説明

緩衝器

【課題】減衰力特性のヒステリシスを低減して、狙い通りの減衰力を発生することが可能な緩衝器を提供することである。
【解決手段】本発明の課題解決手段は、シリンダ1と、当該シリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、当該ピストン2を両側に設けた一対の作動室R1,R2と、上記シリンダ1内に移動自在に挿入されて一端が上記ピストン2に連結されるピストンロッド3と、移動可能であって移動することで一方の作動室R1,R2の容積を変更する隔壁部材4と、当該隔壁部材4を附勢して上記一方の作動室R2を加圧する附勢要素5とを備えた緩衝器Dにおいて、上記隔壁部材4に一方の作動室R2を加減圧する方向へ推力を与えるアクチュエータ6を備えたので、作動室R2の圧力をコントロールでき、減衰力特性におけるヒステリシスを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば、単筒型の緩衝器を例にとると、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ内に二つの作動室を区画するピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されるとともに一端がピストンに連結されるピストンロッドと、シリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内に気室を区画するフリーピストンとを備えて片ロッド型の緩衝器として構成される構造(たとえば、特許文献1参照)が一般的に知られている。
【0003】
この単筒型の緩衝器にあっては、フリーピストンと気室とで気体ばねを形成し、伸縮時にシリンダ内に出入りするピストンロッドの体積を気室内の気体の体積変化で補償するようになっており、気室内の圧力がピストン側の作動室に作用するようになっている。
【0004】
また、上記緩衝器の構成の他にも、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ内に二つの作動室を区画するピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されるとともに一端がピストンに連結されるピストンロッドと、各作動室へ圧力を作用させる気体ばねと、シリンダ内に摺動自在に挿入される調圧ピストンと、調圧ピストンを駆動するアクチュエータとを備える緩衝器(たとえば、特許文献2参照)も公知である。
【0005】
この特許文献2に開示された緩衝器にあっては、調圧ピストンを駆動してシリンダに対して変位させることで作動室の容積を変更することで、作動室内の圧力をコントロールして車高調整を行うことができるようになっている。
【0006】
つまり、この緩衝器にあっては、調圧ピストンを駆動して作動室の容積を減少させると気体ばねの圧力が上昇し、ロッド反力(ピストンロッドをシリンダ内から退室させる方向へ作用する力)が大きくなって車高を上昇させることができ、反対に、調圧ピストンを駆動して作動室の容積を増大させると気体ばねの圧力が減少し、ロッド反力が小さくなって車高を下降させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−74561号公報
【特許文献2】特開2009−228724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記した各緩衝器の作動室内には、作動油が充填されている。この作動油は弾性を備えていて圧力をかけると圧縮されてばねとして振る舞う。
【0009】
このことから、緩衝器を伸縮させた場合、緩衝器の減衰力のピストン速度に対する特性(減衰力特性)は、作動油のもつ弾性に起因してヒステリシスを持つ特性となる。
【0010】
また、作動室同士を連通する通路に緩衝器の減衰力を可変にするソレノイドバルブを設けるような場合、たとえば、緩衝器を伸縮させ、ピストン速度が0となった時点を境に伸長側の減衰力特性(緩衝器の伸縮速度に対する減衰力の特性)をハードへ収縮側の減衰力特性をソフトへ変更するようにすると、作動油の圧縮性に加えて、ソレノイドバルブのコイルに流れる電流の遅れも加わって、図6に示すように、狙った減衰力特性(図中実線)に対して、実際に出力される減衰力特性は、図中破線で示すようにヒステリシスを持つことになる。特に、作動油に空気が溶け込んでいる場合には、空気が溶け込んでいない作動油よりもばね剛性が低くなるので、ヒステリシスが顕著に現れる。
【0011】
