説明

繊維シートおよびその製造方法

【課題】耐熱性、耐薬品性および気絶縁性に優れたPPSを主成分とする繊維シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンサルファイドを主成分とする繊維シートであって、その繊維シートを構成する繊維間がポリフェニレンサルファイドを主成分とする樹脂で充填された、通気量が0.05cc/cm/s未満である繊維シートである。繊維シートは、結晶化度が20%以上、50%以下であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Aと、結晶化度が0%以上、10%未満であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Bを、それぞれ1層以上積層し、熱接着により不織布Bを軟化、変形させて不織布Aの繊維間に充填させ、通気量を0.05cc/cm/s未満とすることにより、製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性および電気絶縁性に優れたポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」と略記することがある。)を主成分とする樹脂(以下、「PPS樹脂」と略記することがある。)からなる繊維シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PPS樹脂は、耐熱性、耐薬品性、難燃性および電気絶縁性に優れた特性を有し、エンジニアプラスチック、フィルム、繊維および不織布等として好適に用いられている。
このPPS樹脂の特性である電気絶縁性を活かした電気絶縁材料用途については、これまで主にフィルムによる提案がなされている(特許文献1参照。)。しかしながら、フィルムのみからなる構成では、耐衝撃性が乏しく、モーター等に挿入する場合、穴があくあるいは裂けてしまうという課題があった。
【0003】
この課題を改善する手段として、二軸配向したPPSフィルムにPPS繊維シートを積層することにより耐衝撃性を改善する提案がされている(特許文献2参照。)。この提案では、確かにPPSフィルムに繊維シートを積層することにより耐衝撃性が改善することが示されているが、二軸配向したPPSフィルムは結晶化度が高いために、繊維シートとの接着性が乏しく、PPSフィルムと繊維層の層間で剥離しやすいものであり、実用に耐え得るものではなかった。
【0004】
また近年では、PPS樹脂からなる延伸糸と未延伸糸を混繊し、ロールで熱プレスする電気絶縁材料向けのPPS紙が提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案では、PPS紙を構成する繊維の60%以上が未延伸糸であるためにPPS紙の表面や裏面に多数の未延伸糸が存在するために、熱プレス後のロールからの剥離性が悪く、加工時に紙が破断してしまうという課題があった。
【0005】
一方、PPS樹脂ではないが、フィルムを使用せずに繊維シートの積層体によって緻密性を高めることにより電気絶縁性を向上させる手段として、液晶ポリエステルからなるメルトブロー不織布の層間に、低い融点を有する液晶ポリエステルを配して熱接着する積層体が提案されている(特許文献4参照。)。しかしながら、この提案では、液晶ポリエステルにより得られるメルトブロー不織布は結晶化しているため、低融点層が容易に軟化、溶融しないために、全体を均一に緻密化することが難しく安定した電気絶縁性が得られ難い点、またシート内に低い融点のポリマーが存在するため耐熱性の点で課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−35459号公報
【特許文献2】特開平8−197689号公報
【特許文献3】特開2009−174090号公報
【特許文献4】特開2008−221555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、PPS樹脂からなる電気絶縁材向けとして、好適で実用的な繊維シートは何ら提案されていないのが現状である。
【0008】
そこで本発明の目的は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れるPPSを主成分とする繊維シートおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決戦とするものであり、本発明の繊維シートは、ポリフェニレンサルファイドを主成分とする繊維シートであって、該繊維シートを構成する繊維間がポリフェニレンサルファイドを主成分とする樹脂で充填され、通気量が0.05cc/cm/s未満であることを特徴とする繊維シートである。
【0010】
本発明の繊維シートの好ましい態様によれば、前記の繊維シートの絶縁破壊強さは15kV/mm以上である。
【0011】
本発明の繊維シートの好ましい態様によれば、前記の繊維シートを構成する繊維と樹脂の融点差は30℃未満である。
【0012】
また、本発明の繊維シートの製造方法は、結晶化度が20%以上、50%以下であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Aと、結晶化度が0%以上、10%未満であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Bを、それぞれ1層以上積層し、熱接着により不織布Bを軟化、変形させて不織布Aの繊維間に充填させ、通気量を0.05cc/cm/s未満とすることを特徴とする繊維シートの製造方法である。
【0013】
本発明の繊維シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の不織布Aを表裏層とすることである。
【0014】
本発明の繊維シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の不織布Aは熱処理されたメルトブロー不織布、スパンボンド不織布および抄紙不織布のいずれかである。
【0015】
