説明

繊維ロープ端末固定具

【課題】本発明は、従来より引張強度を向上させて繊維ロープ端末の解きほぐした部分を固定することができる繊維ロープ端末固定具を提供することを目的とするものである。
【解決手段】繊維ロープ端末固定具は、金属製で筒状のソケット部材1及び金属製で棒状の楔部材2を備えている。ソケット部材1は貫通孔が形成されており、楔部材2は貫通孔に挿入可能に形成されている。ソケット部材1は、内周面の小径側において周方向に沿う窪み部が形成されるとともに大径側において周方向に沿う膨出部が形成されている。楔部材2は、外周面の小径側において周方向に沿う膨出部が形成されている。ソケット部材1の窪み部に楔部材2の膨出部が対向配置した装着状態において対向部分の環状断面積が他の部分よりも小さくなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維ロープの端末を解きほぐして保持固定する繊維ロープ端末固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維等の高剛性及び高強度の合成繊維からなる繊維ロープが様々な用途に使用されているが、こうした繊維ロープを使用する場合その端末部分を固定する必要がある。ロープの端末固定方法としては、アイスプライスによりロープ端末にリングを形成し、形成したリングを固定部材と連結する方法がある。
【0003】
リングを形成したロープを市街地において防護柵等に使用する場合、外観デザイン上好ましくないため、ロープ端末をソケットに収納した端末固定具が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、繊維ロープの端末をソケット内に挿入して引き出し、ロープ端末を解して一方向に引き揃えた後、嵌入部材を挿入し繊維ロープをソケットから引き抜くようにしてソケットを繊維ロープ端末に取付固定するようにした点が記載されている。また、特許文献2では、繊維ロープ端末をソケット内に挿入してばらし、ソケット内に熱硬化性樹脂を注入して硬化させることで端末部分を締結するようにした点が記載されている。また、特許文献3では、ソケット内に繊維ロープの端末を挿入してばらし、ばらした端末部分の中にピンを差し込み、ピンの細径部の周囲の繊維を締付部材により締め付けてた状態でソケット内に収納することで取付固定した点が記載されている。
【特許文献1】特開平7−119798号公報
【特許文献2】特開2000−234284号公報
【特許文献3】特開2007−1918024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した先行文献に記載された繊維ロープ端末の固定具は、端末部分を解きほぐして固定するので、強度が低下しやすくなる。繊維ロープは、複数本の繊維を撚ったストランドをさらに複数本撚り合せて製造されるが、端末部分を所定長さ分だけ解きほぐすと撚り合せたストランドをばらすため繊維を均等に分散させることが難しい。そのため、解きほぐされた繊維の密度に粗密が生じるため、ソケットを装着して引張試験を行うと、解きほぐされた繊維に加わる応力が不均一となり、繊維ロープの破断強度よりも低い引張力で破断する。
【0006】
また、解きほぐされた繊維がすべて一定の方向に沿って固定されておらず、一部の繊維が交差したり緩んだ状態で固定されていると、こうした一部の繊維は引張力に対して強度的に機能しないため、破断強度の低下の要因となる。
【0007】
本発明者らは、特許文献3に示す繊維ロープ端末固定具を用いて引張試験を行ったが、繊維ロープ自体の引張破断強度の約65%程度の破断強度であった。
【0008】
そこで、本発明は、従来より引張強度を向上させて繊維ロープ端末の解きほぐした部分を固定することができる繊維ロープ端末固定具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る繊維ロープ端末固定具は、筒状に形成されるとともに内周面の少なくとも一部に内径が順次拡大するテーパー状の被圧接面が形成されているソケット部材と、前記ソケット部材内に挿入可能に形成されるとともに外周面の少なくとも一部に前記被圧接面に対向する圧接面が形成されている楔部材とを備え、繊維ロープ端末を前記被圧接面の小径側から前記ソケット部材内に導入するとともに当該繊維ロープ端末の解きほぐし部分の中心部に前記楔部材を前記被圧接面の大径側から挿入して繊維ロープを引張ることで前記被圧接面と前記圧接面との間に前記解きほぐし部分を摩擦圧接して装着状態に保持する繊維ロープ端末固定具であって、前記ソケット部材は、前記被圧接面の小径側端部から前記繊維ロープ端末の導入側端部に向かって内径が前記繊維ロープの呼び径と同一かわずかに大きく設定されたガイド面が形成されており、前記繊維ロープを引張ることで前記楔部材を前記装着状態から前記圧接面の小径側が前記ソケット部材の前記ガイド面内に嵌入可能であることを特徴とする。