説明

縫製糸、被縫製物及び読み取り装置

【課題】縫製糸が表現するコードの読み取りやすさを、当該縫製糸で被縫製物を縫製しても維持する方法を提供する。
【解決手段】上糸10は、天然繊維や化学繊維が長く線状に連続した糸である。被縫製物20は、第1の生地及び第2の生地によって構成され、上糸10及び下糸30によって本縫いで縫製される。上糸10は、複数の第1の部分110及び複数の第2の部分120とを有する。第2の部分120は、被縫製物20が上糸10によって縫製されて一列の縫い目が形成された場合に、被縫製物20の表面に現れる部分の長さによって、符号化された情報を表現する一次元コードを表す。第1の部分110及び第2の部分120は、いずれも、縫い目130の長さと、隠れ部分140の長さとを合計した長さよりも長くなるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製糸、被縫製物及び読み取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
縫製糸に染料や顔料、薬剤などを付与することで、被縫製物の縫製以外の目的を実現する技術がある。例えば、特許文献1には、縫製糸に機能性薬剤を付与することによって、新規な風合い、外観、性能を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−146831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、縫製糸が表現するコードの読み取りやすさを、当該縫製糸で被縫製物を縫製しても維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係る縫製糸は、第1の糸部と、前記第1の糸部と交互に連続し、前記第1の糸部と識別可能である第2の糸部とを有し、前記第1の糸部及び前記第2の糸部は、各々の長さ方向の長さによって、符号化された情報を表現する一次元のコードを表し、前記第1の糸部及び前記第2の糸部によって被縫製物が縫製されて複数の縫い目が1列に形成された場合に、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、前記第1の糸部と前記第2の糸部とが識別可能な状態となる一続きの部分の長さ方向の第1の長さと、連続する2つの当該部分に挟まれた部分の長さ方向の第2の長さとの合計よりも、前記第1の糸部及び前記第2の糸部が長さ方向に長いことを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2に係る縫製糸は、請求項1に記載の構成において、前記第1の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、前記被縫製物の表面に現れている一続きの部分の長さ方向の長さであり、前記第2の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、連続する2つの当該部分に挟まれた部分の長さ方向の長さであることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項3に係る縫製糸は、請求項1に記載の構成において、前記第1の長さは、前記縫い目の長さ方向の長さであり、前記第2の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、連続する2つの前記縫い目に挟まれた部分の長さ方向の長さであることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項4に係る縫製糸は、請求項1ないし3のいずれかに記載の構成において、前記第2の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部によって縫製されている前記被縫製物の厚さであることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項5に係る縫製糸は、請求項1ないし4のいずれかに記載の構成において、前記第2の部分は、前記第1の部分に比べて赤外線の吸収率が大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6に係る縫製糸は、請求項1ないし4のいずれかに記載の構成において、前記第2の部分は、紫外線を照射されると、前記第1の部分に比べて蛍光を多く発することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項7に係る縫製糸は、請求項5又は6に記載の構成において、前記第2の部分は、前記被縫製物と共通する色であって可視色の色に着色されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項8に係る被縫製物は、請求項1ないし7のいずれかに記載の縫製糸によって縫製され、縫い目が1列に