説明

緩衝部品の製造方法及び緩衝部品

【課題】緩衝機能を有する柔軟性があり、しかも接着性が良好な緩衝部品の製造方法及び緩衝部品を提供する。
【解決手段】スチレン系熱可塑性エラストマーによる基材の表面の少なくとも一部に、ポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートと溶剤とを主成分として含む表面処理剤を塗布して基材の表面を溶解し、溶解した基材の成分を表面処理剤に混在させつつ溶剤を乾燥して、基材側に、ポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートとの反応物と基材とが少なくとも混在する不可分一体な層を含む表面処理層を形成し、表面処理層の表面に熱硬化型ウレタン系コート剤を塗布することによりコート層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシューズ用緩衝部材やその他用途の緩衝部材として用いられる緩衝部品の製造方法及び緩衝部品に関する。
【背景技術】
【0002】
衝撃緩衝材として、従来から柔軟なゴム弾性素材や粘弾性素材、発泡素材が広く使用されているが、近年は、射出成形可能で生産性に優れる熱可塑性エラストマーの需要が増加している。特にスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟なゴム弾性特性に加えて、低比重で、透明性に優れていることから、家電のパッキンや自動車のバンパー、産業機器の防振材やシューズの衝撃緩衝材への適用が進んでいる。中でもシューズの分野においては、優れた衝撃緩衝性に加えて、従来のシリコーンゲル素材に比べて、低比重で軽量化でき、透明性が高く意匠性に優れるため、注目されている。
【0003】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、このような優れた特性を有する一方で、非極性樹脂であることから接着性し難い素材であることから、緩衝部材を組込部品として使用する場合、その接着の信頼性が大きな問題である。また、優れた衝撃緩衝性を実現するためには、比較的柔軟なゴム弾性(若しくは粘弾性)を付与されるため、応力による接着界面の伸縮変形が起こりやすく、接着界面の密着性の保持が困難であり、さらに柔軟化のために過剰に添加されるパラフィンオイルなどの可塑剤が接着を阻害して、接着性がさらに低下してしまうなど、スチレン系熱可塑性エラストマーゆえの解決すべき課題があった。
【0004】
さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーをシューズ用の緩衝部材として使用する場合は、シューズが頻繁に応力変形を生じるため、高い信頼性の接着性が要求されるが、緩衝部材は、EVAなどのゴム弾性を有するソールと接着されて組込まれるため、応力変形しやすい素材同士の接着となり、その実現が非常に難しかった。また、透明性を活かした意匠性を付加する場合においては、透明性を損なわない方法に限定されるのに加え、さらに、意匠面をシューズの外側に露出させて需要者に視認させるため、緩衝部材の接着面積が制限されるとともに、外側に露出して接着されない部分と、外側に露出しないで接着された部分との境界から剥離が成長し易く、また、僅かの剥離状態でも直接視認されるため、商品の機能と品質を確保するためには、極めて高い信頼性の接着を実現しなければならず、画期的な接着方法の開発が求められていた。
【0005】
因みに、スチレン系熱可塑性エラストマーの接着を強化する従来の手法を試みたが、スチレン系熱可塑性エラストマーの基材に各種の接着剤やスチレン系プライマーを塗布して直接的に接着を行った場合、接着力が非常に弱く、初期接着は仮にできたとしても、繰り返しの応力が印加されると剥離が発生し耐久性が全く期待できなかった。しかも、このような接着剤は透明性に欠けることが多いため、透明な意匠性を損なうので、この方法を採用することはできない。特に溶剤系は、スチレン系エラストマーを溶解させてストレスクラックを誘発させる可能性があるため、適用には問題があった。
【0006】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーの接着を強化する別の手法として、スチレン系熱可塑性エラストマーの基材表面に、UV光照射やイトロ処理などの表面処理を行うことも考えられるが、製造コストの大幅な上昇を招くことや、このような表面改質程度では、強い接着は得られない(例えばシューズなどでは走行時の応力印加による過大な変形量の大きい繰り返し変形には耐えられない)ことから、この方法も採用できない。
【0007】
このような接着に関する知見からさらに別の手法としては、スチレン系熱可塑性エラストマーの基材表面に、ウレタン系などの接着容易層をコーティングすれば、基材の柔軟性と透明性とを維持したまま接着性を改善できる可能性が残される。
【0008】
スチレン系熱可塑性エラストマーの基材表面に、ウレタン樹脂をコーティングする技術としては、例えば発泡ポリスチレンの成形品表面にウレタン被膜をコーティングする特許文献1や、スチレン系エラストマーの成形体表面に熱可塑性ポリウレタン被膜をコーティングする特許文献2をはじめ多数提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−098052号公報
【特許文献2】特開平06−009805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、スチレン系熱可塑性エラストマーによる基材とウレタンなどのコート層との接着性の信頼性が高くなければ意味がなく、結局は、接着性のよいコート層とスチレン系熱可塑性エラストマー基材との接着性の問題に帰属していた。
【0011】
特に、柔軟基材のコート層として有効とされるウレタン系コート剤は、スチレン系熱可塑性エラストマーとの接着性の相性が良くないことのみならず、スチレン系熱可塑性エラストマーによる基材が柔軟性を有しかつ応力印加時の変形量が大きいため、基材とコート層との密着性を確保することが非常に困難であった。
【0012】
