説明

練パイ用油脂組成物

【課題】生地製造時に、生地への分散性が良好であり、生地のまとまりが良好であり、さらに、折り畳み時に延展性が良好で、生地がポロポロしない、練パイ生地を得るための練パイ用油脂組成物、該練パイ用油脂組成物を使用してなる該特徴を有する練パイ生地、及び、該練パイ生地を加熱してなる、歯切れが良好で、損壊しにくく、浮きが均一で良好である層状食品を提供すること。
【解決手段】澱粉類を25〜75質量%含有する練パイ用油脂組成物、該練パイ用油脂組成物を使用してなる練パイ生地、及び、該練パイ生地を加熱してなる層状食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、練パイ用油脂組成物に関するものであり、詳しくは、練パイ方式で製造するパイ、クロワッサン、デニッシュ・ペストリー等の層状食品を製造する際に使用する練パイ用油脂組成物に関するものである。また、本発明は、該練パイ用油脂組成物を使用してなる練パイ生地、及び該練パイ生地を加熱してなる層状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
層状菓子としては、デニッシュ・ペストリー、パイなどがある。
これらの層状菓子を得るための生地配合は、一般に、澱粉類100質量部に対して油脂15〜150質量部、水30〜60質量部であり、その一般的な製造方法としては、澱粉類100質量部に対して、水30〜60質量部と5〜30質量部の練り込み油脂を使用した澱粉類生地をいったん製造し、この澱粉類生地に、シート状のロールイン油脂を包み込み、圧延、折り畳みを繰り返して層状生地とし、これを圧延、成形後、焼成する方法が挙げられる。この方法は折りパイ方式といわれる。
【0003】
しかし、この折りパイ方式で得られた層状菓子は、折り操作によってグルテンが強くなるため、硬い食感やひきのある食感になりやすく、また、層の結着性も弱いため損壊しやすく、大きな問題となっていた。
【0004】
また、層状菓子を得るための、別の製造方法として練パイ方式がある。該練パイ方式とは、小片状のロールイン油脂を使用し、オールインミックス法などの方法で小片状油脂を分散した澱粉類生地を製造し、これを、圧延、折り畳みを繰り返して層状生地とし、これを圧延、成形後、焼成するものである。
【0005】
この練パイ方式で得られた層状菓子は、上記折りパイ方式で得られた層状菓子に比べ、ひきが弱く歯切れのよい食感となり、また層の結着性もやや強いため損壊しにくく、焼成中の反りや縮みが抑制されているものの、折りパイ方式よりも生地水分含量を2〜5%(対粉)低くする必要があることから、澱粉類の吸水が不均一になること、又、小片状のロールイン油脂が層状生地中で均一な層状とはならないことから、圧延、折り畳み時に生地がポロポロして扱いにくく、また得られる層状食品も浮きが不均一になりやすく、安定した形状とならない問題があった。
【0006】
そこで、このような層状菓子の問題を解決するための各種検討が行われてきた。例えば、特定の固形脂含有率の油脂を加熱溶融し、澱粉類及びその他の材料に均一に混合した後、冷却し、水を加え、混捏した生地を、圧延、成形及び加熱する方法(例えば特許文献1参照)や、油脂を2回以上に分けて添加、練り込んだ菓子生地を、圧延、成形した後、焼成及び/又はフライする方法(例えば特許文献2参照)、原材料の一部として、押し出し処理を施したパイ生地を添加して練パイ 生地を製造し、成型し、焼成する方法(例えば特許文献3参照)、澱粉類100質量部に対し、油脂15〜150質量部及び水30〜60質量部を含む練パイ生地を製造する際に、澱粉類を2回以上に分けて添加、練り込む方法(例えば特許文献4参照)などが提案されてきた。
【0007】
しかし、特許文献1の方法は、層剥れについても改善されないため損壊しやすく、また食感が脆すぎるという問題があり、特許文献2の方法は、グルテン構造を補強して、擬似層状構造を形成するものであるため、食感が硬く、歯切れが悪いという問題があった。また、特許文献3に記載の方法は、生地部分の油脂含量が増加することから、食感がソフトで歯切れが悪いという問題があった。さらに、特許文献4に記載の方法は、澱粉類の添加量によっては、2回目の澱粉類の添加時に時間がかかりすぎるためグルテンが出やすく硬い食感になりやすいという問題があった。
【特許文献1】特開平3−254626号公報
【特許文献2】特開2005−341902号公報
【特許文献3】特開平11−266778号公報
【特許文献4】特開2007−252202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生地製造時に、生地への分散性が良好であり、生地のまとまりが良好であり、さらに、折り畳み時に延展性が良好で、生地がポロポロしない、練パイ生地を得るための練パイ用油脂組成物、該練パイ用油脂組成物を使用してなる該特徴を有する練パイ生地、及び、該練パイ生地を加熱してなる、歯切れが良好で、損壊しにくく、浮きが均一で良好である層状食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、練パイ方式において、澱粉類の添加方法を工夫することにより、上記の従来技術の問題を解決可能であることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、澱粉類を25〜75質量%含有する練パイ用油脂組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、該練パイ用油脂組成物を使用してなる練パイ生地を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、該練パイ用生地を加熱してなる層状食品を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、澱粉類を25〜75質量%含有する練パイ用油脂組成物を、ベースとなるベーカリー用生地に分散させた後、折りたたみ操作を行い、層状生地としたことを特徴とする練パイ生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の練パイ用油脂組成物を使用すると、生地への分散性が良好であり、生地のまとまりが良好であり、さらに、折り畳み時に延展性が良好で、生地がポロポロしない、練パイ生地が得られ、さらに、歯切れが良好で、損壊しにくく、浮きが均一で良好である層状食品を、安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の練パイ用油脂組成物について詳細に説明する。
