説明

縮合硬化性ポリシロキサン組成物

【課題】貯蔵安定性の良好な縮合硬化性ポリシロキサン組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】下記(i)のオルガノポリシロキサンと、下記(ii)の有機ケイ素化合物と
、下記(iii)の化合物と、を混合して得られる縮合硬化性ポリシロキサン組成物が、良
好な貯蔵安定性を有する。
(i)モノマーユニットとしてジアリールシロキサンユニットおよびアルキルアリールシ
ロキサンユニットから選ばれる少なくとも一種を含むポリシロキサン主鎖を有するとともに、該主鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ結合した縮合性官能基を有するオルガノポリシロキサン。
(ii)ケイ素原子に結合したアリール基を1分子中に少なくとも1個有するとともに、ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に少なくとも3個有し、該縮合性官能基のうちアリール基が結合したケイ素原子に結合していないものの個数が2個以下である有機ケイ素化合物。
(iii)ガリウム化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合硬化性ポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性と耐光性が要求される白色LED用封止材として、縮合硬化性ポリシロキサン組成物が使用されている。縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、典型的には、1分子中に2個以上の縮合性官能基を有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に3個以上の縮合性官能基を有する有機ケイ素化合物と、縮合触媒とを混合することにより得ることができる。
【0003】
縮合硬化性ポリシロキサン組成物に使用可能な縮合触媒の一例としてジルコニウム、ハフニウム、スズ、亜鉛、チタンなどの金属を含む化合物が知られている。スズ化合物については電極を腐食する作用が指摘されている他、近年は、環境への影響を考慮して使用が控えられる傾向にある。縮合触媒としてガリウム化合物を用いることも提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−111756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
縮合硬化性ポリシロキサン組成物に対する要求のひとつに、貯蔵安定性の向上が挙げられる。
本発明の主たる目的は、貯蔵安定性の良好な縮合硬化性ポリシロキサン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アリール基が結合したケイ素原子に結合した縮合性官能基が関与する縮合反応が、ガリウムを含む縮合触媒の存在下では温度の影響を強く受けることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の実施形態には、以下に挙げる縮合硬化性ポリシロキサン組成物が含まれる。
(1)下記(i)のオルガノポリシロキサンと、下記(ii)の有機ケイ素化合物と、下記
(iii)の化合物と、を混合して得られる縮合硬化性ポリシロキサン組成物:
(i)モノマーユニットとしてジアリールシロキサンユニットおよびアルキルアリールシ
ロキサンユニットから選ばれる少なくとも一種を含むポリシロキサン主鎖を有するとともに、該主鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ結合した縮合性官能基を有するオルガノポリシロキサン;
(ii)ケイ素原子に結合したアリール基を1分子中に少なくとも1個有するとともに、ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に少なくとも3個有し、該縮合性官能基のうちアリール基が結合したケイ素原子に結合していないものの個数が2個以下である有機ケイ素化合物;
(iii)ガリウム化合物。
(2)前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にモノマーユニ
ットとしてジフェニルシロキサンユニットを含む、前記(1)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(3)前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にモノマーユニ
ットとしてメチルフェニルシロキサンユニットを含む、前記(1)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(4)前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にポリ(メチル
フェニルシロキサン)ユニットを含む、前記(3)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(5)前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にモノマーユニ
ットとしてジアルキルシロキサンユニットを含む、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(6)前記ジアルキルシロキサンユニットがジメチルシロキサンユニットを含む、前記(5)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(7)前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にポリ(ジメチ
ルシロキサン)ユニットを含む、前記(6)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。(8)前記(ii)の有機ケイ素化合物がオルガノポリシロキサンまたはオルガノシランである、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(9)前記(ii)の有機ケイ素化合物が有する前記縮合性官能基は全て、アリール基が結合したケイ素原子に結合したものである、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(10)前記(ii)の有機ケイ素化合物の前記アリール基がフェニル基を含む、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(11)前記(ii)の有機ケイ素化合物がフェニルトリメトキシシランを含む、前記(10)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(12)前記(ii)の有機ケイ素化合物がフェニルメトキシシロキサンユニットを含むポリシロキサン化合物を含む、前記(10)に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(13)ケイ素原子に結合した炭化水素基としてフェニル基またはメチル基以外の炭化水素基を含んでおらず、モル比で表した(ケイ素原子に結合したメチル基の含有量)/(ケイ素原子に結合したフェニル基の含有量)が1.0〜10である、前記(1)〜(12)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(14)ナトリウムD線を用いて測定した20℃における屈折率が1.48以上である、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(15)前記(iii)のガリウム化合物が、ガリウムアセチルアセトナートおよび酢酸ガ