従って本発明の目的は、緩衝機能を有する柔軟性があり、しかも接着性が良好な緩衝部品の製造方法及び緩衝部品を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、繰り返しの応力変形に対して耐久性がある緩衝部品の製造方法及び緩衝部品を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、透明性が高い緩衝部品の製造方法及び緩衝部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本願発明者は、鋭意研究の結果、スチレン系熱可塑性エラストマー基材表面に、接着性に優れるウレタン系コート層を形成した構成において、溶剤に対するスチレン系熱可塑性エラストマーの溶解性に着目し、従来の溶剤接着における溶剤による膨潤化を超える溶解状態を有効に利用するという着想に基づき、スチレン系熱可塑性エラストマー基材の表面を、特定の溶剤系表面処理剤で処理したのち、熱硬化型のウレタンコート層を形成することによって、上述の課題が解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0016】
即ち、本発明によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーによる基材の表面の少なくとも一部に、ポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートと溶剤とを主成分として含む表面処理剤を塗布して基材の表面を溶解し、溶解した基材の成分を表面処理剤に混在させつつ溶剤を乾燥して、基材側に、ポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートとの反応物と基材とが少なくとも混在する不可分一体な層を含む表面処理層を形成し、表面処理層の表面に熱硬化型のウレタン系コート剤を塗布することによりコート層を形成する、緩衝部品の製造方法が提供される。
【0017】
本発明によれば、溶解した基材成分と表面処理剤の反応物とが混在して、熱硬化型のウレタン系コート剤との反応性を有し、かつ基材と強固に一体化して形成された不可分一体層を含んだ表面処理層を介して、スチレン系熱可塑性エラストマー基材と、熱硬化型のウレタン系コート層とを一体化することによって、スチレン系熱可塑性エラストマーからなる基材の性能を損なうことなく、信頼性の高い接着性を実現することができる。しかも、緩衝部品として、透明性が高いため、意匠性を大幅に高めることができる。
【0018】
表面処理層における不可分一体な層の厚みを0.5〜20μmに形成することも好ましい。これにより、基材とコート層との密着性、透明性及び繰り返し圧縮耐圧が共に良好となる。厚さが0.5μm未満であると基材との密着性が不十分となる場合があり、20μmを超えると基材の溶解が過剰であるためクラックなどの不具合が発生する場合がある。
【0019】
表面処理剤として、SP値が8.0〜9.1の溶剤を含む表面処理剤を用いることも好ましい。溶剤は、基材を溶解するために、そのSP値に近いSP値8.0〜9.1のものを用いることが望ましいためである。
【0020】
また、コート剤を塗布する際に、表面処理層は、塗布した表面処理剤の溶剤が、溶剤残留率が5〜40%となるように乾燥したものであることも好ましい。この範囲であると、コート層との密着性に優れ、かつ透明性の高い不可分一体層が形成でき、高い意匠性と接着信頼性を実現できる。不可分一体層からなる表面処理層が完全に乾燥する前に、この表面処理層の表面に二液熱硬化型のウレタン系コート剤を塗布する。完全に乾燥した後であると、不可分一体層に微細クラックが発生し、密着性及び透明性が共に低下してしまう場合があり、また、乾燥不足であると二液熱硬化型のウレタン系コート剤を塗布した際に不可分一体層の成分がこのウレタン系コート剤に混じってしまうため、不都合となる場合がある。従って、完全に乾燥する前の溶剤残留率(プライマー中の初期溶剤重量に対する乾燥後の残留溶剤重量の比率)は上述の5〜40%であることが望ましい。
【0021】
さらに、コート層の表面の一部に加熱型を押圧することにより、基材のみを熱可塑化して変形させるとともに、表面処理層とコート層を基材の変形に追従させてスタンプ溝を形成することも好ましい。コート層が優れた柔軟性と基材への強固な密着性とを有するため、コート層の性能と基材への密着性を損なうことなくホットスタンプによる後加工が可能となり、意匠性のバリエーション化が可能となる。
【0022】
本発明によれば、さらに、上述した製造方法によって製造された緩衝部品が提供される。
【0023】
本発明によれば、またさらに、上述した製造方法によって製造されたシューズ用の緩衝部材が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、透明性に優れ、かつ基材と強固に密着した状態のコート層を、基材表面に形成できるので、スチレン系熱可塑性エラストマー基材の衝撃緩衝特性をはじめとする性能を維持しつつ接着性が向上したので、他材と接着して使用される用途においても、高い接着信頼性が実現でき、さらなるスチレン系熱可塑性エラストマーの用途展開が可能となる。特に、シューズ分野においては、優れた緩衝性能と、透明で高い意匠性とを活かした新たな商品展開が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の緩衝部品の一実施形態における一部の層構成を概略的に示す断面図である。
【図2】表面処理層の構成を説明する断面図である。
【図3】本発明の緩衝部品の製造方法の一実施形態における各工程を概略的に示す断面図である。
【図4】図3の実施形態において表面処理層を形成する工程と、スチレン系樹脂及びウレタン系樹脂が単に混在する表面処理層を形成する工程とを比較して示す断面図である。
【図5】本発明の緩衝部品の他の実施形態として、スポーツシューズ及びその緩衝部材の構成を概略的に示す斜視図及び断面図である。
【図6】図5に示した緩衝部材の構成を拡大して示す斜視図である。
【図7】本発明の緩衝部品のさらに他の実施形態として、スポーツシューズの緩衝部材の構成を概略的に示す斜視図である。
【図8】図7の実施形態における緩衝部材の製造方法の一部工程を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の緩衝部品の実施例及び比較例における試験片の構成を概略的に示す平面図及び断面図である。
【図10】図9の試験片の密着強度試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は本発明の緩衝部品の一実施形態における一部の層構成を概略的に示している。
【0027】
