説明

繊維および繊維構造物

【課題】中空繊維の中空部に機能性成分組成物を容易に充填できるようにするとともに、確実な徐放効果を得ることができるようにする。
【解決手段】繊維であって、その長手方向に伸びた1つ以上の中空部2と、その表面から中空部2までの開口部3とを有する。中空部2の重心点に対する開口部3の開き角度が8°〜45°である。中空部2と開口部3とのうち、少なくとも中空部2に1種以上の機能性成分組成物が配されている。中空率は、35%〜70%であることが好適である。機能性成分組成物は、界面活性剤組成物であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維および繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、異形断面繊維およびその紡糸技術について説明する。
通常、合成繊維や半合成繊維は、原料である繊維形成性ポリマーを熱で融解させたり、あるいは溶媒に溶解させたりしたうえで、円形などののノズルから、空気や水、もしくはそのほかの媒体中に吐出させ、冷却および凝固させて紡糸する。そのような方法で紡糸した繊維の断面は円形または楕円形になるが、特殊な方法を用いて繊維を製造すると、意図的に断面形状を円形または楕円形以外の形状とすることができる。このような円形または楕円形以外の断面を有する繊維を異形断面繊維と称する。異形断面繊維は、その繊維に軽量性、起毛性、嵩高性、保温性、吸水性、速乾性などを付与したり、その表面の凹凸により光の反射を抑えたり、染色後の繊維の色に深みを与えることなどを目的として開発されている(特許文献1〜3)。このような異形断面繊維として代表的なものには、断面が十字型、Y字型、W型、アレイ型、星型、多葉型、歯車型などの中実断面繊維や、井桁型、C字型、口型、ハニカム型断面などの中空断面繊維がよく知られている(特許文献1、3、4)。また、単繊維が複数に分割したセグメントからなる割繊型繊維も知られている(特許文献5、6)。
【0003】
異形断面繊維の製造は、公知の方法に従って行えばよい。例えば、異形形状のノズルより、溶融状態のポリマーを押し出し紡糸する方法、あるいは、異形ノズルより固化液中へ吐出し、紡糸する方法などが知られている(特許文献7、8)。また、2種以上のポリマーを用いる場合は、「複合紡糸法」と呼ばれる方法により繊維を得ることができる。
【0004】
異形断面繊維の繊維形成ポリマーとしては、例えばポリアミド、アクリル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールなどを例示することができ、レーヨンなどの再生繊維を例示することもできる。
【0005】
異形断面繊維としては、井桁断面を有する中空ナイロン繊維である商品名マイクロアート(ユニチカファイバー社製)、十字形断面を有する商品名クスクス(東洋紡績社製)、Y字形断面を有する商品名エーゲ(三菱レーヨン社製)、C字形断面を有する中空ポリエステル繊維である商品名エアフロ(ユニチカファイバー社製)、フルーツセクション8分割クサビ形断面を有する割繊型ポリエステル繊維である商品名ミューフェス(ユニチカファイバー社製)、フルーツセクション20分割クサビ形断面を有する割繊型ポリエステル・ポリプロピレン複合紡糸繊維である商品名P91(ユニチカファイバー社製)、11分割層状断面を有する割繊型ポリエステル・ナイロン複合繊維である商品名ランプ(クラレ社製)などが例示できる。
【0006】
次に、異形断面繊維の使用目的について説明する。
異形断面繊維は、上述のように、繊維を軽量化したり、起毛性を与えて細かい塵を除去したり、嵩高性や保温性や吸水性や速乾性を付与したり、風合いを改善したり、表面の凹凸によって光の反射を抑えてテカリを防止したり、染色後の色に深みを与えたりすることなどを目的として、開発されてきた。また、十字形やC字形の繊維をメイクアップ化粧料に混合することにより、異形断面繊維の凹部に化粧料を付着させて、繊維と塗布面との密着性を高め、皮膚表面での繊維の転がりを防止し、メイクアップの仕上がりの美しさを向上できるようにしたものが知られている(特許文献9)。
【0007】
また、防虫剤(特許文献10)や芳香剤(特許文献11)を内包したマイクロカプセルを製造し、該マイクロカプセルを、C字形の中空繊維の開口部を通じて中空部に付着させることで、気相中で防虫剤や芳香剤を徐放させることを目的としたものが知られている。
【0008】
さらに、機能性成分組成物を繊維構造物中に配し、液相中で徐放させることを目的とした繊維構造物として、単繊維間の空間に機能性成分組成物を含浸した拭き取り洗浄用シート(特許文献12)が知られており、また粉末状の機能性成分組成物を複数枚の不織布の間に挟み込ませた洗車用シートが市販されている。
