説明

繊維布帛の処理方法及び繊維布帛の処理装置

【課題】染色機から長尺状の繊維布帛を引き上げる引き上げ工程及び繊維布帛を箱車に振り落とすときの振り落とし工程における時間を短縮して生産性を向上することができる繊維布帛の処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る繊維布帛の処理装置1は、長尺状の繊維布帛2を染色する染色機10と、染色機10から繊維布帛2を引き上げる引き上げ手段20と、引き上げられた繊維布帛2を振り落とす振り落とし手段30と、を備え、引き上げ手段20による繊維布帛2の引き上げ速度をVhとし、振り落とし手段30による繊維布帛2の振り落とし速度をVfとすると、引き上げ手段20と振り落とし手段30とによって、Vh>Vfとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布帛の処理方法及び処理装置に関し、特に、染色処理後の長尺状の繊維布帛を引き上げ及び振り落としするときの繊維布帛の処理方法及び処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺状の繊維布帛を染色するための処理装置として、ウインス、液流染色機、又は気流染色機等の染色機を用いたものが知られている。このような処理装置では、長尺状の繊維布帛を染色機に入れて染色を行うが、長尺状の繊維布帛の両末端を繋ぎ合わせてエンドレス状(リング状)にして染色する等、様々な染色機が開発されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−105842号公報
【特許文献2】特開平07−133576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維布帛は、染色機によって染色処理がなされた後、引き上げロールによって染色機内より引き上げられ、その後、バスケット状の振り落とし機によって箱車に振り落とされ、乾燥や樹脂加工、セットなどの次工程に移動される。
【0005】
染色処理が施された繊維布帛を次工程に進めるための繊維布帛の引き上げ工程及び繊維布帛の振り落とし工程は、繊維布帛自体に付加価値を与えるものではないため、なるべく短時間で処理することが望まれているが、長尺状の繊維布帛ではかなりの時間がかかってしまう。
【0006】
そこで、本発明者らは、引き上げロールの引き上げ速度及び振り落とし機の振り落とし速度をアップさせ、引き上げ時間及び振り落とし時間の短縮を試みた。
【0007】
ところが、単に引き上げ速度及び振り落とし速度をアップさせるだけでは、引き上げられた繊維布帛が振り落とし機から飛び出してはみ出たり、振り落とし機内で詰まったりして、かえって生産性が低下するとことが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、染色機の中から長尺状の繊維布帛を引き上げるときの引き上げ速度及び箱車に振り落とすときの振り落とし速度を向上させて生産性を向上することができる繊維布帛の処理方法及び繊維布帛の処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る繊維布帛の処理方法は、染色機から長尺状の繊維布帛を引き上げる工程と、引き上げた前記繊維布帛を振り落とす工程と、を含み、前記の引き上げ工程において前記繊維布帛を前記染色機から引上げるときの引き上げ速度をVhとし、前記振り落とし工程において、前記繊維布帛を振り落とすときの振り落とし速度をVfとすると、Vh>Vfであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る繊維布帛の処理装置は、長尺状の繊維布帛を染色する染色機と、前記染色機から前記繊維布帛を引き上げる引き上げ手段と、引上げられた前記繊維布帛を振り落とす振り落とし手段と、を備え、前記引き上げ手段による前記繊維布帛の引き上げ速度をVhとし、前記振り落とし手段による前記繊維布帛の振り落とし速度をVfとすると、前記引き上げ手段と前記振り落とし手段とによって、Vh>Vfとすることができることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の一態様に係る繊維布帛の処理装置において、前記引き上げ手段と前記振り落とし手段とは、それぞれ独立した駆動手段によって駆動されるように構成することができる。
【0012】
あるいは、本発明の一態様に係る繊維布帛の処理装置において、前記引き上げ手段と前記振り落とし手段とは、同一の駆動手段によって駆動され、前記駆動手段は、Vh>Vfに調整できる変速手段を有するように構成することができる。
【0013】