リウムから選ばれる少なくとも一種を含む、前記(1)〜(14)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(16)前記(i)のオルガノポリシロキサンの前記縮合性官能基および前記(ii)の有
機ケイ素化合物の前記縮合性官能基が、それぞれ、ヒドロキシ基およびアルコキシ基から選ばれる一種である、前記(1)〜(15)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(17)液温25℃における粘度が500mPa・s以上である、前記(1)〜(16)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
(18)室温で6か月放置した後の粘度が初期粘度の110%以内である、前記(1)〜(17)のいずれかに記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【0008】
前記(1)〜(18)にそれぞれ記載された縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、前記(i)のオルガノポリシロキサンと、前記(ii)の有機ケイ素化合物と、前記(iii)のガリウム化合物との混合物に対し加熱処理等を施すことによって増粘させたものを包含するものとする。従って、前記(1)〜(18)にそれぞれ記載された縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、前記(i)のポリシロキサンおよび前記(ii)の有機ケイ素化合物の一部
または全部を縮合反応物の形態で含有するものであり得る。
また、前記(1)〜(18)にそれぞれ記載された縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、そのまま使用することもできるし、物性制御、各種の機能付与、改質などの目的で任意
の添加物を混ぜ合わせたうえで使用することもできる。かかる添加物の形態は粒子状、分子状などであり得る。ごく一例を挙げれば、前記(1)〜(18)にそれぞれ記載された縮合硬化性ポリシロキサン組成物にヒュームドシリカを添加することで粘度を高めたりチクソ性を付与したりすることができるし、また、ナノサイズの酸化チタン粒子を添加することで実効屈折率を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態に係る上記の縮合硬化性ポリシロキサン樹脂は貯蔵安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の縮合硬化性ポリシロキサン組成物を用いた半導体発光デバイスの一態様を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は本明細書に明示的または黙示的に記載された実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、下記の原料A〜Cを混合することにより得ることができる。
(原料A)モノマーユニットとしてジアリールシロキサンユニットおよびアルキルアリールシロキサンユニットから選ばれる少なくとも一種を含むポリシロキサン主鎖を有するとともに、該主鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ結合した縮合性官能基を有するオルガノポリシロキサン。
(原料B)ケイ素原子に結合したアリール基を1分子中に少なくとも1個有するとともに、ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に少なくとも3個有し、該縮合性官能基のうちアリール基が結合したケイ素原子に結合していないものの個数が2個以下である有機ケイ素化合物。
(原料C)ガリウム化合物。
【0013】
原料Aの一例は、下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサン(以下「OPS−1」と称する)である。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式中、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表わす。mは32前後の整数、nは7前後の整数である。
【0016】
OPS−1は、モノマーユニットとしてジメチルシロキサンユニット(−SiMeO−)とジフェニルシロキサンユニット(−SiPhO−)を含むポリシロキサン主鎖を有しており、該主鎖の両末端のケイ素原子にはそれぞれ縮合性官能基であるヒドロキシ基が結合している。換言すれば、OPS−1はシロキサン主鎖の両末端にシラノール基を有している。このシラノール基には2種類あり、ひとつはジメチルシラノール基(−SiM
OH)であり、もうひとつはジフェニルシラノール基(−SiPhOH)である。OPS−1は、両末端にジメチルシラノール基を有する種と、両末端にジフェニルシラノール基を有する種と、一方端にジメチルシラノール基を有し他方端にジフェニルシラノール基を有する種とを含んでいる。
【0017】
原料Bの一例は、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物(以下「OSC−1」と称する)である。
【0018】
【化2】

【0019】
OSC−1は低重合度のポリシロキサン(オリゴマー)であり、mは例えば4である。両末端のケイ素原子にはそれぞれフェニル基1個と縮合性官能基であるメトキシ基2個が結合している。従って、OSC−1は、ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に4個有しており、その4個全てが、アリール基が結合したケイ素原子に結合している。
【0020】
原料Cの一例はガリウムアセチルアセトナート[Ga(acac)]である(2,4-ペンタンジオン酸ガリウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ガリウムなどとも呼ばれる)。
【0021】
OPS−1とOSC−1とGa(acac)の混合物は、混合したばかりのものであっても熱硬化性樹脂として使用することが可能であるが、通常は、所定の粘度に増粘したものが完成品として使用に供される。増粘は、混合物に加熱処理を施して、原料Aおよび原料Bを重縮合させることによって行う。加熱処理の温度は好ましくは100〜130℃である。
