説明

繊維加工方法及び繊維製品

【課題】 皮膚刺激性を低減しつつ、処理剤成分の過剰吸着(選択吸着)に起因する製品品質のばらつき等の発生を十分に防止し、繊維製品に安定して柔軟性を付与することのできる繊維加工方法を提供すること。
【解決手段】 分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有する、オルガノポリシロキサン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のオルガノポリシロキサン系化合物、並びに、炭素数が10であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第1のアルキレンオキサイド付加物を含む繊維用処理剤を含有し、かつ、pHが4.0〜5.0である処理浴を用いて加工することを特徴とする繊維加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に対する刺激性が低減された繊維製品を得ることができる繊維加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維加工の分野においては、様々なポリオルガノシロキサンやその誘導体を含有する繊維用処理剤が、柔軟性、平滑性又は撥水性等を付与するための処理剤として提供されていた。
【0003】
このような繊維用処理剤は、繊維素材に付着することにより各性能が発揮されているので、衣類等のような皮膚と接触する繊維製品に使用する際には、皮膚刺激性を低減させることが重要である。特に、近年はアトピー体質によるアトピー性皮膚炎に悩む人が増えており、このようにアレルギー体質の人はアレルギー体質でない人よりも衣類等の繊維製品による皮膚障害が多いことから、皮膚刺激性に対しての消費者の要求レベルが高くなっている。
【0004】
従来のポリオルガノシロキサン系の繊維用処理剤として、例えば、特開平8−209543号公報(特許文献1)には、繊維に撥水性、離形性、耐熱性等の独特の感触を付与することのできる繊維用処理剤として、25℃における粘度が50センチストークス以上であるアミノ変性シロキサンを少なくとも50質量%以上含有するシリコーン油剤、ジカルボン酸のモノエステルとノニオン界面活性剤からなる乳化剤、及び、アミノカルボン酸物質を含む組成物が開示されており、明細書中において、ノニオン界面活性剤として、具体的にノニルフェノールのエチレンオキサイド付加物を用いることが記載されている。しかしながら、このような組成物については、皮膚刺激性は特に検討されていないうえに、ノニルフェノールのエチレンオキサイド付加物は内分泌攪乱物質、いわゆる環境ホルモン物質に該当すると言われている。
【0005】
また、特開2006−9220号公報(特許文献2)には、合成繊維に洗濯耐久性に優れる柔軟風合いを付与する柔軟処理剤として、アミノ変性ポリシロキサンを少なくとも70質量%以上含有するシリコーン、高級脂肪族アルコールの酸化アルキレン付加物及びβ−アラニンを含有する水性エマルジョン型柔軟処理剤が開示されている。しかしながら、このような柔軟処理剤においても皮膚刺激性についての検討が十分ではなく、このような柔軟処理剤は皮膚刺激性の点で未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−209543号公報
【特許文献2】特開2006−9220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、皮膚刺激性を低減しつつ、繊維製品に柔軟性を付与することのできる繊維加工方法及びその繊維加工方法により得られる繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
繊維加工の分野では一般的に、カチオン性を示す化合物は皮膚刺激性が高いことが知られている。そして、分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノポリシロキサン及びその誘導体は、液性を弱酸性とした時に安定性が優れているが、これは、アミノ基及び/又はイミノ基が酸によってわずかにカチオン化することに起因しており、その結果として皮膚刺激性が高いと考えられてきた。
【0009】
しかしながら、本発明者らは、従来は皮膚刺激性が高くなる要因として注視されていなかった、オルガノポリシロキサン及びその誘導体を乳化するための界面活性剤等によっても皮膚刺激性が大きく変化することを突き止めた。そして、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、界面活性剤として特定のアルキレンオキサイド付加物を用いて特定のオルガノポリシロキサン系化合物を乳化させた繊維用処理剤を用い、かつ、該繊維用処理剤を含む処理浴のpHを特定範囲に調整することによって、皮膚刺激性を低減しつつ、処理剤成分の過剰吸着(選択吸着)に起因する製品品質のばらつき等の発生を十分に防止し、繊維製品に安定して柔軟性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の繊維加工方法は、分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有する、オルガノポリシロキサン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のオルガノポリシロキサン系化合物、並びに、炭素数が10であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第1のアルキレンオキサイド付加物を含む繊維用処理剤を含有し、かつ、pHが4.0〜5.0である処理浴を用いて加工することを特徴とするものである。
【0011】
