説明

繊維めっき治具、及び、これを用いた繊維めっき方法

【課題】繊維めっき装置の小型化を図るとともに、繊維めっきに必要な時間を短縮し、効率的に繊維めっきを実施することができる繊維めっき治具、及び、これを用いた繊維めっき方法を提供する。
【解決手段】繊維めっき治具10は、回転軸14を中心に回転するものであって、漸次狭幅となる部分等を備えた開口スリット12aが形成され、被めっき繊維が掛架される掛架凹部12bが列設された被めっき繊維の掛架板12を備え、掛架凹部12bが回転軸14を中心とする円周上に配置され、且つ、開口スリット12aが回転軸14に対して外向きに形成される。掛架板12は、回転軸14を中心とし、これを取り囲んで複数設けられ、回転軸14と平行に配置される支持骨格16cに取り付けられ、支持骨格16cにより支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維めっき治具、及び、これを用いた繊維めっき方法に関し、更に詳しくは、繊維めっき設備の小型化を図るとともに、被めっき繊維(フィラメントそのもの、及び/又は、数本から数千本のフィラメントが集まった繊維束を意味する、以下同じ)のめっき液に浸漬する長さを従来よりも長くすることにより、繊維めっきに必要な時間を短縮し、効率的に繊維めっきを実施する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の技術として、特許文献1に開示された繊維束の連続めっき装置が知られている。この連続めっき装置は、各繊維に無電解めっき又は電気めっきを均等に施した繊維束を連続して能率良く製造することを目的としたものであり、エッチング部、中和部、表面調整部、巻き取り部、キャタリスト部、アクセレータ部、無電解めっき部、酸洗部、第1電気めっき部、第2電気めっき部を備え、直線型の処理槽により各部で処理がなされる。
【0003】
【特許文献1】特開平2003−183886
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の連続めっき装置は、被めっき繊維を処理する処理槽に浸漬される被めっき繊維が直線型にセットされるため、めっき処理がなされるめっき槽(以下単に、「めっき槽」という)は直線型とする必要があり、その長さとして数メートル〜数十メートル(3m〜70m)の長さが必要である。従って、繊維めっき装置を設置する場所として広い設置面積が必要であるという問題がある。また、装置の大型化には限界があるため、一度に浸漬できる被めっき繊維の長さも自ずから制限される。従って、3m〜70mのめっき装置を用いてもせいぜい毎分0.5mの速度で繊維をめっきすることができるに過ぎないという問題がある。特許文献1に開示の連続めっき装置の場合に、例えば、径60mmのピンチローラーで被めっき繊維を送り出した場合には、1回転で180mmしか浸漬できないのと同じ結果となる。
【0005】
更に、特許文献1に開示の連続めっき装置は、めっき槽内に案内ローラが右→左→右→左…と設けられる関係で被めっき繊維が案内ローラと接触する面積が多く、しかも、被めっき繊維が引っ張られやすい。そのため、被めっき繊維に、負荷がかかりすぎて繊維を構成するフィラメント切れが起こりやすく、フィラメント切れが更に多くなると糸が弱くなり糸切れに発展するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、繊維めっき装置の小型化を図るとともに、繊維めっきに必要な時間を短縮し、効率的に繊維めっきを実施することができる繊維めっき治具、及び、これを用いた繊維めっき方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、フィラメント切れや糸切れを防止できる繊維めっき治具、及び、これを用いた繊維めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る繊維めっき治具は、
回転軸を中心に回転する繊維めっき治具であって、
漸次狭幅となる部分を備えた開口スリット、又は、
折曲形状若しくは屈曲形状を備え且つ非曲面部が形成された開口スリット、が形成された掛架凹部であって被めっき繊維が掛架される掛架凹部又はC型掛架部が列設された被めっき繊維の掛架手段と、
前記掛架手段の掛架凹部又はC型掛架部が前記回転軸を中心とする円周上に配置され、且つ、前記開口スリットが前記回転軸に対して外向きに形成されていることを要旨とする。
【0008】
上記構成を備えた繊維めっき治具によれば、掛架手段には、漸次狭幅となる部分を備えた開口スリット、及び/又は、折曲形状若しくは屈曲形状を備え且つ非曲面部が形成された開口スリット、が形成された掛架凹部であって被めっき繊維が掛架される掛架凹部又はC型掛架部が列設される。そして、前記掛架凹部又はC型掛架部は、前記掛架手段の回転軸を中心とする円周上に配置され、且つ、前記開口スリットが前記回転軸に対して外向きに形成される。従って、被めっき繊維は、その先端をエンド側の巻取装置に取り付け、これを繰り出して前記掛架凹部又はC型掛架部に掛架し、順次螺旋状に当該掛架凹部又はC型掛架部に掛架することにより当該被めっき繊維は、当該繊維めっき治具に巻装される。
【0009】
そして、被めっき繊維のめっき開始部分をスタート側の送出装置に取り付け、被めっき繊維が巻装された繊維めっき治具をめっき液に浸漬して、送出装置・回転軸・巻取装置を同期させながら作動させると、当該繊維めっき治具が回転し、所定時間経過するとめっき処理が完了する。
