説明

縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物

【解決手段】(A)1分子中に少なくとも2個のシラノール基を含むオルガノポリシロキサン、
(B)(B−1)1分子中にSiH基を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び/又は
(B−2)1分子中に珪素原子に直接結合した加水分解性基を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサン、
(C)Mg、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、W及びBiから選ばれる化合物の縮合反応触媒、
(D)炭素原子1〜3個を介して窒素原子と酸素原子及び/又は硫黄原子とが結合した構造を含む有機化合物助触媒
を含む縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物。
【効果】本発明によれば、非錫系金化合物触媒を用いても優れた硬化性、剥離特性を達成でき、安全性、環境負荷に問題が指摘されている錫化合物を含まないため、付加反応硬化型では応用が困難であった用途へ使用範囲が拡大された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙、ラミネート紙、プラスチックフィルム等の各種基材表面に剥離性硬化皮膜を形成させることで、感圧接着剤等の粘着物質に対して剥離性を示す材料を得る方法は古くから知られている。このような剥離性硬化皮膜を形成する材料としてシリコーン組成物が使用されており、例えば特公昭35−13709号公報(特許文献1)や特公昭36−1397号公報(特許文献2)には、シラノール基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンと錫化合物からなる縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物が提案されている。
【0003】
その後、特公昭46−26798号公報(特許文献3)等で開示されているような付加反応硬化型の組成物が開発されると、縮合型よりもキュアー性やポットライフの良好な点が好まれ、付加型が広く普及しはじめた。特に比較的低い加熱温度で短時間硬化を必要とされる剥離紙用途では、現在でも付加型が主流で使用され続けている。
【0004】
縮合反応硬化型に通常使用される錫化合物は、硬化性に優れ、無色であり、液体で、しかもシリコーンに可溶である点からアルキル錫系が主として用いられるものの、毒性があるという欠点を有する(生殖毒性)。また、環境ホルモン疑義物質等として環境負荷としての問題点も指摘されるなど使用への制限が厳しくなる状況に進んでいる。
【0005】
それでも縮合反応硬化型には、付加反応触媒毒の有る用途への使用が可能で、混合使用できる他材料の種類が豊富であるなどの利点があり、錫触媒の安全性や環境負荷の問題を解決すればシリコーン剥離コーティング組成物として更に多様な用途への利用拡大が期待されている。
そのため、従来から触媒の非錫化が検討されてきた。特開昭59−176326号公報(特許文献4)では水酸化第4ホスホニウム化合物、国際公開第2008/081890号パンフレット(特許文献5)では第4級アンモニウムイオン化合物、米国特許第3,719,633号明細書(特許文献6)、米国特許第4,180,462号明細書(特許文献7)、特表2011−506584号公報(特許文献8)にはグアニジン等の有機物が提案され、特表2011−510103号公報(特許文献9)にはカオリン等の天然鉱物の利用も紹介されている。
【0006】
金属化合物としては、従来からチタン系や亜鉛系化合物の利用がされており、最近では特表2007−527932号公報(特許文献10)にIr化合物、特開2010−163602号公報(特許文献11)にZr化合物、特表2011−506738号公報(特許文献12)にZn化合物、特表2011−506744号公報(特許文献13)にMo化合物、特表2011−506739号公報(特許文献14)にCu、Ag、B、Sc、Ce、Bi、Ge、Mn等の各種の金属について提案がなされている。
【0007】
しかし、これらは錫系触媒よりも反応速度が緩やか、ゲル化の問題、触媒効果がさほど得られない、コストアップ等の欠点があり、工業的に広く利用されているとはいえない状況にある。特に比較的低い加熱温度で短時間硬化を必要とされるシリコーン剥離コーティング剤としての用途で使用される場合にはこれらの欠点が大きな障害となってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭35−13709号公報
【特許文献2】特公昭36−1397号公報
【特許文献3】特公昭46−26798号公報
【特許文献4】特開昭59−176326号公報
【特許文献5】国際公開第2008/081890号パンフレット
【特許文献6】米国特許第3,719,633号明細書
【特許文献7】米国特許第4,180,462号明細書
【特許文献8】特表2011−506584号公報
【特許文献9】特表2011−510103号公報
【特許文献10】特表2007−527932号公報
【特許文献11】特開2010−163602号公報
【特許文献12】特表2011−506738号公報
【特許文献13】特表2011−506744号公報
【特許文献14】特表2011−506739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたもので、紙、ラミネート紙、プラスチックフィルム等の表面に塗布し、各種基材表面に対して離型性に優れた非粘着性皮膜を形成することのできる脱水素及び脱アルコール縮合反応硬化型のシリコーン剥離コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために各種材料を用いて鋭意検討を重ねた結果、特定の窒素原子含有化合物を助触媒として非錫系金属化合物触媒と併用する方法により、脱水素及び脱アルコール縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング剤として優れた性能を有する組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物を提供する。
