説明

繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法

【課題】FRPの成形において、成形中の液状体の含浸状況を経時的に正確にモニタリングし、未含浸部が残存せず厚さが均一な良好な成形体を得ること。
【解決手段】成形型内に配置した板状の強化繊維基材への液状体の含浸過程において、前記強化繊維基材の第1の面の側から周波数400〜600kHzの音波を送信し該強化繊維基材の第2の面の側で、前記音波を受信し、受信する音波強度の変化により該液状体の含浸状況を検出し、かつ、受信する音波の送信から受信までに要した時間から該液状体が含浸した前記強化繊維基材の厚さを測定することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチックの成形状況、特に液状体の含浸状況のモニタリング方法に関し、さらに詳しくはFRPの成形に用いる強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸状況のモニタリングに有効な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維を強化繊維として用いた炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(以下、GFRP)に代表される繊維強化プラスチック(以下、FRP)は軽量でかつ高い耐久性を有するため、自動車や航空機などの各種構成部材としての適用されている。
【0003】
これらFRPの代表的な製造方法としては、プリプレグを用いたオートクレーブ成形法が知られている。かかる成形法では、強化繊維にマトリックス樹脂を予め含浸させたプリプレグと呼ばれる中間基材を成形型上に積み重ねた後、フィルム材料で真空シールしてオートクレーブ中で加熱・加圧して複合材料を成形する。しかしながら、プリプレグに含浸されているマトリックス樹脂は硬化剤を含有した熱硬化性樹脂であるため硬化反応が徐々に進行してしまうことから、可使時間が短かく冷凍保管設備が必要であることから使用するにあたっての制約が大きかった。
【0004】
そこで、近年では従来のプリプレグを用いたオートクレーブ成形より容易に成形できる方法として、RTM成形方法が注目されている。Resin Transfer Molding(以下、RTM)成形方法は強化繊維基材(あらかじめ腑形した強化繊維シートの積層体)を型に配置し、マトリックス樹脂を注入した後硬化させる方法である。このRTM成形方法では、マトリックス樹脂の注入直前に樹脂と硬化剤を混合させれば良く、マトリックス樹脂を樹脂と硬化剤に分けて常温で保管しておけるため、大がかりな冷凍保管設備は不要である。また、成形時にオートクレーブ等の大型設備も必要としないといった利点もある。
【0005】
しかし、マトリックス樹脂の注入において成形型が金属などで不透明な場合は、目視等で樹脂の含浸状況を把握できない。また、真空RTMで用いるようなフィルムバッグ材料等の透明な成形型を用いる場合でも、強化繊維基材が炭素繊維からなるような場合は、目視等で樹脂の含浸状況を把握できない。その結果、強化繊維基材の一部に樹脂が含浸し難い部位があって未含浸が発生したとしても、樹脂の硬化と脱型が終わるまではこれを確認することができず、一部の未含浸のために製品全部が無駄になるといったことを未然に防げない問題がある。また、上記のような場合、目視等で樹脂が含浸した成形体の厚さを把握できず、その結果、設計値と異なる厚さになったとしても、樹脂の硬化および脱型が終わるまではこれも確認することができないため、一部の厚さ不良により製品全部が無駄になるといったことを未然に防げない問題もある。特に、航空機の翼の成形のように大量に材料を用いて、時間をかけて含浸を行うような成形では、未含浸や厚さ不良による製造ロスは大きなものになる。
【0006】
成形時に強化繊維基材への液状体の含浸状況をモニタリングする方法として、光ファイバーを強化繊維基材とともに成形型内に配置し、液状体が光ファイバー先端に到達すると、樹脂面で入射光が反射して、受光端へ戻ってくるように構成することによって、液状体の到達をモニタリングする方法が知られている(特許文献1)。この方法は、通常の埋め込み式の樹脂含浸センサーと異なり、強化繊維に沿って光ファイバーを配置するなどして液状体の流動に与える影響を最小に留める工夫がなされている。液状体が硬化した後は光ファイバーが強化繊維基材に残留するため、成形中の含浸挙動をモニタリングできるとはいえ、成形条件決定のために、実寸の成形体を1体犠牲にする必要がある。
