説明

繊維、不織布および炭化不織布、ならびにそれらの製造方法。

【課題】ポリマー溶液の曳糸性を改善することで繊維径の細い繊維を容易に紡糸することができ、さらに得られた繊維ないし不織布中のビーズ状欠陥を抑制することで取り扱い性も向上できる繊維、不織布および炭化不織布、ならびにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、B型粘度計で測定した粘度が100mPa・s以下であるときの伸張時破断時間が0.05秒以上であるポリマー溶液や、ポリマー溶液を構成するポリマーのz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mz/Mw)が2.7〜15であるポリマー溶液を電界紡糸して得られる繊維およびその繊維を含む不織布、ならびにそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曳糸性が改善されたポリマー溶液を電界紡糸して得られる繊維の製造方法、および該繊維からなる不織布、ならびに該不織布を焼成した炭化不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メディカル分野、半導体基盤上の電線、発光体用電子銃や各種センサーなどのエレクトロニクス分野、高性能フィルターなど環境対応分野への応用を期待して、サブミクロン以下の直径を持つ極細繊維の要求が高まっている。
【0003】
直径がサブミクロン以下の極細繊維を製造する工業的技術としては、海島複合紡糸やポリマーブレンドから海成分を適当な溶媒で溶解、除去して島成分をサブミクロンオーダーの繊維として取り出す技術が広く知られている。この方法により、実際に100ナノメーターまたはそれ以下の径を有する繊維を得ることが可能であるが、使用されるポリマーは溶融可能である必要があり、汎用性に乏しい製造方法であることが欠点である。
【0004】
一方、溶液紡糸や乾式紡糸でも同様の方法でサブミクロンオーダー径の糸を得ることができる(特許文献1参照)。しかし、海成分と島成分は同一の溶媒と貧溶媒を使用しなければならず、ポリマーの種類に制限を受けるために汎用的な製造方法ではない。加えて、島成分と海成分の総量が溶媒の10〜20%前後、島成分の量は海成分のさらに10〜20%であるため、最終的な島成分の生産効率は大変低いものとなる。
【0005】
これらの他にも、界面活性剤をチューブ状ミセルに自己組織化させてこれを鋳型とし、化学架橋によって繊維化する方法や、チューブ表面で無機物質をゾル−ゲル転移法によって繊維形状に成形することで、サブミクロン径の繊維を得る方法も知られている。しかし、化学架橋による方法は架橋が可能な官能基を有するポリマーに適用が制限され、またゾル−ゲル転移法は無機素材にのみ適用可能であり、やはり汎用性に乏しい製造方法である。さらに、チューブ状ミセルが存在し得る濃度は溶媒に対して数質量%であり、生産効率は極めて低い。
【0006】
また、メルトブロー方式により繊維を得る方法も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方式は使用できるポリマーは熱可塑性ポリマーに限られることや、装置が複雑であること、また高温のガスを大量に消費することから多量のエネルギーが必要となる。さらに、メルトブロー方式で得られる繊維は繊維径のばらつきが大きいなど課題も多い。
【0007】
これらの技術に対し、近年電界紡糸技術が注目されている。この技術は1930年代に提案された古い技術であるが、該技術が細繊度の繊維製造技術へ適用されたのは1971年である(非特許文献1参照)。電界紡糸技術はサブミクロン径の繊維の需要が高まった最近になって、急速にその重要性が見直されている技術である。電界紡糸技術の特徴として、溶媒に可溶なポリマーの他、熱可塑性ポリマーの溶融体、無機化合物など幅広く適用可能であることが挙げられる。また製糸に要する設備は単純であり、流体供給装置と繊維受取装置の間に電圧を印加して流体を繊維状に成形するものである。複合紡糸法やブレンド紡糸法を使わずに、ポリマー溶液やサスペンジョンなどの液体を直接サブミクロン以下の径の繊維に成形することが可能である。一般的には注射器のような液体貯蔵容器から適当な計量ポンプでキャピラリーを有する流体供給装置に液体を送り、液体または導電性キャピラリーに高電圧を印加してグランドされた対電極の繊維受取装置に糸を吹き付ける。キャピラリーから出た液体は急な細化工程、比較的繊維径が一定な工程、繊維がクリスマスツリーに飾られたモールのように螺旋を描く工程を経ることが知られている(非特許文献2参照)。糸は静電反発による分岐ループが形成する過程で細化する。
【0008】
電界紡糸技術において、得られる繊維の繊維径はポリマー溶液の濃度に比例する。繊維径が細い繊維を得るためにはポリマー溶液の低濃度化が必要となるが、その反面で低濃度溶液を用いた場合ビーズと呼ばれる粒子状欠陥が多数発生し、得られる繊維の表面積や機械的強度が著しく低下するといった問題が発生する。
【0009】
また電界紡糸技術を繊維の製造技術として使用する場合、生産効率の観点から単位時間、単位吐出部からのポリマー溶液の供給量をできるだけ多くする必要がある。このときポリマー溶液供給量をむやみに上げると、吐出部先端のテーラーコーンと呼ばれる液滴が崩れ、ビーズ発生や繊維径の増大などを招き、品位低下を引き起こすことがある。
【0010】
これらの問題に対し、ポリマー溶液に無機塩を添加して溶液中のイオン濃度を増加させることにより吐出部に電荷が帯電しやすくする方法や、界面活性剤を添加して表面張力を低下させることにより吐出されたポリマー溶液が液滴になるのを防ぐ方法などが提案されている(非特許文献3参照)。しかしながらこれらの方法は、添加物がポリマー溶液中に均一に分散することや、添加物がポリマー溶液を構成するポリマーや溶媒およびその他の添加物と反応しないことなど、複数の要件を満たすことのできる化合物を選ぶ必要があり、使用できる化合物や紡糸条件が限られるという問題がある。
【0011】