また、前記の繊維用処理剤としては、前記第1のアルキレンオキサイド付加物が、炭素数が10であるモノアルコールのエチレンオキサイド付加物であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の繊維加工方法においては、前記繊維用処理剤として、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第2のアルキレンオキサイド付加物を更に含むものを用いることが好ましい。
【0013】
そして、前記第2のアルキレンオキサイド付加物における多価アルコール脂肪酸エステルがモノエステル化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、皮膚刺激性が十分に低減され、柔軟性に優れた繊維製品を安定して得ることが可能となる。すなわち、本発明の繊維製品は、前記本発明の繊維加工方法により加工して得られたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、皮膚刺激性を低減しつつ、処理剤成分の過剰吸着(選択吸着)に起因する製品品質のばらつき等の発生を十分に防止し、繊維製品に安定して柔軟性を付与することのできる繊維加工方法及びそれより得られる繊維製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
本発明の繊維加工方法は、分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有する、オルガノポリシロキサン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のオルガノポリシロキサン系化合物、並びに、炭素数が10であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第1のアルキレンオキサイド付加物を含む繊維用処理剤を用いることを特徴とし、そして、この処理剤を含み、かつpHが4.0〜5.0の範囲に調整された処理浴を用いて加工することを特徴とする。
【0018】
本発明にかかるオルガノポリシロキサン系化合物は、分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有する、オルガノポリシロキサン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。そして、本発明において用いられる、分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノポリシロキサンとしては、従来公知のものを特に制限なく使用することができ、例えば、アミノプロピル基(−CHCHCHNH)等のアミノアルキル基、N−(β−アミノエチル)アミノプロピル基(−CHCHCHNHCHCHNH)等の置換基を、側鎖又は末端に有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。また、例えば、特開2007−56396号公報に記載されたように、さらにポリオキシエチレン鎖やポリオキシプロピレン鎖等のポリエーテル鎖を、主鎖又は側鎖に導入したポリエーテル変性オルガノポリシロキサンを用いることもできる。
【0019】
このようなオルガノポリシロキサンは、市販されているものを用いてもよいし、従来公知の方法、例えば、「有機合成化学協会誌」(1982年、社団法人有機合成化学協会発行)第40巻第6号、575〜581頁に記載された方法により合成したものを用いてもよい。
【0020】
本発明において用いられる、分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノポリシロキサンの誘導体は、前記オルガノポリシロキサンと、オルガノポリシロキサンのアミノ基及び/又はイミノ基と反応し得る化合物とを反応させたものをいい、例えば、特開昭57−101076号公報、特開平1−306683号公報、特開平2−47371号公報、特開平6−184946号公報、特開平9−21071号公報、特開平9−143885号公報、特開2007−46171号公報に記載されたように、前記オルガノポリシロキサンのアミノ基及び/又はイミノ基の一部を、モノカルボン酸、モノカルボン酸無水物、モノカルボン酸塩化物、ジカルボン酸、環状酸無水物、アルキレンカーボネート化合物、エポキシ化合物、及びアミド基含有エーテルカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種のものと反応させて得られる化合物を挙げることができる。
【0021】
本発明にかかるオルガノポリシロキサン系化合物においては、化合物中のアミノ基及び/又はイミノ基に由来する窒素原子の含有量が合計で0.01〜3.0質量%の範囲であることが好ましい。アミノ基及び/又はイミノ基に由来する窒素原子の含有量が0.01%未満では柔軟性が劣る傾向にあり、他方、3.0質量%を超えると、繊維加工における加熱処理や乾燥時に、或いは、熱、光、NOxガスやSOxガス等により経時で、繊維製品の着色や変色といった問題が生じる場合がある。したがって、特に白物や淡色系の繊維製品に対して本発明の繊維用処理剤を使用する場合は、アミノ基及び/又はイミノ基に由来する窒素原子の含有量が1.0質量%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明にかかる第1のアルキレンオキサイド付加物とは、炭素数が10であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物のことをいう。このような第1のアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられる。また、このようなアルキレンオキサイドの付加形態は、1種のアルキレンオキサイドの単独付加、2種以上のアルキレンオキサイドのブロック付加又はランダム付加のいずれでもよいが、皮膚刺激性がより低いという観点からエチレンオキサイドの単独付加であることが好ましい。また、このようなアルキレンオキサイドの付加モル数は、乳化性が良好であり、皮膚刺激性も低いという観点から、3〜20モルの範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明にかかる第1のアルキレンオキサイド付加物においては、炭素数が10であるモノアルコールは、直鎖状又は分岐鎖を有するアルコールのいずれでもよく、飽和又は不飽和のアルコールのいずれでもよいが、乳化性がより優れているという観点から、分岐鎖を有するアルコールであることが好ましい。また、繊維用処理剤の着色や繊維製品の黄変等の問題が好ましくない場合には、飽和の脂肪族アルコールを用いることが好ましい。このような脂肪族アルコールの中でも、乳化性が良好であり、皮膚刺激性がより低いという観点からイソデカノールが特に好ましい。