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項9に係る読み取り装置は、前記被縫製物を縫製して1列の縫い目を形成している請求項1ないし7のいずれかに記載の縫製糸を含む予め定められた範囲の領域に、予め定められた波長の光を照射する照射手段と、前記照射手段により照射された光によって前記領域から出射される反射光又は蛍光の強さを測定する測定手段と、前記領域において、前記測定手段により測定された光の強さが周辺領域と異なる部分を前記第2の部分として特定する第1の特定手段と、前記領域において、前記第1の特定手段により特定された第2の部分に挟まれる部分を前記第1の部分として特定する第2の特定手段と、前記第1の特定手段により特定された第2の部分の長さと、前記第2の特定手段により特定された第1の部分の長さとに対応する前記コードが表現する情報を読み取る読み取り手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、2、3、8、9に係る発明によれば、縫製糸が表現するコードの読み取りやすさを、当該縫製糸で被縫製物を縫製しても維持することができる。
請求項4に係る発明によれば、被縫製物を縫製することなく、第1の部分及び第2の部分の長さを定めることができる。
請求項5、6に係る発明によれば、人間の目に認識されることなくコードを表すことができる。
請求項7に係る発明によれば、縫製糸を、当該色に着色しない場合に比べて目立たないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態の概要を説明するための図である。
【図2】上糸の外観を示す図である。
【図3】読み取り装置のハードウェア構成及び機能的構成を示すブロック図である。
【図4】被縫製物の表面を示す図である。
【図5】被縫製物の切断面を示す図である。
【図6】第2の部分のうち、被縫製物の表面に現れる部分の長さの全体に対する割合の一例を示すグラフである。
【図7】第2の部分のうち、被縫製物の表面に現れる部分の長さの全体に対する割合の一例を示すグラフである。
【図8】縫製糸が表すコードのコード体系の一例を示す図である。
【図9】縫製糸が表すコードによって表現される情報の一例を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態の概要を説明するための図である。
【図11】上糸の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の概要を説明するための図である。被縫製物20は、衣服や家庭用品などを形作っている表面が白い布地であり、上糸10は、天然繊維や化学繊維が長く線状に連続する白い糸である。本実施形態においては、被縫製物20は、衣服を形作っており、上糸10は、被縫製物20を縫製している。上糸10は、本発明に係る「縫製糸」の一例に相当する。
【0017】
上糸10には、符号化された情報を表現するコードが表されている。読み取り装置40は、上糸10によって表されているコードを認識して、そのコードが表現する情報を読み取る機械である。詳細には、読み取り装置40は、上糸10に対して予め定められた波長の光(以下「読み取り光」という。)を照射し、その反射光の強弱に基づいてコードを認識する。読み取り装置40は、読み取り光として赤外線を照射する。
【0018】
図2は、上糸10の外観を示す図である。図2を含む以下の図においては、各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。上糸10は、複数の第1の部分110と、第1の部分110と交互に連続する複数の第2の部分120とを有する。第1の部分110及び第2の部分120は、上糸10の一部を構成する糸状の部分であり、第1の部分110は、本発明に係る「第1の糸部」の一例に相当し、第2の部分120は、本発明に係る「第2の糸部」の一例に相当する。
【0019】
第2の部分120には、第1の部分110と識別を可能にするための加工が施されており、第1の部分110には、この加工が施されていない。具体的には、第2の部分120は、第1の部分110に比べて、赤外線を多く吸収する(赤外線の吸収率が大きい)ように加工が施されている。この加工は、いかなる方法で施されても良く、例えば、赤外線を多く吸収する顔料等の材料を、上糸10を紡ぐ際に練り込んだり(原着法)、上糸10に捺染等で着色したり(後染め法)、液状にしてローラで間欠的に上糸10に接触させたり、インクジェット方式で上糸10に付与したりすれば良い。本実施形態においては、この加工には、加工後に人間の目で見えなくなる(不可視となる)材料が用いられる。このため、第1の部分110及び第2の部分120の色は、上糸10の色(白)となる。なお、この材料は、加工後に不可視となるものに限らず、被縫製物20のデザイン性を阻害しない程度に色が見えにくくなるものであっても良い。図2を含む以下の図においては、これらの部分を見分けやすくするため、第2の部分120を格子状にして示している。