そして、特許文献1に開示された緩衝器にあっては、ヒステリシスを持つ減衰力特性のため、狙い通りの減衰力を発揮することが難しく、特に、車両のサスペンションに用いる場合、車体の制振効果を充分に得られず乗心地のより一層の向上が望まれる。
【0012】
また、作動室内の作動油の体積弾性係数が気室内の気体の体積弾性係数のおおよそ100倍程度であって作動油の体積変化は気体の体積変化よりも非常に小さいから、特許文献2に開示された緩衝器において、調圧ピストンを変位させると、それに応じてフリーピストンが変位し、効率よく作動室内の圧力調整を行うことが難しい。さらに、特許文献2に開示された緩衝器にあっては、作動室内の圧力を上昇させる場合には、作動室内の圧力に抗して調圧ピストンを変位させる必要があるため、大出力のアクチュエータを用いるか、減速比を大きくする必要があるが、アクチュエータを大出力化するとアクチュエータが大型となって緩衝器を車両へ搭載できなくなる問題が生じ、減速比を大きくする場合には調圧ピストンの変位速度が遅くなって作動室内の圧力調整に時間がかかって圧力調整が間に合わず上記ヒステリシスを解消できなくなる問題が生じるので、結果的に、特許文献2に開示された緩衝器でも上記ヒステリシスの解消が難しい。
【0013】
そこで、上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、減衰力特性のヒステリシスを低減して、狙い通りの減衰力を発生することが可能な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題解決手段における緩衝器は、シリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、当該ピストンを両側に設けた一対の作動室と、上記シリンダ内に移動自在に挿入されて一端が上記ピストンに連結されるピストンロッドと、一方の作動室の容積を変更可能な隔壁部材と、当該隔壁部材を附勢して上記一方の作動室を加圧する附勢要素と、上記隔壁部材に上記一方の作動室を加減圧する方向へ推力を与えることが可能なアクチュエータとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の緩衝器にあっては、アクチュエータで附勢要素による附勢力に重畳して隔壁部材に推力を与えることができ、一方の作動室の圧力を調節することができるから、減衰力特性におけるヒステリシスを低減して狙った減衰力特性に近い減衰力特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態の一変形例における緩衝器の縦断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態の他の変形例における緩衝器の縦断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における緩衝器の減衰力特性を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態の別の変形例における緩衝器の縦断面図である。
【図6】従来の緩衝器における減衰力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における緩衝器Dは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、ピストン2を両側に設けた一対の作動室R1,R2と、シリンダ1内に移動自在に挿入されて一端がピストン2に連結されるピストンロッド3と、一方の作動室R2の容積を変更可能な隔壁部材としてのフリーピストン4と、フリーピストン4を附勢して一方の作動室R2を加圧する附勢要素5と、フリーピストン4に作動室R2を加減圧する方向へ推力を与えることが可能なアクチュエータ6とを備えて構成されている。
【0018】
そして、この緩衝器Dは、ピストンロッド3を図示しない車両のばね上部材とばね下部材の一方に連結し、シリンダ1を上記ばね上部材とばね下部材の他方に連結することで、車体と車軸との間に介装することができるようになっている。
【0019】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。シリンダ1は、有底筒状とされていて、シリンダ1内にはピストン2およびフリーピストン4が軸方向移動が可能なように摺動自在に挿入されている。
【0020】
ピストン2は、シリンダ1内に作動室R1,R2を区画しており、フリーピストン4は、シリンダ1内に摺動自在に挿入されて、反ロッド側の一方の作動室R2に臨んでおり、外周にシリンダ1の内周に摺接する環状のシールリングSを備え、シリンダ1内に気体が充填される気室Gを形成している。