[1] (A)1分子中に少なくとも2個のシラノール基を含むオルガノポリシロキサン
100質量部、
(B)(B−1)1分子中に珪素原子に直接結合した水素原子(SiH基)を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン0.1〜20質量部、及び/又は
(B−2)1分子中に珪素原子に直接結合した加水分解性基を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサン0.1〜20質量部であって、(B)成分中の活性基であるSiH基及び加水分解性基のモル数が(A)成分のシラノール基のモル数の1〜200倍に相当する量、
(C)マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン及びビスマスから選ばれる化合物の縮合反応触媒
触媒量、
(D)炭素原子1〜3個を介して窒素原子と酸素原子及び/又は硫黄原子とが結合した構造を含む有機化合物助触媒 1〜20質量部
を含むことを特徴とする縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物。
[2] (D)成分が、(I)分子量が10000以下であるか、(II)分子内に珪素原子を含む置換基を持つものであるか、又は(I)及び(II)の双方を有するものである[1]記載の組成物。
[3] (D)成分が、下記i〜ivに示す有機化合物及びこれらのうちの2種以上が反応して生成する有機化合物から選ばれるものである[1]又は[2]記載の組成物。
i.イソシアネート基含有化合物、及びそれらの縮合物
ii.イソシアネート基含有化合物と水酸基及び/又はアミノ基含有化合物との反応物
iii.アミノ基含有化合物とエポキシ化合物との開環反応物
iv.アミノ基含有化合物とオキセタン化合物との開環反応物
[4] (D)成分として、上記有機化合物中の酸素原子の一部又は全てが硫黄原子に置き換わった化合物を単独で又はこれと上記有機化合物とを組み合わせて用いる[3]記載の組成物。
[5] (C)成分の縮合反応触媒が、アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価又はビスマス三価の化合物であって、配位子として有機酸、アルコキシド又はキレート剤を結合した化合物である[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] (C)成分の縮合反応触媒が、アルミニウム三価、鉄三価又はビスマス三価の化合物であって、配位子として有機酸又はキレート剤を結合した化合物である[5]記載の組成物。
[7] 更に、(E)有機溶剤を含有する[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] トルエン1900質量部に(A)〜(D)成分を上記配合量範囲内で溶解させたときの25℃における24時間経時後の粘度が初期粘度の2倍以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、錫系金属化合物触媒に比べ、硬化性、剥離特性に劣っていた非錫系金属化合物触媒を用いても優れた硬化性、剥離特性を達成できる。また、安全性、環境負荷に問題が指摘されている錫化合物を含まない縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物を提供することで、付加反応硬化型では応用が困難であった用途へ使用範囲が拡大され、他の各種材料との混合使用が可能になるなど多様な応用手法に対応できる。
形成された硬化皮膜は、各種の基材に対して良好な密着性を示す。また、シェルフライフ及びポットライフが良好で、作業性にも優れており、安定な特性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[(A)オルガノポリシロキサン]
(A)成分は、1分子中に珪素原子に直接結合するヒドロキシ基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。珪素原子に直接結合するヒドロキシ基以外の一価の有機基については特に限定されるものではなく、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ビニル基、プロペニル等のアルケニル基等の炭素数1〜10の一価炭化水素基が挙げられるが、本発明においては、特に水酸基以外の有機基の80モル%以上がメチル基であることが好ましい。分子構造も特に限定されるものではないが、基本的には直鎖が工業的には好ましいが、分岐構造を有するものも同様に使用可能である。
(A)成分のオルガノポリシロキサンの回転粘度計により測定される25℃における30質量%トルエン溶液の絶対粘度は、50mPa・s以上のものが好ましく、より好ましくは50〜100000mPa・sである。
【0014】
(A)成分の具体的な例としては、以下の式(1−1)及び(1−2)で示されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。式中のRは、水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ビニル基、プロペニル等のアルケニル基等の炭素数1〜10の一価炭化水素基以外に、構造式(2−1)及び(2−2)のシロキサン残基(式(2−1)と式(2−2)中のR1は酸素原子又はメチレン基、エチレン基等の炭素数1〜6のアルキレン基である。Rは上記と同様である。)等である。α1は0〜1000、特に0〜900の数であり、β1は50〜9000、特に60〜9000の数である。α2は0〜900、β2は0〜9000の数であるが、1分子中に水酸基を2個以上有するような数である。
【0015】
【化1】