さらに、本発明の一態様に係る繊維布帛の処理装置において、前記駆動手段は、モータによって構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る繊維布帛の処理方法及び処理装置によれば、繊維布帛の染色処理後、繊維布帛が振り落とし手段からはみ出したり振り落とし手段内で詰まったりすることなく、繊維布帛の引き上げ工程における引き上げ速度及び振り落とし工程における振り落とし速度を向上させることができる。これにより、引き上げ工程及び振り落とし工程に要する時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、箱車等に振り落とされた繊維布帛がお互いに貼りついて次工程における布さばきが悪くなるという問題も生じないので、引き上げ工程及び振り落とし工程での生産性向上だけではなく、次工程での生産性向上も期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置における引き上げ手段及び振り落とし手段の拡大図であり、(a)はその上面図、(b)はその側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置における振り落とし手段の振り幅を説明するための概略図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る繊維布帛の処理装置における引き上げ手段及び振り落とし手段の拡大図であり、(a)はその上面図、(b)はその側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る繊維布帛の処理装置及び繊維布帛の処理方法について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものでなはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて特定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、請求項に記載されていない構成要素は、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。なお、各図において、同じ構成要素には同じ符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置1について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置の概略構成を示す側面図である。図2は、本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置における引き上げ手段及び振り落とし手段の拡大図であり、(a)はその上面図、(b)はその側面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る繊維布帛の処理装置1は、長尺状の繊維布帛2を染色する染色機10と、染色機10から繊維布帛2を引き上げる引き上げ手段20と、引き上げられた繊維布帛2を振り落とす振り落とし手段30と、を備える。以下、繊維布帛の処理装置1における各構成について詳細に説明する。
【0020】
まず、染色機10について説明する。染色機10は、繊維布帛を染色するための装置であって、ウインス、液流染色機、又は気流染色機等の任意の染色機を用いることができる。本実施の形態では、流体染色機を用いている。また、染色機10は、染色加工のみに用いられるものに限定されず、精錬、リラックス、風合い加工や制菌加工等の機能加工に用いられるものも含む。
【0021】
次に、引き上げ手段20について説明する。引き上げ手段20は、染色機10によって染色された繊維布帛2を、所定の引き上げ速度Vhで上方に引き上げるための引き上げ機である。本実施の形態において、引き上げ手段20は、図1に示すように、染色機10の繊維布帛2を出し入れするためのハッチの斜め上方部に位置するように所定の支持部材に取り付けられている。これにより、繊維布帛2は、引き上げ手段20によって斜め上方に引き上げられる。
【0022】
本実施の形態における引き上げ手段20は、図2(a)及び図2(b)に示すように、回転することで繊維布帛2を巻き付けて引き上げる引き上げロール21と、引き上げロール21を回転させるためのモータ(駆動手段)22とを備えている。引き上げ手段20は、モータ22を駆動して引き上げロール21を回転させることによって繊維布帛2を染色機10から引き上げる。
【0023】
本実施の形態において、モータ22は、減速機付きモータ(インバータ制御)を用いている。モータ22を制御することによって引き上げロール21の回転速度を制御することができる。つまり、モータ22を制御することによって、繊維布帛2の引き上げ速度Vhを速くしたり遅くしたりすることができる。
【0024】
なお、引き上げロール21としては、任意のものを用いることができるが、円柱状や多角柱などの柱状物を横にして構成したものを用いることが好ましい。この場合、多角柱における角数は特に限定されるものではないが、4〜12角程度の多角柱を用いるとよい。また、引き上げロール21の直径は、20cm〜100cm程度のものを用いることが好ましい。これは、引き上げロール21の直径が20cm未満では引き上げ速度Vhが遅くなるからであり、仮にそれを補うために引き上げロール21の回転数を上げたとしても繊維布帛2と引き上げロール21との間でスリップ(滑り)が発生し、引き上げロール21の回転数のみを上げても繊維布帛2の引き上げ速度を速くさせることが難しいからである。一方、引き上げロール21の直径を100cm超とすると処理装置が大型化してしまうからである。なお、引き上げられる繊維布帛2のスリップを防止するために、引き上げロール21の表面に綿布等の滑り防止材で覆うことが好ましい。