本発明の繊維シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の不織布Bは熱処理をしていないメルトブロー不織布である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、通気量が極めて小さい緻密な構造を有し、またシートを構成する繊維や樹脂の融点差が小さいことから電気絶縁性、耐熱性に極めて優れるPPS樹脂からなる繊維シートを得ることができる。本発明の繊維シートは、電気絶縁性や耐熱性を活かし、特に自動車用モーターの絶縁材に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の繊維シート断面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の繊維シートは、ポリフェニレンサルファイドを主成分とする繊維シートであって、その繊維シートを構成する繊維間がポリフェニレンサルファイドを主成分とする樹脂で充填されている。
【0019】
本発明の繊維シートは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を主成分とする繊維で構成されている。本発明で用いられる繊維は、PPSを主成分とする。PPSは、繰り返し単位としてp−フェニレンスルフィド単位やm−フェニレンスルフィド単位等のフェニレンスルフィド単位を有するポリマーである。なかでも、その耐熱性や曳糸性の点から、p−フェニレンスルフィド単位を90モル%以上含む実質的に線状のポリマーが好ましく用いられる。
【0020】
PPSには、トリクロルベンゼンが実質的に共重合されていないことが好ましい。トリクロルベンゼンは1ベンゼン環当り3個以上のハロゲン置換基を有し、これを共重合させることはPPSに分岐構造を与えることになり、PPS樹脂の曳糸性が劣り紡糸延伸時の糸切れが多発する傾向となるからである。トリクロルベンゼンが実質的に共重合されていない程度としては、0.05モル%以下が好ましく、より好ましくは、0.01モル%以下である。
【0021】
繊維に対するPPSの含有量は、耐熱性および耐薬品性などの点から、85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0022】
また、PPSには、本発明の効果を損なわない範囲でPPS以外の熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。PPS以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィンおよびポリエーテルエーテルケトンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。
また、PPSには、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤および親水剤等を添加してもよい。
【0023】
また、本発明で繊維シートを構成する繊維間に充填される樹脂は、PPSを主成分とする。PPSは、繰り返し単位としてp−フェニレンスルフィド単位やm−フェニレンスルフィド単位等のフェニレンスルフィド単位を有するポリマーである。なかでも、その耐熱性や曳糸性の点から、p−フェニレンスルフィド単位を90モル%以上含む実質的に線状のポリマーが好ましく用いられる。
【0024】
PPSには、トリクロルベンゼンが実質的に共重合されていないことが好ましい。トリクロルベンゼンは1ベンゼン環当り3個以上のハロゲン置換基を有し、これを共重合させることはPPSに分岐構造を与えることになり、PPS樹脂の曳糸性が劣り紡糸延伸時の糸切れが多発する傾向となるからである。トリクロルベンゼンが実質的に共重合されていない程度としては、0.05モル%以下が好ましく、より好ましくは、0.01モル%以下である。
【0025】
樹脂に対するPPSの含有量は、耐熱性および耐薬品性などの点から、85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0026】
また、PPSには、本発明の効果を損なわない範囲でPPS以外の熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。PPS以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィンおよびポリエーテルエーテルケトンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。
また、PPS樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤および親水剤等を添加してもよい。
【0027】
本発明の繊維シートは、繊維シートを構成する繊維間がポリフェニレンサルファイドを主成分とする樹脂で充填され、通気量が0.05cc/cm/s未満であることが重要である。
【0028】
本発明における繊維シートは、繊維間にPPS樹脂を充填することにより、本来通気性を有する不織布において、通気量0.05cc/cm/s未満を達成することが可能となる。
【0029】
本発明の繊維シートにおいて、繊維間にPPS樹脂が充填されていることは、図1に本発明の繊維シート断面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像の一例を示されており、図1の画像に示すようにPPS繊維1の繊維形状に沿ってPPS樹脂2が軟化、変形することにより、PPS繊維1の繊維間を埋めている状態を指す。このように、PPS樹脂2がPPS繊維1の形状に沿って軟化、変形することにより、小さな空気貫通孔まで無くすことが可能であり、本発明の通気量である0.05cc/cm/s未満を達成することができる。
【0030】
本発明の繊維シートの通気量は、高く安定した絶縁破壊強さを得る目的で0.05cc/cm/s未満であることが好ましい。通気量が0.05cc/cm/s以上である場合、通気部分から絶縁破壊が発生し、高く安定した絶縁破壊強さを得ることが困難となる。本発明でいう通気量は、実施例に記載する方法により求められる値である。通気量の下限値は0.00cc/cm/sである。
