説明

繁殖抑制機構

【課題】 圃場走行装置の走行手段が直接作用しない農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができるようにする。
【解決手段】 本発明の繁殖抑制機構10は、圃場に植設された農作物列を跨ぐ門型に形成された機体フレーム2と、該機体フレーム2の両側部に設けられた一対のクローラ3とを備えた圃場走行装置1に装備され、農作物Cの列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制するように構成されている。そして、各クローラ3の機体内側に配設された支持手段32と、基端側が該支持手段32に支持されるとともに、先端側が機体内側部における農作物Cの列の株元通過位置へ延設され、農作物Cの列の株間又は/及び株際における圃場表面を摩撫するように構成された摩撫手段33とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田や畑地等の圃場内を走行する圃場走行装置に装備され、前記農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制する繁殖抑制機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圃場走行装置に関する従来技術としては、特許文献1記載の圃場走行装置を例示する。この圃場走行装置101は、図15に示すように、農作物Cが育成される水田及び畑地を含む圃場内で装置本体103を移動可能に走行させる走行手段102を備えており、圃場の土壌に生育する雑草及び病害虫を含む生育阻害対象を、走行手段102によって土壌に押付け、前記生育阻害対象を排除して繁殖を抑えるように構成されている。
【0003】
この圃場走行装置101が行う作業は、生長した雑草を取り除く除草(10日に1回程度実施)とは根本的に異なり、発芽・生長する前に雑草にダメージを与え、雑草の生長を抑制する抑草作業であり、除草よりも短い間隔で繰り返し作業を行う(週2回程度実施)ことが好ましい。この圃場走行装置101では、走行手段102が走行した場所の雑草の生長が抑制されるようになっている。
【0004】
また、作物に損傷を与えずに株間や株際に生長した雑草を除草する従来技術としては、まず、ピアノ線製のスプリングタイン(弾性体からなるレーキ)又はこれに類似する技術を例示する。この種の技術としては、特許文献2の畑作用除草機や、特許文献3の畑作における除草用作業機に利用されている技術を例示する。これらの技術では、タインの接地圧を調整するために、タインの形状や取り付け方法、位置や角度など様々な工夫を謳っている。タインには柔軟性のあるスプリングタインが用いられている。また、スプリングタインの水田除草作業への応用例としては、特許文献4の水田除草機や特許文献5の除草機を例示する。また、これらのスプリングタイン以外の手段により株間の除草を行う技術としては、固い金属製のワイヤーブラシ又は毛を短くしたデッキブラシで圃場表面を掻き起こしたり掻き荒らしたりするように除草する方法や、回転式の除草ブラシにより除草する除草機(特許文献6参照)がある。
【0005】
これらの除草手段による除草作業は、約10日に1回程度の頻度で実施されるため、除草作業では、約10日の間に生長した雑草を取り除く必要がある。即ち、従来の除草手段は、作物に損傷を与えないようにスプリングタイン自身に柔軟性を持たせたり、ブラシを利用したりしているといっても、1回の除草作業である程度生長した雑草を取り除くだけの性能を備える必要があるため、ある程度の硬さを有したものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−198604号公報
【特許文献2】特許第3280925号公報
【特許文献3】特開2000−50702号公報
【特許文献4】特開2005−287366号公報
【特許文献5】特開2006−271340号公報
【特許文献6】特開昭59−140803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の圃場走行装置101では、走行手段102が走行した場所の抑草効果は高いが、該走行手段102が直接作用できない株間や株際に対しては抑草効果が低いという課題がある。
【0008】
