緩衝器本体との間に形成されるリザーバ室とを備え、アウターチューブが車体側に、インナーチューブが車輪側に取り付けられて倒立型に設定される。
【0005】
上記ダンパは、サブタンクを介してアウターチューブの軸心部に吊設されるシリンダと、このシリンダ内に摺接して上記シリンダ内を作動流体で満たされる二つの作用室に区画するピストンと、このピストンを介して上記シリンダ内に出没しインナーチューブの軸心部に起立するロッドとを備えて倒立型に設定される。
【0006】
更に、ダンパは、図6に示すように、サブタンク330内に摺接して附勢ゴム400で液溜室C側(図中下側)に附勢される有天筒状のブローピストン401と、このブローピストン401内に摺接して上記サブタンク330内を作動流体で満たされる液溜室Cと気室Dとに区画して附勢ばね500で液溜室C側(図中下側)に附勢されるフリーピストン501と、反ロッド側の作用室Bと液溜室Cとを区画するベース部材34とを備え、上記サブタンク330には、上記ブローピストン401が所定量以上後退したとき、液溜室Cとリザーバ室Rとを連通する連通孔330aが形成される。
【0007】
上記構成を備えることにより、フロントフォークの圧縮時に、シリンダ30内に進入したロッドの体積分の作動流体が作用室内で余剰となり、ベース部材34を介して液溜室Cに流出し、附勢ばね500の附勢力に抗してフリーピストン501を後退させた後に、附勢ゴム400の附勢力に抗してブローピストン401を後退させる。そして、ブローピストン401が所定量後退したとき、連通孔330aを介して液溜室Cの作動流体をリザーバ室Rにブローさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−230120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のフロントフォークにおいては、フリーピストン501を附勢ばね500で附勢し、更にブローピストン401を附勢ゴム400で附勢しているため、フロントフォークの軸方向長さが長くなり、部品点数が多くなるという不具合を有している。
【0010】
また、特許文献1の図5に開示されるように、ブローピストンをフリーピストンに設けた場合には軸方向長さが短くなるものの部品点数が多いという不具合は改善されず、フリーピストン中にブローピストン及びこのブローピストンをシリンダ側に附勢する附勢ばねを設けるため、ブローさせるための構成が複雑になる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、緩衝器の軸方向長さを短くしながら部品点数を少なくすることが可能となり、ブローさせるための構成が簡易な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は、アウターチューブとこのアウターチューブ内に摺動自在に挿入されるインナーチューブとからなる緩衝器本体と、この緩衝器本体内に収容されるダンパと、このダンパと上記緩衝器本体との間に形成されるリザーバ室とを備え、上記ダンパは、上記緩衝器本体の軸心部に起立するシリンダと、このシリンダ内周に摺接し上記シリンダ内を作動流体で満たされる二つの作用室に区画するピストンと、このピストンを介して上記シリンダ内に出没するロッドと、上記シリンダの反ロッド側に連設されるサブタンクと、このサブタンク内周に摺接し上記サブタンク内を作動流体で満たされる液溜室と気室とに区画して液溜室側に附勢されるフリーピストンと、反ロッド側の作用室と上記液溜室とを区画するベース部材と、上記サブタンクに形成されて上記気室と上記リザーバ室とを連通する通孔とを備え、上記液溜室の内圧が所定よりも高まると上記フリーピストンが後退して上記液溜室の作動流体を上記通孔から上記リザーバ室にブローする緩衝器において、環状に形成されて弾性を有するシール材と、上記フリーピストンに形成されて上記液溜室と上記気室とを連通する流路と、この流路の途中に設けられて上記シール材が収容される環状の収容溝とを備え、上記液溜室の内圧が所定よりも高まると、上記シール材が上記収容溝内で変形して上記流路を連通することである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