説明

繊維シートによるアスファルト補修方法およびアスファルト舗装の施工方法

【課題】補強材のリサイクル性に優れ、さらに、タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対する補強効果に優れたアスファルト舗装の補修方法を提供する。
【解決手段】アスファルト混合物層1のみのアスファルト舗装、またはアスファルト混合物層1および路盤2を有するアスファルト舗装のアスファルト混合物層1を、切削または掘削し、切削面上または掘削面上に、下記(1)〜(3)を具備する繊維シート4を敷設し、ついで該繊維シート4の上をアスファルト混合物で舗装することによりアスファルト舗装を補修する。(1)繊維シート4が、高強力繊維からなるネット状の繊維シートであること(2)繊維シート4の開口が、アスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であること(3)繊維シート4の開口率が、50%以上であること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト混合物層のみのアスファルト舗装、またはアスファルト混合物層および路盤を有するアスファルト舗装の補修方法、ならびにアスファルト舗装の施工方法に関し、より詳しくは、アスファルト舗装における既設アスファルト混合物層を掘削または切削し、掘削面または切削面に繊維シートを敷設し、ついで新設アスファルト混合物層を設ける補修方法ならびに路盤上に、繊維シートを敷設し、ついでアスファルト混合物で舗装する施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアスファルト舗装道路は、路床、路盤の上にアスファルト混合物層を形成することによって建設される。しかし、近年、車輌の積載重量と通行量の増加によって多くの道路で舗装の亀裂、流動化・轍掘れが発生し、耐用年数を待たずにオーバレーレイ等による道路補修を頻繁に実施しなければならないという問題が起こっている。
さらに路盤、路床の強度が低下している場合、従来はこれらの層から掘削して新規材料で舗装の再構築を行っている。しかしながら、このような工程は日当たりの作業量が限られ、かつコストも大きなものとなる。近年、工事渋滞による社会的損失や、沿道環境への負荷の多さから、日当たり作業量を大きくし、施工日数を短縮する工法が必要とされてきている。また、限られた予算を、有効に活用するため、低コストの工法も求められている。
【0003】
通常、亀裂・流動化、轍掘れは、使用するアスファルトの硬度に依存するので、亀裂防止のためには軟質のアスファルトが使用され、流動轍掘れ抑制のためには硬質のアスファルトが使用されている。したがって、アスファルトだけではこれらの問題を同時に解決できなかった。従来、このような問題を解決するために、アスファルト混合物層の中に、プラスチックの延伸ネット(ジオグリッド)、合成繊維の織布または不織布(ジオテキスタイル)、金網などのシート状のものを補強材として展張することが試みられている。しかし、従来のジオグリッド及びジオテキスタイルは、引張弾性率が低く伸度が大きいので、載荷状態のアスファルトの伸び歪を抑制することが充分にできず補強効果が小さかった。また、金網は、弾性率は高いが伸度が小さ過ぎるために、衝撃を吸収することができないで、アスファルト混合物層を脆くするという問題があった。
【0004】
補強効果の発現のためにはアスファルトと補強材の接着が重要である。ジオテキスタイルについては、従来、このために補強材にアスファルト乳剤、タックコート剤等を吹き付け塗布することが行われているが、従来のジオテキスタイルでは必ずしも充分な結果は得られていない。ジオグリッドについても、基材が接着性に乏しいためにこのような前処理及び被覆処理を施しても充分に接着が達成されていないのが実状である。
また、補強材が厚いとアスファルト混合物層に加えられた曲げ応力、せん断応力によって界面剥離が起こしやすいという問題もあった。
【0005】
このような問題を解決するものとして、特許文献1には、前記のジオテキスタイルに代えて、被覆材(アスファルトに密着する材料)で被覆された、特定の引張弾性率および破断伸度の高弾性率繊維を含む繊維束からなる複合成形体を用いて、アスファルト舗装を補強する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法やジオテキスタイルをプリプレグの形態で用いる方法では、繊維材料の形態を変化させているため、再度アスファルト舗装を補修する場合には、複合成形体等を剥がすのが困難となり、作業性に支障をきたす恐れがあった。また、複合成形体等をリサイクル活用できないといったリサイクル性に乏しいという問題もあった。また、タイヤ等によるへこみやひび割れ等に対する補強効果にまだまだ満足のいくものではなく、これらの条件を満足させるアスファルト舗装の補修方法が待ち望まれていた。