【0031】
本発明の繊維シートの絶縁破壊強さは、15kV/mm以上であることが好ましい。本発明でいう絶縁破壊の強さとは、実施例に記載する方法により求められる値である。絶縁破壊強さを15kV/mm以上、より好ましくは20kV/mm以上、さらに好ましくは25kV/mm以上とすることにより、変圧器やモーターなどの高電圧下で使用される絶縁材の用途へも展開が可能となる。絶縁破壊の強さには特に上限値はないが、現時点で到達可能である上限値としては80kV/mm程度である。
【0032】
本発明の繊維シートは、構成する繊維と樹脂の融点差が30℃未満であることが好ましい。構成する繊維と樹脂の融点差が30℃未満、より好ましくは20℃未満、さらに好ましくは10℃未満とすることにより、繊維シート内での融点差が小さくなり、PPS本来の耐熱性を十分に発現させることができる。仮に、PPS樹脂を共重合する等して、融点を低下させて30℃℃以上の融点差を設けた場合、耐熱性は低融点成分で決定されるため、高温下での使用時に熱劣化を起こす恐れがある。
【0033】
本発明の繊維シートの目付は、10〜500g/mであることが好ましい。目付を10g/m以上、より好ましくは30g/m以上、さらに好ましくは50g/m以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度と優れた絶縁性を有する繊維シートを得ることができる。一方、目付を好ましくは500g/m以下、より好ましくは400g/m以下、さらに好ましくは300g/m以下とすることにより、熱接着にてシートを緻密化することができ、絶縁性に優れる繊維シートを得ることができる。繊維シートの厚みは、用途に合わせて、好ましくは5μm〜1000μmの範囲で選択可能である。
【0034】
また、本発明の繊維シートは、200℃における熱収縮率が、たて方向とよこ方向のいずれにおいても5%以下であることが好ましい。PPSを主成分とする本発明の繊維シートは、その特性から高温下で使用されることが多く、200℃における熱収縮を好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下とすることにより寸法変化による機能性低下を抑制し、実用に供し得ることができる。熱収縮率の下限値は特に定めるものでは無いが−5%以上である。
【0035】
次に、本発明の繊維シートの製造方法について説明する。本発明の繊維シートは、結晶化度が20%以上、50%以下であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Aと、結晶化度が0%以上、10%未満であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Bを、それぞれ1層以上積層し、熱接着により不織布Bを軟化、変形させて不織布Aの繊維間に充填させ、通気量を0.05cc/cm/s未満とすることにより製造することができる。
【0036】
本発明では、上記のとおり、極めて低い結晶化度を有する不織布Bを熱接着し軟化、変形させることにより、不織布Aの繊維間をPPS樹脂(不織布Bが軟化、変形したもの)が充填している繊維シートを得ることができる。
【0037】
本発明で用いられる不織布Aの結晶化度は、20%以上、50%以下とすることが重要である。結晶化度を20%以上、50%以下、より好ましくは25%以上、50%以下、さらに好ましくは30%以上、50%以下にすることにより熱接着によって不織布Bが軟化、変形する際も繊維の形状を保持することができ、熱接着時の加工を安定的に行うことができる。
【0038】
また、不織布Aを構成する繊維の繊維径は、0.5〜30μmであることが好ましい。繊維径を好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上とすることにより適度な空隙を有し、不織布Bが充填されやすい構造となる。一方、繊維径を好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下とすることにより、不織布Bが不織布Aから滲み出ることを抑制することができる。
【0039】
また、不織布Aの目付は、5〜200g/mであることが好ましい。目付を好ましくは5g/m以上、より好ましくは10g/m以上、さらに好ましくは20g/m以上とすることにより、不織布Bが不織布Aから滲み出ることを抑制することができる。一方、目付を好ましくは200g/m以下、より好ましくは100g/m以下、さらに好ましくは50g/m以下とすることにより、不織布Bが充填された緻密な繊維シートを得ることができる。
【0040】
本発明で用いられる不織布Aは、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布および抄紙不織布から選択されることが好ましい。
【0041】
本発明で用いられる前記スパンボンド不織布の製造方法は、例えば、PPS樹脂を溶融し、紡糸口金から紡糸した後、冷却固化した糸条に対し、エジェクターから噴射される圧縮エアで牽引、延伸し、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブ化した後、熱接着する工程を要する製造方法である。
【0042】
スパンボンド法で用いられるPPS樹脂は、ASTM D1238−70(測定温度315.5℃、測定荷重5kg荷重)に準じて測定するメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある。)が100〜300g/10minであることが好ましい。MFRを好ましくは100g/10min以上、より好ましくは140g/10min以上とすることにより、適度な流動性をとり、溶融紡糸において口金の背面圧の上昇を抑え、牽引延伸する際の糸切れも抑えることができる。一方、MFRを好ましくは300g/10min以下、より好ましくは225g/10min以下とすることにより、重合度あるいは分子量を適度に高くとり、実用に供し得る機械的強度や耐熱性を得ることができる。
