説明

繊維強化アキュムレータ付きの建設土木機械

【課題】
建設土木機械は作業時や特に高負荷時には騒音や振動が大きく、住民による騒音振動規制が求められており、一時その低騒音化の為にサイレンサー等により能力低下やエネルギー効率が低下した。低コストな省エネ静穏型建設土木機械を提供する事を目的とする。
【解決手段】
従来の原動機直結可変容量ポンプを使用した油圧閉回路をやめて、低騒音化の根本解決として、軽量の繊維強化アキュムレータと一定容量ポンプを採用し、過負荷時の油圧ポンプが高回転となる騒音増加を防止して、且つ省エネルギーも図った。鋳造可能な析出硬化ステンレスを鋳造したアキュムレータを採用し、更に繊維補強して自緊処理により疲労寿命も延ばし、コストダウンと軽量化を図った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
建設土木機械は作業時や特に高負荷時には騒音や振動が大きく、住民による騒音振動規制が求められており、一時その低騒音化の為にサイレンサー等により能力低下やエネルギー効率が低下した。
従来の油圧閉回路をやめて、低騒音化の根本解決としてアキュムレータを採用して、過負荷時の油圧ポンプでの高回転による騒音増加を防止し、且つ省エネルギーも図ると云う、省エネ静穏型建設土木機械を提供する事を目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来の建設土木機械は、パラレル可変ピストン油圧ポンプとスライド又はロータリースプール方向制御弁が採用されている油圧閉回路であった。
この外に圧力補償弁を利用した吐出量制御による圧力補償回路も採用している。
【0003】
この為に、エンジンの出力を作業負荷に応じて、事前にエンジン等の回転を選択して上げておく必要があり、且つ過負荷時は吐出量の低減も行うが、エンジン回転低下と同時に騒音や排気が多くなり、場合によっては停止する場合もあった。
小型パワーシャベルを想定すると、シリンダ最高作動圧力は約27MPaである。
シリンダストロークと断面積より、一動作として吐出量は押しで2.7リットル、引きで1.3リットルの計4リットルが必要である。
そこで、最大使用圧力70MPaで容量40リットルのアキュムレータに、20MPa・40リットルの窒素を充填すると、70MPaの油圧により11.43リットルに圧縮されるし、27MPaの時では29.63リットルなので、差が18.20リッターとなり、断熱変化では連続して約4.5動作可能である。
実際に負荷の少ない場合は、操作性を考慮し、流量を絞って低速で作動させており、過負荷時には、ブースターによる増圧を考慮する。
従来のアキュムレータは、マンガン鋼を採用しており、高圧になるほど肉圧は増す必要が有り、特に大容量では厚く重く長かった。
又、同じ圧力でも太くするほど肉厚を増す必要があり、大容量では長いものが多かった。
蓄圧アキュムレータとしては、現状ではプラダ型とピストン型が主に使われている。
このアキュムレータ現状ではは市販されていない(市販では最大50MPa)が、プラダ型で計算すると、作動油を除いても、75MPaの仕様では約610kgとなり、中型では二本必要で約1220kg、大型では四本必要で約2440kgの重量となる。
ピストン型で計算すると更に重くなり、作動油を除いても75MPaの仕様では約1130kgとなり、中型では二本必要で約2260kg、大型では四本必要で約4520kgの重量となる。
【0004】
小型パワーシャベルの本体重量が3700kgなので、この様な約620kgの重増増と推定180〜320万円の費用追加は、この静穏設計と省エネ対策の実現は容易でない。