また、従来の繊維とアスファルトの接着性を高めた繊維シートを用いた補修方法では、アスファルト混合物と繊維シートの密着が大であるために、掘削または切削して骨材を回収する際の繊維シートと骨材との分離が困難であった。さらに、繊維シートの引張強度が低い場合には、繊維シートが切断してしまい、そのため、骨材と繊維シートの分離が困難であった。いずれも、掘削または切削して骨材と繊維シートを回収するときに両者の分離が困難であった。
【特許文献1】特開平6−158607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アスファルト混合物層の下部またはさらにその下の路盤や路床の強度が低下しているような場合において、これらの強度低下部分を掘削して、新規材料にて再構築する工法を用いることなく、当該工法と同等またはそれ以上の補強効果をもち、かつコストが同等またはそれ以下であり、さらに日当たり作業量が同等以上のアスファルト舗装の補修方法を提供することを主目的とする。
また、本発明は、再補修の際の作業性と骨材および補強材のリサイクル性に優れ、さらに、タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対する補強効果に優れたアスファルト舗装の補修方法ならびに補修の際の作業性と骨材および補強材のリサイクル性に優れ、さらにタイヤ等によるへこみやひび割れなどに対して強く、耐久性に優れたアスファルト舗装を施工できる工法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、下記(i)〜(iii)を具備する繊維シートを、被覆材と一体化して複合体とせずに、アスファルト舗装の補修方法に用いることによって、該補修方法が、再補修の際の作業性と補強材のリサイクル性に優れ、さらに、タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対する補強効果に優れた補修方法となることを知見し、上記従来の問題点を一挙に解決できることを見出した。
(i)繊維シートが高強力繊維からなるネット状の繊維シートである。
(ii)繊維シートの開口がアスファルト舗装用骨材の最大粒径未満である。
(iii)繊維シートの開口率が50%以上である。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] アスファルト混合物層のみのアスファルト舗装、またはアスファルト混合物層および路盤を有するアスファルト舗装のアスファルト混合物層を、切削または掘削し、切削面上または掘削面上に繊維シートを敷設し、ついで該繊維シートの上を、アスファルト混合物で舗装することによりアスファルト舗装を補修する方法であって、
(1)該繊維シートが、高強力繊維からなるネット状の繊維シートであり、
(2)該繊維シートの開口が、アスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であり、
(3)該繊維シートの開口率が、50%以上であることを特徴とするアスファルト舗装の補修方法、
[2] さらに(4)前記繊維シートを構成する各糸の交点が、被覆材を用いずに固定されていることを特徴とする前記[1]に記載の補修方法、
[3] 前記高強力繊維が、12cN/Dtex以上の引張強度の繊維である前記[1]または[2]に記載の補修方法、
[4] 前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が絡み織りである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の補修方法、
[5] 前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が熱可塑性繊維を高強力繊維からなる経糸もしくは緯糸に絡ませる絡み織りであり、前記繊維シートを構成する経糸と緯糸との交点が、経糸もしくは緯糸と熱可塑性繊維との絡み構造および該熱可塑性繊維の熱融着により固定されている前記[2]に記載の補修方法、