シール材が弾性を有し、液溜室の内圧に応じて変形することによりフリーピストンに形成される流路を開閉するので、従来のようにブローピストン401をシリンダ側に附勢する附勢ゴム400や附勢ばね(特許文献1の図5)等を設ける必要がなく、緩衝器の軸方向長さを短くして登載性を向上させると共に部品点数を少なくし、ブローさせるための構成を簡易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態における緩衝器たるフロントフォークの左半分を切り欠いて示す正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における緩衝器たるフロントフォークの主要部を拡大して示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における緩衝器たるフロントフォークの主要部を拡大して示す縦断面図であり、中心線よりも左側(a)にフロントフォークの最伸張時を、中心線よりも右側(b)にフロントフォークの最圧縮時を示す。
【図4】本発明の他の実施の形態における緩衝器たるフロントフォークの主要部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】本発明のその他の実施の形態における緩衝器たるフロントフォークのフリーピストンを拡大して示す斜視図であり、中心線よりも左側(a)に流路の連通を阻止した状態を、中心線よりも右側(b)に流路が連通した状態を示す。
【図6】従来の緩衝器たるフロントフォークの主要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態を示す緩衝器について図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品かまたはそれに対応する部品を示す。
【0016】
本実施の形態に係る緩衝器は、二輪車の車体と前輪との間に介装されて前輪に入力される路面振動を減衰するフロントフォークとして利用される。
【0017】
上記フロントフォークは、図1に示すように、アウターチューブ1とこのアウターチューブ1内に摺動自在に挿入されるインナーチューブ2とからなる緩衝器本体と、この緩衝器本体内に収容されるダンパ3と、このダンパ3と上記緩衝器本体との間に形成されるリザーバ室Rとを備える。
【0018】
上記ダンパ3は、上記緩衝器本体の軸心部に起立するシリンダ30と、このシリンダ30内周に摺接し上記シリンダ30内を作動流体で満たされる二つの作用室A,Bに区画するピストン31と、このピストン31を介して上記シリンダ30内に出没するロッド32と、上記シリンダ30の反ロッド側に連設されるサブタンク33と、このサブタンク33内周に摺接し上記サブタンク33内を作動流体で満たされる液溜室Cと気室Dとに区画して液溜室C側に附勢されるフリーピストン35と、反ロッド側の作用室Bと上記液溜室Cとを区画するベース部材34と、上記サブタンク33に形成されて上記気室Dと上記リザーバ室Rとを連通する通孔6とを備える。
【0019】
そして、フロントフォークは、上記液溜室Cの内圧が所定よりも高まると上記フリーピストン35が後退して上記液溜室Cの作動流体を上記通孔6から上記リザーバ室Rにブローするものである。
【0020】
更に、フロントフォークは、環状に形成されて弾性を有するシール材4と、上記フリーピストン35に形成されて上記液溜室Cと上記気室Dとを連通する流路5と、この流路5の途中に設けられて上記シール材4が収容される環状の収容溝50とを備え、通常時において上記流路5は上記シール材4で閉塞され、上記液溜室Cの内圧が所定よりも高まると上記シール材4が上記収容溝50内で変形して上記流路5を連通可能とする。
【0021】
以下に詳細に説明すると、本発明に係るフロントフォークは、アウターチューブ1が車体側に、インナーチューブ2が車輪側にそれぞれ固定される倒立型のフロントフォークである。
【0022】
そして、アウターチューブ1とインナーチューブ2とからなる緩衝器本体の図中上下の開口は、アウターチューブ1の上端部に取り付けられるキャップ部材10と、インナーチューブ2の下端部外周に螺着するボトム部材20とでそれぞれ塞がれる。