【0016】
上記本発明の練パイ用油脂組成物に用いる油脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
なお、本発明の練パイ用油脂組成物における油脂含有量は、下に述べるその他の成分に含まれる油脂も含め、好ましくは25〜75質量%、より好ましくは30〜60質量%である。油脂含有量が25質量%未満であると、練パイ用油脂組成物として好ましい可塑性が得られにくいことに加え、得られる層状食品に良好な層状構造が得られないおそれがあり、75質量%を超えると、得られる層状食品の浮きが不均一になるおそれがある。
【0018】
本発明の練パイ用油脂組成物は、澱粉類を25〜75質量%、好ましくは30〜60質量%含有する。澱粉類の含有量が25質量%未満、又は、75質量%を超えると、本発明の効果が得られない。
【0019】
本発明で用いる澱粉類としては、まず穀粉類、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類等が挙げられる。また、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシュ―ナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼなどの酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理などの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。
【0020】
本発明では、上記の中でも、良好な可塑性の練パイ用油脂組成物とすることが可能な点で穀粉類を使用することが好ましく、より好ましくは小麦粉類を使用する。
本発明の練パイ用油脂組成物は、上記澱粉類に加え、増粘安定剤を好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%含有するものであることが好ましい。
上記増粘安定剤が含まれることにより、さらに損壊しにくい層状食品を得ることができる。
【0021】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、ファーセルラン、タラガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガム、大豆多糖類などが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
本発明の練パイ用油脂組成物は、上記油脂、上記澱粉類、上記増粘安定剤に加え、本発明の効果に影響のない範囲において、その他の成分を含むものであってもよい。
上記その他の成分としては、たとえば、水、糖類や甘味料、乳化剤、デキストリン、乳や乳製品、卵類、食塩、塩味剤、苦味料、酸味料、酵素、酸化防止剤、着色料類、pH調整剤、膨張剤、無機塩類、生地改良剤、食品保存料、日持ち向上剤、着香料、アルコール類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス等の食品や食品添加物が挙げられる。
【0023】
その他の成分は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、本発明の練パイ用油脂組成物中合計で20質量%以下、より好ましくは10質量%以下となる範囲で使用する。
【0024】
上記水としては、特に限定されず、天然水や水道水などが挙げられる。
本発明の練パイ用油脂組成物における好ましい水の含有量は、好ましくは0〜20質量%、より好ましくは0〜12質量%である。20質量%を超えると、練パイ用油脂組成物の保存性が悪化しやすいことに加え、得られる練パイ生地にダマが生じやすい。
なお、本発明においては、上記水の含有量は、上記天然水や水道水をはじめ、その他の原料中に含まれる水分を併せた含有量である。
【0025】
上記の糖類や甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、はちみつなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチンなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明の練パイ用油脂組成物における乳化剤含量は好ましくは0〜20質量%、より好ましくは0〜10質量%である。
【0027】
上記乳や乳製品としては、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・発酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
本発明の練パイ用油脂組成物は気相が含まれるものであっても含まれないものであってもよい。
【0029】
本発明の練パイ用油脂組成物の製造方法について述べる。
【0030】