増粘後の混合物は、未反応のままで存在するOPS−1やOSC−1を実質的に含まないものであり得る。
加熱処理により増粘させた混合物を再び常温に戻したものは、流動性を保った状態のまま長期間貯蔵することが可能である。この組成物は、再び加熱することによって硬化させることが可能である。
【0022】
この混合物がこのような性質を示す理由については次のように考えられる。
すなわち、OPS−1とOSC−1とGa(acac)を混合すると、混合直後から、徐々にではあるが、Ga(acac)の触媒作用によってOPS−1に含まれるジメチルシラノール基間の縮合反応が進行する。やがて、OPS−1に含まれるジメチルシラノール基が消費され尽くし、混合物中に含まれるOPS−1とその縮合物は、殆どが両末端にジフェニルシラノール基を有するものとなる。縮合反応はこの時点で停止する。
縮合反応が停止する理由は、嵩高いフェニル基による立体障害のせいで、ジフェニルシラノール基が関与する縮合反応はガリウム化合物の存在下であっても、常温では進行しないからである。同様の理由で、OSC−1に含まれるメトキシ基が関与する縮合反応も常温では進行しない。縮合反応が停止すれば、混合物の増粘は進まなくなる。
【0023】
この混合物を加熱処理すると増粘するという事実は、OPS−1に含まれるジフェニルシラノール基やOSC−1に含まれるメトキシ基が関与する縮合反応が、高温ではGa(acac)の存在下で進行することを示している。しかし、前述の通り、この縮合反応
は常温では進行しないので、混合物を常温に戻すと増粘も停止する。そのため、増粘後の混合物を常温で長期間貯蔵することが可能となる。
【0024】
このような性質は、ジルコニウム化合物を触媒に用いた場合には得られないことを本発明者等は確認している。
例えば、OPS−1およびOSC−1と混合する触媒をGa(acac)からZr(acac)に置き換えた組成物は、加熱処理を施しても増粘せず、また、十分な熱硬化性を示さない。恐らく、ジルコニウム化合物の触媒活性がガリウム化合物に比べて低いために、OPS−1に含まれるジフェニルシラノール基やOSC−1に含まれるメトキシ基が関与する縮合反応が、加熱下であっても十分に生じないためであると考えられる。
【0025】
以下、本発明の実施形態について更に詳細に説明する。
【0026】
[1]縮合硬化性ポリシロキサン組成物の製造方法
[1−1]原料
本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、前述の通り、原料A、原料Bおよび原料Cを混合することにより得られるものである。
[1−1−1]原料A
原料Aは、前述の通り、モノマーユニットとしてジアリールシロキサンユニットおよびアルキルアリールシロキサンユニットから選ばれる少なくとも一種を含むポリシロキサン主鎖を有するとともに、該主鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ結合した縮合性官能基を有するオルガノポリシロキサンである。ここで、縮合性官能基とは、他の縮合性官能基との間の縮合反応によりシロキサン結合を生じる官能基である。
原料Aとしては、前述のOPS−1に限定されず、様々なものを用いることができる。
【0027】
ジアリールシロキサンユニットまたはアルキルアリールシロキサンユニットにおけるアリール基としてはフェニル基が好ましく例示されるが、限定されるものではない。
アルキルアリールシロキサンユニットにおけるアルキル基としてはメチル基が好ましく例示されるが、限定されるものではない。
【0028】
ポリシロキサン主鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ結合した縮合性官能基としては、ヒドロキシ基が好ましく例示されるが、限定されるものではなく、アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基、オキシム基、アミノ基、アミド基、ハロゲン基などであってもよい。アルコキシ基の好適例としては、炭素数1〜3のアルコキシ基、すなわち、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。
【0029】
原料Aの好適例には下記式(3)で表される、ポリシロキサン鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれヒドロキシ基が結合したポリ(メチルフェニルシロキサン)が含まれる。
【0030】
【化3】

【0031】
式(3)においてmは整数であり、好ましくは6または7である。式(3)で表される化合物を縮合させてポリシロキサン鎖を長くした化合物も、原料Aとして好ましく用いることができる。その場合の縮合触媒にはGa(acac)や酢酸ガリウムのようなガリ
ウム化合物を好ましく用いることができる。
【0032】
更に、原料Aの好適例には下記式(4)で表されるオルガノポリシロキサンが含まれる。
【0033】
【化4】

【0034】
式(4)においてm、nはそれぞれ整数であり、好ましくは6または7である。MおよびNは1以上の整数である。式(4)の化合物は、主鎖にポリ(メチルフェニルシロキサン)ユニットとポリ(ジメチルシロキサン)ユニットを含んでいる。この化合物は、式(3)のオルガノポリシロキサンと下記式(5)で表されるオルガノポリシロキサンを縮合させることにより得ることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
式(5)においてnは整数であり、好ましくは6または7である。式(3)のオルガノポリシロキサンと式(5)のオルガノポリシロキサンの縮合は、Ga(acac)や酢酸ガリウムのようなガリウム化合物を触媒に用いて行うことができる。
【0037】
その他、式(1)のオルガノポリシロキサンと式(5)のオルガノポリシロキサンを縮合させることにより得られるオルガノポリシロキサンも、原料Aとして用いることができる。
原料Aとして2種以上のオルガノポリシロキサンを組み合わせて使用することも可能である。その場合の組合せや混合比は目的に応じて適宜設定することができる。
【0038】
原料Aのポリスチレン換算の重量平均分子量は、好ましくは500以上、また、通常700000以下、好ましくは50000以下、さらに好ましくは30000以下である。原料Aの分子量が低いとき、得られる縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物が硬く脆くなる傾向がある。また、原料Aの分子量が高過ぎると、原料Bとの混和性が悪くなる可能性がある。
【0039】
[1−1−2]原料B
原料Bは、前述の通り、ケイ素原子に結合したアリール基を1分子中に少なくとも1個有するとともに、ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に少なくとも3個有し、該縮合性官能基のうちアリール基が結合したケイ素原子に結合していないものの個数が2個以下である有機ケイ素化合物である。
原料Bとしては、前述のOSC−1に限定されず、様々なものを用いることができる。
【0040】