【0043】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくい点から、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましく用いられる。
【0044】
溶融し紡糸する際の紡糸温度は、290〜380℃が好ましく、より好ましくは295〜360℃であり、さらに好ましくは300〜340℃である。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0045】
また、結晶化度に大きく影響するエジェクターによる繊維の牽引、延伸の方法については、エジェクターから噴射する圧縮エアを好ましくは少なくとも100℃以上に加熱し、この加熱した圧縮エアによって好ましくは紡糸速度3,000m/min以上で牽引、延伸する方法、または紡糸口金下面からエジェクターの圧縮エア噴出口までの距離を好ましくは450〜650mmとなるように配設し、エジェクターの圧縮エア(常温)によって、好ましくは5,000m/min以上、6,000m/min未満の紡糸速度で牽引、延伸する方法が、PPS繊維の結晶化を効率的に促進できる点で好ましく用いられる。
【0046】
不織ウェブ化した後の熱接着については、表面が平滑なカレンダーロールによる熱接着が好ましく用いられる。熱接着の温度は、所望する密度や接着状態により選択されるものであるが、加工性の点から熱接着温度は120〜280℃の範囲が好ましい。熱接着の温度を好ましくは120〜280℃、より好ましくは150〜275℃、さらに好ましくは180〜275℃の範囲で加工することにより、接着不足による素抜けや過接着によるシート破断の発生なく、安定して加工することができる。
【0047】
前記のメルトブロー不織布の製造方法は、例えば、樹脂を溶融し、紡糸口金から押し出された溶融樹脂に加熱高速ガス流体を吹き当てることにより、その溶融樹脂を引き伸ばして繊維状に細化し、移動コンベア上に捕集してシート状にする製造方法である。
【0048】
メルトブロー法で用いられるPPS樹脂は、ASTM D1238−70(測定温度315.5℃、測定荷重5kg荷重)に準じて測定するメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある。)が300〜2000g/10minであることが好ましい。MFRを好ましくは300g/10min以上、より好ましくは500g/10min以上とすることにより、良好な流動性をとり、容易に繊維状に細化することができる。一方、MFRを好ましくは2000g/10min以下、より好ましくは1500g/10min以下とすることにより、口金の背面圧を適度に有し、紡糸安定性に優れるものとなる。紡糸温度は、上記スパンボンド法と同様であることが好ましい。
【0049】
加熱高速ガスの温度は、300〜400℃が好ましい。加熱高速ガスの温度を好ましくは300〜400℃、より好ましくは300〜380℃、さらに好ましくは300〜360℃とすることにより、ショット(ポリマー塊状物)の発生を抑制し、安定して製造することができる。
【0050】
ただし、メルトブロー不織布の場合、その製造方法の特性から得られる繊維は全て未延伸糸となり結晶化度が極めて低く、不織布Aの結晶化度範囲に制御することができない。このため、メルトブロー不織布については、後工程にて緊張下での熱処理を行い、結晶化度を向上させる必要がある。この熱処理の方法としては、得られたメルトブロー不織布をピンテンターやクリップテンター等の機械を使用し、シート端を把持しながら、温度120〜280℃、時間5〜600秒で熱処理する方法が、前記不織布Aの結晶化度範囲に制御することができるため好ましい態様である。熱処理温度のより好ましい条件は150〜270℃、さらに好ましくは180〜260℃であり、熱処理時間のより好ましい条件は5〜120秒、さらに好ましくは5〜60秒である。
【0051】
前記の抄紙不織布の製造方法は、例えば、上記スパンボンド法で記載したMFRを有するPPS樹脂や紡糸温度を適用して、口金から溶融紡糸し、糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却した後、油剤を付与し、引き取りローラを介して未延伸糸として巻取機に巻取る。続いて、巻取った未延伸糸を、公知の延伸機を用いて周速の異なるローラ群間で延伸し、押し込み型の捲縮機などで捲縮を付与した後に、ECカッターなどのカッターで所望の長さに切断することによりPPS短繊維を得る。得られたPPS短繊維を、抄紙用分散液に分散させ、丸網式、長網式および傾斜網式などの抄紙機または手漉き抄紙機を用いて抄紙し、これをヤンキードライヤー、ロータリードライヤーおよびバンドドライヤー等で乾燥し、熱接着を施す製造方法である。抄紙不織布の形態保持性を高めるために、熱接着性を向上させる手段として、延伸繊維に未延伸繊維を混合させることができる。
【0052】
本発明においては、全繊維に対する未延伸繊維の混合割合は60%未満であることが好ましい。未延伸繊維は、熱接着時に熱ロールへ取られやすいことから、多くの未延伸繊維を混合した場合、ロール取られによるシート破断やロール汚れによる接着性悪化等、生産性を著しく低下させる。より好ましい未延伸繊維の混合割合は40%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。熱接着の方法スパンボンド法で記載と同様の方法、熱接着温度であることが好ましい。
【0053】
本発明で用いられる不織布Bは、熱接着により軟化、変形して、不織布Aの繊維間を充填し繊維間空隙を充填することを目的としている。
【0054】
この不織布Bの結晶化度は、前記記載のとおり0%以上、10%未満であることが重要である。一般的に、不織布は結晶化度が低い方が熱により軟化、変形しやすいため、不織布Bの結晶化度を0%以上、10%未満、より好ましくは0%以上、5%未満、さらに好ましくは0%以上、3%未満とすることにより、不織布Bを熱接着時に容易に軟化、変形させて、不織布Aの繊維間の空隙を充填することが可能となる。
【0055】
