説明

緩衝酸化コバルト触媒

本発明は、コバルト、酸素、及び、緩衝電解質(例えば、フッ化物)から形成された電気分解触媒を提供する。それは、コバルト及びアニオン性緩衝電解質を含んだ電解質を用いる電気分解反応を行うことによって、アノード上の被覆物として形成される。その触媒は、弱酸性条件において水の酸素及び水素ガスへの転換を促す。その代わりに、これらのアノードは、二酸化炭素からメタノールへ転換反応などを促進するカソードとともに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2009年12月1日付けで提出された米国特許出願第12/628,464号、及び、2010年9月8日付けで提出された米国仮出願第61/380,915号に基づく優先権の利益を享受する。
【0002】
この発明は、国内科学ファウンデーション68D−1086210による米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、この発明に対し一定の権利を保有する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、電気分解アノード(electrolysis anode)の部分を形成するのに有用な触媒に関する。詳細に、本発明は、水電気分解(電解)を促進するのに適したコバルト/酸素/緩衝電解質(例えば、コバルト/酸素/フッ素)系触媒に関する。
【0004】
水電気分解を触媒する組成物に対する研究は主に、再生可能なエネルギー(太陽エネルギーまたは風力エネルギー等)を水素ガスの形態で保存(保管)しようとする所望によって行われている。ここで、水素ガスは、その後、自動車等の適用において化石燃料のより実用的な代替物となり得る。図1は、先行技術に係る水電気分解を概略的に示したものである。容器2には、水溶液3が入っている。アノード4及びカソード6は、水系電解液中に配置され、その後、電流源(図示せず)に接続される(つながる)。ダイヤグラムは、水をその成分ガスに分裂(分割)することによって生じたバスを分離する。
【0005】
この先行技術は、この適用において酸素と水素を生じさせる。しかしながら、かかる技術は、エネルギー非効率的な方法で行われるために、太陽エネルギーなどを水素ガス燃料に転換する手段としては商業的に非実用的である。これに関して、電解ガス生産は、4つのプロトン及び4つの電子を伝達して、カソードではプロトンが還元されるとともに、アノードでは酸素‐酸素結合が形成される。
【0006】
ある程度有用な速度(rate)でその反応を起こさせるための相当量のエネルギーを、必要とされる理論上の最小値を超えて(過電圧)提供する必要がある。
【0007】
特定アノード及び/又は触媒を用いて反応を起こさせるために必要とされる過電圧(overpotential)の量を減らすための努力が行われてきた。これは多少役に立っていた。しかし、この使用を実行するには、依然として商業的な障害が存在していた。
【0008】
例えば、一部の触媒は、必要とされる反応条件において劣化する(分解する)。また、その他の触媒は、リーズナブルな値段で広く利用できないか、または、必要とされる過電圧を十分に減らすことができない。
【0009】
いくつかの酸化コバルト材料を、水酸化物電解質システムにおける水電気分解触媒として使用する試みもあった。これらは、強塩基媒質において活性のCoIII酸化物クラスター(cluster)で構成される。これらは、CoII、CoIII、及びCoIV-oxo種にかかわるプロセスを通じて進むものと見られる。これらは、水酸化物が電解質および緩衝液の両方であり、最適な効率(有効性)のために上昇された温度にて働くために、効率よく機能できる塩基性環境(条件)を必要とする。カソードによって駆動された反応(たとえば、水から水素の形成、または、二酸化炭素ガスからメタノールへの転換)は最も有効な生産に適した特定のpHを有する。これらは、この先行技術のコバルトシステムの条件と関連がない。
【0010】
米国特許第3,399,966号には、フルオロホウ酸塩(fluoborate)電解質を用いる一つの実施例において使用された、電気分解アノード上の酸化コバルト被覆物が記載されている。しかしながら、これは、過電圧について十分に触れていない。
【0011】
関連のない分野で、 CoF3とフルオロコバルト酸塩(III)(fluorocobaltateIII)が水と反応して酸素およびHFを放出することが知られている。文献[H. Priest, Anhydrous Metal Fluorides, 3 Inorg. Syn. 171-183 (1950); V. Ustinov et al., Separation Of Oxygen Isotopes In The Fluorination Of Oxygen-containing Compounds, 52 Zh. Fiz. Khim. 344-347 (1978); V. Klemm et al., Uber Fluorocobaltate(III) und -(IV) und Fluoroniccolate(III), 308 Anorg. Allg. Chem. 179-189 (1961)]参照。
