説明

繊毛組織に対するアポモルフィン誘発毒性を軽減するための経鼻送達用アスコルビン酸粉末薬剤

繊毛組織に対して毒性を示すアポモルフィンなどの活性薬剤を含有する経鼻送達用粉末薬剤の製造における、前記毒性を軽減するためのアスコルビン酸の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経鼻送達用粉末薬剤に関するものであり、繊毛組織に対してある程度の毒性を示す活性薬剤を含有する粉末薬剤に関して詳細に言及する。本発明の粉末薬剤は、このような毒性を軽減(改善)するように構成される。
【背景技術】
【0002】
その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5756483号(Merkus)には、アポモルフィンの鼻腔内投与用医薬組成物が開示されており、前記組成物は、アポモルフィンおよび/またはアポモルフィン塩、ならびにシクロデキストリンおよび/または糖類および/または糖アルコールを含有する。アポモルフィンは強力なドーパミン作動薬であり、運動不安定が重なったパーキンソン病の治療における補助薬剤として使用され、性的機能不全の治療にも必要とされる。このような経鼻組成物は、双方とも所望の粒径を有する活性薬剤と賦形剤とを混合することによって製造できる。適切な粉末製剤を製造するには他の方法を選択することもできる。まず、活性薬剤とシクロデキストリンおよび/または他の糖類および/または糖アルコールからなる溶液を調製し、続いて沈殿させ、濾過し、粉砕する。溶媒を凍結乾燥で除去し、続いて製薬に関する文献から周知である従来の技術を使用して粉末を所望の粒径に粉砕することも可能である。米国特許第5756483号によれば、製薬に関する文献から周知であるその他の多くの賦形剤、例えば、保存剤、界面活性剤、共溶媒、接着剤、抗酸化剤、緩衝剤、粘度増強剤、およびpHまたはモル浸透圧濃度を調節するための薬剤を添加することができる。
【0003】
その内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2004/075824号には、薬理学的および治療的に活性のある物質の全身作用のための経鼻送達に適した製剤、特にアポモルフィンおよびジヒドロエルゴタミンならびにそれらの塩などの薬物を含有する経鼻粉末が開示されている。国際公開第2004/075824号によれば、活性材料と賦形剤との経鼻送達に適した粒径を有する粉末製剤は、凍結乾燥によって、製粉する必要なく、かつ約10μm未満の粒径を有するかなりの量の微細粒(finings)を含むことなく、特定の結晶質/非晶質バランスを有する成分を選別することによって、直接的に得ることができる。このような粉末は、貯蔵しても自由流動特性を保持し、物理的および化学的に安定であり、容易に溶解する。国際公開第2004/075824号によれば、このような経鼻送達用粉末医薬製剤は、0.5〜50重量%の活性材料(複数可)と50〜99.5重量%の賦形剤(複数可)との凍結乾燥混合物を含有し、該混合物の少なくとも0.1重量%は非晶質状態である。
【0004】
本発明者らは、米国特許第5756483号および国際公開第2004/075824号の粉末製剤は、それを必要とする患者に投与した場合に、概して満足に機能するとはいえ、アポモルフィンは、鼻腔(鼻窩)中に見出される類の繊毛組織に対して望ましくない毒性を示すことを観察した。詳細には、アポモルフィンは、ロッケ-リンゲル液中に維持されたニワトリ胚の気管から採取した繊毛組織の断片に溶液で適用した場合に、繊毛打(cilia beat)運動の停止を引き起こすことが観察された。当業者が認識するように、繊毛打運動は、鼻腔からの粒子の完全な排除を確実にするのに必須であるので、このことは望ましくない。鼻腔中に排除されないで残存している粒子、特に活性薬物を含有する粒子は、望ましくない鼻刺激およびその他のより深刻な状態または症状を生じさせる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5756483号
【特許文献2】国際公開第2004/075824号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Romeijnら、「The Effect of Nasal Drug Formulations on Ciliary Beating in Vitro」、Int.J.Pharm.、1996年、137〜145頁