【0007】
また、液状体の含浸状況を成形時にモニタリングする別の方法としては、強化繊維基材とセンサーの間に隔壁を設けて、隔壁と強化繊維基材の接触面で反射した音波を測定することで、該接触面での液状体の挙動をモニタリングする方法が知られている(特許文献2)。この方法は、強化繊維基材表面での樹脂の挙動をモニタリングするものである。本方法を適用することにより、成形体を犠牲にすることなく成形中の含浸挙動をモニタリングできる。
【0008】
しかし、センサー残留により製品を侵食することなく、強化繊維の厚さ方向の液状体の含浸を保障できる程モニタリング範囲が広く、成形中の動的な含浸状況をモニタリングできるばかりか、厚さをモニタリングできるような低コストな技術は存在しなかった。
【特許文献1】特開2001−27678号公報
【特許文献2】特開2006−103190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の方法により成形中の含浸挙動をモニタリングして成形を行った場合、成形中には樹脂が行き渡ったことを一見確認しているにもかかわらず、成形後に成形体の断面を観察すると未含浸部が残存している場合がある。
【0010】
本発明の目的は、かかる問題点を解決すること、すなわち、FRPの成形において、成形中の液状体の含浸状況を低コストでモニタリングし、未含浸部が残存しない良好な成形体を得ることである。
【0011】
また、従来の方法により成形中の含浸挙動をモニタリングして成形を行った場合、強化繊維基材の厚さは設計値通りであることを確認しているにもかかわらず、成形後の成形体の厚さを測定すると樹脂硬化のために使用するオーブン内の温度分布の影響を受けて設計値通りの厚さにならない場合がある。本発明の他の目的は、かかる問題点も解決し、FRPの成形において、成形中の液状体の含浸状況と成形体の厚さの両方を低コストでモニタリングし、未含浸部が残存せず、かつ、厚さが設計値通りとなる良好な成形体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来のモニタリング方法を適用して成形した成形体に未含浸部が残存する原因を検討したところ、これらは、何れも強化繊維と成形型間、または強化繊維間への樹脂含浸をモニターしているためではないかとの考えの下に、繊維束内の未含浸部を確認できる手法を検討した。
【0013】
通常、液状体と強化繊維のような固体との混在物は音響インピーダンスの不均一により音波が散乱され、その伝搬が困難で、液状体が含浸中の強化繊維基材に対して音波を伝搬させる方式の液状体の含浸状況のモニタリングが試みられることは無かった。音波の伝搬能力を上げるためには、一般に音波を送信・受信する音波センサーの中心周波数を下げ、これに合わせた低い周波数で駆動すると良いことが知られている。しかし、中心周波数を下げすぎると測定対象の厚さや平面度といった重要な情報が得られるパルス波形による検査も、発振できるパルス波の時間幅が長くなるためパルス波形の体をなさなくなり実施することができなくなる。
【0014】
本発明者らは、パルス波形を用いることができ、かつ、50ply以上、例えば52plyの強化繊維基材を透過できる中心周波数を、鋭意検討し、特定の音波を用いると、液状体の含浸した強化繊維基材に音波を効率的に伝搬させることができることを見出して本発明に至った。
【0015】
本発明は、前記した目的を達成するために、次のいずれかの構成を有する。
(1)成形型内に配置した板状部を有する強化繊維基材への液状体の含浸過程において、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、強化繊維基材の第2の面の側で前記音波を受信し、受信する音波強度の変化により液状体の含浸状況を検出することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(2)さらに、受信する音波の伝搬時間から液状体が含浸した強化繊維基材の厚さを併せて測定する、前記(1)に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