同図に示すように、基材10はスチレン系熱可塑性エラストマーで形成されており、この基材10の表面の接着性を向上させる部分には、ウレタン反応する成分を溶剤分散した表面処理剤11″を塗布することにより、この溶剤が基材10を溶解し、その基材10の溶解成分と表面処理剤11″中のウレタン反応成分とが混在した状態でウレタン反応が進み、基材10の溶解成分と表面処理剤11″中のウレタン反応成分の反応物とが緻密に混在する不可分一体層を含む表面処理層11が作製されている。不可分一体層を含む表面処理層11上には、溶剤分散した熱硬化型ウレタン系のコート剤を塗布してコート層12が形成されている。
【0028】
上述した不可分一体層は、本発明で最も重要な役割を担う構成であって、基材10と不可分一体的に形成され、かつ、不可分一体層を含む表面処理層11は、熱硬化型ウレタン系のコート層12と反応性を有するため、不可分一体層を含む表面処理層11を介することで、基材10とコート層12との強固な密着性を実現するのである。
【0029】
なお、本発明における「不可分一体」とは、基材10と、この基材10′の溶解成分と表面処理剤11″のウレタン反応成分の反応物とが混在する層との境界が不明確で、基材10の構成成分であるスチレン系熱可塑性エラストマー分子と表面処理剤11″のウレタン反応成分の反応物が混在一体化した状態をいう。
【0030】
基材10を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーは、共役ジエンとスチレン系化合物とのブロック共重合体であり、一例としては、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)や、その水添物であるスチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン(SBBS)や水添スチレン・エチレンブタジエン ブロックコポリマー(SEBS)などである。硬度は、ブロックの構成や割合で調整されるが、特に、低硬度化する(シューズ用途ではJIS−A 40以下が好適)ためには、パラフィンオイルなどの可塑剤(例えばパラフィンオイル)が添加され、例えばSEBSのJIS−A 40以下の市販品では、可塑剤を過剰に(例えば全体の55重量%)添加しているが、本発明においては、これらの材料も適用可能である。
【0031】
共役ジエンは、一対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、一般的なものとしては、1,3−ブタジエン、イソプレンである。その他には、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いるか又は2種以上を用いても良い。
【0032】
スチレン系化合物は、望ましくはスチレンであるが、その他には、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレンなどが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いるか又は2種以上を用いても良い。
【0033】
基材10の表面に塗布する表面処理剤11″は、ポリオール両末端ウレタンプレポリマーと、イソシアネートと、溶剤とを主成分として含んでいる。ポリオール両末端ウレタンプレポリマーは、公知のものを適宜適用できる。ポリオール両末端ウレタンプレポリマーに用いられるポリオールとしては、ポリエステル系や、ポリエーテル系、ポリカプロラクトン系、ポリカーボネート系など単独又は2種以上を組合せて適用でき、耐熱性や耐候性の観点からポリエステル系若しくはポリカプロラクトン系ポリオールから合成したポリオール両末端ウレタンプレポリマーであることが好ましい。イソシアネートは、ウレタンプレポリマーと反応して架橋するものであれば、芳香族イソシアネートや脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネートのいずれも適用できる。また、この溶剤で溶解された基材10のスチレン系エラストマーの分子鎖とこのイソシアネートとが混在しやすくするために、イソシアナート基に結合する分子鎖構造が長く大きいものよりも、分子構造が小さいものが好ましい。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジシソシナナート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などのジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアナート、トリス(イソシアナートフェニル)チオホスヘート(TPTI)などのトリイソシアナートなどがあり、これらを単独又は2種以上を組合せて適用することができる。
【0034】
また、溶剤は、基材10を溶解するために、基材のSP値(溶解度パラメーター)に近いものが好適で、好ましくはSP値7.5〜9.5[(cal/cm0.5]であり、SP値8.0〜9.1[(cal/cm0.5]のものが特に好ましく用いられる。
【0035】
なお、上述したSP値は、「塗料用合成樹脂入門」、北岡協三著、p23−p31、高分子刊行会(1986)、表2−8、表2−9、及び、「新版 溶剤ポケットハンドブック」、有機合成化学協会編(1994)p22−p25を参考に、Smallの方法で算出したものである。すなわち、Smallの方法により与えられた特定の原子及び原子団の凝集エネルギー定数F[(cal・cc)0.5/mol]、密度をs[g/cc]、基本分子量をMとし、δ=(sΣF)/Mで算出される値を溶解度パラメーターδとする。なお、本発明において凝集エネルギーFはSmallの数値を用いるものとする。また、2種類以上の混合物である場合の溶解度パラメーターδsは、混合物中の各成分のモル分率Xi(%)、各成分の溶解度パラメーターδiから、下記の式1により算出されるものである。
δp=Σ(δi × Xi/100) (式1)
【0036】
具体的には、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルベンゼン、メチルイソブチレンケトン(MIBK)、シクロヘキサン、クロロベンゼンなどを1種のみか又は2種以上混合して用いる。また、溶剤の揮発性は基材を溶解する時間と関係し、溶解によって形成される表面処理層11中の不可分一体層の厚さや構造に影響するので、溶剤の溶解性(例えば、上述のSP値)と、揮発性とのバランスに優れた溶剤を選択することがより好ましい。