【0025】
次に、振り落とし手段30について説明する。振り落とし手段30は、引き上げ手段20によって引き上げられた繊維布帛2を、所定の振り落とし速度Vfで下方に振り落とすための振り落とし機である。振り落とし手段30は、引き上げ手段20の下方に位置するように設けられる。本実施の形態において、振り落とし手段30は、図1に示すように、引き上げロール21から繊維布帛2が下ろされてくる位置において、所定の支持部材に取り付けられている。
【0026】
また、振り落とし手段30は、繊維布帛2が箱車3内の振り落とし場所の一箇所に集中して下ろされることを防ぐために、繊維布帛2を前後及び/又は左右に移動させながら箱車3内の広い範囲に振り落とすことができるように構成されている。
【0027】
本実施の形態における振り落とし手段30は、図2(a)及び図2(b)に示すように、下面部が上面部よりも狭くなるようなバスケット型に構成され、繊維布帛2が上方から下方へと通過できるように上面部と下面部とが開放されたバスケットと呼ばれるバスケット部31と、バスケット部31を前後に揺り動かすためのモータ(駆動手段)32とを備えている。また、振り落とし手段30は、モータ32の回転動作を、バスケット部31を振り動かす振り動作として伝達するために、プーリー及びベルト等も備える。振り落とし手段30は、モータ32を駆動することによってバスケット部31を前後に振らすことができる。このように、バスケット部31を前後に振らすことによって、バスケット部31の中を繊維布帛2が通過する際に、繊維布帛2は前後に振られながら箱車3内に下ろされていく。
【0028】
本実施の形態において、モータ32は、減速機付きモータを用いている。モータ32を制御することによってバスケット部31の振り速度を制御することができる。つまり、モータ32を制御することによって、繊維布帛2の振り落とし速度Vfを速くしたり遅くしたりすることができる。
【0029】
なお、振り落とし手段30としては、バスケット型のバスケット部31ではなく、繊維布帛2を通過させるために数cm程度の間隔をあけた2本のロールを用いてもよい。この場合、当該2本のロールをモータによって前後に振らすことによって、2本のロールの間を繊維布帛2が通過する際に、繊維布帛2が前後に振られながら箱車3内に下ろされていく。
【0030】
このように構成される本実施の形態における繊維布帛の処理装置1では引き上げ手段20による繊維布帛2の引き上げ速度Vhと振り落とし手段30による繊維布帛2の振り落とし速度Vfとは、引き上げ手段20と振り落とし手段30とによって、Vh>Vfとすることができる。本実施の形態では、Vh>Vfの関係を満たすように、引き上げ手段20及び振り落とし手段30が制御される。つまり、引き上げ手段20と振り落とし手段30とによって、Vh>Vfとなるように調整可能となっている。逆に、引き上げ手段20と振り落とし手段30とを調整することで、Vh≦Vfとすることも可能である。
【0031】
なお、本実施の形態において、Vh>Vfとする場合には、繊維布帛の処理装置1の動作中(操作中)に引き上げ手段20と振り落とし手段30とを調整してVh>Vfとする場合だけではなく、繊維布帛の処理装置1の動作前(操作前)に予めVh>Vfとなるように設定されている場合も含まれる。後者の場合、処理装置1のユーザーが当該処理装置1を使用する時点においてVh>Vfとなっている場合だけではなく、処理装置1のメーカーが当該処理装置1を製造した時点、あるいは、メーカーや販売業者が処理装置1を実施、すなわち、処理装置1を譲渡(販売、出荷、納品等)、輸出、又は輸入等した時点において、Vh>Vfとなっている場合も含まれる。
【0032】
ここで、引き上げ手段20による繊維布帛2の引き上げ速度Vhとは、染色機10から繊維布帛2が単位時間当たりに引き上げられる長さのことをいい、本実施の形態では、1分間当たりに引き上げられた繊維布帛2の長さ(m/分)としている。また、振り落とし手段30による繊維布帛2の振り落とし速度Vfとは、前後に移動する振り落とし手段30の先端部分(バスケットの場合は繊維布帛2が排出されるバスケットの底面部であり、2本のロールの場合は繊維布帛2を間に通過させる2本のロールの下端)の単位時間当たりの移動距離のことをいい、本実施の形態では、振り落とし手段30の先端部分が1分間当たりに移動する移動距離(m/分)としている。
【0033】
なお、振り落とし手段30の下方には箱車3が設置されており、繊維布帛2は、振り落とし手段30によって箱車3に振り落とされる。また、繊維布帛2の全てを収納すると、箱車3は、乾燥工程、樹脂加工程又はセット工程等の次工程に移動される。