(3)成形型内に配置した板状部を有する強化繊維基材への液状体の含浸過程において、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、強化繊維基材の第2の面でまたは第2の面の側で反射した前記音波を前記第1の面の側で受信し、受信する音波強度の変化により含浸状況を検出することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(4)前記音波強度が、前記液状体が含浸していない時に得られる値から、該液状体の含浸が進行するに従い増加し、最終的に一定値となることを利用して、液状体の含浸状況を検出する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(5)前記音波強度を前記液状体の含浸方向における複数の位置で測定し、上流位置の前記音波強度の変化から、該音波強度の最高値を得ることで、下流の位置における最終的な一定値への到達を判定する、前記(4)に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(6)成形型内に配置した板状部を有する強化繊維基材への液状体の含浸過程において、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し液状体の含浸界面で反射した前記音波を、前記第1の面の側で受信し、受信する音波強度の変化により含浸状況を検出することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(7)前記音波強度が、液状体の含浸が進行している最中は最高値から徐々に小さくなり、液状体の含浸が進行して、強化繊維の間隙に液状体が満ちたとき最低値になることを利用して、液状体の含浸状況を検出する、前記(6)に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(8)送信した音波を受信するまでに要する時間が、最終的に液状体の含浸が進行して、強化繊維の間隙に液状体が満ちたとき最長値になることを利用して、液状体の含浸界面の位置を特定する、前記(7)に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(9)前記パルスは、その時間幅が0.83〜1.25μ秒である、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
(10)音波送信手段と、音波送信手段と対となるまたは同一体である音波受信手段を有し、音波受信手段が、音波強度を連続して測定可能なものであり、これにより得た音波強度のプロファイルを表示する表示手段を備えることを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング装置。
(11)前記音波送信手段の中心周波数および前記音波受信手段の中心周波数がともに400kHz〜600kHzである、前記(10)に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング装置。
(12)強化繊維基材に液状体の樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法であって、請求項1〜9のいずれかに記載の成形状況モニタリング方法により樹脂の含浸状況を検出し、含浸工程を制御することを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液状体の含浸状況を簡単かつ確実にモニタリングできる。そして、本発明のモニタリング方法を用いてFRP構造体を生産する場合には、強化繊維基材に含浸する液状体が所定の位置まで完全に含浸したことを簡単かつ確実にモニタリングすることが可能となるため、FRP構造体の生産における樹脂含浸工程の生産歩留まりの向上や品質向上が容易になり、また商品認可基準をより確実に満足することが可能となる。更には、工程の自動化が可能になり人手を減らすことができる。
【0017】