【0037】
揮発性の調整は、複数の蒸気圧や沸点の異なる溶剤を混合して調整することがより好ましい。
【0038】
また、溶剤の基材溶解性が大きすぎると、基材に表面処理剤11″を塗布した際に、基材を過剰に溶解して、基材が千切れるなどの不具合が生じ易くなるので、基材と溶剤の溶解性のバランスを適宜選択、調整することが好ましい。
【0039】
溶剤の配合割合としては、上述の溶解性と揮発性のバランス、及び基材への表面処理剤の塗工性の観点から、表面処理剤全体に対して50〜90重量%が望ましい。
【0040】
また、上述したポリオール両末端ウレタンプレポリマーと、上述したイソシアネートの配合割合は、ウレタン反応する官能基数に合わせて適宜調整される。また、一方の官能基が過剰となる配合としてもよく、この場合には、硬化型ウレタンコート剤のポリオール成分及びイソシアネート成分のいずれかと反応して、表面処理層とコート層を強固に密着させるのに有効である。
【0041】
表面処理層11は、上述の表面処理剤11″を基材10′上に塗布することにより、図2(A)に示すように、この基材10′の溶解成分と表面処理剤11″のウレタン反応成分の反応物とが混在する不可分一体層11aが、表面処理剤11″と接触した基材表面側を起点に、表面処理層11の全体若しくは一部に形成されている。表面処理層11の一部に不可分一体層11aが形成されている場合には、表面処理層11は、不可分一体層11aと、それに不可分一体に隣接して形成された基材成分を含まない表面処理剤の硬化物層(ウレタン硬化物層)11bとで構成されている。
【0042】
表面処理層11に含まれる不可分一体層11aの厚さ(深さ)は、望ましくは0.5〜20μmである。厚さが0.5μm未満であると基材10との密着性が不十分となる場合があり、20μmを超えると基材10の溶解が過剰となって基材にクラックなどの不具合が発生する可能性が高くなる。よって、密着性及びクラックなどの不具合の非発生をより確実にするために、不可分一体層11aの厚さ(深さ)は、1〜10μmであることがより望ましい。
【0043】
不可分一体層11aの厚みは、溶剤(多成分系含む)の基材溶解性、揮発性(溶解時間)と塗布厚みの調整ができ、溶剤の溶解性が高い場合には、揮発速度を早くするか塗布厚みを小さくし、逆に溶剤の溶解性が低い場合には、揮発速度を遅くするか塗布厚みを大きくなるよう、溶剤成分の配合や工程条件(塗布量や乾燥条件)を調整する。
【0044】
そして、表面処理層11に占める不可分一体層の割合を変えることができるので、表面処理層11の構成も同時に調整することも可能である。
【0045】
コート層12は、表面処理層11上に熱硬化型のウレタン系コート剤12′を塗布して形成される。コート剤12′は、熱硬化型であれば、公知の一液型及び二液型のいずれも適用でき、コート層の性能に応じて適宜選択される。また、硬化方法も熱硬化、エネルギー線硬化、湿気硬化などが適用できるが、生産性やコート層の物性の調整が容易であることから二液熱硬化型が好ましく、基材の耐熱性の観点から常温硬化型が特に好ましい。二液熱硬化型ウレタン系コート剤の好ましい一例として、ポリオール両末端ウレタンプレポリマーと、イソシアネート両末端ウレタンプレポリマーと、溶剤とを主成分として含んでいるものが好適である。アミン系化合物やグリコール系の反応触媒(硬化剤)が用いられることもある。溶剤は、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルベンゼン、メチルイソブチレンケトン(MIBK)、シクロヘキサンなどを1種のみか又は2種以上混合して用いる。
【0046】
上述のポリオール両末端ウレタンプレポリマー及びイソシアネート両末端ウレタンプレポリマーの構造は、硬化後のコート層が基材の変形に追従する柔軟性や、耐擦過性、透明性など目的の膜物性に応じて公知のものを適宜適用できる。
【0047】
図3は本発明の緩衝部品の製造方法の一実施形態における各工程を断面で概略的に示しており、図4は図3の実施形態において表面処理層を形成する工程と、スチレン系樹脂及びウレタン系樹脂が単に混在する表面処理層を形成する工程とを比較して断面で示している。以下、これらの図を用いて本実施形態の製造工程を説明する。
【0048】
まず、図3(A)に示すように、例えばパラフィンオイルなどの可塑剤を例えば55重量%と過剰に添加した低硬度のスチレン系熱可塑性エラストマー、例えば低硬度のSEBS、による基材10′を、公知の熱可塑性樹脂成形方法によって所望の形状に作製する。生産性の観点からは、射出成形によって作製することが特に望ましい。
【0049】
次いで、図3(B)に示すように、この基材10′の表面に、ポリオール両末端ウレタンプレポリマーと、イソシアネートと、溶剤とを主成分として含む、上述した表面処理剤11″を塗布する。塗布の厚さは、好ましい厚み範囲で不可分一体層が形成されるように、溶剤の基材溶解性と、溶剤の割合によって、適宜、調整される。概略の塗布厚みは、5〜200μmである。この塗布の厚さは、塗布方法としては、ディッピング(浸漬)、刷毛塗り、スプレー塗布などの公知の方法が適用可能であるが、塗布設備が簡易で済み、塗布むらが発生しにくいことから、ディッピングを行うことが望ましい。
【0050】
なお、表面処理剤11″が基材10を過剰に溶解すると、基材が千切れたりする不具合が生じ易くなるので、基材と溶剤との溶解性に応じて、浸漬時間(溶解が起こる時間)を適宜調整することが好ましい。
【0051】
図3(C)に示すように、この表面処理剤11″の塗布により、基材10′の表面が表面処理剤11″に含まれる溶剤によって溶解する(矢印13)。
【0052】
その結果、図3(D)に示すように、この基材10のスチレン溶解成分と表面処理剤11′のウレタン反応成分とが溶剤を介して不規則に絡み合って混在した状態となる。
【0053】
次いで、この状態で20〜40℃の環境下で乾燥させて溶剤を揮発除去することによりウレタン反応を進行させ、図3(E)に示すように、ウレタン樹脂成分とスチレン成分とがより強固に絡み合って密着性を発現させた不可分一体層11aを含む表面処理層11が作製される。
【0054】
なお、この表面処理剤11"の塗布工程において、基材10の表面が表面処理剤11″中の溶剤で溶解する過程で、基材10の表面は溶剤によっては、膨潤を経て溶解していると考えられ、基材10の溶剤に対する溶解性の程度によっては、膨潤状態を伴いながら溶解状態となる様態であってもよい。