このように、繊維径が細く品位の良い繊維を安定的に電界紡糸する技術は未だ不完全であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−336130号公報
【特許文献2】特開2010−236174号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「Journal of Colloid and Interface Science」36(1) 71-79(1971)
【非特許文献2】「Polymer」 43 6785-6794(2002)
【非特許文献3】「Polymer」 40 4585-4592(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、ポリマー溶液の曳糸性を改善することで、得られた繊維ないし不織布中のビーズ状欠陥を抑制し、取り扱い性が向上した繊維の製造方法、および該繊維からなる不織布、ならびに該不織布を焼成した可撓性を有する炭化不織布を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
【0016】
すなわち、本発明の繊維の製造方法は、ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、B型粘度計で測定した該ポリマー溶液の粘度が100mPa・s以下であるときの伸張時破断時間が0.05秒以上である繊維の製造方法である。
【0017】
また、本発明の繊維の製造方法は、ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、該ポリマー溶液を構成するポリマーのz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mz/Mw)が2.7〜15である繊維の製造方法である。
【0018】
本発明の繊維の製造方法の好ましい態様によれば、前記ポリマー溶液を構成するポリマーは重量平均分子量15〜45万のポリアクリロニトリル系重合体である。
【0019】
また、本発明に係る不織布は、上記特徴を有する方法により得られた繊維からなる不織布である。
【0020】
また、本発明に係る不織布は、不織布表面5×10−2mmあたりのビーズの個数が5個以下である不織布である。
【0021】
また、本発明に係る炭化不織布は、上記特徴を有する不織布を焼成してなる炭化不織布であり、このようにして得られる炭化不織布は、可撓性を有することをその特徴の一つとして挙げることができる。
【0022】
また、本発明に係る炭化不織布は、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気下で炭化処理することにより焼成を行う工程を有する方法により製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、曳糸性の高いポリマー溶液を電界紡糸することで、得られる繊維ないし不織布中のビーズ状欠陥が抑制され、取り扱い性が向上した繊維および不織布が得られ、この不織布を用いることにより可撓性を有する炭化不織布を得ることができる。また、用いられるポリマー溶液の曳糸性が高いことにより紡糸安定性が増すことで、生産適応性を向上させることができ、さらに低濃度ポリマー溶液からでもビーズの少ない極細繊維を得ることができる。またビーズが少ないことによって焼成工程通過時の安定性が向上し、機械物性にも優れた炭化不織布が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の不織布表面をSEM観察した結果を示す図である(ビーズ無し)。
【図2】比較例1の不織布表面をSEM観察した結果を示す図である(ビーズ多数)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、繊維の製造に用いられるポリマーの多分散度や、ポリマー溶液の伸張時破断時間を特定の範囲に制御することにより、生産性を損なうことなくビーズの少ない高品位な繊維および不織布を製造できることを見出し、本発明に到達した。具体的には、本発明では、ポリマーの多分散度を特定範囲にすることにより、低濃度ポリマー溶液でも高い曳糸性を発現することができるため、電界紡糸初期段階でのビーズの発生を抑えビーズ状欠陥の少ない高品位な繊維および不織布を生産性よく製造することができるのである。
【0026】
本発明の繊維の製造方法は、ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、該ポリマー溶液を構成するポリマーのz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mz/Mw)が2.7〜15である繊維の製造方法である。
【0027】
本発明において、上記の各種平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCと略記する。)法で測定されるものであり、本発明で用いられるポリマーの多分散度(Mz/Mw)は2.7〜15であり、好ましくは3〜14.5、より好ましくは3〜8である。
【0028】
GPC法により測定される平均分子量、及び、分子量の分布に関する指標について以下に説明する。
【0029】
GPC法により測定される平均分子量には、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)がある。Mnは、高分子化合物に含まれる低分子量物の寄与を敏感に受ける。これに対して、Mwは、高分子量物の寄与をMnより敏感に受ける。Mzは、高分子量物の寄与をMwより敏感に受ける。
【0030】
GPC法により測定される平均分子量を用いて得られる分子量の分布に関する指標には、分子量分布(Mw/Mn)や多分散度(Mz/Mw)があり、これらを用いることにより分子量の分布の状況を示すことができる。分子量分布(Mw/Mn)が1であるとき単分散であり、分子量分布(Mw/Mn)が1より大きくなるにつれて分子量の分布が低分子量側を中心にブロードになることを示すのに対して、多分散度(Mz/Mw)は1より大きくなるにつれて、分子量の分布が高分子量側を中心にブロードになることを示す。