さらに、前記被圧接面及び前記圧接面の間の環状断面積は、前記圧接面の小径側が前記ガイド面内に嵌入して前記解きほぐし部分が破断した状態においていずれの部分でも繊維ロープの断面積の30%〜50%に設定されることを特徴とする。さらに、前記ソケット部材は、前記被圧接面の小径側において周方向に沿う窪み部が形成されるとともに大径側において周方向に沿う膨出部が形成されており、前記楔部材は、前記圧接面の小径側において周方向に沿う膨出部が形成されており、前記被圧接面の窪み部に前記圧接面の膨出部を対向配置した状態で前記ソケット部材に前記楔部材が装着されることを特徴とする。さらに、前記被圧接面及び前記圧接面の間の環状断面積は、前記ソケット部材に前記楔部材が装着された状態においていずれの部分でも繊維ロープの断面積の60%〜80%に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のような構成を有することで、ソケット部材の被圧接面の小径側端部から繊維ロープ端末の挿入側端部に向かって内径が繊維ロープの呼び径と同一かわずかに大きく設定されたガイド面が形成され、繊維ロープを引張ることで楔部材を装着状態から圧接面の小径側がソケット部材のガイド面内に嵌入可能であるので、繊維ロープを引張ることで被圧接面と圧接面との間に解きほぐし部分を摩擦圧接した装着状態から繊維ロープに大きな荷重が加わるとさらに楔部材がソケット部材のガイド面内に引き込まれて嵌入した状態となり、引張強度を向上させることができる。
【0011】
すなわち、楔部材が引き込まれて移動する間に解きほぐし部分の繊維の分散が均等化して強度低下を抑止するようになる。繊維ロープが引張られて楔部材がガイド面内に引き込まれていくと、圧接面とガイド面との間で解きほぐされた繊維が締め付けられ、繊維の厚みが均一化して繊維の密度の粗密が平均化される。また、両膨出部の間で締め付けられた状態で繊維ロープが引張られることで繊維が伸びて引き揃えられ、繊維の交差や緩んだ状態が改善されるようになる。
【0012】
また、被圧接面及び圧接面の間の環状断面積を、圧接面の小径側がガイド面内に嵌入して解きほぐし部分の繊維が破断した状態においていずれの部分でも繊維ロープの断面積の30%〜50%に設定されるようにすることで、繊維が破断するまで被圧接面及び圧接面の全体に摩擦力が作用して解きほぐし部分が滑り抜けて楔部材が外れてしまうことが防止できる。
【0013】
そして、ソケット部材には、被圧接面の小径側において周方向に沿う窪み部が形成されるとともに大径側において周方向に沿う膨出部を形成し、楔部材には、圧接面の小径側において周方向に沿う膨出部を形成することで、楔部材をソケット部材内の解きほぐし部分の中心部に挿入して繊維ロープを引張る際に解きほぐし部分の繊維の分散が均等化して強度低下を抑止することができる。
【0014】
すなわち、繊維ロープが引張られて楔部材がソケット部材内に引き込まれていくと、圧接面の膨出部がまず被圧接面の膨出部に対向して解きほぐされた繊維が両膨出部の間で締め付けられ、繊維の厚みが均一化して繊維の密度の粗密が平均化される。また、両膨出部の間で締め付けられた状態で繊維ロープが引張られることで繊維が伸びて引き揃えられ、繊維の交差や緩んだ状態が改善されるようになる。
【0015】
また、圧接面の膨出部以外の部分では締め付けが相対的に弱くなるため繊維同士が滑りやすくなり、繊維ロープが引張られながら引き揃え易くなる。
【0016】
そして、楔部材がさらに引き込まれて、被圧接面の窪み部に圧接面の膨出部が対向配置されて両者が嵌合した状態でソケット部材及び楔部材を装着すると、上述したように繊維ロープを引張りながら引き揃えられた繊維が対向部分で締め付けられて引き揃えられた状態が保持されるようになる。
【0017】
こうして、繊維ロープ端末の解きほぐし部分の繊維が引き揃えられて保持されるようになり、従来よりも引張強度を向上させてソケット部材及び楔部材を解きほぐし部分に取付固定することができる。
【0018】