【0055】
膨潤状態が混在する場合には、不可分一体層11aに、従来の膨潤による分子の絡み合いに起因した構造も内在しているが、基材の溶解によって形成された強固な絡み合い構造が、従来の膨潤での絡み合いの場合よりもさらに高い密着性を実現するのである。この場合、図2(B)に示すように、形成される表面処理層11の構造は、基材側から膨潤に起因したウレタン反応物混在層11c、不可分一体層11aの順で構成される。
【0056】
乾燥は、公知の乾燥方法が適用できる。なお、乾燥においては、より優れた密着性などを実現するためには、特定の乾燥状態とすることが重要であり、表面処理剤中の溶剤が完全に揮発除去されると、形成された表面処理層に微細クラックが発生し、密着性及び透明性が共に低下してしまう場合があり、また、乾燥不足であるとウレタン系コート剤12′を塗布した際に不可分一体層の成分がこのウレタン系コート剤12′に混じった際に、透明性を低下させてしまう場合がある。従って、コート層を塗布する時点において、表面処理層11の溶剤残留率(表面処理剤11″中の初期溶剤重量に対する乾燥後の残留溶剤重量の比率)が、5〜40%であることが望ましい。
【0057】
このように完全乾燥せずに適度な乾燥状態とすることにより、表面処理層に未反応の官能基(OH基若しくは、NCO基)が残っており、この官能基と次の工程で塗布されるウレタン系コート剤の官能基とが反応して、表面処理層とコート層との強固な密着性の発現にも効果的である。
【0058】
この不可分一体層の形成について、さらに詳しく説明すると、即ち、図4(A)に示すように、本実施形態によれば、表面処理剤中の溶剤に溶解した基材分子鎖aと表面処理剤のポリオール両末端ウレタンプレポリマーb及びイソシアネートcとが、溶剤を介して混在した状態で溶剤が揮発することにより、ポリオール両末端ウレタンプレポリマーbとイソシアネートcとのウレタン反応が進行して、表面処理剤のポリオール両末端ウレタンプレポリマーbとイソシアネートcとの反応物と、前記の溶解した基材分子鎖aとが、膨潤の場合よりもより複雑に強固に絡み合って混在一体化して不可分一体層となり強固な密着性が発現しているのである。
【0059】
さらに、本発明の不可分一体層の特長について、従来の代表的な類似技術例と比較して、以下に説明する。
【0060】
まず、類似技術1として、スチレン系樹脂の基材に、溶剤と熱可塑性ウレタン樹脂からなる表面処理液を塗布することにより、スチレン系樹脂基材の表面を溶解させ、スチレン系樹脂とウレタン系樹脂とが混在する表面処理層を形成する方法があるが、この方法は、熱可塑性の被着体に熱溶着させるための技術であり、図4(B)に示すように、溶剤が揮発したあとに形成される表面処理層31内では、溶解した基材30の基材分子鎖aと熱可塑性ウレタン分子鎖dとが単純に絡み合って混在した「混在層」を形成するのみであり、本発明のように熱硬化性のウレタン反応でウレタン分子鎖を形成しながら、溶解した基材成分に絡めて「不可分一体層」を形成する技術とは異なるものである。
【0061】
また、類似技術2として、エピクロルヒドリン系などのゴム基材の表面にイソシアネートを含む表面処理液を塗布することにより、ゴム基材表層に表面処理剤を浸透拡散させて表面処理層を形成する技術では、ゴム基材表面に表面処理液が「浸透拡散」して表面処理層が形成されるのみであり、本実施形態のように、スチレン系熱可塑性エラストマーの基材表面が表面処理剤の溶剤に「溶解」し、表面処理剤中の反応成分が反応してウレタン分子鎖を形成しながら、溶解した基材成分に絡めて「不可分一体層」を形成する技術とは異なるものであり、分子の絡み合いも本発明のほうがより複雑で強固である。
【0062】
さらにまた、類似技術3として、熱可塑性エラストマー基材と他材とを水性接着剤や水性プライマーを用いて接着する技術では、溶剤を用いてポリマー同士(主に同質の物同士)を接着する溶剤接着技術と同様に、ポリマーを「膨潤」させることによって2つの材料間の分子鎖を絡ませるものであり、本実施形態のように、スチレン系熱可塑性エラストマーの基材表面が表面処理剤の溶剤に「溶解」し、表面処理剤中の反応成分が反応してウレタン分子鎖を形成しながら、溶解した基材成分に絡めて「不可分一体層」を形成する技術とは根本的に異なるものであることは前述の通りである。
【0063】
次いで、コート層の形成について説明する。図3(F)に示すように、不可分一体層を含む表面処理層11が上述の所定の乾燥状態になったら、熱硬化型のウレタン系コート剤12′を表面処理層11の上に塗布する。
【0064】
コート剤が塗布される際の表面処理層は、表面処理剤のポリオール両末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートの配合割合に応じて、未反応の官能基(OH基若しくは、NCO基)が表出しており、この官能基とウレタン系コート剤の官能基とが反応して、表面処理層と強固に密着したコート層が形成される。
【0065】
ウレタン系コート剤12′の塗布方法としては、ディッピング(浸漬)、刷毛塗り、スプレー塗布などの公知の方法が適用可能であるが、塗布設備が簡易で済み、塗布むらが発生しにくいことから、ディッピングを行うことが望ましい。
【0066】
次いで、図3(G)に示すように、このコート剤を完全に乾燥させて硬化反応を完了させることにより、コート層12を得る。
【0067】
乾燥は、コート剤の溶剤成分を揮発除去できれば特に限定せず、公知の乾燥方法が適用できる。また二液熱硬化型ウレタン系のコート剤においては、多湿な環境の場合には、コート層が白濁する場合があるので、適宜除湿した環境とすることが好ましい。
【0068】
以上の工程により、接着性を向上させる必要のある部分について、基材10、表面処理層11及びコート層12の積層された緩衝部品が得られる。
【0069】
以上説明したように本実施形態によれば、表面処理層11がウレタン反応が行われることにより生成したウレタン樹脂成分と基材から溶解したスチレン成分とが非常に強固に絡み合って密着性を発現させた不可分一体層からなり、さらに、上述の不可分一体層とコート層とも強固に反応して密着性が高められているため、不可分一体層を介して基材10とコート層12とが非常に高く密着し、過酷な繰り返しの応力変形に対する充分な耐性を実現できる。また、ウレタン系のコート層12は接着性が良好であるため、他材との接着性が容易となる。しかも、表面処理層及びコート層のいずれも基材の透明性を損なわない程度の透明性を有するので、緩衝部品としても、透明性が高く、意匠性を大幅に高めることができる。