【0024】
本発明において、前記第1のアルキレンオキサイド付加物の代わりに、炭素数が9以下であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を使用した場合には、前記オルガノポリシロキサン系化合物を安定に乳化することができないうえに、皮膚刺激性の低減が不十分であり、炭素数が11〜15のモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を使用した場合は、乳化性は良好な場合もあるが皮膚刺激性が強くなり、また、炭素数が16以上のモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を使用した場合は、皮膚刺激性は小さくなるが、乳化性が不十分となる。つまり、本発明においては、乳化性及び皮膚刺激性のバランスから、炭素数が10であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を必須成分とすることが必要である。
【0025】
なお、本発明の繊維用処理剤には、乳化性を補助する目的で、前記第1のアルキレンオキサイド付加物に加えて、炭素数が9以下或いは炭素数が16以上であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を添加することはできる。また、炭素数11〜15のモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物については、本発明の効果を阻害しない程度に添加することもできるが、皮膚刺激性をより低くするという観点からは、これらを使用しないことが好ましい。
【0026】
本発明において用いられる繊維用処理剤は、以上説明したようなオルガノポリシロキサン系化合物、及び第1のアルキレンオキサイド付加物を含むものである。そして、本発明においては、前記オルガノポリシロキサン系化合物を、前記第1のアルキレンオキサイド付加物を用いて乳化することにより、乳化安定性が極めて優れ、また皮膚刺激性も十分に低減された繊維用処理剤を得ることができる。
【0027】
前記繊維用処理剤においては、前記第1のアルキレンオキサイド付加物の合計の添加量が、前記オルガノポリシロキサン系化合物100質量部に対して、1〜100質量部の範囲であることが好ましく、3〜80質量部の範囲であることがより好ましい。添加量が前記下限未満では、乳化安定性が劣る傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる繊維製品の風合(柔軟性)が不十分となる傾向にある。
【0028】
また、前記繊維用処理剤においては、前記オルガノポリシロキサン系化合物を乳化させる際には、前記第1のアルキレンオキサイド付加物に加えて、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第2のアルキレンオキサイド付加物を併用することが好ましい。このような第2のアルキレンオキサイド付加物のみでは前記オルガノポリシロキサン系化合物の乳化性が不十分となるが、前記第1のアルキレンオキサイド付加物と組み合わせることにより、前記オルガノポリシロキサン系化合物の乳化性が相乗的に良好となる傾向にある。
【0029】
本発明にかかる第2のアルキレンオキサイド付加物は、例えば、多価アルコールのヒドロキシル基の一部を脂肪酸によりエステル化し、残余のヒドロキシル基の一部又は全部にアルキレンオキサイド付加物を反応させることにより得ることができる。
【0030】
このような多価アルコールとしては、分子内にヒドロキシル基を2個以上有する化合物であれば特に制限されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ソルバイド等の2価のアルコール;トリメチロールプロパン、グリセリン等の3価のアルコール;ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン等の4価のアルコール;グルコース、フルクトース等の5価のアルコール;ソルビトール等の6価のアルコール;ショ糖等の8価のアルコールが挙げられる。これらの多価アルコールの中でも、本発明にかかる第1のアルキレンオキサイド付加物と併用したときの乳化性が良好であるという観点から、ソルビタン、グルコース、フルクトース及びソルビトールが好ましく、乳化性と皮膚刺激性の観点から、ソルビタン及びソルビトールが特に好ましい。
【0031】
また、このような多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、炭素数が8〜22である飽和又は不飽和脂肪酸エステルを挙げることができ、直鎖状であっても分岐鎖を有していてもよい。また、このような脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、エルカ酸が挙げられる。これらの脂肪酸の中でも、ラウリン酸を用いると、本発明にかかるオルガノポリシロキサン系化合物の乳化性に優れているので好ましい。また、このような脂肪酸エステルは、乳化性の観点からモノエステル化合物であることが好ましい。
【0032】
