説明

緩衝機能付防煙垂壁

【課題】地震などの大きな衝撃によっても天井レールが変形することなく簡単に修復することができる防煙垂壁を提供する。
【解決手段】左右の壁面に固定される方立2及び方立3の間に、不燃シート6を吊り下げる固定用天井レール4及び回転用天井レール5を配置する。そして、回転用天井レール5に、回転用天井レール5の延在方向に長い長穴5dを形成し、この長穴5dに挿入されたネジ材8を天井面Cに捩じ込むことで、回転用天井レール5を、ネジ材8の軸周りに回動可能且つ回転用天井レール5の延在方向に摺動可能に保持する。また、回転用天井レール5に当接される固定用天井レール4の他方端面4fを、固定用天井レール4における側壁部4b側の側方に向けられた傾斜面に形成し、固定用天井レール4回転用天井レール5の他方端面5fを、回転用天井レール5における側壁部5c側の側方に向けられた傾斜面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、火災時などに発生する煙の流動を一時的に遮断する防煙垂壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の防煙垂壁は、天井に設けられた天井レールにガラス板の上端部を嵌め込み、順次ガラス板を建て込んでいくものであった(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような防煙垂壁は、ガラス板が建築物に固定されているため、地震などで面内変形や面外変形を受けると、ガラス板がこれらの変形に耐えられずに破損し、落下して通行人が怪我をする危険もあった。
【0003】
そこで、特許文献2に記載されたように、破損し易いガラス板に代えて不燃シートを用いる防煙垂壁が考え出された。この防煙垂壁は、不燃シートを枠体に取り付けた防煙垂壁用パネルを、天井面に配設された天井レールに固定したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3045590号公報
【特許文献2】特開2006−335775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された防煙垂壁が施工された現場を観察して回ったところ、巨大地震の発生により、天井レールが曲がり、天井面や壁面が傷つき、不燃シートが裂けた箇所が散見された。
【0006】
そこで、天井レールが曲がるメカニズムや天井面、壁面、不燃シートなどが傷つくメカニズムを鋭意検討した結果、(天井面に固定された複数ある天井レールのうち)、壁面側に配置された天井レールに壁面から圧縮方向の力(以下「圧縮力」という)が加えられると、その天井レールが圧縮力により押し曲げられて変形しながら隣接する天井レールを押し曲げ、更には、押し曲げられた天井レールが天井面、壁面、不燃シートなどを傷つけてしまうことが分かった。
【0007】
このような場合、変形した天井レールや裂けた不燃シートは再使用することができない。このため、新たに天井レールや不燃シートを作成し直して防煙垂壁を形成しなければならず、また、傷ついた天井面や壁面を補修しなければならない。
【0008】
なお、壁面側に配置された天井レールに壁面から引張方向の力(以下「引張力」という)が加えられても、その天井レールや隣接する天井レールは、押し曲げられることもなく、単に天井面から外れるだけで、天井面、壁面、不燃シートなどを傷つけることもなかった。
【0009】
そこで、本発明は、地震などの大きな衝撃によっても天井レールが変形することなく、簡単に修復することができる防煙垂壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る緩衝機能付防煙垂壁は、可撓性を有する矩形の不燃シートと、天井面に延在して不燃シートの上端部が取り付けられる天井レールと、天井レールの一方端側に配置されて壁面に固定される方立と、天井レールの他方端側に配置されて天井面に固定される支持部材と、を有し、天井レールが方立及び支持部材に対して緩衝可能に配設されるものである。
【0011】
ここで、壁面とは、天井面に対して垂直となる面をいい、壁の面や柱の面などが含まれる。壁面に固定されるとは、壁面に直接的に固定されることや、内装材等を介して壁面に間接的に固定されることなどをいう。方立及び支持部材に対して緩衝可能な態様としては、例えば、方立及び支持部材に対して天井レールを回転させることで壁面から天井レールに加えられる圧縮力を逃がす態様や、方立及び支持部材と天井レールとの間に空間を形成することで壁面から天井レールに圧縮力を加えさせない態様や、方立及び支持部材と天井レールとの間に弾性部材の詰物を挿入することで壁面から天井レールに加えられる圧縮力を小さくする態様などをいう。なお、方立及び支持部材と天井レールとの間に空間を形成する場合は、煙の通過を阻止する観点から、方立及び支持部材と天井レールとの間の隙間を覆う蓋部を取り付けることが好ましい。
【0012】