【0012】
さらに、電気化学研究においてコバルトとフッ化物(fluoride)イオンの両方を含む水性および非水性溶液についてのいくつかの試みがあった。 文献[A. Kappanna et al., Anodic Reactions In The Electrolysis Of Acid-Cobalt-Fluoride, 18 Current Science 27 (1958); B. Cox et al., Complex Fluorides..., J. Chem. Soc. 1798-1803 (1954); M. Meyers et al. The Preparation, Structures..., 82 J. Am. Chem. Soc. 5027-5030 (1960); and T. Court et al., Solution Chemistry Of Cobalt In Liquid Hydrogen Fluoride, 6 J. Fluorine Chem. 491-498 (1975)]参照。
【0013】
水性リン酸塩、ホウ酸塩、および、メチルホスホン酸塩(methylphosphonate)緩衝液中Co2+塩の溶液を電気分解することで水酸化触媒(water oxidation catalyst)を生成する技術が最近報告されている。文献[M. Kanan et al., In Situ Formation Of An Oxygen-Evolving Catalyst In Neutral Water Containing Phosphate And Co2+, 321 Science 1072-1075 (2008); and Y. Surendranath et al., Electrolyte-Dependent Electrosynthesis.., 131 J. Am. Chem. Soc. 2615-2620 (2009)]参照。しかしながら、有用な電流密度において要求される過電圧は商業的な使用(適用)に対する重大な障害となり、そのシステムのpHは、中性または弱アルカリ性(mildly alkaline values)に限られる。
【0014】
したがって、電気分解反応において水を酸素および水素に転換するための改善の必要があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記問題を解決するために、以下に記載する方法、アノード、又は、電解セルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一つの態様において、本発明は、電気分解反応を通じて酸素および水素からなる群から選択されるガスを生成する方法を提供する。水溶液中にアノードおよびカソードを配置する。そのアノードに隣接した水溶液の少なくとも一部が、水、コバルトカチオン、および、アニオン(例えば、フッ化物)電解質を含む。その後、pH3〜6.8(特に、pH5.8未満)において、前記アノードおよびカソードから前記電気分解反応を起こさせるために外部電源(external source of electricity)を使用する。それによって、選択されたガスが生成される。
【0017】
好ましくは、前記アニオン電解質は、フッ化物(fluoride)、フルオロリン酸塩(fluorophosphate)、トリフルオロメチルスルホンアミド(trifluoromethyl sulfonamide)、トリフルオロメチルスルホンアミド以外の他のパーフルオロアルキルスルホンアミド (other perfluoroalkyl sulfonamides) 、トリフルオロメチルホスホネート (trifluoromethyl phosphonate) 、トリフルオロメチルホスホネート以外の他のパーフルオロアルキルホスホネート(other perfluoroalkyl phosphonates)、パーフルオロ-tert-ブトキシド(perfluoro-tert-butoxide)、パーフルオロ-tert-ブトキシド以外の他の全フッ素置換アルコキシド(other perfluorinated tertiary alkoxides)、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物(deprotonated hexafluoroacetone hydrate) 、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物以外の他の全フッ素置換ジアルキルケトン水和物アニオン(other anions of perfluorinated dialkyl ketone hydrates)、及びクロム酸塩(chromate)からなる群から選択され、そして、前記ガスは、前記カソードにおいて生成された水素および前記アノードにおいて生成された酸素の1以上である。