本発明にかかる第2のアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが好ましい。また、このようなアルキレンオキサイドの付加形態は、1種のアルキレンオキサイドの単独付加、2種以上のアルキレンオキサイドのランダム付加又はブロック付加のいずれでもよいが、本発明のオルガノポリシロキサン系化合物の乳化性の観点から、エチレンオキサイドの単独付加であることが好ましい。また、このようなアルキレンオキサイドの付加モル数は、乳化性が良好であり皮膚刺激性も低いという観点から、3〜40モルの範囲であることが好ましい。
【0033】
本発明の繊維用処理剤において、前記第1及び第2のアルキレンオキサイド付加物を併用する場合には、前記第1及び第2のアルキレンオキサイド付加物の合計の添加量が、前記オルガノポリシロキサン系化合物100質量部に対して、1〜100質量部の範囲であることが好ましく、3〜80質量部の範囲であることがより好ましい。添加量が前記下限未満では、乳化安定性が劣る傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる繊維製品の風合(柔軟性)が不十分となる傾向にある。
【0034】
また、前記オルガノポリシロキサン系化合物の乳化性がより良好であり、皮膚刺激性も低いという観点から、前記第1のアルキレンオキサイド付加物と前記第2のアルキレンオキサイド付加物との配合割合(第1のアルキレンオキサイド付加物:第2のアルキレンオキサイド付加物)が、質量比で10:90〜90:10の範囲であることが好ましい。
【0035】
本発明の加工方法に用いられる繊維用処理剤の製造方法としては、前記オルガノポリシロキサン系化合物を乳化分散させる、従来公知の方法を適用することができる。このような繊維用処理剤の製造方法としては、例えば、(i)前記各成分を加熱混合し、攪拌しながら、水、温水又は熱水を徐々に加えることによって乳化する方法;(ii)前記各成分を加熱混合し、攪拌しながら、少量の熱水を徐々に加えることによって乳化した後に、この乳化物を大量の水中に添加することにより乳化する方法が挙げられる。なお、繊維用処理剤の製造中又は製造後に、溶媒として、低級アルコール、グリコール類、アセトン等の水系有機溶剤を適宜添加することができる。
【0036】
本発明の加工方法においては、前記のようにして得られた繊維用処理剤を含み、かつ、pHを4.0〜5.0の範囲に調整した処理浴を用いて、繊維製品を処理することを特徴とする。
【0037】
本発明にかかる前記オルガノポリシロキサン系化合物と前記アルキレンオキサイド付加物とを含む繊維用処理剤を用いると、皮膚刺激性が十分に低減されるという利点があるものの、これを含む処理浴を用いて繊維製品を処理した場合、オルガノポリシロキサン系化合物の繊維製品への吸着が不必要に強くなる(すなわち、選択吸着が生じる)ことに起因して、製品品質(効果)のばらつきが発生することがあるということが本発明者らの検討により新たに判明した。
【0038】
例えば、加工方法が連続処理である場合は、エンディング現象が生じ、安定した加工が行えないという問題が起きる。エンディング現象とは、選択吸着の結果、処理浴中のオルガノポリシロキサン系化合物の濃度が経時で低下し、連続処理の初期と後期とで繊維製品へのオルガノポリシロキサン系化合物の付着量が異なり、柔軟性や風合が低下することをいう。エンディング現象が生じると、一定の品質の繊維製品を得るために、初期に加工を行った部分を廃棄しなければならなくなる等、コストアップに繋がる。
【0039】
エンディング現象を抑制するためには、処理中にピックアップにより減少した処理浴の液量やオルガノポリシロキサン系化合物の量を補填し、処理浴を同一濃度条件に保つよう工夫する方法が考え得るが、このような濃度管理は大変煩雑であって、現実的な解決策とはならない。
【0040】
さらに、加工中に何らかの要因で加工機械が停止した場合、生地中、処理浴に浸かったまま放置された部分はオルガノポリシロキサン系化合物の付着量が多くなり、同一生地内で不均一な品質の部分ができるという事態も起こり得る。
【0041】
また、加工方法がバッチ処理である場合には、選択吸着によって同一バッチ内で吸着斑が起こる可能性がある。例えば、繊維製品が布帛であると、折りたたまれている部分と広がっている部分とではオルガノポリシロキサン系化合物の付着量が異なり、その結果、風合にばらつきが生じるおそれがある。特に、選択吸着によりオルガノポリシロキサン系化合物の付着が多くなると、べたつき感が強くなり、本来目的としていた風合が得られないことがある。また、例えば、チーズを使用した糸での加工の場合は、チーズのインからアウトに処理浴を加工した場合、内層に異常付着を起こす可能性がある。
【0042】
このような選択吸着により生じる様々な問題を十分に防止するために、本発明の加工方法においては、前記繊維用処理剤を含む処理浴のpHを4.0〜5.0の範囲に調整することが必要となる。pHを調整するためには、従来公知の酸を特に制限なく使用することができ、例えば、蟻酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸を用いることができる。これらの酸のなかでも、処理後の乾燥工程で揮発し易く、後工程に影響を与る可能性が少ないという観点から、酢酸の使用が特に好ましい。
【0043】
なお、前記処理浴のpHが4.0より酸性側である場合は、pH調整に使用した酸の繊維製品への残留が大きくなり、後加工に悪影響を及ぼすおそれがあり、酸の残留を低減するために水洗や中和などの工程が必要になるなど、繊維加工が煩雑なものになる。また、酸の残留により細胞生存率が低下し、皮膚刺激性の低減が十分に達成されない。一方、前記処理浴のpHが5.0を超える場合、処理剤成分の過剰吸着(選択吸着)が十分に抑制されなくなり、選択吸着に起因する製品品質のばらつき等の問題が発生する。
【0044】