【0010】
この場合に、前記開口スリットは、
折曲形状又は屈曲形状を備え且つ非曲面部及び当該非曲面部に対して傾斜して形成される対向部が形成された開口スリット、又は、
折曲形状又は屈曲形状を備え且つ非曲面部及び当該非曲面部に対して傾斜して形成される対向部が形成された開口スリットであって当該開口スリットと当該掛架手段との角部を面取りした面取部が形成された開口スリットでもよい。
【0011】
この場合に、前記掛架凹部又はC型掛架部の縦方向(回転軸に平行な方向)の間隔は、糸の太さ、フィラメント数に応じて調整しうるが、1mm〜10mmが好ましい。間隔が狭すぎると被めっき繊維の掛架作業がしにくいからであり、間隔が広すぎると繊維めっきの効率に悪影響を及ぼすためである。掛架手段の長さは、100mm〜1500mmが好ましく、300mm〜1000mmが更に好ましい。短すぎると繊維めっき量が少なくなるからであり、長すぎるとめっき液が大量に必要となり実用的ではないからである。掛架手段の径(被めっき繊維が掛架される部分の径をいう)は、240mm〜1100mmが好ましく、340mm〜500mmが更に好ましい。小さすぎると繊維めっき量が少なくなるからであり、大きすぎると設置面積を要するとともに、めっき液が大量に必要となり実用的ではないからである。
【0012】
上記の本発明に係る繊維めっき治具は、更に、
前記掛架手段を取り付けこれを支持するための支持手段であって、前記回転軸を中心として当該回転軸を取り囲んで当該回転軸と平行又は斜めに配置される支持手段を備えるとよい。
この場合に、前記掛架凹部は、当該掛架手段が板状部材からなる場合には、板厚方向に対して平行又は傾斜して形成されていることが好ましい。被めっき繊維は螺旋状に当該繊維めっき治具に掛架されるが、掛架凹部を板厚方向に対して傾斜して形成させる場合には傾斜方向をその螺旋方向に合わせることができ被めっき繊維のフィラメント切れや糸切れを防止しながら被めっき繊維をスムーズに送り出し、めっきを実施し、巻き取ることができるからである。
【0013】
前記C型掛架部は、断面円又は楕円状部材からなり、前記支持手段に一体的に形成されていることが好ましい。被めっき繊維は螺旋状に当該繊維めっき治具に掛架されるが、C型掛架部が断面円又は楕円状部材であれば被めっき繊維のフィラメント切れや糸切れを防止しながら被めっき繊維をスムーズに送り出し、めっきを実施し、巻き取ることができるからである。
【0014】
本発明に係る繊維めっき治具の前記掛架手段は、チタン製であり、前記開口スリットがエッチング加工によるものであることが好ましい。チタンは耐食性に優れるためである。エッチング加工が好ましいのは、前記開口スリットの角部を丸めることができるため、フィラメント切れや糸切れを防止しうるためである。
本発明に係る繊維めっき治具は、縦横サイズ(掛架手段を取り付けたサイズ)が5000mm以内であることが好ましい。設置面積を従来より大幅に縮小しながら、従来のめっき効率の2倍以上を達成できるからである。
本発明に係る繊維めっき方法は、当該繊維めっき治具を用いて無電解めっき又は電解めっきを行うことを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る繊維めっき治具は、回転軸を中心に回転するものであって、漸次狭幅となる部分を備えた開口スリット、及び/又は、折曲形状若しくは屈曲形状を備え且つ非曲面部が形成された開口スリット、が形成された掛架凹部であって被めっき繊維が掛架される掛架凹部又はC型掛架部が列設された被めっき繊維の掛架手段と、前記掛架手段の掛架凹部又はC型掛架部が前記回転軸を中心とする円周上に配置され、且つ、前記開口スリットが前記回転軸に対して外向きに形成されているから、従来数十メートル要しためっき槽の設置面積を縦横5000mm以内とすることができるため、繊維めっき装置の小型化を図ることができる。
【0016】
本発明に係る繊維めっき治具は、その掛架凹部又はC型掛架部に被めっき繊維が掛架され、順次螺旋状に当該掛架凹部又はC型掛架部に掛架され、この状態でめっきが開始されるが、そのめっき時における回転速度を調整することで繊維めっきに必要な時間を短縮し、効率的に繊維めっきを実施することができるという効果がある。更に、被めっき繊維を前記掛架凹部又はC型掛架部へ掛架するときの被めっき繊維のテンションを緩めにすれば、フィラメント切れや糸切れを防止できるという効果がある。
【0017】
本発明に係る繊維めっき治具は、折曲形状若しくは屈曲形状を備え且つ非曲面部が形成された開口スリット、が形成された掛架凹部を備えるため、被めっき繊維が掛架凹部で束になることがなく非曲面部のところで並列して巻回され、円滑にめっきを行うことができるという効果がある。
【0018】
本発明に係る繊維めっき治具は、掛架凹部又はC型掛架部の間隔を狭めたり、掛架手段の長さを長くすることにより、一度にめっきできる繊維の量を増加できるため、これによっても、繊維めっきに必要な時間を短縮し、効率的に繊維めっきを実施することができるという効果がある。更に、掛架凹部又はC型掛架部の間隔や掛架手段の長さの調整は、設置面積の有効活用を促すという効果がある。
また、本発明に係る繊維めっき治具は、従来と同じ設置面積より狭くても一度にめっきできる繊維の量を増加させることができるため、繊維めっきに必要な時間を短縮し、効率的に繊維めっきを実施することができるという効果がある。