【0020】
上糸10には、複数の第1の部分110が、上糸10の長さ方向に各々が予め定められた長さを範囲とし、複数の第2の部分120が、第1の部分110とは異なる範囲であり、上糸10の長さ方向に各々が予め定められた長さを範囲とするように、上記加工が施されている。第1の部分110及び第2の部分120は、各々の、上糸10の長さ方向の長さによって一次元のコードを表す。以下、特に説明しない限り、「長さ」とは、上糸10の長さ方向の長さをいうものとする。次に、図1に示す読み取り装置40が、上糸10が表すコードを読み取る構成について説明する。
【0021】
図3は、読み取り装置のハードウェア構成及び機能的構成を示すブロック図である。読み取り装置40は、照射部410と、測定部420と、制御部430と、操作部440と、表示部450と、記憶部460とを備える。照射部410は、予め定められた波長の光を、予め定められた範囲の領域(以下「照射領域」という。)に対して照射する手段である。照射領域は、本発明に係る「領域」の一例に相当する。本実施形態においては、照射部410は、赤外線を、図2に示した上糸10を含む照射領域に対して照射する。測定部420は、赤外線の強さを検知するセンサを有し、照射領域から出射される予め定められた波長の光の強さを測定する。本実施形態においては、測定部420は、照射部410によって照射された赤外線の反射光の強さを測定する。
【0022】
制御部430は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有する。CPUは、ROMに記憶されている機能プログラムをRAMにロードして実行することによって、各種の機能ブロックを構築する。RAMは、CPUが機能プログラムを実行する際に、データ等を一時的に記憶する領域としても機能する。操作部440は、ボタンなどの操作子であり、ユーザによって操作されると、その操作内容を示す操作データを制御部430に供給する。表示部450は、例えば液晶パネルを有し、制御部430の制御によって画像を表示する。記憶部460は、ハードディスクドライブなどにより構成され、上糸10が表すコードのコード体系を示すデータなどを記憶する
【0023】
上述したハードウェア構成において、制御部430が機能プログラムを実行したときに構築される機能ブロックについて説明する。制御部430は、照射制御部431と、第1の特定部432と、第2の特定部433と、読み取り部434とを有する。照射制御部431は、照射部410が赤外線を照射する動作を制御する。第1の特定部432は、照射領域において、測定部420によって測定された赤外線の強さが周辺領域と異なる部分を、第2の部分120として特定する。本実施形態においては、第1の特定部432は、赤外線の強さが周辺領域に比べて弱い部分を、第2の部分120として特定する。第2の特定部433は、照射領域において、第2の部分120に挟まれた部分を、第1の部分110として特定する。読み取り部434は、記憶部460に記憶されているコード体系を示すデータ参照し、第1の部分110及び第2の部分120の長さに対応するコードが表現する情報を読み取る。照射制御部431と照射部410とが協働することで、本発明に係る「照射手段」として機能する。測定部420は、本発明に係る「測定手段」の一例に相当し、第1の特定部432は、本発明に係る「第1の特定手段」の一例に相当する。また、第2の特定部433は、本発明に係る「第1の特定手段」の一例に相当し、読み取り部434は、本発明に係る「読み取り手段」の一例に相当する。
【0024】
次に、読み取り装置40の動作について説明する。読み取り装置40は、ユーザによって照射部410を上糸10に向けた状態で用いられる。この状態で、読み取り装置40は、ユーザによって操作された操作部440から、赤外線の照射を指示する操作データが照射制御部431に供給されることを契機に動作を開始する。照射制御部431は、この操作データが供給されると、照射部410を制御して、赤外線を照射させる。照射された赤外線は、上糸10に入射すると、第1の部分110及び第2の部分120においてそれぞれ反射し、反射光となって測定部420に入射する。測定部420は、測定した赤外線の強さを示すデータを、第1の特定部432に供給する。第1の特定部432は、供給されたデータから、周辺に比べて反射光が弱い領域を第2の部分120として特定する。第1の特定部432は、特定した領域を示すデータを、第2の特定部433及び読み取り部434に供給する。
【0025】
第2の特定部433は、供給されたデータが示す領域(第2の部分120)に挟まれた領域を、第1の部分110として特定する。第2の特定部433は、特定した領域を示すデータを、読み取り部434に供給する。読み取り部434は、記憶部460に記憶されているコード体系を示すデータを参照し、特定された第1の部分110の長さと、第2の部分120の長さとに対応するコードが表現する情報を読み取る。読み取り部434は、読み取った結果を示すデータを表示部450に供給し、表示部450は、供給されたデータが示す結果を表示する。次に、図1に示す被縫製物20を縫製した状態の上糸10について説明する。