本発明に係る緩衝機能付防煙垂壁によれば、方立及び支持部材は壁面及び天井面に固定されるが、天井レールは方立と支持部材との間に緩衝状態で配設されるため、地震などの大きな衝撃によっても天井レールが変形するのを防止することができる。これにより、地震が発生しても、天井レールを再使用することができ、しかも、従来のように押し曲げられた天井レールにより天井面や壁面が傷つけられることも防止できるため、簡単に修復することができる。
【0013】
また、本発明は、天井レールが、鉛直方向に貫通された貫通孔が形成され、天井面に固定されて貫通孔に挿入される保持部材により回転可能に保持されており、天井レールの少なくとも一方の端面が、天井レールの側方に向けられた傾斜面に形成されており、貫通孔と保持部材との間には、天井レールの延在方向における空間が形成されているものとすることができる。
【0014】
このように、天井レールを保持部材で回転可能に保持し、天井レールの少なくとも一方の端面に傾斜面を形成することで、壁面から天井レールに加えられる圧縮力の一部が、天井レールを保持部材の軸周りに回転させる力に変換されるため、壁面から天井レールに圧縮力が加えられると、天井レールを保持部材の軸周りに回転させることができる。しかも、貫通孔と保持部材との間に形成された空間により、天井面に対する天井レールの圧縮力が加えられる方向への移動が許容されるため、天井レールの回転を開始させ易くなる。これにより、天井レールに加えられる圧縮力が適切に逃がされるため、天井レールの変形を防止することができる。なお、この場合、傾斜面に形成された天井レールの端部は尖がった形状になるが、天井レールの支持部材側の端面のみを傾斜面に形成することで、この尖った端部が壁面に衝突して壁面が傷つくのを防止することができる。
【0015】
また、本発明は、対向する天井レールの支持部材側端面と支持部材の天井レール側端面とが、互いに逆方向に向けられた傾斜面に形成されているものとすることができる。このように、対向する支持部材側端面と天井レール側端面とが互いに逆方向に向けられた傾斜面に形成されることで、壁面から天井レールに圧縮力が加えられた際に天井レールをより円滑に回転させることができる。
【0016】
また、本発明は、支持部材が、天井レールに隣接されて不燃シートの上端部が取り付けられる隣接天井レールであるものとすることができる。このように構成することで、支持部材を容易に製作することができる。なお、この場合、不燃シートの上端部を、天井レールと隣接天井レールとに渡って取り付けることができる。また、隣接天井レールの下部に、隣接天井レールから鉛直方向下方に延びる中間方立を取り付けることもできる。
【0017】
また、本発明は、支持部材が、天井レールと不燃シートに隣接する隣接不燃シートの上端部が取り付けられる隣接天井レールとの間に配置される中間方立であるものとすることができる。このように構成することで、方立側に配置される天井レールとそれ以外の天井レールとの縁を切ることができるため、壁面から天井レールに加えられた圧縮力が他の天井レールに伝わるのを防止することができる。
【0018】
また、本発明は、少なくとも天井レール及び支持部材の何れか一方に、天井レールと支持部材との間の隙間を覆う蓋部が設けられているものとすることができる。このように構成することで、天井レールと支持部材との間の隙間を煙が通過するのを阻止することができる。
【0019】
また、本発明は、不燃シートが、天井レール及び方立に対して分離可能に取り付けられるものとすることができる。このように、不燃シートを天井レール及び方立に対して分離可能に取り付けることで、天井レールが回転した際に不燃シートが裂けるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、地震などの大きな衝撃によっても天井レールが変形することなく、簡単に修復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す平面図である。
【図2】第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す底面図である。
【図3】固定用天井レールを示す図であり、(a)は底面図、(b)は(a)に示す矢印b方向から見た側面図である。
【図4】回転用天井レールを示す図であり、(a)は底面図、(b)は(a)に示す矢印b方向から見た側面図である。
【図5】第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁の動作を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す平面図である。
【図7】第2の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す底面図である。
【図8】第2の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁の動作を示す図である。
