説明

縮合多環化合物及びこれを有する有機発光素子

【課題】緑色発光する化学的安定性の高い縮合多環化合物と、それを有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】下記一般式[1]または[2]で示される縮合多環化合物を提供する。


〔式[1]及び[2]において、R1乃至R10は水素原子、直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規縮合多環化合物及びこれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は陽極と陰極と、それら両電極間に配置される有機化合物層とを有する素子である。有機発光素子は、前記各電極から注入させるホール(正孔)及び電子が有機化合物層内で再結合することで励起子が生成し、励起子が基底状態に戻る際に光が放出される。
【0003】
有機発光素子の最近の進歩は著しく、駆動電圧が低く、多様な発光波長、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。
【0004】
有機発光素子をフルカラーディスプレイ等へ応用する場合、青、緑、赤の各色の発光材料の高色純度化が必要とされ、さらに発光素子の発光効率及び耐久寿命には更なる改善の余地がある。
【0005】
有機発光素子の発光層に使用される発光材料として、例えば、フルオランテノ[8,9−b]トリフェニレン環を主骨格とする化合物として、以下に示す化合物A及びBが特許文献1に記載されている。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−026158号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている化合物A及びBの発光色はどちらも青色であり、フルオランテノ[8,9−b]トリフェニレン環を主骨格とする化合物では、緑色発光色を得ることは困難である。
【0009】
化合物の主骨格に置換基を設けることで発光波長を長波長化できるが、化合物の化学安定性を損なう可能性がある。
【0010】
本発明は、主骨格のみで色発光が可能で、化学安定性の高い新規な縮合多環化合物を提供することを目的とする。さらにそれを有する発光効率が高く駆動耐久性の優れた有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
よって本発明は、下記一般式[1]または[2]で示されることを特徴とする縮合多環化合物を提供する。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
〔式[1]及び[2]において、R乃至R10は水素原子、直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、緑色発光が可能で化学安定性の高い新規な縮合多環化合物を提供できる。そしてそれを有する発光効率が高く駆動耐久性の優れた有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る発光層積層型の有機発光素子の一例の模式図である。
【図2】本実施形態に係る有機発光素子とこの有機発光素子に接続されているスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は下記一般式[1]または[2]で示されることを特徴とする縮合多環化合物である。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
式[1]及び[2]において、R乃至R10は水素原子、直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。
【0021】
乃至R10で示される直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。
【0022】
乃至R10で示される炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスリル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、ピレニル基、クリセニル基、ベンゾ[a]アントラセニル基、テトラセニル基、ベンゾ[c]フェナンスリル基、ベンゾ[ghi]フルオランテニル基、ペリレニル基、ベンゾ[e]ピレニル基、ベンゾ[a]フルオランテニル基、ベンゾ[b]フルオランテニル基、ベンゾ[j]フルオランテニル基、ベンゾ[k]フルオランテニル基、ピセニル基、ベンゾ[b]トリフェニレニル基、ベンゾ[b]クリセニル基、インデノ[1,2,3−cd]フルオランテニル基、インデノ[1,2,3−cd]ピレニル基である。
【0023】
上記の芳香族炭化水素基の中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、フェナンスリル基、フルオランテニル基、ピレニル基が特に好ましい。
【0024】
上記の炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基は置換基を有してもよい。例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスリル基、アントラセニル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基、フルオランテニル基、テトラセニル基、ピセニル基等の芳香族炭化水素基、チエニル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリジル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル等、カルバゾリル基、フェナジニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基の芳香族複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ジフルオレニルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、オキセタニル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基である。
【0025】
式[1]または[2]で示される縮合多環化合物は、好ましくは式[3]または[4]で示される化合物である。
【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
式[3]及び[4]において、X乃至X10は水素原子、直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。
【0029】
乃至X10で示される直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基の具体例としては、式[1]及び[2]中のR乃至R10で示される上述の直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基の具体例と同様である。
【0030】
上記のフェニル基は置換基を有してもよい。このフェニル基がさらに有してもよい置換基の具体例は、式[1]及び[2]中のR乃至R10が表す炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基がさらに有してもよい置換基として上述した具体例と同様である。
【0031】
(本発明に係る縮合多環化合物の性質について)
本発明に係る縮合多環化合物は下記に示すベンゾ[6’,7’]トリフェニレノ[2’,3’:5,6]インデノ[1,2,3−cd]ピレン(以下、BTIPy(a)と略記)またはベンゾ[10’,11’]トリフェニレノ[2’,3’:5,6]インデノ[1,2,3−cd]ピレン(以下、BTIPy(b)と略記)を主骨格として有する。
【0032】
【化8】

【0033】
上記2つの縮合多環は互いにジアステレオマーの関係にあり、後述する合成方法の都合上、どちらか一方の誘導体の選択的な合成や精製による単離が困難である。
【0034】
そのため、本発明に係る縮合多環化合物は一般式[1]及び[2]で示される両ジアステレオマーの混合物であってもよい。
【0035】
両ジアステレオマーはほぼ等しい物性を有するので、混合物として用いても材料物性面での支障はない。以下、両ジアステレオマーを総称してBTIPyとする。
【0036】
本発明に係る縮合多環化合物は一般式[1]または[2]で示され、主骨格として上記のBTIPy環を有する。
【0037】
ここで化合物における主骨格とは、化合物分子内で最も広いπ共役構造を有した部分構造であって、化合物全体のS1エネルギー、T1エネルギー、HOMO準位、LUMO準位、振動子強度、及び発光量子収率などの物性値を主として決めている部分構造のことをいう。
【0038】
これに対し副骨格とは化合物分子内の補助修飾的な部分構造であり、上記の主骨格で決まる化合物全体の物性には大きな影響を与えず、その微調整に用いられる。
【0039】
具体的には、本発明の一般式[1]及び[2]で示される縮合多環化合物においては、置換基R乃至R10が副骨格に相当する。
【0040】
即ち置換基R乃至R10の種類に依らず、式[1]または[2]で示されるBTIPy環を主骨格とする縮合多環化合物はほぼ同様の物性を有することが期待できる。
【0041】
本発明に係る縮合多環化合物はBTIPyを主骨格として有する化合物である。
【0042】
BTIPyは下記に示すようにフルオランテノ[8,9−b]トリフェニレンのフルオランテン側にナフタレン環を、トリフェニレン側にベンゼン環をそれぞれ縮合させた構造である。
【0043】
【化9】

