説明

緩衝器

【課題】 緩衝器を改良し、一方側流路を作動流体が通過する際の減衰力調整を可能にする。
【解決手段】 一方室Aと他方室Bとに区画するピストン1と、ピストン1に形成されて両室A,Bを連通する一方側流路10と、ピストン1の他方室側に積層されて一方側流路10の出口を塞ぐ一方側リーフバルブ11と、ピストン1を保持するとともに一方側が一方室Aを貫通し他方側が他方室B内に突出するピストンロッド2とを備える緩衝器Dにおいて、他方室B内に形成されるジャッキ室Jと、ジャッキ室Jの拡大、縮小に伴い軸方向に移動可能なジャッキ部材3と、ピストンロッド2に形成されるジャッキ用流路Lと、ピストンロッド2の一方側に取り付けられてジャッキ用流路Lを介してジャッキ室Jにジャッキ用流体を給排する調整部材5とを備え、ジャッキ部材3の移動により一方側リーフバルブ11を閉じ側に附勢する附勢ばね4のばね力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車や自動二輪車等の車両において、車体と車輪との間に懸架装置を介装している。この懸架装置は、懸架ばねと称されるばねを備えており、この懸架ばねで路面凹凸による衝撃を吸収している。また、懸架装置は、懸架ばねの衝撃吸収に伴う伸縮運動を抑制するため、懸架ばねと並列に緩衝器を備えている。
【0003】
例えば、図3に示す緩衝器D1は、自動二輪車の前輪を懸架する懸架装置たるフロントフォークに搭載されるものであり、シリンダ6と、このシリンダ6内に軸方向(図3中上下方向)に移動可能に挿入される軸部材たるピストンロッド2と、このピストンロッド2に保持されるバルブディスクたるピストン1とを備える。
【0004】
上記シリンダ6内は、上記ピストン1で図3中上側の一方室Aと図3中下側の他方室Bとに区画されている。また、上記ピストン1には、一方室Aから他方室Bへの作動流体の移動のみを許容する一方側流路10と、他方室Bから一方室Aへの作動流体の移動のみを許容する他方側流路10aとが形成されている。
【0005】
また、上記緩衝器D1は、上記ピストン1の他方室側(図3中下側)に積層されて上記一方側流路10の出口を開閉可能に塞ぐ一方側リーフバルブ11と、上記ピストン1の一方室側(図3中上側)に積層されて上記他方側流路10aの出口を開閉可能に塞ぐ他方側リーフバルブ11aとを備えている。
【0006】
そして、上記緩衝器D1が伸縮しようとして一方室Aが加圧されると、一方室Aの作動流体が一方側リーフバルブ11を開いて一方側流路10を通過し、他方側室Bに移動する。また、他方側室Bが加圧されると、他方室Bの作動流体が他方側リーフバルブ11aを開いて他方側流路10aを通過し一方室Aに移動する。このとき、緩衝器D1は、各流路10,10aを作動流体が通過する際の抵抗に起因する減衰力を発生し、フロントフォークの伸縮運動を抑制する。
【0007】
つづいて、上記緩衝器D1おけるピストンロッド2は、上記ピストン1を保持するとともにその一方側が図3中上側に伸びて一方室Aを貫通し、他方側が図3中下側に延びて他方室Bを貫通しており、上記緩衝器D1は、両ロッド型緩衝器とされる。
【0008】
そして、一方室Aを貫通するピストンロッド2の一方側(図3中上側)には、図示しないがアジャスタが取り付けられており、このアジャスタで他方側リーフバルブ11aの開弁圧を調整することができる。
【0009】
具体的に、上記他方側リーフバルブ11aの開弁圧を調整する減衰力調整手段は、一方室A内に配置されるとともに上記ピストンロッド2の軸方向(図3中上下方向)に移動可能に配置されるシート部材90と、筒状に形成されて先端が上記他方側リーフバルブ11aの外周部に当接するバルブ押さえ91と、上記シート部材90と上記バルブ押さえ91の間に配置され他方側リーフバルブ11aを閉じ方向に附勢する附勢ばね92と、上記ピストンロッド2の軸心部に軸方向に移動可能に挿入されて先端が上記シート部材90に当接するプッシュロッド93と、このプッシュロッド93の基端側に当接しこのプッシュロッド93を介して上記シート部材90を駆動する図示しない上記アジャスタとを備える。
【0010】
そして、上記シート部材90及び上記プッシュロッド93は、附勢ばね92とアジャスタとの間に挟まれているため、アジャスタの移動に伴い軸方向に移動する。これにより、附勢ばね92のばね力を変更して上記他方側リーフバルブ11aの開弁圧を調整し、他方側流路10aを通過する際に発生する減衰力を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−264489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、上記緩衝器D1において、一方側リーフバルブ11で塞がれる一方側流路10を作動流体が通過する際の減衰力を調整しようとする場合、一方側リーフバルブ11を閉じる方向に押さえる、即ち、図3中上側に力をかける必要がある。