(上記式中、Meはメチル基を示す。)
【0016】
[(B−1)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
本発明の(B)成分として用いることのできる(B−1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に珪素原子に直接結合する水素原子を少なくとも3個、好ましくは4〜1000個有することが必要である他は特に限定されず、分子構造は直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。本発明の(B−1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンの回転粘度計により測定される25℃における絶対粘度は、数mPa・s〜数万mPa・sの範囲であればよい。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例として下記のものを挙げることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
但し、上記構造式及び組成式において、Meはメチル基を示し、YとZはそれぞれ上記構造式で示される基であり、かつ、a〜pは次に示される範囲の整数である。a,e,gは3〜500、特に4〜500、f,i,mは0〜500、特に0〜400、b,c,d,h,j,k,n,o,p,qは0〜500、特に0〜400の整数である。
【0019】
[(B−2)加水分解性基含有オルガノポリシロキサン]
本発明の(B−2)成分として使用できるオルガノポリシロキサンは、1分子中に珪素原子に結合する加水分解性基を少なくとも3個、好ましくは3〜1000個有するものである。加水分解性基としては、珪素原子に直接結合したメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、イソプロペノキシ基等のアルコキシ基、アセトキシ基等のアシルオキシ基が挙げられるが、一部、エチルアミノ基等のアミノ基、アミド基、エチルメチルブタノキシム基等のオキシム基、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を有するものが混在してもよい。
【0020】
加水分解性基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が工業的には好ましいが、具体的には以下のオルガノポリシロキサンが使用できる。rは0〜200、特に0〜190、sは0〜1000、特に0〜900の数である。なお、下記式中Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
【化3】

【0021】
なお、アルコキシ基の一部はCH3COO−,CH3(C25)C=NO−,(C252N−,CH3CO(C25)N−,CH2=(CH3)CO−等の基で置換されていてもよい。
【0022】
(B)成分の(B−1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、含有される珪素原子に結合した水素原子(以後SiH基で示す)のモル数が、(A)成分に含まれる水酸基の合計モル数の1〜200倍、特に1〜190倍に相当する量である。(B−2)オルガノポリシロキサンの配合量は、珪素原子に結合した加水分解性基のモル数が(A)成分に含まれる水酸基の合計モル数の1〜200倍、特に1〜190倍に相当する量である。それぞれ(B)成分中に含有される活性基(SiH基及び加水分解性基)のモル数が上記下限未満では本発明のコーティング用シリコーン組成物の硬化性が不十分となる一方、上限を超えて配合しても顕著な効果の増加は見られず、かえって経時変化の原因となるうえ、経済的にも不利となる。一般的な(B)成分の配合量としては、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜30質量部、特に0.1〜29質量部の範囲である。(B)成分としては、(B−1)又は(B−2)を単独で用いても、これらを混合して用いてもよい。また、1分子中にSiH基と加水分解性基との双方を有するものを使用してもよい。
【0023】
[(C)硬化触媒]
本発明の組成物に使用する(C)成分としての触媒は、(A)成分と(B)成分のいわゆる架橋反応を促進し、硬化皮膜を形成するために用いられる縮合反応硬化触媒である。マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、及びビスマスから選ばれる金属の化合物などが縮合反応触媒として使用できる。アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価、ビスマス三価の有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物などの金属化合物が好ましく挙げられる。例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの有機酸塩、プロポキシド、ブトキシドなどのアルコキシド、カテコール、クラウンエーテル、多価カルボン酸やヒドロキシ酸及びそれらのエステルの共役塩基、1,3−ジケトン類の共役塩基、β−ケト酸エステル類の共役塩基などキレート化合物が挙げられ、一つの金属に複数種類の配位子が結合していてもよい。
特に、配合や使用条件が多少異なっても安定した硬化性が得られ易いアルミニウム、鉄、ビスマス化合物が使いやすく望ましい。
【0024】
上記縮合反応用触媒の使用量は触媒量でよいが、(A)成分に対し、金属分として0.1〜20質量%使用でき、硬化条件により任意に選択できる。
【0025】
[(D)助触媒]
本発明の組成物の(D)成分は、炭素原子(C)1〜3個を介して窒素原子(N)と酸素原子(O)が結合した構造を有する有機化合物である。炭素原子を1個介して結合した−O−C−N−の構造を持つものとしては、シアネート基−O−C≡N、その3量体シアヌレート基、イソシアネート基−N=C=O、その2量体ウレトジオン基、3量体イソシアヌレート基、アミド基−CO−NH−、カルバメート基−O−CO−NH2、ウレタン基−O−CO−NH−、尿素基−NH−CO−NH−、
ビウレット基
【化4】