【0018】
別の態様において、前記方法を通じて、コバルト、酸素、および、前記アニオン電解質を有する触媒が前記アノード上に被覆(蒸着)される。
【0019】
最も好ましくは、前記コバルトカチオンは、前記アノードに隣接した前記水溶液中に、0.1〜100mM(例えば、約1mM)の濃度で存在し、前記アニオンは、前記アノードに隣接した前記水溶液中に、0.01〜2M(例えば、0.1M)の濃度で存在する。これは、ニッケルまたは亜鉛のようなその他のカチオンを有するか、または、有しない。
【0020】
本発明の別の形態は、電気分解反応を通じて水から酸素および水素からなる群から選択されるガスを生成する方法を提供する。水中にアノードおよびカソードを配置する。前記アノードは、触媒被覆物を有する基材を含み、前記触媒被覆物は、コバルト、酸素、および、アニオンを含み、そして、前記アニオンは、フッ化物、フルオロリン酸塩、トリフルオロメチルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド以外の他のパーフルオロアルキルスルホンアミド、トリフルオロメチルホスホネート、トリフルオロメチルホスホネート以外の他のパーフルオロアルキルホスホネート、パーフルオロ-tert-ブトキシド、パーフルオロ-tert-ブトキシド以外の他の全フッ素置換三級アルコキシド、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物、 脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物以外の他の全フッ素置換ジアルキルケトン水和物アニオン、及びクロム酸塩からなる群から選択される。その後、前記アノードおよび前記カソードから前記電気分解反応を起こさせるために外部電源を使用して、前記ガスを発生させる。
【0021】
前記触媒がアニオンとしてフッ化物を有する場合、そのアニオン上の前記触媒被覆物は、好ましくは、各コバルトに対して約2つの酸素を有し、そして、前記触媒は、フッ化物として約5〜9%、より好ましくは、約7%のフッ素である。例えば、一実施例において、その比率(Co:O:F)は4.24:8.9:1である。
【0022】
水電気分解に使用するのに適した様々な周知のアノード材を基材材料(substrate material)に使用することができるが、インジウムスズ酸化物(indium tin oxide)及びフッ素スズ酸化物(fluorine tin oxide)からなる群から選択された酸化スズ(tin oxide)を使用することが好ましい。
【0023】
一例として、生成されたガスは、水素および酸素の両方であっても良く、水素は、前記カソードにおいて生成され、かつ、酸素は、前記アノードにおいて生成され得る。基材は、導電性の酸化スズ系基材であり得る。
【0024】
本発明の別の態様は、電気分解反応で酸素を生成するのに適したアノードを提供する。そのアノードは、基材と、前記基材上に配される触媒被覆物と、を含む。前記触媒被覆物は、コバルト、酸素、および、アニオンを含み、そのアニオンは、フッ化物、フルオロリン酸塩、トリフルオロメチルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド以外の他のパーフルオロアルキルスルホンアミド、トリフルオロメチルホスホネート、トリフルオロメチルホスホネート以外の他のパーフルオロアルキルホスホネート、パーフルオロ-tert-ブトキシド、パーフルオロ-tert-ブトキシド以外の他の全フッ素置換三級アルコキシド、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物、 脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物以外の他の全フッ素置換ジアルキルケトン水和物アニオン、及びクロム酸塩からなる群から選択される。
【0025】
前記触媒被覆物は、前記基材が、コバルトカチオン及び前記選択されたアニオンを含んだ水溶液中に配置される電気分解反応の際に、前記基材上への前記触媒被覆物の電解膜蒸着(「電着」ともいう(electrolytic film deposition))によって、前記基材上に配置されるのが好ましい。
【0026】