【0013】
しかしながら、ピストンロッド2の一方側(図3中上側)から上記プッシュロッド93で力を伝達する上記アジャスタでは、図3中下側にしか力をかけることができない。
【0014】
尚、図3に示す緩衝器D1は、両ロッド型の緩衝器であるため、ピストンロッド2の他方側(図3中下側)からブッシュロッドで力を伝達するアジャスタを設ければ、ピストンロッド2の他方側(図3中下側)から一方側リーフバルブ11を閉じる方向に押さえて一方側流路10を作動流体が通過する際の減衰力を調整できるが、ピストンロッド2の一方側(図3中上側)から上記調整をすることができなかった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、ピストン等のディスクバルブの他方室側に積層されるリーフバルブで塞がれる流路を作動流体が通過する際の減衰力をピストンロッド等の軸部材の一方側から調整することが可能な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための手段は、一方室と他方室とに区画するバルブディスクと、このバルブディスクに形成されて上記一方室と上記他方室とを連通する流路と、上記バルブディスクの他方室側に積層されて上記流路の出口を開閉可能に塞ぐリーフバルブと、上記バルブディスクと上記リーフバルブの軸心部を貫通するとともに一方側が上記一方室を貫通し他方側が他方室内に突出する軸部材とを備える緩衝器において、上記他方室内に形成されるジャッキ室と、このジャッキ室の拡大、縮小に伴い軸方向に移動可能なジャッキ部材と、上記軸部材に形成されて上記ジャッキ室と常に連通するジャッキ用流路と、上記軸部材の一方側に取り付けられて上記ジャッキ用流路を介して上記ジャッキ室にジャッキ用流体を給排する調整部材とを備え、上記ジャッキ部材の移動により上記リーフバルブをバルブディスク側に附勢する附勢ばねのばね力を調整することである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ディスクバルブの他方室側に積層されるリーフバルブで塞がれる流路を作動流体が通過する際の減衰力を軸部材の一方側から調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る緩衝器の使用状態を示し、部分的に切り欠いて示す正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る緩衝器の主要部を拡大して示し、正面側から見た縦断面図である。
【図3】従来の緩衝器の主要部を拡大して示し、部分的に切り欠いて示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の一実施の形態に係る緩衝器について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る緩衝器Dは、一方室Aと他方室Bとに区画するバルブディスクたるピストン1と、このピストン1に形成されて上記一方室Aと上記他方室Bとを連通する流路たる一方側流路10と、上記ピストン1の他方室側(図1中下側)に積層されて上記一方側流路10の出口を開閉可能に塞ぐリーフバルブたる一方側リーフバルブ11と、上記ピストン1と上記一方側リーフバルブ11の軸心部を貫通するとともに一方側(図1中上側)が上記一方室Aを貫通し他方側(図1中下側)が他方室B内に突出する軸部材たるピストンロッド2とを備える。
【0021】
さらに、緩衝器Dは、上記他方室B内に形成されるジャッキ室Jと、このジャッキ室Jの拡大、縮小に伴い軸方向(図1中上下方向)に移動可能なジャッキ部材3と、上記ピストンロッド2に形成されて上記ジャッキ室Jと常に連通するジャッキ用流路Lと、上記ピストンロッド2の一方側(図1中上側)に取り付けられて上記ジャッキ用流路Lを介して上記ジャッキ室Jにジャッキ用流体を給排する調整部材5とを備える。
【0022】
そして、上記ジャッキ部材3の移動により上記一方側リーフバルブ11をピストン側(図1中上側)に附勢する附勢ばね4のばね力を調整する。