更に装置設計では、アキュムレータの寸法が、プラダ型では300Φ×1400L、ピストン型では340Φ×1500Lを縦型に1〜4本を追加で積載する必要がある。
しかし、アキュムレータを軽量化する努力は行われておらず、市販のアキュムレータには繊維強化した物は見当たらない。
これは、繊維強化ボンベも新技術であり、アキュムレータも油圧シリンダ程ポピュラーで無く、更に油圧シリンダに繊維強化した製品が無いので当然の事である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アキュムレータに繊維強化を施し、且つ単位重量当りの強度の大きい析出硬化型のステンレスを採用して、更に省エネ硬化が期待できる軽量化とを図ったアキュムレータを採用した、極低騒音な建設土木機械の構造に関している。
更に普及し易い様に、アキュムレータを低価格で製造する方法を提供している。
また、アキュムレータ採用による油圧回路の変更や改善も図っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アキュムレータを軽量化とコンパクト化する為に、高張力の炭素繊維やガラス繊維、ケプラー等の繊維を樹脂に含浸させてフープ状とヘリカル状に互層に巻きつけて、熱硬化や光硬化等の処理により内部の金属ライナー部の強化を図るものである。
二層構造の圧力容器の破壊は、外層の強度が大きい場合に内側ライナーの強度を外層強度で支えることができる利点があるが、しかし内層の疲労破壊を低減できるのは、外層とライナー間の残留応力の範囲である。
従って疲労寿命を延ばすために、窒素ガスライナー等を装着する前に、液圧により内側から与圧をかけて金属ライナー部に残留応力発生させて、その値を使用想定圧力の半分より少し少ない(使用想定圧力の約45%)程度となる様に設計する必要がある。
具体的には、耐圧試験でこの自緊処理圧を代行できる様に、有限要素法や歪み測定を併用して、繊維強化層の強度と厚さを決定する。
高圧容器より困難なのは、ピストン型では軸方向の繊維強化が困難である事と、プラダ型でも軸方向の繊維強化は肩の部分の面積が少ないので巻いても外れ易い点である。
しかし、軸方向応力は周方向応力の丁度半分なので、フープ巻きの自緊市処理だけで、充分で、全ての方向の応力が均等に掛かって寿命も均質化される。
この外に軽量化とコストダウンの為には、プラダ型ではパイプの両端を高温で縮管作業を行い、さらに必要であれば熱処理も行ってから、ネジ加工をしており手間と時間が掛かっていた。
【0007】
高圧力容器では、材料強度や耐力が高いほど、同じ圧力では薄くできるし、疲労寿命も長くなる。
さらに軽量化を優先させるなら、単位重量当りの材料強度や耐力が大きいものの順に、材質を選定する必要がある。
特許出願2005−O19035に示す析出硬化ステンレスをロストワックス鋳造で行えば、口金ネジの穴が太い分だけ製造し易い事になる。
外に経済性を考慮すると、製造方法別に製品の価値(材料の性質・重量・寸法・寿命・維持費・故障頻度・使用圧力・吐出速度・価格)を評価して、それを加味した製造方法が選択される。
そこで比強度(単位重量当りの材料強度)が高く、更に耐蝕性の有る材料を次に示す。
析出硬化ステンレスのシリコロイA2 TMは、マルテンサイト系ステンレスの一種であり、Cr10.8% ,Ni6.4% ,Si3.50% ,Mn1.0% ,C0.02% ,Fe-Balの組成である。
析出硬化ステンレスのシリコロイXV1 TMも、マルテンサイト系ステンレスの一種で、Cr10.5%, Ni6.5%, Si3.60%,Mn1.0%, C0.02% , Fe-Bal, Mo, Co, Ti等の組成である。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