【0023】
また、アウターチューブ1内周とインナーチューブ2外周との間に形成される筒状の隙間は、アウターチューブ1の下端部内周に取り付けられてインナーチューブ2外周に摺接するシール部材11で封止され、上記構成を備えることにより、緩衝器本体内に収容される作動流体や気体が外に漏れることを防止する。
【0024】
緩衝器本体内には倒立型のダンパ3が収容されてなり、このダンパ3と緩衝器本体との間に形成されるリザーバ室Rには作動流体が貯留され、その液面Oを介して上側に気体が圧縮されながら封入されてなり、液面Oの下側に作動流体室R1が、液面Oの上側にリザーバ気室R2が形成される。
【0025】
上記リザーバ気室R2は、その内圧でフロントフォークを常に伸張方向に附勢すると共にフロントフォークの伸縮に伴い所定のばね反力を生じてエアばねとして機能し、路面からの突き上げ入力を吸収する。即ち、本実施の形態において、リザーバ気室R2が懸架ばねとしての役割を担い、このリザーバ気室R2の内圧は、キャップ部材10に取り付けられるエアバルブ10aによって調整することが可能である。
【0026】
また、リザーバ室R内には、フロントフォークが所定量以上伸張したとき圧縮されてばね反力を生じ、フロントフォークを圧縮方向に附勢するバランススプリング7が設けられ、このバランススプリング7は、フロントフォークの最伸張時においてリザーバ気室R2による附勢力を相殺する。
【0027】
つまり、フロントフォークが所定量以上伸張した場合において、バランススプリング7がリザーバ気室R2の附勢力に抗してフロントフォークを圧縮方向に附勢してフロントフォークの収縮を助け、乗り心地を良好にすることが可能となる。
【0028】
そして、緩衝器本体内に収容される倒立型のダンパ3は、キャップ部材10を介してアウターチューブ1の軸心部に吊設される筒状のサブタンク33を備え、このサブタンク33は、図中上側に位置して基端部がアウターチューブ1の上端部内周に螺合されると共にシール(符示せず)を介して密接すると共にその内周にキャップ部材10が螺合するサブタンク基端側部材33aと、このサブタンク基端側部材33aの図中下端部内周に螺合するサブタンク先端側部材33bとからなる。
【0029】
また、ダンパ3は、サブタンク先端側部材33bの図中下端部内周に螺合すると共にシール(符示せず)を介して密接するシリンダ30と、このシリンダ30内を作動流体で満たされる二つの作用室A,Bに区画するピストン31と、このピストン31を介してシリンダ30内に出没するロッド32とを備え、以下、ロッド側の作用室を伸側作用室A、反ロッド側の作用室を圧側作用室Bという。
【0030】
そして、伸側作用室A及び圧側作用室Bは、図示しないが、ピストン31に開穿される伸側流路及び圧側流路によって連通されてなり、伸側流路は、出口側開口をピストン31の圧側作用室B側に積層される伸側減衰バルブV1によって開閉可能に塞がれてなり、圧側流路は、出口側開口をピストン31の伸側作用室A側に積層される圧側チェック弁C2によって開閉可能に塞がれる。
【0031】
更に、ダンパ3は、キャップ部材10にベースロッド36を介して保持されてサブタンク先端側部材33bのシリンダ30側端部内周に固定されるベース部材34と、環状に形成されて外周をサブタンク先端側部材33b内周に摺接させると共に内周をベースロッド36外周に摺接させるフリーピストン35とを備え、このフリーピストン35で液溜室Cと気室Dとを区画し、ベース部材34で液溜室Cと圧側作用室Bとを区画する。
【0032】
そして、圧側作用室B及び液溜室Cは、図示しないが、ベース部材34に穿設される伸側流路及び圧側流路によって連通されてなり、伸側流路は、出口側開口をベース部材34の圧側作用室B側に積層される伸側チェック弁C1によって開閉可能に塞がれてなり、圧側流路は、出口側開口をベース部材34の液溜室C側に積層される圧側減衰バルブV2によって開閉可能に塞がれる。
【0033】
また、液溜室Cと気室Dは、フリーピストン35に形成される流路5を介して連通してなり、この流路5は、この流路5の途中に設けられる環状の収容溝50に収容されるOリングからなるシール材4によって開閉される。
