説明

繊維の形状評価方法

【課題】 複雑で多様な繊維の形状を客観的、定量的に数値化し、その形状を正確な基準として利用し得る、繊維の形状評価方法を提供すること。
【解決手段】 繊維Hの三次元点群画像を得る第1ステップと、この三次元点群画像に基づき三次元繊維曲線hを作成する第2ステップと、この三次元繊維曲線h上に任意の等間隔で複数定めた計算点Pに対し、(a)計算点P上で三次元繊維曲線hに接する接線ベクトルVt、(b)計算点P上で三次元繊維曲線hに接する曲率ベクトルVc、又は(c)互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトルVn等を描き、互いに隣り合う接線ベクトルVtの間の角度θt、又は互いに隣り合う曲率ベクトルVcの間の角度θc、又は互いに隣り合う法線ベクトルVnの間の角度θn等に基づいて、繊維Hの形状Fを求める第3ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人毛、羊毛、合成高分子繊維等の繊維の形状を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の形状又はヘアスタイルは人の第一印象を決定付ける要素の一つであり、美容的観点や心理学的側面から様々な研究開発が行われている。また、毛髪の形状は法医学分野や人類学分野等においても重要な評価・研究の対象である。これらの研究開発において、毛髪の形状の実態を解析し、定義づけ、分類・評価していく際には、毛髪の形状を客観的、かつ定量的に数値化していくことが必要になる。従来、毛髪の形状を評価する方法には、以下に示すように、毛髪断面比率計測法、末端間距離比率計測法、カール径計測法等がある。
【0003】
毛髪断面比率計測法においては、毛髪断面が真円に近いほど直毛であるとの観点から、毛髪断面における最小径a、及び最大径bを測定し、毛髪の形状を真円率=(a/b)×100(%)として評価している(特許文献1、非特許文献1参照)。末端間距離比率計測法においては、毛髪が縮れた通常の状態で毛髪の先端から末端までの距離aと、当該毛髪を直線状に伸ばした状態で毛髪の先端から末端までの距離bとを測定し、毛髪の形状をa/bとして評価している(非特許文献1参照)。カール径計測法は、毛髪上の任意の点におけるカール径(曲率半径、曲率等)を計測し、毛髪の形状を評価している(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、羊毛の形状を評価する方法には、前記カール径計測法の他、以下に示すように、バルク計測法、クリンプ頻度計測法等がある。バルク計測法は単位重量あたりの羊毛の容積を計測してその形状を評価する方法であり、クリンプ頻度計測法は、一定長さあたりに羊毛のカールが一方の面に表れる頻度を計測してその形状を評価する方法である(非特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−112834号公報
【非特許文献1】D.Hrdy,Am.J.Phys.Anthrop.,39,p7,1973
【非特許文献1】W.V.Bergen,WOOL HANDBOOK Vol.1,3rd edition、John Wiley & Sons、1970
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の毛髪の形状を評価する方法には以下に示すような問題があった。毛髪断面比率計測法においては、計測する毛髪断面が毛髪軸に対して垂直でない場合には正確な真円率を求めることができなかった。また、真円率が100(%)に近くても曲がった毛髪が存在するため、毛髪の形状を正確に定量化できなかった。末端間距離比率計測法又はカール径計測法によって評価した毛髪の形状は、毛髪に変曲点がない場合や毛髪がある程度曲がっている場合等のように限られた状況下ではその形状を反映した正確な値を示すものの、毛髪が三次元的に複雑な形状を持っている場合には正確な値を示さず、人の毛髪を幅広く分類、評価するための基準にはなっていなかった。
【0007】