【0031】
上記のように、分子量分布(Mw/Mn)と多分散度(Mz/Mw)の示すところが異なるため、分子量分布(Mw/Mn)が大きくても、多分散度(Mz/Mw)は必ずしも2.7以上になる、ということにはならない。
【0032】
本発明において、上記の多分散度(Mz/Mw)が2.7〜15のポリマーを用いることにより、かかるポリマーを含むポリマー溶液を電界紡糸して繊維を得る場合の生産性の向上と安定化の両立を図りつつ、ビーズ状欠陥の少ない高品位な繊維を製造することができるメカニズムは、必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
【0033】
電界紡糸では、吐出直後から凝固されるまでの間でポリマー溶液が伸長変形する際に、ポリマー溶液内ではポリマーの超高分子量物と高分子量物が絡み合い、超高分子量物を中心に絡み合い間の分子鎖が緊張することで伸長粘度の急激な増大、すなわち、歪み硬化がおこる。この、吐出直後から凝固されるまでの間でのポリマー溶液の細化に伴い細化部分の伸長粘度が高くなり、流動安定化するためビーズ発生を抑制し、かつ、吐出速度を高めることができる。
【0034】
そのため多分散度(Mz/Mw)が大きいほど、充分な歪み硬化が生じポリマー溶液の吐出安定性向上度合が充分となる。しかしながら、多分散度(Mz/Mw)が大きすぎる場合、歪み硬化が強すぎてポリマー溶液の吐出安定性向上効果が低下する場合がある。したがって多分散度(Mz/Mw)は、好ましくは3〜14.5であり、より好ましくは3〜8である。
【0035】
多分散度(Mz/Mw)を上述の範囲に制御するためには、重合開始剤の種類と割合や逐次添加など特殊な条件でおこなうか、一般的なラジカル重合を用いる場合2種以上のポリマーを混合する方法があり、ポリマーを混合する方法の方が簡便である。混合するポリマーの種類は少ないほど簡便であり、紡糸安定性の観点からも2種で十分なことが多い。
【0036】
混合するポリマーについて、Mwの大きい方をA成分とし、Mwの小さい方をB成分とすると、A成分とB成分のMwの差が大きいほど、混合されたポリマーの多分散度(Mz/Mw)が大きくなる傾向があるため好ましい。具体的には、A成分とB成分の重量平均分子量比は、2〜45であることが好ましく、より好ましくは4〜20であり、さらに好ましくは5〜15である。
【0037】
また、A成分/B成分の質量比は、0.001〜0.3であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.2であり、更に好ましくは0.01〜0.1である。A成分とB成分の質量比が0.001未満では、歪み硬化が不足することがあり、また0.3より大きいときはポリマー溶液の吐出粘度が上がりすぎて吐出困難となることがある。
【0038】
A成分とB成分のポリマーを含むポリマー溶液を調製する場合、その手段として、両ポリマーを混合してから溶媒に溶解する方法、ポリマーそれぞれを溶媒に溶解したもの同士を混合する方法、溶解しにくい高分子量物であるA成分を溶媒に溶解した後にB成分を混合溶解する方法、および高分子量物であるA成分を溶媒に溶解したものとB成分を構成するモノマーを混合してモノマーを溶液重合することにより混合する方法などを採用することができる。
【0039】
両ポリマーの混合には、混合槽で攪拌する方法、ギヤポンプなどで定量してスタティックミキサーで混合する方法、および二軸押出機を用いる方法などを採用することができる。高分子量物を均一に溶解させる観点から、高分子量物であるA成分を初めに溶解する方法が好ましい。特に、電界紡糸においてポリマー溶液内での濃度差は、繊維径の変動やビーズの発生につながることがある。
【0040】
具体的には、A成分の溶媒に対するポリマー濃度、すなわちA成分と溶媒からなる溶液を仮想したときの、その溶液中のA成分のポリマー濃度を好ましくは0.1〜5質量%になるようにした後、その溶液中にB成分を混合するか、あるいは、その溶液中にB成分を構成するモノマーを混合して重合する方法を採用することができる。
【0041】
上記のA成分のポリマー濃度は、より好ましくは0.3〜3質量%であり、さらに好ましくは0.5〜2質量%である。上記のA成分のポリマー濃度は、より具体的には、ポリマーの集合状態として、ポリマーがわずかに重なり合った準希薄溶液とすることが好ましく、B成分を混合する、あるいは、B成分を構成するモノマーを混合して重合する際に、混合状態が均一となりやすいため、孤立鎖の状態となる希薄溶液とすることが更に好ましい態様である。希薄溶液となる濃度は、ポリマーの分子量と溶媒に対するポリマーの溶解性によって決まる分子内排除体積によって決まるとみられるため、一概には決められないが、本発明においては概ね前記範囲にすることにより電界紡糸適応性を最大化できることが多い。上記のポリマー濃度が5質量%を超える場合は、A成分の未溶解物が存在することがあり、0.1質量%未満の場合は、分子量にもよるが希薄溶液となっているため効果が飽和していることが多い。
【0042】
A成分の溶媒に対するポリマー濃度を0.1〜5質量%になるようにする方法としては、ポリマーを溶媒に溶解した後希釈する方法でもモノマーから重合する方法でも構わない。溶解した後希釈する場合は、均一に希釈できるまで撹拌することが重要であり、希釈温度としては50〜120℃が好ましく、希釈時間は希釈温度や希釈前濃度によって異なるため、適宜設定すればよい。希釈温度が50℃未満の場合は、希釈に時間がかかることがあり、120℃を超える場合は、A成分が変質する恐れがある。
【0043】
また、ポリマーの重なり合いを希釈する工程を減らし、均一に混合する観点から、前記のA成分の製造から前記のB成分の混合開始、あるいは、B成分を構成するモノマーの重合開始までの間、A成分の溶媒に対するポリマー濃度を0.1〜5質量%の範囲に制御することが好ましい。具体的には、A成分を溶液重合により製造する際に、ポリマー濃度が5質量%以下で重合を停止させ、それにB成分を混合する、あるいは、B成分を構成するモノマーを混合しそのモノマーを重合する方法である。