そこで、特許文献1の圃場走行装置と、特許文献2〜6に記載された除草技術を組み合わせることも考えられる。しかし、前述したようにこの圃場走行装置101による抑草作業は週2回程度行うことが好ましいので、特に、圃場に移植後の苗が圃場に根付いていないとき(苗を移植した直後の約10日間)に、従来の除草技術(ある程度生長した雑草を取り除くだけの性能を備えた除草技術)を使用すると、苗のダメージが大きく、苗の根付きが阻害されたり、苗が圃場から抜けたりする可能性があるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第1の発明の繁殖抑制機構は、
圃場に植設された農作物列を跨ぐ門型に形成された機体フレームと、該機体フレームの両側部に設けられた一対の走行手段とを備えた圃場走行装置に装備され、前記農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制する繁殖抑制機構であって、
前記圃場走行装置に取り付けられる支持手段と、
基端側が該支持手段に支持されるとともに、先端側が前記走行手段の側方における圃場表面を摩撫するように構成された摩撫手段とを備えている。
【0010】
前記農作物生育阻害対象としては、特に限定されないが、圃場の土壌に生育する雑草や病害虫を例示する。前記走行手段の側方とは、該走行手段における機体外方側の側方、又は、同機体内方側の側方をいう。
【0011】
この構成によれば、前記圃場走装置が前記農作物列に沿って走行するときに、前記摩撫手段の先端側が、前記走行手段の側方における圃場表面を摩撫するので、圃場走行装置の走行手段が直接作用しない圃場表面における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができる。また、摩撫手段は、ある程度生長した雑草を取り除く従来の除草手段とは異なり、圃場表面を摩撫するものなので、農作物列内の農作物に接触したとしても農作物を損傷することが少ない。
【0012】
第2の発明の繁殖抑制機構としては、前記第1の発明において、
前記摩撫手段は、先端側が前記側方における農作物列の株元通過位置へ向けて延設され、前記農作物列の株間又は/及び株際における圃場表面を摩撫するように構成された態様を例示する。
【0013】
この構成によれば、前記摩撫手段が、前記農作物列の株間又は/及び株際を摩撫するので、圃場走行装置の走行手段が直接作用しない農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができる。
【0014】
第3の発明の繁殖抑制機構としては、前記第2の発明において、
前記支持手段は、略上下に延びる軸を中心に、前記摩撫手段を前後に揺動可能に支持するように構成された態様を例示する。
【0015】
この構成によれば、前記圃場走行装置の進行方向が前進中であるか、後進中であるかに応じて、前記軸を中心に前記摩撫手段が揺動し、該摩撫手段の先端側が前記進行方向における後方寄りに延びるので、農作物列の株間又は/及び株際を優しく摩撫することができる。
【0016】
第4の発明の繁殖抑制機構としては、前記第3の発明において、
前記支持手段は、前記機体フレームに対する前記軸の傾きを調節可能に構成された態様を例示する。
【0017】
この構成によれば、圃場や農作物列等の状態に応じて、前記軸の傾きを適宜調節することができる。
【0018】
第5の発明の繁殖抑制機構としては、前記第1の発明において、
前記支持手段は、前記側方へ延出するように構成されており、
前記摩撫手段は、前記先端側としての下端側が前記側方における圃場表面へ垂れ下がるように、前記基端側としての上端側が前記支持手段に支持された態様を例示する。
【0019】
この構成によれば、前記摩撫手段の前記下端側が前記側方における圃場表面を摩撫するので、圃場走行装置の走行手段が直接作用しない該圃場表面における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができる。
【0020】
第6の発明の繁殖抑制機構としては、前記第5の発明において、
前記支持手段には、複数の前記摩撫手段がその延出方向へ間隔をおいて列設された態様を例示する。
【0021】
この構成によれば、複数の前記摩撫手段により前記側方における圃場表面を広範囲に渡って摩撫することができる。
【0022】
第7の発明の繁殖抑制機構としては、前記第1〜6のいずれかの発明において、
前記圃場走行装置は、圃場に植設された複数の農作物列をスイッチバック方式で前後に走行するように構成されており、
前記支持手段は、前記走行手段における前後方向の略中央に位置するように設けられた態様を例示する。
【0023】
この構成によれば、前記支持手段が前記走行手段における略前後対称位置に設けられているので、対象とする農作物列(前記機体フレームが跨いでいる農作物列)の列長方向に対して前記圃場走行装置の進行方向がずれた場合において、該圃場走行装置の機体と農作物列との干渉を、該圃場走行装置が前進中であるか後進中であるかに関わらず、最小限に抑えることができる。