一方、従来の羊毛の形状を評価する方法にあっては、曲がり具合が比較的揃っている羊毛に対しては有効であるものの、曲がり具合が多様な羊毛について幅広く分類するための基準にはなっていなかった。また、従来の羊毛の形状を評価する方法は羊毛を束や塊として扱う方法であるため、羊毛繊維一本一本の形状を正確に評価できる方法とはなっていなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、人毛、羊毛、合成高分子繊維等の複雑で多様な繊維の形状を客観的、定量的に数値化し、その形状を正確な基準として利用し得る、繊維の形状評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、繊維の三次元点群画像を取得してこれを三次元繊維曲線として表し、その三次元繊維曲線上に任意の等間隔で接線ベクトル、曲率ベクトル、又は互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトル等を描いた場合、互いに隣り合う接線ベクトル、互いに隣り合う曲率ベクトル、又は互いに隣り合う法線ベクトルの間の角度に基づいて求めた値が繊維の実際の形状を客観的、定量的に数値化し得る方法であることを知見した。
【0010】
本発明は前記知見に基づいてなされたもので、繊維の形状について、繊維の三次元点群画像を得る第1ステップと、前記三次元点群画像に基づき三次元繊維曲線を作成する第2ステップと、前記三次元繊維曲線上に任意の等間隔で複数定めた計算点Pに対し、(a)計算点P上で前記三次元繊維曲線に接する接線ベクトルVt、(b)計算点P上で前記三次元繊維曲線に接する曲率ベクトルVc、又は(c)互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトルVnを描き、互いに隣り合う接線ベクトルVtの間の角度θt、又は互いに隣り合う曲率ベクトルVcの間の角度θc、又は互いに隣り合う法線ベクトルVnの間の角度θnに基づいて、前記繊維の形状Fを求める第3ステップ、とを含む繊維の形状評価方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維の形状Fについて、三次元的な変化角度θに基づいて繊維の形状を数値化することにより、繊維の形状Fを正確な基準として利用することができる。また、繊維の形状Fを正確な基準として用いることで、繊維の形状に変化を与える物質等をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の繊維の形状評価方法の最も好ましい一実施形態を詳細に説明する。図2〜図4に示すように、本実施形態の繊維の形状評価方法は、繊維Hの形状について、繊維Hの三次元点群画像を得る第1ステップと、この三次元点群画像に基づき三次元繊維曲線hを作成する第2ステップと、三次元繊維曲線h上に任意の等間隔で複数定めた計算点Pに対し、(a)計算点P上で三次元繊維曲線hに接する接線ベクトルVt、(b)計算点P上で三次元繊維曲線hに接する曲率ベクトルVc、又は(c)互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトルVn等を描き、互いに隣り合う接線ベクトルVtの間の角度θt、互いに隣り合う曲率ベクトルVcの間の角度θc、又は互いに隣り合う法線ベクトルVnの間の角度θn等に基づいて、前記繊維の形状Fを求める第3ステップ、とを含む方法である。かかる評価方法において、評価の対象となる繊維としては、例えば、人毛、羊毛、合成高分子繊維等の種々多様なものがあるが、本実施形態では毛髪を対象の繊維にしている。まず、このような毛髪(繊維)Hの形状評価方法を実現する毛髪形状測定システムを、図1を参照しながら説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の毛髪形状測定システム1は、三次元デジタイザ2、デジタイザ本体装置3、解析装置4、温湿度計5、毛髪固定具6、除震板7、風防ケース8等からなる。三次元デジタイザ2及び解析装置4は、それぞれデジタイザ本体装置3に電気的に接続されている。デジタイザ本体装置3は、三次元デジタイザ2で取得した三次元点群画像を解析装置4に送信するように構成されている。解析装置4には、所定の解析プログラムを記録したメモリが内蔵されている。この解析装置4は、解析プログラムからの命令に従い、デジタイザ本体装置3から受信した三次元点群画像に基づいて、形状評価方法における所定のステップを実行するように構成されている(詳細は後述する)。