【0023】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態に係る緩衝器Dは、自動二輪車の前輪を懸架する懸架装置たるフロントフォークに搭載されるものである。このフロントフォークは、アウターチューブT1と、このアウターチューブT1内に移動可能に挿入されるインナーチューブT2とからなる懸架装置本体Tを備えており、この懸架装置本体T内に本実施の形態に係る緩衝器Dを収容している。
【0024】
また、懸架装置本体T内には、フロントフォークを常に伸張方向に附勢する懸架ばねSが上記緩衝器Dと並列に収容されており、この懸架ばねSで車体を弾性支持する。
【0025】
さらに、上記懸架装置本体Tと上記緩衝器Dとの間には、リザーバRが形成されている。このリザーバR内には、作動流体が収容されており、その液面Oを介して上側に懸架装置本体Tの圧縮時に反力を発生する気体が収容されている。本実施の形態において、上記作動流体は油からなり、また、上記気体は、窒素等の不活性ガスからなる。
【0026】
そして、上記懸架装置本体Tの図1中上側は、アウターチューブT1の図1中上端部に取り付けられるキャップ部材C1で塞がれる。他方、上記懸架装置本体Tの図1中下側は、インナーチューブT2の図1中下端部に取り付けられる図示しないボトムブラケットで塞がれる。また、上記懸架装置本体TにおけるアウターチューブT1とインナーチューブT2との間に形成される筒状の隙間(符示せず)は、アウターチューブT1の図1中下端部内周に取り付けられてインナーチューブT2の外周面に摺接する環状のオイルシールC2及びダストシールC3で塞がれる。これにより、上記リザーバR内に収容される作動流体や気体が懸架装置本体Tの外側に漏れることを防止している。
【0027】
つづいて、上記懸架装置本体T内に収容される本実施の形態に係る緩衝器Dは、上記インナーチューブT2の軸心部に起立するシリンダ6と、上記キャップ部材C1に垂設されて上記シリンダ6内に出没可能に挿入される軸部材たるピストンロッド2と、このピストンロッド2に保持されるバルブディスクたるピストン1とを備える。
【0028】
上記シリンダ6内は、上記バルブディスクたるピストン1で区画されており、ピストンロッド側(図1中上側)に一方室Aが形成され、ピストン側(図1中下側)に他方室Bが形成される。これら一方室A及び他方室Bには、上記リザーバRに収容される作動流体と共通の作動流体が充填されている。また、上記シリンダ6の図1中上側開口は、環状のロッドガイド60で塞がれている。
【0029】
上記シリンダ6内に挿入される上記ピストンロッド2は、図1中上側となる一方側に配置される筒状部材20と、この筒状部材20に同軸に連なる先端部材21とからなる。そして、この先端部材21が上記ピストン1の軸心部を貫通するとともに、ピストン1を保持している。また、ピストンロッド2の図1中下端となるピストンロッド2の他方側端は、他方室B内に配置されており、本実施の形態に係る緩衝器Dは、片ロッド型の緩衝器とされる。
【0030】
上記筒状部材20の図1中上端部となるピストンロッド2の一方側端部は、キャップ部材C1の軸心部を貫通する取り付け孔C10に取り付けられるアジャスタ50に螺合し、ロックナット51で緩み止めされている。また、筒状部材20の図1中下側は、上記ロッドガイド60の内周に嵌合する軸受部材60aに軸支され、軸方向(図1中上下方向に)移動自在とされている。
【0031】
他方、上記先端部材21は、図2に示すように、上記筒状部材20に螺合する大径部21aと、この大径部21aに同軸に連なり上記大径部21aよりも小径に形成される中径部21bと、この中径部21bに同軸に連なりこの中径部21bより小径に形成される小径部21cと、この小径部21cに同軸に連なり外周に螺子溝が形成される螺子部21dと、この螺子部21dに同軸に連なり上記先端部材21の最先端となる先端部21eを備える。
【0032】
そして、先端部材21は、上記小径部21c外周にバルブストッパ12a、間座13a、複数の他方側リーフバルブ11aからなる圧側チェックバルブV2、ピストン1、複数の一方側リーフバルブ11からなる伸側リーフバルブV1、間座13、スペーサ14を図2中上側から順に装着し、螺子部21dにナット23を螺合する。これにより、ピストン1、伸側減衰バルブV1、圧側チェックバルブV2、バルブストッパ12a、間座13,13a、スペーサ14は、上記中径部21bと小径部21cとの境界に形成される段部21fと上記ナット23との間に挟持されて先端部材21に固定される。
【0033】
また、上記スペーサ14の外周面には、伸側減衰バルブV1用の環状のバルブストッパ12が軸方向に移動可能に摺接している。そして、このバルブストッパ12は、他方室B内に配置される間座13からナット23までの間を移動することができる。