【0024】
第8の発明の繁殖抑制機構としては、前記第1〜7のいずれかの発明において、
前記支持手段は、前記機体フレームに対する前記摩撫手段の高さ位置を上下に調節可能に構成された態様を例示する。
【0025】
この構成によれば、圃場や農作物列等の状態に応じて、前記高さ位置を適宜調節することができる。
【0026】
第9の発明の繁殖抑制機構としては、前記第1〜8のいずれかの発明において、
前記支持手段は、接続手段を介して前記圃場走行装置に着脱可能に配設された態様を例示する。
【0027】
この構成によれば、例えば、様々な態様の摩撫手段を備えた繁殖抑制機構を用意しておき、農作物の生育ステージに合わせて適宜交換することができる。また、例えば、現場で圃場や農作物列等の状態を確認しながら、繁殖抑制機構を着脱したり、異なる態様の摩撫手段を備えた繁殖抑制機構に交換したりすることもできる。
【0028】
第10の発明の繁殖抑制機構としては、前記第1〜9のいずれかの発明において、
前記機体フレームを側面から見て、前記摩撫手段は、前記基端側が前記機体フレームの前後方向の略中央に支持されるとともに、前記圃場走行装置が前進又は後進のいずれに進行する場合でも、前記先端側が前記機体フレームの前後からはみ出さないように構成された態様を例示する。
【0029】
この構成によれば、作業者が前記圃場走行装置の取扱中に誤って前記摩撫手段を踏み込んでしまうことを防止できる。
【0030】
前記摩撫手段としては、特に限定されないが、次の態様を例示する。ここで、次の態様における「柔軟性」とは、前記圃場走行装置が走行中に、前記農作物列内の農作物に接触しても、該農作物を損傷しない程度の柔軟性をいう。
(A)柔軟性を有する1又は2以上の棒体、ベルト体又は紐体で前記圃場表面を摩撫するように構成された態様。
(B)柔軟性を有する毛を備えたチャネルブラシ又は刷毛により前記圃場表面を摩撫するように構成された態様。
(C)柔軟性を有する柄を備えたねじりブラシ又はチャネルロールブラシ(直線チャンネルブラシをシャフトやコアー等に巻き付けたブラシ)により前記圃場表面を摩撫するように構成された態様。
(D)鎖体(例えば、リンクチェーン、ローラーチェーン等)により前記圃場表面を摩撫するように構成された態様。鎖体の材質としては、特に限定されないが、金属、樹脂等を例示する。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る繁殖抑制機構によれば、圃場走行装置の走行手段が直接作用しない農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を具体化した第一実施形態に係る繁殖抑制機構を装備した圃場走行装置の正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】同繁殖抑制機構の圃場走行装置への装備方法を示す平面図である。
【図5】同繁殖抑制機構の要部を示す斜視図である。
【図6】チャネルブラシによる摩撫手段を備えた繁殖抑制機構を圃場走行装置に装備した状態を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【図7】ねじりブラシによる摩撫手段を備えた繁殖抑制機構を圃場走行装置に装備した状態を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【図8】同繁殖抑制機構を装備した圃場走行装置がスイッチバック走行する例を示す平面図であり、(a)は繁殖抑制機構をクローラにおける機体内側部に装備した場合の例、(b)は繁殖抑制機構をクローラにおける機体内側部及び機体外側部に装備した場合の例をそれぞれ示している。
【図9】残草調査時の試験区の状態を示す写真であり、(a)は無処理の試験区、(b)は試験機1の試験区、(c)は試験機2の試験区の状態をそれぞれ示している。
【図10】残草調査結果を示すグラフであり、(a)は各試験区全体の結果、(b)は各試験区における場所毎の結果をそれぞれ示している。
【図11】本発明を具体化した第二実施形態に係る繁殖抑制機構を装備した圃場走行装置の正面図である。
【図12】図11のXII−XII線断面図である。
【図13】図11のXIII−XIII線断面図である。
【図14】同繁殖抑制機構の変更例を示す図13と同様の断面図である。
【図15】従来の圃場走行装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1〜図10は本発明を具体化した一実施形態の圃場走行装置用の繁殖抑制機構を示しており、各図において、矢印Fは機体の進行方向を指し示している。