また、被圧接面及び圧接面の間の環状断面積を、装着状態においていずれの部分においても繊維ロープの断面積の60%〜80%に設定することで、被圧接面及び圧接面全体で解きほぐし部分が摩擦圧接した状態に設定されて引き揃えられた繊維が安定して保持されるようになる。また、楔部材を装着状態まで引き込んで繊維ロープの断面積の60%〜80%に解きほぐし部分を圧縮することは人力程度で装着が可能で、装着作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明に係る実施形態に関する外観斜視図である。繊維ロープ端末固定具は、金属製で筒状のソケット部材1及び金属製で棒状の楔部材2を備えている。ソケット部材1は、その中心軸Sを中心に貫通孔10が形成されており、楔部材2は、貫通孔10に挿入可能に形成されている。そして、楔部材2は、その中心軸Tがソケット部材1の中心軸と一致するように装着されるのが望ましい。
【0021】
図2は、ソケット部材1の軸方向の断面図である。ソケット部材1の内周面は、軸方向に直交する面に沿った断面形状はすべての領域で円形に形成されており、軸方向に複数の領域11〜15に区分される。また、各領域を区画する境界線をM1〜M4とする。
【0022】
領域11は、領域内の内周面の内径が一定であるガイド面が形成されており、装着される繊維ロープの呼び径と同一かわずかに大きい内径に設定されている。後述するように、繊維ロープが引張られる際に、軸方向に引張力が作用するように繊維ロープをガイドするとともに、楔部材2が嵌入した場合に応力が加わることから焼入れにより強度を高めている。
【0023】
領域12から領域14は、繊維ロープ端末の解きほぐし部分を摩擦圧接するための被圧接面であり、領域12から領域14にいくに従い内径が順次拡大するテーパー状に形成されている。領域15は、領域内の内径が一定で、内周面には連結具等を螺着するためのネジが切られている。
【0024】
図3は、楔部材2の軸方向の断面図である。楔部材2の外周面は、軸方向に直交する面に沿った断面形状はすべての領域で円形に形成されており、先端から軸方向に複数の領域20〜23に区分される。また、各領域を区画する境界線をN1〜N3とする。
【0025】
領域20は、中心軸Tに沿って先端が尖った尖頭部に形成されている。領域21は、領域22側にいくに従い外径が順次拡大するテーパー状に形成され、領域22は、領域内の外径が一定に形成され、領域23は、後端にいくに従い外径が順次拡大するテーパー状に形成されている。
【0026】
図4は、ソケット部材1内に楔部材2を挿入して装着した状態での軸方向の断面図である。なお、理解を容易にするため固定する繊維ロープを省略している。装着状態では、ソケット部材1の中心軸Sが楔部材2の中心軸Tと一致しているのが好ましい。
【0027】
楔部材2の先端がソケット部材1の領域11のほぼ中央まで到達し、楔部材1の領域20の軸方向の長さがソケット部材1の領域11の半分程度に設定されている。境界線M1及びN1、M2及びN2が一致しており、楔部材1の領域21がソケット部材2の領域12と軸方向の長さが同一となって、領域21の外周面と領域12の内周面が対向するように設定されている。そして、楔部材2の境界線N3がソケット部材1の境界線M3よりも先端側に設定され、境界線M4が楔部材2の後端N4に一致するように設定されている。
【0028】
図5は、装着状態におけるソケット部材1の内周面と楔部材2の外周面との間の位置関係を模式的に示す説明図である。ソケット部材1は、境界線M1及びM4を結んだ被圧接面の全体傾斜線L1に対して、被圧接面の小径側である境界線M2では周方向に内径がわずかに大きくなって窪み部が形成されており、被圧接面の大径側である境界線M3では内径がわずかに小さくなって周方向に膨出部が形成されている。また、楔部材2は、境界線N1及び後端を結んだ圧接面の全体傾斜線L2に対して、境界線N2では周方向に外径がわずかに大きくなって周方向に膨出部が形成されている。
【0029】
そして、この例では、被圧接面と圧接面との間の軸方向と直交する方向の環状断面積は、境界線M2及びN2が一致する位置において隣接部分よりも小さくなるように設定されている。また、環状断面積は、すべての位置において繊維ロープの断面積の60%〜80%に設定されている。
【0030】
図6から図8は、繊維ロープ端末にソケット部材1及び楔部材2を取付固定する工程を示す説明図である。図6に示すように、繊維ロープRの端末において所定長さ分だけストランドを解きほぐして繊維をばらしてできるだけ均等に分散するようにし、こうして作成した解きほぐし部分Pをソケット部材1の貫通孔10に領域11側から導入する(図6(a))。この場合、ソケット部材1に繊維ロープ端末を挿通した後解きほぐすようにしてもよい。そして、ソケット部材1には、後述する繊維ロープRの引き出し分の長さだけ収容し、解きほぐし部分Pの一部がソケット部材1の後端から突き出すようにセットする。ソケット部材1は、中心軸を上下方向に設定して、上方から繊維ロープ端末を挿し込んで解きほぐし部分Pが繊維ロープの下端で上下方向になるようにする。このように解きほぐし部分Pをセットすることで、ばらけた繊維が引き揃えやすくなる。