【図9】実施形態に係る他の緩衝機能付防煙垂壁を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る緩衝機能付防煙垂壁の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す平面図であり、図2は、第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す底面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁1は、一方の壁面W1に固定される方立2と、壁面W1に対向する他方の壁面W2に固定される方立3と、天井面Cに配設されて方立2から方立3に向けて延在する固定用天井レール4と、天井面Cに配設されて方立3から方立2に向けて延在する回転用天井レール5と、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に吊り下げられる不燃シート6と、を備えている。
【0024】
図3は、固定用天井レール示す図であり、(a)は底面図、(b)は(a)に示す矢印b方向から見た側面図である。なお、図3(b)では、固定用天井レールの上下方向を分かり易くするために、天井面Cを図示している。図1〜図3に示すように、固定用天井レール4は、不燃性のアルミやステンレスなどの金属を材料とした長尺のレール材であって、全長に亘って略同一断面の型材で形成されている。固定用天井レール4は、鉛直方向下方に向けて開口した断面コ字状に形成されており、天井面Cに当接される天井部4aと、天井部4aの両端縁から鉛直方向下方に向けて延びる一対の側壁部4b及び側壁部4cと、を備えている。
【0025】
天井部4aには、鉛直方向に貫通された丸穴4dが複数箇所に形成されている。丸穴4dは、天井面Cに捩じ込まれるネジ材7が挿入される穴である。そして、各丸穴4dに挿入されたネジ材7が天井面Cに捩じ込まれることで、固定用天井レール4が天井面Cに保持される。
【0026】
固定用天井レール4における方立2側の一方端面4eは、方立2に当接されている。なお、一方端面4eは、方立2との接触面積を増やして方立2との間から煙が漏れ出すのを防止するために、方立2の当接面に対応する形状に形成されていることが好ましい。
【0027】
固定用天井レール4における回転用天井レール5側(方立3側)の他方端面4fは、固定用天井レール4における側壁部4b側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。すなわち、他方端面4fは、固定用天井レール4の延在方向に対して水平方向(図3(a)における上下方向)に直交する固定用天井レール4の側壁部4b側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。
【0028】
側壁部4bは、回転用天井レール5側が所定長さだけ切り欠かれて他方端面4fから方立2側に引っ込んでいる。このため、他方端面4fは、天井部4a及び側壁部4cのみで形成されている。
【0029】
図4は、回転用天井レールを示す図であり、(a)は底面図、(b)は(a)に示す矢印b方向から見た側面図である。なお、図4(b)では、回転用天井レールの上下方向を分かり易くするために、天井面Cを図示している。図1,図2,図4に示すように、回転用天井レール5は、不燃性のアルミやステンレスなどの金属を材料とした長尺のレール材であって、全長に亘って固定用天井レール4と同じ略同一断面の型材で形成されている。回転用天井レール5は、鉛直方向下方に向けて開口した断面コ字状に形成されており、天井面Cに当接される天井部5aと、天井部5aの両端縁から鉛直方向下方に向けて延びる一対の側壁部5b及び側壁部5cと、を備えている。
【0030】
天井部5aには、鉛直方向に貫通された長穴5dが1箇所に形成されている。長穴5dは、天井面Cに捩じ込まれるネジ材8が挿入される穴である。そして、1箇所の長穴5dに挿入されたネジ材8が天井面Cに捩じ込まれることで、回転用天井レール5が天井面Cに対してネジ材8の軸周りに回転可能に保持される。また、長穴5dは、回転用天井レール5の延在方向に長く形成されており、ネジ材8との間に回転用天井レール5の延在方向における空間が形成されている。このため、回転用天井レール5は、ネジ材8に対して回転用天井レール5の延在方向に摺動可能になっている。
【0031】
回転用天井レール5における方立3側の一方端面5eは、方立3に当接されている。なお、一方端面5eは、方立3との接触面積を増やして方立3との間から煙が漏れ出すのを防止するために、方立3の当接面に対応する形状に形成されていることが好ましい。
【0032】
回転用天井レール5における固定用天井レール4側(方立2側)の他方端面5fは、回転用天井レール5における側壁部5c側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。すなわち、他方端面5fは、回転用天井レール5の延在方向に対して水平方向(図4(a)における上下方向)に直交する回転用天井レール5の側壁部5c側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。
【0033】
そして、他方端面4fと他方端面5fとが当接されて、固定用天井レール4と回転用天井レール5とが同一直線状に配設されている。