前記のようにpHを調整した処理浴を用いる本発明の繊維加工方法としては、従来公知のパディング(dip−nip)処理法、浸漬処理法等が適用できる。処理浴の濃度は、例えば、パディング処理の場合は、前記オルガノポリシロキサン系化合物の濃度が0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、浸漬処理の場合は、前記オルガノポリシロキサン系化合物の濃度が0.01〜10%o.w.f.の範囲であることが好ましい。また、繊維用処理剤の繊維製品への付着量は、繊維製品の素材や使用目的等に応じて適宜調整すればよいが、前記オルガノポリシロキサン系化合物の付着量が0.01〜3質量%の範囲となるように付与することが好ましい。
【0045】
また、繊維加工の後は、従来公知のヒートセットや乾燥等の諸工程を経て、繊維製品を得ることができる。
【0046】
本発明の繊維製品は、前記本発明の繊維加工方法により加工して得られたものである。本発明の繊維加工方法を適用できる繊維製品の素材としては、特に制限されないが、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維;ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維;アセテート等の半合成繊維;レーヨン等の再生繊維及びこれらの複合繊維を挙げることができる。また、繊維製品の形態についても特に制限されず、糸、織物、編物、不織布等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお、以下の実施例及び比較例で用いたオルガノシロキサン系化合物に含まれる、アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量は、次の方法にしたがって測定した。すなわち、試料(オルガノポリシロキサン系化合物)を1g精秤し、これをイソプロパノール50mLに溶解した。この溶液を、ブロムフェノールブルー指示薬を用いて、0.1Nの塩酸エタノール溶液で滴定し、溶液の青色が黄色となった点を終点とした。0.1Nの塩酸エタノール溶液の滴定量に基づいて、下記関係式により、窒素原子の含有量を算出した。
窒素原子の含有量(質量%)=滴定量(mL)×F×0.14÷試料量(g)
(式中、Fは0.1N塩酸エタノール溶液のファクターを示す。)。
【0049】
<界面活性剤の合成>
(合成例1)
加熱装置のついた耐圧容器に、イソデカノール395g(2.5mol)と水酸化カリウム2gを添加し、窒素雰囲気とした。これを120℃に昇温し、エチレンオキサイド550g(12.5mol)を添加し150℃で3時間反応させた。その後、反応物を100℃に冷却して、未反応のエチレンオキサイドガスを減圧留去し、さらに80℃に冷却した後、酢酸により中和し、イソデカノールのエチレンオキサイド5モル付加物(イソデカノールのEO5モル付加物)940gを得た。
【0050】
(合成例2)
合成例1において用いたエチレンオキサイド550gに代えてエチレンオキサイド770g(17.5mol)を用いた以外は合成例1と同様にして、イソデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物(イソデカノールのEO7モル付加物)1160gを得た。
【0051】
(合成例3)
合成例1において用いたエチレンオキサイド550gに代えてエチレンオキサイド990g(22.5mol)を用いた以外は合成例1と同様にして、イソデカノールのエチレンオキサイド9モル付加物(イソデカノールのEO9モル付加物)1380gを得た。
【0052】
(合成例4)
加熱装置のついた耐圧容器に、ソルビタンモノラウリン酸エステル865g(2.5mol)、水酸化カリウム2gを添加し、窒素雰囲気とした。これを120℃に昇温し、エチレンオキサイド660g(15mol)を添加し150℃で3時間反応させた。その後、反応物を100℃に冷却し、未反応のエチレンオキサイドガスを減圧留去した。反応物をさらに80℃に冷却した後、酢酸にて中和処理を行い、ソルビタンモノラウリン酸エステルのエチレンオキサイド6モル付加物(ソルビタンモノラウリン酸エステルのEO6モル付加物)1529gを得た。
【0053】
(合成例5)
合成例4において用いたエチレンオキサイド660gに代えてエチレンオキサイド2200g(50mol)を用いた以外は合成例4と同様にして、ソルビタンモノラウリン酸エステルのエチレンオキサイド20モル付加物(ソルビタンモノラウリン酸エステルのEO20モル付加物)3069gを得た。
【0054】
(合成例6)
合成例5において用いたソルビタンモノラウリン酸エステル865g(2.5mol)に代えてソルビタンモノステアリン酸エステル1075g(2.5mol)を用いた以外は合成例5と同様にして、ソルビタンモノステアリン酸のエチレンオキサイド20モル付加物(ソルビタンモノステアリン酸のEO20モル付加物)3279gを得た。
【0055】
<繊維用処理剤及び処理浴の調製>
(実施例1)
下記一般式[1]で表されるアミノ基及びイミノ基を有するオルガノポリシロキサンA(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.7質量%、粘度:1200mm/s)10gに、合成例1で得られたイソデカノールのエチレンオキサイド5モル付加物1.5g、合成例2で得られたイソデカノールのエチレンオキサイド7モル付加物3g及び合成例3で得られたイソデカノールのエチレンオキサイド9モル付加物3gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製した後、酢酸にてpHを4.3とし、これを処理浴として用いた。
【0056】
【化1】

【0057】
(実施例2)
実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えて下記一般式[2]で表されるアミノ基及びイミノ基を有するオルガノポリシロキサンB(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.2質量%、粘度:3500mm/s)10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0058】
