説明

縮重合系樹脂の製造方法

【課題】縮重合反応の反応速度の制御が可能で、軟化点の分布が狭い縮重合系樹脂の製造方法及び該方法により得られる縮重合系樹脂を提供すること。
【解決手段】金属を含む触媒と少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物とを用いて、原料モノマーを縮重合反応させる縮重合系樹脂の製造方法であって、前記縮重合反応の反応率が30%以上の時点で、リン化合物を反応系に添加する工程を含む、縮重合系樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、シート、繊維、電子写真用トナー材料等の各種用途に用いられる縮重合系樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミド等の縮重合系樹脂は、その化学的、物理的性質を利用して、フィルム、シート、繊維等の各種用途に用いられており、得られる樹脂の用途に応じて、縮重合反応を促進する触媒として各種金属化合物が検討されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
また、触媒の活性を高める助触媒についても検討されており、例えば、特定の錫化合物とともに用いられるものとして、アミド化合物やアミン化合物が報告されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2003−186250号公報
【特許文献2】特開2004−151246号公報
【特許文献3】特開2006−91318号公報
【特許文献4】特開2006-350035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、縮重合反応の反応速度の制御が可能で、軟化点の分布が狭い縮重合系樹脂の製造方法及び該方法により得られる縮重合系樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
没食子酸等の少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物は、少量の添加で金属を含む触媒の反応性を非常に高めることができ、従来にない非常に高い触媒活性を得られる。しかしながら、反応性が高いために、反応後半に架橋反応がある場合、架橋反応の制御が困難である、少量で効果があるため、反応槽内に少量でも残留すると、次バッチの縮重合系樹脂の生産における反応速度に影響を与えてしまう、実際の現場では反応釜からの樹脂の抜き出しにある程度時間を要するが、その間にも反応が進行するため、分子量分布(軟化点分布)が広い樹脂となる等、製造上の課題がある。
【0006】
本件発明者らが検討を重ねた結果、触媒活性が高まるのは、没食子酸等の少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物が触媒中の金属に配位するためと考えられ、金属に対してより配位能の高いリン化合物を用いることにより、触媒活性を制御し、分子量分布(軟化点分布)が狭い縮重合系樹脂を得る方法を見出した。
【0007】
本発明は、金属を含む触媒と少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物とを用いて、原料モノマーを縮重合反応させる縮重合系樹脂の製造方法であって、前記縮重合反応の反応率が30%以上の時点で、リン化合物を反応系に添加する工程を含む、縮重合系樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、必要に応じて反応速度を制御しながら、分子量分布(軟化点分布)が狭い縮重合系樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、金属を含む触媒と、少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物(以下、便宜上「助触媒」と略す)とを用いて、原料モノマーを縮重合反応させて、縮重合系樹脂を製造する際に、縮重合反応が所定の反応率に達した時点以降で、リン化合物を反応系に添加する点に特徴を有し、これにより、反応後半で、必要に応じて触媒活性を失活させ、反応速度を制御することができる。即ち、反応初期においては、助触媒が金属に配位し、金属を含む触媒の触媒活性が高められ、反応が十分に促進されると考えられるが、反応途中でリン化合物を添加することにより、触媒活性を失活させることができる。これは、リン化合物が、金属に対して助触媒よりも配位能が高いためと考えられる。これにより、反応後半での架橋反応の制御が可能になり、分子量分布(軟化点分布)が狭い縮重合系樹脂を得ることができる。また、反応槽内の残留物による次バッチの反応速度への影響や、反応槽からの抜き出し時の反応の進行を防止することができる。
【0010】
金属を含む触媒としては、触媒活性の観点から、好ましくはアルミニウム、アンチモン、錫及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種、より好ましくは錫又はチタンである化合物が望ましい。
【0011】
錫化合物としては、酸化ジブチル錫等のSn-C結合を有する錫化合物のほか、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物等が挙げられる。
【0012】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0013】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでRは炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましく、オクタン酸錫(II)及び2-エチルヘキサン酸錫(II)がさらに好ましい。
【0014】