【0044】
青色発光するフルオランテノ[8,9−b]トリフェニレンに対し、上記のようにナフタレン環とベンゼン環を縮合させてπ共役面を拡大すると、化合物のS1エネルギーを低下させて発光色を長波長化することができる。その結果BTIPyは緑色発光する。
【0045】
ここでいう緑色発光とは、発光材料のトルエン希薄溶液での発光ピーク波長が475nm以上510nm以下の範囲にある発光である。
【0046】
このとき、その発光材料を有機発光素子の発光層ゲスト材料として用いると、その発光ピーク波長は500nm以上540nm以下の範囲になり、色純度の高い緑色発光が得られる。
【0047】
これは一般に、トルエン希薄溶液と発光素子とでは、発光ピーク波長におよそ0.15eV相当の差が生じるためである。
【0048】
ところで、本発明に係るBTIPy環以外にも、フルオランテノ[8,9−b]トリフェニレン環に芳香環を縮合させて得られる縮合多環は複数存在する。
【0049】
それらのうち代表的な縮合多環について、分子軌道計算を行った結果を下記表1に示す。
【0050】
ここで一般に、蛍光発光する化合物において、S1エネルギーは発光ピーク波長に相当し、振動子強度が大きいほど蛍光量子収率も大きい。
【0051】
【表1】

【0052】
フルオランテノ[8,9−b]トリフェニレン誘導体である比較化合物C1では、S1エネルギーの計算値は431nm(2.88eV)であるが、トルエン希薄溶液中での発光ピーク波長の実測値は460nm(2.70eV)となる。
【0053】
従って、計算値と実測値との間には0.18eVの差があり、この差を考慮すると、前述した発光ピーク波長が475nm以上510nm以下の緑色発光を得るためには、計算値において444nm以上475nm以下のS1エネルギーを有していればよい。
【0054】
表1の縮環1及び2のように、フルオランテノ[8,9−b]トリフェニレンにベンゼン環2個分までの縮環を単に増やすだけでは、π共役の広がりが不十分で緑色発光は得られないと考えられる。
【0055】
しかし、本発明に係るBTIPy環では、ベンゼン環3個分の縮環数の増加によって、S1エネルギー計算値が451nmになって上記の緑色発光の基準に適するようになる。
【0056】
このように発光波長が緑色発光するまでに長波長化するのは、BTIPy環には下記のように縮環内の部分構造として大きなπ共役面の得られるピレン環を有していることに起因している。
【0057】
【化10】

【0058】
従って、本発明に係るBTIPy環では、フルオランテノ[8,9−b]トリフェニレンから必要最小限の縮環増加数で効果的に長波長化でき、緑色発光が得られるようになる。
【0059】
ベンゼン環4個分以上の縮環を増加させれば容易に長波長化できるが、それに伴う分子量の増加によって、化合物の昇華精製が困難になるので好ましくない。
【0060】
一方、縮環3では、ベンゼン環1個分の縮環の増加で大幅に長波長化し、緑色よりも更に長波長の発光が得られると考えられる。
【0061】
これは下記のように、縮環3は縮環内の部分構造としてアントラセン環を有していることに起因する。
【0062】
しかし、このようなアントラセン環が部分構造として存在すると、アントラセン9位及び10位のダイペリ位のように、酸化に対して弱く、化学安定性の低い部位が分子中に存在することになる。
【0063】
【化11】

【0064】
有機発光素子中で励起と発光緩和を繰り返す発光材料は、このような安定性の低いダイペリ位を有することは好ましくない。
【0065】
本発明に係るBTIPy環にはこのようなアントラセン環部分構造を有していないので、耐酸化性が強く、化学安定性が高い主骨格である。
【0066】
さらに、表1中の他の縮環と比較して、本発明に係るBTIPyは振動子強度の計算値が大きいので、高い蛍光量子収率を有する主骨格であることが期待できる。
【0067】
以上より、本発明に係るBTIPy環を主骨格とする縮合多環化合物は、緑色発光が可能で、化学安定性が高く、高い蛍光量子収率を有する化合物であることが期待される。
【0068】
そしてそれを有機発光素子の発光層ゲストとして用いると、長寿命かつ高効率で、高緑色純度の発光素子を得ることができる。
【0069】
ところで、上記表1中のBTIPy(a)とBTIPy(b)の両ジアステレオマーを比較すると、S1エネルギーと振動子強度の計算値がほぼ等しいので、本発明に係る一般式[1]及び[2]で示される縮合多環化合物には材料物性面での差異がほぼ存在しない。
【0070】
従って、前述のように、本発明に係る一般式[1]及び[2]で示される縮合多環化合物を任意の比率で混合物として用いても、BTIPyを主骨格とする特性に変わりはなくほぼ均一な材料物性が得られる。
【0071】
また、一般式[1]及び[2]で示される本発明に係る縮合多環化合物は、置換基R乃至R10として直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基を有していてもよい。
【0072】
アルキル置換基を有する場合、アルキル置換基が電子供与基として作用し、無置換の化合物よりもHOMO準位が浅くなる。これはイオン化ポテンシャルが小さくなるともいえる。
【0073】
また、アルキル置換基が分子間相互作用を小さくする立体障害基として作用し、縮合多環化合物同士、あるいはホスト等の他化合物との分子間スタックを軽減することができる。
【0074】
本発明に係る縮合多環化合物を有機発光素子の発光層ゲストとして用いる場合、そのような分子間スタックの軽減によって濃度消光が抑制され、高い発光効率が得られる。
【0075】
さらに、分子間スタックの軽減は、縮合多環化合物の昇華温度を低下させるので、昇華精製時の過熱による熱分解を防ぐことも可能である。
【0076】
しかし、置換基R乃至R10として直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基はあくまで補助修飾的であり、本発明の縮合多環化合物の物性を大きく変えることはなく、その微調整のみに用いられる。
【0077】
また、一般式[1]及び[2]で示される本発明に係る縮合多環化合物は、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基を有していてもよい。
【0078】
そのような芳香族炭化水素基を置換基としてBTIPy主骨格に導入した場合、縮合多環化合物分子のπ共役長が大きくなり、発光波長が長波長化する。
【0079】
しかし、置換される芳香族炭化水素基の炭素原子数は22以下なので、その置換基個別のπ共役はBTIPy主骨格に比べて十分に小さく、緑色発光の波長領域を超えるような大幅な長波長化にはならない。
【0080】
従って、当該芳香族炭化水素置換基は、本発明に係る縮合多環化合物において発光波長の微調整に用いられる。
【0081】
特に、一般式[3]及び[4]で示されるように、一般式[1]及び[2]で示される本発明に係る縮合多環化合物のR及びRは置換あるいは無置換のフェニル基であることが好ましい。
【0082】
上記表1のBTIPy(b)と例示化合物201(b)のS1エネルギー計算値がほぼ等しいことから、BTIPy主骨格の置換基R及びRに相当する位置にフェニル基を導入しても、ほとんど発光波長が長波長化しないことがわかる。
【0083】
これは下記に示すように、フェニル置換基のα位の水素原子がBTIPy環上の水素原子と立体的に反発し、フェニル置換基がBTIPy環に対してほぼ直交し、BTIPy環上のπ共役がフェニル置換基まで伸びないからである。
【0084】
【化12】