【0034】
固定用天井レール4の延在方向に対する他方端面4f及び回転用天井レール5の延在方向に対する他方端面5fの傾斜角度は、特に制限されるものではないが、30°以上60°以下が好ましく、35°以上55°以下が更に好ましく、40°以上50°以下が特に好ましい。この傾斜角度を30°よりも小さくすると、方立3から回転用天井レール5に圧縮力が加えられた際に、他方端面4fと他方端面5fとの間に発生する摩擦力が大きくなりすぎて回転用天井レール5が回転しなくなる可能性が高くなる。一方、この傾斜角度を60°よりも大きくすると、先端が尖がり過ぎてしまい、固定用天井レール4及び回転用天井レール5の取り扱い性が低下する。そこで、この傾斜角度を上記範囲とすることで、固定用天井レール4及び回転用天井レール5の取り扱い性が低下するのを抑制しつつ、回転用天井レール5を円滑に回転させることができる。なお、他方端面4fと他方端面5fとの接触面積を増やして他方端面4fと他方端面5fとの間から煙が漏れ出すのを防止するために、他方端面4f及び他方端面5fの傾斜角度は、同一であることが好ましい。
【0035】
この回転用天井レール5には、他方端面4fと他方端面5fとの間の隙間を覆う蓋部5gが形成されている。すなわち、側壁部5bは、固定用天井レール4側が所定の長さだけ他方端面5fから固定用天井レール4側に突出しており、この他方端面5fから固定用天井レール4側に突出した側壁部5bの突出部分が蓋部5gとなる。
【0036】
蓋部5gの長さは、固定用天井レール4の側壁部5bが切り欠かれた寸法と同じ寸法となっている。このため、他方端面4fと他方端面5fとが当接されて固定用天井レール4と回転用天井レール5とが同一直線状に配設されると、蓋部5gが側壁部5bの切り欠かれた部分に嵌まり込み、蓋部5gの先端が側壁部5bに当接するとともに、蓋部5gの側壁部5c側の側面が天井部4aに当接する。これにより、他方端面4fと他方端面5fとの間の隙間が蓋部5gにより覆われる。
【0037】
不燃シート6は、不燃性及び可撓性を有する素材により矩形のシート状に形成されている。
【0038】
不燃シート6の上端部は、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に分離可能に取り付けられている。
【0039】
固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の取り付け位置は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、側壁部4c及び側壁部5cに対向する側壁部4b及び側壁部5bの内側面に取り付けている。
【0040】
固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の取り付け態様は、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対して不燃シート6を分離可能に取り付けることができれば如何なる態様であってもよい。例えば、磁石やマジックテープ(登録商標)を利用して固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対して不燃シート6を保持する態様や、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に形成された凹部に不燃シート6を挿入して板ばねなどの弾性体で不燃シート6を係止する態様などが挙げられる。この場合、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の取り付けは、必ずしも固定用天井レール4及び回転用天井レール5の全体に渡って分離可能である必要は無い。固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の取り付け位置や、他方端面4f及び他方端面5fの傾斜方向などにも拠るが、少なくとも、固定用天井レール4の回転用天井レール5側の端部近傍、又は、回転用天井レール5の固定用天井レール4側の端部近傍が分離可能であればよい。
【0041】
不燃シート6の両側端部は、方立2及び方立3に分離可能に取り付けられている。方立2及び方立3に対する不燃シート6の取り付け態様は、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の取り付け態様と同様に、方立2及び方立3に対して不燃シート6を分離可能に取り付けることができれば如何なる態様であってもよい。この場合、方立2及び方立3に対する不燃シート6の取り付けは、必ずしも方立2及び方立3の全体に渡って分離可能である必要は無い。少なくとも、回転用天井レール5の上端部近傍が分離可能であればよい。
【0042】