【0034】
本例の繁殖抑制機構10が装備される圃場走行装置1は、図1〜図3に示すように、圃場に植設された農作物列を跨ぐ門型に形成された機体フレーム2と、該機体フレーム2の両側部に設けられた一対の走行手段としてのクローラ3と、該各クローラ3にそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部4と、機体の前方及び後方の状態をそれぞれ検出する一対の検出手段としてのセンサ5と、該センサ5により検出された状態に基づいて両駆動部4を制御する駆動制御部6と、駆動部4及び駆動制御部6に電力を供給する電池7とを備えており、圃場に植設された複数の農作物列をスイッチバック方式で前後に走行するように構成されている。
【0035】
走行手段としてのクローラ3は、支持フレーム12の下端部に列設された複数の従動輪14,15と、該複数の従動輪14,15の上方に配設された駆動輪16と、該複数の従動輪14,15及び駆動輪16に巻き掛けられたクローラベルト17とを備えている。クローラベルト17は、その内周の全周に渡って列設された突起列18を備えている。複数の従動輪14,15の上方に配設された駆動輪16は、クローラベルト17の周回軌道に最高の頂点を形成させるようになっている。また、従動輪14,15、駆動輪16は、クローラベルト17の周回軌道が機体の側面視で前後対称となるように配設されており、これにより、前進・後進ともに同等の走行性能を持たせるように構成している。本例の圃場走行装置1では、走行手段としてクローラ3を採用しているが、圃場内で機体を移動させることが可能なものであれば、特に限定されず、例えば、装置本体の両端に設置されるタイヤとすることも可能である。
【0036】
本例の繁殖抑制機構10は、農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制するものであり、図1〜図7に示すように、各クローラ3の機体内側に接続手段31を介して配設された支持手段32と、基端側が該支持手段32に支持されるとともに、先端側が機体内側部における農作物列の株元通過位置へ延設され、農作物列の株間又は/及び株際における圃場表面を摩撫するように構成された摩撫手段33とを備えている。図1に示すように接続手段31及び支持手段32は、クローラベルト17の内部空間内に配設されているので、農作物Cに接触することはない(クローラベルト17が先に接触する)。
【0037】
本例の接続手段31は、図4に示すように、クローラの前後一対の従動輪15,15の軸20の先端部にそれぞれ係止される一対の係止部34,35と、一方の係止部35に取り付けられた連結ロッド37と、該連結ロッド37及び他方の係止部34を連結・分離可能に連結するスナップ錠38とを備えている。係止部34,35には、軸20の先端部が挿入可能な係止穴34a,35aが設けられており、軸20の先端部には、係止穴34a,35aに係合する環状の凸部20aが設けられている。他方の係止部34は軸20の先端部に予め固定しておくようにしてもよい。接続手段31をクローラ3に対して接続するには、両係止部34,35の係止穴34a,35aをそれぞれ軸20の先端部の凸部20aに係合させ、スナップ錠38により両係止部34,35が互いに近づくように付勢しつつ連結する。接続手段31をクローラ3から取り外すには、この逆のことを行う。
【0038】
本例の支持手段32は、図5に示すように、連結ロッド37の長手方向における任意の位置に、該連結ロッド37の周方向に任意に傾けた状態で取付可能に構成された取付部40と、該取付部40に対して上下位置調節可能に取り付けられた支持部41とを備えている。本例では、摩撫手段33がクローラ3における前後方向の略中央に位置するように取付部40が連結ロッド37に取り付けられている。摩撫手段33の上端部には略上下に延びる軸43が設けられており、支持部41は、軸43を軸長方向へスライド自在かつ軸周方向へ回動自在に支持するように構成されている。軸43の回動の範囲は、図示しない回動規制手段により、摩撫手段33の先端部が機体内側部における農作物列の株元通過位置へ届く範囲に制限されている(図4に二点鎖線で示す矢印参照)。軸43の上端には、支持部41から軸43が下方に抜けないようにするための環状の凸部44が設けられている。また、連結ロッド37に対する取付部40の取り付け方としては、連結ロッド37の軸周方向へ回転自由度を持たせて取付部40を取り付けるようにしてもよい。
【0039】
本例の摩撫手段33としては、次の(A)〜(C)の3種類の態様のものを用意している。