本発明に係る繊維めっき方法は、本発明に係る繊維めっき治具を用いるものであるから上記と同様の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る繊維めっき治具の外観斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る繊維めっき治具の上面図及び正面図である。
【図3】同図(a)は本発明の一実施形態に係る繊維めっき治具に取り付けられる掛架板の正面図、同図(b)〜(e)は各実施形態に係る掛架凹部の拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る繊維めっき方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
(第一の実施形態)
(繊維めっき治具)
図1は、本発明の一実施形態に係る繊維めっき治具10の外観斜視図であり、図2は、その上面図及び正面図であり、図3(a)及び同図(b)は、掛架板12を拡大して示す正面図である。これらの図において、繊維めっき治具10は、これに被めっき繊維を巻装した状態でめっき液が充填されためっき槽(無電解めっき槽、電解めっき槽)に浸漬して用いられ、サーボモーター制御により回転軸14を中心に回転し、順次、新たな被めっき繊維をめっき液へ浸漬するとともにめっき済み繊維を次の処理へ送り出す。
【0021】
繊維めっき治具10は、掛架板12と、回転軸14と、ラック本体16とを備える。繊維めっき治具10は、設置面積の観点によれば縦横サイズ(掛架板12を取り付けたサイズをいう、以下同じ)を5000mm以内とすることができるが、3000mm以内がより好ましく、1100mm以内がより好ましく、500mm以内がより好ましい。但し、めっき効率の観点によれば縦横サイズとして240mm以上、更に好ましくは、340mm以上を確保すべきである。また、繊維めっき治具10は、その掛架板12の長さとしてめっき効率の観点から100mm以上を確保する必要があるが、めっき作業・メンテナンス作業を考慮すると1500mm以内が好ましい。繊維めっき治具10の特に好ましいサイズは、縦300mm〜400mm、幅300mm〜400mm、高さ300mm〜1000mm(掛架板12の高さと同じ)である。
【0022】
回転軸14は、ラック本体16、支持骨格16c、掛架板12を含む繊維めっき治具10を回転させる回転体である。回転軸14はめっき液に浸漬して用いられる。従って、回転軸14の材質は、回転軸14がめっき液と化学反応を起こさないもの又は化学反応を起こさないよう加工がなされたものであり、且つ、硬い材質であれば特に限定されないが、例えば、金属製(例えば、銅)のものに不導体樹脂の皮膜(塩化ビニル樹脂に顔料をまぜたゾルを塗布して形成した皮膜、テフロン皮膜、ポリエチレン皮膜等)を形成させたものが用いられる。回転軸14は、図示を省略する制御装置によって回転速度が制御される。
【0023】
ラック本体16は、円柱又は角柱状のスケルトンからなる。ラック本体16は、その材質は特に限定されず、金属製、高分子樹脂製等各種の材質を用いることができるが、本実施形態においては、銅製の平板や丸棒が好適である(この場合、無電解めっきの場合には上記と同様の不導体樹脂の皮膜を形成させる)。加工性では平板が好ましいが、図1は丸棒の一例を示す。ラック本体16は、放射状骨格16aと、外周骨格16bと、支持骨格16cとからなる。
【0024】
放射状骨格16a及び支持骨格16cは、本実施形態においては、同一部材からなる。すなわち、放射状骨格16aは、回転軸14の上部から水平方向に放射状に延びて所定長さ(概ね、ラック本体16の半径よりやや小さい程度)で鉛直方向に屈曲して、支持骨格16cとなる。支持骨格16cは、鉛直方向に延びて所定長さ(概ね、掛架板12の長手方向の長さよりやや小さい程度)で先ほどの水平方向と逆向きの水平方向に屈曲して、放射状骨格16aとなる。放射状骨格16aは、回転軸14に向かって延びて回転軸14に連繋する。
外周骨格16bは、放射状骨格16aと支持骨格16cの境界である屈曲部分のところに各種固定方法、例えば、溶着・接着等の化学的方法やネジ止め・係合等の機械的方法その他の方法(以下、「各種固定方法」というときは同様の意味で用いる)によりその屈曲部分付近に取付又は接合される。放射状骨格16aは、回転軸14に各種固定方法により取付又は接合される。
【0025】
すなわち、本実施形態では、8本の放射状骨格16aが回転軸14の上下二箇所から等角度間隔で放射状に延びる。支持骨格16cは、回転軸14を中心として回転軸14を取り囲んで45度間隔で複数本(8本)設けられ、回転軸14と平行に配置される。支持骨格16cは、掛架板12を取り付け、これを支持する。支持骨格16cは8本設けられていることから、掛架板12は、各々、隣接する順番に第一掛架板〜第八掛架板とも称される。
【0026】