【0070】
図5は本発明の緩衝部品の他の実施形態として、スポーツシューズ及びその緩衝部材の構成を概略的に示しており、図6は図5の緩衝部材の構成を拡大して示している。本実施形態は、本発明をスポーツシューズの緩衝部材に適用した場合である。なお、図5において、(A)はスポーツシューズ全体を斜視で示しており、(B)はその緩衝部材を斜視で示しており、(C)は(B)のC−C線断面を示している。
【0071】
図5及び図6に示すように、スポーツシューズ40は、その靴底の後縁部41及び側縁部42に、外部から視認可能に緩衝部材43及び44がそれぞれ接着固定されている。これら緩衝部材43及び44の各々は、図1の実施形態の場合と同様に、射出成形によって所望の形状に成形されたスチレン系熱可塑性エラストマーによる基材45と、この緩衝部材43の表面の少なくとも接着性を向上させる必要のある部分43aにおいて、ウレタン反応する成分を溶剤分散した表面処理剤を基材45表面に塗布することにより作製され、基材45の溶解成分と表面処理剤のウレタン反応成分の反応物とが混在する不可分一体層を含む表面処理層46と、表面処理層46の不可分一体層上に溶剤分散した二液熱硬化型ウレタン系のコート剤を塗布して形成されたコート層47とを備えている。基材45の必要部分への表面処理層46及びコート層47の形成方法は、図3の実施形態の場合と同様である。
【0072】
表面処理層46及びコート層47を形成する基材45の部位は、少なくともソールなどのシューズの構成部品と接着される部位であるが、視認可能に外部に露出された部位の表面を保護にも有効であるため、接着しないで露出させる部位に表面処理層46及びコート層47を形成してもよい。
【0073】
本実施形態によれば、表面処理層46がウレタン反応が行われることにより生成したウレタン樹脂成分と基材から溶解したスチレン成分とが非常に強固に絡み合って密着性を発現させた不可分一体層からなり、さらに、前記表面処理層とコート層とも強固に反応して密着性が高められているため、表面処理層を介して基材45とコート層47とが非常に高く密着し、特にスポーツシューズに印加される過酷な繰り返しの応力変形に対する充分な耐性を有したコート層47を形成でき、コート層47は接着性が良好なウレタン系樹脂であるため、スポーツシューズの靴底部材との接着性が容易となる。しかも、緩衝部材として、透明性が高いため、スポーツシューズ全体の意匠性を大幅に高めることができる。
【0074】
図7は本発明の緩衝部品のさらに他の実施形態として、スポーツシューズの緩衝部材の構成を概略的に示しており、図8は本実施形態における緩衝部材の製造方法の一部工程を概略的に示している。本実施形態は、本発明をスポーツシューズの緩衝部材に適用した場合であり、スポーツシューズ全体の構成は図5に示した構成とほぼ同様である。特に本実施形態では、緩衝部材のシューズから露出して視認させる部位(面)に、外部から視認可能な溝パターンがホットスタンプによって形成されている。
【0075】
図7及び図8(A)に示すように、スポーツシューズの靴底の後縁部に、外部から視認可能に接着固定され緩衝部材63は、図1の実施形態の場合と同様に、射出成形によって所望の形状に成形されたスチレン系熱可塑性エラストマーによる基材65′と、この緩衝部材63の表面の少なくとも接着性を向上させる必要のある部分63aにおいて、ウレタン反応する成分を溶剤分散した表面処理剤を基材65′表面に塗布することにより作製され、基材65′の溶解成分と表面処理剤のウレタン反応成分の反応物とが混在する不可分一体層を含む表面処理層66′と、表面処理層66′の不可分一体層上に溶剤分散した二液熱硬化型ウレタン系のコート剤を塗布して形成されたコート層67′とを備えている。基材65′の必要部分への表面処理層66′及びコート層67′の形成方法は、図3の実施形態の場合と同様である。
【0076】
ホットスタンプによる溝パターンは、表面処理層66′及びコート層67′が形成されていない基材65′に直接形成してもよいし、表出する部位に表面処理層66′及びコート層67′を形成した部分に形成することが可能であるが、基材が熱可塑性のため、前者のように、基材に直接ホットスタンプする場合には、スタンプ型に基材の溶融物や可塑剤などの添加物のブリード物が付着して、生産性が低下したり、形成された溝のエッジが盛り上がってバリ状になったりする場合がある。一方、後者のように、表面処理層66′及びコート層67′を形成した面にホットスタンプすると、表面処理層66′とコート層67′は、薄く柔軟性と有し、かつ熱硬化性樹脂からなり溶融しない(表面処理層66′は基材との混在層であるため部分的に溶融すると思われるが、表面処理剤中のウレタン反応物で加熱時の基材成分の流動が抑制されるため、基材ほどの溶融状態にはならないと推測される)ため、基材を熱変形させながらもスタンプ型への溶融物の付着がなく、さらに、形成される溝のバリ様のエッジの形成を抑制するので、表面処理層66′及びコート層67′を形成した部分にホットスタンプする方が好ましく、特に意匠面に溝を形成した場合には、コート層による保護効果も得られて有効である。
【0077】
次いで、緩衝部材63にホットスタンプによる溝パターンの形成方法について、本実施形態では、コート層67′を形成した部分に溝パターンを形成する実施形態を例に具体的に説明する。図8(A)に示すように、緩衝部材63の後端面の所望の部分に、コート層67′の分解温度未満であり、かつ基材65′の融点以上に加熱した所定パターンの凸版の加熱押型68が押し付けられ、これにより、基材65′は図8(B)及び(C)に示すように、溶融して加熱押型68に対応する溝パターン69を有する基材65となる。一方、表面処理層66′及びコート層67′は溶融しないが基材65との密着性が非常に強いので引き伸ばされて、この基材65の表面に被着した表面処理層66及びコート層67となる。
【0078】
形成される溝パターンの形状は、特に限定されない。例えば、図7の例示のように、露出する意匠面に形成する場合には、文字を構成してもよいしデザイン性を付加する溝パターンとしてもよく、後加工してデザイン性を付加することでき有効である。また、露出しない接着部位に形成する場合には、接着するソールへ嵌め込むための突起や溝として作用させたり、接着の前処理加工として、緩衝部材の接着部位に所望の微細凹凸を形成して、接着面積を増やして接着性をさらに高めるようにしてもよい。