【0021】
そして、フリーピストン4は、シリンダ1に対して軸方向となる図1中上下方向へ変位すると、気室Gの容積が変化して気室G内の気体がフリーピストン4を図1中上方へ附勢する附勢力が変化するようになっている。すなわち、この場合、フリーピストン4を附勢する附勢要素5は、気体が充填される気室Gを備えた気体ばねとされている。したがって、フリーピストン4は、附勢要素5によって附勢されることで一方の作動室R2を加圧することができるようになっている。なお、附勢要素5は、この場合、気体ばねとされているが、シリンダ1の底部とフリーピストン4との間にばねを介装してこれを附勢要素5としても差し支えなく、ばねと気体ばねとを併用するようにしてもよい。
【0022】
ピストン2は、シリンダ1内に摺動自在に挿入されており、このピストン2で作動油等の液体が充填されるシリンダ1内に図1中上方配置されるロッド側の作動室R1と図1中下方配置される反ロッド側の作動室R2を区画している。そして、ピストン2に設けた通路7によってこれら作動室R1,R2とが連通され、当該通路7を介して作動室R1,R2内に充填された液体が互いにこれら作動室R1,R2を行き来することができるようになっている。なお、作動室内に充填される液体は、作動油の他、磁気粘性流体(磁性流体)や電気粘性流体、水や水溶液等といった各種の液体を用いることができる。減衰力特性におけるヒステリシスを低減する上では、気体が溶け込みにくく体積弾性係数の高い液体を用いるとよい。
【0023】
ピストンロッド3は、一端となる図1中下端がピストン2に連結されており、シリンダ1の図1中上端に設けた環状のロッドガイド10によって軸支されて、他端となる図1中上端をシリンダ1外へ突出させている。また、ピストンロッド3の外周とシリンダ1との間は環状のシール部材11によって密にシールされて、シリンダ1内が密閉されている。
【0024】
上記通路7は、途中に減衰力調節手段としての減衰バルブ8と減衰バルブ8に並列されるオリフィスやチョークといった固定絞り9を備えている。なお、この固定絞り9を介して作動室R1,R2同士が連通されているので、気室G内の圧力が作動室R2だけでなく一次遅れで作動室R1にも伝播するようになっているが、固定絞り9がなくとも本発明の効果が喪失することは無い。
【0025】
そして、通路7は、上記減衰バルブ8および固定絞り9によって通過する液体の流れに抵抗を与えるようになっているため、この緩衝器Dにあっては、緩衝器Dが伸長あるいは収縮作動する場合に、ピストン2の図1中上下方向の移動によって容積が減少する一方の作動室R1(R2)から容積が増大する他方の作動室R2(R1)へ移動する液体の流れに減衰バルブ8および固定絞り9で抵抗を与え、作動室R1,R2間に差圧を生じせしめて減衰力を発揮するようになっている。なお、本実施の形態では緩衝器Dが片ロッド型の緩衝器とされているので、緩衝器Dの伸縮の折にシリンダ1に出入りするピストンロッド3の体積分の液体がシリンダ1内で過不足となるが、この体積を気室G内の気体の体積の変化で補償するようになっている。
【0026】
また、減衰バルブ8は、この場合、通過する液体の流れに与える抵抗を可変にすることが可能なソレノイドバルブとされていて、緩衝器Dが発生する減衰力を調節することができるようになっている。減衰バルブ8は、減衰力を複数段階に調節するものであってもよいし、無段階に減衰力を調節するものであってもよい。液体に磁気粘性流体を用いる場合には、減衰バルブの代わりに減衰力調節手段として通路7を通過する磁気粘性流体に磁界を与えるコイルを設けてもよく、また、電気粘性流体を用いる場合には、減衰バルブを廃して通路7に電界を与える電界発生装置を減衰力調節手段としてもよい。
【0027】
なお、上記したところでは、通路7は、一つのみ設けられているが、複数設けてもよく、この場合、一部を作動室R1から作動室R2へ向かう液体の流れのみを許容し、残りを作動室R2から作動室R1へ向かう液体の流れのみを許容するように設定しておき、それぞれの途中に減衰バルブ8を設けるようにしてもよい。この場合、固定絞り9を設けるのであれば、複数の通路7のうち一部にのみ設けるようにしてもよい。また、通路7は、作動室R1,R2同士の連通を実現すればよいので、ピストン2に設けずに、シリンダ1外に設置されてもよく、減衰力調節手段も同様である。
【0028】