本発明で用いられる不織布Bは、結晶化度が低いことが重要であることから、不織布全体が未延伸糸で構成されるメルトブロー不織布であることが好ましい。このメルトブロー不織布は、前記の不織布Aで記載したメルトブロー不織布と同様の製造方法で得ることができるが、不織布Bに用いられるメルトブロー不織布に結晶化度を高める熱処理は実施しない。
【0056】
本発明で用いられる不織布Bを構成する繊維の繊維径は、0.5〜20μmであることが好ましい。繊維径を、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは0.5〜10μmとすることにより不織布Aの空隙を均一に充填することができる。
【0057】
また、不織布Bの目付は、5〜200g/mであることが好ましい。目付を好ましくは5g/m以上、より好ましくは20g/m以上、さらに好ましくは40g/m以上とすることにより、不織布Aの空隙を充填し、空気の貫通孔を無くすことが可能となる。一方、目付を好ましくは200g/m以下、より好ましくは150g/m以下、さらに好ましくは100g/m以下とすることにより、不織布Aから不織布Bが滲み出ることを抑制することができる。
【0058】
また、本発明で用いられる不織布Aと不織布Bは、不織布Aの繊維間の空隙に不織布Bを充填させることから、それぞれ1層以上を積層する必要がある。
【0059】
本発明の積層構成としては、不織布A/不織布Bの2枚積層、不織布A/不織布A/不織布Bや不織布A/不織布B/不織布B等の3枚積層、不織布A/不織布A/不織布B/不織布Bや不織布A/不織布B/不織布B/不織布A等の4枚積層、不織布A/不織布B/不織布B/不織布B/不織布Aや不織布A/不織布B/不織布A/不織布B/不織布A等の5枚積層が挙げられるが、少なくとも不織布Aが繊維シートの表裏層を構成して成ることが好ましい。結晶化度が比較的高い不織布Aを繊維シートの表裏層とすることにより、熱接着時に結晶化度が比較的低い不織布Bが熱ロールに直接触れることがなくなるため、シートの熱ロールからの剥離性が悪化するのを防止することができ、安定的に加工することが可能となる。
【0060】
不織布Aと不織布Bを積層後に熱接着する方法は、彫刻が施されたエンボスロールや表面が平滑なカレンダーロールによる方法が挙げられるが、絶縁材として用いる場合、繊維シートの表面に凹凸があると、厚みの薄い部分で絶縁破壊が起きやすくなり、安定性に劣ることから、表面は平滑であることが好ましく、この場合カレンダーロールによる熱接着が好ましく用いられる。また、カレンダーロールには、熱金属ロール−熱金属ロール、熱金属ロール−ペーパーロールおよび熱金属ロール−樹脂ロールの組み合わせがあるが、中でも熱金属ロール−ペーパーロールと熱金属ロール−樹脂ロールの組み合わせは、熱接着の際、ペーパーロールと樹脂ロールが不織布の目付斑に併せて適度に変形するため、全体に均一な圧力をかけることができ、不織布Bを不織布Aに隙間無く充填することができるため好ましく用いられる。
【0061】
熱金属ロールの表面温度は、100〜280℃であることが好ましい。熱金属ロールの表面温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは1500℃以上とすることにより、不織布Bを軟化、変形させて、不織布Aに充填させることができる。また、熱金属ロールの表面温度を好ましくは280℃以下とすることにより、繊維の融解によりシートが破断することを防ぐことができる。
【0062】
熱接着時のカレンダーロールの線圧は、200〜5000N/cmであることが好ましい。ロールの線圧を好ましくは200N/cm以上、より好ましくは300N/cm以上とすることにより、不織布Bを軟化、変形させ、不織布Aに充填させることができる。一方、ロールの線圧を好ましくは5000N/cm以下、より好ましくは4000N/cm以下、さらに好ましくは3000N/cm以下とすることにより、繊維シートがロールから剥離しにくくなったり、不織布が破断するのを防ぐことができる。
【0063】
本発明の繊維シートは、絶縁材として、打ち抜き、折り曲げ加工等して所定の形状にして、自動車用等のモーターに挿入し、ウエッジやスロットライナー、相間紙として用いることができる。また、変圧器において、コイル線間絶縁材や層間絶縁材として用いることもできる。
【実施例】
【0064】
次に、実施例により本発明の繊維シートとその製造方法について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例における各特性値は、次の方法で測定したものである。
【0065】
(1)メルトフローレート(MFR)(g/10min)
PPSのMFRは、ASTM D1238−70に準じて測定温度315.5℃で、測定荷重5kgの条件で3点測定し、その平均値をMFRとした。
【0066】
(2)繊維径(μm)
不織布の小片サンプル10個を採取し、マイクロスコープで500〜2500倍で表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定し、その平均値を算出した。単繊維の幅平均値から、小数点以下第二位を四捨五入して繊維径とした。
【0067】
(3)不織布の目付(g/m
JIS L1913(2010年)6.2「単位面積当たりの質量」に準じて、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0068】
(4)融点(℃)
不織布からランダムに試料3点を採取し、示差走査熱量計(TA Instruments社製Q100)を用いて、次の条件で試料3点を測定し、吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とした。
・測定雰囲気:窒素流(150ml/min)
・温度範囲 :30〜350℃
・昇温速度 :20℃/min
・試料量 :5mg。
【0069】
(5)結晶化度(%)
不織布からランダムに試料3点を採取し、示差走査熱量計(TA Instruments社製Q100)を用いて、次の条件と式で試料3点の測定と結晶化度を算出し、その平均値を算出した。下記の冷結晶化による発熱量は、冷結晶化に由来する発熱ピーク面積であり、融解による吸熱量は、融解に由来する吸熱ピーク面積である。熱量(ピーク面積)算出時のベースラインは、非晶のガラス転移後の液体状態と結晶の融解後の液体状態の熱流を直線で結んだものとし、このベースラインとDSC曲線の交点を境界として、発熱側と吸熱側を切り分けた。また、完全結晶時の融解熱量を146.2J/gとした。