【0079】
このように本実施形態によれば、コート層67が優れた柔軟性と基材65への強固な密着性とを有するため、ホットスタンプによる後加工が可能となり、意匠性のバリエーション化が可能となる。本実施形態のその他の作用効果は図4の実施形態の場合と同様である。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の緩衝部品の実施例及び比較例について説明する。
【0081】
実施例及び比較例について、以下の試験及び測定を行った、
(1)密着性試験、
(2)透明性試験、
(3)繰り返し圧縮試験、
(4)硬度、
(5)溶剤残留率、
(6)不可分一体層の厚さ、
各実施例及び各比較例におけるこれらの試験の結果が、表1及び表2にそれぞれ表わされている。
【0082】
試料片の基材としてはJIS−A硬度が23のSEBSを射出成形したものを用いた。基材の形状は、
(1)密着性試験用:85mm(長さ)×20mm(幅)×3mm(厚さ)のストリップ状部材、
(3)繰り返し圧縮試験用及び(2)透明性試験用:スポーツシューズ用の緩衝部材(図6の形状)、
(4)硬度測定用:60mm(長さ)×60mm(幅)×12mm(厚さ)の正方形状部材、
とした。
【0083】
試料片の表面処理剤としては、市販のポリオール両末端ウレタンプレポリマー(旭硝子社製 ユーファインL)のポリオール両末端ウレタンプレポリマー成分10重量%と、溶剤90重量%との配合で溶解分散したA液と、Johnson Fine Chemical社のHARTDUR E333をドライエアー環境下で溶剤を減圧除去した後、溶剤除去残留物27重量%に酢酸エチル73重量%の配合で溶解分散したB液とを、A液100重量部とB液2重量部とを混合したものを用いた。A液とB液を混合した表面処理剤の溶剤成分は表1の通りである。
【0084】
試料片のコート剤としては、市販の二液熱硬化型のプレポリマータイプのウレタンコート剤を用いた。具体的には、A液として、ポリオール両末端ウレタンプレポリマー及び溶剤からなるミクニペイント社製 NYクリヤーを重量部100に対して、B液として、イソシアネート両末端ウレタンプレポリマー及び溶剤からなるDIC社製 DN−950を重量部16で配合したコート剤を用いた。
【0085】
試料片の作成方法は、図3において説明した各工程の通りである。
【0086】
比較例として、実施例と同じ基材を用い、表2に示したとおり、比較例1は、実施例3の表面処理剤のうちウレタン反応成分の代わりに熱可塑性ウレタンを分散させたもの、比較例2は、オレフィン系プライマー(広野化学工業株式会社製)を用いた条件である。
【0087】
(1)密着性試験
図9は本発明の緩衝部品の実施例及び比較例における試験片の構成を概略的に示しており、図10は図9の試験片の密着強度試験方法を説明している。まず、上述のごとくストリップ状に作製した試料片80を同じストリップ状に作製したウレタン片81に接着剤82によって接着し、試験片83を作製した。
【0088】
より詳しくは、試料片80及びウレタン片81の表面をメチルエチルケトン(MEK)に浸したキムワイプで拭いた後、60℃で3分間乾燥させた。試料片80のコート層側の面及びウレタン片81の片面にプライマー(ノーテープ工業株式会社製、G−6626)を塗布し、60℃で5分間乾燥後、さらに接着剤(ノーテープ工業株式会社製、No.4950)を塗布し、60℃で5分間乾燥した後、速やかに試料片80及びウレタン片81を貼り合わせ、試料片80側を上にした状態で載置し、ハンドローラにて可能な限り力を加えて圧着させることによって、試験片83を得た。
【0089】
この試験片83を12時間養生した後、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ、AT−100N)により、図10(A)及び(B)に示すように、試験片83の試料片80とウレタン片81とを剥離させた。ただし、図10において、84は固定側引張り治具、85は可動側引張り治具である。ロードセルは1kN(100kgf)であり、試験スピードは50mm/分、固定側引張り治具84及び可動側引張り治具85間の初期間隙は20mmであった。
【0090】
表1及び表2においては、剥離強度が3kgf/20mm以上の試験片は密着性が良好であると評価し「○」が付されてあり、剥離強度が2〜3kgf/20mm未満の試験片は「△」が付されてあり、2kgf/20mm未満又はコート層の剥離が生じた試験片は密着性が不良であると評価して「×」が付されている。
【0091】
(2)透明性試験
繰返し圧縮試験用のスポーツシューズ用の緩衝部材形状の試料について、表面処理層及びコート層の有り無しの試料を目視比較して、商品価値の観点から透明性を評価した。
【0092】
表1及び表2においては、基材に比べて透明性が同等であるものを良好であると評価し「○」が付されてあり、透明性の低下が見られるが商品として許容範囲であるものは「△」が付され、明らかに変色や白濁など商品価値の無い状態の物は透明性が不良であると評価して「×」が付されている。
【0093】
(3)繰り返し圧縮試験
上述したスポーツシューズ用の緩衝部材の両面にクロロプレンゴム系接着剤(ダイアボンド工業社製 ダイアボンド888)を介してEVA(ザ・ポリオレフィン・カンパニー社製 H2181)製のソールに見立てた部品(厚み10mm アスカーC硬度は50)を密着積層し、12時間養生したものを試料とした。
【0094】
繰返し圧縮試験は、試料を試験機の試料台に両面テープで固定し、試料厚みに対して30%加圧となるストロークで、試料上面全体に垂直方向から60回/分の条件で180万回(5000歩(片足分)/日で1年分相当の耐久性を想定)実施した。装置は、自社製の平板プレス型の繰返し圧縮試験機を用いた。
【0095】
表1及び表2においては、コート層と基材(若しくは表面処理層)との密着部、及びコート層と被着体との接着部のいずれも剥離が生じなかった試料は繰り返し圧縮試験が良好であったと評価し「○」が付されてあり、5mm未満の剥離が2箇所以下で発生したものは「△」が付されており、5mm未満の剥離が3箇所以上もしくは5mm以上の剥離が生じた試料は繰り返し圧縮試験が不良であったと評価して「×」が付されている。
【0096】
(4)硬度
上述した硬度測定用の正方形状の試料片について、JIS K6253に準拠するJIS−Aデュロメータを用いて、コート層を被着した試料片の硬度測定を行った。表1及び表2に、測定した硬度が表わされている。