掛架板12(第一掛架板〜第八掛架板)は、平面状又は曲面状の板状部材からなり、その材質としては、金属製(無電解めっきの場合には不導体樹脂でコーティングする)、高分子樹脂製等を適用することができ、特に限定されない。掛架板12は、これが平面状の板状部材からなる場合には、板厚1mm〜5mm、板幅20mm〜50mm、板長さ100mm〜1500mm(好ましくは、300mm〜1000mm)のサイズが好ましい。板厚をこの範囲としたのは、厚すぎると被めっき繊維が段状になり、薄すぎると板の強度が弱くなるからである。また、板幅をこの範囲としたのは、掛架板12を固定板18に取り付けるための取付け部分を要するためである。板長さをこの範囲としたのはめっき効率の観点による。
掛架板12は、めっき液に浸漬されるため、めっき液と化学反応を起こさない又は起こさないよう表面処理がなされたものが好ましく、本実施形態では導電性は良好ではないが耐食性が良好なチタン製のものが用いられる。掛架板12は、酸性浴以外ではステンレス製でもよい。
【0027】
掛架板12は、漸次狭幅となる部分を備えた開口スリット12aが形成された掛架凹部12bであって被めっき繊維が掛架される掛架凹部12bが列設されている。掛架凹部12bは、板厚方向に対して平行又は傾斜して形成された開口スリット12a付きの貫通孔である。掛架凹部12bは、フィラメント切れや糸切れを防止する観点から内周方向及び板厚方向に尖った部分がなく、且つ、漸次狭幅となる部分を備えている限り、その形状は特に限定されず、円形状、楕円形状、角部が丸められた多角形状、その他の曲線・曲面形状を採用しうる。掛架凹部12bに漸次狭幅となる部分を形成するのは、めっき処理中に被めっき繊維が掛架凹部12bから外れるのを防止するためである。図3に示すように、掛架凹部12bは、円形であり、その円弧が開口スリット12aに向かって漸次狭幅となる。
【0028】
本実施形態においては、掛架凹部12bは、エッチング加工により形成されるため、板厚方向に平行に形成され、更に掛架凹部12bの板厚方向の角部は丸めが施される。エッチング加工は、例えば、フッ化物系の液をスプレーすることにより行う。
尚、掛架凹部12bに代えて、断面円又は楕円状部材からなるC型掛架部(図示省略)を支持骨格16cに直接一体的に形成してもよい。この場合、C型掛架部は、支持骨格16cが金属製であれば同じ種類の金属製とするのが好ましく、支持骨格16cが高分子樹脂製であれば同じ種類の高分子樹脂製とするのが好ましい。
【0029】
掛架凹部12b又はC型掛架部の長手方向(回転軸14に平行な方向)の間隔(隣接する掛架凹部12b又はC型掛架部の同じ位置どうしの間の距離)は、1mm〜10mmが好ましい。間隔が狭すぎると被めっき繊維の掛架作業の能率に悪影響を及ぼすとともに被めっき繊維の内面側(回転軸14に対向する側)へのめっきの付き周りが悪くなるからである。一方、間隔が広すぎると繊維めっきの効率に悪影響を及ぼすためである。掛架板12の長さは、100mm〜1500mmが好ましく、300mm〜1000mmが更に好ましい。短すぎると繊維めっき量が少なくなるからであり、長すぎるとめっき液が大量に必要となり実用的ではないからである。
【0030】
掛架板12は、支持骨格16c上に適当な間隔を置いて取り付けられる固定板18を用いて取り付けられる。固定板18には、固定孔18a,18a…が形成され、固定孔18a,18a…のところで支持骨格16cに掛架板12が取り付けられる。従って、掛架板12は固定板18を用いて支持骨格16cに沿った位置となり、且つ、掛架凹部12bとは反対側に形成された固定孔12cのところで取り付けられるため、掛架凹部12bは、回転軸14を中心とする円周上に配置され、且つ、開口スリット12aが回転軸14に対して外向きに形成される。C型掛架部の場合においても、開口スリット12aが回転軸14に対して外向きに形成される。
【0031】
このように、掛架凹部12b又はC型掛架部は、掛架板12の回転軸14を中心とする円周上に配置され、且つ、開口スリット12aが回転軸14に対して外向きに形成されるため、被めっき繊維は、その先端をエンド側の巻取装置に取り付け、これを繰り出して掛架凹部12b又はC型掛架部に掛架し、順次螺旋状に掛架凹部12b又はC型掛架部に掛架することにより被めっき繊維は、繊維めっき治具10に巻装される。
【0032】
そして、被めっき繊維のめっき開始部分をスタート側の送出装置に取り付け、被めっき繊維が巻装された繊維めっき治具をめっき液に浸漬して、送出装置・回転軸・巻取装置を同期をとりながら作動させると、繊維めっき治具10が回転し、所定時間経過するとめっき処理が完了する。被めっき繊維を繊維めっき治具10に巻回してめっき処理を行うとサーボモーターの回転速度が同じでも、ラック本体16の径を調整するだけで、1回転あたりのめっき量を調整することができる。例えば、ラック本体16を径約300mmとした場合には1回転で約1mの被めっき繊維を浸漬するのと同様の効果が得られる。
【0033】
掛架凹部12bは、板厚方向に対して傾斜して形成される場合には、掛架凹部12bに掛架される被めっき繊維の螺旋方向に沿うように傾斜させる。この場合、エッチング加工において斜め方向に貫通孔が形成されるよう、掛架板12を所定角度傾斜させた状態でエッチングを行う等の手法がとられる。
【0034】
繊維めっき治具10が設置される繊維めっき設備(図示省略)には、図示を省略するが、陽極、濾過器、ヒーター、エアブロー、サブタンク、超音波装置が設けられるめっき槽(図示省略)と、スタート側(送り側)及びエンド側(巻き側)の各サーボモーター等とが備えられる。
【0035】