アノードの特に望ましい用途は、前述のアノードと、カソードと、を備えた電解セル(electrolysis cell)である。カソードは、様々な目的(purpose)を有し得る。一つの態様において、それは水素ガスを生成し得る。その代わり、それは、二酸化炭素をメタノールに転換する等のその他の別の還元目的(reduction purpose)で使用されることもある。文献[See generally G. Seshadri et al., A New Homogeneous Electrocatalyst For The Reduction Of Carbon Dioxide To Methanol At Low Overpotential, 372 Journal Of Electroanalytical Chemistry 145-150 (1994); E. Cole et al., Using A One-Electron Shuttle For the Multielectron Reduction Of CO2 To Methanol: Kinetic, Mechanistic, And Structural Insights, 132 J. Am. Chem. Soc. 11539-11551 (2010)]参照。
【0027】
本発明の別の方法は、コバルトカチオン及び前記選択されたアニオンを含んだ水溶液中に前記基材を配置し、そして、前記アノードとして前記基材を使用して電気分解反応を行うことを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明の別の適用(用途)として、再生可能な又はその他の別のエネルギー源(例えば、ソーラーセル又は風力タービン(wind turbine))を使用して電気を生産することができる。その電気(電力)を用いて、本発明の電気分解反応を引き起こし、乗り物又はその他の装置用の代案的な燃料源として使用するのに適した(得られた)水素ガスを収集する。収集された酸素ガスは、無数のその他の周知の目的で使用することができる(例えば、建物の室内空気における酸素含量を上げる目的など)。
【0029】
この反応は、大規模の生産設備で行うことも、又は、居住サイズの発電システム(residential size generation system)を通じて行うこともできる。後者のアプローチに基づいて、(家の持ち主は)ソーラーセルまたは風力タービンによって発電されたエネルギーを用いて、自動車用の燃料補給手段(way of refueling)として活用することができる。
【0030】
本発明の触媒/アノードは、周囲条件(ambient room conditioning)においても、高度の塩基反応条件を要することなく、効率良く(電流密度に増加に比べて過電圧の増加は低い。)働く。また、これらは、これらの反応が行われる高度の酸化条件(highly oxidizing condition)下においても安定している。また、コバルト及び特定アニオンは、低価格で比較的多量が利用可能である。これらのファクターは、前述した燃料発電システムをより商業的に実用的にするために重要である。
【0031】
また、緩衝電解質(buffering electrolyte)のいずれかを選択することによって、特定の用途(適用)に対して望ましい酸性pH動作条件(acidic pH operating condition)を選択することができる。あまり低いpH(例えば、硫酸pH)は、触媒を被覆できないか、及び/又は、過酸化水素を形成するなどの副反応を起こさせる等の問題を引き起こす可能性があることに注意されたい。特に、我々は、実験を通じて、pH3未満では、酸素を生成する不均一触媒作用(heterogeneous catalysis)から均一系触媒作用(homogeneous catalysis)へのシフト(変化)が起こり、それによって、副産物が形成される。
【0032】
あまり高いpH(例えば、中性〜塩基性pH)は、カソード反応を非最適なpH(non-optical pH)にするか、又は、全体的なセルに対してかなり費用がかさむ変形(変更)をもたらし得る。
【0033】
本発明の前述の利点及びその他の利点は、以下の発明の詳細な説明の項から明らかになる。以下の説明は、単に本発明の好ましい実施例を示すものである。したがって、本発明の技術的範囲は専ら特許請求の範囲によって定められる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、水の電気分解を行うための先行技術のシステムを概略的に示す。
【図2】図2は、電解液(electrolytic solution)にコバルトを追加した図 1型システム(11)と、コバルトなしの同様のシステム(10)の効果を比較したものである。
【図3】図3は、実験(11)からの触媒被覆物(catalyst coating)をアノード上に設けた後の結果(13)と、コバルトフリー溶液における被覆触媒アノードの使用(14)を比較した比較実験である。
【図4】図4は、pH3.0(16)、pH4.5(17)、pH5.5(18)、及びpH7.1 (19)において(13)を用いた同様の実験の結果を示す。
【図5】図5は、電解質がpH3.5でフッ化物を含む同様の実験(23/24)、または、pH7.0でリン酸塩を含む同様の実験(25/26)を示す。
【図6】図6は、電解質がフッ化物を含む(20)またはリン酸塩を含む(21)ときの電流密度対時間効果(current density versus time effect)を比較したものである。