【特許文献1】特開平6−235167号公報
【特許文献2】特開平5−287610号公報
【特許文献3】特開平5−148709号公報
【特許文献4】特開平8−291424号公報
【特許文献5】特開昭62−133164号公報
【特許文献6】特開2005−2508号公報
【特許文献7】特開平10−158924号公報
【特許文献8】特開平5−148704号公報
【特許文献9】特開2004−107237号公報
【特許文献10】特開平6−228882号公報
【特許文献11】特開平6−228880号公報
【特許文献12】特開2003−27094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、機能性成分組成物を単繊維間の隙間に滲み込ませる方法では、組成物が簡単に蒸発、揮発、昇華、溶解あるいは外部からの圧力により溶出してしまうので、徐放効果を持続しにくい。組成物をマイクロカプセルに内包させて繊維に付着させる方法では、予め組成物を内包したマイクロカプセルを製造し、繊維に固定化させる必要があるので、手間がかかるうえに、製造コストが高くなる。また、複数の繊維構造物の間に粉末状の機能性成分組成物を挟み込んだシートでは、持続的な徐放効果が期待できないだけでなく、製造時や使用時に、繊維の隙間から機能性成分組成物の微粉末が飛散することがあり、衛生上や取扱面で問題がある。
【0010】
特許文献10や11では、マイクロカプセルや、カプセル化させていない防虫剤や芳香剤を付着させる中空部分の中空率の値は記載されているが、中空部分についてのその他の形状、寸法などについては記載がない。したがって、機能性成分組成物を繊維の中空部に確実に入り込ませるのに適した繊維構造には、まだ提案がなされていない。
【0011】
例えば、界面活性剤組成物において、固形分濃度が5質量%以上の水溶液は、液体の粘性が高いため、繊維に形成された開口部を通じてこれを中空部に取り込ませることは、一般に困難である。
【0012】
本発明者らも、中空率28%、繊維断面の中心に対する開口部の開き角度が5°であるC字形中空繊維を用い、この繊維を加圧して中空部を脱気した後、界面活性剤成分組成物の水溶液中で繊維の圧力を開放し、繊維の弾性回復性を利用して界面活性剤成分組成物を中空部に取り込ませる方法や、繊維を気相中で真空ポンプにより減圧して中空部を減圧した後、中空部の減圧状態を維持しながら、界面活性剤成分組成物水溶液を減圧装置内に注入したのちに大気圧に開放する方法などを用いて、界面活性剤成分組成物を繊維の中空部に取り込ませることを試みた。しかしながら、このような特殊な方法や装置を用いても、繊維の中空部に該界面活性剤成分組成物を配することはできなかった。
【0013】
一方、界面活性剤成分組成物の濃度が5質量%未満の低濃度水溶液を用いると、液の粘性が低いため、上記のような特殊な方法や装置を用いれば、中空部に界面活性剤成分組成物液を取り込ませることが可能であった。しかし、上記方法を満足に実施するための特殊な装置や工程が必要であった。また、低濃度水溶液を用いるため、中空部に取り込まれる界面活性剤成分組成物つまり機能性成分の濃度や固形分量が少なくなり、このため徐放効果の持続性が乏しく、実用上使用できるものではなかった。
【0014】
さらに、中空率40%、繊維断面の中心に対する開口部の開き角度が60°のC字形の中空繊維を用いた試験も行った。この場合は、開口部の開き角度が大きかったため、固形分濃度が5質量%以上の粘性が高い水溶液を、ディップ法のような簡易な方法で繊維の中空部に取り込ませることが可能であった。しかし、開口部の開き角度が大きかったため、取り込んだ界面活性剤成分組成物を速やかに放出してしまい、徐放性を全く発現できなかった。
【0015】
また、疎水性の高い中空繊維の中空部に、親水性の界面活性剤を固形分にして十分な量を充填させることは、一般に困難である。繰返し充填させる操作を行うことで、あるいは固形分濃度の異なる充填液を用いて段階的に充填させることで、はじめて充填の手間を改善できるものであり、その作業性は低い。
【0016】