【0010】
【表3】

【0011】
析出硬化ステンレスのシリコロイA2 TMを使用すると、鋳造も可能であり、靭性も高いし、析出硬化させなくても充分に比強度も高い。
析出硬化ステンレスのシリコロイXV1 TMも引強度が高いが、硬度もHRC40と高いし、硬化後の伸びが極端に低下するので、割れる恐れがある為に採用できない。
この様に、鋳造でネジ加工まで製造して容体化処理を行った析出硬化ステンレスのシリコロイA2 の容器、またはそれに繊維強化して自緊処理を施した容器を用いたアキュムレータを搭載して、原動機油圧ポンプから一方向弁を設けて逆流を防ぐ事を特徴とする油圧開回路を採用した建設土木機械を提案した。
【発明の効果】
【0012】
比強度も高く、伸びも絞りも大きい析出硬化ステンレスのシリコロイA2 TMを採用し、更に繊維強化して自緊処理を施した容器をアキュムレータに採用して、従来製品610kgの約36パーセントの220kgへと軽量化を果たし、建設土木機械にアキュムレータによる省エネ効果と極低騒音化を実現した。(実施例1)
一般に、アキュムレータの採用で約20%以上の省エネ効果が有ると云われています。(出展 日本アキュムレータ(日本で二社しか無い専業メーカー)のカタログ4頁)
当然ですが、騒音や振動を発生するエネルギーも節約されていると云うことです。
スゥエージングや熱処理工程と切削加工が不要な為に、製造コストも約半分程度である。
更に、鋳造が可能であり且つ熱処理も容易なので、ステンレスが高くても薄くて済む為に材料費が少なくて済みコストダウンが容易である。
この例は小型であり、中型ではアキュムレータを二本、大型では三本〜四本並列に積載する必要があり、この軽量化と費用低下の差は画期的である。
従来製品を搭載するためには、アキュムレータの重量増の為に、フレームから上位機種に設計変更が必要で、当然原動機もランクアップする為に、省エネどころか増エネと成ってしまう為に、まして低騒音も実現できなかった。(悪実施例2)
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
軽いアキュムレータを取り付けた建設土木機械で騒音や振動を低下できる。
【実施例1】
【0014】
実施例として、析出硬化ステンレスのシリコロイA2 TMにカーボン繊維をヘリカル巻きとフープ巻きを実施したプラダ型のアキュムレータを積載した建設土木機械として、油圧ショベルの例を示す。
75MPa・40リットルのアキュムレータは、従来のマンガン鋼では、太さ300Φ×1600L×56t×610kgであるが、本発明の繊維強化析出硬化ステンレスでは、太さ300Φ×920L×23t×210kg(繊維重量を含む)と軽量化される。
図1−1と図2−5との厚さを比較すると、軽量化が図れる理由が見える。
走行や回転の油圧回路を省略し、ブームも多段シリンダであるが、一本だけに省略して、以下に動作を説明する。(図4に示した。)
オペレータ用操作ノブ16をA方向に移動そさせると、手動スライド方向制御弁が左側の流露となり、蓄圧された油が繊維強化(軽量化)アキュムレータ9から上の油圧シリンダ17の押し側に流れ込む。
油圧シリンダ17の引き側の油は、ドレン油タンク10に流れ出す。
この時、油圧ロッド18は、掘削用バケット19を内側に曲げる様に力を出し、掘削が可能となる。
省略しているが、他のシリンダや油圧モーターも並列の回路で、同時動作が可能である。
図3の旧閉回路でも動作は同じであるが、油の吐出量が不足するので同時動作ができず、同時操作すると動きが鈍くなるか、負荷の大きい方が動けない事となる。
【0015】
まとめ、ACCアキュムレータを採用する事への障害は、建設土木機械のハイパワーに見合うそれが開発されていなかった事と、その高蓄積エネルギーを可能とする軽量で低コストなアキュムレータの開発が必要不可欠であったと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
毎年油圧シャベルだけで、7万台以上生産されているので、その省エネ効果と低騒音化とにより、本発明は自然に採用されて、日本の炭酸ガス削減にも役立つと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】は、本発明の実施例に採用した、75MPa40リットルの繊維強化プラダ型アキュムレータの断面図である。(実施例1)
【図2】は、従来の75MPa40リットルのアキュムレータの断面図であ(太さと厚さは同一縮尺であるが、長さだけは一部省略してある)。(悪い実施例2)
【図3】は、従来パワーショベルの油圧閉回路の配管図である。
【図4】は、本発明パワーショベルの油圧開回路で、アキュムレータが採用されている。
【符号の説明】
【0018】
1 75MPa40リットルのシリコロイA2 胴部の肉厚23mmである。
【0019】
2 繊維強化樹脂のフープ巻きとヘリカル巻きの互層によるライナー補強部
3 プラダ(交換可能)と窒素ガス封入ノズルと溶栓を取り付けるネジ部
4 給排油孔と本体取り付け用ネジ部
5 75MPa40リットルのマンガン鋼 胴部の肉厚56mmである。
9 繊維強化(軽量化)アキュムレータ
10 ドレン油タンク
11 原動機駆動の可変容量油圧ポンプ
12 逆流防止弁
13 直動型リリーフ弁
14 圧力補償機構
15 センタ保持機能付き手動スライド方向制御弁
16 オペレータ用操作ノブ
17 油圧シリンダ
18 油圧ロッド
19 掘削用バケット
20 掘削アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形もしくは類似形状の断面を有する胴部の両端に、口金ネジを設けたドーム又は口金ネジだけ設けた金属ライナーを、合成樹脂が含浸した繊維束を用いて胴部とドームの口金周囲までヘリカル巻き繊維層によって強化し、少なくとも胴部をフープ巻き繊維層によって強化したアキュムレータを油圧開回路に採用し、原動機油圧ポンプから一方向弁を設けて逆流を防ぐ事を特徴とする、繊維強化アキュムレータ付き建設土木機械
【請求項2】
円筒形もしくは類似形状の断面を有する胴部の両端に、口金ネジを設けたドーム又は口金ネジだけ設けた金属ライナーを析出硬化性ステンレスのロストワックス法で製作し、更に合成樹脂を含浸した繊維束を用いて胴部とドームの口金周囲までヘリカル巻き繊維層によって強化し、少なくとも胴部をフープ巻き繊維層によって強化したアキュムレータを油圧開回路に採用し、原動機油圧ポンプから一方向弁を設けて逆流を防ぐ事を特徴とした、繊維強化アキュムレータ付き建設土木機械
【請求項3】
円筒形もしくは類似形状の断面を有する胴部の両端に、口金ネジを設けたドーム又は口金ネジだけ設けた金属ライナーを、胴部と両側ドーム口金ネジを時効硬化性ステンレスのロストワックス法で一体製造した事を特徴とするアキュムレータを油圧開回路に採用し、原動機油圧ポンプから一方向弁を設けて逆流を防ぐ事とした、アキュムレータ付き建設土木機械

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−239853(P2007−239853A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62433(P2006−62433)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(399042063)共立工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】