[6] 路盤上に繊維シートを敷設し、ついで該繊維シートの上を、アスファルト混合物で舗装することによりアスファルト舗装を施工する方法であって、
(1)該繊維シートが、高強力繊維からなるネット状の繊維シートであり、
(2)該繊維シートの開口が、アスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であり、
(3)該繊維シートの開口率が、50%以上であることを特徴とするアスファルト舗装の施工方法、
[7] さらに(4)前記繊維シートを構成する各糸の交点が、被覆材を用いずに固定されていることを特徴とする前記[6]に記載の施工方法、
[8] 前記高強力繊維が、12cN/Dtex以上の引張強度の繊維である前記[6]または[7]に記載の施工方法、
[9] 前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が絡み織りである前記[6]〜[8]のいずれかに記載の施工方法、および
[10] 前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が熱可塑性繊維を高強力繊維からなる経糸もしくは緯糸に絡ませる絡み織りであり、前記繊維シートを構成する経糸と緯糸との交点が、経糸もしくは緯糸と熱可塑性繊維との絡み構造および該熱可塑性繊維の熱融着により固定されている前記[7]に記載の施工方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアスファルト舗装の補修方法は、下記(a−1)〜(a−3)の効果を奏する。
(a−1)アスファルト舗装を効率的に補修できる。
(a−2)再補修の際の作業性と骨材および補強材のリサイクル性に優れている。
(a−3)タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対する補強効果に優れている。
また、本発明のアスファルト舗装の施工方法は、下記(b−1)〜(b−3)の効果を奏する。
(b−1)アスファルト舗装を効率的に施工できる。
(b−2)補修の際の作業性と骨材および補強材のリサイクル性に優れている。
(b−3)施工によって設けられたアスファルト舗装は、タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対して強く、耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアスファルト舗装の補修方法は、アスファルト混合物層のみのアスファルト舗装、またはアスファルト混合物層および路盤を有するアスファルト舗装のアスファルト混合物層を、切削または掘削し(切削または掘削工程)、切削面上または掘削面上に繊維シートを敷設し(繊維シート敷設工程)、ついで該繊維シート上をアスファルト混合物で舗装すること(アスファルト混合物舗装工程)によりアスファルト舗装を補修する方法であって、
(1)該繊維シートが、高強力繊維からなる繊維シートであり、
(2)該繊維シートの開口がアスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であり、
(3)該繊維シートの開口率が50%以上であることを特徴とする。
【0012】
(アスファルト舗装)
前記アスファルト舗装は、アスファルト混合物層(1)のみ、およびアスファルト混合物層(1)および路盤(2)のいずれであってもよい。古いアスファルト舗装の中には、アスファルト混合物層のみで路盤の有無がはっきりしない場合があり、このような場合、本発明では、前記の古いアスファルト舗装を、アスファルト混合物層のみのアスファルト舗装とする。前記アスファルト舗装としては、例えばアスファルト舗装道路などが挙げられる。 前記「アスファルト混合物層」とは、アスファルト混合物からなる層をいう。このアスファルト混合物層は、例えば図1に示されるように、通常、路盤(2)上に設けられる。前記「アスファルト混合物」は、アスファルト、骨材および砂からなる材料であり、公知のアスファルト混合物であってよい。
【0013】
(繊維シート)
本発明で用いられる繊維シートは、(1)該繊維シートが、高強力繊維からなるネット状の繊維シートであり、(2)該繊維シートの開口がアスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であり、(3)該繊維シートの開口率が50%以上であれば特に限定されない。