チタン化合物としては、Ti-O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0015】
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C3H7O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4H10O2N)2(C3H7O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C5H11O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C2H5O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(OHC8H16O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C18H37O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)(C3H7O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6H14O3N)3(C3H7O)〕等が挙げられ、これらの中ではチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましく、これらは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手可能である。
【0016】
他の好ましいチタン化合物の具体例としては、テトラ-n-ブチルチタネート〔Ti(C4H9O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C3H7O)4〕、テトラステアリルチタネート〔Ti(C18H37O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C14H29O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C8H17O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C8H17O)2(OHC8H16O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C14H29O)2(C8H17O)2〕等で挙げられ、これらの中ではテトラステアリルチタネート、テトラミリスチルチタネート、テトラオクチルチタネート及びジオクチルジヒドロキシオクチルチタネートが好ましく、これらは、例えばハロゲン化チタンを対応するアルコールと反応させることにより得ることもできるが、ニッソー社等の市販品としても入手可能である。
【0017】
アルミニウム化合物としては、公知のアルミニウム化合物を限定なく使用でき、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウム等のカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウム等の無機酸塩が挙げられる。
【0018】
また、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムiso-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイド等アルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキサイド等のアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウム等が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがより好ましい。
【0019】
アンチモン化合物としては、公知のアンチモン化合物を限定なく使用でき、具体的には、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等が挙げられ、これらのなかでは三酸化アンチモンが好ましい。
【0020】
金属を含む触媒の使用量は、縮重合反応に供される原料モノマー100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0021】
一方、助触媒において、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物としては、ハイドロキノン等の2価のフェノール、水酸基に対して少なくともオルト位に置換基を有するフェノール性化合物(以下、ヒンダードフェノールをいう)等が挙げられるが、これらの中では、触媒活性向上の観点から、2個の水酸基が互いに隣接したベンゼン環を有する化合物が好ましい。
【0022】
2価のフェノールとは、ベンゼン環に、OH基が2個結合したものであり、他の置換基がついていない化合物を意味し、ハイドロキノンが好ましい。
【0023】