【0034】
また、本実施の形態において、長尺状の繊維布帛2とは、20m以上の長さを有するものをいう。この繊維布帛2の長さの上限は特に限定されるものではないが、染色機10に入れることのできる長さの観点からは5000m程度が上限である。また、繊維布帛2の幅については特に限定されるものではないが、織機等の関係より、通常1cm〜3m程度である。
【0035】
次に、本実施の形態に係る繊維布帛の処理方法について説明する。本実施の形態における繊維布帛の処理方法は、本実施の形態における繊維布帛の処理装置1を動作させることによって行うことができる。以下、本実施の形態における繊維布帛の処理装置1の動作について、図3を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置における振り落とし手段の振り幅を説明するための概略図である。
【0036】
本実施の形態に係る繊維布帛の処理方法は、染色機10から長尺状の繊維布帛2を引き上げる引き上げ工程と、引き上げた繊維布帛2を振り落とす振り落とし工程と、を含む。引き上げ工程及び振り落とし工程は、染色機10によって染色処理が施された繊維布帛2を、次工程に進めるための中間工程である。
【0037】
図3に示すように、引き上げ工程では、引き上げ手段20によって、染色機10(不図示)から長尺状の繊維布帛2を連続的に引き上げる。本実施の形態では、モータ22によって引き上げロール21を回転させることによって、所定の引き上げ速度Vhにて繊維布帛2を引き上げていく。
【0038】
引き続き、振り落とし工程では、引き上げロール21の回転に従って引き上げロール21から下りてくる繊維布帛2に対して振り落としを行う。具体的には、振り落とし手段30によって繊維布帛2を前後に振りながら当該繊維布帛2を所定の振り落とし速度Vfにて下方に下ろしていく。
【0039】
このように、長尺状の繊維布帛2は、引き上げ手段20によって染色機10から引き上げられ、その後、振り落とし手段30によって箱車3の上に振り落とされていく。
【0040】
そして、本実施の形態では、引き上げ工程における繊維布帛2の引き上げ速度Vhと振り落とし工程における繊維布帛2の振り落とし速度Vfとが、Vh>Vfの関係を満たすように制御されている。ここで、上述のとおり、引き上げ速度Vhは、染色機10から繊維布帛2が単位時間当たりに引き上げられる長さのことであり、振り落とし速度Vfは、前後に移動する振り落とし手段30の先端部分の単位時間当たりの移動距離のことである。また、振り落とし手段30(バスケット部31)の振り幅をlとし、振り落とし手段30(バスケット部31)の振り回数をnとすると、振り落とし速度Vfは、振り落とし速度Vf=振り幅(l)×2×振り回数(n)として表すことができる。
【0041】
この場合、引き上げ速度Vhと振り落とし速度VfとがVh=Vfであるとすると、振り落とし手段30によって振り落とされた繊維布帛2が層状に積層されて嵩張らないので繊維布帛2を効率的に箱車3に積むことができると考えられる。
【0042】
しかしながら、この場合において、さらに生産性を向上させようとしてVh=Vfを維持したまま、単に引き上げ速度Vhと振り落とし速度Vfとを速くすると、上述のように、引き上げられた繊維布帛2が振り落とし手段30から飛び出してはみ出したり、繊維布帛2が振り落とし手段30内で詰まったりして、かえって生産性が低下するという問題が発生することが分かった。
【0043】
本願発明者は、鋭意検討を重ねた結果、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度VfをVh>Vfとすることにより、上記問題を解決できるということを突きとめた。ここで、引き上げ速度Vhの調整は引き上げ手段20によって行うことができ、また、振り落とし速度Vfの調整は振り落とし手段30によって行うことができる。より具体的には、引き上げ手段20では、モータ22によって引き上げロール21の回転速度を制御することによって引き上げ速度Vhを調整することができる。また、振り落とし手段30では、モータ32によってバスケット部31の前後の振りを制御することによって振り落とし速度Vfを調整することができる。このように、本実施の形態では、引き上げ手段20と振り落とし手段30とがそれぞれ独立した駆動手段(モータ22、モータ32)を有しており、それぞれの駆動手段の回転速度をそれぞれ個別に調整することにより、引き上げ手段20の引き上げ速度Vhと振り落とし手段30の振り落とし速度VfとがVh>Vfとなるように調整することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態1に係る繊維布帛の処理装置及び処理方法によれば、染色機10の中から長尺状の繊維布帛2を引き上げるときの引き上げ速度Vhと箱車3に繊維布帛2を振り落とすときの振り落とし速度VfとをVh>Vfとすることにより、繊維布帛2が厚地や中肉生地をはじめとして薄地や密度の込んだものであったとしても、速くかつスムーズに繊維布帛2を染色機10から引き上げることができる。従って、繊維布帛2が振り落とし手段30からはみ出したり振り落とし手段30内で詰まったりすることなく、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度Vfを向上させることが可能となるので、長尺状の繊維布帛2を染色機10の中から引き上げる引き上げ工程及び引き上げた繊維布帛2を箱車3に振り落とす振り落とし工程の各工程における生産性を容易に向上させることができる。