【0044】
通常、溶媒に対する仕込みモノマーの割合が少ないと、溶液重合により高分子量物を製造することは困難なことが多い。そのため溶媒に対する仕込みモノマーの割合を多くするが、ポリマー濃度が5質量%以下の段階では、重合率が低く、未反応モノマーが多く残存していることになる。未反応モノマーを揮発除去してから、B成分を混合してもかまわないが、工程簡略化の観点からその未反応モノマーを用いてB成分を溶液重合することが好ましい。
【0045】
また、本発明の繊維の製造方法は、ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、B型粘度計で測定した該ポリマー溶液の粘度が100mPa・s以下であるときの伸張時破断時間が0.05秒以上であることを特徴とするものである。
【0046】
本発明で用いられるポリマー溶液の粘度が100mPa・s以下であるときの伸張時破断時間は0.05秒以上であり、好ましくは0.07秒以上、より好ましくは0.10秒以上である。伸張時破断時間の上限は0.10秒もあれば十分なことが多い。伸張時破断時間が0.05秒未満では、電界紡糸時のビーズ発生を抑える効果が得られにくい。
【0047】
本発明において、伸長時破断時間とは次のようにして測定される値を言う。すなわち、温度25℃に保温されたポリマー溶液0.1mlを、同軸かつ垂直に配置された一対の直径4mmの円形プレート間(ギャップ2mm)に封入し、下方のプレートを固定したまま、上方のプレートを50m秒(ミリ秒)で10mm垂直に引き上げそのまま保持する。プレート引き上げ中、ポリマー溶液は、伸長されて糸を曳き、プレート引き上げ終了以降は、重力およびポリマー溶液の表面張力によりフィラメント径が細くなり、最終的に破断する。伸長時破断時間は、かかる測定におけるプレート引き上げ終了直後からフィラメントの破断までの時間である。
【0048】
フィラメント径の変化が急激でなく、漸減する傾向にあり、破断するまでに時間がかかるほど、曳糸性が高いことになる。このように高い曳糸性を持つポリマー溶液を用いることで、低濃度ポリマー溶液でも高い曳糸性を発現することができるため電界紡糸初期段階でのビーズの発生を抑え、ビーズ状欠陥の少ない高品位な繊維を生産性よく製造することができるのである。
【0049】
上記のポリマー溶液の粘度100mPa・s以下における伸長時破断時間は、ポリマーの平均分子量とポリマー濃度調整だけで達成することは困難である場合も多く、ポリマーの架橋構造を高度に制御すること(例えば、多官能性単量体を共重合すること)や分子量分布を高度に制御すること(例えば、多分散度(Mz/Mw)を適切な範囲のものにすること)がその達成手段として挙げられるが、これらの手段に限られるものではない。
【0050】
本発明において、ポリマー粘度とは次のようにして測定される値を言う。すなわち、ビーカーに入れたポリマー溶液を、30℃の温度に温度調節された温水浴に浸して調温した後、B型粘度計として、例えば、(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ローターNo.1を使用し、ポリマー溶液の粘度が0〜100mPa・sの範囲はローター回転数60rpmで測定し、またそのポリマー溶液の粘度が10〜1000mPa・sの範囲はローター回転数6rpmで測定する。
【0051】
ポリマー溶液の粘度については、100mPa・s以上の場合でも、その粘度における伸張時破断時間によっては、用いられるポリマー溶液の高い曳糸性による紡糸安定性の向上効果を得ることができるが、その場合、繊維径は細くても数百ナノメーター程度までしか得ることができない。したがって、より細い繊維を得ようとする場合、ポリマー溶液の粘度は100mPa・s以下であることが好ましい。
【0052】
ここで、本発明で用いられるポリマーは、溶媒に可溶であるものであれば特に限定されるものではなく、例えばポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエン、ポリウレタン、ナイロン、芳香族ポリアミドやそれらの共重合体、混合物等が挙げられる。
【0053】
また溶媒としては、水、エタノール、メタノール、アセトン、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン、フェノール、アニリン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、蟻酸、酢酸、硫酸、塩酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、トリクロロメタン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびそれらの混合物などが挙げられる。なお、本発明の範囲は上述した系に限定されるものではない。
【0054】
これらの中から、ポリマーは合成時の分子量制御のしやすさ、および上記の条件を満たす最適のポリマーとしてポリアクリロニトリル系重合体、溶媒はポリマー溶解性および紡糸時の揮発性の観点からジメチルホルムアミドの系を好ましく用いることができる。
【0055】
本発明のポリアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルと共重合可能なモノマーと共重合したものを用いることができる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。ポリアクリロニトリル系重合体を製造するための重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができる。アクリロニトリルや共重合成分を均一に重合する観点から、溶液重合を用いることが好ましい。
【0056】