この不燃シート6は、例えば、ガラス繊維強化シートが用いられる。このガラス繊維強化シートは、ガラス繊維織物と、このガラス繊維織物に樹脂を含浸及び硬化させた樹脂被覆層と、により構成される。ガラス繊維織物の織組織は、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織などが挙げられる。ガラス繊維強化シートを構成する樹脂被覆層を構成する樹脂は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。なお、樹脂被覆層として、上記樹脂に、難燃剤、紫外線吸収剤、充填剤、帯電防止剤などの添加物を含めるのが好ましい。
【0043】
また、ガラス繊維強化樹脂シートは、不燃性及び剛性を向上させるため、以下のものであることが好ましい。すなわち、ガラス繊維織物を構成するガラス繊維糸の番手は、5〜70texが好ましく、10〜35texが更に好ましい。また、ガラス繊維糸に含まれるフィラメント(ガラス繊維)の直径は、1〜20μmが好ましく、3〜12μmが更に好ましい。また、単位面積当たりのガラス繊維織物の質量は、10〜300g/mが好ましく、20〜300g/mが更に好ましい。また、単位面積当たりの樹脂被覆層の質量は、10〜500g/mが好ましい。なお、ガラス繊維織物には、ガラス繊維処理剤で表面処理するのが好ましい。
【0044】
次に、図5を参照して、地震などの大きな衝撃によって壁面W2から回転用天井レール5に圧縮力が加えられるときの緩衝機能付防煙垂壁1の動作について説明する。図5は、第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁の動作を示す図である。
【0045】
図5(a)に示すように、通常時は、固定用天井レール4と回転用天井レール5とが一直線状に配置され、他方端面4fと他方端面5fとが密着されている。このとき、不燃シート6の上端部が固定用天井レール4及び回転用天井レール5に取り付けられており、不燃シート6の両側端部が方立2及び方立3に取り付けられている。また、他方端面4fと他方端面5fとの間の隙間が蓋部5gにより覆われている。
【0046】
図5(b)に示すように、地震などの大きな衝撃によって壁面W2が回転用天井レール5側に移動すると、壁面W2から回転用天井レール5に圧縮力が加えられる。すると、他方端面4f及び他方端面5fの傾斜面により、壁面W2から回転用天井レール5に加えられる圧縮力の一部が、回転用天井レール5をネジ材8の軸周りに回転させる力に変換されるとともに、長穴5dにより、回転用天井レール5の固定用天井レール4側への移動が許容されるため、回転用天井レール5は、固定用天井レール4側に摺動しながら、ネジ材8の軸周りに回転し始める。
【0047】
すると、回転用天井レール5における方立3側の端部が側壁部5c側に移動することにより、方立3の上端部側において不燃シート6が回転用天井レール5の側壁部5c側に引っ張られるため、方立3の上端部近傍から不燃シート6が分離される。また、回転用天井レール5における固定用天井レール4側の端部が側壁部5b側に移動することにより、回転用天井レール5の固定用天井レール4側において不燃シート6が回転用天井レール5の側壁部5b側に引っ張られるため、回転用天井レール5の固定用天井レール4側の端部付近から不燃シート6が分離される。これにより、不燃シート6が引き裂かれること無く回転用天井レール5が回転し、壁面W2から回転用天井レール5に加えられる圧縮力が逃がされる。
【0048】
また、回転用天井レール5における固定用天井レール4側の端部が移動して行く方向に配置される側壁部4bは、回転用天井レール5側の先端が切り欠かれているため、不燃シート6が引き裂かれること無く回転用天井レール5が回転できる回転用天井レール5の最大回転角度が大きくなる。
【0049】
図5(c)に示すように、壁面W2の回転用天井レール5側への移動量が大きくなっても、方立3及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の分離量が大きくなることで、不燃シート6が引き裂かれること無く回転用天井レール5が回転し、壁面W2から回転用天井レール5に加えられる圧縮力が逃がされる。
【0050】
このように、本実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁1によれば、壁面W2から回転用天井レール5に圧縮力が加えられると、回転用天井レール5をネジ材8の軸周りに回転させることができ、しかも、長穴5dにより天井面Cに対する回転用天井レール5の固定用天井レール4側への移動が許容されるため、回転用天井レール5の回転を開始させ易くなる。これにより、回転用天井レール5に加えられる圧縮力が適切に逃がされるため、回転用天井レール5や固定用天井レール4の変形を防止することができる。
【0051】
また、傾斜面を方立2及び方立3とは反対側である他方端面5fに形成することで、壁面W2が傷つくのを防止することができる。
【0052】
また、他方端面4fと他方端面5fとを互いに逆方向に向けられた傾斜面に形成する、壁面W2から回転用天井レール5に圧縮力が加えられた際に回転用天井レール5をより円滑に回転させることができる。
【0053】
