説明

縁曲げ連結構造体の製造方法

【課題】接着剤の連続塗布が可能であり且つストップマークを埋める単独作業が不要となる縁曲げ連結構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム形材料21に鉄系材料22を重ね材料21野縁を曲げて材料22に重ねて量材料を連結する際に、材料21野縁に局部滴に張り出した耳部11を設け、次いで両材料を接着剤23にて接着し、前記耳部が接着層に重ならないようにして曲げて材料22に重ねた後、該耳部を摩擦撹拌接合し、最後に材料21の先端と材料22との間、及び前記耳部の上面にシール剤を塗布して連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系部材と鉄系部材とを連結対象とした縁曲げ連結構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム系部材と鉄系部材とからなる2つの部材を連結する場合、アルミニウムと鉄との融点が大きく異なることや、アルミニウム系部材を覆っている酸化アルミニウム膜が強固であって溶接の障害になることなどから、2つの部材の接合が難しいと言われている。
【0003】
対策として、摩擦撹拌接合を適用することが提案されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−30043公報(図1、図2、図3a、図3b)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図5は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)に示すように、平板101に接着剤102を塗布し、その上にアングル103を載せる。そして、アングル103を摩擦撹拌接合法で平板101に溶融接合することで、接合体104を得る。
【0005】
摩擦撹拌接合法は、高速で回転させたスピンドルをアングル103に押し当て、回転摩擦熱でアングル103と平板101とを局部的に溶かす。スピンドルをアングル103に沿って移動させると、溶融部が移動し、スピンドルが離れるにしたがって溶融部が凝固することを原理とする接合法である。
【0006】
(a)のb−b線断面図である(b)に示すように、溶接部106が形成され、この溶接部106が平板101とアングル103とを連結する役割を果たす。ところで、接着剤102は耐熱性に乏しいため、溶接部106の近傍では摩擦熱を受けて燃えて消失する。
【0007】
また、(a)のc−c線断面図である(c)に示すように、溶接部106の端部にストップマークと称する凹部107が残る。この凹部107はスピンドルの抜き跡である。
【0008】
以上に述べた摩擦撹拌接合法を、車両のドアやボンネットスキンなどの蓋物の製造に適用することを考える。
図6は従来の摩擦撹拌接合法を蓋物の製造に適用するときの説明図であり、(a)に示すように、アルミニウム系材料からなる第1の部材111に、接着剤112、112を塗布し、その上に鉄系材料からなる第2の部材113を重ねる。続いて、矢印で示すように、第1の部材111の縁を折り曲げて第2の部材113に重ねる。
【0009】
次に、(b)に示すように、摩擦撹拌接合法で、第1の部材111と第2の部材113とを溶接部114で接合する。接着剤112による接合と溶接部114による接合とで、第1の部材111に第2の部材113を強固に連結することができる。
【0010】
(a)に示すように、接着剤112、112は、摩擦熱対策として分割塗布することが望まれる。しかし、連続塗布に比較して分割塗布は、塗布作業が面倒であり、塗布時間が延びることから、接着剤の塗布コストが嵩む。
また、(b)に示すようにストップマークと称する凹部115が不可避的に残るため、この凹部115をパテなどで埋める必要がある。すなわち、ストップマークを埋める工程が必要となり、蓋物の製造コストが嵩む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、接着剤の連続塗布が可能であり且つストップマークを埋める単独作業が不要となる縁曲げ連結構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、アルミニウム系材料からなる第1の部材に、鉄系材料からなる第2の部材を重ね、前記第1の部材の縁を折り曲げて第2の部材に重ねることで両部材を連結する縁曲げ連結構造体の製造方法において、