【0085】
さらに、このようなBTIPy主骨格に対して直交したフェニル置換基は、前述のアルキル基同様、分子間相互作用を小さくする立体障害基として作用し、分子間スタックを軽減する効果を有する。
【0086】
従って、本発明に係る一般式[3]及び[4]で示される縮合多環化合物では、BTIPy主骨格由来の緑色発光を維持したまま分子間スタックが軽減されており、有機発光素子の発光層ゲストとして用いると、高緑色純度で高効率の発光が得られる。
【0087】
(本発明に係る縮合多環化合物の例示)
以下に本発明に係る縮合多環化合物の具体的な構造式を例示する。なお、例示化合物101(a)と例示化合物101(b)は互いにジアステレオマーの関係であり、他の例示化合物も同様である。
【0088】
また、以下では例示化合物101(a)と例示化合物101(b)の混合物のことを例示化合物101と表記し、他の例示化合物についても同様である。
【0089】
【化13】

【0090】
【化14】

【0091】
【化15】

【0092】
【化16】

【0093】
【化17】

【0094】
【化18】

【0095】
例示化合物のうち101乃至109に示す化合物は、第1群である。
【0096】
第1群は一般式[1]および[2]におけるR乃至R10が水素原子あるいは直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基である化合物である。
【0097】
これら第1群の化合物の発光波長は、BTIPy主骨格、すなわち例示化合物101の緑色発光波長と同等であり、分子量が比較的小さいので昇華精製が容易である。
【0098】
例示化合物のうち201乃至211に示す化合物は、第2群である。
【0099】
第2群は一般式[3]および[4]で表わされる、BTIPy主骨格の特定の位置に置換または無置換のフェニル基のみを有している化合物である。
【0100】
これら第2群の化合物は、前述のように、BTIPy主骨格由来の高緑色純度の発光が得られ、発光層ゲストとして用いると分子間スタックの軽減によって高効率の発光が得られる。
【0101】
例示化合物のうち301乃至303に示す化合物は、第3群である。
【0102】
第3群は一般式[3]および[4]で表わされる化合物のBTIPy主骨格上に、さらに一つ以上の直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基を置換基として有する化合物である。
【0103】
これら第3群の化合物では、BTIPy主骨格上のアルキル置換基によって、上記第2群の化合物よりも更に分子間スタックが軽減されている。
【0104】
例示化合物のうち401乃至406に示す化合物は、第4群である。
【0105】
第4群は一般式[1]および[2]においてR、R、およびR乃至R10の少なくとも1つが置換あるいは無置換のフェニル基である化合物である。
【0106】
これら第4群の化合物では、発光ピーク波長が第1乃至3群の化合物よりも10nm程度長波長化した緑色発光が得られる。
【0107】
例示化合物のうち501乃至507に示す化合物は、第5群である。
【0108】
第5群は一般式[1]および[2]においてR乃至R10の少なくとも1つが置換あるいは無置換の炭素原子数8乃至22の芳香族炭化水素基である化合物である。
【0109】
これら第5群の化合物では、第4群の化合物よりもさらに発光ピーク波長が長波長化した緑色発光が得られる。
【0110】
(本発明に係る縮合多環化合物の合成方法)
次に、本実施の形態に係る式[1]または[2]で示される縮合多環化合物の合成方法について説明する。
【0111】
本発明に係る縮合多環化合物は、下記式[5]の反応で得られるベンゾ[5,6]インデノ[1,2,3−cd]ピレンのBrCl中間体から、下記式[6]のSuzukiカップリング反応及びHeck反応によって合成される。
【0112】
このとき、下記式[5]のブロモクロロアントラニル酸を用いたDiels−Alder反応では、BrCl中間体のジアステレオマーが混合物として得られる。
【0113】
そして、続く式[6]の反応でもこの幾何異性が保たれ、本発明に係る縮合多環化合物はBTIPy(a)誘導体とBTIPy(b)誘導体のジアステレオマーの混合物として得られる。なお下記式[6]はBTIPy(a)誘導体の場合の合成スキームであり、BTIPy(b)誘導体の場合も同様である。
【0114】
【化19】