【0026】
図4は、上糸10によって縫製された被縫製物20の表面を示す図である。図4では、被縫製物20の表面のうち、図2に示すX部の上糸10によって縫製されている領域を拡大して示している。被縫製物20は、上糸10と下糸30によって、ミシンを使った本縫いで縫製されている。下糸30は、天然繊維や化学繊維が長く線状に連続する糸であり、本実施形態においては、上糸10と素材及び太さが共通する糸である。被縫製物20の表面には、上糸10によって複数の縫い目130a、130b、130c、130d(以下、特に区別しない場合は「縫い目130」という。)が1列に形成されている。縫い目130は、上糸10のうち、被縫製物20の表面に現れている(露出している)一続きの部分である。縫い目130の長さ方向は、各縫い目130が並ぶ方向(縫い目130の列が伸びる方向)に沿っている。
【0027】
また、縫い目130は、図3に示す読み取り装置40によって第1の部分110と第2の部分120とが特定される(すなわち識別可能な)状態となる一続きの部分である。詳細には、読み取り装置40によって縫い目130に照射された読み取り光は、縫い目130で反射し、その反射光が読み取り装置40によって測定される。これにより、読み取り装置40は、縫い目130に現れている第2の部分120及び第1の部分110を特定する。連続する縫い目130に挟まれる領域において、上糸10は、下糸30と掛かり合っている。上糸10と下糸30とは、被縫製物20の内部で掛かり合っており、この状態について、図5を参照して説明する。
【0028】
図5は、図4の切断線V−Vによる切断面を示す図である。被縫製物20は、厚さが共通する第1の生地210及び第2の生地220によって構成されており、これらの生地は、いずれも天然素材や合繊織物などを素材としている。上糸10は、第1の生地210側を縫製し、下糸30は、第2の生地220側を縫製している。上糸10及び下糸30は、第1の生地210と第2の生地220の境目で互いに掛かり合っている。
【0029】
被縫製物20の内部には、連続する2つの縫い目130に挟まれた隠れ部分140a、140b、140c(以下、特に区別しない場合は「隠れ部分140」という。)が形成されている。隠れ部分140は、上糸10のうち、被縫製物20の表面に現れていない(内部に隠れている)一続きの部分であり、読み取り装置40によって第1の部分110と第2の部分120とが特定されない(すなわち識別されない)状態となる一続きの部分である。詳細には、読み取り装置40によって隠れ部分140に照射された読み取り光は、吸収されたり、読み取り装置40に向かう方向とは異なる方向に反射したりする。このため、読み取り装置40によって反射光が測定されず、縫い目130に現れている第2の部分120及び第1の部分110は、読み取り装置40によって特定されない。隠れ部分140が形成されている箇所では、上糸10及び下糸30によって第1の生地210と第2の生地220が押圧され、これらの生地に窪みが生じている。被縫製物20には、複数の縫い目130と複数の隠れ部分140とが形成されている。
【0030】
図4に戻って説明する。縫い目130aでは、第1の部分110aと第2の部分120aとが被縫製物20の表面に現れており、縫い目130bでは、第2の部分120bが被縫製物20の表面に現れている。縫い目130cでは、第2の部分120cと第1の部分110cとが被縫製物20の表面に現れており、縫い目130dでは、第1の部分110dと第2の部分120dとが被縫製物20の表面に現れている。第2の部分120a、120b、120cは、図2に示す一続きの第2の部分120の1つであり、長さがそれぞれA1、A2、A3である。また、第1の部分110c、110dは、図2に示す一続きの第1の部分110の1つであり、長さがそれぞれB1、B2である。縫い目130aと130bとは、距離C1離れており、縫い目130bと130cとは、距離C2離れている。また、縫い目130cと130dとは、距離C3離れている。距離C1、C2、C3は、隠れ部分140によってできた縫い目130どうしの隙間の長さである。この隙間において、上糸10と下糸30とが掛かり合っている。各縫い目130は、上糸10の長さ方向に連続している。
【0031】