【0031】
そして、解きほぐし部分Pの中心部に、下方から楔部材2の尖頭部をソケット部材1の領域15側から挿し込んでいく(図6(b))。その際、ソケット部材1の中心軸S及び楔部材2の中心軸Tができるだけ一致させながら挿し込むようにする。
【0032】
楔部材2をソケット部材1内に挿し込んで、繊維ロープRをソケット部材1から引き出すように上方向の引張力を加えると、解きほぐし部分Pの弛みがなくなって楔部材2とともにソケット部材1内に引きこまれるようになる。そして、解きほぐし部分Pの繊維がソケット部材1及び楔部材2の間で摩擦圧接されて、楔部材2がある程度安定した状態に保持される。楔部材2が安定して保持された後、解きほぐし部分Pの下端が楔部材2の後端とほぼ一致するように切り揃えておくとよい。
【0033】
次に、図7に示すように、加圧装置3が取り付けられる。加圧装置3の台座部材30が楔部材3の後端面に下方から密着して配置される(図7(a))。台座部材30には繊維ロープR側に立設される支持部材31が固定されている。そして、支持部材31の先端部には連結部材32が固定されており、連結部材32は繊維ロープRに締付固定される。また、ソケット部材1は、把持部材40により把持されて移動しないように固定される。
【0034】
台座部材30が加圧部材33により上方に向かって加圧されて楔部材2をソケット部材1内に押し込むように作用すると(図7(b))、それに同期して連結部材32が繊維ロープRをソケット部材1から引き出すように作用する。したがって、楔部材2の押し込み量と同じ長さ分だけ繊維ロープRが引き出されるようになり、解きほぐし部分Pの繊維が弛むことなく楔部材2がソケット部材1内に圧入されるようになる。
【0035】
図9は、楔部材2が圧入されていく場合のソケット部材1の被圧接面と楔部材2の圧接面との位置関係の様子を示す模式図である。楔部材2が圧入されていくと、まず、圧接面の膨出部である境界線N2が被圧接面の膨出部である境界線M3に対向するようになり(図10ではN2’の位置)、被圧接面と圧接面との間の間隔が一時的に狭くなって繊維が一旦締め付けられるため、繊維の密度の大きい部分に加わる圧力が大きくなり、密度の低い部分に繊維が分散するように作用するため、全体として繊維の密度が均等となるように引き揃えられていく。また、繊維を締め付けながら繊維ロープを引張ることで、弛んだ状態や交差した状態の一部の繊維も引張られて緩みのとれ引き揃えられた状態になる。この場合、圧接面の膨出部の前後では繊維に対する締め付けがわずかに弱くなるので、繊維同士が滑りやすくなり、容易に引き揃えていくことができる。
【0036】
そして、楔部材2が圧入していくに従い、被圧接面はテーパ状に形成されているため、圧接面の膨出部である境界線Nにおける被圧接面との間の間隔は狭くなって(図9ではN2”の位置)繊維に対する締め付けが次第に強くなっていくが、その前後では相対的に締め付けが弱いので、上述したような繊維の引き揃え作用が継続される。
【0037】
図7(c)に示すように、台座部材30がソケット部材1の後端に当接する状態まで楔部材2が圧入されると、加圧装置3に代えて、図8に示すように、連結部材5のネジ部50をソケット部材1の後端側から螺合しながら楔部材2をさらに圧入していく。その際に、ネジ部50が螺合して進入する速度に合せて繊維ロープに引張力を加えて引き出すようにするとよい。
【0038】
そして、楔部材2が圧入されて境界線N2が被圧接面の窪み部である境界線M3に対向した位置に到達すると、圧接面の膨出部が被圧接面の窪み部に嵌り込んで装着状態となる。装着状態では、この対向部分で繊維が締付固定されて引き揃えられた状態が保持されるようになる。そして、上述したように圧接面の膨出部と被圧接面の窪み部との対向する部分の環状面積が隣接部分よりも小さくなるため、安定した締付固定状態を保持できる。
【0039】
以上説明したように、楔部材2の圧入過程において解きほぐし部分の繊維が均等に分散されて引き揃えられていくので、楔部材2の装着状態では、繊維ロープに引張力が加わると解きほぐし部分の繊維が引張力に対して機能するようになるので、強度低下を抑えることができる。
【0040】