そして、上記気室G内にはアクチュエータ6が収容されている。このアクチュエータ6は、モータMと、モータMのロータ12の回転運動を可逆的に直線運動に変換する運動変換機構Tとを備えて構成されており、運動変換機構Tの直線運動がフリーピストン4に伝達して、フリーピストン4に作動室R2を加減圧する方向へ推力を与えることが可能とされている。この実施の形態の場合、隔壁部材としてのフリーピストン4は、シリンダ1内を図1中上下方向に移動することで作動室R2を加圧及び減圧することができるので、アクチュエータ6は、このフリーピストン4にシリンダ1に対して図1中上下方向へ推力を与えることができるようになっている。
【0029】
運動変換機構Tは、この実施の形態の場合、具体的には、モータMのロータ12に保持されるボールナット13と、フリーピストン4に固定されるとともにボールナット13が螺合される螺子軸14とで構成されるボール螺子機構とされており、モータMでボールナット13を回転駆動させると、螺子軸14が図1中上下方向の直線運動を呈するようになっており、反対に螺子軸14に軸力を作用させるとボールナット13が回転してモータMのロータ12を回転させることができるようになっている。つまり、ロータ12の回転運動を可逆的に直線運動に変換するとは、回転運動を直線運動に変換することができるだけでなく、逆に直線運動を回転運動に変換することもできることを指している。なお、上記したところでは、螺子軸14をフリーピストン4に連結しているが、螺子軸14をロータ12に連結しフリーピストン4にボールナット13を連結するようにしてもよい。
【0030】
なお、フリーピストン4の抜け止めは、適宜設ければよく、緩衝器Dがフルストロークする際のフリーピストン4の変位量、モータMの推力による変位量、緩衝器Dの使用温度上限と下限における液体の体積差によるフリーピストン4の変位量を加味してフリーピストン4の総変位量を求め、総変位量を担保できるようにストッパを設ければよい。具体的には、たとえば、螺子軸14の下端にフランジを設けておき、フランジとボールナット13との衝合によって抜け止めとする等とすればよく、これらの衝合時の衝撃を緩和するクッションを設けてもよい。モータMは、詳しく図示はしないが、筒状のステータ15と、ステータ15内に回転自在に挿入されて一端が外方へ突出するロータ12と備えて構成され、ロータ12を回転駆動することができる周知の構造を備えている。なお、ロータ12は螺子軸14の挿通を許容して、フリーピストン4のモータ至近までの接近が可能とされている。なお、図示したところでは、モータMは、ステータ15を電機子としてロータ12の外周に磁石を設けたブラシレスモータとされているが、これに限定されるものではなく、ブラシ付きモータとされてもよく、フリーピストン4に推力を与えることができるモータを用いればよい。
【0031】
これによって、フリーピストン4を含むアクチュエータ6の最収縮時の全長を短く設定でき、シリンダ1内に収容されても緩衝器Dのストローク長の確保が容易となるとともに、緩衝器Dの全長を短くすることができる。なお、モータMとしては、直流、交流を問わず種々の形式を採用することができる。
【0032】
また、上記運動変更機構Tでは、螺子軸14とボールナット13との間に生じる軸周りの摩擦力によって螺子軸14も回転してしまうと、フリーピストン4を軸方向へ移動させることができなくなるので、螺子軸14の回り止めを設けるとよいが、フリーピストン4の外周に装着されたシールリングSとシリンダ1との間に生じる円周方向の摩擦力が螺子軸14とボールナット13との間に生じる軸周りの摩擦力より大きい場合には、当該シールリングSによって螺子軸14の回転が防止されるので回り止めを省略することができる。
【0033】
このように運動変換機構TがモータMのロータ12の回転運動を可逆的に直線運動に変換するようになっており、アクチュエータ6はフリーピストン4を固定的に支持しないため、附勢要素5の附勢力にアクチュエータ6の推力を重畳させた力をフリーピストン4に作用させることができる。
【0034】
また、アクチュエータ6は、上記した構造の限られず、図2に示すように、フリーピストン4に連結される可動鉄心16と、可動鉄心16を駆動するコイル17とを備えたソレノイドとされてもよく、このように構成されたアクチュエータ6によっても、フリーピストン4を固定的に支持しないので、附勢要素5の附勢力にアクチュエータ6の推力を重畳させた力を隔壁部材としてのフリーピストン4に作用させることができる。なお、可動鉄心16はフリーピストン4に連結されていて、附勢手段5としての気体ばねと作動室R2の圧力でフリーピストン4を押圧する力とが釣り合った位置に位置決めされるので、附勢手段5がソレノイドに通常設けられる可動鉄心附勢用のばねとしても機能するため、特にソレノイドの可動鉄心16を附勢する目的のみのばねを設ける必要はない。