本発明で好適に用いられるポリアクリロニトリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15〜45万である。Mwが15万未満の場合は得られる繊維の強度が不足することが多く、一方、Mwが45万を超える場合には、ポリマー濃度に対するポリマー粘度の変化が非常に大きくなるため、伸張時破断時間の制御が難しくなる。
【0057】
次に、電界紡糸法について詳述する。電界紡糸法とは一般的には注射器のような液体貯蔵容器から適当な計量ポンプでキャピラリーを有する流体供給装置に液体を送り、液体または導電性キャピラリーに高電圧を印加してグランドされた対電極の繊維受取装置に糸を吹き付け捕集する紡糸法である。
【0058】
この時、原料となる溶液を吐出する方法としては、均一性や安定性を重視し、ノズルを用いる方法が好ましい。ノズル径としては特に限定はないが、太過ぎると過剰溶液の垂れなどが、細すぎると溶媒蒸発によるノズル詰まりが発生しやすいため、溶液の種類や印加電圧などにより適切なノズル径を選択する必要がある。これらの観点から、本発明では内径0.05〜1mmのノズル径を採用することが好ましい。また、ノズルを用いず溶液に直接電圧を印加し、溶液を引き出すことも可能であり、この時はノズル詰まりの問題を解消できるという利点がある。
【0059】
また、印加電場は直接ポリマー溶液を牽引する力となるため重要なプロセスパラメータである。印加電場が低すぎるとノズルから溶液を引き出すことができず電界紡糸できない。一方、印加電場は高い方が一般に細い繊維が得られ易いが、高すぎると放電が起こってしまい危険であるため、適切な電場を選択することが重要である。また、ポリマーの曳糸性と印加電場、すなわちポリマー溶液を牽引する力のバランスがあるようで、繊維径の極小値を示す電場が現れる場合もある。また、電場が強すぎると得られる繊維径のばらつきが増大する場合もある。したがって使用するポリマー、溶媒、装置により適宜適切な条件を選択することが好ましい。
【0060】
捕集装置としては、板状物のみならず、回転式ローラーやコンベアネット、さらに回転ディスクやギャップを設けた物など、所望の形態を得るため適宜選択することができる。例えば、コンベアネットを用いることで連続生産を可能とすることができ、回転ディスクや、ギャップを設けた捕集装置により極細糸がランダムに捕集された紙状物では無く、極細繊維を配向させることも可能となる。
【0061】
また、捕集装置の材質としては、アルミ箔などの金属や離型紙、フィルター用紙、不織布、織編物、フィルムなど用途に応じて適宜選択することができる。不織布状物を単独で得る場合にはアルミ箔や離型紙、フィルムが好ましい。
【0062】
ノズルと捕集装置の距離についても特に制限は無いが、近過ぎると溶媒の蒸発が不完全なまま捕集されるので、繊維状とし難くビーズ状やフィルム状となり易い。一方、遠過ぎると印加電圧に高電圧が必要となり、安全上の配慮が過大になる。ノズルと捕集装置の距離は5〜30cmの範囲が好ましい。
【0063】
雰囲気温度や雰囲気湿度も溶媒の蒸発に関係するが、雰囲気温度としては5〜40℃が好ましく、雰囲気湿度は10〜75%RHが好ましい。電界紡糸法では高電圧を使用するため、漏電防止の観点からは湿度は75%RH以下が好ましい。一方、静電気による蒸発溶媒への引火防止の観点からは、湿度は10%以上が好ましい。
【0064】
本発明で規定されるビーズとは、図2に示したように液滴状のポリマー溜まりが繊維で繋がっているものを言い、このビーズの前後では繊維径が細くなり易く、繊維径の均一性を向上させる観点から、ビーズの発生を抑制することが好ましい。また、後述する焼成処理をおこなった後の炭化不織布の可撓性は、焼成処理前不織布のビーズ量と密接に関係する。このことは、焼成時において繊維が収縮し応力がかかる際、ビーズ前後の繊維径が細い部分から選択的に繊維の切断が発生するためと考えられる。このことからも繊維径はできるだけ均一であることが好ましく、ビーズの発生は抑制することが好ましい。詳しくは、不織布表面5×10−2mmあたりのビーズの個数が5個以下であることが好ましい。なお、液滴状のポリマー溜まりが繊維で繋がっていないものを粒子状と呼び、このときは単にポリマーが液滴状に吹き付けられているに過ぎず、繊維化されていないため本発明の目的を達成することはできない。
【0065】
次に、本発明における不織布の焼成法について説明する。
【0066】
前記した方法により製造された不織布を、好適には200〜300℃の温度の酸化性雰囲気中において耐炎化処理した後、好適には1,000〜3,000℃の最高温度の不活性雰囲気中において炭化処理して炭化不織布を製造する。このとき耐炎化処理と炭化処理の間に300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理をおこなってもよい。
【0067】
耐炎化処理における酸化性雰囲気としては、空気が好ましく採用される。この耐炎化工程で得られる耐炎化繊維の密度は、好ましくは1.3〜1.5g/cmになるようにする。耐炎化が不十分で耐炎化繊維の密度が1.3g/cmに満たない場合には、炭化する際に単繊維間接着が発生し易くなり、また、分解ガスの発生量が多くなるため、高品位な炭化不織布が得にくい。一方、過度に耐炎化を進めると重合体主鎖の切断が起こり、最終的に得られる炭素繊維の引張強度が低下する問題があるため、耐炎化密度は1.5g/cmを超えないことが好ましい。
【0068】
また、耐炎化時における不織布の変形を抑えるため、張力をかけながら焼成しても良い。張力は不織布が破断しない範囲で適宜選択することができ、張力をかける方法としてはローラー延伸(1軸方向)、テンター方式(2軸方向)、および枠による固定(全方向)などが挙げられ、いずれも適用可能である。
【0069】
本発明において、予備炭化処理や炭化処理は不活性雰囲気中で行なわれる。不活性雰囲気に用いられるガスとしては、窒素、アルゴンおよびキセノンなどを例示することができ、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。また、炭化処理における最高温度は、所望する炭化不織布の力学および電気特性に応じて適宜設定することができる。
