説明

繊維ろ材及びそれを用いたろ過処理装置並びにろ過処理方法

【課題】 ろ過運転待機時或いは停止時に、ろ過槽内から水を抜きドライ化することにより、維持管理性を容易にし、ろ過運転停止時の臭気などの問題を改善する。
【解決手段】 ポリオレフィン系重合体が繊維表面を形成してなる繊維からなる布帛が、折り重なった状態で、該ポリオレフィン系重合体の一部が溶融又は軟化することにより、形状保持している繊維ろ材を用い、ろ過運転終了時には、ろ材を洗浄した後にろ過槽に滞水した水を排出し、次回ろ過運転に備え待機するろ過処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水排水、都市下水、河川や湖沼水、産業排水等の浮遊物や懸濁物をろ材にてろ過するものであり、特に一時的あるいは間欠的に運転する場合、及び比較的浮遊物質濃度が高い被処理水に好適である繊維ろ材とそれを用いたろ過処理装置及びろ過処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、汚水などの固液分離に使用するろ材として、熱融着性繊維を絡み合わせた繊維塊を熱処理して繊維体中の短繊維同士を融着したものや(特許文献1参照)、引き揃えた繊維間に多数の点接着点を形成した棒状繊維集束体を3〜50mmに切断して得られる水処理材などがある(特許文献2参照)。また、空隙性のある繊維ろ材も固液分離や生物処理装置に使用されており、ポリプロピレンの熱融着性繊維を絡ませて形成して直方体に切断したものもある(特許文献3参照)。
【0003】
これらの繊維ろ材を充填した繊維ろ過装置が対象とする水の浮遊物質(SS)濃度は100mg/L程度以下の比較的希薄な汚水、例えば下水処理場で生物処理され、沈殿槽を経た水などをろ過する場合には、繊維間に形成された空隙がろ過面積を大きくするため、浮遊物質の保持能力が高く、また砂などと比較して空隙率が高いため、ろ過速度も大きくとることが可能であった。
【0004】
一方、汚水と雨水を同一管渠で遮集する合流式下水道では、降雨初期に下水量が急増し、晴天時に管渠内に蓄積された固形物が洗い流されるため、SS濃度で100mg/Lを遙かに超える下水が許容量を超えて流入することが問題となっており、許容量を超えた流入下水に対して何らかの簡易処理を行う必要があるとされている。簡易処理法の一つとして、晴天時は最終沈殿池で処理された下水二次処理水をろ過する設備を、雨天時には流入下水の一部をろ過設備に導いて処理する方法などが考えられている。
【特許文献1】特開平7−155519号公報
【特許文献2】特開平5−329312号公報
【特許文献3】特開平10−235384号公報
【特許文献4】特公平7−38924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下水二次処理水の処理のように、比較的希薄なSSを処理するろ材を用いた場合には、ろ過開始直後は清澄なろ過水が得られるものの、すぐにろ過層が閉塞し圧力損失が急上昇して、頻繁にろ材洗浄を実施しなければならず、処理水の回収率が低くなるという欠点を有していた。
【0006】
上記の雨天時合流下水を処理する場合には、ろ過装置を間欠的、一時的に使用することが処理効率も良く、ランニングコストも有利となり得る。通常、ろ過装置の運転停止時は、ろ材層に清澄な水を張った状態とし、特に比重が小さく、ろ材の構造が緻密なポリエチレンやポリプロピレン繊維などで形成されたろ材は、ろ材を洗浄した後もろ材内の空隙にSSが残存し、運転停止時に残存したSSが腐敗し、臭気の問題が発生するなどの問題があった。
【0007】
また、ろ過運転停止時にろ材層に水を張らずに待機することにより臭気などの問題は解消されるものの、ろ材が乾燥しろ過運転を再開した際に、ろ材内部に水が浸透せず圧力損失の急上昇や、ろ過性能が発揮できないなどの問題があった。
【0008】