本発明の練パイ用油脂組成物は、可塑性油脂組成物を製造する際に澱粉類を添加して製造する方法や、油脂と澱粉類を混合するものであってもよいが、粘度やラインでの圧力を考慮する必要がなく製造がより容易である点で油脂と澱粉類を混合する方法であることが好ましい。
【0031】
なお、上記油脂と澱粉類の混合方法としては特に限定されず、可塑性〜溶解した状態の油脂を澱粉類とミキサー等を使用して混合する方法や、溶解した状態の油脂を澱粉類にスプレーしながら混合する方法等の方法を挙げることができる。
【0032】
そして、前述の方法で得られた練パイ用油脂組成物は、小片状に成形することが好ましい。小片状に成形することにより、練パイ製造時にただちに練パイ生地を製造することが可能となる。なお、この際に、油脂と澱粉類の混合物を、いったん冷凍してから小片状に成形してもよい。
【0033】
上記小片状とは、立方体状、直方体状、角柱状、円柱状、半円柱状、球状、薄片状、そぼろ状、塊状等の形状で、その大きさが、立方体状又は直方体状のものは一辺の長さが2mm以上30mm以下程度、角柱状のものは断面となる多角形の一辺が2mm以上30mm以下で長さが2mm以上100mm以下程度、円柱状又は半円柱状のものは直径が2mm以上30mm以下で長さが2mm以上100mm以下程度、球状のものは直径が2mm以上30mm以下程度、薄片状のものは厚さが0.5mm以上5mm以下程度、そぼろ状や塊状の場合はその平均粒径が2mm以上30mm程度のものである。
該範囲外であると、ベースとなるベーカリー生地への分散性が悪化するおそれがある。
【0034】
小片状に成形する方法としては、特に限定されるものではないが、本発明の練パイ用油脂組成物を製造する際、小片状の型に流しこみ冷却固化させる方法や、いったん冷却した練パイ用油脂組成物を、包丁や自動ラインで小片状にカットする方法や、小穴をあけた口金を通す押し出し成形で吐出させた後にカットして小片状とする方法等が挙げられる。
次に、本発明の練パイ生地について述べる。
【0035】
本発明の練パイ生地は、本発明の練パイ用油脂組成物を含むものであり、練パイ方式で製造される層状食品を得るための生地である。具体的には、練パイ方式で製造されるパイ、クロワッサン、デニッシュ・ペストリー、フライパイ等のベーカリー生地が挙げられる。
【0036】
本発明の練パイ生地には、ベーカリー生地に通常使用する主原料や副原料を特に制限なく使用することが可能であり、また、イーストを含む生地であっても、含まない生地であってもよい。
【0037】
本発明の練パイ生地中の本発明の練パイ用油脂組成物の含有量は、生地中で使用する小麦粉等の穀粉類(練パイ用油脂組成物中の穀粉類含量も含める)100質量部に対して、好ましくは10〜130質量部、さらに好ましくは15〜90質量部、最も好ましくは20〜70質量部となる量である。10質量部未満であると、層状食品の層が形成されないおそれがあり、130質量部を超えると、焼成時に油の流出が起こるおそれがある。
【0038】
また、本発明の練パイ生地は、小麦粉等の穀類を主体とするベーカリー生地中に本発明の練パイ用油脂組成物を添加後、折り畳み操作を加え、好ましくは9〜1024層、より好ましくは27〜432層の層状生地とする。9層未満であると、浮きが不均一になりやすく、また、焼成時に油の流出が起こるおそれがあり、また、1024層を超えると、層状食品の層が形成されないおそれがある。
【0039】
なお、勿論、本発明の練パイ生地は、冷凍保存することも可能である。
【0040】
次に、本発明の練パイ生地の製造方法について述べる。
【0041】
本発明の練パイ生地の製造方法は、澱粉類を25〜75質量%含有する練パイ用油脂組成物を、ベースとなるベーカリー用生地に分散させた後、折りたたみ操作を行い、層状生地とするものである。
【0042】
ここで、小麦粉等の穀類を主体とするベーカリー生地、すなわち、ベースとなるベーカリー生地中に本発明の練パイ用油脂組成物を分散させる方法は、特に限定されず、一般の練パイの製造方法と同様の方法で添加することができる。具体的には、オールインミックス法でもよく、いったん製造した小麦粉等の穀類を主体とするベーカリー生地中に、練パイ用油脂組成物を添加してもよく、小麦粉等の穀類を主体とするベーカリー生地をブレークダウンするまでミキシングした生地に練パイ用油脂組成物を分散させてもよい。
また、本発明の練パイ用油脂組成物をベーカリー生地に添加・混合する際は、練パイ用油脂組成物を冷蔵又は冷凍した状態で添加・混合することが好ましい。
【0043】
また、本発明の練パイ生地の製造方法において、折り畳み操作を加える方法としては、リバースシーターやラミネーター等、通常の装置を用いることができる。
ここで、上記ベースとなるベーカリー生地は、通常の練パイ生地で使用する場合に比べて、水分含量を増加させたものであることが好ましい。
【0044】
これは、上述のとおり、従来の練パイ生地の製造方法においては、練パイ用油脂と小麦粉を主体とする生地の伸展性を合致させる必要があることから、折パイ方式に比べて生地吸水量を減じる必要があり、そのため、圧延、折り畳み時に生地がポロポロしてしまい、ダマが生じたり不均一な生地になってしまう問題があったのに対し、本発明の製造方法では、練パイ用油脂中に澱粉類を含むため、ベースとなるベーカリー生地として、水分含量が折りパイ生地とほぼ同等の生地を使用したとしても、圧延、折りたたみ時やリタード中に、この澱粉類が徐々に吸水し、最終的には水分含量の少ない練パイ生地と同等の生地吸水量となるものである。
【0045】
水分の増加量は通常の折パイ方式で製造する場合と練パイ方式で製造する場合との差にあたる量であり、穀粉類100質量部に対して3〜7質量部、より好ましくは3〜5質量部となる量である。
【0046】
この製造方法を用いることにより、圧延、折り畳み時に生地がポロポロしない、練パイ生地を得ることが可能であり、且つ、安定した層状食品を得ることが可能となる。