ヒンダードフェノールとしては、モノ-t-ブチル-p-クレゾール、モノ-t-ブチル-m-クレゾール、t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン、プロピルガレード、4,4’-メチレンビス(2,6-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ブチルヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、オクタデシル-3-(4-ハイドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、ジステアリル(4-ハイドロキシ-3-メチル-5-t-ブチル)ベンジルマロネート、6-(4-ハイドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2,6-ジフェル-4-オクタデカノキシフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-ジハイドロキシ-3,3’-ジ-(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、トリス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ハイドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェノール)イソシアヌレート、1,1,3’-トリス(2-メチル-4-ハイドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、2,6-ビス(2’-ハイドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシハイドロシンナメート)、ヘキサメチレングルコールビス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[β-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられ、これらの中では、t-ブチルカテコールが好ましい。
【0024】
2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物としては、触媒活性による縮重合反応の反応活性の観点から、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するピロガロール化合物が好ましい。
【0025】
前記ピロガロール化合物としては、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、これらの中では、得られる樹脂の透明性の観点から、式(I):
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、R3〜R5はそれぞれ独立して、水素原子又は−COOR6(R6は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基、好ましくはアルキル基又はアルケニル基を示す)を示す)
で表される化合物が好ましい。式中、R6の炭化水素基の炭素数は、1〜8が好ましく、反応活性の観点から、炭素数1〜4がより好ましい。式(I)で表される化合物のなかでは、R3及びR5が水素原子、R4が水素原子又は−COOR6である化合物がより好ましい。具体例としては、ピロガロール(R3〜R5:水素原子)、没食子酸(R3及びR5:水素原子、R4:−COOH)、没食子酸エチル(R3及びR5:水素原子、R4:−COOC25)、没食子酸プロピル(R3及びR5:水素原子、R4:−COOC37)、没食子酸ブチル(R3及びR5:水素原子、R4:−COOC49)、没食子酸オクチル(R3及びR5:水素原子、R4:−COOC817)、没食子酸ラウリル(R3及びR5:水素原子、R4:−COOC1225)等の没食子酸エステル等が挙げられる。樹脂の透明性の観点からは、没食子酸及び没食子酸エステルが好ましい。
【0028】
縮重合反応における助触媒の使用量は、触媒活性の観点から、縮重合反応に供される原料モノマー100重量部に対して、0.001〜1.0重量部が好ましく、0.005〜0.4重量部がより好ましく、0.01〜0.2重量部がさらに好ましい。
【0029】
助触媒と金属を含む触媒の重量比(助触媒/金属を含む触媒)は、触媒活性の観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0030】
本発明においては、金属を含む触媒と助触媒の代わりに、前記の金属を含む触媒と助触媒との反応生成物を用いてもよい。
【0031】
反応に供する助触媒と金属を含む触媒との使用量比は、モル比(助触媒/金属を含む触媒)で、触媒活性の観点から、0.05〜4が好ましく、0.1〜1.5がより好ましく、0.15〜0.8がさらに好ましい。
【0032】
金属を含む触媒と助触媒との反応は、例えば、触媒がSn-C結合を有していない錫(II)化合物の場合、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数1〜16)等のアルコール系溶媒中、好ましくは100〜250℃、より好ましくは150〜250℃で、さらに好ましくは200〜250℃で、行うことが好ましい。
【0033】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物とピロガロール化合物との反応生成物は、色相の変化により確認できる。反応生成物の色相は赤みを帯びた色相であることが好ましく、a*値が好ましくは5〜60、より好ましくは20〜55、さらに好ましくは30〜52である。Sn-C結合を有していない錫(II)化合物とピロガロール化合物の混合物の色相は白色(a*値は1未満)である。
【0034】
また、ピロガロール化合物が没食子酸等の水酸基とカルボキシル基とを有する化合物である場合、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物とピロガロール化合物の反応生成物には、黄みを帯びた色相を有するものもあるが、赤みを帯びた色相の反応生成物は、黄みを帯びた色相の反応生成物と比べて、反応時間の短縮化においてより高い効果が得られる。通常は、錫化合物と水酸基とカルボキシル基を有するピロガロール化合物とを反応させると、錫は水酸基よりもカルボキシル基に優先的に結合する。これに対し、錫が水酸基に結合すると反応生成物が赤みを帯びた色相を有しているものと推定される。このような反応生成物の色相の相違は、錫化合物とピロガロール化合物の結合状態の違いによるものと考えられる。即ち、錫化合物とピロガロール化合物との反応により、錫を介してピロガロールが連結したピロガロールの多量体が生成しているものと推定される。従って、赤みを帯びた色相を有する反応生成物を得るためには、例えば、予め、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物をテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物と反応させることにより、テレフタル酸錫等の芳香族ジカルボン酸錫を形成させた後、ピロガロール化合物と反応させることが好ましい。