【0014】
温湿度計5は、解析装置4に電気的に接続され、測定時の温湿度の情報を送信するようになっている。毛髪固定具6は、測定対象の毛髪Hを三次元デジタイザ2の測定可能域に支持するものである。除震板7は、三次元デジタイザ2の稼動によって発生する振動を減弱させ、毛髪固定具6に支持した毛髪Hが振動するのを防ぐためのものである。風防ケース8は、毛髪固定具6、三次元デジタイザ2等を覆い、風等の外環境の影響で毛髪固定具6に支持した毛髪Hが振動するのを防ぐためのものである。
【0015】
次に、本実施形態の毛髪の形状評価方法を述べる。図1又は図2に示すように、第1ステップにおいては、所定数(例えば10本)の毛髪Hを測定対象にし、この中から選択した1本の毛髪Hを毛髪固定具6に取り付け、三次元デジタイザ2の測定可能域に配置する。この毛髪Hの三次元点群画像を三次元デジタイザ2により取得する。この三次元点群画像を、デジタイザ本体装置3を介して、解析装置4に送信する。
【0016】
第2ステップにおいては、図3に示すように、解析装置4により、毛髪Hの三次元点群画像から元の毛髪Hの形状に沿ったNURBS曲線をxyz空間座標に作成し、これを三次元毛髪曲線h(三次元繊維曲線)とする。
【0017】
第3ステップにおいては、図4に示すように、三次元毛髪曲線hの毛根側の一端に始点の計算点P0をとり、任意の曲線距離q(例えば1mm)毎に、m個の計算点P1〜Pmを、三次元毛髪曲線hに沿って定める。計算点の数mは、三次元毛髪曲線hの長さと、計算点間の曲線距離qとによって決定される数である。そして次の操作(a)、(b)又は(c)を行う。
【0018】
(a)測定点P0、P1、P2、P3、P4、…、Pm毎に、三次元毛髪曲線に接する接線ベクトルVt0、Vt1、Vt2、Vt3、Vt4、…、Vtmを描く。
(b)測定点P0、P1、P2、P3、P4、…、Pm毎に、三次元毛髪曲線に接する曲率ベクトルVc0、Vc1、Vc2、Vc3、Vc4、…、Vcmを描く。
(c)接線ベクトルVt0、Vt1、Vt2、Vt3、Vt4、…、Vtmについて、互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトルVn0、Vn1、Vn2、Vn3、Vn4、…、Vn(m−1)を描く。
【0019】
(a)においては、互いに隣り合う2つの接線ベクトルVt0、Vt1について、これらを通過する平面をxyz空間座標に一つ定め、この平面上において、接線ベクトル(Vt0、Vt1)間の角度θt1を求める。その後、前記同様に、接線ベクトル(Vt1、Vt2)、(Vt2、Vt3)、(Vt3、Vt4)、…、{Vt(m−1)、Vtm}間について、ベクトル間の角度θt2、θt3、θt4、…、θtmを順次求める。ここで求めたベクトル間の角度θt1、θt2、…、θtmは、0°〜180°の絶対値である。
【0020】
(b)においては、互いに隣り合う2つの曲率ベクトルVc0、Vc1について、これらを通過する平面をxyz空間座標に一つ定め、この平面上において、曲率ベクトル(Vc0、Vc1)間の角度θc1を求める。その後、前記同様に、曲率ベクトル(Vc1、Vc2)、(Vc2、Vc3)、(Vc3、Vc4)、…、{Vc(m−1)、Vcm}間について、ベクトル間の角度θc2、θc3、θc4、…、θcmを順次求める。ここで求めたベクトル間の角度θc1、θc2、…、θcmは、0°〜180°の絶対値である。
【0021】
(c)においては、互いに隣り合う2つの法線ベクトルVn0、Vn1について、これらを通過する平面をxyz空間座標に一つ定め、この平面上において、法線ベクトル(Vn0、Vn1)間の角度θn1を求める。その後、前記同様に、法線ベクトル(Vn1、Vn2)、(Vn2、Vn3)、(Vn3、Vn4)、…、{Vn(m−2)、Vn(m−1)}間について、ベクトル間の角度θn2、θn3、θn4、…、θn(m−1)を順次求める。ここで求めたベクトル間の角度θn1、θn2、…、θn(m−1)は、0°〜180°の絶対値である。
【0022】