【非特許文献2】Merkusら、「Classification of Cilio-Inhibiting Effects of Nasal Drugs」、Laryngoscope、114(4)巻、2001年4月、595〜602頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、繊毛組織、特に呼吸上皮に対して毒性を示す活性薬剤を含有する経鼻送達用粉末薬剤の改善を提供することであり、該薬剤は、このような毒性を軽減(改善)するように構成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の一態様によれば、繊毛組織に対して毒性を示す活性薬剤を含有する経鼻送達用粉末薬剤の製造における、前記毒性を軽減(改善)するためのアスコルビン酸の使用が提供される。
【0009】
本発明の別の態様によれば、繊毛組織に対して毒性を示す共投与活性薬剤のこのような毒性を軽減(改善)するための経鼻投与用粉末薬剤を提供し、該薬剤は、前記活性薬剤およびアスコルビン酸を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中で、「有毒」とは、該活性薬剤が、当技術分野で周知のモデルによるニワトリ胚の気管から採取した繊毛組織の繊毛打(cilia beat)頻度に対して有害な効果を有することを意味する(Romeijnら、「The Effect of Nasal Drug Formulations on Ciliary Beating in Vitro」、Int.J.Pharm.、135巻、1996年、137〜145頁;Merkusら、「Classification of Cilio-Inhibiting Effects of Nasal Drugs」、Laryngoscope、114(4)巻、2001年4月、595〜602頁)。本明細書中で、「前記毒性を軽減する」とは、繊毛打頻度に対する活性薬剤の有害効果が、薬剤中に前記活性薬剤と共投与するためのアスコルビン酸を含めることの結果として低減(改善)されることを意味する。繊毛打頻度に対する活性薬剤の有害効果のこのような低減は、繊毛打頻度の低下を低減すること、または該活性薬剤の反復投与の後でさえ、例えば洗浄によって該活性薬剤を除去すれば、繊毛打頻度の少なくともある程度までの回復を可能にすることを包含することができる。
【0011】
若干の実施形態において、活性薬剤は、繊毛組織に対して投与されると、繊毛打頻度を0%または実質的に0%(すなわち、5%未満、場合によっては1%未満)まで低下させる程度まで、繊毛組織に対して「有毒」である可能性がある。活性薬剤の「有毒」効果は、該活性薬剤を例えば洗浄によって除去しても、繊毛打頻度が、回復しない、または有意に回復しないと言う意味で不可逆性である可能性もある(すなわち、洗浄後に、繊毛打頻度が、10%未満、場合によっては5%未満に留まる可能性がある)。
【0012】
繊毛打頻度モデルのさらなる詳細を以下に示す。
【0013】
若干の実施形態において、前記活性薬剤は、医薬として許容し得る塩または水和物、例えばアポモルフィンHClの形態でもよいアポモルフィンを含むことができる。適切には、前記薬剤は、0.1〜50重量%、好ましくは1〜15重量%、典型的には1〜10重量%のアポモルフィンを含むことができる。本発明の薬剤は、パーキンソン病、あるいはアポモルフィンが必要とされるその他の疾患、障害または症状、例えば性的機能不全の治療で使用される可能性がある。
【0014】
前記薬剤は、経鼻投与用粉末として製剤され、このような製剤に適切であり、かつ当業者に周知である1種または複数の賦形剤を含有することができる。若干の実施形態において、前記薬剤は、前記アポモルフィンおよび前記アスコルビン酸に加えて、約99.8〜45重量%のこのような1種または複数の賦形剤を含有することができ、成分の全量は100重量%である。好ましくは、前記薬剤は、約70重量%以上、典型的には約80重量%以上の前記1種または複数の前記賦形剤を含有する。
【0015】
典型的には、前記粉末は、5〜150μm、好ましくは約50〜100μmの範囲の平均粒径を有することができる。さらに、5μm未満または150μmを超える大きさを有する粒子の量は、望ましは、最小にすべきである。
【0016】