図10は、ソケット部材1内に楔部材2が装着状態に設定された後、繊維ロープに引張力が加わってソケット部材1から引き出される過程を示す説明図である。図10(a)に示すように、ソケット部材1内に楔部材2が装着状態に設定された状態で繊維ロープに引張力が作用すると、解きほぐし部分Pとともに楔部材2が移動してソケット部材1のガイド面内に楔部材2が引き込まれてその圧接面がガイド面内に嵌入した状態となる(図10(b))。
【0041】
楔部材2の移動に伴いガイド面に対して圧接面が圧入されながら移動するので、楔部材2を装着する場合と同様の繊維の引き揃え作用が行われて解きほぐし部分の繊維が引張力に対して機能するようになる。
【0042】
この例では、さらに繊維ロープを引張ることで楔部材2がガイド面に引き込まれていき(図10(c))、ガイド面及び圧接面が対向する面積が増加するとともにガイド面と圧接面との間並びに被圧接面と圧接面との間の環状断面積が狭くなって、解きほぐし部分Pに対する摩擦力が全体に大きくなる。そのため、繊維ロープが引き抜かれて楔部材2が外れることはない。
【0043】
繊維ロープに荷重を加えて解きほぐし部分Pとともに楔部材2を移動させていくと、ガイド面と圧接面との間並びに被圧接面と圧接面との間の環状断面積が次第に狭くなって摩擦力が大きくなり(図10(d))、解きほぐし部分Pの破断強度を超えると繊維自体が破断するようになる。一般に、繊維ロープの長さ方向に荷重を加えていくと、繊維ロープが伸びていき、その断面積が小さくなっていくが、破断時の繊維ロープの断面積に合せてソケット部材のガイド面に楔部材が嵌入した場合の環状断面積を設定すれば、どの程度楔部材がガイド面に嵌入した状態で解きほぐし部分の繊維を破断させるかを予め設計することができる。
【0044】
合成繊維製の繊維ロープの引張試験を行った結果では、破断時の繊維ロープの断面積は、荷重が加えられていない状態の断面積に対して30%〜50%であった。そのため、楔部材2の圧接面の小径側がガイド面内に嵌入していき、いずれの部分でも環状断面積が繊維ロープの断面積の30%〜50%となる状態を設定しておけば、その状態で解きほぐし部分が破断するようになる。したがって、予め破断する際の繊維ロープに加わる荷重が予測できるので、安全性の高い固定具を得ることができる。
【実施例】
【0045】
呼び径30mmで引張強度が235kNのポリエステル繊維製の繊維ロープ(2重網打ち構造、ストランド本数が外側16本及び内側12本;東京製綱繊維ロープ社製)を用い、ステンレス製のソケット部材及び楔部材からなる固定具により繊維ロープ端末に固定した。
【0046】
ソケット部材の内周面及び楔部材の外周面の寸法は、図11に示す。軸方向の位置P1〜P8は20mmの等間隔に設定されている。この例では、位置P3において被圧接面の窪み部及び圧接面の膨出部が形成されており、位置P7において被圧接面の膨出部が形成されている。各位置におけるソケット部材の内径(A)及び楔部材の外径(B)は図11の表に示すように設定した。
【0047】
図11に示すソケット部材及び楔部材の位置関係は、装着状態を示しており、装着状態での各位置における環状断面積の繊維ロープの断面積に対する割合が表中にパーセンテージで示されている。繊維ロープの実際の外径寸法は28.3mmであったので、環状断面積の割合Xは以下の式に基づいて算出した。
X=(A2−B2)/28.32×100
表中の環状断面積の割合からわかるように、繊維ロープの断面積に60%〜80%に設定されており、位置P3においてその割合が最も小さく最小の環状断面積に設定されている。
【0048】
また、図11の表中には、装着状態の楔部材が20mmずつ繊維ロープの導入側端部に移動した場合の環状断面積の推移を示している。例えば、位置P1において、装着状態では楔部材2の先端が位置しているため外径は0.0mmで、割合は112.37%となる。これは、繊維ロープの実際の外径寸法が呼び径よりも小さいため100%以上になる。次に、20mmの移動に伴い、位置P1の楔部材の外径は18.0mmとなるため、割合が71.92%となり、40mmの移動では外径が22.0mmとなって割合が51.94%となり、60mmの移動では外径が23.0mmとなって割合が46.32%となる。他の位置P2〜P8においても同様に割合が表中に示されている。
【0049】
この例では、楔部材が60mm移動した場合に、環状断面積の割合を繊維ロープの断面積の30%〜50%に設定し、解きほぐし部分が破断する楔部材の位置を予め設定した。
【0050】
以上のように設定されたソケット部材及び楔部材を用いて、図6から図8で説明したやり方で繊維ロープ端末の解きほぐし部分に取付固定した。
【0051】