そして(a)においては、ベクトル間の角度θt1、θt2、…、θtm、点間距離q、計算点の数mを次の式(1)に代入して、毛髪の形状Fを、毛髪Hについて単位長さ当たりの変化角度として求める。ここで求められる毛髪の形状Fは、毛髪Hの曲がり度合いを表す指数である。
F=(θt1+θt2+…+θtm)/(q×m)・・・式(1)
【0023】
また(b)においては、ベクトル間の角度θc1、θc2、…、θcm、点間距離q、計算点の数mを次の式(2)に代入して、毛髪の形状Fを、毛髪Hについて単位長さ当たりの変化角度として求める。ここで求められる毛髪の形状Fは、毛髪Hの捩れ度合いを表す指数である。
F=(θc1+θc2+…+θcm)/(q×m)・・・式(2)
【0024】
更に(c)においては、ベクトル間の角度θn1、θn2、…、θn(m−1)、点間距離q、計算点の数mを次の式(3)に代入して、毛髪の形状Fを、毛髪Hについて単位長さ当たりの変化角度として求める。ここで求められる毛髪の形状Fは、毛髪Hの捩れ度合いを表す指数である。
F={θn1+θn2+…+θn(m−1)}/{q×(m−1)}・・・式(3)
【0025】
その後(a)ないし(c)の何れの場合にも、2本目の毛髪Hを測定対象にし、前記同様、三次元点群画像を得る第1ステップと、三次元点群画像に基づき三次元毛髪曲線hを作成する第2ステップと、毛髪の形状Fを求める第3ステップとを行う。このような毛髪の形状Fの測定を、残りの毛髪Hについても繰り返し行う。
【0026】
このようにして求めた毛髪Hの形状Fは、三次元的な変化角度θを毛髪Hの単位長さあたりで平均化することにより、毛髪Hの形状を客観的、定量的に数値化した度合いであって、例えば、毛髪研究の技術分野等において、毛髪の形状の実態を解析し、定義づけ、分類・評価を実施していく際に正確な基準となるものである。
【0027】
例えば、毛髪研究の技術分野のうち、毛髪の形状に変化を与える物質の開発においては、物質の適用前の形状Fと、物質の適用後の形状Fとの数値を比較することによって、毛髪の形状に変化を与える効果的な物質等をスクリーニングするようにする。
【0028】
例えば、心理学研究の技術分野のうち、毛髪の形状やスタイリングの状態が心理に及ぼす効果を検討する場合等においては、毛髪の形状Fを基準となる指標にしてその効果を評価していくようにする。
【0029】
例えば、法医学研究の技術分野においては、客観的、定量的に数値化された毛髪の形状Fを基準となる指標にして、個人の特定や分類、犯罪捜査等に応用していくようにする。
【0030】
また例えば、人類学研究の技術分野のうち、毛髪Hの形状によって人類学上の特徴を評価し、分類する分野においては、アジア人、白人、黒人等の大雑把な分類によらず、客観的、定量的に数値化された毛髪の形状Fを基準となる指標にして、より細分化した分類・評価をするようにする。
【0031】
以上述べたように、本実施形態によれば、毛髪Hの形状Fについて、三次元的な変化角度θを毛髪Hの単位長さあたりで平均化することにより、毛髪Hの形状を客観的、定量的に数値化するようにしたため、毛髪研究、心理学研究、法医学研究、人類学研究等の技術分野等において、毛髪Hの形状Fを正確な基準として利用することができる。
【0032】
特に、本実施形態の場合、実際の毛髪形状を正確に再現した三次元毛髪曲線hに基づいて、毛髪Hの形状Fを三次元的な変化角度θで表したため、このような形状Fを利用することにより、二次元的な末端間距離比率計測法、カール径計測法等の評価方法を利用する場合と比べ、毛髪Hの実際の形状を三次元空間上の正確な尺度として表すことができる。
【0033】
本発明は、前記実施形態に限られることなく、種々の変更等を行うことができる。例えば、本発明においては、毛髪だけでなく、羊毛等のタンパク質系繊維やセルロース、アルギン酸、キチン等の天然高分子繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の合成高分子繊維、炭素、金属等の無機質繊維等、様々な繊維を測定対象にすることができる。羊毛を測定対象にした場合には、羊毛についての形状Fは、羊毛をその形状によって分類する分野において、羊毛を細分化する際に正確な基準となる。
【0034】
また、形状Fは、互いに隣り合うベクトルVの間の角度θに基づいて求められるのであれば、前記式(1)〜(3)に限られることなく、例えば、次の式(4)、(5)、(6)等に従って求められてもよい。