【0070】
また、炭化不織布の機械物性を向上させるため予備炭化、および炭化処理においても張力をかけながら焼成しても良い。張力は不織布が破断しない範囲で適宜選択することができ、張力をかける方法としては耐炎化時同様、種々の方法から選ぶことができる。
【0071】
得られた炭化不織布は、その表面改質のため電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭化不織布の炭化度に応じて適宜選択することができる。また電解処理の後、サイジング処理を施すこともできる。炭化不織布を樹脂との複合材料として使用する場合、サイジング剤には使用するマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂等との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
【0072】
本発明により得られる繊維や不織布、および炭化不織布は、高性能フィルターや電池用セパレーター、ナノコンポジット用補強材などとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0074】
<伸長時破断時間>
溶液温度25℃に保温されたポリマー溶液0.1mlを、同軸かつ垂直に配置された一対の直径4mmの円形プレート間(ギャップ2mm)に封入し、上方のプレートを50m秒で10mm垂直に引き上げそのまま保持したとき、プレート引き上げ終了直後からフィラメントの破断までの時間を測定数n=3で測定し、平均値を算出した。実施例では、サーモハーケ社製の伸長粘度計CaBER1を用いた。
【0075】
<各種分子量:Mz、Mw>
測定しようとするポリマーを濃度0.1質量%となるようジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)に溶解した検体溶液を調製する。調製した検体溶液について、GPC装置を用いて、次の条件で測定したGPC曲線から分子量の分布曲線を求め、Mz、Mwを算出する。
・カラム:極性有機溶媒系GPC用カラム
・流速:0.5ml/min
・温度:75℃
・試料濾過:メンブレンフィルター(0.45μmカット)
・注入量:200μl
・検出器:示差屈折率検出器。
【0076】
Mwは、分子量が異なる分子量既知の単分散ポリスチレンを少なくとも6種類用いて、溶出時間―分子量の検量線を作成し、その検量線上において、該当する溶出時間に対応するポリスチレン換算の分子量を読み取ることにより求める。本実施例では、GPC装置として(株)島津製作所製CLASS−LC2010を、カラムとして東ソー(株)製TSK−GEL−α―M(×2)+東ソー(株)製TSK−guard Column αを、ジメチルホルムアミドおよび臭化リチウムとして和光純薬工業(株)製を、メンブレンフィルターとしてミリポアコーポレーション製0.45μm−FHLP FILTERを、示差屈折率検出器として(株)島津製作所製RID−10AVを、検量線作成用の単分散ポリスチレンとして、分子量43,000、98,900、184,000、427,000、791,000および1,300,000、1,810,000、4,210,000のものを、それぞれ用いた。
【0077】
<ポリマー溶液の粘度>
B型粘度計として(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ローターNo.1を使用し、ポリマー溶液の粘度が0〜100mPa・sの範囲はローター回転数60rpmで測定し、またそのポリマー溶液の粘度が10〜1000mPa・sの範囲はローター回転数6rpmで測定した。
【0078】
<ビーズ量および繊維径>
電界紡糸法によって得られた不織布状物に白金−パラジウム合金を蒸着し、日立ハイテクノロジーズ社製S−4800型走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。この時の加速電圧は5kVとした。
【0079】
ビーズ量は不織布状物の表面から任意に5点SEMで観察し、500倍の写真から視野範囲200μm×250μm(5×10−2mm)を選択し評価を行った。図2のように液滴状のポリマー溜まりが繊維で繋がっている物をビーズとしてその個数を数え、5点の平均値から以下のように評価した。
【0080】
○:ビーズ個数が5個以下
△:ビーズ個数が6〜30個
×:ビーズ個数が31個以上。
【0081】
繊維径は10000倍の写真から任意の点における個々の繊維径を測定し、それら100本以上の平均値から算出した。
【0082】
<可撓性>
炭化不織布(30×30mm)を直径10mmのステンレス製の棒にあて90°折り曲げ、破断の発生および亀裂の有無を目視で確認する試験を測定数n=3でおこない、以下のように評価した。
【0083】
○:すべてのサンプルにおいて破断、亀裂発生無し
×:1回以上破断、亀裂発生。
【0084】
[実施例1]
アクリロニトリル100質量部、イタコン酸1質量部、およびジメチルスルホキシド130質量部を混合し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmになるまで窒素置換した後、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル0.001質量部を投入し、撹拌しながら下記の(1)と(2)の条件(重合条件Aと呼ぶ。)の熱処理を行った。
(1)70℃の温度で4時間保持
(2)70℃の温度から30℃の温度へ降温(降温速度120℃/時間)。
【0085】
次に、その反応容器中に、ジメチルスルホキシド240質量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチルニトリル0.4質量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1質量部を計量導入した後、撹拌しながら下記の(1)〜(4)の条件(重合条件Bと呼ぶ。)の熱処理を行い、残存する未反応単量体を溶液重合法により重合してポリアクリロニトリル系ポリマー溶液を得た。