【化2】

【0059】
(実施例3)
実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えて下記一般式[3]で表されるアミノ基及びイミノ基を有するオルガノポリシロキサンC(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.4質量%、粘度:1300mm/s)10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0060】
【化3】

【0061】
(実施例4)
実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えて下記一般式[4]で表されるアミノ基及びイミノ基を有するオルガノポリシロキサンD(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:2.3質量%、粘度:1300mm/s)10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0062】
【化4】

【0063】
(実施例5)
実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えてBY16−893(東レ・ダウコーニング株式会社製、アミノ基又はイミノ基を有するポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.4質量%、粘度:500mm/s)10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0064】
(実施例6)
実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えてKF−888(信越化学工業株式会社製、アミノ基又はイミノ基を有するポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.4質量%、粘度:300mm/s)10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0065】
(比較例1)
先ず、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンA115gと無水酢酸4.5gとを100℃で1時間反応させ、アミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体E(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.4質量%)を得た。
【0066】
次に、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えて、得られたオルガノポリシロキサン誘導体E10gを用いた以外は実施例1と同様にして繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、そのまま処理浴として用いた。この処理浴のpHは6.2であった。
【0067】
(比較例2,3)
比較例1の繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、さらに酢酸を添加してpHをそれぞれ5.5(比較例2)、3.0(比較例3)に調整し、これを処理浴として用いた。
【0068】
(実施例7)
比較例1の繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、さらに酢酸を添加してpHを5.0に調整し、これを処理浴として用いた。
【0069】
(実施例8)
実施例7において、処理浴のpHを5.0の代わりにpH4.3に調整した以外は実施例7と同様にして処理浴を調製した。
【0070】
(実施例9)
実施例7において、処理浴のpHを5.0の代わりにpH4.0に調整した以外は実施例7と同様にして処理浴を調製した。
【0071】
(実施例10)
先ず、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンA115gと無水酢酸4.5gとを100℃で1時間反応させ、次いで、無水コハク酸4.5gを加えて120℃で1時間反応させ、アミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体F(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.1質量%)を得た。
【0072】
次に、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えて、得られたオルガノポリシロキサン誘導体F10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0073】
(実施例11)
先ず、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンA115gとプロピレンカーボネート7gとを100℃で1時間反応させ、アミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体G(アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:0.5質量%)を得た。
【0074】
次に、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンAに代えて、得られたオルガノポリシロキサン誘導体G10gを用いた以外は実施例1と同様にして処理浴を調製した。
【0075】
(実施例12)