(A)柔軟性を有する3本の棒体45で圃場表面を摩撫するように構成された態様(図1〜図5参照)。本例では、3本の棒体45は、軸43の下側で連結されている。棒体45としては、材質がナイロン、ポリプロピレン等の軟質樹脂からなり、直径が1〜3mm程度に形成されたものを例示するが、これに限定されず、材質、直径、長さを適宜変更してもよい。棒体45に代えて、ベルト体又は紐体を採用してもよい。
(B)柔軟性を有する毛を備えたチャネルブラシ(又は刷毛)で圃場表面を摩撫するように構成された態様(図6参照)。ブラシの毛の材質としては軟質樹脂を例示する。
(C)柔軟性を有する柄を備えたねじりブラシ(又はチャネルロールブラシ)で圃場表面を摩撫するように構成された態様(図7参照)。ブラシの柄の材質としては軟質樹脂を例示する。
【0040】
なお、図1〜図7に示す態様は、いずれもクローラ3における機体内側に繁殖抑制機構10を設けているが、これに限定されず、クローラ3における機体外側にも繁殖抑制機構10を1又は2以上列設してもよい。
【0041】
次に、本例の繁殖抑制機構10を装備した圃場走行装置1を水田で走行させる方法について説明する。まず、門型に形成された機体フレーム2が、圃場に植設された農作物列を跨ぐように、圃場走行装置1を圃場面に設置し農作物列の列長さ方向へ向けて発進させる。すると、駆動制御部6が、センサ5を介して機体前方及び後方の状態を検出し、この検出された状態に基づいて駆動部4を制御することにより、農作物列が機体フレーム2の左右方向における中央を通過するようにして、機体を走行させる。そして、機体が農作物列の端に到達すると、駆動制御部6は、スイッチバック方式で、機体を隣の農作物列に移動させる。これを繰り返すことにより、圃場走行装置1は、圃場に植設された複数の農作物列をスイッチバック方式で前後に走行するようになっている。
【0042】
図8(a)はクローラ3における機体内側に繁殖抑制機構10を装備した圃場走行装置1がスイッチバックする例を示し、図8(b)はクローラ3における機体内側及び機体外側に繁殖抑制機構10を装備した圃場走行装置1がスイッチバックする例を示している。図8(b)に示す例のように繁殖抑制機構を機体内側及び機体外側に装備した場合は、図8(a)の例とは異なり、クローラ3の走行跡を重ねなくても各農作物列の両側を繁殖抑制機構10で摩撫することができ、繁殖抑制機構10の走行距離及び作業時間を短縮することができる。
【0043】
次に、本例の繁殖抑制機構10の繁殖抑制効果に関して実施した試験について説明する。
【0044】
試験は、平成20年度に圃場で採種した雑草種子と共に混和した水田土壌を幅60cm、長さ約3m、高さ約10cmに詰め、湛水し、水槽用ヒーター・サーモスタット(25℃設定)により加温する方法により行った。試験の条件は次の通りである。
・場所:岐阜県中津川市ビニルハウス内
・土壌混和(代かき):平成21年3月13日
・水稲移植:平成21年3月13日、ポット苗を移植(株間15cm、2本/株)
・走行期間:平成21年3月16日〜同年3月25日
・繁殖抑制方法:繁殖抑制機構を装備した圃場走行装置1を、週3回の頻度で往復走行させた。
・試験区・区制:試験機1(図6の構成であり、前記(B)の態様の摩撫手段33を装備)、試験機2(図7の構成であり、前記(C)の態様の摩撫手段33を装備)、無処理・2区制
・残草調査:平成21年3月25日(落水後、無処理区は0.09平方メートル、走行区は0.18平方メートルの雑草を2箇所からサンプリングし、本数、乾物重を調査した。走行区では、クローラ跡とクローラ跡の間とに分けて調査した。図9に残草調査時の各試験区の状態を示す。)
・稲株調査:両端の4株を除く13株について、1株2本ずつ健全なまま残っているか調査した。
【0045】
試験結果は、以下の通りであった。図10は残草調査結果を示すグラフである(同図中においては、各棒グラフごとにI字状のバーでデータの最大値と最小値の範囲を示している。)。
(1)雑草種子を散布し、水を加温した状態であったため、雑草発生量が著しく多かった。
(2)図10(a)に示すように、試験機を走行させた区の雑草本数は、無処理区に比べ2割程度に抑えられた。
(3)図10(b)に示すように、試験機1の繁殖抑制効果は、試験機2よりも高く、クローラー跡に比べ多少劣った程度であり、有効であると考えられる。
(4)全ての区において、稲株への影響は全く見られなかった。
【0046】