アロファネート基
【化5】

等が挙げられ、これらを含む環構造の置換基としては、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジンなどの環状イミノエーテル、マレイミド、フタルイミドなどの環状イミド、ピロリドンなどの環状ラクタムなどの構造を持つ基が挙げられる。これらのなかで、イソシアネート基から誘導される化合物がより好ましく用いられる。また、その2量体、3量体、それらから誘導される化合物、水酸基及び/又はアミノ基含有化合物との反応物などが使用される。
【0026】
−O−C−C−N−の構造を持つものとしては、エタノールアミンから誘導される化合物が挙げられる。アミンとエチレンオキサイドを反応させるエタノールアミンの製造方法を応用して、各種アミノ基含有化合物とエポキシ化合物を開環反応させれば相当する構造を持った様々な化合物を調製できる。
【0027】
−O−C−C−C−N−の構造をもつものとしては、1,3−アミノアルコールから誘導される化合物が挙げられる。アミンとオキセタンを反応させる1,3−アミノアルコールの製造方法を応用して、各種アミノ基含有化合物とオキセタン化合物を開環反応させれば相当する構造を持った様々な化合物を調製できる。
【0028】
(D)成分としては、上記化合物のうちの2種以上が反応して生成する有機化合物も用いることができる。
【0029】
また、これらの化合物に含まれる酸素原子(O)は一部又は全部が硫黄原子(S)に置き換わっていてもよく、イソチオシアナート、チアシクロプロパン、チエタンなどを利用して調製することができる。
【0030】
(D)成分としては、炭素原子を介して窒素原子と酸素原子が結合した構造を有する化合物、及びこの化合物中の酸素原子の一部又は全部が硫黄原子で置換された化合物のいずれか一方又は両方を用いることができる。
【0031】
(D)成分のもう一つの特徴として、本発明のシリコーン組成物に良好な溶解性を持つことが求められる。化合物の構造にもよるが、高分子量なほど溶解性は乏しくなる傾向にあり、分子量が10000以下、好ましくは5000以下であることが望ましい。なお、本発明において分子量は、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
[測定条件]
展開溶媒:トルエン
流量:0.35mL/分
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:品名 TSKgel−G2000H×2本、G3000H×1本、G4000H×1本、TSKgurdcolumnH−L×1本(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度1質量%のトルエン溶液)
【0032】
また、分子内にSi原子を含む置換基を持っている方が溶解性が良好で望ましい。例えば−SiR1m(OR23-m、−O−SiR1m(OR23-m、−(SiR1o(OR22-o−O−)n−SiR1m(OR23-mで表されるシリル基やシロキサン基が挙げられる。ここで、R1とR2はそれぞれメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基などの炭素数1〜20、特に1〜10のアルキル基、アリル基、アリール基であり、m=0〜3、n=1〜10、o=0〜2の数である。これらの基は、一部のR1やR2が結合手として置き換わった二価置換基などの多価置換基として分子内に存在しても差し支えない。
【0033】
(D)成分としては、下記i〜ivに示す有機化合物及びこれらのうちの2種以上が反応して生成する有機化合物から選ばれるものであることが好ましい。
i.イソシアネート基含有化合物、及びそれらの縮合物
ii.イソシアネート基含有化合物と水酸基及び/又はアミノ基含有化合物との反応物
iii.アミノ基含有化合物とエポキシ化合物との開環反応物