【0034】
つづいて、上記ピストンロッド2に保持される上記ピストン1には、、一方室Aから他方室Bへの作動流体の移動のみを許容する一方側流路10と、他方室Bから一方室Aへの作動流体の移動のみを許容する他方側流路10aとが形成されている。
【0035】
そして、一方側流路10の入口は、常に一方室Aと連通しており、一方側流路10の出口は、上記ピストン1の他方室B側(図2中下側)に積層される複数の一方側リーフバルブ11からなる伸側減衰バルブV1で開閉可能に塞がれている。また、他方側流路10aの入口は、常に他方室Bと連通しており、他方側流路10aの出口は、上記ピストン1の一方室側(図2中上側)に積層される複数の他方側リーフバルブ11aからなる圧側チェックバルブV2で開閉可能に塞がれている。
【0036】
もどって、上記シリンダ6のボトム部(図1中下部)には、図示しないベース部材が固定されている。このベース部材の構成は、周知であるため、図示しないが、このベース部材には、リザーバRから他方室Bへの作動流体の移動のみを許容する伸側流路と、他方室BからリザーバRへの作動流体の移動のみを許容する圧側流路とが形成されている。
【0037】
そして、上記伸側流路の入口は、常にリザーバRと連通しており、伸側流路の出口は、ベース部材の他方室側たる一方側に積層される図示しない伸側チェックバルブで開閉可能に塞がれている。また、上記圧側流路の入口は、常に圧側室Bと連通しており、圧側流路の出口は、ベース部材の他方側に積層される図示しない圧側減衰バルブで開閉可能に塞がれている。
【0038】
尚、圧側チェックバルブV2及び図示しない伸側チェックバルブは、他方側流路10a及び伸側流路を作動流体が通過する際、小さな抵抗しか生じさせないようになっている。これに対して、伸側減衰バルブV1及び図示しない圧側減衰バルブは、一方側流路10及び圧側流路を作動流体が通過する際、比較的大きな抵抗を生じさせるよう設定されており、伸側減衰バルブV1及び圧側減衰バルブで緩衝器Dにおけるメインの減衰力を発生するようになっている。
【0039】
そして、ピストンロッド2がシリンダ6から退出するフロントフォークの伸長時には、ピストン1で一方室Aが加圧され、一方室Aの作動流体が伸側減衰バルブV1を押し開いて一方側流路10を通過し、他方室Bに移動する。
【0040】
このとき、シリンダ6内では、退出したピストンロッド体積分の作動流体が不足するため、図示しないベース部材に積層される伸側チェックバルブが開き、不足分の作動流体がリザーバRから上記ベース部材の伸側流路を通過して他方室Bに移動する。
【0041】
他方、ピストンロッド2がシリンダ6内に進入するフロントフォークの圧縮時には、ピストン6で他方室Bが加圧されるため、圧側チェックバルブV2が開き、他方室Bの作動流体がピストン1の他方側流路10aを通過して伸側室Aに移動する。
【0042】
このとき、シリンダ6内では、進入したピストンロッド体積分の作動流体が余剰となり、この余剰分の作動流体が図示しないベース部材に積層される圧側減衰バルブを押し開いて圧側流路を通過し、圧側室BからリザーバRに移動する。
【0043】
したがって、緩衝器Dは、シリンダ6内にピストンロッド2が出没するフロントフォークの伸縮時に、ピストン1及び図示しないベース部材に形成される各流路を作動流体が通過する際の抵抗に起因する減衰力を発生し、フロントフォークの伸縮運動を抑制する。そして、シリンダ6内に出没するピストンロッド体積分のシリンダ内容積変化をリザーバRで補償する。
【0044】
そして、フロントフォークの伸長時における緩衝器Dの減衰力(以下、伸側減衰力という)は、ピストンロッド2の一方側(図1中上側)に取り付けられる調整部材5で調整することができる。そして、本発明は、本実施の形態において、この伸側減衰力を調整する伸側減衰力調整手段を構成するものである。
【0045】
上記伸側減衰力調整手段は、他方室B内に形成されるジャッキ室Jと、このジャッキ室Jの拡大、縮小に伴い軸方向(図1中上下方向)に移動可能なジャッキ部材3と、一方側リーフバルブ11をピストン側(図1中下側)に附勢する附勢ばね4と、ピストンロッド2に形成されて上記ジャッキ室Jと常に連通するジャッキ用流路Lと、上記ジャッキ室Jにジャッキ用流路Lを介してジャッキ用流体を給排する上記調整部材5とを備える。
【0046】
図2に示すように、上記ジャッキ室Jは、先端部材21における螺子部21d外周に螺合する連結部材7と、この連結部材7の外周面に軸方向に移動可能に摺接するジャッキ部材3との間に形成される。
【0047】
