説明

繊維コードテンションメンバー

【課題】
強度及び張り腰に優れ、しかも外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性にも優れる、容易かつ安価に製造することができる光ファイバーケーブル用繊維コードテンションメンバーを提供する。
【解決手段】
補強合成繊維フィラメントで構成される撚糸の周囲に、硬化時の曲げ弾性率が400MPa以上の水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂を付与した後に硬化して得られることを特徴とする繊維コードテンションメンバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線に併設使用される光ファイバーケーブル用繊維コードテンションメンバーに関し、さらに詳しくは強度及び張り腰に優れ、かつ外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性に優れる光ファイバーケーブル用繊維コードテンションメンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーケーブルは、光ファイバー線単独では強度が弱いため、一般に図1の断面図に示すように光ファイバー線に平行に長手方向にテンションメンバーを一本又は複数本沿わせ、両者の外周を熱可塑性マトリックス樹脂で被覆して構成されている。
【0003】
従来のテンションメンバーは、金属線で構成されているため、架空送電線に併設されると風の影響を受けて振動の原因になりやすく、また、屋内に設置されると電磁波を誘導して電気製品の故障の原因となっていた。
【0004】
また、テンションメンバーをFRPで構成しているものも提案されているが、細径化、軽量化が不十分なため、同様に風の影響を受けて振動の原因になりやすく、また、FRPとその外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性が不十分なため、固定時の端末の剥離処理が要求されていた。
【0005】
さらに、近年、カラスなどによる光ファイバーケーブルの損傷が社会問題化しており、軽量で強度に優れるだけでなく、張り腰にも優れる光ファイバーケーブル用テンションメンバーが求められている。
【0006】
これらの要請に対して、補強繊維束と強い曲げ弾性率を有する熱可塑性樹脂層からなる被覆層とを備え、未硬化状の熱硬化性樹脂を補強繊維束に含浸させた後、外周に被覆層を形成して冷却固化した後に熱硬化性樹脂を硬化させた繊維強化合成樹脂製棒状物が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1の棒状物は、確かに強度及び張り腰の点で優れた光ファイバーケーブルを製造することができるが、棒状物と熱可塑性マトリックス樹脂の密着性がなお不十分であるため作業上問題があるだけでなく、また製造工程が複雑なため製造コストが高いという問題があった。
【特許文献1】特開2001−328189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は強度及び張り腰に優れ、しかも外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性にも優れる、容易かつ安価に製造することができる光ファイバーケーブル用繊維コードテンションメンバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、補強合成繊維フィラメントで構成される撚糸を芯糸として用い、この芯糸に特定の曲げ弾性率を有する水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂を付与して硬化することによって、芯糸で強度を与え、特定の曲げ弾性率を有する水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂で張り腰を与えるとともに、芯糸の撚糸による周囲の凹凸でマトリックス樹脂との密着性(アンカー効果)を与えることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明は、補強合成繊維フィラメントで構成される撚糸の周囲に、硬化時の曲げ弾性率が400MPa以上の水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂を付与した後に硬化して得られることを特徴とする繊維コードテンションメンバーである。
【0011】
本発明の繊維コードテンションメンバーの好ましい態様では、前記補強合成繊維フィラメントが330dtex以上の総繊度、5.3cN/dtex以上の引張強度、及び9%以下の破断伸度を有し、前記撚糸が熱可塑性合成フィラメントをさらに含む。また、本発明の繊維コードテンションメンバーの好ましい態様では、前記樹脂の付与がディップ法、ローラーオイリング法、及びスプレー法からなる群から選択される少なくとも一つの方法によって行なわれ、前記樹脂の乾燥付与重量が前記撚糸の重量の50%以下である。
【0012】