また、不燃シート6を、方立2、方立3、固定用天井レール4及び回転用天井レール5に対して分離可能に取り付けることで、回転用天井レール5が回転した際に不燃シート6が裂けるのを防止することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す平面図であり、図7は、第2の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁を示す底面図である。図6及び図7に示すように、本実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁11は、一方の壁面W1に固定される方立2と、壁面W1に対向する他方の壁面W2に固定される方立3と、方立2と方立3の間に配置されて天井面Cに固定される中間方立12と、天井面Cに配設されて方立2と中間方立12との間に延在する固定用天井レール13と、天井面Cに配設されて中間方立12と方立3との間に延在する回転用天井レール14と、固定用天井レール4に吊り下げられる不燃シート6aと、回転用天井レール5に吊り下げられて不燃シート6aに隣接される不燃シート6bと、を備えている。
【0055】
固定用天井レール13は、基本的に第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁1の固定用天井レール4と同様に形成されている。すなわち、固定用天井レール13は、天井面Cに当接される天井部13aと、天井部13aの両端縁から鉛直方向下方に向けて延びる一対の側壁部13b及び側壁部13cと、を備えており、天井部13aには、ネジ材7が挿入される丸穴が複数個所に形成されている。
【0056】
そして、固定用天井レール13における方立2側の一方端面13eは、方立2に当接されており、固定用天井レール13における中間方立12側の他方端面13fは、中間方立12に当接されている。なお、一方端面13e及び他方端面13fは、方立2及び中間方立12との接触面積を増やして方立2及び中間方立12との間から煙が漏れ出すのを防止するために、方立2及び中間方立12の当接面に対応する形状に形成されていることが好ましい。
【0057】
回転用天井レール14は、基本的に第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁1の回転用天井レール5と同様に形成されている。すなわち、回転用天井レール14は、天井面Cに当接される天井部14aと、天井部14aの両端縁から鉛直方向下方に向けて延びる一対の側壁部14b及び側壁部14cと、を備えており、天井部14aには、ネジ材8が挿入される長穴14dが1箇所に形成されている。この長穴14dは、回転用天井レール14の延在方向に長く形成されており、ネジ材8との間に回転用天井レール14の延在方向における空間が形成されている。
【0058】
回転用天井レール14における方立3側の一方端面14eは、方立3に当接されている。なお、一方端面14eは、方立3との接触面積を増やして方立3との間から煙が漏れ出すのを防止するために、方立3の当接面に対応する形状に形成されていることが好ましい。
【0059】
回転用天井レール14における中間方立12側の他方端面14fは、回転用天井レール14における側壁部14c側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。すなわち、他方端面14fは、回転用天井レール14の延在方向に対して水平方向(図7における上下方向)に直交する回転用天井レール14の側壁部14c側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。
【0060】
中間方立12は、固定用天井レール13と回転用天井レール14とを分離するように、固定用天井レール13と回転用天井レール14との間に配置されて、天井面Cに固定されている。
【0061】
中間方立12における固定用天井レール13側(方立2側)の一方端面12aは、固定用天井レール13の延在方向に対して垂直な平面に形成されている。一方、中間方立12における回転用天井レール14側(方立3側)の他方端面12bは、回転用天井レール14における側壁部14b側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。すなわち、他方端面12bは、回転用天井レール14の延在方向に対して水平方向(図7における上下方向)に直交する回転用天井レール14の側壁部14b側の側方に向けられた傾斜面に形成されている。
【0062】
そして、他方端面12bと他方端面14fとが当接されて、固定用天井レール13と中間方立12と回転用天井レール14とが同一直線状に配設されている。
【0063】
回転用天井レール14の延在方向に対する他方端面12b及び他方端面14fの傾斜角度は、特に制限されるものではないが、第一の実施形態と同様に、30°以上60°以下が好ましく、35°以上55°以下が更に好ましく、40°以上50°以下が特に好ましい。なお、他方端面12bと他方端面14fとの接触面積を増やして他方端面12bと他方端面14fとの間から煙が漏れ出すのを防止するために、他方端面12b及び他方端面14fの傾斜角度は、同一であることが好ましい。
【0064】