そのため、前記繊維シートの種類も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、織物、編物および網のいずれであってもよい。
【0014】
前記繊維シートは、高強力繊維から常法に従いネット状の繊維シートに製造されるが、高強力繊維でネット状の繊維シートを構成すること以外に、繊維シートの開口がアスファルト舗装用骨材の最大粒径未満となるように構成すること、繊維シートの開口率が50%以上となるように構成することが肝要である。開口が骨材の最大粒径より大きい場合、上部からの加圧により最大粒径の骨材が開口部を貫通する割合が増加し、繊維シート上部のアスファルト混合物層からの圧力が繊維シートに伝達される割合が減少するので好ましくない。開口率が50%未満であると、繊維シートが異物となって、繊維シートの上部層と下部層のアスファルト混合物どうしの接着を阻害する。
前記のようにして構成された繊維シートを用いて、アスファルト舗装を補修することによって、再度の補修時の作業性が優れたものとなり、また、タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対する補強効果が優れたものとなる。
【0015】
前記高強力繊維の引張強度は、12cN/Dtex以上であるのが好ましく、14〜40cN/Dtexであるのがより好ましい。引張強度が40cN/Dtexよりも大きい繊維は、現時点において、量産、市販されていないので、本発明の補修、施工に使用するのにはあまり現実的でない。引張強度が12cN/Dtex未満の繊維では補強効果が十分でない。補強材として用いるという観点から、前記高強力繊維は、施工時のアスファルト混合物の温度に耐えられる繊維、すなわち160〜180℃の高温においても、強力が低下したり、溶けたり、或いは分解したりしない繊維であるのが好ましく、中でも、示差走査熱量測定法による融点が200℃以上の繊維か、または融点がなく、かつ300℃以上で熱分解する繊維がより好ましい。
【0016】
前記高強力繊維としては、例えば、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製の商品名ベクトラン)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維(例えば東洋紡株式会社製の商品名ザイロン)、高強力ポリビニルアルコール繊維(例えばユニチカ株式会社製の商品名“ビニロン”の高強度タイプ、株式会社クラレ製の商品名“クラロンK−II”の高強度タイプ)などが挙げられるが、中でもパラ系アラミド繊維が好ましい。前記パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば東レ・デュポン株式会社製の商品名ケブラー)およびコポリパラフェニレン−3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(例えば帝人株式会社製の商品名テクノーラ)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、前記高強力繊維として炭素繊維や金属繊維などを用いてもよい。なお、前記繊維シートは、先に例示した各高強力繊維の1種類からなっていてもよいし、任意の2種類以上からなっていてもよい。
また、前記繊維シートは、例えばポリエステル、ナイロン、普通強力(例えば12cN/Dtex未満)のポリビニルアルコール繊維などの汎用繊維と交織、交編してもよい。
【0017】
前記繊維シートの製造の際に、繊維シートの開口がアスファルト舗装用骨材の最大粒径未満および開口率が50%以上となるようにする。例えば、繊維シートが織物である場合には、製織する際に、織り方、経糸および緯糸の太さ、打ち込み本数などを適宜設定することにより所望の開口および開口率とすることができる。また、繊維シートが編物や網である場合には、製編や製網する際に、常法に従い、編目や網目、糸の太さを適宜設定することにより所望の開口および開口率とすることができる。
【0018】
前記アスファルト舗装用骨材としては、通常、アスファルト舗装用粗骨材が用いられ、前記アスファルト舗装用粗骨材としては、通常、粒径2.5〜13mm、粒径2.5〜20mm、粒径2.5〜25mmのものが用いられる。そのため、前記アスファルト舗装用粗骨材の最大粒径は、通常、13〜25mmのいずれかの値となる。例えば、前記粗骨材として粒径2.5〜20mmのものを用いる場合には、例えば、前記繊維シートの開口が19mm以下となるように構成される。