【0034】
そして、上記気室Dは、サブタンク基端側部材33aに穿設される通孔6を介してリザーバ室Rと常に連通するため、この気室Dの内圧は、リザーバ気室R2の内圧と同圧となり、気室Dの内圧でフリーピストン35をシリンダ30側に附勢する。
【0035】
上記流路5や収容溝50が形成されるフリーピストン35は、図2に示すように、外周が小径に形成される第一小外径部50aと、この第一小外径部50aの気室D側に形成されて更に外周が小径な第二小外径部51と、この第二小外径部51の気室D側に形成されて外周が徐々に拡径するスロープ部50bと、フリーピストン35の気室D側に穿設されて上記第二小外径部51の内周部に連通する連通孔52と、上記第一小外径部50aの液溜室C側及び上記スロープ部50bの気室D側に形成されてサブタンク33内周に摺接し軸方向に沿って溝53a,54aが形成される一対の大外径部53,54とを備える。
【0036】
そして、上記第一小外径部50a外周にシール材4が嵌合して第一小外径部50a外周とサブタンク33内周との間をシールし、液溜室Cの内圧が所定よりも高まるとシール材4が変形してシール材4の一部がスロープ部50b外周とサブタンク内33周との間に挿入され、図3(a)に示すように、シール材4内周と第一小外径部50a外周との間に隙間Aができる。
【0037】
これにより、液溜室Cの作動流体が図2に示す溝53a、隙間A(図3(a)),第二小外径部51外周とシール材4内周との間、及び連通孔52を通過して気室Dに移動し、通孔6(図1)を介してリザーバ室R内に移動して作動流体室R1内の作動流体と合流する。
【0038】
つまり、本実施の形態において、上記第一小外径部50a外周とサブタンク33内周との間にシール材4が嵌合する嵌合部が、上記スロープ部50b外周とサブタンク33内周との間にシール材4が変形したときシール材4の一部が挿入される逃げ部が形成され、上記嵌合部と上記逃げ部とで収容溝50を構成し、溝53a、収容溝50、第二小外径部51外周とシール材4内周との間、連通孔52で流路5を構成する。
【0039】
尚、本実施の形態において、フリーピストン35の内周に、フリーピストン35内周とベースロッド36外周との隙間をシールするOリングからなる内周シール8が設けられ、この内周シール8の液溜室C側にストッパSが位置決めされながら固定されて内周シール8が脱落することを防止する。
【0040】
次に、本実施の形態におけるフロントフォークの作動について説明する。
【0041】
インナーチューブ2がアウターチューブ1から退出すると共にロッド32がシリンダ30から退出するフロントフォークの伸長時において、伸側作用室Aがピストン31で加圧されて伸側作用室Aの作動流体がピストン31に積層される伸側減衰バルブV1を押し開いて圧側作用室Bに移動し、ロッド32の退出分シリンダ30内で不足する作動流体がベース部材34に積層される伸側チェック弁C1を開いて液溜室Cから圧側作用室Bに移動して伸側の減衰力を発生する。
【0042】
このとき、サブタンク33内では、液溜室C内の作動流体が減少するため、リザーバ気室R2と同圧である気室Dの附勢力に従いフリーピストン35がシリンダ側(図中下側)に移動する。
【0043】
そして、図3(a)に示すように、シール材4が第一小外径部50a外周とサブタンク33内周との間(嵌合部)に嵌合しているため、流路5は、シール材4により連通が阻止された状態に維持される。
【0044】
一方、インナーチューブ2がアウターチューブ1内に進入すると共にロッド32がシリンダ30内に進入するフロントフォークの圧縮時において、圧側作用室Bがピストン31で加圧されて圧側作用室Bの作動流体がピストン31に積層される圧側チェック弁C2を開いて伸側作用室Aに移動し、ロッド32の進入分シリンダ30内で余剰となる作動流体がベース部材34に積層される圧側減衰バルブV2を押し開いて圧側作用室Bから液溜室Cに移動して圧側の減衰力を発生する。
【0045】
このとき、サブタンク33内では、液溜室C内の作動流体が増加するため、リザーバ気室R2と同圧である気室Dの附勢力に抗してフリーピストン35が反シリンダ側(図中上側)に移動する。
【0046】