F=(1/m−1){(θt1−Θt)2+(θt2−Θt)2+…+(θtm−Θt)2
}・・・式(4)
F=(1/m−1){(θc1−Θc)2+(θc2−Θc)2+…+(θcm−Θc)2
}・・・式(5)
F=(1/m−2)〔(θn1−Θn)2+(θn2−Θn)2+…+{θn(m−1)−Θn}2〕・・・式(6)
(ただし、Θt、Θc、Θnは、互いに隣り合うベクトルV間の角度θの平均値を表す。)
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
〔1〕測定精度検定及びその検定方法
様々な形状を持つ11本の毛髪を測定精度検定用の標準毛髪とし、本実施形態の毛髪の形状評価方法について、その測定精度を検定した。毛髪固定具6にゴニオ・回転デバイスを取り付け、これに標準毛髪を支持した。ゴニオでは、標準毛髪を三次元デジタイザの軸と同方向に5°間隔で−15°〜15°(7点)、三次元デジタイザの軸と直交する方向に5°間隔で−15°〜15°(7点)に変化させながら第1ステップの処理を行って三次元点群画像を取得した。また、回転デバイスを用いて30°間隔で0°〜360°(13点)に標準毛髪を回転させながら第1ステップの処理を行って三次元点群画像を取得した。これらの三次元点群画像に対して、第2ステップ、第3ステップの解析処理をおこない、毛髪の支持の仕方に対する測定精度を検定した。次いで、標準毛髪についてそれぞれ、毛髪固定具6に支持するところから10回繰り返し測定をおこない、繰り返し測定の精度検定を行った。毛髪の支持の仕方に対する測定精度の検定結果、及び繰り返し測定の精度検定の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
〔2〕測定精度検定結果
表1に示すように、毛髪の支持の仕方に対する測定精度の検定結果、及び繰り返し測定の精度検定の結果は、いずれも変動係数(CV値)が15(%)未満となり、本実施形態の毛髪の形状評価方法を用いれば、標準毛髪の形状を精密に測定できることが明らかになった。
【0039】
〔実施例2〕
〔1〕標準毛髪の形状測定及びその方法
本実施形態の毛髪の形状評価方法の毛髪の形状Fと、官能評価によって得られた毛髪形状の実態との関連について調査し、本実施形態の毛髪の形状評価方法の正確さを検討した。様々な形状を持つ11本の標準毛髪の形状Fを、本実施形態の毛髪の形状評価方法のうち、式(1)に従って求めた。一方、これらの11本の標準毛髪について、専門パネラー6名により、見た目の曲がり度合いを1(曲がり度合い小)〜11(曲がり度合い大)の数値でスコア化し、その平均値を算出した。標準毛髪の形状Fと平均曲がり度合いスコアとの関係を図5に示す。
【0040】
〔2〕標準毛髪の形状測定結果
図5に示すように、本実施形態の毛髪の形状評価方法の毛髪の形状Fと、見た目による曲がり度合いの平均スコアとは正の相関関係があることが明らかになった。これにより、本実施形態の毛髪の形状評価方法の毛髪の形状Fを基準として利用すれば、毛髪形状の実態についてより客観的、定量的に、かつ正確に数値化することが可能になる。
【0041】
〔実施例3〕
〔1〕シミュレーション評価
本実施形態の毛髪の形状評価方法Aについて、従来の末端間距離比率計測法B、及び従来の最小カール径計測法Cと、シミュレーション解析により、比較評価した。末端間距離比率計測法Bは、上述したように、毛髪が縮れた通常の状態で毛髪の先端から末端までの距離aと、当該毛髪を直線状に伸ばした状態で毛髪の先端から末端までの距離bとを測定し、毛髪の形状をa/bとして求める方法である。最小カール径計測法は、毛髪を曲率半径図表と照らし合わせて、毛髪の形状を最小カール径として求める方法である。
【0042】
〔2〕シミュレーション評価方法
平面座標上に一定の曲率半径r(0.1cm、0.2cm、・・・、1cm、2cm、・・・、∞cm)を持つ円弧を複数個連結した擬似毛髪曲線を複数作成し、この擬似毛髪曲線について、本実施形態の毛髪の形状評価方法Aでは、毛髪の形状Fを式(1)に従って求めた。末端間距離比率計測法Bでは末端間距離比率を求め、最小カール径計測法Cでは最小カール径を求めた。
【0043】
〔3〕シミュレーション評価結果