そこで本発明は、中空繊維の中空部に機能性成分組成物を容易に充填できるようにするとともに、確実な徐放効果を得ることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、鋭意検討した結果、繊維の長手方向に伸びた中空部と、繊維の表面から中空部までの開口部とを有し、該開口部において、中空部の重心点に対する開口部の開き角度が8°〜45°である中空繊維を用いることにより、機能性成分組成物液を、効率よく、容易に、該開口部を通じて中空部に配することができ、かつ、中空部に取り込んだ機能性成分組成物を徐放する効果が著しく高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の第一は、繊維の長手方向に伸びた1つ以上の中空部と、繊維の表面から前記中空部までの開口部とを有し、前記中空部の重心点に対する開口部の開き角度が8°〜45°であり、少なくとも前記中空部に1種以上の機能性成分組成物が配されていることを特徴とする繊維を提供することを要旨とするものである。
【0019】
本発明の第二は、上記第一の繊維において、中空率が35%〜70%であることを要旨とするものである。
【0020】
本発明の第三は、上記第一または第二の繊維において、機能性成分組成物が界面活性剤組成物であることを要旨とするものである。
【0021】
本発明の第四は、上記第一から第三までのいずれかの繊維を含有することを特徴とする繊維構造物を提供することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の繊維および繊維構造物によれば、中空繊維の中空部の重心点に対する開口部の開き角度が8°〜45°であるようにすることで、機能性成分組成物を、効率よく、しかも容易に、中空部に取り込ませて配することが可能である。また、気相中においては該成分が蒸発、揮発、昇華しにくく、液相中においては溶解しにくく、繊維が固体と接触するときにおいては固体表面に溶出しにくいので、機能性成分組成物を徐放させることができ、機能成分の効果を長時間にわたって持続させることが可能である。このため、徐放性を期待する種々の用途に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維は、その長手方向に伸びた横断面C字形の中空部と、その表面から中空部までの開口部とを有しており、中空部の重心点に対する開口部の開き角度が8°〜45°である。その中空率は35%〜70%であることが好適であり、開口部と中空部とのうちの少なくとも中空部に1種以上の機能性成分組成物が配されているものである。
【0024】
このような中空部は機能性成分組成物を容易に取り込むことが可能である。繊維の使用時には、機能性成分組成物が、気相中において蒸発、揮発、昇華したり、液相中に溶解したり、あるいは繊維を固体表面と接触させることにより、徐放することが可能である。
【0025】
なお、機能性成分とは、該成分が対象物(気体、液体、固体、生物など)と接触することによって、あるいは該対象物が該成分を吸収や吸着することによって、該対象物の物理的性質や化学的性質、あるいは生理的状態などを変化させる機能を有する成分の総称である。具体的には、機能性成分には、防カビ剤、抗ウィルス剤、保湿剤、美白剤、柔軟剤、界面活性剤、撥水剤、撥油剤、光沢剤、帯電防止剤、着色防止剤、抗酸化剤、薬剤、食品成分などが含まれる。また機能性成分組成物とは、前記機能性成分を一部または全部に含む組成物の総称である。
【0026】
上述した機能性成分のうち、界面活性剤とは、分子内に、親水基と、親油基又は疎水基とを持つ化合物の総称であり、洗剤や石けん成分も含む概念である。
【0027】
界面活性剤組成物は、特に限定されるものではなく、その使用目的に応じて適宜選択すればよい。界面活性剤組成物に含まれる機能性成分の種類としては、陰イオン系機能性成分、非イオン系機能性成分、陽イオン系機能性成分、両性イオン機能性成分が挙げられる。一般的に、陰イオン系機能性成分や、非イオン系機能性成分や、両性機能性成分が、皮膚に対する刺激が比較的少ないので、日用品や化粧品の用途に供される。例えば、脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウムは身体洗浄用途や化粧石けん用途に供され、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウムは洗濯用洗剤用途に供され、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムはシャンプーや台所洗剤の用途などに供される。
【0028】
陰イオン系(アニオン系)機能性成分としては、例えば脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。非イオン系(ノニオン系)機能性成分としては、しょ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが挙げられる。両性イオン機能性成分としては、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。陽イオン系機能性成分としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。なかでも、皮膚への刺激性が少ないという点から、陰イオン系機能性成分が好ましい。