図1に示す読み取り装置40(詳細には、図3に示す第2の特定部433)は、上述のとおり、第2の部分120に挟まれた領域を、第1の部分110として特定する。このとき、読み取り装置40は、特定した第1の部分110の長さ、すなわち第2の部分120どうしの間隔が予め定められた長さ(以下「間隔閾値」という。)よりも短ければ、これを縫い目130どうしの隙間と判断し、その前後の第2の部分120を、一続きの部分として特定する。本実施形態においては、間隔閾値は、上記距離C1、C2、C3のいずれよりも長い長さに定められている。これにより、読み取り装置40は、第2の部分120a、120b、120cを一続きの第2の部分120として特定する。また、読み取り装置40は、第2の部分120cと第2の部分120dとに挟まれた部分を、一続きの第1の部分110として特定する。このため、読み取り装置40は、第1の部分110c及び110dを、隙間に関係なく一続きの第1の部分110として特定する。このように、読み取り装置40は、隠れ部分140に影響されることなく、第1の部分110及び第2の部分120を特定し、特定したこれらの部分の長さによってコードが表現する情報を読み取る。なお、C=0である場合(縫い目130が隙間なく連続する場合)、読み取り装置40は、間隔閾値による判断をしなくとも、隠れ部分140に影響されることなく、第1の部分110及び第2の部分120を特定する。
【0032】
上述したとおり、上糸10は、第1の部分110及び第2の部分120の長さによって、読み取り装置40が読み取り可能なコードを表す。また、第1の部分110及び第2の部分120は、被縫製物20が上糸10及び下糸30によって縫製されて縫い目が1列に形成された場合においても、被縫製物20の表面に現れる部分の長さによって、コードを表す。この表面に現れる部分の長さは、図4に示す隙間を含む長さであり、具体的には、A1+C1+A2+C2+A3(表面に現れている第2の部分120の長さ)であり、B1+C3+B2(表面に現れている第1の部分110の長さ)である。
【0033】
第1の部分110及び第2の部分120は、いずれも、縫い目130の長さと、隠れ部分140の長さとの合計よりも長くなるように設けられている。縫い目130の長さは、上述のとおり、上糸10のうち、被縫製物20の表面に現れている一続きの部分の長さであり、図5に示す長さAがその一例である。縫い目130の長さは、本発明に係る「第1の長さ」の一例に相当する。また、隠れ部分140の長さは、上述のとおり、上糸10のうち、被縫製物20の表面に現れていない一続きの部分の長さであり、図5に示す長さDがその一例である。また、隠れ部分140の長さは、上糸10のうち、連続する縫い目130に挟まれた部分の長さである。隠れ部分140の長さは、本発明に係る「第2の長さ」の一例に相当する。以上を言い換えると、上糸10は、被縫製物20の表面に現れている部分(縫い目130)と現れていない部分(隠れ部分140)によって構成され、縫い目130の長さと隠れ部分140の長さを合計すると、上糸10全体の長さとなる。
【0034】
第1の部分110及び第2の部分120が上記の通り設けられていることにより、被縫製物20が上糸10及び下糸30によって縫製された場合に、隠れ部分140が第1の部分110又は第2の部分120のどの位置にきても、縫い目130の長さ以上の長さのこれらの部分が読み取り装置40によって特定される。この原理について、図6、図7を参照して詳細に説明する。以下の説明は、第2の部分120及び第1の部分110に共通するものであり、ここでは、第2の部分120を例にとって説明する。
【0035】
図6、図7は、第2の部分120のうち、被縫製物20の表面に現れる部分の長さの全体に対する割合の一例を示すグラフである。換言すると、この部分は縫い目130に現れる部分であり、以下、説明の便宜上、この割合を「縫い目割合」という。図6、図7の縦軸は、縫い目割合を示し、横軸は、第2の部分120の長さを示す。図6、図7では、縫い目130の長さが図5に示したAであり、隠れ部分140の長さが図5に示したDであるとする。図6では、第2の部分120が、縫い目130の端部から始まり縫い目130側に一続きとなって続いている場合を示している。図6に示すとおり、長さがAとなるまでの第2の部分120は、縫い目割合が100%である。縫い目割合は、長さがAを超えると減少し、長さがA+Dの場合にE1となる。割合E1は、A/(A+D)である。縫い目割合は、長さがA+Dを超えると増加し、長さが2A+Dの場合にE2となる。割合E2は、2A/(2A+D)である。縫い目割合は、長さが2A+Dを超えると減少し、長さが2A+2Dの場合にE3となる。割合E3は、2A/(2A+2D)である。縫い目割合は、第2の部分120がこれ以上長くなると、100より小さくE3より大きい値に収束していく。図6の例では、上糸10の長さがA+Dよりも長い場合、縫い目割合が最も小さいときでも割合E1(A/(A+D))よりも大きくなる。
【0036】