有利には、前記薬剤は凍結乾燥されていてよい。適切には、前記薬剤は、凍結乾燥用賦形剤として1種または複数の糖アルコールを含むことができる。既知の糖アルコールは、アラビトール、エリスリトール、グリセロール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、およびキシリトールを含む。好ましくは、1種または複数の前記糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、および/またはキシリトールから選択できる。好ましくは、前記糖アルコールは、マンニトールを含む。若干の実施形態において、マンニトールが、唯一の糖アルコール賦形剤であってもよく、その結果、薬剤は、本質的に、アポモルフィン、アスコルビン酸およびマンニトールからなる。
【0017】
適切には、前記薬剤は、約99.8〜40重量%、好ましくは99.8〜73重量%、典型的には99.8〜88重量%の糖アルコールを含むことができる。したがって、若干の実施形態において、前記糖アルコール(複数可)は、アスコルビン酸は別として該薬剤中に含まれる1種または複数の賦形剤のすべてまたは実質的にすべてを構成することができる。
【0018】
別法として、前記薬剤は、さらなる賦形剤として二糖類を含むことができる。したがって、適切には、前記薬剤は、0〜5重量%の適切な二糖類、例えばトレハロースまたは蔗糖を含むことができる。若干の実施形態において、前記薬剤は、0.1〜1重量%または2重量%のトレハロースまたは蔗糖を含むことができる。
【0019】
望ましくは、前記薬剤は、約1重量%未満のH2Oを含むべきである。
【0020】
国際公開第2004/075824号に記載のように、特定の結晶質/非晶質バランスを有する成分を選択することによって、経鼻送達に適した粒径を有する粉末薬剤を、凍結乾燥によって、乾燥後の製粉を必要とせず、かつ微細粒を著しく含めないで直接的に得ることができる。したがって、本発明による凍結乾燥薬剤は、好ましくは、非晶質成分を含み、該非晶質成分は、薬剤全体の少なくとも0.1重量%、または少なくとも0.5重量%を構成する。若干の実施形態において、混合物の0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%は、非晶質状態でよい。若干の実施形態において、実質上すべての賦形剤(複数可)、例えばマンニトール、およびアスコルビン酸は、結晶質形態でよく、一方、実質上すべて活性薬剤、例えばアポモルフィンは、非晶質形態でよい。
【0021】
本発明による薬剤の非晶質および結晶質成分の比率および持続性は、前に規定されたような結晶質/非晶質パラメーターへの準拠に関して、示差走査熱量測定法を含む熱分析によって判定することができる。
【0022】
薬剤の粒径分布パターンは、レーザー回折を用いる粒径の特性評価によって規定することができる。
【0023】
若干の実施形態において、このような粒径特性評価は、薬剤の乾燥粉末試料に関して(乾式分析)、または該薬剤が不溶性である溶媒中に懸濁した薬剤試料に関して(湿式分析)、例えば、Malvern Instruments UK社から入手できるMastersizer(商標)機器を使用して直接的に実施できる。各試料を、特性評価の時点で完全に脱凝集することができ、これは、湿式分析法を使用して最も好ましく達成される。このような方法で、粒子凝集物の脱凝集は、分散剤、界面活性剤の使用、および/または分析に先立つ試料の超音波処理によって達成し、分析中に試料を撹拌または再循環することによって維持することができる。加えて、試料の脱凝集は、顕微鏡下で視覚的に確認できる。
【0024】
別法として、粒径特性評価は、患者が使用の際に薬剤を投与する仕方に近似した流速で、すなわち、約10〜30L/分、典型的には15〜20L/分の範囲の流速で検出器中に吸引される薬剤試料に関して実施することができる。この場合、粒径分布は、例えば、Sympatec GmbH社(ドイツ)から入手できる機器を使用して規定することができ、試料は、患者が経鼻で投与した場合の試料の粒径分布を模擬するように構成されるINHALER(商標)モジュールを使用して、検出器中に送達される。このような場合、目的が、薬剤が実際にどのように投薬されるかを模擬することであるので、特性評価の前に試料を完全に脱凝集する必要はない。
【0025】