陽極は、銅板、銅チップ、ニッケル板、ニッケルチップ等が用いられる。銅板やニッケル板はめっき槽の内壁面に取り付けられ、銅チップやニッケルチップはチタンケースで作製したケージに収容されめっき槽に投入される。陰極は、被めっき繊維がこれを構成し、掛架板12、回転体14を介して電気的に通電される。濾過器は、フィルターを備え、めっき液を循環させてフィルターで液中の汚れを取る。ヒーターは、テフロン製、石英製、ステンレス製、チタン製等を用いることができめっき液の種類によって使い分けがなされる。石英製ヒーターは、ラック本体16と衝突すると破損するため保護管が設けられる。保護管は、孔空き塩化ビニル製パイプからなる。
【0036】
エアブローは、めっき液を攪拌するために空気を送って気泡を作り出すためのものであり、空気を送り出すブロアーに小さい穴をあけた塩化ビニルパイプ等を被せたものがめっき液に沈めて用いられる。サブタンクは、めっき液を加温し、めっき液に薬品を補給した後、めっき槽へ薬品が補給されためっき液を補充するものであり、めっき槽よりサイズが大きいものが好ましい。超音波装置は、めっきの付き周りを向上させるために用いられるものであり、めっき槽内で回転軸14の側面に超音波があたるように設置される。超音波を被めっき繊維にあてることにより、被めっき繊維を振動させてめっき液の浸透を促すためである。各サーボモータは、サーボアンプによりインバータ制御され、被めっき繊維を送り出す又は巻き取るためのボビンの回転制御を行う。各サーボモータは、巻回した被めっき繊維に適度な緩みをもたせるよう位相制御される。
【0037】
(第二の実施形態)
第二の実施形態は、図3(c)に示すように、折曲形状又は屈曲形状、例えば、L字型の開口スリット22aであって、非曲面部22cが形成された開口スリット22aが形成された掛架凹部22bを示す。折曲形状又は屈曲形状としたことにより被めっき繊維は掛架凹部22bから容易に外れない。非曲面部22cを形成したことにより、被めっき繊維が並列して巻回される。ここで、「非曲面部」とは、凹部や凸部が形成されていない平面状部分・直線状部分をいい、平面状である限り面方向・直線方向は特に限定されない(以下同じ)。非曲面部は、例えば、鉛直方向とすることができる。開口スリット22aは、板厚方向に対して平行又は傾斜して形成される。その他の点については第一の実施形態と同様であるため、その説明をもって第二の実施形態における説明に代える。
【0038】
(第三の実施形態)
第三の実施形態は、図3(d)に示すように、折曲形状又は屈曲形状の開口スリット32aであって、非曲面部32cが形成された掛架凹部32bを示す。掛架凹部32bにおいては、非曲面部32cに対向する対向部32dが、開口に向かって非曲面部32cに対して傾斜して形成される。対向部32dは、開口スリット32aが漸次狭幅となるように傾斜する。折曲形状又は屈曲形状としたことにより被めっき繊維は掛架凹部32bから容易に外れない一方、対向部32dを傾斜させたため、逆に折曲形状又は屈曲形状部分で引っかかって必要以上に外れにくくならない。開口スリット32aは、板厚方向に対して平行又は傾斜して形成される。その他の点については第一の実施形態と同様であるため、その記述をもって第三の実施形態における説明に代える。
【0039】
(第四の実施形態)
第四の実施形態は、図3(e)に示すように、折曲形状又は屈曲形状の開口スリット42aであって、非曲面部42c及び傾斜部42dが形成された掛架凹部42bを示す。掛架凹部42bにおいては、非曲面部42cに対向する対向部42dが、開口に向かって非曲面部42cに対して傾斜して形成される。対向部42dは、開口スリット42aが漸次狭幅となるように傾斜する。折曲形状又は屈曲形状としたことにより被めっき繊維は掛架凹部42bから容易に外れない一方、対向部42dを傾斜させたため、逆に折曲形状又は屈曲形状部分で引っかかって必要以上に外れにくくならない。また、開口スリット42aと掛架板12aの外周との角部を面取りして形成される面取部42eが開口スリット42aの開口部分に形成される。面取部42eにより、被めっき繊維の掛架作業がしやすくなる一方、めっき終了時に開口スリット42aから糸が外れるときに糸に傷がつきにくい。開口スリット42aは、板厚方向に対して平行又は傾斜して形成される。その他の点については第一の実施形態と同様であるため、その記述をもって第四の実施形態における説明に代える。
【0040】
次に、本発明の一実施形態に係る繊維めっき治具10を用いた繊維めっき方法について説明する。
(繊維めっき方法)
本発明の一実施形態に係る繊維めっき治具、及び、繊維めっき方法を用いてめっきすることができる被めっき繊維としては、高分子繊維材料(芳香族ポリアミド(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)、ポリエステル、パラ型アラミド繊維(コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド)、ガラス繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維、その他の有機,無機高分子繊維材料)が一例としてあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