上記連結部材7は、底部70と、この底部70上に起立する筒状部71とを備えて有底筒状に形成されており、筒状部71が上記螺子部21dに螺合され先端部21eを覆う。また、上記底部70の外周部が上記筒状部71からはみ出してフランジ状になっており、連結部材7の外周面が断面L字状に形成されている。
【0048】
そして、上記筒状部71には、上記ピストンロッド2に形成されるジャッキ用流路Lと上記ジャッキ室Jとを連通する連通孔72が形成される。また、上記連結部材7の底部70の中心には、底部70の肉厚を貫通する孔73が設けられている。
【0049】
また、上記ジャッキ部材3は、上記筒状部71の外周面にシール30aを介して摺接する環状の蓋部30と、この蓋部30の外周端から垂設される筒状の隔壁部31とを備えており、ジャッキ部材3の内周面が断面逆L字状に形成されている。そして、隔壁部31の内周は、上記連結部材7の底部70の外周面にシール70aを介して摺接する。
【0050】
当該構成を備えることにより、ジャッキ部材3は、このジャッキ室Jにジャッキ用流体が供給されたとき図2中上側に移動してジャッキ室Jを拡大させる。また、ジャッキ部材3は、ジャッキ室Jからジャッキ用流体が排出されると図2中下側に移動してジャッキ室Jを縮小させる。
【0051】
つづいて、一方側リーフバルブ11をピストン側(図2中上側)に附勢する附勢ばね4は、スペーサ14の外周面に摺接し軸方向(図2中上下方向)に移動可能なバルブディスク12と、ジャッキ部材3との間に介装される。これにより、附勢ばね4のばね力は、ジャッキ部材3を軸方向に移動させることにより変更できる。
【0052】
つづいて、上記ジャッキ室Jに連通する上記ジャッキ用流路Lは、ピストンロッド2を構成する上記筒状部材20を貫通する筒状部材内流路L1と、上記筒状部材20とともにピストンロッド2を構成する上記先端部材21に形成される先端部材内流路L2とを備えている。
【0053】
上記筒状部材内流路L1の図1,2中上側となる一方側は、上記筒状部材20の図1中上端部内周にシール8aを介して摺接し軸方向に移動可能な栓部材8で塞がれる。また、上記筒状部材内流路L1の他方側は、上記先端部材内流路L2と連通している。そして、筒状部材20と先端部材21の連結部から作動流体が漏れないように、筒状部材20と先端部材21の境界部に、筒状部材20の内周面と先端部材21の内周面にそれぞれシール9a,9bを介して密接する環状のシール部材9が取り付けられている。
【0054】
つづいて、先端部材内流路L2は、先端部材21を軸方向に貫通し上記筒状部材内流路L1と連なる軸心孔L20と、先端部材21における先端部21eの肉厚を貫通し連結部材7の連通孔72と連通する横孔L21とを備えて構成される。
【0055】
尚、本実施の形態において、上記横孔L21が形成される先端部21eの先端が小径に形成されており、連結部材7の筒状部71との間に環状の隙間74を形成する。そして、上記横孔L21と上記連通孔72は、この隙間74を介して連通しており、横孔L21と連通孔72が径方向にずれたとしても横孔L21と連通孔72の連通を妨げないようになっている。
【0056】
また、上記軸心孔L20の先端側(図2中下側)開口は、上記連結部材7の孔73と対向しているが、先端部材21の先端部21eと連結部材7の底部70との間に介装されるゴムブッシュ24で塞がれている。
【0057】
また、連結部材7の筒状部71と上記先端部材21の先端部21eとの間には、シール25が介装されており、連結部材7と先端部材21との連結部からジャッキ用流体が漏れず、またこの連結部からシリンダ6内の作動流体が流入しないようになっている。
【0058】
つまり、上記ジャッキ室J及び上記ジャッキ用流路Lは、ジャッキ用流体で満たされる一つの閉空間内にあり、シリンダ6やリザーバR内に収容される作動流体と混じらないようになっている。
【0059】
また、上記ジャッキ室J内に上記ジャッキ用流路Lを介して作動流体を給排する調整部材5は、上記アジャスタ50内に螺合されキャップ部材C1に対して軸方向(図中上下方向)に移動可能となっており、この調整部材5の先端は、上記ジャッキ用流路Lの図1中上側を塞ぐ栓部材8に当接している。これにより、栓部材8は、調整部材5とともに図1中上下に移動する。
【0060】
また、本実施の形態に係る緩衝器Dは、上記ピストンロッド2における先端部材21と、ロッドガイド60との間に配置される伸び切りばね61を備えており、この伸び切りばね61でフロントフォークの最伸張時における衝撃を吸収する。
【0061】