前記第1の部材の縁に局部的に張り出した耳部を、設ける工程と、前記第2の部材の縁と前記第1の部材とを、常温硬化型接着剤による接着層で接着する工程と、前記耳部が前記接着層に重ならないようにして、第1の部材の縁を折り曲げて第2の部材に重ねる工程と、摩擦撹拌接合法で前記耳部を第2の部材に溶融接合する工程と、折り曲げた第1部材の先端と第2の部材との間及び前記耳部の上面にシール剤を塗布する工程とからなることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、常温硬化型接着剤は、使用直前に主液と硬化剤とを混合する2液型構造用接着剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、第1の部材に耳部を設けた。この耳部は折り曲げ後に接着層に被らない位置に設けられる。接着層と耳部が離れているため、耳部を摩擦撹拌接合しても、摩擦熱が接着層に影響しない。この結果、接着剤を分割塗布する必要が無くなり、連続塗布が可能となる。
【0015】
また、折り曲げた第1部材の先端と第2の部材との間は、従来から、浸水を防ぐためにシール剤を塗布する。このシール剤の塗布エリアに耳部があるため、シール剤の塗布工程で、耳部の上面にもシール剤が塗布される。この結果、耳部に残っているスポットエンドがシール剤で埋められる。
【0016】
このように、請求項1によれば、接着剤の連続塗布が可能であり且つストップマークを埋める単独作業が不要となる縁曲げ連結構造体の製造方法を提供することができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、2液型構造用接着剤を採用した。1液型構造用接着剤は、一般に加熱硬化型接着剤であり、常温硬化型接着剤は特殊である。加熱硬化型は加熱が必要であり、熱を加えると第1の部材や第2の部材が歪む虞がある。そこで、常温硬化型が必要となるが、常温硬化型の1液型構造用接着剤は特殊であって入手が難しく、高価である。この点、2液型構造用接着剤は、一般に常温硬化型接着剤であり、入手が容易であり、安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明の製造方法を適用するドアの正面図であり、蓋物の代表例であるドア10では、ヒンジを設ける前縁とドアロックを後縁とに、他の部位より剛性が求められるため、耳部11、11を設け、これらの耳部11、11に沿うように且つ矢印(1)、(2)で示す部位に接着剤12、12を連続的に塗布する。
【0019】
耳部11を中心に、縁曲げ構造体の製造方法を次に説明する。
図2は耳部を設ける工程から第1の部材の折り曲げ工程までを説明する図であり、(a)に示すように、アルミニウム系材料からなる第1の部材21に、鉄系材料からなる第2の部材22を重ね、第1の部材21の縁を折り曲げて第2の部材22に重ねることで両部材21、22を連結する縁曲げ連結構造体20を製造する場合に、第1の部材21の縁に局部的に張り出した耳部11を設ける。
【0020】
耳部11は、第1の部材21をブランク材から打ち抜きなどで切り出すときに予め付けておくことを原則とする。しかし、切り出した後に溶接で付設しても差し支えない。要は、第1の部材21の縁を折り曲げる前に第1の部材21に耳部11が一体形成されていれば、形成時期は任意である。
【0021】
耳部11が付いている第1の部材21に接着剤12を連続的に塗布する。この接着剤12は、常温硬化型接着剤(常温硬化型エポキシ系接着剤など)とする。具体的には、常温硬化型接着剤は、使用直前に主液と硬化剤とを混合する2液型構造用接着剤が望ましい。2液型構造用接着剤は、一般に常温硬化型接着剤であり、入手が容易であり、安価である。なお、構造用接着剤とは、「長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤である」と接着用語(JIS K 6800)で定義されている接着剤である。
【0022】
そして、接着剤12に第2の部材22を載せる。接着剤12は凝固すると接着層23となる。第2の部材22は接着層23を介して第1の部材21に接合される。接着層23は常温で反応し、硬化が進行する。次に、耳部11と共に第1の部材21の縁を矢印のように折り曲げて、第2の部材22に重ねる。
すると(b)の形態になる。例えば、第1の部材21の厚さが1.2mm、重ね代W1が13mm、耳部11の突出代W2が8mm、耳部11の長さL1が40mmの寸法に構成する。