表1は、本発明の一実施形態に係る繊維めっき方法及び当該方法に適した被めっき繊維を示す。第1及び第3方法に係る繊維めっき方法は、被めっき繊維を高分子樹脂製(例えば、ポリプロピレン製)の透液性又は透気性(例えば、格子状又は網目状)の円筒状巻芯に緩めに巻回して、被めっき繊維をソフト巻きした巻筒(以下単に「ソフト巻筒」ともいう)に適用するのに好適な方法である。第2及び第4方法に係る繊維めっき方法は、被めっき繊維(糸状の被めっき繊維にダミー繊維を繋いだものであり以下単に「糸」ともいう)をボビン・トゥー・ボビン(bobin to bobin)又はリール・トゥー・リール(reel to reel)で送りながらめっきをする場合に好適な方法である。ここで、ダミー繊維を繋ぐのは、めっき開始時は各処理工程を通過しない繊維、あるいは、めっき液に浸漬できない繊維が出るため、その部分を無駄にしないためである。
【0042】
【表1】

【0043】
(第1方法)
(1)ソフト巻き工程は、ソフト巻筒を作製する工程である。ソフト巻筒の作製に際しては、めっき液が被めっき繊維に浸透するよう緩めに巻回される。
【0044】
(2)精練工程は、ソフト巻筒を精練剤で処理する工程である。これにより、被めっき繊維のフィブリル化の防止、油剤・汚れ等の再付着を防止する。精練剤としては、例えば、苛性ソーダ、非イオン系界面活性剤、有機溶剤等を用いることができるがこれに限定されない。精練剤で処理した後は、ソフト巻筒を流水槽を潜らせて水洗する。これにより、高分子繊維への余分な付着物を除去する。尚、精練工程は、被めっき繊維に油剤・ゴミ等が付いていない場合や帯電していない場合等には省略できる。
精練工程によれば、図4(a)に示すように、高分子繊維の表面から油・ゴミ等が除去されている。
【0045】
(3)エッチング工程は、被めっき繊維を腐食することにより表面介在物や層を取り除き、被めっき繊維表面を親水化させる工程である。例えば、ソフト巻筒を70℃の1g/L苛性ソーダ液に10分浸漬する手法を用いることができるがこれに限定されない。エッチング処理後は、ソフト巻筒を流水槽に潜らせて水洗する。これにより、高分子繊維への余分な付着物を除去する。エッチング工程によれば、図4(b)に示すように、高分子繊維の表面が親水化されている。
【0046】
(4)表面調整工程は、被めっき繊維をカチオン化することにより、被めっき繊維の表面にめっきの核を付けやすくする工程である。例えば、ソフト巻筒をカチオン系界面活性剤溶液に浸漬する手法を用いることができるがこれに限定されない。表面調整処理後は、ソフト巻筒を流水槽を潜らせて水洗する。表面調整工程によれば、図4(c)に示すように、高分子繊維の表面がカチオン化されている。
【0047】
(5)触媒付与工程は、被めっき繊維の表面にめっきの核となる触媒金属コロイドを吸着・結合させる工程である。例えば、ソフト巻筒を触媒溶液に浸漬する手法を用いることができるがこれに限定されない。触媒溶液としては、例えば、PdとSnのコロイド溶液を用いることができる。この溶液は、塩化スズ(II)と塩化パラジウム(II)をそれぞれ塩酸溶液で溶解させたものを攪拌しながら混合し、加熱しながら熟成させて作製したものである。触媒付与処理後は、ソフト巻筒を流水槽を潜らせて水洗する。触媒付与工程によれば、図4(d)に示すように、カチオン化された高分子繊維の表面に触媒金属コロイドが吸着・結合する。この吸着・結合は、例えば、ファンデルワールス力やクーロン力によるものである。
【0048】
(6)アクセレーター工程は、被めっき繊維の表面に触媒活性な金属を生成させる工程である。例えば、ソフト巻筒を酸溶液に浸漬することにより、吸着させた触媒金属コロイド、例えば、Pd及びSnのうちSnを溶かし、酸化還元反応により触媒活性なPdを生成させこれを被めっき繊維の表面に生成させる工程である。酸溶液としては、例えば、Snを溶解させるがPdが溶けない酸であれば特に限定されず、濃度、温度及び処理時間は特に限定されない。好適な酸溶液の例として、塩酸(10%、室温、5分)、硫酸(10%、45℃、5分)、フッ化水素酸(5%、室温、5分)、ホウフッ化水素酸 (5〜10%、室温、5分)が挙げられる。アクセレーター処理後は、ソフト巻筒を流水槽に潜らせて水洗し、更に、遠心乾燥させる。アクセレーター工程によれば、図4(e)に示すように、被めっき繊維の表面に触媒活性な金属が生成される。
【0049】
(7)無電解めっき工程は、被めっき繊維を巻回した繊維めっき治具10をめっき液を充填しためっき槽(径400mm〜径1200mm)に浸漬することにより、被めっき繊維にめっき皮膜を形成させる工程である。ここで、無電解めっきは、めっき液に含まれる還元剤が酸化されるときに放出される電子により、めっき液に含まれる金属イオンを還元し、その金属を金属皮膜として被めっき物に析出させる方法である。素材の形状や種類にかかわらず均一な厚みの皮膜が得られる。本実施形態において使用可能な無電解めっきとしては、無電解銅めっき、無電解ニッケルめっき、無電解銀めっき、無電解錫めっき等が好適な例として挙げられるが特に限定されない(表2参照)。
【0050】
【表2】

【0051】