次に、本実施の形態に係る緩衝器Dの作用について説明する。本実施の形態に係る緩衝器Dにおいて、調整部材5をピストン1に接近させるよう、図1中下側に移動させると、調整部材5に押されて栓部材8が調整部材5とともに図1中下側に移動する。
【0062】
そして、栓部材8がピストンロッド2内に進入した分のジャッキ用流体が筒状部材内流路L1からジャッキ室J内に移動し、ジャッキ部材3が図1中上側に押し上げられてジャッキ室Jが拡大する。このとき、ジャッキ部材3とバルブストッパ12との間隔が小さくなるため、附勢ばね4のばね力が大きくなる。
【0063】
また、上記ジャッキ室Jや上記ジャッキ用流路Lは、附勢ばね4を介して常に加圧されているため、調整部材5をピストン1から遠ざけるよう、図1中上側に移動させると、ジャッキ用流路Lの内圧で栓部材8が調整部材5に当接するまで図1中上側に押し上げられる。
【0064】
そして、栓部材8がピストンロッド2から退出した分のジャッキ用流体がジャッキ室Jから筒状部材内流路L1に移動し、ジャッキ部材3が図1中下側に押し下げられてジャッキ室Jが縮小する。このとき、ジャッキ部材3とバルブストッパ12との間隔が大きくなるため、附勢ばね4のばね力が小さくなる。
【0065】
つまり、本実施の形態においては、上記ジャッキ室J及び上記ジャッキ用流路Lを有してジャッキ用流体で満たされる上記閉空間の一方側に栓部材8が配置され、他方側にジャッキ部材3がそれぞれ移動可能に配置されており、栓部材8を調整部材5で移動させることにより、ジャッキ部材3を駆動させて附勢ばね4のばね力を調整することができる。
【0066】
さらに、本実施の形態における附勢ばね4の一端は、スペーサ14の外周面に摺接するバルブストッパ12に当接している。そして、フロントフォークの伸長時においてピストン速度が中、低速領域にある場合には、伸側減衰バルブV1を構成する一方側リーフバルブ11の外周端部のみが撓み、バルブストッパ12が機能しないことから、一方側リーフバルブ11は、附勢ばね4のばね力を受けない。
【0067】
しかし、フロントフォークの伸張時においてピストン速度が高速領域に達すると、一方側リーフバルブ11の外周部が大きく撓んでバルブストッパ12に当接し、一方側リーフバルブ11が附勢ばね4のばね力に抗してバルブストッパ12を図2中下側に押し下げる。
【0068】
つまり、本実施の形態においては、上記附勢ばね4のばね力を変えることにより、ピストン速度が高速域に達したときのフロントフォークの伸側減衰力(以下、伸側高速減衰力という)をピストンロッド2の一方側(図1中上側)から上記調整部材5で調整することが可能となる。
【0069】
また、本実施の形態において、ジャッキ用流体が油からなり、熱で膨張するため、高温になるとジャッキ部材3が図1,2中上側に移動して附勢ばね4のばね力が大きくなる。これにより、熱で作動流体の粘度が低下した場合においても、伸側高速減衰力が高くなる方向に自動的に調整されるため、伸側高速減衰力を一定に保つことができる。
【0070】
また、本実施の形態において、上記ジャッキ室Jが上記連結部材7と上記ジャッキ部材3との間に形成されることから、ジャッキ室Jを形成するための構成を簡易にすることができる。
【0071】
また、本実施の形態において、連結部材7が底部70と、この底部70に起立する筒状部71とを備えて有底筒状に形成されるとともに、底部70の外周部が筒状部71からはみ出してフランジ状に形成され、ジャッキ部材3が筒状部71の外周面にシール30aを介して摺接する蓋部30と、この蓋部30の外周端から垂設されて底部70の外周面にシール70aを介して摺接する筒状の隔壁部31とを備え、連結部材7の底部70の外周部とジャッキ部材3の上記蓋部30との間に上記ジャッキ室Jが形成される。
【0072】
したがって、上記ジャッキ室Jの拡大、縮小を容易にするとともに、上記ジャッキ室Jと他方室Bとを容易に区画することが可能となる。
【0073】
また、本実施の形態において、先端部材21の先端(図2中下端)と連結部材7の底部70との間にゴムブッシュ24を設け、このゴムブッシュ24で軸心孔L20に連通する孔73を塞いでいるため、この孔73からゴムブッシュ24に針を差し込んでジャッキ室J及びジャッキ用流路Lにジャッキ用流体を充填することができ、ジャッキ用流体の充填作業が容易になる。
【0074】
また、本実施の形態において、上記ジャッキ用流路Lにおける反ジャッキ室側(図1中上側)開口に、上記ジャッキ用流路L内に進退可能に挿入される栓部材8を設け、この栓部材8を調整部材5で駆動してジャッキ室Jにジャッキ用流体を給排しており、ジャッキ室J内にジャッキ用流体を給排するための構成を簡易にすることができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0076】