【図7】図7は、フルオロリン酸塩(fluorophosphate)電解質を用いた図1型セルの動作(operation)からのテスト結果である。
【図8】図8は、トリフルオロメチル・スルホンアミド(trifluoromethyl sulfonamide)電解液を用いた図1型セルの動作からのテスト結果を示す。
【図9】図9は、硫酸塩電解質を用いた図1型セルの操作からのテスト結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
電解液を製造するために、我々は、CoSO4、CoCl2、Co(NO3)2等のコバルト(cobalt++)カチオン(約1mM)を水に加えた。我々は、フッ素化物アニオン(約0.1M)を加えた。KF及びHFのpH緩衝混合物(pH buffered mixture)の形態でフッ化物アニオンを用意したほうが好ましい。別のpHを用いた我々は実験において、そのpHは、必要に応じて、KHF2又はNaOHを加えることで調整された。
【0036】
別の電解液において、我々は、CoSO4、CoCl2、Co(NO3)2等を加えることなどによって、水に約1mMのコバルト++カチオンを加えた。我々は、また予め決めておいた緩衝電解質(buffering electrolyte)を、通常約0.1M又は1Mの濃度で加えた。全ての電位(potential)は、NHE基準電極(reference electrode)に対して定める。
【0037】
図2〜図6の実験において、我々は、約1.48V(例えば、1.33V〜1.58V)で前述した電解液を用いて図1の装置を動かすことによって我々の触媒の電解フィルム蒸着(electrolytic film deposition)を行った。いったん我々の触媒でアノードを被覆すると、電解液がコバルト又はフッ化物を含むかどうか重要ではない。フッ化物を使用して続けて動かすことができた。
【0038】
図2は、pH5において1mMのCoSO4を含む、及び、含んでない0.1MのKF電解質においてインジウムスズ酸化物基板アノードの環状ボルタンメトリースキャン(cyclic voltammetry scan)の結果を示す。この縦軸は、ログ電流密度(log current density)である。この横軸は、電圧(voltage)である。コバルトイオン(II)の存在下では、触媒電流が突然生じた。電圧を逆にスキャンすると(scan back)、Ep,c=1.07Vに中心がある広いカソードピーク(cathodic peak)が現れた。
【0039】
電着(electrodeposition)に続いて、我々は図3の実験を行った。1mMのCoSO4を含んだpH5の0.1Mフッ化物において600s、1.48Vにて連続制御電位(continued controlled-potential)電気分解を行い、その後、コバルトを含んだ緩衝液において1.48V,600s.CPEを行ったら、その後の環状ボルタンメトリースキャン上において触媒電流が増加された物質の薄膜(film)の蒸着が得られた。これら(13)の実験によって、触媒電流にブレンド(blend)された〜1.2Vのアノードウェーブ(anodic wave)が見られた。
【0040】
1.48Vで10分間新しい(新鮮な)pH5フッ化物緩衝液における電極の洗浄及び電気分解後の環状ボルタンメトリースキャンによって、電解液中にコバルトが無くても、被覆されたアノードはほぼ同様の活性を保持していることが分かった(14)。我々の実験において、電極が〜1Vのカソードウェーブ(それ未満では、触媒の溶解が観察される。)よりも還元性の電位で保持されなければ、触媒効果が見られた(note)。
【0041】
図4に示すように、その後我々は、黒鉛アノードを使用して、異なるpHの効果を比較した。我々は、約中性pHでも触媒効果がかなり有効であることを確認した。
【0042】
我々は、本発明の触媒の有効性(efficiency)と、コバルトを備えた、フッ化物以外の別のアニオンを使用した触媒結果と、を比較した。これらの実験は、図5に示されている。図5の実験によって、これらのモール濃度において、フッ化物アニオン(23)/1M又は(24)/0.1M対リン酸塩(25)又は(26)(同様のモール濃度)の優位性(superiority)が確認された。我々は、電流密度ログ対過電圧(log of the current density versus overpotential)を比較した。
【0043】
その後、我々は、攪拌された、非分割セル(undivided cell)において(ダイヤグラム8を有しない。)フッ化物−緩衝化コバルト溶液の定電位電気分解(constant-potential electrolyses)にかかわる実験を行った。これらの実験は、ガスの収集に焦点が当てられたものではない。図6の実験は、最初pH5において行われ、グラフに表したような蒸着(deposition)を反映する電流増加パターンが現れた。電流の増加とともに、電極上の可視的な蒸着(物)及び泡立ち(bubbling)の増加が見られた。フッ化物の結果(20)は、リン酸塩(21)よりも優れたものであり、硫酸塩に比べてはるかに優れたものであった。