特に、前記した(2)の発明によれば、前記した効果に加えて、液状体の含浸状況の検出および厚さの測定を必要であれば同一の装置を用いて低コストに実施できる。よって、従来正確に知り得なかった製造条件と樹脂含浸状況および強化繊維基材の厚さ変化とを関連付けることができ、最適な製造条件を選択することで、未含浸部分が残存せず、かつ、厚さが設計値通りとなる良好なFRP成形体を得ることができるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は成形型内に配置した板状の強化繊維基材への液状体の含浸過程における、板状の強化繊維基材への液状体の含浸状況、好ましくは含浸状況と厚さを経時的にモニタリングする方法に関する。
【0019】
本発明における成形型とは、閉空間(成形キャビティ)を形成する成形型であれば、通常のRTM成形に用いられる複数の型を組み合わせて閉空間(成形キャビティ)を形成するものでも良いし、下型上に強化繊維基材を配置しシール材とフィルムで閉空間(成形キャビティ)を形成するフィルム材料による成形型でもよい。本発明は、かかる閉空間内に配置した強化繊維基材に液状体を含浸させる工程に適用するものである。
【0020】
本発明において強化繊維基材とは、強化繊維の織物、編み物、組み物、強化繊維の短繊維を抄紙等したもの等の強化繊維布帛を積層したものや強化繊維を3軸織物とした強化繊維がある厚みを持った集合体をいう。強化繊維基材中には、強化繊維布帛間、強化繊維間、およびこれらと成形型との間に、50μmオーダーの間隙を有する。また、強化繊維基材に含まれる強化繊維は、通常数千〜数万本の単繊維の集合した繊維束であり、強化繊維内には前記単繊維間に5μmオーダーの単繊維間隙を有する。
【0021】
なお、本発明が対象とする強化繊維基材の形状は、板状部を有する。強化繊維基材の全てが板状であっても良いが、液状体を含浸し、含浸状況をモニタリングする部位が板状であれば良い。強化繊維材の積層体または単体のものを想定しており、音波送信・受信手段の大きさより大きい範囲で平均した底面および表面が平行に向き合っているものを、主に想定しているが、音波の伝搬方向が予測できるものであれば、曲面、多角面または凹凸を持った面であってもよい。本明細書中では、音波の入射側の表面を第1の面、第1の面の反対側の表面を第2の面と記すものとする。
【0022】
本発明で用いる液状体とは、全体として流動性を有していれば良く、熱可塑性の樹脂、水等の単なる液体、固形分を含有した液体(例えば微粒子状の物質等が分散したもの)が含まれているものであってもよい。FRP成形においては主として熱硬化性の樹脂を想定しているが、室温で液状のものばかりでなく、熱可塑性樹脂のように成形温度において流動するものも含む。
【0023】
本発明者らは、従来の技術は強化繊維基材中の前記50μmオーダーの間隙への液状体の充填をもって、含浸完了と判定していたことに着目し、かかる前記50μmオーダーの間隙への液状体の充填時には、前記単繊維間に液状体の未含浸部が残存すること、前記単繊維間に液状体の未含浸部は、前記50μmオーダーの間隙への液状体の充填後、徐々に含浸が進んでくことを明らかにし、かかる過程を音波を送信し、その透過強度の減少率または、反射によって検出することが可能であることを見だし、かかる方法に想到したものである。通常、液状体と強化繊維のような固体との混在物は音響インピーダンスの不均一により音波が散乱され、その伝搬が困難で、液状体が含浸中の強化繊維基材に対して音波を伝搬させる方式の液状体の含浸状況のモニタリングが試みられることは無かった。音波の伝搬能力を上げるためには、一般に音波を送信・受信する音波センサーの中心周波数を下げ、これに合わせた低い周波数で駆動すると良いことが知られている。しかし、中心周波数を下げすぎるとボイドの検出性能が下がり、また測定対象の厚さや平面度といった重要な情報が得られるパルス波形による検査も、パルス幅が長くなり、パルス波形の体をなさなくなるため実施することができなくなる。
【0024】
本発明者らは、パルス波形を用いることができ、かつ、50ply以上、例えば52plyの厚さの厚い強化繊維基材を伝搬できる周波数の音波を送信できる音波センサーについて、さらに鋭意検討し、時間幅0.83〜1.25μ秒のパルス波を発振できる400〜600kHzの中心周波数の音波センサーを製作して、液状体の含浸した強化繊維基材に音波を伝搬させることができ測定従来法に比較して未含浸部の残存をはるかに高精度に検出できる方法を提供できることを見出した。中心周波数が400kHzより低いとパルス波の時間幅が長くなるということがあり、中心周波数が600kHzより高いとパルス状の音波の伝搬能力が足りず検出が困難となることがある。以上の理由から、周波数は450〜550kHzであればより好ましく、480〜520kHzであればさらに好ましい。