以上のように構成された本例の繁殖抑制機構10によれば、圃場走行装置1が農作物列に沿って走行するときに、摩撫手段33が、機体フレーム2が跨いだ農作物列の株間又は/及び株際を摩撫するので、圃場走行装置1のクローラ3が直接作用しない農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができる。また、摩撫手段33は、ある程度生長した雑草を取り除く従来の除草手段とは異なり、農作物列の株間又は/及び株際における圃場表面を摩撫するものなので、農作物Cに接触したとしても農作物Cを損傷することがない。
【0047】
また、圃場走行装置1は、圃場に植設された複数の農作物列をスイッチバック方式で前後に走行するように構成されており、支持手段32は、クローラ3における前後方向の略中央に位置するように設けられていることにより、支持手段32がクローラ3における略前後対称位置に設けられているので、対象とする農作物列(機体フレーム2が跨いでいる農作物列)の列長方向に対して圃場走行装置1の進行方向がずれた場合において、該圃場走行装置1の機体と農作物列との干渉を、該圃場走行装置1が前進中であるか後進中であるかに関わらず、最小限に抑えることができる。
【0048】
また、支持手段32は、略上下に延びる軸43を中心に、摩撫手段33を前後に揺動可能に支持するように構成されていることにより、圃場走行装置1の進行方向が前進中であるか、後進中であるかに応じて、軸43を中心に摩撫手段33が揺動し、該摩撫手段33の先端側が前記進行方向における後方寄りに延びるので、農作物列の株間又は/及び株際を優しく摩撫することができる。
【0049】
また、支持手段32は、取付部40が連結ロッド37の周方向に任意に傾けた状態で取付可能に構成されることにより、機体フレーム2に対する軸43の傾きを調節可能に構成されているので、これを圃場や農作物列等の状態に応じて適宜調節することができる。
【0050】
また、支持手段32は、支持部41が取付部40に対して上下位置調節可能に取り付けられることにより、機体フレーム2に対する摩撫手段33の高さ位置を上下に調節可能に構成されているので、これを圃場や農作物列等の状態に応じて適宜調節することができる。
【0051】
また、支持手段32は、接続手段31を介して圃場走行装置1に着脱可能に配設されているので、例えば、様々な態様の摩撫手段33を備えた繁殖抑制機構10を用意しておき、農作物Cの生育ステージに合わせて適宜交換することができる。また、例えば、現場で圃場や農作物列等の状態を確認しながら、繁殖抑制機構10を着脱したり、異なる態様の摩撫手段33を備えた繁殖抑制機構10に交換したりすることもできる。
【0052】
次に、図11〜図14は本発明を具体化した第二実施形態を示している。この繁殖抑制機構10(10A,10B)は、以下に示す点において、主に第一実施形態と相違している。従って、同実施形態と共通する部分については、同一符号を付することにより重複説明を省く。
【0053】
本例の繁殖抑制機構10A,10Bが装備される圃場走行装置1は、主に次の二点が第一実施形態と相違している。第一に、機体の前方及び後方の状態をそれぞれ検出する一対の検出手段としてのセンサ5が、駆動制御部6に組み込まれている点である。第二に、クローラ3において、従動輪14より上方に配設された従動輪15が、従動輪14と同様に各突起列18の片側のみに配置されている点である。本例では、クローラ3が内周面に一対の突起列18を備えており、該一対の突起列18の外側にそれぞれ従動輪15が配置されている。これにより、従動輪14と同様に、従動輪15についても泥や土や夾雑物の抱え込みや溜め込みが発生することを防止するようにしている。
【0054】
本例の繁殖抑制機構10A,10Bは、圃場走行装置1に接続手段31を介して取り付けられる支持手段32と、基端側が該支持手段32に支持されるとともに、先端側が走行手段としてのクローラ3の側方における圃場表面を摩撫するように構成された摩撫手段33とを備えている。具体的には、繁殖抑制機構10Aは、クローラ3の内側方に延びる支持手段が一対のクローラ3の間に掛け渡されるように配設されており、該支持手段32には複数(本例では5つ)の摩撫手段33がその延出方向へ間隔をおいて列設されている。繁殖抑制機構10Aの支持手段32の両端部は、それぞれ接続手段31を介して支持フレーム12に着脱可能に取り付けられている。また、繁殖抑制機構10Bは、クローラ3の外側方に延びる支持手段32がクローラ3の外側方に配設されており、該支持手段32には複数(本例では3つ)の摩撫手段33がその延出方向へ間隔をおいて列設されている。繁殖抑制機構10Bの支持手段32の基端部は、電池7のケースに着脱可能に取り付けられている。
【0055】
接続手段31は、上下方向に延びる長孔31aを有しており、該長孔31a内における上下位置調節可能に支持手段32が取り付けられている。