固定具が取り付けられた繊維ロープを引張試験機(株式会社島津製作所製)を用いて破断引張強度を測定した。試験した結果は、破断強度が167kNであり、繊維ロープの破断強度の約73%となり、従来の固定具に比べて強度低下を抑えることができた。また、楔部材がほぼ60mm移動した時点で解きほぐし部分の破断が生じており、設計通りに破断が行われた。
【0052】
以上の試験結果によれば、ソケット部材と楔部材との間に圧接された繊維が引張力に対して機能するようになって破断強度が従来よりも高くなったことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る実施形態に関する外観斜視図である。
【図2】ソケット部材の軸方向の断面図である。
【図3】楔部材の軸方向の断面図である。
【図4】ソケット部材内に楔部材を挿入して装着した状態での軸方向の断面図である。
【図5】装着状態におけるソケット部材の内周面と楔部材の外周面との間の位置関係を模式的に示す説明図である。
【図6】繊維ロープ端末にソケット部材及び楔部材を取付固定する工程を示す説明図である。
【図7】繊維ロープ端末にソケット部材及び楔部材を取付固定する工程を示す説明図である。
【図8】繊維ロープ端末にソケット部材及び楔部材を取付固定する工程を示す説明図である。
【図9】楔部材が圧入されていく場合の被圧接面と圧接面との位置関係の様子を示す模式図である。
【図10】装着状態後、繊維ロープに引張力が加わってソケット部材から引き出される過程を示す説明図である。
【図11】ソケット部材の内周面及び楔部材の外周面の寸法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ソケット部材
2 楔部材
3 加圧装置
4 把持部材
5 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成されるとともに内周面の少なくとも一部に内径が順次拡大するテーパー状の被圧接面が形成されているソケット部材と、前記ソケット部材内に挿入可能に形成されるとともに外周面の少なくとも一部に前記被圧接面に対向する圧接面が形成されている楔部材とを備え、繊維ロープ端末を前記被圧接面の小径側から前記ソケット部材内に導入するとともに当該繊維ロープ端末の解きほぐし部分の中心部に前記楔部材を前記被圧接面の大径側から挿入して繊維ロープを引張ることで前記被圧接面と前記圧接面との間に前記解きほぐし部分を摩擦圧接して装着状態に保持する繊維ロープ端末固定具であって、前記ソケット部材は、前記被圧接面の小径側端部から前記繊維ロープ端末の導入側端部に向かって内径が前記繊維ロープの呼び径と同一かわずかに大きく設定されたガイド面が形成されており、前記繊維ロープを引張ることで前記楔部材を前記装着状態から前記圧接面の小径側が前記ソケット部材の前記ガイド面内に嵌入可能であることを特徴とする繊維ロープ端末固定具。
【請求項2】
前記被圧接面及び前記圧接面の間の環状断面積は、前記圧接面の小径側が前記ガイド面内に嵌入して前記解きほぐし部分が破断した状態においていずれの部分でも繊維ロープの断面積の30%〜50%に設定されることを特徴とする請求項1に記載の繊維ロープ端末固定具。
【請求項3】
前記ソケット部材は、前記被圧接面の小径側において周方向に沿う窪み部が形成されるとともに大径側において周方向に沿う膨出部が形成されており、前記楔部材は、前記圧接面の小径側において周方向に沿う膨出部が形成されており、前記被圧接面の窪み部に前記圧接面の膨出部を対向配置した状態で前記ソケット部材に前記楔部材が装着されることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維ロープ端末固定具。
【請求項4】
前記被圧接面及び前記圧接面の間の環状断面積は、前記ソケット部材に前記楔部材が装着された状態においていずれの部分でも繊維ロープの断面積の60%〜80%に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の繊維ロープ端末固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−235631(P2009−235631A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85084(P2008−85084)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(502121247)西田殖産株式会社 (5)
【Fターム(参考)】