図7では、第2の部分120が、隠れ部分140の端部から始まり隠れ部分140側に一続きとなって続いている場合を示している。図7に示すとおり、長さがDまでの第2の部分120は、縫い目割合が0%である。縫い目割合は、長さがAを超えると増加し、長さがD+Aの場合にE4となる。割合E4は、A/(D+A)である。縫い目割合は、長さがD+Aを超えると減少し、長さが2D+Aの場合にE5となる。割合E5は、A/(2D+A)である。縫い目割合は、長さが2D+Aを超えると増加し、長さが2D+2Aの場合にE6となる。割合E6は、2A/(2D+2A)である。縫い目割合は、第2の部分120がこれ以上長くなると、E5より大きく100より小さい値に収束していく。図7の例では、上糸10の長さがD+Aよりも長い場合、縫い目割合が最も小さいときでも割合E5(A/(2D+A))よりも大きくなる。
【0037】
上糸10の長さがD+Aよりも長い場合、縫い目割合が最も小さくなるのは、1つの縫い目130の両端に隠れ部分140の全体がそれぞれ連続しているときであり、そのときの縫い目割合は、図7に示す割合E5(A/(2D+A))である。以上より、被縫製物20の表面に現れる第2の部分120の長さは、隠れ部分140がどの位置に来るかによって、被縫製物20を縫製していない状態(元の長さ)の100%からA/(2D+A)%までの長さを取り得る。ここで、DがAに比べて無視できるほど小さければ、読み取り装置40は、隠れ部分140の影響を受けることなく第2の部分120を特定し、その長さによってコードが表現する情報を読み取る。すなわち、被縫製物20を縫製していない状態の上糸10が表現するコードの読み取りやすさは、上糸10で被縫製物20を縫製しても維持される。具体的には、特定された第1の部分110又は第2の部分120の長さが元の長さのA/(2D+A)%であった場合でも、元の長さよりも短い長さを表す部分として誤って認識されることがない程度にDが小さければ良い。
【0038】
続いて、図8、図9を参照して、上糸10によって表現されるコードの一例を説明する。図8は、上糸10が表すコードのコード体系の一例を示す図である。上糸10は、数列を表現する一次元のコードであり、コードが表現する情報(数字)を表す部分(実コード)と、実コードと実コードの区切りを表す部分(区切りコード)とを有する。実コード及び区切りコードは、連続する1つの第1の部分110と1つの第2の部分120とでそれぞれ構成され、これらの部分の長さの組み合わせで数字又は区切りを表す。区切りコードは、第1の部分110及び第2の部分120の長さが共通する。実コードは、区切りコードの第1の部分110(又は第2の部分120)の長さを11等分した長さをコード単位=「1」とした場合に、いずれもコード単位=「11」に対応する長さであり、第1の部分110の長さによって数字を表す。例えば、第1の部分110がコード単位=「1」に対応する長さである場合、数字の「1」を表し、「2」に対応する長さである場合、数字の「2」を表す。このように、実コードは、数字の「1」から「9」まではコード単位の数と共通する数字を表し、第1の部分110がコード単位「10」に対応する長さである場合、数字の「0」を表す。なお、区切りコードは、コード単位「22」に対応する長さである。
【0039】
図9は、上糸10が表すコードによって表現される情報の一例を示す図である。図9において、上糸10は、区切りコードに連続する実コードによって数列を表す。図9(a)に示すコードは、区切りコードJの後に実コードK、L、Mが表されており、これらの実コードは、数字の「3」、「5」、「3」をそれぞれ表している。すなわち、図9(a)に示すコードは、数列「353」を表す。図9(b)に示すコードは、区切りコードPの後に実コードQ、R、Sが表されており、これらの実コードは、数字の「1」、「3」、「8」をそれぞれ表している。すなわち、図9(b)に示すコードは、数列「138」を表す。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
図10は、本発明の第2実施形態の概要を説明するための図である。上糸10fには、符号化された情報を表現するコードが表されており、読み取り装置40fによってこのコードが表現する情報を読み取られる。本実施形態においては、読み取り装置40fは、読み取り光として紫外線を照射する。
【0041】
図11は、上糸10fの外観を示す図である。上糸10fは、複数の第1の部分110と、第1の部分110と交互に連続する複数の第2の部分120fとを有する。第2の部分120fは、紫外線によって予め定められた波長の光(蛍光)を発するように加工が施されている。これにより、第2の部分120fは、図10に示す読み取り装置40fによって読み取り光(紫外線)を照射されると、第1の部分110に比べて、蛍光を多く発する。読み取り装置40fは、上糸10fによって縫製された被縫製物20の表面の領域に読み取り光を照射し、この領域から発せられる蛍光の強さを測定する。読み取り装置40fは、測定した蛍光の強さが周辺領域に比べて異なる(この場合、蛍光の強さが強い)部分を第2の部分120fとして特定する。
【0042】
[変形例]
上述した実施形態は、本発明の実施の一例に過ぎず、次のように種々の応用・変形が可能であり、また、必要に応じて組み合わせることも可能である。
【0043】
(変形例1)