本発明は、特にろ過装置を一時的あるいは間欠的に運転する場合、及び比較的浮遊物質濃度が高い被処理水に好適である繊維ろ材とそれを用いたろ過処理装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の繊維からなる布帛により形成された粒状繊維成形体をろ材として使用し、ろ過終了時にろ材を洗浄した後に水を排出し、ドライ化して次回ろ過運転に待機することにより上記課題を解決できるという事実を見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリオレフィン系重合体が繊維表面を形成してなる繊維からなる布帛が、折り重なった状態で、該ポリオレフィン系重合体の一部が溶融又は軟化することにより、形態保持している粒状繊維成型体からなり、かさ密度が20〜150g/L、比重が0.8〜1.4であり、上記布帛が、部分的に熱圧着してなるスパンボンド不織布であることを特徴とする繊維ろ材を要旨とするものである。
【0011】
また、別の本発明は、ろ材を充填したろ材層に上向流で通水するろ過槽において、前記ろ材が上記したろ材であることを特徴とするろ過処理装置を要旨とするものである。
【0012】
さらに、別の本発明は、上記の繊維ろ材を用いたろ過処理装置において、ろ材層の流入部及び流出部に、ろ材の流出を防止する設備を配設し、間欠的にろ過装置を運転する場合に、ろ材を撹拌洗浄した後にろ過槽に滞水した水を排出し、次回ろ過運転に備え待機することを特徴とするろ過処理方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、用いるろ材が布帛を折り重ねた形態であり、ろ材内部にも水が浸透或いは排出しやすい空隙を有するため、ろ過運転待機時にろ材層をドライ化することができ、特にろ過処理装置を一時的あるいは間欠的に運転する場合、及び比較的浮遊物質濃度が高い被処理水を処理する場合に、効率的にSSを捕捉し、運転停止時にろ過槽内をドライ化して待機した場合に、臭気などの問題がほとんどなく、またろ過運転再開時に、良好なろ過運転を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の繊維ろ材は、繊維布帛からなる粒状繊維成形体であり、まずこの粒状繊維成形体について説明する。
【0015】
本発明で用いられる繊維は、ポリオレフィン系重合体が繊維表面を成形してなる繊維である。本発明において、繊維ろ材は、ろ過槽から水を排出した時に水切れの良好さが必要なため、繊維表面は、水の親和性が小さいポリオレフィン系重合体により形成してなることが必要となる。繊維表面がポリオレフィン系重合体により形成してなることにより、繊維ろ材は撥水性に優れ、水の切れが良く、繊維ろ材の腐食及び臭気の発生を少なくすることができる。
【0016】
ポリオレフィン系重合体としては、公知のポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレンとエチレンとの共重合体、これらのブレンド物等を用いることができる。
【0017】
繊維表面がポリオレフィン系重合体により形成された繊維としては、例えば、一種のポリオレフィン系重合体からなる単相型の繊維、前記したポリオレフィン系重合体において、任意の2種のポリオレフィン系重合体がサイドバイサイド型、割繊型、多葉型等に複合された複合型の繊維、あるいは、ポリオレフィン系重合体が鞘部を形成し、他の重合体が深部を形成してなる芯鞘型複合繊維等を用いることができる。
【0018】
本発明において、特にポリオレフィン系重合体が鞘部を形成し、該ポリオレフィン系重合体よりも高い融点を有する高融点重合体が芯部を形成してなる芯鞘型複合繊維を用いることが好ましい。このときポリオレフィン系重合体と高融点重合体との融点差は、20℃以上であることが好ましく、さらには、50℃以上であることが好ましい。このような芯鞘型複合繊維を用いることにより、鞘部のポリオレフィン系重合体が溶融または軟化する際に、芯部の高融点重合体は、熱の影響を受けずに繊維形態を維持するため、布帛を構成している繊維同士の空隙、重なり合う布帛同士の空隙を十分に保つことができるため、嵩高性に優れる繊維ろ材を得ることができる。融点差が小さい、あるいは、単層型の繊維であると、熱処理条件によっては、繊維を構成している重合体のほとんどが溶融または軟化して、得られる繊維ろ材が樹脂の塊状となり、嵩高性に劣る傾向となる。
【0019】