例えば、原料Bとして下記式(6)で表される有機ケイ素化合物を用いることができる。
SiXY・・・(6)
上記式(6)において、Xは縮合性官能基を表わし、Yはアリール基を表す。
【0041】
縮合性官能基Xの具体例としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基、オキシム基、アミノ基、アミド基、ハロゲン基が挙げられる。好ましいアルコキシ基としては、炭素数1〜3のアルコキシ基、すなわち、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。
【0042】
アリール基Yは好ましくはフェニル基であるが、限定されるものではない。
【0043】
上記式(6)で表される原料Bの具体例として、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、4−クロロフェニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0044】
これらの中でも、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリアセトキシシランが特に好ましい。
【0045】
原料Bは、また、前述のOSC−1を含む、様々なオルガノポロシロキサン化合物であり得る。原料Bがポリシロキサン化合物である場合、そのポリシロキサン鎖は直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。また、ポリシロキサン鎖に含まれるケイ素原子に結合する有機基として、メチル基やフェニル基だけでなく、ビニル基、γ−アミノプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−クロロプロピル基、β−シアノエチル基、メチルフェニル基、p−アミノフェニル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、アミノエチル基、アミノメチル基、フェネチル基、4−アミノブチル基、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピル基、3−クロロプロピル基、(p−クロロメチル)フェニル基、4−クロロフェニル基、スチリルエチル基、2−メトキシエトキシ基、トリフルオロプロピル基など、様々な有機基を有し得る。
【0046】
原料Bとして2種類の有機ケイ素化合物を任意に組み合わせて使用することも可能である。
原料Bの原料Aに対する混合比は、好ましくは原料A100重量部に対して1重量部〜10重量部である。
【0047】
[1−1−3]原料C
原料Cは、前述の通り、ガリウム化合物である。このガリウム化合物は、原料Aおよび原料Bを重縮合させるための触媒である。
【0048】
ガリウム化合物としては、金属原子としてガリウムを含む化合物であれば特に限定されるものではなく、酸化物、塩、キレート錯体など、各種形態のものを使用することができる。具体的には、ガリウムアセチルアセトナート、酢酸ガリウム、オキシ酢酸ガリウム、トリエトキシガリウム、トリス(8-キノリノラト)ガリウム、シュウ酸ガリウム、エチルキサントゲン酸ガリウム、ジエチルエトキシガリウム、マレイン酸ガリウム等が例示される。なかでも特に好ましいのは、ガリウムアセチルアセトナート、及び酢酸ガリウムである。2種類以上のガリウム化合物を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0049】
ガリウム化合物の使用量は、原料A100重量部に対して0.01重量部〜0.3重量部とすることが好ましい。
【0050】
[1−1−4]その他の原料
実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、原料Aおよび原料Bを必須の原料とするものであるが、更に下記原料Dを混合することによって、柔軟性に優れた硬化物を与えるものとすることができる。
(原料D)ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に2個有する、原料Aおよび原料B以外のオルガノポリシロキサン化合物。
原料Dの例としては、ポリシロキサン鎖の末端のケイ素原子にそれぞれ縮合性官能基が結合したポリ(ジメチルシロキサン)が挙げられる。
【0051】
[1−1−5]原料中におけるメチル基含有量/フェニル基含有量
本発明の実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、アリール基の含有量に対するアルキル基の含有量を小さくすることにより、屈折率を高くしたり、ガスバリア性を改善することができる。原料混合物中に含まれるケイ素原子に結合した炭化水素基が、フェニル基およびメチル基のみである場合には、モル比で表した(ケイ素原子に結合したメチル基の含有量)/(ケイ素原子に結合したフェニル基の含有量)を10以下とすることによって、これらの効果を得ることができる。
【0052】
一方で、このモル比を小さくし過ぎた場合には、フェニル基同士の相互作用による疑似架橋の効果で原料混合物の粘度が必要以上に高くなり、また、硬化物が脆くなるという問題が生じる。また、ガスバリア能が高くなるために、特に深部の硬化で生じる縮合反応生成物(水またはアルコール)の樹脂外への離脱が阻害され、表面と深部の硬化速度の差が大きくなる結果として硬化物表面に皺が生じるという問題が生じる。そのため、このモル比は1.0以上とすることが好ましい。
【0053】
[1−2]増粘
本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、原料A、原料Bおよび原料Cを単に混合したものであってもよいが、通常は重縮合反応による増粘を経たうえで完成品とされる。
【0054】
本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物の粘度は、液温25℃において、500〜3000mPa・sの範囲内にあることが好ましい。粘度の測定はブルックフィールド粘度計を用いて行うことができる。
【0055】
重縮合反応は、常圧で窒素ガスを吹き込みながら、あるいは減圧下で、好ましくは100℃以上、130℃以下の範囲に原料混合物を加熱することによって行なう。
重縮合反応時間は、好ましくは1時間以上、5時間以下の範囲である。反応時間の調整は分子量管理に基づいて行うことが好ましい。
【0056】
重縮合反応の時間が短過ぎるかあるいは温度が低過ぎる場合には、組成物中に残留する低分子量成分が多くなる。この低分子量成分は硬化時に揮発する他、硬化物の強度不足の原因となる。反応温度が高過ぎる場合には混合物の粘度上昇が急速に起こり、目的の終点粘度に制御することが困難となる。特に反応温度を低分子原料の沸点以上にすると、低分子原料が反応に寄与する前に揮発してしまう場合もある。
長すぎる反応時間、高過ぎる反応温度は、製造コストの観点から好ましくないことは勿論である。低温で長時間反応させようとすると、増粘が始まる前に触媒が加水分解により失活する場合もある。
重縮合反応の条件は、上記事項を踏まえて設定する必要がある。
【0057】