シミュレーション評価の解析結果、以下の(1)〜(3)が明らかになった。
(1)末端間距離比率計測法Bで求めた末端間距離比率は、変曲点のない擬似毛髪曲線に対しては形状評価方法Aで求めた毛髪の形状Fと相関するが(図6)、変曲点のある擬似毛髪曲線に対しては、形状評価方法Aで求めた毛髪の形状Fよりも過小な結果を示す(図7)。
(2)人の毛髪はくせ毛の程度に従って、「直毛」、「ほぼ直毛(弱いウエーブ毛)」、「ウエーブ毛」、「カール毛(強いウエーブ毛)」、「縮毛」に大別されるが、「縮毛」及び「カール毛(強いウエーブ毛)」は変曲点を有する毛髪で構成されることが多い。従って、変曲点を有する毛髪はくせ毛の程度が大きいと判断されるべきであり、末端間距離比率計測法Bで求めた末端間距離比率では正確な評価ができない。
(3)最小カール径計測法Cで求めた最小カール径は、擬似毛髪曲線に対して正確な評価ができない(図8)。
【0044】
以上述べた点から、本実施形態の毛髪の形状評価方法Aは、従来の末端間距離比率計測法B又は従来の最小カール径計測法Cと比較して、実態に即した毛髪形状の数値化に適していることが明らかになった。
【0045】
〔実施例4〕
〔1〕毛髪の形状に変化を与える物質のスクリーニング
グリコール酸、ピルビン酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、3−クロロプロピオン酸、2−クロロプロピオン酸の5種類のカルボン酸誘導体を用い、これらの物質が毛髪の形状に変化を与えるかどうかについて、本実施形態の毛髪の形状評価方法を用いて評価した。
【0046】
〔2〕スクリーニング評価方法
採取した毛髪を洗浄し、風乾後、本実施形態の毛髪の形状評価方法のうち、毛髪の形状Fを式(1)に従って求めた。その後、前記の物質等を毛髪に適用し、それぞれ3M濃度、40℃で24時間処理を行った。なお、対照としては蒸留水を用いた。処理した毛髪は水洗し、風乾の後、再び毛髪の形状Fを式(1)に従って求めた。処理前後における毛髪の形状Fの測定結果から、前記の物質が毛髪の形状に変化を与えるかどうかについて評価した。処理前後における毛髪の形状Fの測定結果を図9に示す。
【0047】
〔3〕スクリーニング評価結果
図9に示すように、前記の物質を毛髪に適用することで毛髪の形状Fが様々に変化することが明らかになった。これにより、毛髪又は頭皮に物質等を適応し、その処理前後の毛髪の形状を、本実施形態の毛髪の形状評価方法の毛髪の形状Fに基づいて評価することで、毛髪の形状に変化を与える物質のスクリーニングに用いることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の繊維の形状評価方法は、例えば、毛髪の形状の実態解析調査、毛髪の形状の分類・評価、毛髪の形状に変化を与える物質開発等の毛髪研究の技術分野や、例えば、毛髪の形状と心理との関連調査等の心理学研究の技術分野、例えば、個人の特定や分類、犯罪捜査等の法医学研究の技術分野、例えば、毛髪の形状と人類の進化、移動、分布等との関連調査等の人類学研究の技術分野、例えば、羊毛の形状の分類・評価、羊毛の形状に変化を与える物質開発等の羊毛研究の技術分野や、例えば、合成高分子繊維の作製等の繊維研究の技術分野、等に幅広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態の毛髪形状測定システムの概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態の毛髪の形状評価方法の第1ステップの説明に用いる図である。
【図3】本実施形態の毛髪の形状評価方法の第2ステップの説明に用いる図である。
【図4】本実施形態の毛髪の形状評価方法の第3ステップの説明に用いる図である。
【図5】実施例2の標準毛髪の形状Fと平均曲がり度合いスコアとの関係を示すグラフである。
【図6】実施例3のシミュレーション評価の解析結果(変曲点なし)を示すグラフである。
【図7】実施例3のシミュレーション評価の解析結果(変曲点あり)を示すグラフである。
【図8】実施例3のシミュレーション評価の解析結果(最小カール径)を示すグラフである。
【図9】実施例4のスクリーニング評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