【0035】
錫化合物とピロガロール化合物の反応生成物における錫は2価であることが好ましい。従来の錫触媒の活性低下は、SnOからSnO2への変化、すなわち、錫が2価から4価に変化することが原因と考えられ、前記反応生成物の高活性は、詳細な理由は不明であるが、錫がピロガロール化合物中の2個の水酸基の酸素原子と結合することによって、2価の錫が安定化されると考えられる。
【0036】
錫化合物とピロガロール化合物の反応生成物を用いる場合の使用量は、縮重合反応に供される原料モノマー100重量部に対して、0.05〜3重量部が好ましく、0.1〜2重量部がより好ましく、0.2〜1重量部がさらに好ましく、0.3〜1重量部がさらに好ましい。
【0037】
従って、本発明においては、
第一の態様:金属を含む触媒と助触媒を用いて、具体的には、金属を含む触媒と助触媒の存在下で、縮重合反応を行う態様、及び
第二の態様:金属を含む触媒と助触媒を予め反応させて得られる反応生成物の存在下で縮重合反応を行う態様
があるが、本発明では、縮重合反応の反応活性向上の観点から、第一の態様が好ましい。なお、縮重合反応における金属を含む触媒と助触媒の使用量、及び金属を含む触媒と助触媒の反応生成物の使用量は、それぞれ、縮重合反応に供した金属を含む触媒と助触媒の全使用量、及び金属を含む触媒と助触媒の反応生成物の全使用量を意味する。
【0038】
リン化合物としては、有機リン化合物が好ましく、例えば、ホスホン酸、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、ブタン-1,2-ジカルボキシ-2-ホスホン酸、ブタン-2,3,4,トリカルボキシ-1-ホスホン酸、プロパン-1,2-ジカルボキシ-2-ホスホン酸及びアミノトリメチレンホスホン酸から選ばれるホスホン酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの中では、金属への配位性の観点から、ホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸及びアミノトリメチレンホスホン酸5ナトリウム塩が好ましい。
【0039】
第一の態様におけるリン化合物と金属を含む触媒の使用量の重量比(リン化合物/金属を含む触媒)は、触媒活性の制御及び軟化点の分布が狭い樹脂を得る観点から、0.05〜4が好ましく、0.1〜2がより好ましく、0.2〜1がさらに好ましい。また、同様の観点から、リン化合物と助触媒の使用量の重量比(リン化合物/助触媒)は、0.2〜50が好ましく、0.5〜30がより好ましく、1〜10がさらに好ましい。また、第二の態様におけるリン化合物と反応生成物の使用量の重量比(リン化合物/反応生成物)は、触媒活性の制御及び軟化点の分布が狭い樹脂を得る観点から、0.05〜4が好ましく、0.1〜2がより好ましく、0.2〜1がさらに好ましい。
【0040】
縮重合反応として、カルボキシル基と水酸基の脱水縮合によりエステル結合(-COO-)を有するポリエステルユニット、カルボキシル基とアミノ基の脱水縮合によりアミド結合(-CONH-)を有するポリアミドユニット、エステル結合とアミド結合の両方を有するポリエステルポリアミドユニット等の縮重合系樹脂ユニットを形成する反応等が挙げられ、エステル結合を有する縮重合系樹脂ユニットの形成において、本発明の効果がより顕著に発揮される。なお、本発明においては、異なる原料モノマー間の反応に限らず、異種官能基を1分子内にもつモノマー、例えば、水酸基とカルボキシル基を有する乳酸から、脱水縮合によりポリ乳酸を生成させる反応も縮重合反応に含まれる。
【0041】
ポリエステルユニットの原料モノマーとしては、通常、アルコール成分とカルボン酸成分とが用いられる。
【0042】
アルコール成分としては、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の、式(II):
【0043】
【化2】

【0044】
(式中、R7Oはオキシアルキレン基であり、R7はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0045】
カルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル;ロジン;フマル酸、マレイン酸、アクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0046】
本発明においては、縮重合反応の反応性の観点から、カルボン酸成分中に芳香族ジカルボン酸化合物が含有されていることが好ましい。芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、30〜95モル%が好ましく、50〜80モル%がより好ましい。
【0047】
また、本発明の方法は架橋反応の制御が容易であることから、原料モノマー中に、3価以上のモノマーが含有されていることが好ましく、3価以上のモノマーとしては、反応活性の観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物が好ましく、無水トリメリット酸がより好ましい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、5〜50モル%が好ましく、20〜40モル%がより好ましい。