被縫製物20は、白色に限らず、様々な色であっても良く、この場合、上糸10は、被縫製物20の表面で目立たないように、被縫製物20の色と共通する色に着色されても良い。ここでいう色は、可視色であり、この場合、着色された第2の部分120においては、この可視色の波長の光(可視光)の反射率が大きくなる。一方、第1実施形態に係る読み取り装置40は、読み取り光に赤外線を用いており、第2実施形態に係る読み取り装置40fは、読み取り光に紫外線を用いている。これらはいずれも可視光に含まれない波長の光であるため、第2の部分120を着色したことによる影響を受けることなく、コードが読み取られる。
【0044】
(変形例2)
本発明に係る縫製糸は、下糸30として用いられても良い。これにより、被縫製物20の両面にコードが表され、これら両面のいずれであっても、読み取り装置40によってコードが読み取られる。
【0045】
(変形例3)
上述したコード体系は一例であり、上糸10が表すコードはこれに限られない。上糸10は、第1の部分110及び第2の部分120の長さによって、符号化された情報を表現する一次元のコードであれば、いかなるコードを表すものであっても良い。なお、1つの第1の部分110の長さと1つの第2の部分120の長さによってコードを表すコード体系を用いる場合は、上糸10は、少なくとも1つ以上の第1の部分110と少なくとも1つ以上の第2の部分120とを有すれば良い。
【0046】
(変形例4)
第1の部分110及び第2の部分120は、いずれも、被縫製物20が上糸10によって縫製された場合に、縫い目130の長さと、被縫製物20の厚さとの合計よりも長くなるように設けられていても良い。ここでいう被縫製物20の厚さは、第1の生地210の厚さと第2の生地220の厚さとの合計である。これらの生地の厚さが共通である場合、被縫製物20の厚さは、第1の生地210の厚さの2倍であっても良い。上糸10及び下糸30によって被縫製物20が本縫いされる場合、上糸10は、被縫製物20の厚さ方向の中央部分で下糸30と掛かり合うため、隠れ部分140の長さが被縫製物20の厚さの半分(表面から厚さ方向の中央部分までの距離)の2倍(往復分)、すなわち、被縫製物20の厚さと概ね共通する。よって、第1の部分110及び第2の部分120は、少なくとも、縫い目130の長さと隠れ部分140の長さとの合計(図6、6に示すA+D)と概ね共通する長さ以上となる。これにより、本変形例に係る第1の部分110及び第2の部分120は、上述した割合が最も小さい場合であっても図7に示すE5(A/(2D+A))となる。このため、読み取り装置40は、DがAに比べて無視できるほど小さければ、隠れ部分140の影響をほとんど受けることなくコードを読み取る。なお、第1の部分110及び第2の部分120は、は、一般的な縫い目の長さと厚さとを考慮して、1mmよりも長くなるように設けられても良い。
【0047】
(変形例5)
第1の部分110及び第2の部分120は、いずれも、縫い目130の長さの最小値と、隠れ部分140の長さの最小値との合計よりも長くなるように設けられていても良い。これにより、縫い目130及び隠れ部分140の長さにばらつきがある場合であっても、読み取り装置40は、コードが表現する情報を、長さが最も短い隠れ部分140の影響をほとんど受けることなく読み取る。
【0048】
(変形例6)
読み取り装置40は、読み取り光の反射光又は読み取り光による蛍光の強さが周辺領域よりも弱い部分を第2の部分として特定しても良い。読み取り光が赤外線の場合、例えば、第2の部分には、周辺領域(第1の部分及び被縫製物の表面)よりも赤外線の反射率が高くなるように加工を施せば良い。また、読み取り光が紫外線である場合、例えば、紫外線によって蛍光を発するように周辺領域に加工が施され、第2の部分にはその加工が施されなければ良い。
【0049】
(変形例7)
被縫製物20は、手縫いで縫製されていても良いし、第1の部分110及び第2の部分120の長さに応じた長さの縫い目で縫製するミシンなどの縫製器で縫製されても良い。この縫製器は、例えば、第1の部分110及び第2の部分120の長さが予め入力されると、この長さが、縫い目の長さと、連続する2つの縫い目に挟まれた部分の長さとの合計よりも長くなるように被縫製物20を縫製する。
【0050】
(変形例8)
読み取り装置40は、連続する縫い目130どうしの距離(上述した実施形態における距離C)を補正してコードを読み取っても良い。例えば、第1の特定部432は、第2の部分120どうしの間隔が上述した間隔閾値よりも短い場合に、これを隠れ部分140によってできた隙間と判断し、この隙間の位置を特定する。この隙間は、一般に等間隔に現れるため、第1の特定部432は、この隙間をいくつか特定することで、第2の部分120及び第1の部分110のどこにこの隙間が位置するかを特定する。第1の特定部432は、特定した隙間の位置を示すデータを、読み取り部434に供給する。読み取り部434は、特定された第1の部分110及び第2の部分120に含まれる隙間の個数に予め定められた長さを乗じた値を、各部分の長さに加える補正を行い、補正した長さに対応するコードが表現する情報を読み取る。この予め定められた長さは、隠れ部分140の長さや、被縫製物20の厚さなどとすれば良い。なお、読み取り部434は、例えば、区切りコードの長さを示すデータを記憶部460に記憶しておき、区切りコードを表す第2の部分120に含まれる隙間の個数から隠れ部分140の長さを算出し、これにより第2の部分120及び第1の部分110の長さを補正しても良い。