前に規定した結晶質/非晶質パラメーターに従うことによって、かつ成分の水性製剤が、凍結乾燥と適合性があるとすれば、本発明による薬剤は、好ましくは、次の特性の1つまたは複数を有する:
・凍結乾燥によってもたらされ、かつ維持される、経鼻送達に適した粒径;
・約5μm未満の大きさを有する小粒子(微細粒)の比率が最小化されている小さな粒径分布;
・凍結乾燥機から取り出し、雰囲気に曝露した場合に、薬剤粒子は、大きさを変えることなく、また、粒子が凝集し、または粘着性になる程には水分を吸収せず、それによって、最後の仕上げまたは投薬を妨げず、かつ薬理学的活性に影響を及ぼさない;
・生じる経鼻粉末は、高い溶解性、改善された経鼻吸収、および結果として高い薬理学的活性を示す。
【0026】
より詳細には、レーザー回折で測定した場合に、粒子の10容積%が分布する粒径(D(v,0.1))は、少なくとも5μm、好ましくは少なくとも6μm、より好ましくは少なくとも9μm、最も好ましくは少なくとも10μm、特に好ましくは少なくとも15μmである。
【0027】
レーザー回折で測定した場合に、粒子の90容積%が分布する粒径(D(v,0.9))は、好ましくは大きくても150μm、より好ましくは大きくても125μm、最も好ましくは大きくても100μm、特に好ましくは大きくても18μm、より特に好ましくは50μm、特に45μmである。
【0028】
粒径分布(D(v,0.9)とD(v,0.1)との差として計算される)は、好ましくは大きくても140μm、より好ましくは大きくても110μm、最も好ましくは50μm、特に好ましくは40μmである。
【0029】
本発明者らは、繊毛組織に対して毒性を示す活性薬剤、例えばアポモルフィンなどを含有する薬剤にアスコルビン酸を添加すると、驚くべきことに、ニワトリ胚の気管から採取したこのような組織が、前記活性薬剤およびアスコルビン酸で処理された場合に、洗浄後に繊毛打運動を回復する程度まで、このような毒性を軽減することを観察した。さらに、このような組織は、前記活性薬剤およびアスコルビン酸の反復投与の後でさえ、繊毛打運動を回復する能力を保持することが立証された。
【0030】
本明細書中で、「このような毒性を軽減する」とは、活性薬剤をアスコルビン酸と組み合わせて繊毛組織に投与すると、処置前頻度の少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、例えば20〜40%の繊毛打頻度が維持されることを意味する。さらに、繊毛組織から活性薬剤を実質的に除去するように洗浄した後に、繊毛打頻度は、その処置前レベルの少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%または75%、例えば、少なくとも80%まで回復する。若干の実施形態において、繊毛打頻度は、洗浄後の約20〜80分以内にその処置前レベルの少なくとも約40〜50%まで回復することができる。
【0031】
本発明によれば、薬剤は、ある量のアスコルビン酸を含み、その量は、少なくとも前記毒性を軽減するのに有効な量である。前記薬剤は、約5重量%までのアスコルビン酸を含有することができる。適切には、本発明の薬剤は、約0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%、例えば約1重量%のアスコルビン酸を含有することができる。
【0032】
本発明による薬剤は、前記活性薬剤、糖アルコールおよびアスコルビン酸を含有する溶液を凍結乾燥することによって製造することができ、その結果、凍結乾燥混合物の少なくとも0.1重量%は、非晶質状態である。
【0033】
したがって、適切には、前記溶液は、0.1〜50重量%の前記活性薬剤、0.1〜5重量%のアスコルビン酸、0〜5重量%のトレハロースおよび/または蔗糖、ならびに99.8〜40重量%の前記糖アルコールの混合物からなる。
【0034】
国際公開第2004/075824号に記載のように、凍結条件は、好ましくは、最大昇華速度、マトリックス内での結晶質相の維持、ならびに/あるいはマトリックス内での非晶質相の誘導および/または維持の助けになる、最適な氷結晶構造を提供するように選択すべきである。
【0035】
適切な凍結条件の選択は、溶液または懸濁液内の活性成分(複数可)および結晶性または非晶質賦形剤(複数可)の化学的性質および濃度、凍結乾燥機の設計および仕様、製品を処理するのに使用される主な容器、ならびに/あるいは試料充填深さによって影響される。