【0115】
【化20】

【0116】
式[5]の縮合反応において、ジケトン原料とケトン原料をそれぞれ適宜選択することによって、所望のBrCl中間体が得られる。
【0117】
さらに、このBrCl中間体と、置換基の導入されたナフチルフェニルボロン酸化合物を適宜選択して式[6]のSuzukiカップリング反応を行うことで、所望の本発明に係る縮合多環化合物を合成することができる。
【0118】
また本発明に係る縮合多環化合物は、有機発光素子に用いられる場合には直前の精製として昇華精製が好ましい。なぜなら有機化合物の高純度化において昇華精製は精製効果が大きいからである。
【0119】
このような昇華精製においては、一般に有機化合物の分子量が大きいほど高温が必要とされ、この際高温による熱分解などを起こしやすい。
【0120】
従って、有機発光素子に用いられる有機化合物は、過大な加熱なく昇華精製を行うことができるように、分子量が1000以下であることが好ましい。
【0121】
(本発明に係る有機発光素子について)
次に本発明に係る有機発光素子を説明する。
【0122】
本発明に係る有機発光素子は、互いに対向しあう一対の電極である陽極と陰極と、それらの間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する発光素子である。前記有機化合物層のうち発光材料を有する層が発光層である。
【0123】
そして本発明に係る有機発光素子は、前記有機化合物層が一般式[1]または[2]で示される縮合多環化合物を含有する。
【0124】
本発明に係る有機発光素子の素子構成としては、基板上に以下に示す層を順次積層した多層型の素子構成が挙げられる。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
ただしこれらの素子構成例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。
【0125】
例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくは正孔輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成される、発光層が発光材料の異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0126】
その場合の素子形態としては、基板側の電極から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0127】
また上記素子構成の中では、電子阻止層及び正孔阻止層を共に有している構成(6)が好ましく用いられる。構成(6)では正孔と電子の両キャリアを発光層内に閉じ込めることができるので、キャリア漏れのない高発光効率の素子が得られる。
【0128】
本発明に係る化合物は主として有機発光素子の発光層に用いられる。このとき発光層は複数種の成分から構成されていてよく、それらを主成分と副成分とに分類することができる。
【0129】
主成分とは発光層を構成する全化合物の中で重量比が最大の化合物であり、ホスト材料と呼ぶことができる。副成分とは主成分以外の化合物であり、ゲスト(ドーパント)材料、発光アシスト材料、電荷注入材料と呼ぶことができる。
【0130】
ここでゲスト材料とは、発光層内で主たる発光を担う化合物である。これに対してホスト材料とは、発光層内でゲスト材料の周囲にマトリックスとして存在する化合物であって、主にキャリアの輸送、及びゲスト材料への励起エネルギー供与を担う化合物である。
【0131】
発光アシスト材料とは発光層の中で重量比がホスト材料よりも小さく、ゲスト材料の発光を助けるもので化合物であり、第2ホスト材料とも呼ばれる。
【0132】
ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01wt%以上50wt%以下であり、好ましくは0.1wt%以上20wt%以下である。
【0133】
さらに好ましくは、濃度消光を防ぐためにゲスト材料の濃度は10wt%以下であることが望ましい。
【0134】
またゲスト材料はホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませてゲスト材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
【0135】
本発明に係る縮合多環化合物は、発光層のゲスト材料として使用することが好ましい。
【0136】
このとき本発明に係る縮合多環化合物の発光色は特に限定されないが、発光層ゲスト材料として用いた発光素子の最大発光ピーク波長が500nm以上540nm以下の範囲になる緑色発光材料であることが好ましい。
【0137】
本発明に係る縮合多環化合物が発光層ゲスト材料としてとして用いられる場合、発光層ホスト材料としては、本発明に係る縮合多環化合物よりもS1エネルギーの大きい化合物が用いられる。
【0138】
その場合、キャリア再結合で励起されたホスト材料の励起エネルギーが効率よくゲスト材料に移動し、ゲスト材料からの発光を高効率で得ることができる。
【0139】
さらに、発光層ホスト材料としては、分子が炭素原子及び水素原子のみから構成された芳香族炭化水素化合物が好ましい。その場合、輝度劣化の少ない駆動耐久性が高い発光素子が得られる。
【0140】
発光層内での発光層ホスト材料は、ラジカルカチオンまたはラジカルアニオンとしてキャリア伝導を担い、且つ励起されて発光層ゲスト材料への励起エネルギー供与も担うため、そのような高エネルギー状態になった時に大きな負荷がかかる。
【0141】
従って、芳香族炭化水素化合物は酸素原子や窒素原子等のヘテロ原子を有する化合物に比べて化学的安定性が高いので、これを発光層ホスト材料として用いることが好ましい。
【0142】
また、励起子やキャリアの伝達を補助することを目的として、発光層が複数のホスト材料を有していてもよく、ゲスト材料とは異なる発光アシスト材料を有していてもよい。
【0143】
以下に本発明において発光層のホスト材料として用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
【化21】