【0047】
次に、本発明の層状食品について述べる。
【0048】
本発明の層状食品は、本発明の練パイ生地を、常法により、必要に応じ、折り畳み、圧延、包餡、成形、ホイロ等の処理をした後、焼成及び/又はフライしてなるものである。
焼成する場合の加熱条件は、ベーカリー食品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150〜240℃で4〜25分、さらに好ましくは180〜230℃で5〜20分である。
【0049】
また、フライする場合の加熱条件は、好ましくは180〜260℃で1〜10分、さらに好ましくは200〜250℃で2〜5分である。
焼成とフライを組み合わせる場合は、焼成後にフライしても、フライ後に焼成してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
<練パイ用油脂の製造>
【0052】
〔実施例1〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)50質量部を薄力粉(水分14質量%)50質量部とタテ型ミキサーを使用して低速5分混合して均一に混合した混合物を0℃に3日間保管したのち、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Aを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は50質量%、油分含量は40質量%、水分含量は16質量%であった。
得られた練パイ用油脂組成物Aを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0053】
〔実施例2〕
実施例1で得られた本発明の練パイ用油脂組成物Aを用いて、下記の練パイ配合・製法2で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0054】
〔実施例3〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)50質量部を、薄力粉49質量部とキサンタンガム1質量部との混合物と、タテ型ミキサーを使用して低速5分混合して均一に混合した混合物を0℃に3日間保管したのち、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Bを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は49質量%、油分含量は40質量%、水分含量は16質量%であった。
【0055】
得られた練パイ用油脂組成物Bを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
【0056】
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0057】
〔実施例4〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)35質量部をタテ型ミキサーを使用してクリーミングし比重を0.35とした後、薄力粉65質量部を添加して低速5分混合して均一に混合した混合物を0℃に3日間保管したのち、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Cを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は65質量%、油分含量は28質量%、水分含量は15.7質量%であった。
【0058】
得られた練パイ用油脂組成物Cを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
【0059】
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0060】
〔実施例5〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)65質量部を、薄力粉35質量部とタテ型ミキサーを使用して低速5分混合して均一に混合した混合物を0℃に3日間保管したのち、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Dを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は35質量%、油分含量は52質量%、水分含量は16.3質量%であった。
【0061】
得られた練パイ用油脂組成物Dを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
【0062】
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0063】
〔比較例1〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)20質量部をタテ型ミキサーを使用してクリーミングし比重を0.35とした後、薄力粉80質量部を添加して低速5分混合して均一に混合した混合物を0℃に3日間保管したのち、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Eを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は80質量%、油分含量は16質量%、水分含量は15.4質量%であった。
【0064】
得られた練パイ用油脂組成物Eを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
【0065】
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0066】