【0035】
さらに、アクチュエータ6は、図3に示すように、フリーピストン4の下端に設けた磁石19と、シリンダ1に設けたコイル20とを備えたリニアモータとされてもよい。この場合にも、フリーピストン4を固定的に支持しないので、附勢要素5の附勢力にアクチュエータ6の推力を重畳させた力をフリーピストン4に作用させることができる。なお、シリンダ1に磁石19を設け、フリーピストン4にコイル20を設けるようにしてリニアモータを構成してもよい。つまり、磁石19とコイル20が対向可能であってリニアモータとして機能できればよく、その限りでは、磁石19とコイル20の取付位置は、上記したところに限定されない。したがって、コイル20は、シリンダ1の外周側に設けてもよく、この場合、磁石19をフリーピストン4の外周やフリーピストン4の内部に設けてもよい。
【0036】
つづいて、このように構成された緩衝器Dの作動について説明する。上記したように、緩衝器Dが伸長あるいは収縮作動する場合に、ピストン2の図1中上下方向の移動によって容積が減少する一方の作動室R1(R2)から容積が増大する他方の作動室R2(R1)へ移動する液体の流れに減衰バルブ8および固定絞り9で抵抗を与え、作動室R1,R2間に差圧を生じせしめて減衰力を発揮する。
【0037】
そして、たとえば、緩衝器Dを伸長してから収縮させ、ピストン速度が0となった時点で減衰力をハードからソフトへ変更したり、反対に、緩衝器Dを収縮してから伸長させ、ピストン速度が0となった時点で減衰力をソフトからハードへ変更したりすると、フリーピストン4にアクチュエータ6によって推力を与えないと、従来の緩衝器と同様に、液体の圧縮性に加えて、減衰バルブ8のコイルに流れる電流の遅れも加わって、図6に示すように、狙った減衰力特性(図中実線)に対して、実際に出力される減衰力特性は、図中破線で示すようにヒステリシスを持つことになる。そこで、本発明の緩衝器Dにあっては、アクチュエータ6を駆動してフリーピストン4に推力を与えて、作動室R2内の圧力を調節することで、上記ヒステリシスを打ち消すことができる。なお、緩衝器Dを伸長してから収縮させ、ピストン速度が0となった時点で減衰力をソフトからハードへ変更する場合、緩衝器Dを収縮してから伸長させ、ピストン速度が0となった時点で減衰力をハードからソフトへ変更する場合においても、上記のように、アクチュエータ6を駆動してフリーピストン4に推力を与えて、作動室R2内の圧力を調節することで、上記ヒステリシスを打ち消すことができる。
【0038】
ここで、緩衝器Dは、作動室R1と作動室R2の差圧によって減衰力を発揮するが、ヒステリシスがない理想的な減衰力特性は、たとえば、伸縮速度がαであるときに作動室R1と作動室R2の差圧が遅れることなくPとなることで実現することができるが、実際には、液体の圧縮性や減衰バルブ8のコイルに流れる電流の遅れによって、伸縮速度がαであるのに対して作動室R1と作動室R2の差圧が狙い通りのPではなくP±ΔPとなるために減衰力特性にヒステリシスが生じる。したがって、このΔP分の圧力をアクチュエータ6がフリーピストン4に与える推力によって補償してやることで上記差圧を狙ったPに近づけ、狙った減衰力特性に近い減衰力特性を得ることができる。
【0039】
つまり、緩衝器Dにあっては、アクチュエータ6で附勢要素5による附勢力に重畳して隔壁部材としてのフリーピストン4に推力を与えることができ、一方の作動室R2の圧力を調節することができるから、一方の作動室R2の圧力をコントロールすることで、液体の圧縮性に加えて減衰バルブ8のコイルに流れる電流の遅れに起因して生じる減衰力特性におけるヒステリシスを低減して狙った減衰力特性に近い減衰力特性を得ることができる。
【0040】
そして、フリーピストン4は、附勢要素5によって附勢されて作動室R2を加圧しているので、作動室R2の圧力によってフリーピストン4を押圧する力に対しては附勢要素5の附勢力で均衡するため、アクチュエータ6は、減衰力特性におけるヒステリシスを打ち消すΔP分の圧力に対向する推力のみをフリーピストン4へ与えればよいので、特開2009−228724号公報の緩衝器でヒステリシスを低減する場合に比較して、アクチュエータ6の推力が小さくて済み、アクチュエータ6の大型化を回避しつつ減衰力特性におけるヒステリシスを低減可能である。換言すれば、本発明の緩衝器Dによれば、緩衝器Dの搭載性を犠牲にすることなく減衰力特性におけるヒステリシスを低減できる。
【0041】