重縮合反応時に系内が分液し不均一となる場合には、溶媒を使用しても良い。溶媒としては、例えば、炭素数1以上3以下の低級アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルエチルケトン、トルエン、水等を任意に用いることができるが、好ましくは、重縮合反応が影響を受けないように、強い酸性や塩基性を示さないものを選択する。
【0058】
溶媒使用量は必要最低限とすることが好ましい。また、後の工程で容易に留去できるよう、沸点が100℃以下、更には80℃以下の溶媒を選択することが好ましい。
【0059】
溶媒の留去を行うことにより、組成物の硬化時に脱溶媒収縮によりクラックが発生するのを防止することができる。
【0060】
重縮合反応により増粘された原料混合物(実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物)は、その使用時まで室温以下で保管される。
【0061】
[1−3]精製
増粘後の原料混合物から異物を取り除くため、また僅かな着色成分を取り除くため、さらには微量金属不純物や塩素化合物等のハロゲン化物を取り除くために、精製を行うことが特に好ましい。精製方法としては、蒸留(多段蒸留を含む)、薄膜蒸留、水洗/分液、
結晶化、吸着剤による不要成分吸着などの操作が用いられる。中でも特に吸着剤による吸着除去が好適に用いられる。吸着剤としては、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、合成吸着剤、シリカゲル、アルミナ、活性炭、活性白土、各種粘土等が適している。中でも活性炭が最適である。
【0062】
吸着剤等による精製過程で、ガリウム触媒成分が一部もしくは全部取り除かれてしまった場合には、精製工程の後で、必要量のガリウム化合物を追添加することが好ましい。
【0063】
[2]縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化方法
本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物を硬化させてポリシロキサン硬化物を得るには、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上の温度で保持すればよい。
【0064】
硬化温度に保持する時間(硬化時間)は触媒濃度や当該組成物で形成しようとする部材の厚みなどに応じて定める。通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上である。
硬化温度までの昇温を段階的に行うことにより、組成物中の残留溶媒や溶存水蒸気による発泡を防ぐことができる他、深部と表面の硬化速度差を小さくすることができる。つまり、表面が平滑でシワが無く、深部まで均一に硬化した、外観の良好な硬化物を得ることが出来る。また、低温で硬化させた後、高温で追硬化する方法を用いると、得られるポリシロキサン硬化物中に内部応力が発生し難くなり、クラックや剥離を防止することができる。
【0065】
[3]応用例
本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、様々な無機半導体デバイスおよび有機半導体デバイスのための封止材料として用いることができる。具体的なデバイスとして、発光ダイオード(LED)や半導体レーザー等の半導体発光デバイス、光検出器、電気光学的ディスプレイ、有機発光ダイオード(OLED)、電子発光ディスプレイ、有機太陽電池(OPV)装置、照明装置などが挙げられる。更には、レンズ、導光板、光拡散板のような光学素子の材料や、光学素子用の接着剤に用いることもできる。
【0066】
一例として、図1に、本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物を用いた半導体発光デバイスの断面図を示す。図1に示す半導体発光デバイスは、半導体発光素子1、樹脂成形体2、ボンディングワイヤ3、封止材4、リードフレーム5から構成される。
【0067】
半導体発光素子1は、近紫外LED、紫色LEDまたは青色LEDのいずれかである。
【0068】
樹脂成形体2は、リードフレーム5と共に成形されている。
リードフレーム5は導電性の金属からなり、半導体発光素子1に電流を供給する役割を果たす。
【0069】
ボンディングワイヤ3は、半導体発光素子1とリードフレーム5を電気的に接続する役割を有する。
【0070】
半導体発光素子1は樹脂成形体2に設けられた凹所内に設置され、封止材4により封止されている。
封止材4には、本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物が用いられている。すなわち、封止材4は、この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物である。
【0071】
封止材4の内部には粒子状の蛍光体が配置されている。例えば、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46(Cl,F)2:Eu
のような青色蛍光体、Y3(Al,Ga)512:Ce、(Sr,Ba)2SiO4:Eu、β型サイアロン:Euのような緑色蛍光体、Y3Al512:Ce、(Y,Gd)3Al512:Ce、(Sr,Ca,Ba,Mg)2SiO4:Euのような黄色蛍光体、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu、(La,Y)22S:Eu、K2SiF6:Mnのような赤色蛍光体である。
【0072】
本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物である封止材4の屈折率は、該組成物の屈折率と略同じとなる。封止材4の屈折率を高めることは、周囲を封止材4で取り囲まれた蛍光体粒子の内部に光が閉じ込められないようにするうえで有用である。無機蛍光体の屈折率は、通常、ポリシロキサンの屈折率よりも高いからである。
この理由から、ナトリウムD線(波長589nm)を用いて測定される20℃における封止材4の屈折率は、好ましくは1.48以上、更に好ましくは1.50以上である。
【0073】
屈折率の測定には、Abbe屈折計(ナトリウムD線(589nm)使用)を用いることができる。
【0074】
封止材4は、更に、シリカ、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化イットリウムなどの無機酸化物微粒子やダイヤモンド微粒子を含有し得る。
【0075】
これらの無機微粒子は、光散乱材、骨材、増粘剤(チキソ剤)、屈折率調整剤などの目的で封止材4に添加される。
【0076】
封止材4の硬度としては一般にShore A(もしくはJIS Type A)で10以上、80以下
が好ましい。より好ましくは20以上、80以下であり、さらに好ましくは30以上、70以下である。硬度がこの範囲を下回ると半導体発光素子1を保護する目的が達成できない。反対に、硬度がこの範囲を上回ると、熱応力を緩和する機能が低下するために、ボンディングワイヤ3の切断、樹脂成形体2と封止材4の間の剥離などが発生しやすくなる。