【0145】
中でも、分子内にフルオランテン構造を有するホスト材料の一例であるH9やH10、及びピレン骨格を有するホスト材料の一例であるH11が好ましい。
【0146】
本発明に係る縮合多環化合物と、他の発光材料と組み合わせて発光層を形成すると、白色に発光する有機発光素子も提供することができる。
【0147】
即ち、本発明に係る縮合多環化合物は主として緑色発光材料であるので、緑色以外の発光色、具体的には青色、黄色、橙色、及び赤色等となる発光材料を適宜組み合わせて発光層を形成すると、白色発光が得られる。
【0148】
具体的には、有機発光素子の発光層として、発光色の異なる2種類以上の発光材料を同一の発光層に含ませるか(単層発光層型)、あるいはそれぞれ単一または複数の発光材料からなり、互いに発光色の異なる複数の発光層を積層すればよい(積層発光層型)。
【0149】
このとき各発光層では、発光材料は発光層ゲスト材料として発光層ホスト材料と共に用いることが好ましく、積層発光層型の場合、複数の発光層で発光層ホスト材料は同一でも異なっていてもよい。
【0150】
図1は、積層発光層型の素子の一例の断面模式図である。
【0151】
この有機発光素子は、ガラス等の基板上に、陽極1、正孔注入層2、正孔輸送層3、青色発光層4、緑色発光層5、赤色発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9を積層させた素子構成である。
【0152】
積層発光層型では、例えば陽極側から順次、青色発光材料を有する青色発光層、緑色発光材料を有する緑色発光層、及び赤色発光材料を有する赤色発光層を積層した三層構成の白色発光層を用いることができる。
【0153】
本実施形態に係る白色を発する有機発光素子は、複数の発光層を有し、この複数の発光層のうちの少なくともいずれかひとつが本発明に係る縮合多環化合物を有し、緑色を発する。
【0154】
複数の発光層は、発光部が複数の発光層を有しているということもできる。
【0155】
白色を発する有機発光素子を得る場合、青色発光材料は特に限定されないが、フルオランテン骨格またはアントラセン骨格を有する発光材料が好ましい。
【0156】
また、赤色発光材料は特に限定されないが、フルオランテン骨格やピレン骨格を有する発光材料やイリジウム錯体が好ましい。
【0157】
複数の発光層のうちのその他の発光層は、緑色以外を発する発光層であり、それらの発光が混色することで白色を発する発光素子を得ることができる。
【0158】
このとき、陽極側からの青、緑、赤の三色の積層順序は特に限定されない。あるいは、青色発光材料を有する青色発光層と、黄色発光層とを積層した二層構成の白色発光層でもよい。
【0159】
このとき黄色発光層は、単一の黄色発光材料のみを有するか、または複数の発光材料(例えば緑色発光材料と赤色発光材料)を一層に有していてもよい。
【0160】
積層発光層型では、上記のように、各色発光層において、発光材料の発光色の選択と組み合わせ、積層順序、発光材料の濃度、及び膜厚等における設計自由度が高く、各色発光層でのキャリアバランスを最適化することができる。
【0161】
従って、各発光色の発光強度を最適化することができ、良好な白色発光を得ることができる。
【0162】
また、発光層は積層される形態に限られず、横並びに配置されてもよい。横並びとは、横並びに配置された発光層はいずれも正孔輸送層および電子輸送層に接するように配置されることである。
【0163】
また、発光層は、一の色を発光する発光層の中に他の色を発する発光層のドメインを形成する形態でもよい。
【0164】
ところで、本発明に係る有機発光素子には、本発明の縮合多環化合物以外にも必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の材料を使用することができる。より具体的には正孔注入輸送性材料、あるいはホスト材料、あるいは発光材料、あるいは電子注入輸送性材料等を一緒に使用することができる。
【0165】
以下にこれらの材料例を挙げる。
【0166】
正孔注入輸送性材料としては、陽極からの正孔の注入が容易で、注入された正孔を発光層へと輸送することができるように正孔移動度が高い材料が好ましい。また素子中において結晶化等の膜質の劣化を防ぐために、ガラス転移点温度が高い材料が好ましい。正孔注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、アリールカルバゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0167】
主に発光機能に関わる発光材料としては、本発明に係る縮合多環化合物以外に、芳香族炭化水素化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン誘導体、フルオランテン誘導体等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、燐光発光材料(例えばイリジウム錯体、白金錯体、オスミウム錯体等)及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0168】
発光層のホスト材料としては、正孔と電子の両キャリアの輸送性が高い材料が好ましく、前述の芳香族炭化水素化合物、もしくはその誘導体以外に、カルバゾール誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体等が挙げられる。
【0169】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入性能および電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0170】
陽極材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。
【0171】
これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0172】
一方、陰極材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。
【0173】
あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えばマグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。
【0174】
これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0175】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。
【0176】
本実施形態に係る有機化合物層は、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により形成する。
【0177】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0178】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0179】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0180】
(本実施形態に係る有機発光素子の用途)
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。
【0181】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子を有する。
【0182】
スイッチング素子は、この有機発光素子の陽極または陰極と薄膜トランジスタのドレイン電極またはソース電極とが接続されている。
【0183】
表示装置はPC、ヘッドマウントディスプレイ、携帯電話等の画像表示装置として用いることができる。表示される画像は、二次元画像、三次元画像を問わない。
【0184】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。
【0185】
画像出力装置は、画像入力部をCCDセンサ等の撮像素子とし、撮像光学系を有するデジタルカメラであってもよい。
【0186】
表示装置は、出力されている画像に触れることで入力できる入力機能を有していてもよい。例えば、タッチパネル機能等が挙げられる。
【0187】
また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0188】
本実施形態に係る有機発光素子は照明装置に用いられてもよい。この照明装置は、本実施形態に係る有機発光素子と有機発光素子に接続されたインバータ回路とを有する。
【0189】
本実施形態に係る照明装置の照明光の色は、白色でも、昼白色でも、その他の色でもよい。
【0190】
白色を発する場合は、有機発光素子の発光部が複数の発光層を有し、本発明に係る縮合多環化合物が緑色を発し、その他の層が緑色以外を発することで、素子として白色を発する。
【0191】
図2は、本実施形態に係る有機発光素子とそれに接続されたTFT素子とを有する表示装置の断面模式図である。
【0192】
この表示装置は、ガラス等の基板10とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜11が設けられている。また符号12は金属のゲート電極12である。符号13はゲート絶縁膜13であり、14は半導体層である。
【0193】
TFT素子17は半導体層14とドレイン電極15とソース電極16とを有している。TFT素子17の上部には絶縁膜18が設けられている。コンタクトホール19を介して有機発光素子の陽極20とソース電極16とが接続されている。
【0194】
本実施形態に係る表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0195】
有機化合物層21は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしているが複数層であってよい。陰極22の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層23や第二の保護層24が設けられている。
【0196】
本実施形態に係る有機発光素子はスイッチング素子の一例であるTFT素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0197】
本実施形態に係る有機発光素子が有するスイッチング素子は、TFT素子に限られず、トランジスタやMIM素子、Si基板等の基板上にアクティブマトリクスドライバーを形成し、その上に有機発光素子を設けて制御する形態であってもよい。
【0198】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設けることが好ましい。
【0199】
本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【実施例】
【0200】
<実施例1>(例示化合物104の合成)
(1)中間体BrCl−1の合成
【0201】
【化22】

【0202】
以下に示す試薬、溶媒を300mLナスフラスコに投入した。
シクロペンタ[cd]ピレン−3,4−ジオン:4.00g(15.6mmol)
ジイソブチルケトン:4.44g(31.2mmol)
エタノール:60mL
この反応液に、水酸化カリウム0.88g(15.6mmol)をエタノール15mLに溶解させた溶液を、室温にてゆっくり滴下して加えて、さらに10時間撹拌を続けた。
【0203】
反応終了後、反応液に水/メタノール=1/1混合液を加え、析出した生成物をろ取して乾燥し、中間体PyK−1を1.97g得た(収率35%)。
【0204】
続いて、以下に示す試薬、溶媒を300mLナスフラスコに投入した。
中間体PyK−1:1.97g(5.43mmol)
5−ブロモ−4−クロロアントラニル酸:1.50g(5.97mmol)
トルエン:100mL
【0205】
次にこの反応溶液を80℃に加熱したところに、亜硝酸イソアミル0.79mL(5.97mmol)を滴下して加え、110℃までゆっくり昇温した後、加熱撹拌をさらに2時間続けた。
【0206】
反応終了後、反応溶液を1N塩酸および飽和NaCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=4/1)にて精製し、さらにトルエン溶媒にて再結晶を行い、中間体BrCl−1の黄色粉を1.93g得た(収率68%)。
【0207】
(2)中間体NpPh−1の合成
【0208】
【化23】