【0029】
機能性成分組成物は、機能性成分以外に、香料、着色料、保存料、顔料、色素、酸化防止剤、増粘剤、金属封鎖剤、保湿剤などの、薬学的にまたは化粧品原料として許容される化合物を含む。
【0030】
繊維構造物は、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバーなどのそのもの、ならびにこれらからなる織物、編物、不織布など、繊維から構成される全ての構造物を総称したものである。
【0031】
本発明の繊維において、開口部の開き角度は、8°〜45°の範囲であれば特に限定されるものではなく、10°〜30°であることが好ましく、さらに好ましくは12°〜20°である。このような中空繊維としては、図1に示すように繊維1と同心に1つの中空部2と開口部3とを有するC字形のものや、図2に示すように繊維1において偏心状態で1つ以上の中空部2a、2bと開口部3a、3bとを有する繊維が考えられ、特に限定されるものではない。しかし、断面積あたりにおける機能性成分組成物の付着量が多い点で、図1に示す1つの中空部2を有したC字形断面の繊維が好ましい。なお、図1、図2において、開口部の開き角度は、θで示されている。
【0032】
開口部の開き角度が8°未満の場合は、粘性を有する液体を開口部を通じて中空部に取り込ませることが非常に困難である。また開口部の開き角度が45°を超える場合は、粘性を有する機能性成分組成物を中空部に取り込ませることは容易になるが、機能性成分組成物の放出の程度が大きくなってしまうので、期待される徐放性が発揮できない。
【0033】
このような開き角度の範囲の繊維を得る方法としては、特殊な形状のノズルを用いた溶融紡糸法を挙げることができる。すなわち、溶融紡糸のためのC形ノズルの開口部が所定の角度になるように設計したノズル金型を用いて紡糸する方法を挙げることができる。
【0034】
また、複合紡糸法により芯鞘繊維を溶融紡糸するとともに、そのときに、繊維断面形状として残す鞘部を繊維形成性ポリマーで構成し、繊維断面形状として残さない芯部を、鞘部のポリマーよりも溶解性や分解性の高いポリマーで構成する。そして、得られた芯鞘繊維の芯部を構成するポリマーを分解または溶解して除去する方法でも、製造することができる。つまり、芯部と鞘部とのポリマーの配合比率を変えることで、繊維表面に出てくる芯部ポリマーの割合を調整することで、開口部の開き角度が所定の範囲である中空繊維を得ることができる。
【0035】
複合紡糸法により得られる芯鞘繊維の断面形状は円形でも非円形でもよく、芯部の形状も円形でも非円形でもよい。複合紡糸の場合の、芯部と鞘部のポリマーの配合比率は、芯鞘比が、横断面の面積比で、芯部:鞘部=35:65〜70:30であればよく、40:60〜60:40であることが好ましく、45:55〜55:45であることがさらに好ましい。すなわち、芯部のポリマーを減量すなわち除去することにより得られる中空繊維における中空率が35〜70%であればよく、40〜60%であることが好ましく、45〜55%であることがさらに好ましい。芯部の比率すなわち中空率が35%未満の場合は、繊維中に取り込ませる機能性成分組成物が少量になってしまう。また、芯部の比率すなわち中空率が70%を超える場合は、鞘部のポリマーが繊維としての強度を持つことができず、繊維構造物に加工できない、あるいは使用時に繊維構造物としての構成を維持できないなどの問題が生じる。
【0036】
本発明の繊維について、その単繊維の太さは、用途によって適宜選択すればよいが、5〜200μmであることが好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。
【0037】
本発明の繊維および繊維構造物の使用方法は、気相中に放置する、液相中で機能性成分組成物を液体に溶解させる、固体に接触させて外部から圧力をかける、などの方法が考えられる。繊維および繊維構造物から機能性成分組成物を徐々に放出させる方法であれば特に限定するものではない。
【0038】
本発明の繊維および繊維構造物の使用目的は、機能性成分組成物の種類や使用方法などによって異なるので特に限定しないが、例えば、防虫剤や芳香剤を空気中に揮散させたり、美容のために機能性成分を肌に付与したり、創傷治癒促進や鎮痛のために薬剤を肌に付与したり、サニタリー製品やトイレタリー製品において泡立ち性、滑り性、撥水性などを向上させたり、家具や床面の艶出しやカビ防止を行ったり、家電製品の静電気を除去したり、フィルムなどへ柔軟性を付与したり、金属表面の防錆を行ったりすることなどが挙げられる。