F 毛髪(繊維)の形状
H 毛髪(繊維)
h 三次元毛髪曲線(三次元繊維曲線)
m 計算点の数
P 計算点
q 計算点間の曲線距離
Vt 接線ベクトル
Vc 曲率ベクトル
Vn 互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトル
θt 互いに隣り合う2つの接線ベクトルの間の角度
θc 互いに隣り合う2つの曲率ベクトルの間の角度
θn 互いに隣り合う2つの法線ベクトルの間の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の形状について、繊維の三次元点群画像を得る第1ステップと、前記三次元点群画像に基づき三次元繊維曲線を作成する第2ステップと、前記三次元繊維曲線上に任意の等間隔で複数定めた計算点Pに対し、(a)計算点P上で前記三次元繊維曲線に接する接線ベクトルVt、(b)計算点P上で前記三次元繊維曲線に接する曲率ベクトルVc、(c)互いに隣り合う2つの接線ベクトルで形成される平面の法線ベクトルVnを描き、互いに隣り合う接線ベクトルVtの間の角度θt、又は互いに隣り合う曲率ベクトルVcの間の角度θc、又は互いに隣り合う法線ベクトルVnの間の角度θnに基づいて、前記繊維の形状Fを求める第3ステップ、とを含む繊維の形状評価方法。
【請求項2】
前記第3ステップにおいて、前記繊維の形状Fが次の式(1)に従い、単位長さ当たりの変化角度として計算され、前記繊維の曲がり度合いを表す、請求項1記載の繊維の形状評価方法。
F=(θt1+θt2+…+θtm)/(q×m)・・・式(1)
(ただし、前記三次元繊維曲線上の始点の計算点をP0とし、P0以外の計算点の数をm(1≦k≦m)とした場合、qは前記三次元繊維曲線上の計算点Pk−1、Pk間の曲線距離であり、θtkは計算点Pk−1、Pkについての接線ベクトルVtk−1、Vtk間のなす角度の絶対値である。)
【請求項3】
前記第3ステップにおいて、前記繊維の形状Fが次の式(2)に従い、単位長さ当たりの変化角度として計算され、前記繊維の捩れ度合いを表す、請求項1記載の繊維の形状評価方法。
F=(θc1+θc2+…+θcm)/(q×m)・・・式(2)
(ただし、前記三次元繊維曲線上の始点の計算点をP0とし、P0以外の計算点の数をm(1≦k≦m)とした場合、qは前記三次元繊維曲線上の計算点Pk−1、Pk間の曲線距離であり、θckは計算点Pk−1、Pkについての曲率ベクトルVck−1、Vck間のなす角度の絶対値である。)
【請求項4】
前記第3ステップにおいて、前記繊維の形状Fが次の式(3)に従い、単位長さ当たりの変化角度として計算され、前記繊維の捩れ度合いを表す、請求項1記載の繊維の形状評価方法。
F={θn1+θn2+…+θn(m−1)}/{q×(m−1)}・・・式(3)
(ただし、前記三次元繊維曲線上の始点の計算点をP0とし、P0以外の計算点の数をm(1≦k≦m)とした場合、qは前記三次元繊維曲線上の計算点Pk−1、Pk間の曲線距離であり、θnkは2つの接線ベクトルVtk−1、Vtkとで形成される平面の法線ベクトルVnk−1と、2つの接線ベクトルVtk、Vtk+1とで形成される平面の法線ベクトルVnk間のなす角度の絶対値である。)
【請求項5】
前記第1ステップにおいて、三次元デジタイザを用いて前記繊維の前記三次元点群画像を取得する請求項1ないし4の何れかに記載の繊維の形状評価方法。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れかに記載の方法を用いて繊維の形状に変化を与える物質をスクリーニングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−268229(P2008−268229A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148860(P2008−148860)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【分割の表示】特願2004−171879(P2004−171879)の分割
【原出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】