iv.アミノ基含有化合物とオキセタン化合物との開環反応物
【0034】
本発明の(D)成分の具体例としては、下記のものが例示される。なお、下記式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
本発明の(D)助触媒は、(A)成分100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜19質量部である。これより少なすぎると硬化性が低下し、多すぎるとポットライフが不足し、作業性が低下する。
【0037】
[(E)有機溶剤]
本発明の組成物の(E)成分の有機溶剤は、処理浴安定性、各種基材に対する塗工性の向上、塗工量及び粘度の調整を目的として配合される成分であり、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、IPA、ヘキサン、ヘプタン等の、組成物を均一に溶解できる任意量の有機溶剤が使用でき、(A)成分100質量部に対して10〜1900質量部含有することができるが、塗工方法によっては(E)成分は配合されなくてもよい。
【0038】
[その他の成分]
本発明の組成物には、必要に応じて滑り性付与剤、密着向上剤、剥離力コントロール剤、顔料、レベリング剤、バスライフ延長剤として公知のものを配合することもできる。
【0039】
本発明の組成物は、前記(A)、(B)、(C)、(D)、及び必要により(E)の各成分を均一に混合することにより容易に製造することができる。この混合に際しては、(A)成分を(E)成分に均一に溶解した後、(B)、(C)、(D)成分を混合するのが有利である。
本発明の組成物は、錫触媒を含有しないことにより従来の縮合反応硬化型組成物よりもポットライフが良好であるという特徴を有するが、十分なポットライフを確保するため、(C)成分はコーティングをする直前に添加混合した方がよい。
【0040】
本発明においては、(E)成分としてトルエン1900質量部を加えた組成物の25℃における24時間経時後の回転粘度計により測定される粘度が初期粘度の2倍以下であることが、ポットライフ及び作業性の点から好ましい。
【0041】
本発明の組成物を使用して塗工する場合には、本発明の組成物を直接又は適当な有機溶剤で希釈した後、バーコーター、ロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、エアナイフコーター、さらに薄膜の塗工には高精度のオフセットコーター、多段ロールコーター等の公知の塗布方法により、紙、ラミネート紙、プラスチックフィルム等の基材に塗布する。
【0042】
本発明の組成物の基材への塗布量は、塗布すべき基材の材質の種類によっても異なるが、固形分の量として0.1〜5.0g/m2の範囲が好ましい。上記のようにして本発明の組成物を塗布した基材を80〜180℃で5〜60秒間加熱することにより基材表面に硬化皮膜を形成せしめ、所望の剥離紙及び剥離フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例においてMeはメチル基、Etはエチル基を示す。
【0044】
[実施例1]
(A)成分として、回転粘度計により測定される25℃における30質量%トルエン溶液の粘度が10000mPa・sであり、分子鎖の両末端がジメチルヒドロキシシリル基で封鎖され、主骨格はジメチルシロキサン単位で構成されているオルガノポリシロキサンを100質量部、(E)成分として、トルエンを1800質量部取り、20〜40℃で撹拌溶解した。得られた溶液に、(B−1)成分として、これに分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、MeHSiO2/2で表される単位を95モル%含有し、絶対粘度が25mPa・sであるメチルハイドロジエンポリシロキサンを3質量部、(D)成分として、下記式
【化8】