そして、図3(b)に示すように、フリーピストン35の図中上面がキャップ部材10のベースロッド保持部10bに当接した状態で、更にロッド32がシリンダ30内に進入して液溜室Cの内圧が所定よりも高まると、この液溜室Cの内圧によりシール材4が気室D側に押されて第一小外径部50a外周とサブタンク33内周との間(嵌合部)に嵌合していたシール材4の一部が変形してスロープ部50b外周とサブタンク33内周との間(逃げ部)に挿入され、シール材4内周と第一小外径部50a外周との間に隙間Aができて流路5が連通する。
【0047】
このため、液溜室Cの作動流体が上記流路5,気室D及び通孔6(図1)を介してリザーバ室Rにブローされ、作動流体室R1内の作動流体と合流する。
【0048】
また、液溜室Cの作動流体がブローされることにより液溜室Cの内圧が所定以下になると、シール材4の形状が元に戻り、スロープ部50b外周とサブタンク33内周との間に挿入されていたシール材4の一部が抜け出てシール材4内周と第一小外径部50a外周とが密接し、流路5の連通を阻止する。
【0049】
したがって、本実施の形態においては、フリーピストン35に形成されて液溜室Cと気室Dとを連通する流路5の途中に収容溝50を形成し、この収容溝50内に収容されるシール材4が液溜室Cの内圧に従い上記流路5を開閉することから、従来のようにブローピストン401や、これを附勢する附勢ゴム400や附勢ゴム(特許文献1の図5)を設ける必要がなく、緩衝器の軸方向長さを短くして搭載性を向上させると共に部品点数を少なくし、ブローさせるための構成を簡易にすることが可能となる。
【0050】
また、シール材4が嵌合する嵌合部(第一小外径部50a外周とサブタンク33内周との間)と、シール材4が変形したときシール材4の一部が挿入される逃げ部(スロープ部50b外周とサブタンク内周との間)とからなることから、シール材4の弾性変形を利用して流路5を容易に開閉させることが可能となる。
【0051】
また、フリーピストン35が、第一小外径部50aと、第二小外径部51と、スロープ部50bと、連通孔52と、溝53aが形成される大外径部53とを備え、第一小外径部50a外周とサブタンク33内周との間に嵌合部を、スロープ部50b外周とサブタンク33内周との間に逃げ部を形成することにより、収容溝50の構成を複雑化させることがなく、簡易にすることが可能となる。
【0052】
また、リザーバ気室R2をエアばねとして機能させ、気室Dの内圧をリザーバ気室R2と同圧にして、この気室Dの内圧でフリーピストン35をシリンダ30側にすることから、従来のようにフリーピストンを附勢するための附勢ばね500を設ける必要もなく、緩衝器の軸方向長さを更に短くして登載性を向上させ、更に部品点数を少なくして緩衝器を軽量化することが可能となる。
【0053】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。本実施の形態においては、収容溝が形成される流路の構成のみが一実施の形態と異なり、他の構成、作動、効果については一実施の形態と同様であるため、同様の構成についてはここでの詳細な説明を省略する。また、一実施の形態と同様の構成については、図1,図3を参照するものとする。
【0054】
本実施の形態において、フリーピストン35Aは、図4に示すように、内周が大径に形成される第一大内径部90aと、この第一大内径部90aの気室D側に形成されて更に内周が大径な第二大内径部91と、この第二大内径部91の気室D側に形成されて内周が徐々に縮径するスロープ部90bと、フリーピストン35Aの気室D側に穿設されて上記第二大内径部91の外周部に連通する連通孔92と、上記第一大内径部90aの液溜室C側に形成されて内周に環状のストッパSが位置決めされるストッパ保持部93と、上記スロープ部90bの気室D側に形成されて内周が小径に形成される小内径部94とを備える。
【0055】
そして、上記第一大内径部90aの内周にOリングからなるシール材4Aが嵌合して第一大内径部90a内周とベースロッド36外周との間をシールし、液溜室Cの内圧が所定よりも高まるとシール材4Aの一部が変形してスロープ部90b内周とベースロッド36外周との間に挿入され、図示しないが、シール材4A外周と第一大内径部90a内周との間に隙間ができる。