【0045】
また、本実施の形態に係る繊維布帛の処理装置及び処理方法によれば、振り落とし工程の後の工程においても生産性を向上させることができる。
【0046】
すなわち、箱車3に振り落とされたときの繊維布帛2は濡れているために、お互いに貼りついて次工程での布さばきが悪くなるという問題があるが、本実施の形態のように、引き上げ速度Vhと振り落とし速度VfとをVh>Vfとすることにより、この問題も解消することができる。このように、本実施の形態によれば、引き上げ工程及び振り落とし工程における生産性を向上させることができるだけではなく、次工程での生産性を向上させることができる。
【0047】
また、本実施の形態に係る繊維布帛の処理装置及び処理方法によれば、振り落とし工程の次工程において繊維布帛2をスムーズに引き上げることもできる。
【0048】
すなわち、染色機10で染色処理された繊維布帛2は上述のように濡れていることが多くあり、特に密度が込み濡れている状態の繊維布帛2では空気や水の透過性も低下しているためにお互いが貼りつきやすくなっている。このため、引き上げ手段20(引き上げロール21)や振り落とし手段30(バスケット部31)に繊維布帛2が絡むなどの問題が発生するおそれがある。これに対して、本実施の形態のように、引き上げ速度Vhと振り落とし速度VfとをVh>Vfとすることにより、このような繊維布帛2の絡みを抑制することができる。しかも、引き上げ速度Vhに比べて振り落とし速度Vfが小さいので、振り落とされた繊維布帛2が波打つように箱車3に積まれるので、繊維布帛2同士の貼り付きを抑制することができる。これにより、次工程にて繊維布帛2を引き上げる際に、スムーズに引き上げることができる。
【0049】
また、本実施の形態において、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度Vfは、バスケット部31から繊維布帛2が飛び出す等を防止する観点及び次工程での繊維布帛2の引き上げ容易性の観点から、好ましくは、Vh>1.2Vf、さらに好ましくは、Vh>1.5Vf、より好ましくは、Vh>2.0Vfである。但し、Vh>5.0Vfとなると、振り落とされた繊維布帛2同士が複雑に重なり合って次工程において繊維布帛2の引き上げが行いにくくなるおそれがあるため、Vh≦5.0Vfとすることが好ましい。
【0050】
また、引き上げ速度Vhそのものについては特に限定されるものではなく、引き上げ速度Vhは、例えば50m/分以上とすることができる。なお、引き上げ速度Vhについては、70m/分以上、さらには100m/分以上としても、スムーズに繊維布帛2を引き上げて振り落とすことができる。
【0051】
また、振り落とし速度Vfそのものについても特に限定されるものではなく、振り落とし速度Vfは、引き上げ速度Vh及び繊維布帛2の状態に応じて任意に設定すればよい。なお、振り落とし速度Vfは、10m/分以上とすることが好ましい。
【0052】
また、本実施の形態において、引き上げ手段20と振り落とし手段30とはそれぞれ独立したモータ22、32を有しているので、引き上げ速度Vhと振り落とし速度Vfとを独立して調整することができる。これにより、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度Vfを容易に微調整することができるので、バッチ毎に、目付けや密度等が異なる繊維布帛2に対して最も適した条件を設定することができる。
【0053】
また、本実施の形態において、繊維布帛2の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステルやナイロン等の合成繊維、トリアセテートやジアセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿、絹、羊毛あるいは麻などの天然繊維、又は、これらの繊維を複数用いた混紡、混繊、交織あるいは交編等を用いることができる。また、繊維布帛2の形状についても特に限定されるものではなく、織物、編物又は不織布等とすることができる。
【0054】
また、本実施の形態において、繊維布帛2の目付けや組織等についても特に限定されるものではなく、任意の目付けや組織構造の繊維布帛2を用いることができる。この点について、以下詳述する。
【0055】