で示される化合物を10質量部加え、20〜40℃で1時間撹拌混合した。
【0045】
なお、(D)成分は、下記式で示される化合物の等モルを140℃で6時間反応させて得た。主成分はエポキシ基とアミノ基の縮合物であり、平均分子量は400であった。
【化9】

【0046】
基材に塗工する直前に、(C)成分として、3価のビスマスカルボン酸塩をBi換算量3質量%対(A)成分添加して、組成物を調製した。
これをメイヤーバーを用いてグラシン紙へ均一に塗工し、所定条件(150℃で30秒間)にてキュアーして、塗工量が固形分で1.0g/m2の評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を10質量部用いた以外は同様に組成物を調製した。
【化10】

【0048】
なお、(D)成分は、下記式で示される化合物の3モルのイソシアネート基同士を公知の方法に従って縮合させて3量体を得た。平均分子量は600であった。
【化11】

【0049】
[実施例3]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を10質量部用いた以外は同様に組成物を調製した。
【化12】

【0050】
なお、(D)成分は、下記式で示される化合物の等モルを50℃で6時間反応させて得た。主成分はイソシアネート基とアミノ基の縮合物であり、平均分子量は350であった。
【化13】

【0051】
[実施例4]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を10質量部用いた以外は同様に組成物を調製した。
【化14】

【0052】
なお、(D)成分は、下記式
【化15】

で示される化合物1モルに、下記式
【化16】

で示される化合物1モルを140℃で6時間反応させた後、下記式
【化17】

で示される化合物1モルを50℃で6時間反応させて得た。平均分子量は600であった。
【0053】
[実施例5]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を10質量部用いた以外は同様に組成物を調製した。
【化18】

【0054】
なお、(D)成分は、下記式
【化19】

で示される化合物1モルに、下記式
【化20】

で示される化合物2モルを140℃で6時間反応させて得た。平均分子量は700であった。
【0055】
[実施例6]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を10質量部用いた以外は同様に組成物を調製した。
【化21】

なお、(D)成分は、下記式
【化22】

で示される化合物1モルに、下記式
【化23】

で示される化合物1モルを140℃で6時間反応させて得た。平均分子量は400であった。
【0056】
[実施例7]
実施例1において(C)成分としてテトラアセチルアセトナート鉄をFe換算量3質量%対(A)成分とした以外は同様に実施した。
【0057】
[実施例8]
実施例1において(A)成分として、25℃における30質量%トルエン溶液の粘度が15000mPa・sであり、分子鎖の両末端はジメチルヒドロキシシリル基で封鎖され、主骨格はジメチルシロキサン単位99.9モル%、ヒドロキシメチルシロキサン単位0.01モル%で構成されているオルガノポリシロキサンを100質量部、(B−2)成分として、MeSi(OMe)3の部分加水分解縮合物で、粘度が10mPa・sであるメチルメトキシポリシロキサンを5質量部とした以外は同様に実施した。
【0058】
[実施例9]
実施例8において、(C)成分としてテトラアセチルアセトナートアルミニウムをAl換算量3質量%対(A)成分とした以外は同様に実施した。
【0059】
[実施例10]
実施例8において、(C)成分としてテトラアセチルアセトナート鉄をFe換算量3質量%対(A)成分とした以外は同様に実施した。
【0060】
[実施例11]
実施例8において、(C)成分としてテトラアセチルアセトナートアルミニウムをAl換算量1.5質量%対(A)成分、3価Biカルボン酸塩をBi換算量1.5質量%で配合した以外は同様に実施した。
【0061】
[実施例12]
実施例8において、(C)成分としてテトラアセチルアセトナート鉄をFe換算量1.5質量%対(A)成分、3価ビスマスカルボン酸塩をBi換算量1.5質量%で配合した以外は同様に実施した。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、(D)成分を配合しない以外は同様に実施し、評価用試料を作製した。
【0063】
[比較例2]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を配合した以外は同様に組成物を調製した。
【化24】