また、本発明は、上記繊維コードテンションメンバーの一本又は複数本を光ファイバー線と平行に長手方向に沿わせ、両者の外周を熱可塑性マトリックス樹脂により被覆することによって得られることを特徴とする光ファイバーケーブルである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維コードテンションメンバーは、強度がありかつ凹凸がある撚糸に、張り腰のある硬化被膜が形成されているので、強度及び張り腰に優れるだけでなく、外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性にも極めて優れているという効果を有する。また、本発明の繊維コードテンションメンバーは、繊維産業で従来用いられている機械を流用して容易に製造できるので、製造コストに優れるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の繊維コードテンションメンバーは、架空送電線に併設使用される光ファイバーケーブルに使用されるものであり、補強合成繊維フィラメントで構成される撚糸を芯糸として用い、この芯糸に、高い硬化時の曲げ弾性率を有する水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂を付与した後に硬化して得られるものである。
【0015】
本発明の繊維コードテンションメンバーに使用される芯糸は、テンションメンバー全体に高い強度及び低い伸度を与えるためのものであり、かかる特性を持つ補強合成繊維フィラメントが使用される。補強合成繊維フィラメントとしては、例えば芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維などの有機繊維が使用され、特に耐熱性にも優れるPBO繊維を使用することが好ましい。芯糸の構成フィラメントとしては、補強合成繊維フィラメント以外に他のフィラメント、例えばバインダー特性を有する熱融着合成繊維などの熱可塑性合成繊維を30重量%以下の量で併用してもよい。芯糸はマルチフィラメントの合撚又はモノフィラメントの加撚により形成された撚糸であり、周囲に凹凸を有する。この凹凸は、テンションメンバーの外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性に寄与する。
【0016】
芯糸を構成する補強合成繊維フィラメントは、テンションメンバーの小径化及び寸法安定性の点で高い強度及び低い伸度を有することが必要であり、従って330dtex以上の総繊度、5.3cN/dtex以上の引張強度、及び9%以下の破断伸度を有することが好ましく、特に450〜1700dtexの総繊度、17〜40cN/dtexの引張強度、及び2〜5%の破断伸度を有することが好ましい。総繊度が上述の範囲より低いとテンションメンバー全体に高い強度及び低い伸度を与えることができない恐れがあり、また総繊度が上述の範囲より高いと光ファイバーケーブルの製造時にテンションメンバー挿入孔を通過できなくなる恐れがある。補強合成繊維フィラメントはモノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。
【0017】
本発明の繊維コードテンションメンバーに使用される水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂は、テンションメンバー全体に強い張り腰を与えるためのものであり、かかる特性を持つ樹脂が使用される。水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂は、水又は有機溶剤に分散することができかつ特定の硬化時の曲げ弾性率を有する樹脂であればいずれのものも使用することができ、例えば熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂、メラミン樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂などの熱硬化性樹脂、アルキド樹脂などが使用される。水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂は、液体で樹脂を芯糸に付与することができるので、製造工程が容易である。なお、取扱い及び環境保護の観点から、分散性樹脂は水分散性のものを使用することが好ましい。
【0018】
水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂は、芯糸に密着して硬化することにより芯糸に強い張り腰を与えることができることが必要であり、従って硬化時の曲げ弾性率が400MPa以上であることが要求される。特に硬化時の曲げ弾性率が500MPa以上であることが好ましく、600MPa以上、又は800MPa以上であることがさらに好ましい。
【0019】
芯糸へ水分散性又は有機溶剤分散性樹脂を付与する方法としては、当業者に従来公知の様々な方法を採用することができるが、例えばディップ法、ローラーオイリング法、及びスプレー法からなる群から選択される少なくとも一つの方法によって行なわれることが好ましい。付与された樹脂は芯糸の周囲から芯糸の内部へと浸透する。また、樹脂の付与量は、乾燥重量で計算して芯糸の重量の50%以下であることが好ましく、特に20%〜45%であることが好ましい。樹脂付与量が上記範囲より低いと張り腰が十分でない恐れがあり、また樹脂付与量が上記範囲より高いとテンションメンバーが重くなりすぎる恐れがある。
【0020】
付与された樹脂の硬化は、樹脂の種類に応じて適切な方法を適宜採用すればよく、例えば熱可塑性樹脂の場合は自然乾燥又は強制乾燥で溶剤を蒸発させて冷却固化させることによって硬化させることができ、熱硬化性樹脂の場合も同様に溶剤を蒸発させて硬化温度以上に加熱することによって硬化させることができる。
【0021】