不燃シート6a及び不燃シート6bは、第1の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁1の不燃シート6と同様に、不燃性及び可撓性を有する素材により矩形のシート状に形成されている。
【0065】
不燃シート6aの上端部は、固定用天井レール13に取り付けられており、不燃シート6aの両側端部は、方立2及び中間方立12に取り付けられている。
【0066】
不燃シート6bの上端部は、回転用天井レール14に分離可能に取り付けられており、不燃シート6bの両側端部は、中間方立12及び方立3に分離可能に取り付けられている。なお、回転用天井レール14、中間方立12及び方立3に対する不燃シート6bの取り付けは、必ずしも回転用天井レール14、中間方立12及び方立3の全体に渡って分離可能である必要は無い。少なくとも、回転用天井レール14の両端部近傍、中間方立12の上端部近傍、及び、方立3の上端部近傍が分離可能であればよい。
【0067】
固定用天井レール13及び回転用天井レール14に対する不燃シート6a及び不燃シート6bの取り付け位置は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、側壁部13b及び側壁部13bの反対側となる側壁部13c及び側壁部13cの外側面に取り付けている。
【0068】
次に、図8を参照して、地震などの大きな衝撃によって壁面W2から回転用天井レール14に圧縮力が加えられるときの緩衝機能付防煙垂壁11の動作について説明する。図8は、第2の実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁の動作を示す図である。
【0069】
図8(a)に示すように、通常時は、固定用天井レール13と中間方立12と回転用天井レール14とが一直線状に配置され、他方端面12bと他方端面14fとが密着されている。このとき、不燃シート6bの上端部が回転用天井レール14に取り付けられており、不燃シート6bの両側端部が中間方立12及び方立3に取り付けられている。
【0070】
図8(b)に示すように、地震などの大きな衝撃によって壁面W2が回転用天井レール14側に移動すると、壁面W2から回転用天井レール14に圧縮力が加えられる。すると、他方端面12b及び他方端面14fの傾斜面により、壁面W2から回転用天井レール14に加えられる圧縮力の一部が、回転用天井レール14をネジ材8の軸周りに回転させる力に変換されるとともに、長穴14dにより、回転用天井レール14の中間方立12側への移動が許容されるため、回転用天井レール14は、中間方立12側に摺動しながら、ネジ材8の軸周りに回転し始める。
【0071】
すると、回転用天井レール14における方立3側の端部が側壁部14c側に移動することにより、方立3の上端部において不燃シート6bが回転用天井レール14の側壁部14c側に引っ張られるため、方立3から不燃シート6bが分離される。また、回転用天井レール14における中間方立12側の端部が側壁部14b側に移動することにより、回転用天井レール14の中間方立12側において不燃シート6bが回転用天井レール14の側壁部14b側に引っ張られるため、回転用天井レール14の中間方立12側の端部付近から不燃シート6が分離される。これにより、不燃シート6bが引き裂かれること無く回転用天井レール14が回転し、壁面W2から回転用天井レール14に加えられる圧縮力が逃がされる。
【0072】
また、不燃シート6bが、回転用天井レール14における中間方立12側の端部が移動して行く方向とは反対側である側壁部13c及び側壁部13cの外側面に取り付けられているため、回転用天井レール14から不燃シート6を分離させることで、不燃シート6が引き裂かれること無く回転用天井レール5を回転させることができる。
【0073】
図8(c)に示すように、壁面W2の回転用天井レール14側への移動量が大きくなっても、方立3及び回転用天井レール5に対する不燃シート6の分離量が大きくなることで、不燃シート6が引き裂かれること無く回転用天井レール5が回転し、壁面W2から回転用天井レール14に加えられる圧縮力が逃がされる。
【0074】
このように、本実施形態に係る緩衝機能付防煙垂壁11によれば、上記の第1の実施形態にかかる緩衝機能付防煙垂壁1の効果に加え、中間方立12により回転用天井レール14と固定用天井レール13との縁を切ることができるため、壁面W2から回転用天井レール14に加えられた圧縮力が固定用天井レール13に伝わるのを防止することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0076】
例えば、第1の実施形態では、回転用天井レール5に蓋部5gを設けるものとして説明したが、図9(a)に示す緩衝機能付防煙垂壁21のように、固定用天井レール22に蓋部22gを設けるものとしても良い。この場合、当接される固定用天井レール22の他方端面22fと回転用天井レール23の他方端面23fとは、蓋部22gとは反対方向に向いた傾斜面とすることが好ましい。更に、不燃シートを固定用天井レール22及び回転用天井レール23における一対の側壁部の内側に取り付ける場合は、回転用天井レール23の最大回転角度を大きくするために、蓋部22gが設けられている側の側壁部の内側に取り付けることが好ましい。