【0036】
示差走査熱量測定法、示差熱分析、および熱抵抗分析を使用して、最適凍結条件を規定することができる。このような分析から、製品は、緩慢な速度で凍結すべきであり、あるいは加熱焼鈍(heat annealing)サイクルを適正なマトリックス組成を誘導または維持するように適用するのが望ましいことが見出された。例えば、約0.1〜0.5℃/分の凍結速度;ならびに例えば、製品を0.1〜1.0℃/分で-45℃まで冷却すること、その温度で2時間の保持すること、-15℃まで温めること、その温度で2時間保持すること、-45℃まで再冷却すること、乾燥前にその温度で2時間保持することを含む加熱焼鈍サイクルを使用した。これらの値は、指針として使用できるが、活性材料の処方、ならびに凍結乾燥で使用される装置およびその他の部品(複数可)によって持ち込まれる制約に応じて変化する。
【0037】
例えば、適切な乾燥サイクルには、主乾燥のための5℃までの直接加熱、熱投入を促進するための150mTorrまで高められたチャンバー圧、および20℃まで高められた最終乾燥温度が含まれる。特定の製品/工程最適化のために設計されるこのサイクルの変形形態には、棚温度を、主(一次)乾燥の初期段階のために15℃まで上昇させ、次いで、残りの主(一次)乾燥のためにチャンバー圧を製品への熱投入を促進するように300mTorrまで高めて5℃まで徐々に降下させ、続いて最終(二次)乾燥のために棚温度を25℃まで高めるサイクルを含めた。
【0038】
試料の凍結乾燥特性を決定する因子には次のものが含まれる:
・冷却された塊の粘度が十分に低下し、結果として凍結乾燥中に試料が崩壊する温度を決定するガラス転移温度(Tg')。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定法または示差熱分析によって判定した;
・運用上、凍結乾燥中に試料が崩壊する温度を崩壊温度(Tc)と定義する。崩壊温度は、凍結乾燥顕微鏡法によって判定される。乾燥試料上での表面被膜の発生などの複雑な因子が存在しなければ、崩壊温度およびガラス転移温度は典型的には類似している;
・被膜形成および関連欠陥も、凍結乾燥顕微鏡法で判定される。
【0039】
本発明による薬剤は、例えば、殺菌剤および殺真菌剤などの保存剤を必要としないという利点を有する。このような保存剤は、繊毛運動を低下させることが知られている(Romeijnら、1996年;Merkusら、2001年)。
【0040】
本発明による薬剤は、経鼻吹込み器または受動的デバイスを使用して投与できる。若干の実施形態において、薬剤は、例えば、吸入または吹込みデバイス中に配置されるカプセル中に封入することができる。針を、カプセルを通して貫通させて、カプセルの頂部および底部に孔を開け、吸入によって空気を吸い込むか、あるいはデバイスを通して空気を吹込み、薬剤粒子を患者の鼻内に押しやることができる。薬剤は、不活性ガスのジェット噴霧で、または液状有機流体中に懸濁させて投与することもできる。本発明による経鼻薬剤の経鼻投与に必要とされる量は、例えば、鼻孔につき1〜50mg、典型的には1〜20mgでよく、例えば、約5〜20mgとして投与される。
【0041】
若干の実施形態において、薬剤は:
w/w
アポモルフィン 0.1〜50%
マンニトール 99.8〜45%
アスコルビン酸 0.1〜5%
を含むことができる。
【0042】
別法として、前記薬剤は:
w/w
アポモルフィン 0.1〜15%
マンニトール 99.8〜80%
アスコルビン酸 0.1〜5%
を含むことができる。
【0043】
別法として、前記薬剤は:
w/w
アポモルフィン 0.1〜10%
マンニトール 99.8〜88%
アスコルビン酸 0.1〜2%
を含むことができる。
【0044】
以下は、本発明の実施形態に関する付随図面を参照した単なる実施例による説明である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ニワトリ胚の気管から採取した繊毛組織に対して各種物質をそれぞれ単回投与した後の繊毛打頻度を時間に対してプロットしたグラフであり、このような物質の相対的効果を示す。
【図2】ニワトリ胚の気管から採取した繊毛組織に対して各種試験溶液をそれぞれ単回投与し、続いて該溶液に曝露して15分後にロッケ-リンゲル液でこのような組織を洗浄した後の繊毛打頻度を時間に対してプロットしたグラフである。