一般的に、目付けが軽すぎると、長尺状の繊維布帛2の引き上げ速度Vhを上げた場合に、引き上げられた繊維布帛2が振り落とし手段30に絡まるなどの問題が発生しやすい。具体的には、振り落とし手段30が、本実施の形態のように、バスケット部31を前後に移動させて繊維布帛2を振り落とすものである場合には、バスケット部31から繊維布帛2が飛び出してしまい、そこからバスケット部31内での繊維布帛2のつまりが発生したり、バスケット部31を飛び出した繊維布帛2を後ろから送られてくる繊維布帛2が追い越して先に箱車3に積まれてしまって次の工程での繊維布帛2の引き上げがスムーズに行えなかったりといった問題が発生するおそれがある。
【0056】
これに対して、本発明における引き上げ及び振り落とし方法を用いると、目付けが350g/m超の厚地、又は120g/m以上〜350g/m以下の中肉地であっても、また、120g/m未満、さらに70g/m以下、さらには50g/m以下の薄地の繊維布帛2であったとしても、当該繊維布帛2をスムーズに引き上げ及び振り落としすることができる。
【0057】
このように、本実施の形態によれば、厚地や中肉地、又は目付けが軽くて上記の問題が発生しやすい繊維布帛であっても、すなわち、繊維布帛2の目付けや組織等について特に限定されることなく本発明の効果を発揮することができる。
【0058】
また、本発明における引き上げ及び振り落とし方法を用いることにより、高密度の繊維布帛、例えば織物の2.54cm当りのタテ方向の密度とヨコ方向の密度との和が150本/2.54cm以上又は200本/2.54cm以上の繊維布帛であったとしても、スムーズに引き上げ及び振り落としを行うことができ、また、次工程においてもスムーズに繊維布帛2を箱車3から引き上げることができる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る繊維布帛の処理装置1A及び処理方法について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態2に係る繊維布帛の処理装置における引き上げ手段及び振り落とし手段の拡大図であり、(a)はその上面図、(b)はその側面図である。
【0060】
本実施の形態が実施の形態1と異なる点は、引き上げ手段及び振り落とし手段における駆動手段である。すなわち、実施の形態1における繊維布帛の処理装置1では、引き上げ手段20及び振り落とし手段30が、それぞれ独立した駆動手段(モータ22、32)によって駆動されていたのに対して、図4に示すように、本実施の形態における繊維布帛の処理装置1Aでは、引き上げ手段20A及び振り落とし手段30Aが、同一の駆動手段(モータ40)によって駆動される。さらに、駆動手段(モータ40)は、引き上げ手段20Aによる繊維布帛2の引き上げ速度Vhと振り落とし手段30Aの振り落とし速度VfとをVh>Vfに調整できるように変速手段を有している。
【0061】
本実施の形態では、引き上げ手段20A及び振り落とし手段30Aは、当該引き上げ手段20Aと当該振り落とし手段30Aとに共通する1台のモータ40によって駆動されるが、カムやギヤ等の変速機からなる変速手段によって、Vh>Vfに調整することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態2に係る繊維布帛の処理装置及び処理方法によれば、実施の形態1と同様に、引き上げ速度Vhと振り落とし速度VfとがVh>Vfとなるように制御されるので、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。すなわち、引き上げ速度Vhをアップさせたときに繊維布帛2がバスケット部31から飛び出したり詰まったりすること等を防止することができる。これにより、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度Vfを向上させることが可能となるので、引き上げ工程及び振り落とし工程の各工程における生産性を容易に向上させることができる。また、実施の形態1と同様に、振り落とし工程後における次工程において、繊維布帛2をスムーズかつ速やかに引き上げること等もできる。
【0063】
さらに、本実施の形態では、引き上げ手段20A及び振り落とし手段30Aを駆動するモータ40がギヤ等の変速機からなる変速手段を備えているので、この変速機を多段変速としておくことにより、モータ40が引き上げ手段20Aと振り落とし手段30Aとの兼用モータであっても、引き上げ手段20Aの引き上げロール21及び振り落とし手段30Aのバスケット部31に対して異なる回転数で制御することができる。これにより、繊維布帛2の目付けや密度等にあわせて所望の条件を設定して繊維布帛2の引き上げ及び振り落としを行うことができる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明に係る繊維布帛の処理装置及び処理方法の実施例について、以下説明する。
【0065】
本実施例では、図1に示す実施の形態1における繊維布帛の処理装置1を用いており、染色機10(染色機本体)として、液流染色機を用いた。また、引き上げ手段20として、直径が60cmの8角柱の引き上げロールを用いた。また、振り落とし手段30としてバスケット型の振り落とし機を用いた。さらに、引き上げ手段20及び振り落とし手段30は、それぞれ独立した駆動手段(モータ22、32)を有しており、引き上げ手段20の引き上げロール21の回転速度及び振り落とし手段30のバスケット部31の振り速度をそれぞれ調整できるように構成されている。