【0044】
低pHのコバルトフリー緩衝液における長時間(prolonged)の電気分解では、時間の経過とともに電流の減少が見られた。我々は、これが、アノード上の可視的な被覆(物)の軽微な溶解に基づくと考えた。これは、HFのpKaがその固体のpKaに近いことを示唆する。しかしながら、定常状態は約0.1mMCo++で得られた。その代わりに、アノード被覆物の形成後の電解液におけるフッ化物の濃度増加は、より安定な被覆(蒸着)(deposit)をもたらすことが分かった。
【0045】
図7の実験において、我々は、硫酸又は水酸化ナトリウムを用いてpH4.8に調整したモノフルオロリン酸ナトリウム(sodium monofluorophosphate)として用意した0.1Mフルオロリン酸塩(fluorophosphate)を使用した。約1.3Vにおいて触媒が蒸着(被覆)され、そして、その後得たセルは約1.6Vにおいて効率的に動いた(機能した)。
【0046】
図8の実験において、我々は、水酸化ナトリウムを用いて約pH6.3に調整した0.1Mのトリフルオロメチル・スルホンアミド(trifluoromethyl sulfonamide)を使用した。1.05Vにおいてアノード上に触媒が蒸着(被覆)され、そして、その後得たセルは約1.55Vにおいて効率良く動いた(機能した)。
【0047】
図9の実験において、我々は、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpH2.2に調整した硫酸ナトリウム及び重硫酸ナトリウム(sodium bisulfate)の50/50ミックスとして用意した1M硫酸塩を使用した。触媒はアノード上に蒸着(被覆)されなかった。
【0048】
クロム酸塩(chromate)を用いた我々の予備実験において同様の有用性が示された。したがって、別の実施形態において、我々は、水酸化ナトリウムを用いて約pH6.5に調整したクロム酸ナトリウム(sodium chromate)及び三酸化クロム(chromium trioxide)として用意した1Mクロム酸塩を想定する。
【0049】
さらなる別の実施形態において、我々は、水酸化ナトリウムを用いて約pH6.5に調整したパーフルオロアルキルホスホン酸(perfluoroalkyl phosphonic acid)として用意した1Mのトリフルオロメチルホスホン酸塩又はその他のパーフルオロアルキルホスホン酸塩を想定する。
【0050】
更なる別の実施形態として、我々は、水酸化ナトリウムを用いて約pH4.5に調整した全フッ素置換アルコール(perfluorinated alcohol)又はケトンとして用意された、1Mのパーフルオロ‐tert−ブトキシド(perfluoro-tert-butoxide)或いはその他の全フッ素置換三級アルコキシド(other perfluorinated tertiary alkoxides)、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物(deprotonated hexafluoroacetone hydrate)、又は、全フッ素置換ジアルキルケトン水和物のその他のアニオン(other anions of perfluorinated dialkyl ketone hydrates)を想定する。
【0051】
カソード(6)は、そのカソードが露呈される条件下での水加水分解(water electrolysis)における使用に適した任意のカソードであっても良い。特に好ましいカソードは、白金または白金めっき黒鉛カソードである。
【0052】
アノード(4)は、基材(5)から始まる。その基材(5)は、そのアノードが露呈される条件下での水電気分解における使用に適したいずれかのアノードであり得る。アノードに対して特に好ましい基材は、酸化スズ(スズ酸化物)(tin oxides)、特に、インジウムスズ酸化物(indium tin oxide)又はフッ素スズ酸化物(fluorine tin oxide)である。
【0053】
いったんアノードが本発明の触媒で被覆されると、電解液がコバルト及びアニオンの両方を含むかどうかはもう重要ではない。コバルトなしでアニオンを使用して続けて動かすこともできる。
【0054】
本発明の改良されたアノードを使用することで酸素ガスを発生させることができる(カソードにおける水素とともに)。定電位蒸着(constant-potential deposition)によって用意された電極は、図1のような密閉型の(closed)分割セル(divided cell)内の0.1M−1Mアニオンに配置され、そして、圧力トランスデューサー(pressure transducer)に接続され得る。両方のアノード及びカソードにおけるガスの生成(発生)を確認することができる。
【0055】