【0039】
機能性成分組成物を中空繊維の中空部に付着させる際には、単繊維の状態で処理してもよいし、繊維構造物に加工してから処理してもよい。
【0040】
本発明の繊維構造物は、少なくとも中空部に機能性成分組成物を配した中空繊維を一部または全部に用いたものであればよい。つまり、他の合成繊維、半合成繊維、天然繊維と混紡、混織、あるいは交織されたものでもよい。さらに、本発明の繊維構造物を他の繊維構造物やスポンジ状構造物などで挟み込んだ構成とすることも可能である。他の繊維構造物としては、織物、編物、不織布などが挙げられる。
【0041】
このようにして得られた繊維や繊維構造物に、本発明の機能性成分組成物の効果を妨げない範囲であれば、必要に応じて賦形剤、香料、着色料、保存料、顔料、色素、酸化防止剤、増粘剤、金属封鎖剤、保湿剤などを、その使用目的に応じて配合してもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。
以下の実施例、比較例において、各種の物性の測定方法および評価方法は、次のとおりとした。
【0043】
1.開口部の開き角度
電子顕微鏡写真(500〜1000倍)を用いて、繊維断面における中空部の重心点から開口部へ2本の直線を引いて、その間の角度を測定することにより求めた。
【0044】
2.石けんを取り込んだ繊維の割合
中空部に機能性成分組成物として石けんを取り込ませる工程を経て得られた多数本の繊維について、その断面の電子顕微鏡写真から、石けんを取り込んだ繊維の割合(繊維100本中における石けんを取り込んだ繊維の数の百分率)を測定した。サンプル数10についての平均値を求めた。
【0045】
3.モニター試験
中空部に機能性成分組成物として石けんを取り込んで得られた繊維によって、平織布を作製した。20名のパネラーが、それぞれ入浴時において浴槽外で体を洗浄する際に、この平織布を新たに石けんを付けずに使用し、平織布からの起泡状態(最初に湯水に濡らして軽く揉んだときの初期の起泡状態、体洗浄中における布からの起泡の持続性、使用後の満足感)について、下記の基準により5段階で評価を行った。
【0046】
評価5:大変良好
評価4:良好
評価3:普通
評価2:あまりよくない
評価1:悪い
そして、20名の評価点から平均値を求めた。
【0047】
なお、試験に供した平織布は、使い捨ての商品イメージを持つものであった。したがって、持続性は、1回の入浴時における持続性について評価した。
【0048】
実施例1
C字形断面のポリエステル中空繊維(ユニチカファイバー社製、中空率55%、開口部の開き角度14°、繊度2.1dtex(約19μm))を用いて、目付け70g/m、30cm×15cmの平織布を作製した。
【0049】
別に、ラウリン酸ナトリウム10.0質量%、ミリスチン酸ナトリウム5.0質量%、パルミチン酸ナトリウム3.0質量%、オレイン酸ナトリウム3.0質量%含有する液体石けんを作製した。その液体石けんを70℃に加熱して液化させ、上記の平織布を1時間浸漬した。1時間の経過後、液体から平織布を取り出して、40℃の熱風にて予備乾燥させた。次に、上記組成の液体石けん(70℃)に再度1時間浸積した後、取り出して、40℃の熱風にて乾燥させることで、繊維の中空部と開口部に石けん成分を取り込んだ平織布を得た。
【0050】
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例2
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が8°でありかつ中空率が45%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、実施例2の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が40°でありかつ中空率が45%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、実施例3の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が14°でありかつ中空率が35%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、実施例4の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0055】
実施例5