例えば、上記実施の形態において、本発明に係る緩衝器Dがフロントフォークに搭載されるとしたが、自動二輪車の後輪を懸架するリアクッションユニットに搭載されるとしても、自動車用の懸架装置に搭載されるとしても良い。
【0077】
また、上記実施の形態における緩衝器Dを搭載するフロントフォークは、アウターチューブT1が車体側に連結されるとともにインナーチューブT2が車輪側に連結される倒立型のフロントフォークであるが、アウターチューブT1が車輪側に連結されるとともにインナーチューブT2が車輪側に連結される正立型のフロントフォークであるとしても良い。
【0078】
また、上記実施の形態におけるフロントフォークは、インナーチューブT2の軸心部に起立するシリンダ6と、アウターチューブT1側に固定されシリンダ6内に軸方向に移動可能に挿入されるピストンロッド2と、このピストンロッド2に保持されるピストン1とを備える緩衝器Dを備えているが、シリンダ6を廃し、ピストン1がインナーチューブT2の内周面に直接摺接する構成としても良い。
【0079】
また、上記実施の形態において、作動流体が油からなるとしたが、作動流体が水等の他の液体からなるとしても、不活性ガス等の気体からなるとしても良い。
【0080】
また、上記実施の形態において、ジャッキ用流体が油からなるとしたが、ジャッキ用流体が水等の他の液体からなるとしても、不活性ガス等の気体からなるとしても良く、作動流体と共通の流体を使用するとしても良い。
【0081】
また、上記実施の形態において、調整部材5でフロントフォークの伸側高速減衰力の調整をしているが、バルブストッパ12をバルブ押さえに替え、このバルブ押さえの先端を常に一方側リーフバルブ11に当接させれば、一方側リーフバルブ11の開弁圧を調整することも可能である。
【0082】
また、一方側リーフバルブ11や間座13がバルブストッパ12と共にスペーサ14外周に摺接して軸方向に移動可能とされ、フロントフォークの伸長時においてピストン速度が伸側高速領域に達したときに、一方側リーフバルブ11、間座13及びバルブストッパ12が図2中下側にリフトするようにしても良い。
【0083】
また、上記実施の形態に係る緩衝器Dは、片ロッド型の緩衝器であるが、ピストンロッド2の他方側(図1,2中下側)が他方室B内に突出するとともに他方室Bを貫通する両ロッド型の緩衝器であるとしても良い。
【0084】
尚、この場合においては、上記構成を用いてフロントフォークの圧縮時において、他方側流路10aを通過する作動流体の抵抗に起因する減衰力、即ち、圧側減衰力の調整をするとしても良い。
【0085】
また、上記実施の形態におけるバルブディスクは、ピストン1であるが、他方室BとリザーバRとを連通する流路を備えるベース部材であるとしても良い。尚、この場合において、軸部材は、ベース部材を支持するベースロッドとされる。
【0086】
また、上記実施の形態において、連結部材7の底部70に孔73を設け、この孔73をゴムブッシュ24で塞いでいる。しかし、内部にジャッキ室Jまたはジャッキ用流路Lを形成する何れの構成、例えば、ピストンロッド2を構成する筒状部材20や先端部材21、またはジャッキ部材3に孔を設けてゴムブッシュ24で塞ぐとしても良く、この場合においても、ジャッキ用流体の充填作業を容易にすることができる。
【0087】
また、上記実施の形態において、ジャッキ用流路Lの反ジャッキ室側(図1中上側)が上記ジャッキ用流路L内に進退可能な栓部材8で塞がれており、この栓部材8を上記調整部材5で駆動し、これによりジャッキ室J内にジャッキ用流体を給排している。しかし、ジャッキ室Jにジャッキ用流体を給排する構成は、上記の限りではなく、上記ジャッキ用流路Lと連なるポンプ等を用いてジャッキ室Jにジャッキ用流体を給排しても良い。
【0088】
また、上記実施の形態において、附勢ばね4がバルブストッパ12とジャッキ部材3との間に介装されているが、この限りではなく、例えば、筒状部材20内周に摺接する一対のフリーピストンを設け、これらフリーピストンの間に附勢ばね4を設けても良い。また、上記一対のフリーピストンの間に気室を形成し、この気室を上記附勢ばね4として機能させるとしても良い。
【符号の説明】
【0089】
A 一方室
B 他方室
C1 キャップ部材
C2 オイルシール
C3 ダストシール
D,D1 緩衝器
J ジャッキ室
L ジャッキ用流路
L1 筒状部材内流路
L2 先端部材内流路
O 液面
S 懸架ばね
T 懸架装置本体
T1 アウターチューブ