また、我々は、触媒の特性についてのさらなる研究を行った。一つの実験において、我々は、触媒がコバルト、酸素、及び、フッ素を、1のフッ素に対して、約4.24のコバルト(の比率)、及び、約8.9の酸素(の比率)で含むものと決定した。我々は、フッ素が、その材料においてフッ化物として存在すると考える。蒸着(被覆)のSEM画像は、溶融球状の小塊(fused spherical nodule)層を示す。その触媒は、黄茶色であった。
【0056】
我々は、この触媒F-は、O−O結合形成までの途中でCo(H2O)又はCoOH部(moiety)のいずれかを有するクラスター部位の酸化の際にプロトンアクセプタ(proton acceptor)として働くものと考える(その後、溶液中で形成されたHFをF-と交換するか、又は、プロトンを伝達する)。低コバルト濃度の硫酸塩電解液において触媒能力のある蒸着物(被覆物)(catalytically competent deposit)を形成できないことは、SO42-が塩基としてあまりにも弱いことを示唆する。
【0057】
フッ化物を使用した我々の実験に基づけば、フッ化物はリン酸塩よりも多少より複雑な役割を果たすことが示唆された。我々は、それが単に塩基として働くものではないと考える。フッ化物は、コバルト上でリガンドとして働くことができ、そして、フッ化物は、触媒中心(catalytic center)との反応に向けて水分子を活性化するのに一定の役割をし得る強力な水素結合アクセプタ(hydrogen-bond acceptor)でもある。
【0058】
オキシフッ化コバルト(cobalt oxyfluoride)化合物が容易に生成されるので、我々は、1以上のフッ化物リガンドを有する酸化コバルトクラスターが形成されて本発明に係る触媒を生じさせること、及び、これは、水との交換(exchange with water)を経て、外圏フッ化物(outer-sphere fluoride)への電子結合プロトン伝達(electron−coupled proton transfer)にかかわるアクア・コンプレクス(aqua-complex)を形成して、観察された水酸化(water oxidation)を起こさせるCo(O)種を含んだクラスターを生じさせるという説明を好む。
【0059】
本発明に関するいくつかの実施例について前述したが、本発明は記載されたこれらの実施例に限られない。その他の変更・変形も本発明の範囲及び請求項の範囲に含まれる。したがって、本発明の全範囲を判断するためには、特許請求の範囲を考慮すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、水電気分解及びその他の還元反応(マイルドな酸条件において触媒化反応が行われる)における使用に適した触媒材を提供する。本発明は、これらを使用して燃料及び酸素ガスを発生させる方法、及び、これらのアノードを製造方法に有用なアノードを提供することで、再生可能なエネルギーのより実用的な保管方法(保存方法)を達成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気分解反応を通じて酸素および水素からなる群から選択されるガスを生成する方法であって、
pH3〜6.8の水溶液中にアノードおよびカソードを配置し、かつ、外部電源を使用して前記アノードおよび前記カソードから前記電気分解反応を引き起こし、それによって、前記ガスを発生させることを含み、そして、
前記アノードに隣接した前記水溶液の少なくとも一部が、水、コバルトカチオン、および、アニオン電解質を含む、方法。
【請求項2】
前記pHが5.8未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アニオン電解質が、フッ化物、フルオロリン酸塩、トリフルオロメチルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド以外の他のパーフルオロアルキルスルホンアミド、トリフルオロメチルホスホネート、トリフルオロメチルホスホネート以外の他のパーフルオロアルキルホスホネート、パーフルオロ-tert-ブトキシド、パーフルオロ-tert-ブトキシド以外の他の全フッ素置換三級アルコキシド、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物、 脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物以外の他の全フッ素置換ジアルキルケトン水和物のアニオン、及びクロム酸塩からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ガスが、水素および酸素の両方であり、前記水素は、前記カソードにおいて生成され、かつ、前記酸素は、前記アノードにおいて生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法を通じて、コバルト、酸素、および、前記アニオン電解質を含む触媒が前記アノード上に被覆される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記コバルトカチオンが、前記アノードに隣接した前記水溶液中に、0.1〜100mMの濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アニオンが、前記アノードに隣接した前記水溶液中に、0.01〜2Mの濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