また、前記粗骨材として粒径2.5〜13mmのものを用いる場合には、例えば、前記繊維シートの開口が12mm以下となるように構成される。なお、前記「開口」は、開口部の内接円の直径、または内接楕円の長径をいう。
【0019】
前記開口率は、前記繊維シートを市販のコピー機(例えば富士ゼロックス株式会社製の機種名Docu Centre 505 CP等)で印刷し、印刷することによって、該繊維シートの開口部が例えば白く写るので、その白い部分の開口部面積(S2)を求め、その面積を全体の面積(S1)で割り返し、100倍することにより求められる。なお、開口率を数式で表わすと下式のようになる。
〔数1〕
開口率(%)=(S2/S1)×100
【0020】
また、前記繊維シートは、被覆材を用いずに各糸の交点が固定されているのがよい。被覆材を用いずに各糸の交点が固定されている繊維シートを本発明方法に用いることにより、再補修時の作業性や該繊維シートの剥離性、耐久性、応力分散性、タイヤなどによるへこみ防止性能および耐ひびわれ性を一挙に向上させることができる。
前記繊維シートの各糸の交点を固定する方法としては、被覆材を用いなければ特に限定されず、例えば前記繊維シートが織物である場合には、絡み織や模紗織などの方法が挙げられる。なお、からみ織を採用する場合には、熱可塑性繊維を高強力繊維からなる経糸もしくは緯糸に絡ませたり、沿わせたりし、ついで該熱可塑性繊維を熱融着させることにより経糸と緯糸との交点を固定することができる。前記熱可塑性繊維としては、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などが挙げられるが、中でも、加熱時間が短くても効率的に交点を融着できることから、融点が200℃以下の低融点ナイロン繊維や低融点ポリエステル繊維が好ましい。
本発明では、前記繊維シートの各糸の交点を固定する方法が、例えば前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が熱可塑性繊維を高強力繊維からなる経糸もしくは緯糸に絡ませる絡み織りである場合には、経糸と緯糸との交点を、経糸もしくは緯糸と熱可塑性繊維との絡み構造および/または該熱可塑性繊維の熱融着により固定するのが好ましい。
【0021】
一方、前記繊維シートが編物や網である場合には、該編物や網として、各糸の交点が固定されるような編物や網を採用することで前記の構成とすることができるし、また、このような編物や網以外のものを採用する場合には、熱可塑性繊維を各糸に絡ませたり、沿わせたりして、ついで加熱融着させて固定する方法によって編物や網の各糸の交点を固定することができる。前記の編物としては、例えば、たて編み、丸編み、よこ編みなどが挙げられる。なお、前記たて編みとしては、例えば、ラッセル編み、たて糸挿入ラッセル編み、よこ糸挿入ラッセル編み、たてよこ糸挿入ラッセル編みなどが挙げられる。前記の網としては、例えば、蛙又結節網、ラッセル網、無結節網、本目網、捩子網などが挙げられる。これらの網は常法に従い製造でき、例えば、蛙又結節網の場合には蛙又編網機を、ラッセル網の場合にはラッセル組網機を、無結節網の場合には丸型無結節組網機を、本目網の場合には本目編網機を、捩子網の場合には捩子網組網機をそれぞれ用いて製造できる。
【0022】
なお、本発明では、繊維シートの生産効率の上で織物であるのが好ましく、該織物の織組織が絡み織りであるのがより好ましい。また、前記繊維シートには、高強力繊維とともに着色繊維を用いて、所望の間隔毎に該着色繊維を経糸または緯糸に交撚することにより、該着色繊維を目印とすることができる。このように目印を設けることで、敷設工程や舗装工程における作業性をさらに向上させることができる。着色繊維は、地糸と異なる色で着色された繊維であれば特に限定されず、前記の高強力繊維と同じ種類のものであってもよいし、前記の熱可塑性繊維と同じ種類のものであってもよい。
また、前記繊維シートは、引張強度が30KN/m以上、望ましくは50KN/m以上、さらに望ましくは60KN/m以上であるのが補強効果の上で好ましい。なお、繊維シートの引張強度は、JIS L 1096・8−12に準じて測定した。
【0023】
なお、前記繊維シートは、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、各糸の交錯点をより強く固定するために、適宜に公知の樹脂を用いて、ディッピング−乾燥処理等による繊維間接着が行われていてもよい。
【0024】