【0048】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量調整やトナーの耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0049】
さらに、ポリエステルポリアミドユニットやポリアミドユニットにおけるアミド結合を形成するための原料モノマーとしては、公知の各種ポリアミン、アミノカルボン酸類、アミノアルコール等が挙げられ、好ましくはヘキサメチレンジアミン及びε-カプロラクタムである。
【0050】
なお、以上の原料モノマーには、通常開環重合モノマーに分類されるものも含まれているが、これらは、他のモノマーの縮重合反応で生成する水等の存在により加水分解して縮重合に供されるため、広義には縮重合系樹脂の原料モノマーに含まれると考えられる。
【0051】
本発明において縮重合反応は、縮重合反応の反応率が30%以上、好ましくは50〜95%の時点でリン化合物を添加する以外は、通常の方法により行うことができ、例えば、ポリエステルユニットを形成するアルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、金属を含む触媒及び助触媒、又は金属を含む触媒と助触媒との反応生成物の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、180〜250℃の温度で行うことが好ましい。金属を含む触媒と助触媒は、両者を混合して反応系に添加してもよく、別々に添加してもよい。なお、上記反応率は縮重合反応全体での反応率である。
【0052】
金属を含む触媒と助触媒、又は金属を含む触媒と助触媒との反応生成物を反応系に添加する時期は、リン化合物を添加する前であれば、反応開始前及び反応途中のいずれであってもよく、カルボン酸成分やアルコール成分と混合して添加してもよいが、反応当初から添加しておくことが好ましい。
【0053】
一方、リン化合物を添加する時期は、縮重合反応全体での反応率が所定の値に達した以降であれば、金属を含む触媒と助触媒、又は金属を含む触媒と助触媒と助触媒の反応生成物の触媒活性を失活させる観点から、適宜選択することができるが、本発明においては、縮重合反応を2段以上の反応で行う反応において、リン化合物を添加することが好ましい。ここで、2段以上の反応とは、原料モノマーを2以上に分割して仕込む方法である。
【0054】
2段反応の場合、1段目に仕込んだ原料モノマーが50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上反応した後に、残りの原料モノマーを仕込むことが望ましい。これに対し、全ての原料モノマーを一度に仕込んだ後に反応させる方法を1段反応という。1段反応では原料モノマーがランダムにつながるのに対し、2段以上の反応にすることにより、ある程度モノマーのつながり方を制御できることから、樹脂設計の自由度が高く、また、反応性の異なる原料モノマーを用いる場合には、同時に反応させると、各々のモノマーの反応率等の制御が困難であるのに対し、反応性の悪い原料モノマーを先に反応させることによる、反応時間の短縮及び高度な反応制御が可能となる。
【0055】
従って、2段以上の反応においては、反応時間の短縮及び反応制御を行い軟化点の分布が狭い樹脂を得る観点から、2段目の反応では1段目とは異なる原料モノマーを仕込むことが好ましく、1段目の反応では高い反応活性を要する原料モノマー、即ち反応性が低い原料モノマーを、2段目以降の反応では反応制御を要する原料モノマー、例えば、樹脂の軟化点に対する影響の大きい原料モノマーをそれぞれ仕込み、1段目の途中又は2段目以降にリン化合物を仕込むことがより好ましい。例えば、カルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸化合物と3価以上の多価カルボン酸化合物を用いる場合には、1段目の反応で、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物等のカルボン酸成分を仕込み、2つの反応活性の異なる原料モノマーによる反応を効率よく行う観点から、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物との反応率が好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上の時点で、リン化合物を添加し、リン化合物の添加と同時又はリン化合物の添加より後に、3価以上の多価カルボン酸化合物を仕込むことが望ましい。なお、反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
【0056】
2段以上の反応において、リン化合物の添加時期は、縮重合反応の反応制御を行い軟化点の分布が狭い樹脂を得る観点から、1段階目の反応終了60分前から全反応終了30分前の間が好ましく、1段目の反応終了30分前から全反応終了45分前の間がより好ましく、1段目の反応終了から2段目の反応開始の間がさらに好ましくい。ここで、全反応終了とは、反応系内の加熱を停止し、反応槽から、得られた樹脂の抜き出しを開始する時点をいう。
【0057】
本発明により得られる縮重合系樹脂とは、縮重合系樹脂ユニットを含む樹脂をいい、前記縮重合反応により得られるポリエステル、ポリエステルポリアミド、ポリアミド等の縮重合系樹脂ユニットからなる樹脂だけでなく、前記縮重合系樹脂ユニットを含む、2種以上の樹脂成分を有するハイブリッド樹脂、例えば、縮重合系樹脂ユニットと付加重合系樹脂ユニットとが部分的に化学結合したハイブリッド樹脂も含まれる。
【0058】
また、縮重合系樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。例えば、変性されたポリエステルとしては、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0059】