【0077】
また、上記実施形態では、回転用天井レールにおける壁面と反対側の端面を傾斜面とするものとして説明したが、図9(b)に示す緩衝機能付防煙垂壁21のように、回転用天井レール33における壁面側の端面33aを傾斜面とするものとしてもよい。この場合、端面33aに当接する方立32の当接面32aも、端面33aと逆方向の傾斜面とすることが好ましい。
【0078】
また、第1の実施形態では、他方端面4f及び他方端面5fの双方が傾斜面に形成されるものとし、第二の実施形態では、他方端面12b及び他方端面14fの双方が傾斜面に形成されるものとして説明したが、他方端面4f及び他方端面5fの何れか一方のみを傾斜面とし、他方端面12b及び他方端面14fの何れか一方のみを傾斜面としてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、支持部材として、固定用天井レール4や中間方立12を採用するものとして説明したが、例えば、壁面W1に固定される方立2を採用するものとしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、方立2及び方立3は壁面に固定されるものとして説明したが、壁面と天井面に固定されるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…緩衝機能付防煙垂壁、2…方立、3…方立、4…固定用天井レール(支持部材、隣接天井レール)、4a…天井部、4b…側壁部、4c…側壁部、4d…丸穴、4e…一方端面、4f…他方端面、5…回転用天井レール(天井レール)、5a…天井部、5b…側壁部、5c…側壁部、5d…長穴(貫通孔)、5e…一方端面、5f…他方端面、5g…蓋部、6…不燃シート、6a…不燃シート、6b…不燃シート、7…ネジ材、8…ネジ材(保持部材)、11…緩衝機能付防煙垂壁、12…中間方立(支持部材)、12a…一方端面、12b…他方端面、13…固定用天井レール、13a…天井部、13b…側壁部、13c…側壁部、13e…一方端面、13f…他方端面、14…回転用天井レール、14a…天井部、14b…側壁部、14c…側壁部、14d…長穴、14e…一方端面、14f…他方端面、21…緩衝機能付防煙垂壁、22…固定用天井レール、22f…他方端面、22g…蓋部、23…回転用天井レール、23f…他方端面、32…方立、32a…当接面、33…回転用天井レール、33a…端面、C…天井面、W1…壁面、W2…壁面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する矩形の不燃シートと、
天井面に延在して前記不燃シートの上端部が取り付けられる天井レールと、
前記天井レールの一方端側に配置されて壁面に固定される方立と、
前記天井レールの他方端側に配置されて前記天井面に固定される支持部材と、
を有し、
前記天井レールが前記方立及び前記支持部材に対して緩衝可能に配設される、
緩衝機能付防煙垂壁。
【請求項2】
前記天井レールは、鉛直方向に貫通された貫通孔が形成され、前記天井面に固定されて前記貫通孔に挿入される保持部材により回転可能に保持されており、
前記天井レールの少なくとも一方の端面が、前記天井レールの側方に向けられた傾斜面に形成されており、
前記貫通孔と前記保持部材との間には、前記天井レールの延在方向における空間が形成されている、
請求項1に記載の緩衝機能付防煙垂壁。
【請求項3】
対向する前記天井レールの前記支持部材側端面と前記支持部材の前記天井レール側端面とが、互いに逆方向に向けられた傾斜面に形成されている、
請求項2に記載の緩衝機能付防煙垂壁。
【請求項4】
前記支持部材は、前記天井レールに隣接されて前記不燃シートの上端部が取り付けられる隣接天井レールである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の緩衝機能付防煙垂壁。
【請求項5】
前記支持部材は、前記天井レールと前記不燃シートに隣接する隣接不燃シートの上端部が取り付けられる隣接天井レールとの間に配置される中間方立である、
請求項1〜3の何れか一項に記載の緩衝機能付防煙垂壁。
【請求項6】
少なくとも前記天井レール及び前記支持部材の何れか一方に、前記天井レールと前記支持部材との間の隙間を覆う蓋部が設けられている、
請求項1〜5の何れか一項に記載の緩衝機能付防煙垂壁。
【請求項7】
前記不燃シートは、前記天井レール及び前記方立に対して分離可能に取り付けられる、
請求項1〜6の何れか一項に記載の緩衝機能付防煙垂壁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−99422(P2013−99422A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244677(P2011−244677)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)