【0056】
これにより、液溜室Cの作動流体がストッパS内周とベースロッド36外周との間、上記隙間、第二大内径部91内周とシール材4A外周との間、及び連通孔92を通過して気室Dに移動し、通孔6(図1)を介してリザーバ室R内に移動して作動流体室R1内の作動流体と合流する。
【0057】
つまり、本実施の形態において、上記大内径部90a内周とベースロッド36外周との間にシール材4Aが嵌合する嵌合部が、上記スロープ部90b内周とベースロッド36外周との間にシール材4Aが変形したときシール材4Aの一部が挿入される逃げ部が形成され、上記嵌合部と上記逃げ部とで収容溝90を構成し、ストッパS内周とベースロッド36外周との間、収容溝90、第二大内径部91内周とシール材4A外周との間、連通孔92で流路9を構成する。
【0058】
尚、本実施の形態において、フリーピストン35Aの外周に環状溝80が形成されてなり、この環状溝80内にフリーピストン35A外周とサブタンク33内周との隙間をシールするOリングからなる外周シール8Aが嵌合する。
【0059】
次に、本実施の形態におけるフロントフォークの流路9の開閉作動について説明する。
【0060】
フロントフォークの伸長時において、サブタンク33内では一実施の形態と同様に、液溜室C内の作動流体が減少するため、リザーバ気室R2と同圧である気室Dの附勢力に従いフリーピストン35Aがシリンダ側(図中下側)に移動する。
【0061】
そして、図4に示すように、シール材4Aが第一大内径部90a内周とベースロッド36外周との間(嵌合部)に嵌合しているため、流路9は、シール材4Aにより連通が阻止された状態に維持される。
【0062】
一方、フロントフォークの圧縮時において、サブタンク33内では一実施の形態と同様に、液溜室C内の作動流体が増加するため、リザーバ気室R2と同圧である気室Dの附勢力に抗してフリーピストン35Aが反シリンダ側(図中上側)に移動する。
【0063】
そして、図示しないが、フリーピストン35Aの図中上面がキャップ部材10のベースロッド保持部10b(図3)に当接した状態で、更にロッド32がシリンダ30内に進入して液溜室Cの内圧が所定よりも高まると、この液溜室Cの内圧によりシール材4Aが気室D側に押されて第一大内径部90a内周とベースロッド36外周との間(嵌合部)に嵌合していたシール材4Aの一部がスロープ部90b内周とベースロッド36外周との間(逃げ部)に挿入され、シール材4A外周と第一大内径部90a内周との間に隙間ができて流路9が連通する。
【0064】
このため、液溜室Cの作動流体が流路9,気室D及び通孔6(図1)を介してリザーバ室Rにブローされ、作動流体室R1内の作動流体と合流する。
【0065】
また、液溜室Cの作動流体がブローされることにより液溜室Cの内圧が所定以下になると、シール材4Aの形状が元に戻り、スロープ部90b内周とベースロッド36外周との間に挿入されていたシール材4Aの一部が抜け出てシール材4A外周と第一大内径部90a内周とが密接し、流路9の連通を阻止する。
【0066】
したがって、本実施の形態においても、一実施の形態と同様に、フリーピストン35Aに形成されて液溜室Cと気室Dとを連通する流路9の途中に収容溝90を形成し、この収容溝90内に収容されるシール材4Aが液溜室Cの内圧に従い上記流路9を開閉することから、従来のようにブローピストン401や、これを附勢する附勢ゴム400や附勢ゴム(特許文献1の図5)を設ける必要がなく、緩衝器の軸方向長さを短くして搭載性を向上させると共に部品点数を少なくし、ブローさせるための構成を簡易にすることが可能となる。
【0067】
また、シール材4Aが嵌合する嵌合部(第一大内径部90a内周とベースロッド36外周との間)と、シール材4Aが変形したときシール材4Aの一部が挿入される逃げ部(スロープ部90b内周とベースロッド36外周との間)とからなることから、シール材4Aの弾性変形を利用して流路9を確実に開閉させることが可能となる。
【0068】