【0077】
その他、本発明実施形態に係る縮合硬化性ポリシロキサン組成物は、半導体発光素子1を樹脂成形体2またはリードフレーム5に接着するためのダイボンド剤として用いることもできる。
【0078】
[実験結果]
以下には、本発明者等が行った縮合硬化性ポリシロキサン組成物の試作および評価の結果を記す。
1.原材料
以下に記す実験例および比較実験例で使用した縮合硬化性ポリシロキサン組成物の原料を表1に示す。以下の説明において各原料に言及する場合には、表1に示す略称を用いる。
【0079】
【表1】



【0080】
YF3804は前記式(1)で表される構造を有するオルガノポリシロキサンを主要成分として含有している。
XC96−723は前記式(5)で表わされる構造(nは平均的に6〜7)を有するオルガノポリシロキサンを主要成分として含有している。
FLD516は前記式(3)で表される構造(m、nは平均的に6〜7)を有するオルガノポリシロキサンを主要成分として含有している。
DC3037は前記式(2)で表される構造(mは4)を有するオルガノポリシロキサンを主要成分として含有している。
KR213は下記式(7)で表されるシロキシユニット、下記式(8)で表わされるシロキシユニット、下記式(9)で表わされるシロキシユニットを、6/13/13のモル比で含有するオルガノポリシロキサン組成物(オルガノポリシロキサンオリゴマーの混合物)である。
【0081】
【化6】


【化7】


【化8】

【0082】
2.測定・評価方法
2.1 メチル/フェニルモル比
縮合硬化性ポリシロキサン組成物における、モル比で表した(ケイ素原子に結合したメチル基の含有量)/(ケイ素原子に結合したフェニル基の含有量)は、日本電子株式会社製NMR AL−400を用いて室温における各材料の重クロロホルム中での1H−NM
Rを測定し、その積分比から算出した。
【0083】
2.2 Shore A硬度
厚さ1mmの円板状に形成した縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物を8枚重ねた8mm厚の測定サンプルを作成し、株式会社古里精機製作所製ゴム硬度計KR−24Aを
用いて1kgf荷重にて測定した。
2.3 屈折率
縮合硬化性ポリシロキサン組成物およびその硬化物について、株式会社アタゴ製Refractometer RX−7000αを用いて20℃にてナトリウムD線の波長での屈折率を測定した。
2.4 粘度
縮合硬化性ポリシロキサン組成物の粘度は、ブルックフィールド社製RV型粘度計RVDV−2 +Proを用いて測定した。
【0084】
3.合成および評価
3.1 実験例1
原料AとしてYF3804を300g、原料BとしてDC3037を16.5g、原料CとしてGa(acac)を0.3g、それぞれ秤取し、これらを攪拌翼とコンデンサとを取り付けた三つ口コルベン中で室温にて15分間、触媒が充分に溶解するまで攪拌することにより混合した。この後、混合物を100℃まで昇温し、1.3kPaの減圧下にて1時間、続いてさらに130℃まで昇温して1.3kPaの減圧下にて3時間45分間、生成メタノール及び水分と副生物の低沸ケイ素成分とを留去しつつ加熱攪拌して重縮合反応を進め、無溶剤の縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。この組成物の屈折率は1.48、メチル/フェニルモル比は4.68、粘度は502mPa・sであった。
【0085】
上記手順にて得た縮合硬化性ポリシロキサン組成物2gを直径5cmのテフロン(登録商標)シャーレに入れ、微風下、150℃で3時間保持することにより、厚さ約1mmの独立した円形透明エラストマー状膜(硬化物)を得た。この膜のShore A硬度は34であった。また、この膜の屈折率は1.48であり、硬化前の組成物の値と同じであった。
【0086】
3.2 実験例2
下記の点を除いて実験例1と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。
・YF3804の代わりにFLD516を用いた。
・DC3037の代わりにKR213を用いた。
・100℃、1時間の重縮合反応の条件を、1.3kPa減圧下から窒素ガス雰囲気中常圧下に変更した。
・130℃、1.3KPa減圧下での重縮合反応時間を3時間45分間から40分間に短縮した。
得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.55、メチル/フェニルモル比は0.97、粘度は930mPa・sであった。
【0087】
この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および評価を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は47、屈折率は1.55であった。
【0088】
3.3 実験例3
下記の点を除いて実験例2と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。
・KR213の代わりにPTMSを用いた。
・130℃、1.3KPaの減圧下での重縮合反応時間を50分間に伸長した。
得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.55、メチル/フェニルモル比は0.97、粘度は1043mPa・sであった。
【0089】
この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および評価を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は46、屈折率は1.55であった。
本実験例3で得た縮合硬化性ポリシロキサン組成物を常温で保存したときの粘度の変化
を調べた結果を表2に示す。なお、初期値を100%としたときの相対値で表している。
【0090】
【表2】

【0091】
3.4 実験例4
下記の点を除いて実験例3と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。
・1.3KPa減圧下での重縮合反応の条件を、130℃、50分間から120℃、65分間に変更した。
得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.55、メチル/フェニルモル比は0.97、粘度は1050mPa・sであった。
【0092】
この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および評価を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は38、屈折率は1.55であった。
【0093】
3.5 比較実験例1
下記の点を除いて実験例4と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。
・FLD516の代わりにYF3804を用いた。
・Ga(acac)の代わりにSn(C15)を用いた。
・窒素ガス雰囲気中常圧下での重縮合反応の条件を100℃、1時間から25℃、30分間に変更した。