(1)30℃から60℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持。
【0086】
得られたポリマー溶液は水中で凝固させた後100℃の温度の温水で2時間脱溶媒し、乾燥してポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのMwは41.2万、Mz/Mwは3.14であった。
【0087】
乾燥ポリマー5質量部をジメチルホルムアミド95質量部に投入し、スラリー状とした後、25℃から80℃に昇温し10時間攪拌することで溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の粘度は50mPa・sであり、伸張時破断時間は0.075秒であった。
【0088】
これをカトーテック社製電界紡糸装置「NEU」を用いて、雰囲気温度18℃、雰囲気湿度40%RHで電界紡糸をおこなった。このとき、ノズルとしては18ゲージ(内径0.94mm)のノンベベル針を用い、捕集装置としては直径10cm、幅30cmの回転ローラーにアルミ箔を貼り付けた物を用いた。回転ローラーは19.1rpmで回転させ、吐出量は0.10cm/分、吐出部と捕集部との間の電界密度は2.5kV/cmとした。
【0089】
電界紡糸された繊維は不織布状に捕集され、SEM観察したところ、極細繊維が形成されていることを確認し、ビーズ個数は0個であった。
【0090】
[実施例2]
実施例1と同一の乾燥ポリマーを使用し、乾燥ポリマー7質量部をジメチルホルムアミド93質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の粘度は220mPa・sであり、伸張時破断時間は0.135秒であった。これを実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得た。不織布は極細繊維が形成されており、ビーズ個数は0個であった。
【0091】
[実施例3]
オクチルメルカプタン投入量を0.1質量部から0.6質量部に変更した他は、実施例1と同様に重合、脱溶媒をおこない乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのMwは22.7万、Mz/Mwは7.50であった。乾燥ポリマー7.5質量部をジメチルホルムアミド92.5質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の粘度は50.5mPa・s、伸張時破断時間は0.075秒であった。これを実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得た。不織布は極細繊維が形成されており、ビーズ個数は0個であった。
【0092】
[実施例4]
上記実施例1の重合条件Aにおいて70℃の温度の保持時間を4時間から6.5時間に、オクチルメルカプタン投入量を0.1質量部から0.6質量部変更した他は、実施例1と同様に重合、脱溶媒をおこない乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのMwは27.9万、Mz/Mwは8.00、ポリマー溶液の粘度は25.5mPa・sであった。乾燥ポリマー5質量部をジメチルホルムアミド95質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。伸張時破断時間は0.050秒であった。これを実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得た。不織布は極細繊維が形成されており、ビーズ個数は0個であった。
【0093】
[実施例5]
上記実施例1の重合条件Aにおいて70℃の温度の保持時間を4時間から6.5時間に、オクチルメルカプタン投入量を0.1質量部から1.5質量部に変更した他は、実施例1と同様に重合、脱溶媒をおこない乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのMwは21.1万、Mz/Mwは13.38、ポリマー溶液の粘度は67mPa・sであった。乾燥ポリマー10質量部をジメチルホルムアミド90質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。伸張時破断時間は0.115秒であった。これを実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得た。不織布は極細繊維が形成されており、ビーズ個数は0個であった。
【0094】
[実施例6]
オクチルメルカプタン投入量を0.1質量部から1.5質量部に変更した他は、実施例1と同様に重合、脱溶媒をおこない乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーのMwは15.8万、Mz/Mwは14.42、ポリマー溶液の粘度は24.5mPa・sであった。乾燥ポリマー7.5質量部をジメチルホルムアミド92.5質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。伸張時破断時間は0.112秒であった。これを電場強度1.5kV/cmとした以外は実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得た。不織布は極細繊維が形成されており、ビーズ個数は0個であった。
【0095】
[比較例1]