【0056】
支持手段32は、クローラ3における前後方向の略中央に位置するように配設されている。
【0057】
摩撫手段33は、先端側としての下端側がクローラ3の側方における圃場表面へ垂れ下がるように、基端側としての上端側が支持手段32に支持されている。機体フレーム2を側面から見て、この摩撫手段33は、上端側が機体フレーム2の前後方向の略中央に支持されているとともに、圃場走行装置1が前進又は後進のいずれに進行する場合でも、下端側が機体フレーム2の前後からはみ出さないように構成されている。本例の摩撫手段33は、軽量化のために、支持手段32から圃場表面付近までが腰の強い紐体33a(例えばワイヤ)で形成されるとともに、該紐体33aの先端にチェーン33bが接続されてなっている。紐体33aに代えて、弾力性のある棒体を採用したり、紐体33a又は該棒体を省き、摩撫手段33の全体をチェーン33bで構成したりするようにしてもよい。また、本例の摩撫手段33は、クローラ3に近接して配置されているものほど、圃場に垂れ下がる部分(本例ではチェーン33b)の長さを短くしている。これは、圃場走行装置1のスイッチバック走行時に、この垂れ下がる部分(特に、クローラ3に近接して配置された摩撫手段33のもの)が、クローラベルト17の外周及び圃場の表面の間や、クローラベルト17の内周及び従動輪14の間に噛み込み難くするためである。チェーン33bとしては、図11〜図13に示すリンクチェーン(具体例としては、線径5〜6mmのステンレス鋼製のもの)や、図14に示すローラーチェーンを用いることを例示する。リンクチェーンとしては、特に限定されないが、線径5〜6mmのステンレス鋼製のものを例示する。なお、本例の圃場走行装置1は、仮にクローラベルト17の内周及び従動輪14の間に摩撫手段33の圃場に垂れ下がる部分が噛み込まれたとしても、クローラ3がロックせずに作動し続けることが可能な程度に、クローラベルト17に遊びを持たせるように調節されている。
【0058】
本例の繁殖抑制機構10A,10Bを装備した圃場走行装置1を水田で走行させる場合は、第一実施形態における図8(b)と同様に、スイッチバックさせることにより行う。なお、圃場走行装置1に繁殖抑制機構10Aのみを装備させるときは、第一実施形態における図8(a)と同様に、スイッチバックさせる。
【0059】
本例の繁殖抑制機構10A,10Bによれば、支持手段32は、クローラ3の側方へ延出するように構成されており、摩撫手段33は、下端側がクローラ3の側方における圃場表面へ垂れ下がるように、上端側が支持手段32に支持されていることにより、摩撫手段33の下端側がクローラ3の側方における圃場表面を摩撫するので、第一実施形態と同様に、圃場走行装置1のクローラ3が直接作用しない該圃場表面における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制することができる。
【0060】
また、支持手段32には、複数の摩撫手段33がその延出方向へ間隔をおいて列設されているので、複数の摩撫手段33によりクローラ3の側方における圃場表面を広範囲に渡って摩撫することができる。
【0061】
また、機体フレーム2を側面から見て、摩撫手段33は、基端側としての上端側が機体フレーム2の前後方向の略中央に支持されているとともに、圃場走行装置1が前進又は後進のいずれに進行する場合でも、先端側としての下端側が機体フレーム2の前後からはみ出さないように構成されているので、作業者が圃場走行装置1の取扱中に誤って摩撫手段33を踏み込んでしまうことを防止できる。
【0062】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)本発明を水田以外の他の圃場(例えば、畑、果樹園等)を走行する圃場走行装置1に装備して実施すること。
(2)繁殖抑制機構10を圃場走行装置1に装着する構造を適宜変更すること。
(3)第二実施形態において、チェーン33bとしてのリンクチェーンを構成する各リングを、リンクチェーンの長さ方向における位置に応じて線径、長さ、幅、形状等を適宜変更すること。
(4)第二実施形態において、チェーン33bに代えて、柔軟性を有する1又は2以上の棒体、ベルト体又は紐体を採用したり、柔軟性を有する毛を備えたチャネルブラシ又は刷毛を採用したり、柔軟性を有する柄を備えたねじりブラシ又はチャネルロールブラシを採用したりすること。
【符号の説明】
【0063】
1 圃場走行装置
2 機体フレーム
3 クローラ
4 駆動部
5 センサ
6 駆動制御部
7 電池
10 繁殖抑制機構
12 支持フレーム