また、フリーピストンの他に調圧ピストンを備えて調圧ピストンをアクチュエータで駆動する構造では、調圧ピストンを駆動するとフリーピストンが変位してしまってロスが生じ作動室の圧力調節の効率が悪かったが、本発明の緩衝器Dにあっては、隔壁部材としてのフリーピストン4に直接的にアクチュエータ6で推力を与える構造を採用しているので、作動室R2の圧力調節をロスなく行うことができ、効率的に圧力調節を行うことができる。そのため、圧力調節の応答性が高く、従来緩衝器では難しかった減衰力特性におけるヒステリシスの低減を応答性よく行うことができるのである。
【0042】
また、減衰力特性におけるヒステリシスは、上記したように液体の圧縮性の他に減衰力を調節可能な減衰バルブ8のソレノイドに流れる電流の遅れによって生じるため、特に、電流を与えることで減衰力を調節可能な減衰バルブ8を備えた緩衝器Dでは、減衰力調節時に電流遅れによってヒステリシスが生じるから、本発明は、このような減衰力を調節可能な減衰バルブ8を備えた緩衝器Dに効果的である。
【0043】
そして、たとえば、緩衝器Dを伸縮させ、ピストン速度が0となった時点を境に伸長側の減衰力特性をハードへ収縮側の減衰力特性をソフトへ変更するようにする場合、フリーピストン4にアクチュエータ6によって推力を与えることで、図4に示すように、狙った減衰力特性(図中実線)に対して、実際に出力される減衰力特性は、図中破線で示すようにヒステリシスが低減されたものとなって、狙った減衰力特性に近い減衰力特性を実現することができる。また、減衰力特性をハードとソフトで切替えるポイントとなるピストン速度が0となるときに、減衰力を滑らかに変化させて、減衰力特性の急変を緩和することができる。減衰力特性におけるヒステリシスは、上記したように液体の圧縮性によっても生じ、減衰力を調節可能な減衰バルブを備えない緩衝器にあっても当然ヒステリシスは生じるから、減衰力を調節可能な減衰バルブを備えていない緩衝器に本発明を適用してもヒステリシス低減効果を発揮することができる。したがって、たとえば、図1の緩衝器Dにおける減衰バルブ8を省略し固定絞り9のみで減衰力を発揮するような緩衝器にあっても本発明の効果は失われない。つまり、減衰力調節手段を備えない緩衝器にも本発明は有効である。
【0044】
なお、上記したところでは、アクチュエータ6とフリーピストン4とで圧力をコントロールするのはピストン側の作動室R2であったが、フリーピストン4の変位でロッド側の作動室R1の容積を変化させるようにしてもよい。
【0045】
また、この実施の形態にあっては、緩衝器Dは、ピストンロッド3が作動室R1のみに挿通される片ロッド型の緩衝器とされているが、作動室R1のみならず作動室R2にも挿通されてシリンダ1の図1中下端からシリンダ1外へ突出される両ロッド型の緩衝器に設定されてもよい。両ロッド型の緩衝器の場合、片ロッド型の緩衝器と異なり、シリンダ内にあるピストンロッドの体積に変化はないので、フリーピストン4の移動によって体積補償が行われることは無いが、隔壁部材としてのフリーピストン4にアクチュエータ6で推力を与えることによって、作動室R1或いは作動室R2の一方の圧力をコントロールすることができ、減衰力特性におけるヒステリシスを低減できる。
【0046】
また、隔壁部材としてのフリーピストン4にアクチュエータ6で推力を与えることによって、作動室R1或いは作動室R2の一方の圧力をコントロールすることができるから、モータMが出力可能な推力内であれば、車高調整も可能であるとともに、緩衝器Dに積極的に推力を発揮させて車体振動を抑制することも可能である。
【0047】
さらに、本発明では、隔壁部材であるフリーピストン4がシリンダ1に摺動自在に挿入されているが、作動室R1或いは作動室R2の圧力をコントロールすることができればよいから、シリンダ1とは別にフリーピストン4を収容する容器を設けて、当該容器にアクチュエータ6と附勢要素5を設けて、容器内をシリンダ1の各作動室R1,R2のうち一方に連通して、各作動室R1,R2のうち一方の圧力をコントロールするようにしてもよい。なお、上記の実施の形態の緩衝器Dのように、作動室R2に直接に対面するようにフリーピストン4をシリンダ1内に摺動自在に挿入し、アクチュエータ6を収容することで、つまり、隔壁部材とアクチュエータ6とをシリンダ1内に収容することで、別にこれらを収容する容器を設けずに済み部品点数を最小限にとどめることができる。
【0048】