本発明により得られる縮重合系樹脂は、フィルム、シート、繊維、電子写真用トナー材料等の各種用途に用いることができる。
【0060】
縮重合系樹脂は加熱溶融や溶融混練して添加剤等を分散させて用いられる場合、低温の混練では、十分に融けきらない、溶融粘度が高すぎる等により分散性が不十分であり、また場合によっては、ポリマー鎖の一部が切れてしまい、低軟化点、低強度化等を招いてしまう。このため、溶融粘度が低くなる、ある程度高温での混練が望まれるが、高温での混練においては、縮重合反応が進行してしまい使用した樹脂が製品中では高軟化点樹脂になってしまうという問題が生じる。
【0061】
しかし、本発明の方法で得られた縮重合系樹脂は、反応速度が制御され分子量分布(軟化点分布)が狭いために、縮重合系樹脂が、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上に加熱溶融又は溶融混練して使用される樹脂成形体や電子写真用トナー材料の縮重合系樹脂として好適に用いられる。
【実施例】
【0062】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0063】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0064】
触媒の製造例1
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した2リットル容の四つ口フラスコ中、窒素雰囲気下、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(平均付加モル数:2.05)1000gに、2-エチルへキサン酸錫(II)400g及びテレフタル酸100gを添加し、230℃で4時間攪拌した。
【0065】
得られた溶液を、アドバンテック社製の濾紙 No2(JIS P3801に規定)で濾過し、白色沈殿を得た。得られた白色沈殿をNMR、IR、ESCAで分析し、テレフタル酸の水酸基の一部の水素原子と錫が結合した化合物であることを確認した。
【0066】
さらに、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した2リットル容の四つ口フラスコ中、窒素雰囲気下、ポリプロピレングリコール(分子量700、ジオール型、試薬、和光純薬社製)1000gに、得られた白色沈殿400g(0.89モル)及び没食子酸40g(0.21モル)を添加し、230℃にて4時間攪拌した。
【0067】
得られた溶液を、アドバンテック社製の濾紙 No2(JIS P3801に規定)で濾過し、赤褐色沈殿を得た。得られた赤褐色沈殿を表2中の触媒Bとする。触媒BをNMR、IR、ESCAで分析し、没食子酸の水酸基の一部の水素原子と錫が結合した化合物であることを確認した。
【0068】
〔触媒の分析〕
触媒の分析に用いたNMR、IR、ESCAの測定条件を下記に示す。
【0069】
〔NMR〕
機器:Mercury-400 (VARIAN社製)
観測核:1H
観測範囲:6410.3Hz
データポイント数:65536
パルス幅:45°(4.5μs)
待ち時間:10s
積算回数:128回
測定温度:室温
測定溶媒:0.1N DCl/D2O溶液
0.1N NaOD/D2O溶液
試料濃度:1%
【0070】
〔IR〕
機器:FT-710(HORIBA社製)
測定法:ATR法
積算回数:10回
測定範囲:600-4000cm-1
【0071】
また、下記の方法により測定した触媒Bの色目(a*値)は49.6であった。
【0072】
〔触媒の色目〕
・試料作製方法
錫化合物触媒1gを内径59mmの打錠用プレス金型に表面が均一になるように投入し、かかる金型を電動式試料成形機(C/N:9302/30、前川試験器社製)にセットし、付属のブルドン管荷重計の目盛りで10トンの加圧を10秒間行うことにより、直径59mm、厚さ約1.7mmのペレットを得る。
・測定方法
ペレットを、A4コピー用紙(RPCA4R)20枚重ね合わせた上におき、日本電色工業社製の色差計「SZ-Σ90」によりL***を測定し、別途、リファレンスとして測定した、A4コピー用紙(RPCA4R)20枚重ね合わせた上のL***から、ペレットのa*値との差(Δa*)を算出する。
【0073】
実施例1
〔1段目反応〕
表1に示す原料モノマー組成Aにおいて、トリメリット酸以外の原料モノマー、表2に示す触媒及び助触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃で反応率90%に達するまで縮重合反応させた後、さらに8kPaにて1時間反応させた。1段目反応での反応率は95%であった。
【0074】
次いで、表2に示すリン化合物を5分かけて連続添加して30分間攪拌した。
【0075】
〔2段目反応〕
その後、220℃にてトリメリット酸を添加し、1時間反応させた後、8kPaにて所望の軟化点に達するまで真空架橋反応を行った。2段目反応終了時の全体の反応率は91%であった。
【0076】
〔全反応終了後〕
フラスコ内を常圧に戻し、加熱及び攪拌を停止して反応を終了し、フラスコから得られた樹脂を150g/分で抜き出した。抜き出しには約60分の時間を要した。この間の樹脂の軟化点変化を追跡するため、抜き出し開始時(反応終了直後)と、抜き出し開始から30分後に、フラスコ内から樹脂100gを採取し、冷却して、軟化点を測定し、その差(ΔTm)を求めた。ΔTmが小さいほど、分子量分布(軟化点分布)が狭い縮重合系樹脂であることを示す。結果を表2に示す。
【0077】
〔反応系に5重量%の樹脂が残留した場合の反応状態の確認〕