【0209】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
1−ブロモ−2−ヨードベンゼン:2.00g(7.07mmol)
2−ナフタレンボロン酸:1.28g(7.42mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):245mg(0.212mmol)
トルエン:40mL
エタノール:20mL
10wt%炭酸ナトリウム水溶液:20mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間半加熱還流させた。反応終了後、反応溶液を飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0210】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、2−(2−ブロモフェニル)ナフタレンを1.90g得た(収率95%)。
【0211】
続いて、滴下漏斗を備えた200mL三口フラスコに2−(2−ブロモフェニル)ナフタレン1.90g(6.73mmol)を投入し、フラスコ内を窒素で置換してからジエチルエーテル40mLを加え、この反応溶液を−78℃に冷却した。
【0212】
続いてこの反応溶液に、n−ブチルリチウムの1.6Mヘキサン溶液4.63mL(7.40mmol)を5分間かけて滴下して加えた後、0℃までゆっくり昇温し、再び−78℃まで冷却した。
【0213】
次にトリメチルボレートを1.00mL(8.75mmol)加えた後、冷却を停止して室温まで昇温し、さらに3時間攪拌を続け、2N塩酸70mlを加えて反応を停止させた。
【0214】
続いて、ジエチルエーテルで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0215】
さらに短いシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/酢酸エチル=5/1)にて精製し、中間体NpPh−1を1.35g得た(収率81%)。
【0216】
(3)例示化合物104の合成
【0217】
【化24】

【0218】
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
BrCl−1:400mg(0.764mmol)
NpPh−1:200mg(0.802mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):26mg(23μmol)
トルエン:12mL
エタノール:6mL
30wt%炭酸セシウム水溶液:6mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0219】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、中間体NpPhCl−1を365mg得た(収率72%)。
【0220】
続いて、以下に示す試薬50mLナスフラスコに投入し、窒素でナスフラスコ内を置換した。
NpPhCl−1:365mg(0.550mmol)
酢酸パラジウム:7.4mg(33μmol)
トリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩:24mg(66μmol)
炭酸カリウム:152mg(1.10mmol)
【0221】
次に、窒素でバブリング済のN,N−ジメチルアセトアミド5mLを加えて、この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら130℃で5時間加熱した。
【0222】
反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0223】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=5/1)にて精製した後、トルエン/ヘプタン溶媒にて再結晶を行い例示化合物104の結晶が得られた。
【0224】
さらに得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−4Pa、370℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物104を130mg得た(収率39%)。
【0225】
得られた化合物の同定は質量分析により行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=610.48 計算値:C4834=610.27
また例示化合物104のトルエン希薄溶液について、室温下、励起波長350nmにおいて蛍光スペクトルの測定を行った。得られた蛍光スペクトルの最大発光ピークのピーク波長は488nmであった。
【0226】
<実施例2>(例示化合物205の合成)
(1)中間体BrCl−2の合成
【0227】
【化25】

【0228】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
シクロペンタ[cd]ピレン−3,4−ジオン:3.00g(11.7mmol)
1,3−ビス(3,5−tert−ブチルフェニル)プロパン−2−オン:5.09g(11.7mmol)
エタノール:45mL
この反応液を70℃に加熱し、水酸化カリウム0.66g(11.7mmol)をエタノール12mLに溶解させた溶液を加えて、さらに4時間撹拌しながら加熱した。
【0229】
反応終了後、反応液に水/メタノール=1/1混合液を加え、析出した生成物をろ取して乾燥し、中間体PyK−2を5.13g得た(収率67%)。
【0230】
続いて、以下に示す試薬、溶媒を300mLナスフラスコに投入した。
中間体PyK−2:1.50g(2.29mmol)
5−ブロモ−4−クロロアントラニル酸:631mg(2.52mmol)
トルエン:75mL
【0231】
次にこの反応溶液を80℃に加熱したところに、亜硝酸イソアミル0.34mL(2.52mmol)を滴下して加え、110℃までゆっくり昇温した後、加熱撹拌をさらに2時間続けた。
【0232】
反応終了後、反応溶液を1N塩酸および飽和NaCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=4/1)にて精製し、さらにトルエン溶媒にて再結晶を行い、中間体BrCl−2の黄色粉を1.40g得た(収率75%)。
【0233】
(2)例示化合物205の合成
【0234】
【化26】

【0235】
以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
BrCl−2:500mg(0.612mmol)
NpPh−1:160mg(0.643mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):21mg(18μmol)
トルエン:16mL
エタノール:8mL
30wt%炭酸セシウム水溶液:8mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら4時間加熱還流させた。反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0236】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、中間体NpPhCl−2を407mg得た(収率71%)。
【0237】
続いて、以下に示す試薬50mLナスフラスコに投入し、窒素でナスフラスコ内を置換した。
NpPhCl−2:407mg(0.433mmol)
酢酸パラジウム:6mg(27μmol)
トリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩:20mg(54μmol)
炭酸カリウム:120mg(0.866mmol)
【0238】
次に、窒素でバブリング済のN,N−ジメチルアセトアミド5mLを加えて、この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら130℃で10時間加熱した。
【0239】
反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0240】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=5/1)にて精製した後、トルエン/ヘプタン溶媒にて再結晶を行い例示化合物205の結晶が得られた。
【0241】
さらに得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−4Pa、390℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物205を119mg得た(収率30%)。
【0242】
得られた化合物の同定は質量分析により行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=902.67 計算値:C7062=902.49
また例示化合物205のトルエン希薄溶液について、室温下、励起波長350nmにおいて蛍光スペクトルの測定を行った。得られた蛍光スペクトルの最大発光ピークのピーク波長は490nmであった。
【0243】
<実施例3>(例示化合物303の合成)
(1)中間体BrCl−3の合成
【0244】
【化27】