【図3】1%アスコルビン酸を含む溶液中のアポモルフィン経鼻粉末を反復投与し、続いてロッケ-リンゲル液で洗浄した後の繊毛打頻度を時間に対してプロットしたグラフである。
【実施例1】
【0046】
2.5%w/wのアポモルフィンを含む本発明による粉末薬剤を、次の組成で製剤した。
w/w
アポモルフィンHCL 2.5%
マンニトール 96.5%
アスコルビン酸 1%
【0047】
薬剤は、上に挙げた構成成分を水に溶解して溶液を形成し、その後、該溶液を凍結乾燥して粉末薬剤を形成することによって製造した。次の凍結乾燥サイクルを使用した:
-45℃まで凍結、
冷却速度0.25℃/分
120分間保持

主乾燥:
棚温度(ステップ1)-20℃
加温速度1.0℃/分
1200分間保持
チャンバー圧50mTorr

棚温度(ステップ2)0℃
加温速度1.0℃/分
720分間保持
チャンバー圧50mTorr

棚温度(ステップ3)5℃
加温速度1.0℃/分
1000分間保持
チャンバー圧50mTorr

最終乾燥
棚温度15℃
加温速度1.0℃/分
700分間保持
チャンバー圧50mTorr。
【0048】
上記の凍結乾燥サイクルは、約-16〜-18℃にTg'またはTcを有する製剤のために効果的に使用された。このことは、製品の温度を、約-23℃に維持すべきであることを意味する(すなわち、操作上の安全性を考えて、-18℃-5℃=-23℃)。
【0049】
粉末薬剤の粒径分布は、300mmレンジのレンズ、14.30mmのビーム長、およびMS7型サンプラーを備えたMalvern Instruments Mastersizer(商標)レーザー回折装置を使用して測定した。ヘキサンを溶媒として使用し、湿潤剤はSpan85とし、測定前に薬剤を1分間超音波処理した。粒径分布測定の結果は、D(v,0.1)、D(v,0.5)およびD(v,0.9)と呼ばれる、粒子の10容積%、50容積%および90容積%が存在する粒径の表現で与えられる。D(v,0.9)とD(v,0.1)との間の大きさの差も計算され、これは、粒径範囲を示す。換言すれば、大きさの差が小さいほど、粒径分布曲線が狭く、分布の多分散性が小さい。
【0050】
前記のように製造された薬剤は、D(v,0.1)=6.52μm、D(v,0.5)=22.40μm、
【0051】
D(v,0.9)=55.12μm、およびD(v,0.9)-D(v,0.1)=48.60μmを有することが見出された。
[実施例2〜7]
下記のTable 1(表1)に列挙する本発明によるさらなる薬剤を、上記実施例1に記載の方法に従って調製した。対応する粒径測定値も表中に示す。
実施例6に関する溶出データは、国際公開第2004/075824号中(21〜22頁および図1)に示されている。
上記の実施例2および7に関する薬物動態(PK)データは、国際公開第2004/075824号中(21〜23頁および図3)に示されており、経鼻投与経路が、本発明による薬剤で実行可能であることを立証している。
国際公開第2004/075824号(24〜26頁)は、5mg未満の皮下アポモルフィンの単回投与に応答することが知られているパーキンソン病を有する対象における「オフ」期間を逆転させる上での上記実施例5による薬剤の迅速な効力を立証している。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例8]
繊毛打頻度(CBF)モデルは、ニワトリ胚の気管から採取された繊毛組織の断片に溶液で適用された物質の相対的毒性を調べるための技術と認められている(Romeijnら、1996年;Merkusら、2001年)。組織を、ロッケ-リンゲル液中に維持し、顕微鏡下で観察して、繊毛が打つ速度を評価する。次いで、組織を、1.0mLの試験溶液を含むウェルに移し、CBFに対する影響を評価する。さらに、投与の15分間後に組織をロッケ-リンゲル液中で洗浄すること、およびCBFの回復を評価することによって、効果の可逆性を測定できる。
【0054】
単回投与
図1は、CBFモデルにおける各種溶液の単回投与の相対的効果を示す。アポモルフィンの毒性は、組織を「1%アポモルフィン/改変ロッケ-リンゲル(MLR)」溶液に曝露することによって誘発される繊毛打運動の完全停止によって観察される。この効果は、この溶液に1重量%のアスコルビン酸を添加することによって有意に軽減される。
【0055】
可逆性の評価