・測定雰囲気:窒素流(50ml/min)
・温度範囲 :0〜350℃
・昇温速度 :10℃/min
・試料量 :5mg
結晶化度={〔(融解による吸熱量[J/g])−(冷結晶化による発熱量[J/g])〕/146.2[J/g]}×100。
【0070】
(6)通気量(cc/cm/s)
JIS L1913(2010年)フラジール形法に準じて、15cm角にカットした繊維シート10枚を、テクステスト社製の通気性試験機FX3300を用いて試験圧力125Paで測定した。得られた値の平均値から、小数点以下第二位を四捨五入して通気量とした。平均値が0.05cc/cm/s未満となる場合、通気度の値は0.05cc/cm/s未満とした。
【0071】
(7)不織布の熱収縮率(%)
JIS L1913(2010年)の6.10.3に準じて測定した。恒温乾燥機内の温度を200℃とし、10分間熱処理した。
【0072】
(8)絶縁破壊強さ(kV/mm)
JIS C 2110−1:2010年(短時間(急速昇圧)試験)に準じて、試料の異なる10か所から10cm×10cmの試験片を採取、直径25mmの円柱(質量100g)と75mmの円盤状の電極間に試験片を挟み、電圧0.2kV/秒で上昇させながら周波数60Hzの交流電圧をかけ、絶縁破壊したときの電圧を測定した。試験媒体には空気を用いている。得られた絶縁破壊電圧をあらかじめ測定しておいた中央部の厚さで割り、絶縁破壊強さを算出した。10カ所の平均値から、小数点以下第二位を四捨五入して絶縁破壊強さとした。
【0073】
[実施例1]
(不織布Aの製造)
MFRが600g/10minの線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:M2888)を、窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥した。この線状ポリフェニレンサルファイド樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度320℃で、孔径φ0.30mmの紡糸口金から単孔吐出量0.39g/minで紡出し、室温20℃の雰囲気下で吐出された糸条を加熱高速ガス350℃、加熱高速ガスの噴射圧力0.15MPaで延伸し、移動するネット上に捕集してメルトブロー不織布を得た。続いて得られたメルトブロー不織布を、ピンテンターを用いて、温度200℃で30秒間の熱処理を行った。得られたメルトブロー不織布の繊維径は4.8μm、目付は20g/m、融点は285.2℃であり、結晶化度は32.6%であった。
【0074】
(不織布Bの製造)
MFRが600g/10minの線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:M2888)を、窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥した。この線状ポリフェニレンサルファイド樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度320℃で、孔径φ0.30mmの紡糸口金から単孔吐出量0.39g/minで紡出し、室温20℃の雰囲気下で吐出された糸条を加熱高速ガス350℃、加熱高速ガスの噴射圧力0.15MPaで延伸し、移動するネット上に捕集してメルトブロー不織布を得た。得られたメルトブロー不織布の繊維径は4.8μm、目付は60g/m、融点は284.3℃であり、結晶化度は0.3%であった。
【0075】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度165℃で熱接着し、不織布Aの繊維間に不織布Bが樹脂状に軟化、変形して充填されている繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は101g/m、厚さは0.10mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.1%であり、絶縁破壊強さは29.4kV/mmであった。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
(不織布Aの製造)
MFRが160g/10minの線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:E2280)を、窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥した。この線状ポリフェニレンサルファイド樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度320℃で、孔径φ0.50mmの矩形紡糸口金から単孔吐出量1.38g/minで紡出した。紡出した糸条を、矩形紡糸口金から矩形エジェクターまでの距離を55cmとして室温20℃の雰囲気下で冷却固化した。冷却固化された糸条を矩形エジェクターに通し、エジェクターから、空気加熱器で230℃の温度に加熱し、紡糸速度が5,000m/minとなるようにエジェクター圧力0.15MPaの圧縮エアを噴射させ、糸条を牽引、延伸し、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した。引き続き、得られた不織ウェブをインライン上に設置された金属製の上下一対のカレンダーロールで線圧500N/cmおよび熱接着温度230℃で熱接着し、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布の繊維径は16.2μm、目付は34g/m、融点は287.0℃であり、結晶化度は38.1%であった。
【0077】
(不織布Bの製造)