本実施形態における無電解めっき工程は、繊維めっき治具10を使用しうる点に特徴がある。すなわち、被めっき繊維(糸状)にダミー繊維を繋ぎ、ダミー繊維の先端を巻き取り側(エンド側)のボビン又はリールに巻回する。ダミー繊維を繋ぐのは、めっき開始時はめっき液に浸漬しえない繊維が出るため、その部分を無駄にしないためである。次いで、水洗・温風乾燥の各設備を通過する分だけ糸に余裕を持たせて、ダミー繊維(繋ぎ目を過ぎて被めっき繊維が出てきた場合にはその被めっき繊維を示す、以下単に「糸」ともいう)を繊維めっき治具10の各掛架板12,12…に螺旋を描くように巻回する。すなわち、糸を第一掛架板12の掛架凹部12bに掛架し、次いで、第一掛架板12に隣接する第二掛架板12の掛架凹部12bに螺旋状に掛架し、以下順に、第三掛架板12の掛架凹部12b、第四掛架板12の掛架凹部12b、第五掛架板12の掛架凹部12b、第六掛架板12の掛架凹部12b、第七掛架板12の掛架凹部12b、第八掛架板12の掛架凹部12b、また戻って第一掛架板12の掛架凹部12b…、に螺旋状に掛架することにより、当該繊維めっき治具10の周囲に巻回する。そして、処理に供される開始部分となる糸を送り側(スタート側)のボビン又はリールに巻回する。
【0052】
そして、無電解めっき液が充填されためっき槽に糸を巻回した繊維めっき治具10を浸漬し、繊維めっき治具10と、送り側及び巻き取り側のボビン又はリールとを同期させながら回転させて、順次、糸を無電解めっき液に所定時間浸漬する。これにより、糸にめっき皮膜が形成される。無電解めっき処理後は、水洗処理設備及び温風乾燥処理設備を通過する分だけ糸に余裕を持たせてあるため、水洗及び温風乾燥処理部分をめっき済み糸が通過すれば、水洗及び温風乾燥処理が完了し、その後、巻き取り側のボビン又はリールでめっき済み糸が巻き取られる。無電解めっき処理によれば、図4(f)に示すように、被めっき繊維の表面にめっき皮膜が生成される。
【0053】
(8)電気めっき工程は、糸を巻回した繊維めっき治具10をめっき液を充填しためっき槽(径400mm〜径1200mm)に浸漬するともに、糸(正確には、糸に形成されためっき皮膜)に通電することにより、その糸に更にめっき皮膜を形成させる工程である。ここで、電気めっきは、被めっき物たる糸を電極として通電することにより、めっき液に含まれる金属イオンを還元し、その金属を金属皮膜としてその糸に析出させる方法である。本実施形態において使用可能な電気めっきとしては、電気銅めっき、電気ニッケルめっき、電気錫めっき、電気銀めっき、電気金めっき、が好適な例として挙げられるが特に限定されない(表3参照)。
【0054】
【表3】

【0055】
本実施形態における電気めっき工程は、電気めっきである点や、場合に応じて運転条件(回転速度、温度等)を変更する点を除けば、上記の無電解めっき工程と同様であるため、その説明をもって電気めっき工程の説明に代える。無電解めっき処理によれば、図4(g)に示すように、糸表面にめっき皮膜が生成される。無電解めっき工程を経てから電気めっき工程を行うのは、糸に金属めっき皮膜を形成させることで、その糸が通電可能になるため、効率がより良い電気めっきが使用できるからである。
【0056】
(第2方法)
(1)ボビン(リール)セット工程は、糸の先端を巻き取り側(エンド側)のボビン(又はリール)に巻回するとともに、後続の精練・エッチング・表面調整・触媒付与・アクセレーターの各工程での処理に供されるように当該糸をセットし、スタート側(送り側)のボビン(又はリール)に巻回する工程である。第2方法が第1方法と異なるところは、ソフト巻筒を使用せず、ボビン・トゥ・ボビン又はリール・トゥー・リールによって各処理を行うところである。また、アクセレーター工程における巻取処理で、ボビン(又はリール)で巻き取りを行うところである。これら以外については、第2方法における後続の(2)精練工程、(3)エッチング工程、(4)表面調整、(5)触媒付与工程、(6)アクセレーター工程、(7)無電解めっき工程、(8)電気めっき工程は、第1方法と同様であるため、その説明をもって第2方法についての説明に代える。
【0057】
(第3方法)
(1)ソフト巻き工程は、第1方法のソフト巻きと同様である。
(2)精練工程は、第1方法の精練工程と同様であるが、第3方法においては、更に、ソフト巻きの状態で乾燥(温風乾燥)を行う工程である。
(3)超臨界核付け処理工程は、超臨界流体(例えば、CO)に金属錯体(例えば、Pt錯体、Ni錯体、Pd錯体)を溶解した所定圧力の超臨界核付け処理装置内にソフト巻筒を所定時間晒す工程である。これにより、有機高分子繊維中に金属錯体を拡散させるとともに(図4(d)参照)、当該有機高分子繊維に当該金属錯体を構成する触媒活性な金属単体を生成させ(図4(e)参照)、これを糸表面に生成させる工程である。この工程が終わるとソフト巻筒が処理装置から取り出され、次の処理に供される。
(4)無電解めっき工程、(5)電気めっき工程は、第1方法の電気めっき工程と同様であるため、その説明をもって第3方法についての説明に代える。
【0058】
(第4方法)
(1)開繊精練工程は、扁平な形状の繊維(例えば、カーボン繊維)を開いて糸状とし、巻筒に巻回してソフト巻筒を作製する工程であるがこれに限定されるものではなく、ボビン(又はリール)に巻き取ってもよい。
(2)電気めっき工程は、第1方法の電気めっき工程と同様であるため、その説明をもって第4方法についての説明に代える。
【0059】
以上説明した第1〜第4方法によれば、繊維めっき治具10を用いることにより以下の効果がある。
(1)回転軸14の回転速度と巻取の回転速度とを調整すれば常時被めっき繊維を緩めた状態でめっきすることができるという効果がある。
(2)緩めた状態でめっきすれば、フィラメントの全てにめっきを付けることができるという効果がある。