【符号の説明】
【0051】
10、10f…上糸、110…第1の部分、120、120f…第2の部分、130…縫い目、140…隠れ部分、20…被縫製物、210…第1の生地、220…第2の生地、30…下糸、40、40f…読み取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状の第1の糸部と、
前記第1の糸部と交互に連続し、前記第1の糸部と識別可能である糸状の第2の糸部と
を有し、
前記第1の糸部及び前記第2の糸部は、各々の長さ方向の長さによって、符号化された情報を表現する一次元のコードを表し、
前記第1の糸部及び前記第2の糸部によって被縫製物が縫製されて複数の縫い目が1列に形成された場合に、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、前記第1の糸部と前記第2の糸部とが識別可能な状態となる一続きの部分の長さ方向の第1の長さと、連続する2つの当該部分に挟まれた部分の長さ方向の第2の長さとの合計よりも、前記第1の糸部及び前記第2の糸部が長さ方向に長い
ことを特徴とする縫製糸。
【請求項2】
前記第1の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、前記被縫製物の表面に現れている一続きの部分の長さ方向の長さであり、
前記第2の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、連続する2つの当該部分に挟まれた部分の長さ方向の長さである
ことを特徴とする請求項1に記載の縫製糸。
【請求項3】
前記第1の長さは、前記縫い目の長さ方向の長さであり、
前記第2の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部のうち、連続する2つの前記縫い目に挟まれた部分の長さ方向の長さである
ことを特徴とする請求項1に記載の縫製糸。
【請求項4】
前記第2の長さは、前記第1の糸部及び前記第2の糸部によって縫製されている前記被縫製物の厚さである
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の縫製糸。
【請求項5】
前記第2の部分は、前記第1の部分に比べて赤外線の吸収率が大きい
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の縫製糸。
【請求項6】
前記第2の部分は、紫外線を照射されると、前記第1の部分に比べて蛍光を多く発する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の縫製糸。
【請求項7】
前記第2の部分は、前記被縫製物と共通する色であって可視色の色に着色されている
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の縫製糸。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の縫製糸によって縫製され、縫い目が1列に形成されている
ことを特徴とする被縫製物。
【請求項9】
前記被縫製物を縫製して1列の縫い目を形成している請求項1ないし7のいずれかに記載の縫製糸を含む予め定められた範囲の領域に、予め定められた波長の光を照射する照射手段と、
前記照射手段により照射された光によって前記領域から出射される反射光又は蛍光の強さを測定する測定手段と、
前記領域において、前記測定手段により測定された光の強さが周辺領域と異なる部分を前記第2の部分として特定する第1の特定手段と、
前記領域において、前記第1の特定手段により特定された第2の部分に挟まれる部分を前記第1の部分として特定する第2の特定手段と、
前記第1の特定手段により特定された第2の部分の長さと、前記第2の特定手段により特定された第1の部分の長さとに対応する前記コードが表現する情報を読み取る読み取り手段と
を備えることを特徴とする読み取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−149361(P2012−149361A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9233(P2011−9233)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】