【0025】
なお、本発明における液状体の含浸は、上記説明では、成形型内に、繊維強化基材を配置し、外部から液状体(液状樹脂)を注入するプロセスをベースとしたが、成形型内に部分含浸プリプレグやRFIのように、あらかじめ液状体である樹脂が部分的に含浸したシート状の強化繊維基材や室温で固形の樹脂フィルムを準備して、積層・昇温するときに、樹脂が軟化または溶融し強化繊維間または強化繊維層間に染み込んで行くようなものも含むものとする。
【0026】
本発明における第1の態様のモニタリング方法では、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、音波を強化繊維基材へ伝搬させて、強化繊維基材の第2の面の側で前記音波を受信して、受信する音波強度の変化により液状体の含浸状況をモニタリングする。液状体が含浸する前には、強化繊維間隙には気体が充填されたまたは真空の状態になっている。通常、音波は、このような強化繊維基材を、伝搬できないが、液状体が含浸した後には伝搬できることから、液状体の含浸状況を測定することができる。すなわち、音波を経時的に取得することで、その点における強化繊維基材への液状体の含浸状況の推移を受信する音波強度の変化から検出することができる。なお、強化繊維基材に含浸した液状体を伝搬する音波強度は、同じ伝搬経路に液状体だけがある場合の音波強度に比べて小さくなることがあるが、これは、主に強化繊維基材によって音波が散乱され減衰するためである。このような場合、音波を送信しても、液状体の含浸した強化繊維基材を伝搬して減衰し、観測するのに十分な音波を受信できない場合がある。本発明で提案する音波センサーの中心周波数は、送信する音波の出力を上げるおよび/または受信した音波を増幅し、観測するのに十分な強度にすることができることから好ましい。
【0027】
また、強化繊維基材への液 状体の含浸状況のみならず、厚さを求める際の基礎となる音波伝搬時間を精度良く測定でき、受信する音波の伝搬時間から液状体が含浸した強化繊維基材の厚さを併せて測定することができる。
【0028】
このとき、音波センサーが受信する音波の波高値は、液状体がまったくの未含浸のとき最小値をとり、含浸の進展にしたがって上昇する。液状体の含浸が完全に進むと、最高値をとり以後安定する。このように受信する音波強度と含浸状況が対応することを利用することもできる。
【0029】
また、音波センサーが受信する音波の伝搬時間は、強化繊維基材の厚さが厚くなると長くなり、薄くなると短くなる。強化繊維基材の厚さは、強化繊維基材の伝搬時間と強化繊維基材中での音波の伝搬速度を乗じることで求めることができる。強化繊維基材の伝搬時間は、全体の伝搬時間から、強化繊維基材以外の伝搬時間を差し引くことにより求めることができる。
【0030】
また、液状体の含浸方向に沿って音波センサーを配置することで、後に含浸する位置(下流)の音波センサーが受信する音波の波高値の最高値を、前に含浸する位置(上流)の音波センサーの取った波高値から予測し、下流の位置における最終的な一定値への到達を判定することもできる。
【0031】
本発明における第2の態様のモニタリング方法では、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、音波を強化繊維基材へ伝搬させ、強化繊維基材の第2の面でまたは第2の面の側で反射した音波をさらに強化繊維基材へ伝搬させて、第1の面の側で受信し、受信する音波強度の変化により液状体の含浸状況をモニタリングする。
【0032】
また、前述の第1の態様のモニタリング方法と同様に、音波を送信しても、送信する音波の出力を上げるおよび/または受信した音波を増幅する等しなければ、十分な強度の音波を受信できないことがある。通常、第2の実施形態方法では、音波が一度伝搬した、液状体を含浸させた強化繊維基材を、反射した音波が更に伝搬するため、受信する音波の強度は、第1の実施形態に記載のものより小さくなる。この場合も、用いる音波の中心周波数を前記した範囲とすれば、送信する音波の出力を上げるおよび/または受信した音波を増幅し、観測するのに十分な強度にして対応可能である。
【0033】