〔比較例2〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)80質量部を、薄力粉20質量部とタテ型ミキサーを使用して低速5分混合して均一に混合した混合物を0℃に3日間保管したのち、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Fを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は20質量%、油分含量は64質量%、水分含量は16.6質量%であった。
【0067】
得られた練パイ用油脂組成物Fを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
【0068】
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0069】
〔比較例3〕
マーガリン(油分80質量%、水分17質量%)100質量部を、カッターを使用して、1辺10mmの立方体の形状の小片状に成形し、本発明の練パイ用油脂組成物Gを得た。なお、油脂組成物中の澱粉類含量は0質量%、油分含量は80質量%、水分含量は17質量%であった。
【0070】
得られた練パイ用油脂組成物Gを用いて、下記の練パイ配合・製法1で、練パイ生地、さらに、層状食品(練パイ)を製造した。
練パイ生地製造時における、練パイ用油脂組成物の分散性、延展性、生地のまとまりやすさ、得られた練パイの層の状態、浮き、食感について、下記の評価基準にしたがって評価し、その結果を表1に記載した。
【0071】
<練パイ配合・製法1>
予め−20℃に調温しておいた薄力粉40質量部、強力粉60質量部及び練パイ用油脂組成物56質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーにて低速で30秒混合後、食塩1.5質量部を水54質量部に溶解した食塩水を投入し、低速1分で混合した後、5℃で12時間静置した。次いで、リバースシーターを用いて、3つ折りを4回行ない(計81層)、5℃で1時間レストをとった後、3mmまで圧延し、これを50mm×30mmの大きさに打ち抜き成形し、ピケローラーでピケ孔をあけた後、室温で15分レストし、200℃の固定窯で15分焼成した。
【0072】
<練パイ配合・製法2>
予め−20℃に調温しておいた薄力粉40質量部、強力粉60質量部及び練パイ用油脂組成物56質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーにて低速で30秒混合後、食塩1.5質量部を水60質量部に溶解した食塩水を投入し、低速1分で混合した後、5℃で12時間静置した。次いで、リバースシーターを用いて、3つ折りを4回行ない(計81層)、5℃で1時間レストをとった後、3mmまで圧延し、これを50mm×30mmの大きさに打ち抜き成形し、ピケローラーでピケ孔をあけた後、室温で15分レストし、200℃の固定窯で15分焼成した。
【0073】
<評価基準>
分散性
◎:生地中に油脂組成物が小さな塊で適度に分散しており、極めて良好であった。
○:生地中に油脂組成物がやや不均一な大きさの塊で残り、良好であった。
△:生地中に油脂組成物がやや大きな塊のままで残り、やや不良であった。
×:生地中に油脂組成物が大きな塊のままで残り、不良であった。
延展性
◎:極めて良好であった。
○:良好であった。
△:やや不良であった。
×:不良であった。
生地のまとまりやすさ
◎:低速1分で粉末が見られないくらいのまとまり具合であった。
○:低速1分で粉末がほぼ見られないくらいのまとまり具合であった。
△:低速1分で粉末が多く残り、不十分なまとまり具合であった。
×:低速1分で生地がまとまらなかった。
層の状態
◎:きれいな層状で且つしっかりした層状構造であり、極めて良好であった。
○:きれいな層状であるがやや損壊しやすい層状構造であった。
△:層状は良好であるが、損壊しやすく安定性に乏しい層状構造であった。
×:パン目であり、層状を呈していなかった。
浮き
◎:均一且つ良好な浮きであった。
○:良好な浮きであった。
△:やや不均一な浮きであった。
×:不均一で且つ不良な浮きであった。
食感
◎:歯切れが良好で且つしっかりした食感であり、極めて良好であった。
○:歯切れが良好であるが、やや崩れやすい食感であった。
△:歯切れがやや悪く、また崩れやすい食感であり、やや不良であった。
×:歯切れが悪く、不良な食感であった。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉類を25〜75質量%含有する練パイ用油脂組成物。
【請求項2】
さらに増粘安定剤を1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1記載の練パイ用油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の練パイ用油脂組成物を使用してなる練パイ生地。
【請求項4】
請求項3記載の練パイ生地を加熱してなる層状食品。
【請求項5】
澱粉類を25〜75質量%含有する練パイ用油脂組成物を、ベースとなるベーカリー用生地に分散させた後、折りたたみ操作を行い、層状生地としたことを特徴とする練パイ生地の製造方法。
【請求項6】
ベースとなるベーカリー用生地の水分が通常の生地より増やされたものであることを特徴とする、請求項5記載の練パイ生地の製造方法。

【公開番号】特開2009−240259(P2009−240259A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92602(P2008−92602)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】