鞘部に配するポリオレフィン系重合体と高融点重合体との具体的な組み合わせとしては、ポリオレフィン系重合体/ポリエステル系重合体、ポリオレフィン系重合体/ポリアミド系重合体、ポリエチレン/ポリプロピレン等が挙げられる。本発明においては、高融点重合体としては、機械的強度に優れ、生産性が高いことからポリエチレンテレフタレートを採用し、低融点重合体としては、高融点重合体との融点差を十分に保つことができ、熱接着・成形処理を容易に施すことができることからポリエチレンを採用することが好ましい。
【0020】
布帛を構成する繊維の形態は、短繊維であっても長繊維であってもよいが、長繊維を好ましく用いることができる。短繊維は、繊維端を有するため、毛羽が発生しやすいが、長繊維は、繊維端を有しないため、毛羽の発生が少なく、取り扱い性が良好である。
【0021】
本発明において、上記のような繊維からなる布帛としては、織物、編物、不織布を用いることができる。特に、部分的に熱圧着してなるスパンボンド不織布を用いることが好ましい。部分的に熱圧着してなるスパンボンド不織布は、熱圧着部において、繊維が拘束されているため、形態保持性およびリントフリー性に優れるとともに、非熱圧着部において、繊維は、熱による影響を受けていないため、繊維が有する柔軟性、嵩高性を保持している。また、スパンボンド不織布は、構成繊維がランダムに堆積した状態で形態を保持しているものであるため、織物や編物と比較して、繊維同士の間に多数の小さな空隙を保有する。この空隙により、繊維ろ材の嵩高性を優れたものとする。
【0022】
本発明で用いられる粒状繊維成形体は、上記したような布帛が折り重なった状態で、該ポリオレフィン系重合体の一部が溶融または軟化することにより形態保持しているものである。布帛が折り重なった状態とは、規則正しくプリーツ状に折り畳まれたものであってもよいが、得られる粒状繊維成型体に優れた嵩高性を付与するためには、ランダムに折り重なった状態とすることが好ましい。なお、布帛が折り重なった状態において、布帛同士が全くぴったりと重なり合っているものではなく、重なり合った布帛間に適度な空隙を有していることが好ましい。また、布帛が折り重なった状態としては、略渦巻き状であってもよい。
【0023】
繊維ろ材の形状は、粒状である限り特に限定はされず、断面形状は、円、正方形、長方形など、いかなる形状でも良く、例えば花びら状などもろ材の表面積を広くすることができSSの捕捉に都合がよい。またろ材の長さは、5〜20mmが適当であり、それ以下ではろ過による圧力損失が大きくなり、実用的ではなく、それ以上ではSS除去性能が低くなり、逆洗時に洗浄できないなどの問題点がある。
【0024】
本発明の繊維ろ材は、かさ密度が20〜150g/Lが好ましく、さらに好ましくは80〜110g/Lである。かさ密度は折り重なった布帛のろ材を所定容量に充填したときの充填されたろ材の乾燥重量とその所定容積の比率によって表される。かさ密度が小さすぎると、ろ材の形状安定性が悪くなり、ろ材が流出しやすくなり、また、圧力損失の上昇にもつながる。また、かさ密度が大きすぎるとろ材内部に水が浸透せず、圧力損失の急上昇が発生したり、SSの捕捉量が少なくなるため好ましくない。
【0025】
粒状繊維成形体の比重は、0.8〜1.4の範囲内であれば好ましく、上向流にて通水した場合に浮上するろ材であれば特に限定されるものではないが、比重0.9〜1.2がより好ましい。ろ材比重が小さいと、浮力が大きくなり圧力損失が大きくなり、また、ドライ化し次回のろ過時に親水化せず、ろ材として有効に作用しなくなる。また、ろ材比重が大きすぎると、ろ材が浮上せず処理性能が発揮できないなどの問題がある。
【0026】
本発明のろ過処理装置において、ろ材層の下部を全面スクリーンとして、ろ材層の上部もスクリーンとし、ろ材層上下にスクリーンを有する構造となっている。上記スクリーンは、繊維ろ材の流出を防ぎ、また支持するためのものであり特に限定されるものでないが、例えば、ウエッジワイヤースクリーンやパンチングメタル、Tバースクリーンなどがある。通水抵抗が少なく、目詰まりが起こりにくい構造であるウエッジワイヤースクリーンやTバースクリーンなどが好ましく用いられる。
【0027】
なお、ろ材層の下部に配設するスクリーンは、ろ材層から排水を排出した際に、ろ材と水を分離し、ろ材を均等に積層することが好ましいため、水平に配した全面スクリーンとすることが好ましい。