【0064】
[比較例3]
実施例1において、(D)成分として下記化合物を配合した以外は同様に組成物を調製した。
【化25】

【0065】
[比較例4]
実施例1において、(D)成分を配合せず、(C)成分としてジオクチル錫ジカルボン酸塩を錫換算量で3質量%配合した以外は同様に実施した。
【0066】
[比較例5]
実施例8において、(D)成分を配合せず、(C)成分としてジオクチル錫ジカルボン酸塩を錫換算量で3質量%対(A)成分配合した以外は同様に実施した。
【0067】
硬化皮膜特性の評価方法
1)硬化性
触媒添加したシリコーン組成物をPEラミネート紙に固形分で1.0g/m2塗布し、130℃の熱風循環式乾燥機で30秒間加熱処理して硬化皮膜を形成し、評価用試料を作製した。
試料の硬化皮膜表面を指でこすり、皮膜表面のくもり度合を観察し、以下の基準で評価した。
○:130℃×30秒加熱でくもり生じない。
△:薄くくもりが生ずる。
×:濃いくもりが生ずる、あるいは未硬化の状態。
【0068】
2)密着性
触媒添加したシリコーン組成物をPEラミネート紙に固形分で1.0g/m2塗布し、150℃の熱風循環式乾燥機で30秒間加熱処理して硬化皮膜を形成し、評価用試料を作製した。
試料を25℃,50%RH×1日放置後、硬化皮膜表面を指でこすり、皮膜表面の脱落の度合を観察し、以下の基準で評価した。
○:脱落が全くない。
△:部分的に脱落が生ずる。
×:容易に脱落が生ずる。
【0069】
3)離型性
上記2)密着性の評価と同様に評価用試料を作製し、その硬化皮膜表面にアクリル系溶剤型粘着剤〔オリバインBPS−5127(東洋インキ製造(株)製)〕を塗布して100℃で3分間熱処理し、次いで、この処理面に坪量64g/m2の上質紙を貼り合わせて2kgローラーで1往復圧着し、25℃で20時間エージングさせた。この試料を5cm幅に切断し、引張り試験機を用いて180°の角度で剥離速度0.3m/分で貼合わせ紙を引張り、剥離するのに要する力(N)を測定した。測定はオートグラフDCS−500(島津製作所株式会社製)を使用した。
【0070】
4)残留接着
セパレータの硬化皮膜表面にポリエステルテープ〔ニットー31B(日東電工(株)製)〕を貼合わせ、20gf/cm2の荷重をかけた状態で70℃、20時間エージングした後、テープを剥がし、ステンレス板に貼付けた。次いで、このテープをステンレス板表面に対し180°の角度で剥離速度0.3m/分で剥がし、剥離するのに要する力を測定した。一方、テフロン(登録商標)板表面に上記のポリエステルテープを貼合わせ、同様の条件でエージングし、同様にしてテープを剥離するのに要する力(N)を測定し、前者の後者に対する比率が90%以上のものを○、80〜89%を△、79%以下を×とした。
【0071】
5)ポットライフ
実施例及び比較例で調製した塗工液を25℃×1日放置した後、外観を観察した。良好なものを○、増粘やゲル化、沈殿生成しているものを×とした。
【0072】
【表1】

【0073】
本発明の組成物を用いれば錫系触媒を用いることなく、硬化皮膜の特性に優れた剥離紙を作製することができ、保存安定性にも優れることからその作業性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のシラノール基を含むオルガノポリシロキサン
100質量部、
(B)(B−1)1分子中に珪素原子に直接結合した水素原子(SiH基)を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン0.1〜20質量部、及び/又は
(B−2)1分子中に珪素原子に直接結合した加水分解性基を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサン0.1〜20質量部であって、(B)成分中の活性基であるSiH基及び加水分解性基のモル数が(A)成分のシラノール基のモル数の1〜200倍に相当する量、
(C)マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン及びビスマスから選ばれる化合物の縮合反応触媒
触媒量、
(D)炭素原子1〜3個を介して窒素原子と酸素原子及び/又は硫黄原子とが結合した構造を含む有機化合物助触媒 1〜20質量部
を含むことを特徴とする縮合反応硬化型シリコーン剥離コーティング組成物。
【請求項2】
(D)成分が、(I)分子量が10000以下であるか、(II)分子内に珪素原子を含む置換基を持つものであるか、又は(I)及び(II)の双方を有するものである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(D)成分が、下記i〜ivに示す有機化合物及びこれらのうちの2種以上が反応して生成する有機化合物から選ばれるものである請求項1又は2記載の組成物。
i.イソシアネート基含有化合物、及びそれらの縮合物
ii.イソシアネート基含有化合物と水酸基及び/又はアミノ基含有化合物との反応物
iii.アミノ基含有化合物とエポキシ化合物との開環反応物
iv.アミノ基含有化合物とオキセタン化合物との開環反応物
【請求項4】
(D)成分として、上記有機化合物中の酸素原子の一部又は全てが硫黄原子に置き換わった化合物を単独で又はこれと上記有機化合物とを組み合わせて用いる請求項3記載の組成物。
【請求項5】
(C)成分の縮合反応触媒が、アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価又はビスマス三価の化合物であって、配位子として有機酸、アルコキシド又はキレート剤を結合した化合物である請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
(C)成分の縮合反応触媒が、アルミニウム三価、鉄三価又はビスマス三価の化合物であって、配位子として有機酸又はキレート剤を結合した化合物である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
更に、(E)有機溶剤を含有する請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
トルエン1900質量部に(A)〜(D)成分を上記配合量範囲内で溶解させたときの25℃における24時間経時後の粘度が初期粘度の2倍以下である請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物。

【公開番号】特開2013−87175(P2013−87175A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227907(P2011−227907)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】