【0245】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
シクロペンタ[cd]ピレン−3,4−ジオン:3.00g(11.7mmol)
1,3−ジフェニルプロパン−2−オン:2.46g(11.7mmol)
エタノール:45mL
この反応液を70℃に加熱し、水酸化カリウム0.66g(11.7mmol)をエタノール12mLに溶解させた溶液を加えて、さらに3時間撹拌しながら加熱した。
【0246】
反応終了後、反応液に水/メタノール=1/1混合液を加え、析出した生成物をろ取して乾燥し、中間体PyK−3を3.68g得た(収率73%)。
【0247】
続いて、以下に示す試薬、溶媒を300mLナスフラスコに投入した。
中間体PyK−2:2.00g(4.65mmol)
5−ブロモ−4−クロロアントラニル酸:1.28g(5.11mmol)
トルエン:100mL
【0248】
次にこの反応溶液を80℃に加熱したところに、亜硝酸イソアミル0.68mL(5.11mmol)を滴下して加え、110℃までゆっくり昇温した後、加熱撹拌をさらに3時間続けた。
【0249】
反応終了後、反応溶液を1N塩酸および飽和NaCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=4/1)にて精製した。
【0250】
さらにトルエン溶媒にて再結晶を行い、中間体BrCl−3の黄色粉を2.04g得た(収率74%)。
【0251】
(2)中間体NpPh−2の合成
【0252】
【化28】

【0253】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
2−ブロモ−4−tert−ブチル−1−クロロベンゼン:1.00g(4.04mmol)
2−ナフタレンボロン酸:0.729g(4.24mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):140mg(0.121mmol)
トルエン:30mL
エタノール:15mL
10wt%炭酸ナトリウム水溶液:15mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら4時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液を飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0254】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、2−(2−tert−ブチル−2−クロロフェニル)ナフタレンを965mg得た(収率81%)。
【0255】
続いて、以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
2−(2−tert−ブチル−2−クロロフェニル)ナフタレン:965mg(3.27mmol)
ビス(ピナコラト)ジボロン:996mg(3.92mmol)
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0):94mg(0.163mmol)
トリシクロヘキシルホスフィン:138mg(0.490mmol)
酢酸カリウム:642mg(6.54mmol)
1,4−ジオキサン:30mL
この反応溶液を、窒素下、95℃で7時間撹拌を行った。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。
【0256】
次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=1/1)で精製し、中間体NpPh−2を733mg得た(収率58%)。
【0257】
(3)例示化合物303の合成
【0258】
【化29】

【0259】
以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
BrCl−3:450mg(0.760mmol)
NpPh−2:308mg(0.798mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):26mg(23μmol)
トルエン:14mL
エタノール:7mL
30wt%炭酸セシウム水溶液:7mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間半加熱還流させた。反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0260】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、中間体NpPhCl−3を497mg得た(収率83%)。
【0261】
続いて、以下に示す試薬50mLナスフラスコに投入し、窒素でナスフラスコ内を置換した。
NpPhCl−3:497mg(0.631mmol)
酢酸パラジウム:8.5mg(38μmol)
トリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩:28mg(76μmol)
炭酸カリウム:174mg(1.26mmol)
【0262】
次に、窒素でバブリング済のN,N−ジメチルアセトアミド6mLを加えて、この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら130℃で8時間加熱した。
【0263】
反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0264】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=5/1)にて精製した後、トルエン/ヘプタン溶媒にて再結晶を行い例示化合物303の結晶が得られた。
【0265】
さらに得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−4Pa、380℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物303を190mg得た(収率41%)。
【0266】
得られた化合物の同定は質量分析により行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=734.46 計算値:C5838=734.30
また例示化合物303のトルエン希薄溶液について、室温下、励起波長350nmにおいて蛍光スペクトルの測定を行った。得られた蛍光スペクトルの最大発光ピークのピーク波長は491nmであった。
【0267】
<実施例4>(例示化合物401の合成)
(1)中間体NpPh−3の合成
【0268】
【化30】

【0269】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
3−ブロモ−4−クロロ−1’,1’−ビフェニル:1.30g(4.86mmol)
2−ナフタレンボロン酸:0.877g(5.10mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):168mg(0.146mmol)
トルエン:40mL
エタノール:20mL
10wt%炭酸ナトリウム水溶液:20mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら5時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液を飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0270】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、2−(4−クロロ−[1’,1’−ビフェニル]−3−イル)ナフタレンを1.22g得た(収率80%)。
【0271】
続いて、以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
2−(4−クロロ−[1’,1’−ビフェニル]−3−イル)ナフタレン:1.22g(3.88mmol)
ビス(ピナコラト)ジボロン:1.18g(4.66mmol)
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0):112mg(0.194mmol)
トリシクロヘキシルホスフィン:163mg(0.582mmol)
酢酸カリウム:762mg(7.76mmol)
1,4−ジオキサン:40mL
この反応溶液を、窒素下、95℃で9時間撹拌を行った。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。
【0272】
次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=1/1)で精製し、中間体NpPh−3を946mg得た(収率60%)。
【0273】
(2)例示化合物401の合成
【0274】
【化31】