上記のようにして製造された繊維コードテンションメンバーは、芯糸の高強度を保持しながら、カンチレバー試験で350mm以上、さらには400mm以上、さらには500mm以上という剛軟度と直径10mmの輪を作成したときに折れ曲がらない(10R試験)という弾力性を有し、さらに外周に熱可塑性マトリックス樹脂とのアンカー効果に優れる凹凸を持つことができる。この繊維コードテンションメンバーを図2のように光ファイバー線と平行に長手方向に一本又は複数本沿わせて、繊維コードテンションメンバーと光ファイバー線の両方の外周を熱可塑性マトリックス樹脂により被覆することによって、強度及び張り腰に優れ、かつ外周を被覆する熱可塑性マトリックス樹脂との密着性に優れる光ファイバーケーブルを提供することができる。
【実施例】
【0022】
本発明の繊維コードテンションメンバーの優れた効果を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
繊維コードテンションメンバーの物性の測定は以下の方法に従って行なった。
(1)引張強度
JIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法に従って測定した。
(2)破断伸度
JIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法に従って測定した。
(3)張り腰
(i)カンチレバー法
織物の剛軟性試験法である45°カンチレバー法に従って測定した。
(ii)10R法
試料を使用して直径10mmの輪を作成したときに折れ曲がらないかどうかを評価
した。評価結果は、○:折れ曲がらない;△:少し折れ曲がる;×:完全に折れ曲
がる、の三段階で評価した。
(4)熱可塑性マトリックス樹脂との密着性
試料にポリエチレンの熱可塑性マトリックス樹脂を被覆した後、一方の端部を把持 し、他方の端部のマトリックス樹脂を剥離し、その剥離端部を引っ張ることによっ て熱可塑性マトリックス樹脂との密着性を評価した。評価結果は、◎:両手で引っ 張っても引き抜けない;○:片手で引っ張っても引き抜けない;△:軽い力で引き 抜けないが、片手で引っ張れば引き抜ける;×:軽い力で引き抜ける、の四段階で
評価した。
【0024】
実施例1〜4
表1に従って芯糸の材料を用意し、イタリー式撚糸機にて実撚りを80〜100T/m掛けて撚糸を作成した。この撚糸にバイロナールMD−1200(東洋紡績(株)製)100重量部とSumirez Resin 8% AC(住友ケムテックス製)85重量部を混合して調製した樹脂分散液をディップ法により付与し、引き上げて自然乾燥した後、150℃の乾熱オーブンで10分間加熱し、実施例1〜4の試料を得た。なお、実施例1〜4で使用した樹脂分散液の硬化時の曲げ弾性率は850MPaであった。また、各試料の樹脂付着量は表1に示す通りであった。
【0025】

【0026】
実施例1〜4で得られた試料について物性を測定した。その結果を表2に示す。

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の繊維コードテンションメンバーは、強度及び張り腰に優れ、かつ周囲の熱可塑性マトリックス樹脂との密着性に優れるので、光ファイバーケーブルに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来のテンションメンバーの一例の断面図を示す。
【図2】本発明のテンションメンバーの一例の断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強合成繊維フィラメントで構成される撚糸の周囲に、硬化時の曲げ弾性率が400MPa以上の水分散性又は有機溶剤分散性の樹脂を付与した後に硬化して得られることを特徴とする繊維コードテンションメンバー。
【請求項2】
前記補強合成繊維フィラメントが330dtex以上の総繊度、5.3cN/dtex以上の引張強度、及び9%以下の破断伸度を有することを特徴とする請求項1に記載の繊維コードテンションメンバー。
【請求項3】
前記撚糸が熱可塑性合成フィラメントをさらに含む請求項1又は2に記載の繊維コードテンションメンバー。
【請求項4】
前記樹脂の付与がディップ法、ローラーオイリング法、及びスプレー法からなる群から選択される少なくとも一つの方法によって行なわれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維コードテンションメンバー。
【請求項5】
前記樹脂の乾燥付与重量が前記撚糸の重量の50%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維コードテンションメンバー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の繊維コードテンションメンバーの一本又は複数本を光ファイバー線と平行に長手方向に沿わせ、両者の外周を熱可塑性マトリックス樹脂により被覆することによって得られることを特徴とする光ファイバーケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−139582(P2008−139582A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325971(P2006−325971)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(594010755)東洋紡ミシン糸株式会社 (5)
【Fターム(参考)】