図2は、「1%アポモルフィン/MLR」溶液、および1重量%のアスコルビン酸を含む「1%アポモルフィン(25%w/w経鼻粉末(ANP))/MLR」溶液を別個に投与して15分後に、組織をロッケ-リンゲル液で洗浄することの効果を示す。
【0056】
アポモルフィン25%w/w経鼻粉末は、25%w/wのアポモルフィンHCl、1%w/wのアスコルビン酸、および74%w/wのマンニトールを含む。この実験では、400mgの量の25%アポモルフィン経鼻粉末を、10mLのMLRに溶解して1.0%w/vのアポモルフィン濃度とする。アポモルフィン単独の毒性効果は、不可逆性であるが、1%w/wのアスコルビン酸を含むANP製剤で処理した組織は、ロッケ-リンゲル液での洗浄後に回復することが明らかである。
【0057】
反復投与
図3は、1%w/wのアスコルビン酸を含む前記のように調製した1%アポモルフィン(25%w/w経鼻粉末)/MLRの反復投与、およびロッケ-リンゲル液での洗浄の効果を示す。組織の生存能力は、効果によって影響されず、各投与からの回復は類似していることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊毛組織に対して毒性を示す活性薬剤を含有する経鼻送達用粉末薬剤の製造における、前記毒性を軽減するためのアスコルビン酸の使用。
【請求項2】
前記活性薬剤が、医薬として許容し得る塩または水和物の形態でもよいアポモルフィンを含有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬剤が凍結乾燥されている、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、凍結乾燥用賦形剤として少なくとも1つの糖アルコールを含有する、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記少なくとも1つの糖アルコールが、マンニトールを含有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記凍結乾燥薬剤が非晶質成分を含有し、該非晶質成分が、薬剤全体の少なくとも0.5重量%を構成する、請求項3、請求項4または請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤が、0.1〜5重量%のアスコルビン酸を含有する、請求項1から6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤が、0.1〜50重量%のアポモルフィンを含有する、請求項2に記載の使用。
【請求項9】
前記薬剤が、99.8〜45重量%のマンニトールを含有する、請求項5に記載の使用。
【請求項10】
繊毛組織に対して毒性を示す共投与活性薬剤のこのような毒性を軽減するための経鼻投与用粉末薬剤であって、前記活性薬剤およびアスコルビン酸を含有する薬剤。
【請求項11】
前記活性薬剤が、医薬として許容し得る塩または水和物の形態でもよいアポモルフィンを含有する、請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
凍結乾燥されている、請求項10または請求項11に記載の薬剤。
【請求項13】
凍結乾燥用賦形剤として少なくとも1つの糖アルコールを含有する、請求項12に記載の薬剤。
【請求項14】
前記凍結乾燥薬剤が非晶質成分を含有し、該非晶質成分が、薬剤全体の少なくとも0.5重量%を構成する、請求項12または請求項13に記載の薬剤。
【請求項15】
0.1〜5重量%のアスコルビン酸を含有する、請求項1から14のいずれかに記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−535750(P2010−535750A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519516(P2010−519516)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002648
【国際公開番号】WO2009/019463
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(501406967)ブリタニア ファーマシューティカルズ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】