また、図5に示すように、隔壁部材は、この実施の形態の場合、フリーピストン4としているが、上記シリンダ1に設けた金属ベローズ21とされてもよい。この場合、金属ベローズ21の下端は、シリンダ1の底部に固定されており、金属ベローズ21内にアクチュエータ6が収容されている。そして、この実施の形態の緩衝器にあっても、金属ベローズ21の頂部21aにアクチュエータ6で金属ベローズ21を伸縮させる方向に推力を与えることで、作動室R2を加減圧することができ、ヒステリシスを低減させることができるので、本発明の効果を奏することができる。なお、金属ベローズ21は、シリンダ1内に収容する以外にも、シリンダ1とは別に設けられて作動室R1,R2の一方に連通される容器内に設けるようにしてもよい。金属ベローズ21の伸縮をシリンダ1に調心するように案内するガイドを設けてもよい。また、金属ベローズ21は、この場合、伸長時にシリンダ1と干渉しにくいようにシリンダ1の軸方向に沿って伸縮するようになっているが、伸縮方向はこれに限られるものではない。
【0049】
また、図2に示すように、アクチュエータ6がフリーピストン4に連結される可動鉄心16と、可動鉄心16を駆動するコイル17とを備えたソレノイドとされる場合、附勢要素5がソレノイドに必要となる可動鉄心附勢用のばねを兼ねるので、別途可動鉄心附勢用のばねを設ける必要がなく、緩衝器Dを軽量化することができる。
【0050】
さらに、図3に示すように、アクチュエータ6が、フリーピストン4の下端に設けた磁石19と、シリンダ1に設けたコイル20とを備えたリニアモータとされてもよい。コイル20は、シリンダ1外に設けるようにしてもよく、この場合には、コイル20がフリーピストン4に干渉しないので、シリンダ1の下端までフリーピストン4の軸方向の可動域を広げることができるから、緩衝器Dのストローク長が確保しやすく、緩衝器Dの車両への搭載性が向上する。
【0051】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1 シリンダ
2 ピストン
3 ピストンロッド
4 フリーピストン
5 附勢要素
6 アクチュエータ
7 流路
8 減衰バルブ
16 可動鉄心
17 コイル
18 ばね
19 磁石
20 コイル
D 緩衝器
M モータ
R1,R2 作動室
T 運動変換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、当該ピストンを両側に設けた一対の作動室と、上記シリンダ内に移動自在に挿入されて一端が上記ピストンに連結されるピストンロッドと、一方の作動室の容積を変更可能な隔壁部材と、当該隔壁部材を附勢して上記一方の作動室を加圧する附勢要素と、上記隔壁部材に上記一方の作動室を加減圧する方向へ推力を与えることが可能なアクチュエータとを備えたことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記シリンダ内に上記ピストンロッドが出入りする体積の補償は、上記隔壁部材の移動によって行われることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記作動室同士を連通する流路を備え、当該流路の途中に減衰力を調節可能な減衰調節手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記隔壁部材が上記シリンダ内に収容されて上記作動室の一方に対面し、上記アクチュエータが上記シリンダ内に収容されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項5】
上記アクチュエータは、モータと、当該モータのロータの回転運動を可逆的に直線運動に変換して隔壁部材へ伝達する運動変換機構とを備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項6】
上記アクチュエータは、隔壁部材に連結される可動鉄心と、可動鉄心を駆動するコイルとを備えたソレノイドであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項7】
上記アクチュエータは、上記フリーピストンと上記シリンダの一方に設けた磁石と、上記隔壁部材と上記シリンダの他方に設けたコイルとを備えたリニアモータであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項8】
上記コイルは、シリンダの外周に設けられることを特徴とする請求項7に記載の緩衝器。
【請求項9】
上記附勢手段は、気体ばねを備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36592(P2013−36592A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175563(P2011−175563)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】