【0066】
また、長尺状の繊維布帛として、ポリエステルスパン糸からなり、目付けが40g/mで、タテ密度とヨコ密度との和が210本/2.54cmの平織物であり、長尺方向の長さが1000mのものを用いた。
【0067】
そして、このように構成された繊維布帛を2本準備して染色機10に投入し、それぞれの繊維布帛2の末端同士を繋ぎ合わせて(結反)、エンドレス状の繊維布帛2とした。この繊維布帛2を、染色機10において所定の蛍光染料で染色した後、それぞれの結反部分をカットした。なお、このときの繊維布帛2は濡れている状態であった。
【0068】
この染色後の繊維布帛2を以下の表1に示す3つの条件に従って、引き上げ工程及び振り落とし工程を行った。表1において、「本発明」は、引き上げ速度Vhを126m/分とし、振り落とし速度Vfを61m/分として行ったものである。また、「比較例1」は、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度Vfをいずれも126m/分として行ったものであり、「比較例2」は、引き上げ速度Vh及び振り落とし速度Vfをいずれも79m/分として行ったものである。
【0069】
【表1】

【0070】
この場合、表1に示すように、「比較例1」では、2本の内の1本の繊維布帛がバスケットから一部飛び出して、途中で振り落としができなくなり、引き上げ時間及び振り落とし時間を測定することができなくなった。また、「比較例2」では、振り落としは順調に行えたものの、引き上げ時間及び振り落とし時間は13分となり、長くかかった。
【0071】
これに対して、「本発明」では、振り落とし手段30のバスケット部31から繊維布帛2が飛び出すことなく繊維布帛2を引き上げることができ、引き上げ及び振り落としを順調に行うことができた。また、引き上げ時間及び振り落とし時間は8分となり、引き上げ工程及び振り落とし工程に要する時間を短縮することができ、生産性を向上させることができた。
【0072】
さらに、「本発明」では、箱車3に振り落とされた繊維布帛2が波打ったように積まれた状態となり、次工程(乾燥工程)において繊維布帛2の引き上げ時には、繊維布帛2同士が貼りついて一緒になった状態で引き上げられるということもなかった。このように、「本発明」では、次工程での引き上げもスムーズに行うことができ、さらに生産性の向上に繋がった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、染色処理後の長尺状の繊維布帛を引き上げ及び振り落としするときにおける繊維布帛の処理方法及び処理装置等として広く有用である。
【符号の説明】
【0074】
1、1A 繊維布帛の処理装置
2 繊維布帛
3 箱車
10 染色機
20、20A 引き上げ手段
21 引き上げロール
22、32、40 モータ
30、30A 振り落とし手段
31 バスケット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色機から長尺状の繊維布帛を引き上げる引き上げ工程と、
引き上げた前記繊維布帛を振り落とす振り落とし工程と、を含み、
前記引き上げ工程において、前記繊維布帛を前記染色機から引き上げるときの引き上げ速度をVhとし、前記振り落とし工程において、前記繊維布帛を振り落とすときの振り落とし速度をVfとすると、Vh>Vfである
繊維布帛の処理方法。
【請求項2】
長尺状の繊維布帛を染色する染色機と、
前記染色機から前記繊維布帛を引き上げる引き上げ手段と、
引き上げられた前記繊維布帛を振り落とす振り落とし手段と、を備え、
前記引き上げ手段による前記繊維布帛の引き上げ速度をVhとし、前記振り落とし手段による前記繊維布帛の振り落とし速度をVfとすると、前記引き上げ手段と前記振り落とし手段とによって、Vh>Vfとすることができる
繊維布帛の処理装置。
【請求項3】
前記引き上げ手段と前記振り落とし手段とは、それぞれ独立した駆動手段によって駆動される
請求項2に記載の繊維布帛の処理装置。
【請求項4】
前記引き上げ手段と前記振り落とし手段とは、同一の駆動手段によって駆動され、
前記駆動手段は、Vh>Vfに調整できる変速手段を有する
請求項2に記載の繊維布帛の処理装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、モータである
請求項3又は4に記載の繊維布帛の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96041(P2013−96041A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242180(P2011−242180)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】