不織布Bは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0078】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度200℃で熱接着し、繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は128g/m、厚さは0.13mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.1%であり、絶縁破壊強さは27.1kV/mmであった。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
(不織布Aの製造)
MFRが225g/10minの線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:E2481)を320℃で溶融紡糸し、糸条を冷却、油剤を付与して、巻取機を用いて紡糸速度1300m/minで引き取って未延伸糸を得た。この未延伸糸の繊維径は、15.0μmであった。この未延伸糸を95℃の温度の熱水浴中で3.0倍に延伸し、クリンパーで捲縮を付与し延伸糸を得た。この延伸糸の繊維径は、9.2μmであった。次に、得られた延伸糸をECカッターを用いて6mmの長さに切断した短カット綿と、上記の未延伸糸にクリンパーで捲縮を付与しECカッターを用いて切断した未延伸短カット綿(カット長6mm)を、70:30質量%の割合で両繊維を混合し、繊維濃度が0.4質量%となるように水に分散させてスラリーを得た。このスラリーを丸網式抄紙機に供給し、インライン上に設置された金属製の上下一対のカレンダーロールで線圧500N/cmおよび熱接着温度190℃で熱接着し、抄紙不織布を得た。得られた抄紙不織布の目付は40g/m、融点は288.2℃であり、結晶化度は39.5%であった。
【0080】
(不織布Bの製造)
不織布Bは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0081】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度200℃で熱接着し、不織布Aの繊維間に不織布Bが樹脂状に軟化、変形して充填されている繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は141g/m、厚さは0.15mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.1%、よこ方向で0.3%であり、絶縁破壊強さは28.2kV/mmであった。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例4]
(不織布Aの製造)
不織布Aは、実施例1記載の不織布Aと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0083】
(不織布Bの製造)
MFRが1000g/10minの線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:M3088)を、窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥した。この線状ポリフェニレンサルファイド樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度325℃で、孔径φ0.30mmの紡糸口金から単孔吐出量0.39g/minで紡出し、室温20℃の雰囲気下で吐出された糸条を加熱高速ガス355℃、加熱高速ガスの噴射圧力0.15MPaで延伸し、移動するネット上に捕集してメルトブロー不織布を得た。得られたメルトブロー不織布の繊維径は3.6μm、目付は40g/m、融点は285.1℃であり、結晶化度は0.4%であった。
【0084】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度165℃で熱接着し、不織布Aの繊維間に不織布Bが樹脂状に軟化、変形して充填されている繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は80g/m、厚さは0.09mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.1%であり、絶縁破壊強さは25.4kV/mmであった。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例5]
(不織布Aの製造)
熱接着温度を105℃としたこと以外は、実施例2記載の不織布Aと同じ条件でスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布の繊維径は16.2μm、目付は34g/m、融点は286.4℃であり、結晶化度は24.2%であった。
【0086】
(不織布Bの製造)
不織布Bは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0087】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度200℃で熱接着し、不織布Aの繊維間に不織布Bが樹脂状に軟化、変形して充填されている繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は128g/m、厚さは0.13mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.2%であり、絶縁破壊強さは26.1kV/mmであった。結果を下記の表1に示す。
【0088】
[実施例6]
(不織布Aの製造)
紡糸速度が5,500m/minとなるようにエジェクター圧力0.18MPaにし、熱接着温度を270℃としたこと以外は、実施例2記載の不織布Aと同じ条件でスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布の繊維径は15.4μm、目付は34g/m、融点は289.1℃であり、結晶化度は42.3%であった。
【0089】
(不織布Bの製造)