・130℃、1.3KPa減圧下、50分間という重縮合反応条件を、25℃、1.0KPa減圧下、30分間に変更した。
得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.48、メチル/フェニルモル比は4.38であった。
この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および硬度測定を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は25であった。
【0094】
3.6 比較実験例2
下記の点を除いて比較実験例1と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。・PTMSの代わりにDC3037を用いた。
・重縮合反応の条件を条圧下15分間とした。
・25℃での重縮合反応の条件を、1.0KPa減圧下、30分間から常圧下15分間に変更した。
得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.48、メチル/フェニルモル比は5.08であった。
【0095】
この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および硬度測定を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は24であった。
【0096】
3.7 比較実験例3
原料AとしてYF3804とXC96−723の1:1(重量比)混合物を300g、原料BとしてPTMSを30g、原料CとしてZr(acac)を0.64g、それぞれ秤取して混合し、常圧下窒素ガス雰囲気中にて120℃、2時間反応させ、続いて窒素ガスをSV20で吹き込み生成メタノール及び水分と副生物の低沸ケイ素成分を留去しつつ120℃でさらに6時間攪拌し、重縮合反応を進めた。ここで、「SV」とは「Space Velocity」の略称であり、単位時間当たりの吹き込み体積量を意味する。SV20とは、1時間に反応液の20倍の体積の窒素ガスを吹き込むことをいう。
【0097】
窒素ガスの吹き込みを停止し反応液をいったん室温まで冷却した後、ナス型フラスコに反応液を移し、ロータリーエバポレーターを用いてオイルバス上120℃、1kPa減圧下、20分間の加熱を行い、微量に残留しているメタノール及び水分と、低沸ケイ素成分を留去し、縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。この硬化性組成物の屈折率は1.47、メチル/フェニルモル比は9.12であった。
【0098】
この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および硬度測定を実験例1と同様の方法で試みた。しかし、硬化物が脆く、数値として20程度の段階で硬度計の針がサンプルに刺さり、正確な硬度測定は不可能であった。この結果から、比較実験例3の硬化物中には未反応物が多く、架橋も不十分であったと考えられる。
【0099】
3.8 比較実験例4
a.原料Aの合成
FLD516を210g、XC96−723を90g、Ga(OAc)を0.10g、それぞれ秤取し、これらを攪拌翼とコンデンサとを取り付けた三つ口コルベン中で120℃にて5分間攪拌して混合した。その後、1.3kPaの減圧下にて、生成した水分と副生物の低沸ケイ素成分を留去しつつ、混合物を120℃で1時間加熱攪拌して重縮合反応を進め、無溶剤のポリシロキサン組成物を得た。得られた組成物中には触媒に用いたGa(OAc)が残存している。
【0100】
このポリシロキサン組成物の屈折率は1.50であった。
このポリシロキサン組成物は、前記式(4)で表される構造を有するオルガノポリシロキサンを含んでいる。
【0101】
b.縮合硬化性ポリシロキサン組成物の合成および評価
原料Aとして上記a.で得たポリシロキサン組成物、原料BとしてMTMS、原料Cとして原料A中に残存するGa(OAc)を用いて、縮合硬化性ポリシロキサン組成物を合成した。
【0102】
具体的には、上記a.で得たポリシロキサン組成物(Ga(OAc)を含む)とMTMSを、攪拌翼とコンデンサとを取り付けた三つ口コルベン中にて、常圧下にて生成メタノール及び水分と副生物の低沸ケイ素成分を留去しつつ、100℃で30分間加熱攪拌して重縮合反応を進め、無溶剤の縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。
【0103】
この硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.50であった。
続いて、この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および評価を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は50、屈折率は1.50であった。
【0104】
3.9 比較実験例5
下記の点を除いて比較実験例4と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得た。・Ga(OAc)の代わりにGa(acac)を用いたこと。
【0105】
得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物の屈折率は1.50であった。
続いて、この縮合硬化性ポリシロキサン組成物の硬化物の作製および評価を実験例1と同様の方法で行った。その結果、Shore A硬度は37、屈折率は1.50であった。
【0106】
3.10 比較実験例6
a.原料Aの合成
下記の点を除いて比較実験例4と同様にして原料A用のポリシロキサン組成物を得た。・原料Aの合成において、XC96−723の代わりにYF3804を用いた(240gのFLD516と60gのYF3804を混合)。
・原料Aの合成において、120℃、1.3KPa減圧下での重縮合反応の時間を1時間から30分間に短縮した。
【0107】
原料Aとして得たポリシロキサン組成物の屈折率は1.53であった。
【0108】
b.縮合硬化性ポリシロキサン組成物の合成および評価
原料Aを変更したことと、原料Aと原料Bの混合比を変更したことを除いて比較実験例5と同様にして縮合硬化性ポリシロキサン組成物を得ることを試みた。
【0109】
ところが、重縮合反応工程の直後の段階では組成物は流動性を有していたが(粘度3000mPa・s)、反応容器内の温度が室温に下がるまで半日ほど放置する間に反応容器の内容物全体が完全にゲル化していた。
このように、比較実験例6では常温貯蔵可能な硬化性ポリシロキサン組成物を得ることができなかった。比較実験例4および5の縮合硬化性ポリシロキサン組成物も、貯蔵中の粘度増加が速く、貯蔵安定性が良好ではなかった。
【0110】
3.11 実験例5
日本カーバイド工業株式会社製のセラミックス製反射材を有するLEDパッケージ(NCI7070(銀電極))に、発光波長450nmの青色LEDチップを実装し、実験例4で得られた縮合硬化性ポリシロキサン組成物を用いて封止した。該ポリシロキサン組成物の硬化は、微風下、110℃にて3時間、続いて150℃にて3時間保持することによって行った。こうして得たLEDサンプルに対して、下記の耐久性試験を行った。