【0275】
以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
BrCl−2:500mg(0.612mmol)
NpPh−3:261mg(0.643mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):21mg(18μmol)
トルエン:16mL
エタノール:8mL
30wt%炭酸セシウム水溶液:8mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら4時間半加熱還流させた。反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0276】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=10/1)にて精製し、中間体NpPhCl−4を537mg得た(収率85%)。
【0277】
続いて、以下に示す試薬50mLナスフラスコに投入し、窒素でナスフラスコ内を置換した。
NpPhCl−4:537mg(0.520mmol)
酢酸パラジウム:7mg(31μmol)
トリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩:23mg(62μmol)
炭酸カリウム:144mg(1.04mmol)
【0278】
次に、窒素でバブリング済のN,N−ジメチルアセトアミド6mLを加えて、この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら130℃で8時間半加熱した。
【0279】
反応終了後、トルエンで生成物を抽出し、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させてから濃縮して粗生成物を得た。
【0280】
さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=5/1)にて精製した後、トルエン/ヘプタン溶媒にて再結晶を行い例示化合物401の結晶が得られた。
【0281】
さらに得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−4Pa、400℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物401を178mg得た(収率35%)。
【0282】
得られた化合物の同定は質量分析により行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=978.72 計算値:C7666=978.52
また例示化合物401のトルエン希薄溶液について、室温下、励起波長350nmにおいて蛍光スペクトルの測定を行った。得られた蛍光スペクトルの最大発光ピークのピーク波長は500nmであった。
【0283】
<比較例1>(最大発光ピーク波長の比較)
下記に示す比較化合物C01及びC02について、実施例1と同様の方法で蛍光スペクトルの測定を行い、最大発光ピークのピーク波長を測定した。実施例1乃至4の結果と合わせて、結果を表2に示す。
【0284】
【化32】

【0285】
【表2】

【0286】
最大発光ピーク波長が475nm以上510nm以下の範囲である緑色発光に対し、本発明の例示化合物はその条件を満たし緑色発光を呈する。
【0287】
一方、本発明に係るBTIPy主骨格よりも縮環数の小さい主骨格を有する比較化合物C1のフルオランテノ[8,9−b]トリフェニレン誘導体や、比較化合物C2のナフト[2,3−k]フルオランテン誘導体では、最大発光ピーク波長は上記の緑色発光の範囲に入らず、青色発光を呈する。
【0288】
<実施例5>
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極が設けられた構成(6)の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0289】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。
【0290】
このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔輸送層(40nm) HT−1
電子阻止層(25nm) EB−1
発光層(30nm) ホスト材料:H9、ゲスト材料:例示化合物104(1wt%)
正孔阻止層(10nm) HB−1
電子輸送層(30nm) ET−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0291】
【化33】

【0292】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0293】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、4.6Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が17.1cd/Aの輝度2000cd/mの緑色発光が観測された。
【0294】
またこの素子においてCIE色度座標は(x,y)=(0.27,0.60)で、発光ピーク波長は516nmであった。さらにこの発光素子において、100mA/cmの定電流密度における輝度半減寿命は541時間であった。
【0295】
<実施例6>
実施例5において、発光層ホスト材料をH9に代えてH11を、発光層ゲスト材料を例示化合物104に代えて例示化合物205を使用した他は、実施例5と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例5と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0296】
<実施例7>
実施例5において、発光層ホスト材料をH9に代えてH14を、発光層ゲスト材料を例示化合物104に代えて例示化合物303を使用した他は、実施例5と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例5と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0297】
<実施例8>
実施例5において、発光層ホスト材料をH9に代えてH11を、発光層ゲスト材料を例示化合物104に代えて例示化合物401を使用した他は、実施例5と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例5と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0298】
<比較例2>
実施例5において、発光層ホスト材料をH9に代えてH14を、発光層ゲスト材料を例示化合物104に代えて比較化合物C2を使用した他は、実施例5と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例5と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0299】
【表3】

【0300】
<実施例9>
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極が設けられた構成(6)の有機発光素子において、発光層が青色発光層、緑色発光層及び赤色発光層の三層からなる、積層発光層型の白色発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0301】
実施例5と同様の方法で作製したITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔輸送層(30nm) HT−1
電子阻止層(10nm) EB−1
青色発光層(10nm) ホスト材料:H14、ゲスト材料:BD−1(1wt%)
緑色発光層(10nm) ホスト材料:H11、ゲスト材料:例示化合物205(1wt%)
赤色発光層(7nm) ホスト材料:H11、ゲスト材料:RD−1(0.5wt%)
正孔阻止層(10nm) HB−1
電子輸送層(30nm) ET−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0302】
【化34】

【0303】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0304】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、印加電圧をかけたところ、CIE色度座標が(x,y)=(0.33,0.36)の白色発光が観測された。
【産業上の利用可能性】
【0305】
以上説明したように、本発明に係る縮合多環化合物は緑色発光し、化学的安定性が高いという特徴を有する化合物である。そのため本発明に係る縮合多環化合物を発光層ゲスト材料に用いた有機発光素子では、高色純度の緑色発光が得られ、なお且つ高発光効率が高く、長寿命の発光素子を提供することができる。さらに、緑色以外の他の発光色の発光材料と組み合わせることで、白色発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0306】
4 青色発光層
5 緑色発光層
6 赤色発光層
17 TFT素子
20 陽極
21 有機化合物層
22 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]または[2]で示されることを特徴とする縮合多環化合物。
【化1】


【化2】


〔式[1]及び[2]において、R乃至R10は水素原子、直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至22の芳香族炭化水素基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕
【請求項2】
前記一般式[1]または[2]で示される縮合多環化合物は、下記一般式[3]または[4]で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の縮合多環化合物。
【化3】


【化4】


〔式[3]及び[4]において、X乃至X10は水素原子、直鎖または分枝状の炭素原子数1乃至4のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕
【請求項3】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置されている有機化合物層とを有する有機発光素子において、前記有機化合物層は請求項1または2に記載の縮合多環化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は、発光層を有し、前記発光層はホストとゲストとを有し、前記ゲストが前記縮合多環化合物であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層は、発光部を有し、前記発光部は複数の発光層を有し、
前記複数の発光層のうちの少なくともひとつは前記縮合多環化合物を有し、
前記複数の発光層は、それぞれの発光層がそれぞれ異なる発光色を発する発光層であり、
前記異なる発光色の混色により白色を発することを特徴とする請求項3または4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物層は複数の発光層を有し、前記複数の発光層のうちの少なくともいずれかひとつは、前記縮合多環化合物を有する緑色を発する発光層であり、
前記緑色と前記緑色を発する発光層以外の発光層の発光色との混色により白色を発することを特徴とする請求項3または4に記載の有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至6の何れか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されているスイッチング素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
画像を表示するための表示部と、画像情報を入力するための入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至6の何れか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されているスイッチング素子とを有することを特徴とする画像入力装置。
【請求項9】
請求項3乃至6に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されているインバータ回路とを有することを特徴とする照明装置。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−43845(P2013−43845A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181580(P2011−181580)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】