また、フリーピストン35Aが、第一大内径部90aと、第二大内径部91と、スロープ部90bと、連通孔92と、ストッパS内周とベースロッド36外周の隙間とを備え、第一大内径部90a内周とベースロッド36外周との間に嵌合部を、スロープ部90b内周とベースロッド36外周との間にスロープ部を形成することにより、収容溝90の構成を複雑化させることがなく、簡易にすることが可能となる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0070】
例えば、収容溝50,90の構成は、上記の限りではなく、例えば、図5に示すように、収容溝350がフリーピストン35Bの外周に形成される環状の嵌合部350aと、この嵌合部350の図中上側に部分的に切り欠いて形成される逃げ部350bとからなるとしても良い。
【0071】
この場合において流路351は、フリーピストン35Bの外周に液溜室側端(図中下端)から嵌合部350aにかけて軸方向に形成される溝351aと、嵌合部350aから径方向に穿設される径孔351bと、フリーピストン35Bの気室側(図中上側)から穿設されて上記径孔35bの内側端に連通する軸孔351cとからなる。
【0072】
そして、液溜室C(図1)の内圧が所定以下のとき、図5(a)に示すように、Oリングからなるシール材4Bで溝351a及び径孔351bを塞いで流路351の連通を阻止し、液溜室C(図1)の内圧が所定よりも高まると、図5(b)に示すように、逃げ部350bに対向するシール材4Bの一部が湾曲して溝351a及び径孔351bが連通し、これにより流路351を連通させることが可能となる。
【0073】
また、上記実施の形態において、リザーバ気室R2をエアばねとして機能させ、リザーバ気室R2の内圧と気室Dの内圧を同圧にしてこの気室Dの内圧でフリーピストン35A,35Bを液溜室C側に附勢するとしているがこの限りではなく、従来のように、コイルスプリング等からなる附勢ばねでフリーピストン35A,35Bを附勢するとしても良い。
【0074】
また、上記実施の形態において、シール材4,4A,4BがOリングからなるとしたがこの限りではなく、フリーピストン外周とサブタンク内周との間若しくはフリーピストン内周とベースロッド外周との間をシールすることが可能で、弾性を有して液溜室の内圧を受けて形状が変化し、また、形状が元に戻ることが可能な限りにおいて適宜構成を選択することが可能である。
【0075】
また、上記実施の形態において、緩衝器がフロントフォークとして利用されるとしたがこの限りではなく、リアクッションユニットや他の懸架装置として利用されるとしても良い。
【符号の説明】
【0076】
A 伸側作用室
B 圧側作用室
C 液溜室
D 気室
R リザーバ室
R1 作動流体室
R2 リザーバ気室
S ストッパ
1 アウターチューブ
2 インナーチューブ
3 ダンパ
4,4A,4B シール材
5,9,351 流路
6 通孔
7 バランススプリング
8 内周シール
8A 外周シール
10 キャップ部材
20 ボトム部材
30 シリンダ
31 ピストン
32 ピストンロッド
33 サブタンク
33a サブタンク基端側部材
33b サブタンク先端側部材
34 ベース部材
35,35A,35B フリーピストン
36 ベースロッド
50,90,350 収容溝
50a 第一小外径部
50b,90b スロープ部
51 第二小外径部
52,92 連通孔
53,54 大外径部
53a,54a,351a 溝
90a 第一大内径部
91 第二大内径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブとこのアウターチューブ内に摺動自在に挿入されるインナーチューブとからなる緩衝器本体と、この緩衝器本体内に収容されるダンパと、このダンパと上記緩衝器本体との間に形成されるリザーバ室とを備え、
上記ダンパは、上記緩衝器本体の軸心部に起立するシリンダと、このシリンダ内周に摺接し上記シリンダ内を作動流体で満たされる二つの作用室に区画するピストンと、このピストンを介して上記シリンダ内に出没するロッドと、上記シリンダの反ロッド側に連設されるサブタンクと、このサブタンク内周に摺接し上記サブタンク内を作動流体で満たされる液溜室と気室とに区画して液溜室側に附勢されるフリーピストンと、反ロッド側の作用室と上記液溜室とを区画するベース部材と、上記サブタンクに形成されて上記気室と上記リザーバ室とを連通する通孔とを備え、