本実施形態では、上記構成とすることで、強化繊維基材の音波を送信した面の側で受信できるので、送受信を一つの音波センサーで行い、音波センサーの個数を減らした上で、受信する音波強度の変化から液状体の含浸状況を検出することができる。このようにすることで、音波センサーの配置にかかる工数およびセンサー自体のコストを削減することができる。
【0034】
このとき、音波センサーが受信する音波の波高値は、液状体がまったくの未含浸のとき最小値をとり、含浸の進展にしたがって上昇する。液状体の含浸が完全に進むと、最高値をとり以後安定する。このように受信する音波強度と含浸状況が対応することを利用することもできる。
【0035】
また、液状体の含浸方向に沿って音波センサーを配置することで、後に含浸する位置(下流)の音波センサーが受信する音波の波高値の最高値を、前に含浸する位置(上流)の音波センサーの取った波高値から予測し、下流の位置における最終的な一定値への到達を判定することもできる。
【0036】
本発明における第3の態様のモニタリング方法では、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、強化繊維基材へ伝搬させ、液状体の含浸界面で反射させて、反射した前記音波を、第1の面の側で受信し、受信する音波強度の変化により液状体の含浸状況をモニタリングする。
【0037】
なお、前述の第2の態様のモニタリング方法と同様に、音波を送信しても、十分な強度の音波を受信できないことがある。また、含浸界面が平面であるならば液状体の含浸部分と液状体の未含浸部分の音響インピーダンスの差によって反射が起こるが、しばしばこの界面は平面にはならず、十分な強度の音波を受信できないことがある。通常、強化繊維基材のうねりによる液状体の含浸速度の変動によって乱れた含浸界面になり、明確な反射が起こらないため、受信する音波の強度は、前述の第1の態様及び第2の態様に記載のものより小さくなる。この場合も、用いる音波の中心周波数を前記した範囲とすれば、送信する音波の出力をあげるおよび/または受信した音波を増幅し、観測するのに十分な強度にすることが可能である。
【0038】
本実施形態でも、上記構成とすることで、強化繊維基材の音波を送信した面の側で受信できるので、送受信を一つの音波センサーで行い、音波センサーの個数を減らすことができる。このようにすることでやはり、音波センサーの配置にかかる工数およびセンサー自体のコストを削減することができる。
【0039】
このとき、音波センサーが受信する音波の波高値は、液状体がまったくの未含浸のとき最大値をとり、含浸の進展にしたがって下降する。液状体の含浸が完全に進むと、最高値をとり以後安定する。このように受信する音波強度と含浸状況が対応することも利用することができる。
【0040】
更に、送信から受信までのTOF(音波伝搬時間)を観測することで、液状体の含浸界面がどの位置にあるか特定することも可能である。
【0041】
本発明のモニタリング方法は、次に説明するモニタリング装置を用いれば簡便に実現することができる。本モニタリング装置においては、音波送信手段と、同受信手段が必須である。音波送信手段と音波受信手段はともに中心周波数が通常400kHz〜600kHzである。透過法(第1の態様)においては、音波送信手段と、その音波送信手段と対になる音波受信手段を、反射法(第2、第3の態様)においては、音波送信手段と音波受信手段をひとつの音波センサーで行うことができるので、音波送信手段と同一体である音波受信手段を用いる。かかる音波送信手段および音波受信手段は、同一の中心周波数を持ち、耐熱性、使用可能帯域、耐電圧性能等が同一のものが望ましい。更には、450〜550kHzの中心周波数を持ち、雰囲気温度200℃に耐えるものが、本発明に好適である。上記の音波送信手段と音波受信手段を用いて得た音波の音波強度を、時間的に連続して取得する手段を有する。かかる取得手段としては、3チャンネル以上の音波強度を同時に取得できるオシロスコープと、音波強度が微弱な場合に用いる増幅器を組み合わせたものが望ましい。更には、これらが一体となったものが、本発明には好適である。
【0042】
次に、上記により得た、音波強度の時経時的な変遷(プロファイル)を表示する表示手段を準備する。かかる表示手段としては、該取得手段から送られた波形を解析し、その結果を視認性のよいディスプレーに表示できる汎用パーソナルコンピューターが望ましい。