14 従動輪
15 従動輪
16 駆動輪
17 クローラベルト
18 突起列
20 軸
20a 凸部
31 接続手段
31a 長孔
32 支持手段
33 摩撫手段
33a 紐体
33b チェーン
34 係止部
34a 係止穴
35 係止部
35a 係止穴
37 連結ロッド
38 スナップ錠
40 取付部
41 支持部
43 軸
44 凸部
45 棒体
C 農作物
F 機体の進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に植設された農作物列を跨ぐ門型に形成された機体フレームと、該機体フレームの両側部に設けられた一対の走行手段とを備えた圃場走行装置に装備され、前記農作物列の株間又は/及び株際における農作物生育阻害対象の繁殖を抑制する繁殖抑制機構であって、
前記圃場走行装置に取り付けられる支持手段と、
基端側が該支持手段に支持されるとともに、先端側が前記走行手段の側方における圃場表面を摩撫するように構成された摩撫手段とを備えた繁殖抑制機構。
【請求項2】
前記摩撫手段は、先端側が前記側方における農作物列の株元通過位置へ向けて延設され、前記農作物列の株間又は/及び株際における圃場表面を摩撫するように構成された請求項1記載の繁殖抑制機構。
【請求項3】
前記支持手段は、略上下に延びる軸を中心に、前記摩撫手段を前後に揺動可能に支持するように構成された請求項2記載の繁殖抑制機構。
【請求項4】
前記支持手段は、前記機体フレームに対する前記軸の傾きを調節可能に構成された請求項3記載の繁殖抑制機構。
【請求項5】
前記支持手段は、前記側方へ延出するように構成されており、
前記摩撫手段は、前記先端側としての下端側が前記側方における圃場表面へ垂れ下がるように、前記基端側としての上端側が前記支持手段に支持された請求項1記載の繁殖抑制機構。
【請求項6】
前記支持手段には、複数の前記摩撫手段がその延出方向へ間隔をおいて列設された請求項5記載の繁殖抑制機構。
【請求項7】
前記圃場走行装置は、圃場に植設された複数の農作物列をスイッチバック方式で前後に走行するように構成されており、
前記支持手段は、前記走行手段における前後方向の略中央に位置するように設けられた請求項1〜6のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項8】
前記支持手段は、前記機体フレームに対する前記摩撫手段の高さ位置を上下に調節可能に構成された請求項1〜7のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項9】
前記支持手段は、接続手段を介して前記圃場走行装置に着脱可能に配設された請求項1〜8のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項10】
前記機体フレームを側面から見て、前記摩撫手段は、前記基端側が前記機体フレームの前後方向の略中央に支持されるとともに、前記圃場走行装置が前進又は後進のいずれに進行する場合でも前記先端側が前記機体フレームの前後からはみ出さないように構成された請求項1〜9のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項11】
前記摩撫手段は、柔軟性を有する1又は2以上の棒体、ベルト体又は紐体で前記圃場表面を摩撫するように構成された請求項1〜10のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項12】
前記摩撫手段は、柔軟性を有する毛を備えたチャネルブラシ又は刷毛により前記圃場表面を摩撫するように構成された請求項1〜10のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項13】
前記摩撫手段は、柔軟性を有する柄を備えたねじりブラシ又はチャネルロールブラシにより前記圃場表面を摩撫するように構成された請求項1〜10のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。
【請求項14】
前記摩撫手段は、鎖体により前記圃場表面を摩撫するように構成された請求項1〜10のいずれか一項に記載の繁殖抑制機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−19511(P2011−19511A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107194(P2010−107194)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】