【0028】
次に、本発明の処理方法について説明する。原水はろ過槽下部から上向流で通水され、ろ過槽下部スクリーンで一部夾雑物が除去され、ろ過槽への原水の流入に伴いろ材層が浮上し、浮上したろ材層でろ過された後、ろ材層上部に配したスクリーンにてろ材と処理水が分離され、処理水排出設備を経てろ過槽外へ排出される。
【0029】
ろ過処理装置を一時停止し、次回の運転に備える場合には、ろ過槽への原水の流入を停止し、例えば、ろ材層下部に散気管を配設し、散気管より空気を吹き込むことにより、ろ材を撹拌・流動させ、捕捉した汚濁物をろ過槽下部のスクリーンによりろ材と分離して洗浄排水を引き抜き、洗浄排水を引き抜いた状態で次回の運転に備えることにより、ろ過槽のドライ化が行える。待機時に、ろ過槽内に水張りすることにより、害虫が発生したり、繊維ろ材が腐敗して臭気を発生することもなく、また、上記を軽減するために、消毒剤などの薬品を投入することなく次回の運転に備えることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により具体的に説明する。
【0031】
芯部にポリエステル、鞘部にポリエチレンが配され、芯部と鞘部との質量比が45対55の割合である、目付23g/m2の部分的に熱圧着処理が施されたスパンボンド不織布(ユニチカ製 エルベス)をリボン状不織布の形態とし、ランダムに折り重なった状態で熱風を吹き付けた後、丸状の金型に通して不織布が接触する部分を熱接着して、棒状の成形体を得た。得られた粒状繊維成形体は、長さ8mm、直径8mm、かさ密度98g/Lであった。
【0032】
次に、ろ過塔下部に3mm幅のウエッジワイヤースクリーン、上部に2mmのパンチングスクリーンを持つ250mmφのろ過塔に、得られた粒状繊維ろ材を500mm充填し、ろ過塔下部から上向流にて下水処理場の流入下水を通水し、ろ過速度LV500m/日により処理を行った。前回のろ過運転停止から1週間、ろ過塔の水を抜いた状態から通水を開始し、原水の通水によりろ材が均等に浮上し、ろ過運転を5時間経過時には、ろ材層へのSS捕捉量が12kg-SS/m3-ろ材となった。また、平均SS除去率は70%強であった。
【0033】
ろ過塔への通水を停止した後、ろ過塔下部に配設した散気管より空気を吹き込み、ろ材を流動・撹拌させ、空気を吹き込みながらろ過塔下部よりろ材に捕捉した汚濁物を含む洗浄排水を排出させ、ろ過槽内の水を全量排出した。
【0034】
ろ過運転停止から5日間経過した時点で、ろ過塔内の臭気を官能試験にて確認したが、ろ過塔周辺の環境とほぼ同様の値であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系重合体が繊維表面を形成してなる繊維からなる布帛が、折り重なった状態で、該ポリオレフィン系重合体の一部が溶融又は軟化することにより、形態保持している粒状繊維成型体からなり、かさ密度が20〜150g/Lであり、比重が0.8〜1.4であり、上記布帛が、部分的に熱圧着してなるスパンボンド不織布であることを特徴とする繊維ろ材。
【請求項2】
ろ材を充填したろ材層に上向流で通水するろ過槽において、前記ろ材が、請求項1記載の繊維ろ材であることを特徴とするろ過処理装置。
【請求項3】
請求項2の繊維ろ材を用いたろ過処理装置において、ろ材層の流入部及び流出部に、ろ材の流出を防止する設備を配設し、間欠的にろ過装置を運転する場合に、ろ材を撹拌洗浄した後にろ過槽に滞水した水を排出し、次回ろ過運転に備え待機することを特徴とするろ過処理方法。

【公開番号】特開2006−35135(P2006−35135A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220401(P2004−220401)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年6月21日 社団法人日本下水道協会発行の「第41回 下水道研究発表会講演集」に発表
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】