アクリロニトリル100質量部、イタコン酸1質量部、およびジメチルスルホキシド370質量部を混合し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmになるまで窒素置換した後、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル0.4質量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1質量部を計量導入した後、撹拌しながら下記の(1)〜(4)の条件の熱処理を行い、ポリアクリロニトリル系ポリマー溶液を得た。
(1)30℃から60℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持
ポリマーのMwは35.0万、Mz/Mwは1.94であった。
【0096】
得られた乾燥ポリマー5.3質量部をジメチルホルムアミド94.7質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の粘度は58mPa・sであり、伸張時破断時間は0.048秒であった。これを実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得たところ、不織布表面にはビーズが多数観察された。
【0097】
[比較例2]
比較例1と同一の乾燥ポリマーを使用し、乾燥ポリマー7質量部をジメチルホルムアミド93質量部に実施例1と同様の方法で溶解し、電界紡糸用ポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の粘度は160mPa・sであり、伸張時破断時間は0.084秒であった。これを実施例1と同様に電界紡糸おこない不織布を得たところ、不織布表面ビーズ個数は25個であり、また繊維径は実施例で作成した繊維と比較して太いものとなった。
【0098】
[実施例7]
実施例1〜6で得られた不織布を240〜260℃の温度の温度分布を有する空気中において耐炎化処理し、耐炎化不織布を得た。続いて、得られた耐炎化不織布を300〜700℃の温度の温度分布を有する窒素雰囲気中において予備炭化処理を行い、さらに最高温度1,500℃の窒素雰囲気中において炭化処理を行い、炭化不織布を得た。このとき焼成工程通過性はいずれも良好であり、得られた炭化不織布は可撓性試験をおこなっても亀裂や破断は発生しなかった。
【0099】
[比較例3]
比較例1,2で得られた不織布を、実施例7と同一条件で焼成した。比較例1で得られた不織布は耐炎化工程通過時において破断が発生した。また、比較例2で得られた不織布は炭化後不織布の可撓性試験において破断が発生した。
【0100】
[参考例]
実施例1と同様に重合したポリマーのジメチルスルホキシド溶液を、ポリマー濃度が20質量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより紡糸溶液とした。得られた紡糸溶液を40℃の温度で、口金孔径0.15mmの口金を用い、一旦空気中に吐出しエアーギャップ高さが約2mmの空間を通過させた後、3℃の温度にコントロールしたジメチルスルホキシドの20重量%水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により紡糸し凝固糸とした。このとき口金孔内でのポリマー溶液通過速度に対しローラー引き取り速度を32倍とした。この凝固糸条を水洗した後、90℃の温水中で3倍の浴中延伸倍率で延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、165℃の温度に加熱したローラーを用いて30秒間乾燥を行い、5倍の水蒸気延伸倍率条件で加圧水蒸気延伸を行い、繊維を得た。得られた繊維の繊維径は3328ナノメーターであった。この条件以外に引き取り速度や各延伸倍率を変えて細径化を試みたが、ローラー巻き付きや糸条の破断が発生し、プロセス不可能であった。
【0101】
上記した各実施例および比較例における、ポリマー物性、紡糸条件、および紡糸結果などをまとめて表1に示す。
【0102】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、ポリマー溶液の曳糸性を改善することにより繊維径の細い繊維を容易に紡糸することが可能となり、さらに得られた繊維ないし不織布中のビーズ状欠陥を抑制することで取り扱い性も向上できる繊維、不織布および炭化不織布を製造することができる。また、ビーズが少ない不織布を焼成することで可撓性を有する炭化不織布を製造できることができ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、B型粘度計で測定した該ポリマー溶液の粘度が100mPa・s以下であるときの伸張時破断時間が0.05秒以上である繊維の製造方法。
【請求項2】
ポリマー溶液を電界紡糸する繊維の製造方法であって、該ポリマー溶液を構成するポリマーのz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mz/Mw)が2.7〜15である繊維の製造方法。
【請求項3】
該ポリマー溶液を構成するポリマーが重量平均分子量15〜45万のポリアクリロニトリル系重合体である、請求項1または2記載の繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の製造方法によって得られた繊維からなる不織布。
【請求項5】
不織布表面5×10−2mmあたりのビーズの個数が5個以下である、請求項4記載の不織布。
【請求項6】
請求項5記載の不織布を焼成してなる炭化不織布。
【請求項7】
請求項5記載の不織布を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気下で炭化処理することにより焼成を行う工程を有する炭化不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102422(P2012−102422A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250453(P2010−250453)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】