【0023】
図3は図2(b)の3−3線断面図であって、摩擦撹拌接合法の説明図であり、(a)に示すように、耳部11にスピンドル25を臨ませる。スピンドル25は、例えば3mm径のピン部26と10mm径のショルダー部27とからなり、毎分2000回の速度で回される。ピン部26が耳部11に当たると回転摩擦熱で耳部11が局部的に溶け、(b)に示すように耳部11と共に第2の部材22も局部的に溶ける。続いて(c)に示すように分速1000mmでスピンドル25を移動させる。すると、次々に新しい溶融金属が出現する。代わりにピン部26から十分に離れた古い溶融金属は凝固し溶接金属29となる。
【0024】
(d)に示すように、終点に達したらスピンドル25を耳部11から離す。この結果、耳部11にエンドマークと称する凹部31が残る。それ以外は、溶接金属29となり、この溶接金属29が耳部11と第2の部材22とを連結する。32はショルダー部27によりできた浅い窪みである。
【0025】
図4はシール剤塗布工程の説明図であり、(a)に示すように、折り曲げた第1の部材21の先端と、第2の部材22との間を塞ぐために、シール剤塗布ガン33を矢印(3)のように降ろし、次に矢印(4)のように移動させる。このシール剤の塗布エリアAに耳部11が存在するため、凹部31にシール剤34が流れ込む。
【0026】
すると、(a)のb−b線断面図である(b)に示すように、折り曲げた第1の部材21の先端と、第2の部材22との間を塞ぐシール剤34で、凹部31をも埋めることができる。これで、本発明の縁曲げ連結構造体20が完成する。
なお、シール剤34は、ダストシーラと称する隙間充填剤が好適である。隙間充填剤は、充填時は粘性液体であるが、時間をおくと弾性を有する固体に変化する。
【0027】
そして、この図から明らかなように、接着層23と耳部11が離れているため、耳部11を摩擦撹拌接合しても、摩擦熱が接着層23に影響しない。この結果、接着剤は図面表裏方向に連続に塗布することができ、接着剤の塗布作業が極めて容易になり、塗布コストを下げることができる。
【0028】
尚、本発明の縁曲げ連結構造体の製造方法は、アルミニウム系材料と鉄系材料とを重ね縁曲げにより連結する蓋物に広く適用でき、ドア、ボンネット、リッドなど用途は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、アウターパネルがアルミニウム系材料でインナーパネルが鉄系材料で構成される車両用ドアの縁曲げ加工に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の製造方法を適用するドアの正面図である。
【図2】耳部を設ける工程から第1の部材の折り曲げ工程までを説明する図である。
【図3】図2(b)の3−3線断面図であって、摩擦撹拌接合法の説明図である。
【図4】シール剤塗布工程の説明図である。
【図5】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【図6】従来の摩擦撹拌接合法を蓋物の製造に適用するときの説明図である。
【符号の説明】
【0031】
11…耳部、12…接着剤、20…縁曲げ連結構造体、21…第1の部材、22…第2の部材、23…接着層、34…シール剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料からなる第1の部材に、鉄系材料からなる第2の部材を重ね、前記第1の部材の縁を折り曲げて第2の部材に重ねることで両部材を連結する縁曲げ連結構造体の製造方法において、
前記第1の部材の縁に局部的に張り出した耳部を、設ける工程と、
前記第2の部材の縁と前記第1の部材とを、常温硬化型接着剤による接着層で接着する工程と、
前記耳部が前記接着層に重ならないようにして、第1の部材の縁を折り曲げて第2の部材に重ねる工程と、
摩擦撹拌接合法で前記耳部を第2の部材に溶融接合する工程と、
折り曲げた第1部材の先端と第2の部材との間及び前記耳部の上面にシール剤を塗布する工程とからなることを特徴とする縁曲げ連結構造体の製造方法。
【請求項2】
前記常温硬化型接着剤は、使用直前に主液と硬化剤とを混合する2液型構造用接着剤であることを特徴とする請求項1記載の縁曲げ連結構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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