【0111】
25℃/55%RH、85℃/90%RH、60℃/90%RHの各雰囲気下で上記LEDサンプルに350mAの電流を連続的に流して点灯させた。631時間経過した時点での出力の維持率(点灯初期と比較)をオーシャンオプティクス社製4インチ積分球分光システム(分光器:USB4000)を用いて測定したところ、25℃/55%RH雰囲気下で点灯させたもので98%、85℃/90%RH雰囲気下で点灯させたもので97%、60℃/90%RH雰囲気下で点灯させたもので96%という値であった。
【0112】
3.12 まとめ
上述の実験例1〜4および比較実験例1〜6におけるサンプル作製条件および評価結果をまとめたものを表3〜表5に示す。
【0113】
【表3】




【0114】
【表4】




【0115】
【表5】



【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の縮合硬化性ポリシロキサン組成物の用途は特に制限されず、何れの用途に用いても良いが、特に半導体デバイスのための封止材料の用途に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 半導体発光素子
2 樹脂成形体
3 ボンディングワイヤ
4 封止材
5 リードフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)のオルガノポリシロキサンと、下記(ii)の有機ケイ素化合物と、下記(iii)の化合物と、を混合して得られる縮合硬化性ポリシロキサン組成物:
(i)モノマーユニットとしてジアリールシロキサンユニットおよびアルキルアリールシ
ロキサンユニットから選ばれる少なくとも一種を含むポリシロキサン主鎖を有するとともに、該主鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ結合した縮合性官能基を有するオルガノポリシロキサン;
(ii)ケイ素原子に結合したアリール基を1分子中に少なくとも1個有するとともに、ケイ素原子に結合した縮合性官能基を1分子中に少なくとも3個有し、該縮合性官能基のうちアリール基が結合したケイ素原子に結合していないものの個数が2個以下である有機ケイ素化合物;
(iii)ガリウム化合物。
【請求項2】
前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にモノマーユニット
としてジフェニルシロキサンユニットを含む、請求項1に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にモノマーユニット
としてメチルフェニルシロキサンユニットを含む、請求項1に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にポリ(メチルフェ
ニルシロキサン)ユニットを含む、請求項3に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項5】
前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にモノマーユニット
としてジアルキルシロキサンユニットを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項6】
前記ジアルキルシロキサンユニットがジメチルシロキサンユニットを含む、請求項5に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項7】
前記(i)のオルガノポリシロキサンが、前記ポリシロキサン主鎖にポリ(ジメチルシ
ロキサン)ユニットを含む、請求項6に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項8】
前記(ii)の有機ケイ素化合物がオルガノポリシロキサンまたはオルガノシランである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項9】
前記(ii)の有機ケイ素化合物が有する前記縮合性官能基は全て、アリール基が結合したケイ素原子に結合したものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項10】
前記(ii)の有機ケイ素化合物の前記アリール基がフェニル基を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項11】
前記(ii)の有機ケイ素化合物がフェニルトリメトキシシランを含む、請求項10に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項12】
前記(ii)の有機ケイ素化合物がフェニルメトキシシロキサンユニットを含むポリシロキサン化合物を含む、請求項10に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項13】
ケイ素原子に結合した炭化水素基としてフェニル基またはメチル基以外の炭化水素基を含んでおらず、モル比で表した(ケイ素原子に結合したメチル基の含有量)/(ケイ素原子に結合したフェニル基の含有量)が1.0〜10である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項14】
ナトリウムD線を用いて測定した20℃における屈折率が1.48以上である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項15】
前記(iii)のガリウム化合物が、ガリウムアセチルアセトナートおよび酢酸ガリウム
から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項16】
前記(i)のオルガノポリシロキサンの前記縮合性官能基および前記(ii)の有機ケイ
素化合物の前記縮合性官能基が、それぞれ、ヒドロキシ基およびアルコキシ基から選ばれる一種である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項17】
液温25℃における粘度が500mPa・s以上である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。
【請求項18】
室温で6か月放置した後の粘度が初期粘度の110%以内である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の縮合硬化性ポリシロキサン組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2013−91772(P2013−91772A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−123530(P2012−123530)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】