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が14°でありかつ中空率が70%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、実施例5の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
実施例1のC字形断面の中空繊維の代わりに、同じ繊度の中実繊維を用いた。それ以外は実施例1と同様に処理して、石けん成分が付着した比較例1の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0057】
比較例2
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が50°でありかつ中空率が45%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、比較例2の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0058】
比較例3
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が5°でありかつ中空率が35%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、比較例3の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0059】
比較例4
平織布を構成する繊維として、開口部の開き角度が5°でありかつ中空率が55%であるものを用いた。それ以外は実施例1と同じとして、比較例4の平織布を得た。
この平織布についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0060】
実施例1は、初期の起泡性、起泡の持続性がともに良好であり、使用後の満足感も非常に高く、好結果が得られた。
【0061】
実施例2は、実施例1に比べて開口部の開き角度が小さかったため、初期の起泡性、起泡の持続性、使用後の満足感が実施例1よりもやや低いものの、全体的に良好であり、好結果が得られた。
【0062】
実施例3は、開口部の開き角度が大きかったため、初期の起泡性が著しく優れていた。起泡の持続性と使用後の満足感は、実施例1、2には及ばないものの、好結果が得られた。
【0063】
実施例4は、初期の起泡性、起泡の持続性、使用後の満足感がともに良好であり、好結果が得られた。
【0064】
実施例5は、初期の起泡性、使用後の満足感がともに良好であり、また中空率が高かったために起泡の持続性が著しく優れていた。
【0065】
これに対し比較例1は、中実繊維を用いたものであったため、初期の起泡性、起泡の持続性が著しく悪く、使用後の満足感も低いものであった。
【0066】
比較例2は、開口部の開き角度が大き過ぎたため、初期の起泡性は優れていたものの、起泡の持続性に劣り、使用後の満足感も低いものであった。
【0067】
比較例3および比較例4は、開口部の開き角度が小さ過ぎたため、比較例1と同様に初期の起泡性が低く、また起泡の持続性や使用後の満足感も不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態の繊維の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の繊維の断面構造を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の長手方向に伸びた1つ以上の中空部と、繊維の表面から前記中空部までの開口部とを有し、前記中空部の重心点に対する開口部の開き角度が8°〜45°であり、少なくとも前記中空部に1種以上の機能性成分組成物が配されていることを特徴とする繊維。
【請求項2】
中空率が35%〜70%であることを特徴とする請求項1記載の繊維。
【請求項3】
機能性成分組成物が界面活性剤組成物であることを特徴とする請求項1または2記載の繊維。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の繊維を含有するものであることを特徴とする繊維構造物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−84716(P2009−84716A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252794(P2007−252794)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】