さらに、前記繊維シートを用いること以外は、常法に従いアスファルト舗装を補修することができる。以下、本発明のアスファルト舗装の補修方法の各工程についてより具体的に説明する。
【0025】
(切削および掘削工程)
本工程では、前記アスファルト舗装のアスファルト混合物層を、一定厚切削するか、あるいはアスファルト混合物層全層を掘削する。この手段としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、常法であってよい。なお、前記「切削」とは、アスファルト混合物層内で、上から所望の部分までを専用機械(切削機)で削り取る作業をいい、また、前記「掘削」とは、アスファルト混合物層全てまたはさらにその下の路盤から掘り起こす作業をいう。
【0026】
(繊維シート敷設工程)
本工程では、前記繊維シートをアスファルト混合物切削面あるいは路盤面上に敷設する。例えば、図2に示すように、前工程でアスファルト混合物層を一定厚切削した場合には、切削されなかったアスファルト混合物層(1b)上に、前記繊維シートが敷設される。また、例えば、図3に示すように、前工程でアスファルト混合物層全層を掘削した場合には、掘削面上、すなわち、路盤(2)上に前記繊維シートが敷設される。前記繊維シートを敷設する際、アスファルト混合物切削面あるいは路盤面上にアスファルト乳剤を敷設前に散布するのがよい。前記アスファルト乳剤としては、一般的に使用される、カチオン系アスファルト乳剤を使用するが、溶剤型の浸透性アスファルト乳剤やその他のアスファルト乳剤の使用を妨げるものではない。このアスファルト乳剤の散布量は、常法に従ってよく、通常、0.2〜1.4リットル/mである。
本工程で、前記繊維シートと被覆材(すなわち、アスファルトと密着する材料)とを一体化して複合体とせずに、前記繊維シートをアスファルト混合物切削面あるいは路盤上に敷設し、ついで下記アスファルト舗装工程を実施してアスファルト舗装を補修することによって、補修後のアスファルト舗装を再度補修する場合には、再補修の際に、前記繊維シートを剥がしやすくすることができ、再補修の作業性を向上させることができ、さらに、剥がした前記繊維シートおよび骨材をリサイクル活用することができるようになる。また、本工程で前記繊維シートを敷設することにより、路盤材を減らすことができ、さらには、材料や工費の節減が可能となる。
【0027】
(アスファルト混合物舗装工程)
本工程では、前記繊維シート上をアスファルト混合物で舗装する。舗装方法は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、常法であってよい。なお、本工程で、前記繊維シートを被覆材で含浸・固化して複合体とすると、上記したように再補修の際の作業性が悪いなどの問題が生じる。
【0028】
なお、前記の切削および掘削工程で、アスファルト混合物層を一定厚切削した場合の本発明の適用例を図2に示す。また、前記の切削および掘削工程で、アスファルト混合物層全層を掘削した場合の本発明の適用例を図3に示す。
【0029】
以上のようにして補修されたアスファルト舗装は、応力分散性や耐久性に優れ、補修前に比べて耐衝撃性が向上し、タイヤ等によるへこみやひび割れなどに対して優れた耐力を有する。また、再度、補修する場合には、前記繊維シートが剥がしやすく、さらに、剥がした前記繊維シートをリサイクル活用することができる。
【0030】
また、前記繊維シートを路盤上に敷設し、ついで該繊維シートの上を、アスファルト混合物で舗装することにより、アスファルト舗装を施工する方法も本発明の一つである。このようなアスファルト舗装の施工方法は、前記繊維シートを用いること以外、常法に従い行われてよい。
【実施例】
【0031】
(実施例1〜2)
アスファルト混合物層(厚さ18cm)および路盤層(厚さ30cm)を有するアスファルト舗装のアスファルト混合物層を、10cm切削し、切削面上に、下記表1に示されるネット状の繊維シートを敷設した。敷設する際、予め切削した面上に乳剤を散布し、繊維シートを敷設した。ついで、敷設した繊維シート上を粒径2.5〜20mmの粗骨材を含むアスファルト混合物で舗装して新たなアスファルト混合物層(厚さ10cm)を設けることにより、アスファルト舗装を補修した。
なお、実施例1の繊維シートは、製織後表面温度125℃のローラの上を通過させることによって、低融点ナイロン部分を溶融させ、次いで自然冷却により、溶融した低融点ナイロンを固化させて、たて糸とよこ糸を固着させたものである。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、実施例1で補修されたアスファルト舗装のアスファルト混合物層を再度掘削し、繊維シートを剥がしてみると、人力にて剥がすことができた。