T2 インナーチューブ
V1 伸側減衰バルブ
V2 圧側チェック弁
1 バルブディスクたるピストン
2 軸部材たるピストンロッド
3 ジャッキ部材
4,92 附勢ばね
5 調整部材
6 シリンダ
7 連結部材
8 栓部材
8a,9a,9b,15,30a,70a シール
10 一方側流路
10a 他方側流路
11 一方側リーフバルブ
11a 他方側リーフバルブ
12,12a バルブストッパ
13,13a 間座
14 スペーサ
20 筒状部材
21 先端部材
23 ナット
24 ゴムブッシュ
30 蓋部
31 隔壁部
51 ロックナット
60 ロッドガイド
60a 軸受部材
61 伸び切りばね
70 底部
71 筒状部
72 連通孔
73 孔
74 隙間
90 シート部材
91 バルブ押さえ
93 プッシュロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方室と他方室とに区画するバルブディスクと、このバルブディスクに形成されて上記一方室と上記他方室とを連通する流路と、上記バルブディスクの他方室側に積層されて上記流路の出口を開閉可能に塞ぐリーフバルブと、上記バルブディスクと上記リーフバルブの軸心部を貫通するとともに一方側が上記一方室を貫通し他方側が他方室内に突出する軸部材とを備える緩衝器において、
上記他方室内に形成されるジャッキ室と、このジャッキ室の拡大、縮小に伴い軸方向に移動可能なジャッキ部材と、上記軸部材に形成されて上記ジャッキ室と常に連通するジャッキ用流路と、上記軸部材の一方側に取り付けられて上記ジャッキ用流路を介して上記ジャッキ室にジャッキ用流体を給排する調整部材とを備え、上記ジャッキ部材の移動により上記リーフバルブをバルブディスク側に附勢する附勢ばねのばね力を調整することを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記ジャッキ室は、他方室内に配置される上記ピストンロッドの他方側端部を覆う連結部材と、上記ジャッキ部材との間に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記連結部材が、底部と、この底部に起立する筒状部とを備えて有底筒状に形成されるとともに、上記底部の外周部が上記筒状部からはみ出してフランジ状に形成され、
上記ジャッキ部材は、上記筒状部の外周面にシールを介して摺接する蓋部と、この蓋部の外周端から垂設されて上記底部の外周面にシールを介して摺接する筒状の隔壁部とを備え、
上記連結部材の上記底部の外周部と上記ジャッキ部材の上記蓋部との間に上記ジャッキ室が形成されることを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記軸部材に沿って移動可能に取り付けられるとともに、上記リーフバルブが所定量撓んだときこのリーフバルブに当接するバルブストッパを設け、このバルブストッパと上記ジャッキ部材との間に上記附勢ばねを介装することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の緩衝器。
【請求項5】
上記ジャッキ用流路の反ジャッキ室側が上記ジャッキ用流路内に進退可能な栓部材で塞がれており、この栓部材を上記調整部材で駆動することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の緩衝器。
【請求項6】
上記ジャッキ室若しくは上記ジャッキ用流路を内部に形成する上記軸部材、上記ジャッキ部材若しくは上記連結部材に孔を設け、この孔をゴムブッシュで塞ぐことを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の緩衝器。
【請求項7】
シリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるピストンロッドと、このピストンロッドの先端に保持されて上記シリンダの内周面に摺接するピストンとを備え、上記軸部材が上記ピストンロッドであるとともに上記バルブディスクが上記ピストンであり、
上記シリンダ内が上記ピストンで上記一方室と上記他方室とに区画されることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104477(P2013−104477A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248211(P2011−248211)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】