比較例1で用いたオルガノポリシロキサン誘導体E10gに、合成例1で得られたイソデカノールのエチレンオキサイド5モル付加物1.5g、合成例4で得られたソルビタンモノラウリン酸エステルのエチレンオキサイド6モル付加物3g及び合成例5で得られたソルビタンモノラウリン酸エステルのエチレンオキサイド20モル付加物3gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、酢酸を添加してpHを4.3とし、これを処理浴として用いた。
【0076】
(実施例13)
比較例1で用いたオルガノポリシロキサン誘導体E10gに、合成例1で得られたイソデカノールのエチレンオキサイド5モル付加物1.5g、合成例5で得られたソルビタンモノラウリン酸エステルのエチレンオキサイド20モル付加物3g及び合成例6で得られたソルビタンモノステアリン酸エステルのエチレンオキサイド20モル付加物3gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、酢酸を添加してpHを4.3とし、これを処理浴として用いた。
【0077】
(実施例14)
実施例12で用いたオルガノポリシロキサン誘導体Eに代えて実施例10で用いたオルガノポリシロキサン誘導体F10gを用いた以外は実施例12と同様にして処理浴を調製した。
【0078】
(実施例15)
実施例12で用いたオルガノポリシロキサン誘導体Eに代えてKF−393(信越化学工業株式会社製、アミノ基及び/イミノ基を有するオルガノポリシロキサン、アミノ基及びイミノ基由来の窒素原子の含有量:4.0質量%、粘度60mm/s)10gを用いた以外は実施例12と同様にして処理浴を調製した。
【0079】
(比較例4)
実施例1で用いたオルガノポリシロキサンA10gに、ソフタノール50(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド5モル付加物)1.0g、ソフタノール90(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド9モル付加物)2.5g、ソフタノール120(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド12モル付加物)2.5gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、そのまま処理浴として用いた。この処理浴のpHは6.3であった。
【0080】
(比較例5)
比較例1で用いたオルガノポリシロキサン誘導体E10gに、ソフタノール50(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド5モル付加物)1.0g、ソフタノール90(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド9モル付加物)2.5g、ソフタノール120(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド12モル付加物)2.5gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、そのまま処理浴として用いた。この処理浴のpHは6.3であった。
【0081】
(比較例6)
実施例10で用いたオルガノポリシロキサン誘導体F10gに、ソフタノール50(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド5モル付加物)1.0g、ソフタノール90(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド9モル付加物)2.5g、ソフタノール120(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド12モル付加物)2.5gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、そのまま処理浴として用いた。この処理浴のpHは6.3であった。
【0082】
(比較例7)
実施例11で用いたオルガノポリシロキサン誘導体G10gに、ソフタノール50(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド5モル付加物)1.0g、ソフタノール90(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド9モル付加物)2.5g、ソフタノール120(株式会社日本触媒製、炭素数12〜14の2級アルコールのエチレンオキサイド12モル付加物)2.5gを添加し、50℃で攪拌し混合した後に、攪拌しながら60℃の温水を徐々に添加して乳化分散させ、総量を100gとし、繊維用処理剤を調製した。この繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、そのまま処理浴として用いた。この処理浴のpHは6.3であった。
【0083】
<繊維用処理剤の評価>
実施例及び比較例で得られた処理浴について、処理浴を用いて処理した加工布の風合、白度及び皮膚刺激性、並びに選択吸着性を以下の方法により評価した。
【0084】
(I)加工布の風合、白度及び皮膚刺激性の評価方法
(i)評価用加工布の準備
実施例及び比較例で得られた繊維用処理剤の5質量%水溶液を調製し、これを処理液として用いて、綿ニット布をパディング(1dip−1nip)処理した。このときのピックアップは70質量%とした。その後、綿ニット布を120℃で2分間乾燥し、評価用加工布を得た。
【0085】
(ii)風合の評価方法
得られた加工布の風合を、触感にて評価した。なお、風合の評価は以下の基準に基づいて以下の5段階及びそれぞれの中間位に分類して判定した。また、同様に触感にてべたつき感の有無を確認した。
5:非常に柔軟である
4:柔軟である
3:やや柔軟である
2:やや粗硬である