【0034】
(比較例)
繊維シートを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアスファルト舗装を補修した。
【0035】
(試験例1)
実施例1〜2および比較例において、FWD(フォーリング・ウェイト・デフレクトメータ)試験機にて、施工前後における舗装表面のたわみ測定を行った。FWDは、重錐(重り)を路面に落下、衝突させ、その時の衝撃荷重によって生じる路面のたわみを計測する試験機である。このとき重錐の落下中心から150cm離れた位置のたわみをD150と称する。
結果を下記表2に示す。
【表2】

【0036】
表2より、比較例と比べて実施例ではたわみが減少していることから、実施例の繊維シートによって路盤への荷重影響が低下したものと思われる。すなわち、実施例の繊維シートによりアスファルト混合物層の荷重分散性が向上したことが分かる。
【0037】
(試験例2)三点曲げ試験
舗装試験法便覧((社)日本道路協会昭和63年11月発行)3−7−5曲げ試験方法に準じて繊維シートで補強した試験片を作製し、三点曲げ試験を行った。
(試験片の作製)
通常の舗装構成に応じて基層材料(骨材とアスファルトからなる粗粒度アスファルト混合物)で厚さ50mmの下層を作り、補強材として実施例1の繊維シートをアスファルト乳剤で接着し、さらにその上に表層材料(密粒度アスファルト混合物)で厚さ50mmの上層部を積層して厚さ100(mm)×幅100(mm)×長さ300(mm)の試験片Aを作製した。実施例2の繊維シートを用いたほかは、試験片Aと同じ方法により試験片Bを作製した。同様に繊維シートを入れないで試験片Cを作製した。
【0038】
(試験方法)
200mmの間隔をおいた二点の支点の上に前記試験片を置き、試験片の上部において前記両支点間の中央部に配置された載荷ヘッドにて載荷速度50mm/minで中央部に集中載荷して曲げ試験を行った。
【0039】
(試験結果)
曲げ強度とひずみ曲線を図4に示す。同図において、曲げ強度の最大強度で試験片にクラックが発生し、最大強度のピークをすぎるとクラックが進展しひずみの増加とともに曲げ強度は低下していくが、その挙動は明らかな相違があり、繊維無しは最大強度のピーク後急速に破壊する。これに対し、KEVLAR(登録商標)繊維シートで補強された試験片Aは、曲げ強度ピーク後も高い曲げ強度を維持しており、次第に曲げ破壊より荷重支持点におけるせん断破壊の形態に移行していき30%近いひずみにて破壊に至った。またビニロンで補強された試験片Bは、KEVLAR(登録商標)で補強された試験片Aより曲げ強度レベルは低いが、試験片Aに近い挙動を示した。
また、最大曲げ強度後の、最大曲げ強度の75%曲げ強度時のひずみ(%)、同50%曲げ強度時のひずみ(%)を表3に示す。繊維補強されていない試験片Cの最大曲げ強度の50%強度時のひずみは9.3%であるのに対し、繊維補強された試験片A、Bのそれはそれぞれ28.2%、20.8%で、これらの数値は繊維補強されていない試験片Cに比べ、変形が進んでもクラックの進展が進みにくいことを示している。
これらの結果は、本発明の工法により繊維補強されたアスファルト舗装道路は、自動車やトラックの通行によるクラックや轍掘れが発生しにくく、アスファルト舗装道路の寿命の延長ができることを示している。
【0040】
【表3】

【0041】
(実施例3〜4)
アスファルト混合物層(厚さ23cm)および路盤層(厚さ13cm)を有するアスファルト舗装のアスファルト混合物層を、全層(層厚23cm)掘削し、掘削面上に、上記表1の実施例1〜2に該当するネット状の各繊維シートを敷設した。敷設する際、掘削した面上に乳剤を散布し、繊維シートを敷設した。次いで繊維シート上に乳剤を散布した。敷設した繊維シート上を粒径2.5〜20mmの粗骨材を含むアスファルト混合物で舗装して新たなアスファルト混合物層(厚さ23cm)を設けることにより、アスファルト舗装を補修した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明方法は、アスファルト舗装の補修に有用であり、アスファルト舗装の施工に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アスファルト混合物層の位置づけを説明する模式図である。