不織布Bは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0090】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度200℃で熱接着し、不織布Aの繊維間に不織布Bが樹脂状に軟化、変形して充填されている繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は128g/m、厚さは0.13mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.0%であり、絶縁破壊強さは26.8kV/mmであった。結果を表2に示す。
【0091】
[実施例7]
(不織布Aの製造)
不織布Aは、実施例1記載の不織布Aと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0092】
(不織布Bの製造)
加熱高速ガスの噴射圧力を0.20MPaとしたこと以外は、不織布Bは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。得られたメルトブロー不織布の繊維径は2.8μm、目付は60g/m、融点は284.5℃であり、結晶化度は2.6%であった。
【0093】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度165℃で熱接着し、不織布Aの繊維間に不織布Bが樹脂状に軟化、変形して充填されている繊維シートを得た。得られた繊維シートの目付は100g/m、厚さは0.10mm、通気量0.05cc/cm/s未満、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.2%であり、絶縁破壊強さは27.4kV/mmであった。結果を表2に示す。
【0094】
[比較例1]
(不織布A)
不織布Aは、実施例1記載の不織布Aと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0095】
(不織布B)
実施例1記載の不織布Bのメルトブロー不織布をピンテンターを用いて、温度200℃で30秒間の熱処理を行った。得られたメルトブロー不織布の繊維径は4.8μm、目付は60g/m、融点は284.9℃であり、結晶化度は32.3%であった。
【0096】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度200℃で熱接着し、繊維シートを得た。しかし、得られた繊維シートは、不織布Bが樹脂状に軟化、変形せずに、不織布Aの繊維間が充填されていなかった。得られた繊維シートの目付は100g/m、厚さは0.11mm、通気量0.12cc/cm/s、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.1%であり、絶縁破壊強さは7.4kV/mmであった。結果を表2に示す。
【0097】
[比較例2]
(不織布A)
不織布Aは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0098】
(不織布B)
不織布Bは、実施例1記載の不織布Bと同じメルトブロー不織布を用いた。
【0099】
(積層・熱接着)
引き続き、不織布Aを表裏層、不織布Bを中間層とする不織布A/不織布B/不織布Aの3層に積層し、上が金属ロール、下がペーパーロールである上下一対のカレンダーロールで、線圧500N/cmおよび金属ロールの温度165℃で熱接着したが、シートの金属ロールからの剥離性が悪く、金属ロールへシートが巻き付いてしまうため、加工が困難となり、繊維シートを得ることが出来なかった。結果を表2に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
実施例1〜7に記載のように、不織布Aの結晶化度を24.2〜42.3%、不織布Bの結晶化度を0.3〜2.6%とすることにより、通気量は0.05cc/cm/s未満となり、絶縁破壊強さも25kV/mm以上の良好な値であった。
【0103】
一方、結晶化度が比較的高い不織布だけで構成される比較例1は、通気量が0.12cc/cm/sと大きくなり、絶縁破壊強さは7.4kV/mmと低い値であった。また、結晶化度が比較的低い不織布だけで構成される比較例2については、熱ロールからのシート剥離性が悪いために、繊維シートを得ることが出来なかった。
【符号の説明】
【0104】
1:PPS繊維
2:PPS樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイドを主成分とする繊維シートであって、該繊維シートを構成する繊維間がポリフェニレンサルファイドを主成分とする樹脂で充填され、通気量が0.05cc/cm/s未満であることを特徴とする繊維シート。
【請求項2】
絶縁破壊強さが15kV/mm以上であることを特徴とする請求項1記載の繊維シート。
【請求項3】
繊維シートを構成する繊維と樹脂の融点差が30℃未満であることを特徴とする請求項1または2記載の繊維シート。
【請求項4】
結晶化度が20%以上、50%以下であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Aと、結晶化度が0%以上、10%未満であるポリフェニレンサルファイドを主成分とする不織布Bを、それぞれ1層以上積層し、熱接着により不織布Bを軟化、変形させて不織布Aの繊維間に充填させ、通気量を0.05cc/cm/s未満とすることを特徴とする繊維シートの製造方法。
【請求項5】
不織布Aを表裏層とする請求項4記載の繊維シートの製造方法。
【請求項6】
不織布Aが熱処理されたメルトブロー不織布、スパンボンド不織布および抄紙不織布のいずれかであることを特徴とする請求項4または5記載の繊維シートの製造方法。
【請求項7】
不織布Bが熱処理をしていないメルトブロー不織布であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の繊維シートの製造方法。

【図1】
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