【0097】
(5)溶剤残留率
上述した密着性試験用の試料片について、表面処理剤塗布前の試料片の重量をMo、表面処理剤を塗布した直後の試験片の重量をMs、表面処理した試験片の乾燥後の重量をMd、表面処理剤中の溶剤の比率をpとして、各Ms、Md、Moを電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ 分析用電子天秤GR300)で測定し、式2から算出した。
【0098】
【数1】

【0099】
(6)不可分一体層の厚さ
試料片の表面処理剤(油性染料を分散させたもの)を基材に塗布し、乾燥させて、前述したものと同様に不可分一体層を作製し、その試料片をミクロトームで斜め切断して薄片化し、断面をイメージングIR(Varian社製 FTS7000e)で、スチレンとウレタンの強度分布を分析することによって不可分一体層の厚さを測定した。表1及び表2に、測定した不可分一体層の厚さが表わされている。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
表1及び表2から分かるように、不可分一体層が形成されている実施例1〜11は、密着性試験、透明性試験及び繰り返し圧縮試験共に良好な結果が得られており、実施例1〜6が特に良好な結果が得られている。なお、実施例6は実施例2に相当する試料にホットスタンプを施したものである。比較例1及び2は表面処理剤が本発明のように熱硬化型ウレタン系ではないため、密着性試験、透明性試験及び繰り返し圧縮試験共に不良な結果となっている。特に、比較例1は表面処理剤に熱可塑性ポリウレタンを用い、スチレン系樹脂とウレタン系樹脂とが単に混在する表面処理層を形成しているものであり、図3(B)に示すように、溶剤が揮発しても、溶解した基材の基材分子鎖と熱可塑性ウレタン分子鎖とが単純に絡み合って混在化するのみであり、混在層は存在するものの、不可分一体層は形成されていない。また、比較例2も本発明の構成からなる不可分一体層が全く形成されていない。従って、表面処理剤の熱硬化性ウレタン反応成分が、ウレタン反応でウレタン分子鎖を形成しながら、溶解した基材成分と絡まって形成された不可分一体層が、従来にはない耐久性に優れた密着性と透明性を実現するために、重要である。
【0103】
また、表1及び表2から分かるように、実施例1〜8の結果から、不可分一体層の厚みは、1〜25μmの範囲が、優れた密着性と耐久性の観点から、より好ましい範囲であることがわかる。また、実施例1〜6と実施例9〜10との対比から、コーティング剤を塗布する時点の表面処理層の乾燥状態として、表面処理剤由来の溶剤成分の残留量が5〜40%が、密着性、透明性、耐久性に対して特に良好であり、表面処理層の乾燥条件を最適化することが有効であることがわかる。さらに、実施例1〜6と実施例7および11の結果から、表面処理剤のSP値がスチレン系基材のSP値(約8.5)から離れると基材の溶解量が低下して、形成される不可分一体層の厚みが小さくなって、密着性が低下する傾向が見られることから、表面処理剤中の溶剤成分のSP値は、8.0〜9.1の範囲が特に好ましいことがわかる。
【0104】
以上述べた実施形態及び実施例は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0105】
10、10′、30、45、65、65′ 基材
11、31、46、66、66′ 表面処理層
11′、11″ 表面処理剤
11a 不可分一体層
11b ウレタン硬化物層
11c 膨潤に起因したウレタン反応物混在層
12、47、67、67′ コート層
12′ コート剤
13 矢印
41 後縁部
42 側縁部
43、44、63 緩衝部材
43a 接着性を向上させる必要のある部分
68 加熱押型
69 溝パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマーによる基材の表面の少なくとも一部に、ポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートと溶剤とを主成分として含む表面処理剤を塗布して該基材の表面を溶解し、
前記溶解した基材の成分を前記表面処理剤に混在させつつ前記溶剤を乾燥して、前記基材側に、ポリオール末端ウレタンプレポリマーとイソシアネートとの反応物と前記基材とが少なくとも混在する不可分一体な層を含む表面処理層を形成し、
前記表面処理層の表面に熱硬化型ウレタン系コート剤を塗布することによりコート層を形成することを特徴とする緩衝部品の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理層における前記不可分一体な層の厚みを0.5〜20μmに形成することを特徴とする請求項1に記載の緩衝部品の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理剤として、SP値が8.0〜9.1の溶剤を含む表面処理剤を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝部品の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤を、溶剤残留率が5〜40%となるように乾燥することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の緩衝部品の製造方法。
【請求項5】
前記コート層の表面の一部に加熱型を押圧することにより、前記基材のみを熱変形させてスタンプ溝を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の緩衝部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする緩衝部品。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするシューズ用の緩衝部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−81431(P2012−81431A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230670(P2010−230670)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】