【図2】前記アスファルト混合物層を一定厚切削した場合の本発明の適用例を説明する模式図である。
【図3】前記アスファルト混合物層全層を掘削した場合の本発明の適用例を説明する模式図である。
【図4】試験例2の試験結果を示し、縦軸が曲げ強度(MPa)であり、横軸がひずみ(%)である。
【符号の説明】
【0044】
1(1a、1b):アスファルト混合物層
2:路盤(砂利層)
3:路床(基盤;通常は土)
4:繊維シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト混合物層のみのアスファルト舗装、またはアスファルト混合物層および路盤を有するアスファルト舗装のアスファルト混合物層を、切削または掘削し、切削面上または掘削面上に繊維シートを敷設し、ついで該繊維シートの上を、アスファルト混合物で舗装することによりアスファルト舗装を補修する方法であって、
(1)該繊維シートが、高強力繊維からなるネット状の繊維シートであり、
(2)該繊維シートの開口が、アスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であり、
(3)該繊維シートの開口率が、50%以上であることを特徴とするアスファルト舗装の補修方法。
【請求項2】
さらに(4)前記繊維シートを構成する各糸の交点が、被覆材を用いずに固定されていることを特徴とする請求項1に記載の補修方法。
【請求項3】
前記高強力繊維が、12cN/Dtex以上の引張強度の繊維である請求項1または2に記載の補修方法。
【請求項4】
前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が絡み織りである請求項1〜3のいずれかに記載の補修方法。
【請求項5】
前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が熱可塑性繊維を高強力繊維からなる経糸もしくは緯糸に絡ませる絡み織りであり、前記繊維シートを構成する経糸と緯糸との交点が、経糸もしくは緯糸と熱可塑性繊維との絡み構造および該熱可塑性繊維の熱融着により固定されている請求項2に記載の補修方法。
【請求項6】
路盤上に繊維シートを敷設し、ついで該繊維シートの上を、アスファルト混合物で舗装することによりアスファルト舗装を施工する方法であって、
(1)該繊維シートが、高強力繊維からなるネット状の繊維シートであり、
(2)該繊維シートの開口が、アスファルト舗装用骨材の最大粒径未満であり、
(3)該繊維シートの開口率が、50%以上であることを特徴とするアスファルト舗装の施工方法。
【請求項7】
さらに(4)前記繊維シートを構成する各糸の交点が、被覆材を用いずに固定されていることを特徴とする請求項6に記載の施工方法。
【請求項8】
前記高強力繊維が、12cN/Dtex以上の引張強度の繊維である請求項6または7に記載の施工方法。
【請求項9】
前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が絡み織りである請求項6〜8のいずれかに記載の施工方法。
【請求項10】
前記繊維シートが織物であり、該織物の織組織が熱可塑性繊維を高強力繊維からなる経糸もしくは緯糸に絡ませる絡み織りであり、前記繊維シートを構成する経糸と緯糸との交点が、経糸もしくは緯糸と熱可塑性繊維との絡み構造および該熱可塑性繊維の熱融着により固定されている請求項7に記載の施工方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−23502(P2007−23502A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203216(P2005−203216)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(591034268)
【出願人】(392034034)
【出願人】(592006501)
【出願人】(595077968)
【出願人】(505264093)
【出願人】(505263476)株式会社繊維リソースいしかわ (3)
【出願人】(504162785)創和テキスタイル株式会社 (4)
【出願人】(594022633)北川ヒューテック株式会社 (3)
【出願人】(594082604)真柄建設株式会社 (8)
【出願人】(593020175)一村産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】