(3)緩めた状態でめっきすれば、フィラメント切れや糸切れを防ぐことができるという効果がある。
(4)めっき槽の側面に被めっき繊維に超音波が当たるように超音波装置をセットすることによって更に付き周りを改善できるという効果がある。
【実施例】
【0060】
以下に本実施形態に係る繊維めっき治具を用いてめっきを行ったのでそれについて説明する。
(実施例1)
繊維めっき治具として、図1と同様の外観のものを作製した。このサイズは、ラック本体が径400mm、高さ400mmである。繊維めっき治具には、図1に示すように、穴あきチタン板を8本取付け固定した。そこに、被めっき繊維として、ポリエステル繊維を巻回した。巻回された被めっき繊維は、径500mmである。引き続き、銅めっきを行った。その結果、1μm厚のめっき皮膜を毎分2mの速度で被めっき繊維に形成させることができた。この場合、めっき槽のサイズは縦横600mm、高さ600mmで済んだ。
【0061】
(比較例1)
従来の長方形型のめっき槽として、長さ・幅・高さが7000mm×500mm×300mmを作製するとともに、これにめっき液を供給するためのサービス槽として、長さ・幅・高さが3000mm×750mm×750mmを作製し、サービス槽の上側にめっき槽を設置した。そして、めっき槽に設けられたロールに糸を掛け銅めっきを行った。その結果、1μm厚のめっき皮膜を毎分1mの速度で被めっき繊維に形成させることができた。
【0062】
(評価)
実施例1と比較例1とを比べると、実施例1のめっき槽は、比較例1のめっき槽よりも格段に省スペース化されていることがわかる。また、実施例1は、比較例1の2倍の速度でめっきを行うことができたため、めっき時間の短縮や効率化を実現できることがわかる。
【0063】
以上本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変が可能である。例えば、掛架手段としては、掛架板12に代えて、ラック本体16の外周に螺旋状に形成したレール状(内周断面は円形、楕円形、多角形等特に限定されない)の掛架部を設けてもよい。この場合、レール状の掛架部は、糸がめっき液に十分浸漬できるように、格子状又は編目状とするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る繊維めっき治具、及び、これを用いた繊維めっき方法は、繊維めっき設備の設置面積を縮小することができるとともに、効率的なめっき処理を実現させるため、めっき繊維の大量生産が可能となり産業上極めて有益である。
【符号の説明】
【0065】
10 繊維めっき治具
12 掛架板(掛架手段)
12a,22a,32a,42a 開口スリット(開口)
12b,22b,32b,42b 掛架凹部(掛架凹部)
12c 固定孔
22c,32c,42c 非曲面部(非曲面部)
32d,42d 対向部(対向部)
42e 面取部(面取部)
14 回転軸
16 ラック本体
16a 放射状骨格
16b 外周骨格
16c 支持骨格(支持手段)
18 固定板
18a 固定孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転する繊維めっき治具であって、
漸次狭幅となる部分を備えた開口スリット、及び/又は、
折曲形状若しくは屈曲形状を備え且つ非曲面部が形成された開口スリット、が形成された掛架凹部であって被めっき繊維が掛架される掛架凹部又はC型掛架部が列設された被めっき繊維の掛架手段と、
前記掛架手段の掛架凹部又はC型掛架部が前記回転軸を中心とする円周上に配置され、且つ、前記開口スリットが前記回転軸に対して外向きに形成されていることを特徴とする繊維めっき治具。
【請求項2】
前記掛架手段を取り付けこれを支持するための支持手段であって、前記回転軸を中心として当該回転軸を取り囲んで当該回転軸と平行又は斜めに配置される支持手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の繊維めっき治具。
【請求項3】
前記掛架凹部は、当該掛架手段が板状部材からなる場合には、板厚方向に対して傾斜して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維めっき治具。
【請求項4】
前記C型掛架部は、断面円又は楕円状部材からなり、前記支持手段に一体的に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の繊維めっき治具。
【請求項5】
前記繊維めっき治具は、縦横サイズが5000mm以内であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の繊維めっき治具。
【請求項6】
請求項1から5に記載の繊維めっき治具を用いて無電解めっき又は電解めっきを行うことを特徴とする繊維めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190476(P2011−190476A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55181(P2010−55181)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(395010794)名古屋メッキ工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】