1:粗硬である。
【0086】
(iii)白度の評価方法
得られた加工布のハンター白度を、測色機(ミノルタ株式会社製、製品名「CM−3700d」)を用いて測定した。
【0087】
(iv)皮膚刺激性の評価方法
JIS L 1918(2005)「繊維製品の皮膚一次刺激性試験方法(培養ヒト皮膚モデル法)に記載の方法に準拠して、細胞生存率(%)を求め、下記表1の判定基準に基づいて一次刺激性を分類した。具体的には、24時間貼付試験において、細胞生存率が80.0%以上を示した場合は、加工布の皮膚への一次刺激性を陰性に分類し、50.0%未満を示した場合は陽性に分類した。24時間貼付試験で、細胞生存率が50.0%以上、80.0%未満を示した場合は、さらに、48時間貼付試験を実施し、細胞生存率が50.0%未満であれば弱陽性に分類し、50.0%以上であれば陰性に分類した。培養ヒト皮膚モデルとしてヒドロライフスキン(グンゼ株式会社製)を使用した。
【0088】
【表1】

【0089】
(v)選択吸着性の評価方法
実施例及び比較例で得られた処理浴500mlを1Lビーカーに入れ、綿ニット布10gを下記の要領で処理した。
(1)綿布を1分間処理浴中で揉んだ。すなわち、10秒間で10回揉んだ後、5秒放置した。この操作を1回として4回繰り返した。
(2)綿布をピックアップ200質量%となるように絞った(絞り液は戻した)。
(3)新液を追加せず、上記工程を同浴で10回繰り返した。
(4)試験前及び試験後の処理液をぞれぞれ5ml採取し固形分を測定した。固形分の測定方法は、105℃の乾燥機内で3時間加熱乾燥して残査(質量%)を算出した。試験後の固形分残存率を下記の式より求め、固形分残存率が高いものほど選択吸着が抑制されていると判断した。
固形分残存率(%)=(試験後の処理浴の固形分×100)÷試験前の処理浴の固形分。
【0090】
(II)評価結果
繊維用処理剤を用いて処理した加工布の風合、白度及び皮膚刺激性、繊維用処理剤の製品安定性、並びに選択吸着性を評価した。また、未加工布の風合、白度及び皮膚刺激性を評価した。得られた結果を、用いた処理剤の組成及び処理浴のpHと共に表2及び表3に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
表2及び表3に記載した結果からも明らかなように、本発明の繊維加工方法により得られた繊維製品は、いずれも、風合や皮膚刺激性(細胞生存率)が良好であることが確認された。
【0094】
なお、炭素数10のモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を用いてオルガノポリシロキサン系化合物を乳化させた繊維用処理剤を用いて処理する場合、皮膚刺激性(細胞生存率)は、処理浴のpHが4.0〜5.0である場合は実施例の通りpHによる影響を殆ど受けないが、処理浴のpHを3.0とした比較例3においては皮膚刺激性が陽性となった。
【0095】
また、炭素数10のモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物を用いてオルガノポリシロキサン系化合物を乳化させた繊維用処理剤を用いて処理する場合、処理浴のpHにより選択吸着性が変動することが明らかであり(実施例7〜9及び比較例1〜3)、選択吸着性の抑制と皮膚刺激性の低減とのバランスの観点から、処理浴のpHを4.0〜5.0とすることが非常に重要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明の繊維加工方法によれば、皮膚刺激性を低減しつつ、処理剤成分の過剰吸着(選択吸着)に起因する製品品質のばらつき等の発生を十分に防止し、繊維製品に安定して柔軟性を付与することができる。このように、本発明によれば、繊維処理剤中に含まれるオルガノポリシロキサン系化合物の繊維製品への選択吸着をコントロールすることができ、連続処理におけるエンディング現象やバッチ処理におけるムラ付きやべたつき等の問題を防ぐことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有する、オルガノポリシロキサン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のオルガノポリシロキサン系化合物、並びに、炭素数が10であるモノアルコールのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第1のアルキレンオキサイド付加物を含む繊維用処理剤を含有し、かつ、pHが4.0〜5.0である処理浴を用いて加工することを特徴とする繊維加工方法。
【請求項2】
前記第1のアルキレンオキサイド付加物が、炭素数が10であるモノアルコールのエチレンオキサイド付加物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維加工方法。
【請求項3】
前記繊維用処理剤が、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選択される少なくとも1種の第2のアルキレンオキサイド付加物を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維加工方法。
【請求項4】
前記第2のアルキレンオキサイド付加物における多価アルコール脂肪酸エステルがモノエステル化合物であることを特徴とする請求項3に記載の繊維加工方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の繊維加工方法により加工して得られたものであることを特徴とする繊維製品。

【公開番号】特開2010−202984(P2010−202984A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46241(P2009−46241)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】