電気分解反応を通じて水から酸素および水素からなる群から選択されるガスを生成する方法であって、
水中にアノードおよびカソードを配置し、かつ、外部電源を使用して前記アノードおよび前記カソードから前記電気分解反応を引き起こし、それによって、前記ガスを発生させることを含み、
前記アノードは、触媒被覆物を有する基材を含み、
前記触媒被覆物は、コバルト、酸素、および、アニオンを含み、そして、
前記アニオンは、フッ化物、フルオロリン酸塩、トリフルオロメチルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド以外の他のパーフルオロアルキルスルホンアミド、トリフルオロメチルホスホネート、トリフルオロメチルホスホネート以外の他のパーフルオロアルキルホスホネート、パーフルオロ-tert-ブトキシド、パーフルオロ-tert-ブトキシド以外の他の全フッ素置換三級アルコキシド、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物、 脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物以外の他の全フッ素置換ジアルキルケトン水和物のアニオン、及びクロム酸塩からなる群から選択される、方法。
【請求項9】
前記ガスが、水素および酸素の両方であり、前記水素は、前記カソードにおいて生成され、かつ、前記酸素は、前記アノードにおいて生成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が、酸化スズを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
電気分解反応で酸素を生成するのに適したアノードであって、
基材と、前記基材上に配される触媒被覆物と、を含み、
前記触媒被覆物は、コバルト、酸素、および、アニオンを含み、そして、
前記アニオンは、フッ化物、フルオロリン酸塩、トリフルオロメチルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド以外の他のパーフルオロアルキルスルホンアミド、トリフルオロメチルホスホネート、トリフルオロメチルホスホネート以外の他のパーフルオロアルキルホスホネート、パーフルオロ-tert-ブトキシド、パーフルオロ-tert-ブトキシド以外の他の全フッ素置換三級アルコキシド、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物、脱プロトン化ヘキサフルオロアセトン水和物以外の他の全フッ素置換ジアルキルケトン水和物のアニオン、及びクロム酸塩からなる群から選択される、アノード。
【請求項12】
前記基材が、コバルトカチオン及び前記選択されたアニオンを含んだ水溶液中に配置される電気分解反応の際に、前記触媒被覆物が、前記基材上への前記触媒被覆物の電着によって、前記基材上に配置される、請求項11に記載のアノード。
【請求項13】
請求項10に記載のアノードと、カソードと、を含む電解セル。
【請求項14】
前記カソードが、水素ガスを生成するのに適したものである、請求項13に記載の電解セル。
【請求項15】
前記カソードが、二酸化炭素を二酸化炭素以外の別の炭素含有材に転換するのに適したものである、請求項13に記載の電解セル。
【請求項16】
前記カソードが、二酸化炭素をメタノールに転換するのに適したものである、請求項15に記載の電解セル。
【請求項17】
コバルトカチオン及び前記選択されたアニオンを含んだ水溶液中に前記基材を配置し、そして、前記アノードとして前記基材を使用して電気分解反応を行うことを含む、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−512349(P2013−512349A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542106(P2012−542106)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/058150
【国際公開番号】WO2011/068743
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ ファウンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】