上記液溜室の内圧が所定よりも高まると上記フリーピストンが後退して上記液溜室の作動流体を上記通孔から上記リザーバ室にブローする緩衝器において、
環状に形成されて弾性を有するシール材と、上記フリーピストンに形成されて上記液溜室と上記気室とを連通する流路と、この流路の途中に設けられて上記シール材が収容される環状の収容溝とを備え、
上記液溜室の内圧が所定よりも高まると、上記シール材が上記収容溝内で変形して上記流路を連通することを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記収容溝が液溜室側に形成されて上記シール材が嵌合する嵌合部と、上記シール材が変形したとき上記シール材の一部が挿入される逃げ部とからなることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記フリーピストンがその外周が小径に形成される第一小外径部と、この第一小外径部の気室側に形成されて更に外周が小径な第二小外径部と、この第二小外径部の気室側に形成されて外周が徐々に拡径するスロープ部と、上記フリーピストンの気室側に穿設されて上記第二小外径部の内周部に連通する連通孔と、上記第一章芸軽侮の液室側及び上記スロープ部の気室側に形成されて上記サブタンク内周に摺接し軸方向に沿って溝が形成される一対の大外径部とを備え、
第一小外径部外周と上記サブタンク内周との間に上記嵌合部が形成され、上記スロープ部外周と上記サブタンク内周との間に上記逃げ部が形成され、液室側に形成される上記溝と、上記収容溝と、上記第二小外径部51外周と上記シール材内周との間と、上記連通孔とで上記流路を構成し、
上記液溜室の内圧が所定よりも高まると、上記シール材が変形して上記シール材の一部が上記逃げ部に挿入されて上記シール材内周と上記第一小外径部外周との間に隙間が生じ、上記流路を連通することを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記ベース部材がベースロッドに保持されてなり、上記フリーピストンが環状に形成されて上記サブタンク内周に上記フリーピストンの外周を摺接させると共に上記ベースロッド外周に上記フリーピストンの内周を摺接させることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の緩衝器。
【請求項5】
上記フリーピストンがその内周が大径に形成される第一大内径部と、この第一大内径部の気室側に形成されて更に内周が大径な第二大内径部と、この第二大内径部の気室側に形成されて内周が徐々に縮径するスロープ部と、上記フリーピストンの気室側に穿設されて上記第二大内径部の外周部に連通する連通孔と、上記第一大内径部の液溜室側に形成されて内周に環状のストッパが位置決めされるストッパ保持部と、上記スロープ部の気室側に形成されて内周が小径に形成される小内径部とを備え、
上記大内径部内周と上記ベースロッド外周との間に上記嵌合部が形成され、上記スロープ部内周と上記ベースロッド外周との間に上記逃げ部が形成され、上記ストッパ内周と上記ベースロッド外周との間と、上記収容溝と、上記第二大内径部内周と上記シール材外周との間と、上記連通路で流路を構成し、
上記液溜室の内圧が所定よりも高まると、上記シール材が変形して上記シール材の一部が上記逃げ部に挿入されて上記シール材外周と上記第一大内径部内周との間に隙間が生じて上記流路を連通することを特徴とする請求項4に記載の緩衝器。
【請求項6】
上記リザーバ室は、作動流体が貯留される作動流体室と、気体が圧縮されながら収容されるリザーバ気室とからなり、このリザーバ気室の内圧が上記気室を介して上記フリーピストンに作用し、上記フリーピストンを液溜室側に附勢することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211650(P2012−211650A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77806(P2011−77806)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】