樹脂のバッチ生産に伴う、次バッチへの反応系への残留の影響を確認するため、合わせて9625g(BPA-PO/BPA-EO/TPA=85/15/58(モル比))のポリオキシプロピレン(2.05)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA-PO)、ポリオキシエチレン(2.05)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA-PO)及びテレフタル酸(TPA)を、実施例1で得られた樹脂500g(BPA-PO、BPA-EO及びTPAの総量100重量部に対して5重量部)とともに、樹脂の残留のない四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃で酸価が15mgKOH/gに達するまでの時間を測定し、通常条件下での反応時間(6.5時間)との差を求めた。
【0078】
実施例2〜7、9、10及び比較例1〜3
表2に示す触媒、助触媒及びリン化合物を用い、表2に示す時点でリン化合物を添加した以外は、実施例1と同様にして、樹脂を得、軟化点変化を測定して、さらに次バッチを実施した。結果を表2に示す。
【0079】
実施例8
リン化合物を、1段目反応において反応率が70%に段階で、5分かけて連続的に添加した以外は、実施例1と同様にして、樹脂を得、軟化点変化を測定して、さらに次バッチを実施した。結果を表2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
以上の結果より、実施例1〜10では、リン化合物を所定の時点で反応系に添加することにより、反応の進行が適宜制御され、軟化点の分布の狭い樹脂が得られるともに、樹脂のコンタミが次バッチに与える影響も小さいことが分かる。これに対し、リン化合物を使用していない比較例1、3では、抜き出しの間にも反応が進行し、また次バッチに与える影響が大きく、リン化合物を反応当初から反応系に添加した比較例2では、1段目反応での反応時間が長くなっている。
【0083】
実施例11
表1に示す原料モノマー組成Bを用い、原料モノマー、原料モノマー100重量部に対して、0.5重量部の触媒A及び0.05重量部のピロガロールを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃で反応率90%に達するまで縮重合反応させた後、さらに8kPaにて1時間反応させた(反応率95%)。その後、常圧に戻し、原料モノマー100重量部に対して、0.2重量部のリン化合物aを加え、1時間攪拌した後、得られた樹脂を抜き出した。なお、使用した触媒A及びリン化合物aは、表2中の注釈と同じである。
【0084】
樹脂を抜き出した後、実施例1と同様にして次バッチを実施した。反応時間は、通常条件下での反応時間(6.5時間)と同じであった。
【0085】
比較例4
リン化合物aを使用しなかった以外は、実施例11と同様にして、樹脂を得た。
【0086】
樹脂を抜き出した後、実施例1と同様にして次バッチを実施した。反応時間は、通常条件下での反応時間(6.5時間)よりも1時間短かった。
【0087】
[溶融混練した場合の樹脂の軟化点の変化]
実施例1及び比較例1の樹脂を、それぞれ、二軸押出機(バレル設定温度:200℃(溶融混練時の樹脂の温度:210℃)にて混練を行い、溶融混練の前後の樹脂の軟化点を測定した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
以上の結果から、実施例1の樹脂は、比較例1の樹脂と対比して、混練による軟化点の変化が極めて小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により得られる縮重合系樹脂は、フィルム、シート、繊維、電子写真用トナー材料等の各種用途に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む触媒と少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物とを用いて、原料モノマーを縮重合反応させる縮重合系樹脂の製造方法であって、前記縮重合反応の反応率が30%以上の時点で、リン化合物を反応系に添加する工程を含む、縮重合系樹脂の製造方法。
【請求項2】
金属を含む触媒と少なくとも2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物との反応生成物の存在下、原料モノマーを縮重合させる縮重合系樹脂の製造方法であって、前記縮重合反応の反応率が30%以上の時点で、リン化合物を反応系に添加する工程を含む、縮重合系樹脂の製造方法。
【請求項3】
金属を含む触媒の金属が、アルミニウム、アンチモン、錫及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
リン化合物が、有機リン化合物である、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
原料モノマーとして、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分とを用いる、請求項1〜4いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
カルボン酸成分が、さらに3価以上の多価カルボン酸化合物を含有してなる、請求項5記載の縮重合系樹脂の製造方法。
【請求項7】
リン化合物を、3価以上の多価カルボン酸化合物と同時又は添加前に、反応系に添加する、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の製造方法により得られる縮重合系樹脂。

【公開番号】特開2009−215463(P2009−215463A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61635(P2008−61635)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】