【0043】
上記のような構成とすることで、音波強度のプロファイルを得て、受信する音波強度の変化から液状体の含浸状況を検出することができる装置を得ることができる。このような装置を用いれば、受信する音波の伝搬時間から液状体が含浸した強化繊維基材の厚さも測定することができる。
【0044】
続いて本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、接触方式の音波センサーを用いた本発明にかかる液状体の含浸状況のモニタリング方法の一実施形態を模式的に表す側面図である。ハッチング部分11は液状体の含浸が進行している部分を表す。音波センサー2が、強化繊維基材12とツール13を垂直方向に挟むように設置されている。垂直方向に対向する2個の音波センサーの、一方から音波を送信し、他方で受信している状況を示している。
【0045】
本発明においては、このように音波を測定することで、液状体が含浸していない部分では強化繊維の間隙に空気または真空部分を多く含むため音波が透過せず、液状体が垂直方向に完全に含浸しきった部分では音波が透過することを、音波の音波強度の変化より読み取り、液状体の含浸状況を検出することができる。
【0046】
図1では音波センサーを3対示しているが、この個数は必要に応じて4対以上でも、2対以下でもよい。
【0047】
さらに、図1では、上下に音波センサー2を設置しているが、音波が強化繊維基材12若しくはツール13の内部若しくは表面で屈折し、一方から発信した音波を十分な強度で測定できない場合には、他方の音波センサーを計算によりおよび/または試行錯誤により位置をずらすことによって、十分な強度を確保できる位置に設置してもよい。
【0048】
また、さらには、一方の音波センサーから発信された音波が液状体の含浸部分11の一部分を伝搬した後、どこかで反射される場合、その反射先に他方の音波センサーを設置して受信しても、反射された結果元の位置に戻って来て、発信した音波センサー自体で受信してもよい。
【0049】
図2は図1の平面図である。図2では、複数の音波センサー2が直線の位置に設置されているが、強化繊維基材とツールを挟んで対向する音波センサーに音波を発信する、または音波センサーからの音波を受信することができれば、必要に応じて任意の場所に、任意の個数設置してもよい。ハッチング部分11は液状体の含浸が進行している部分を表す。
【0050】
図3、4は、音波センサー2を設置する手順を示している。
【0051】
まず図3に示すように、音波センサー固定手段22をモニタリング対象3に接触させる面に接着剤31を塗布した後、モニタリング対象3に接着させる。次に図4に示すように、接着固定した音波センサー固定手段22を貫通する穴部へ、音波センサー本体21のモニタリング対象3に接触させる面に接触媒質32(ハッチング部分)を塗布した後挿入して、モニタリング対象3に密着させている状況を示している。
【0052】
本発明においては、このような手順で音波センサー2を設置することによって、音波センサー2を破壊することなく測定を繰り返し何度でもでき、かつ測定中に音波センサーが動いてずれることを防ぎ、安定して液状体の含浸状況を検出することができる。このことは、モニタリング対象の厚さが変わるFRPの樹脂含浸工程では特に有効である。厚さが変わるFRPの樹脂含浸工程の一例として、真空RTM成形の樹脂含浸工程を挙げることができる。真空RTM成形では、下型上に強化繊維基材を配置しシール材とフィルム材で閉空間(成形キャビティ)を形成し、成形キャビティを真空に引いて液状体を強化繊維基材に含浸させる。液状体は大気圧であって、強化繊維基材に含浸することにより、真空により強化繊維基材に張り付いていたフィルム材が押し上げられ、モニタリング対象である、液状体が含浸した強化繊維基材の厚さが厚くなる。また、液状体が強化繊維基材に含浸しきった後に、液状体の注入を止めて真空に引き続けるブリードと呼ばれる作業を行う。ブリード時には、余剰液状体が強化繊維基材から排出され、厚さが薄くなる。
【0053】
なお音波センサー固定手段をモニタリング対象に接着しているが、例えばモニタリング対象自体が磁性を持つ場合は音波センサー固定手段を磁性材料で製作して磁力によって接着してもよく、接着剤による接着に限定されるものではない。
【0054】
図5、6は、音波センサー2を鉛直下方向から設置する手順を示している。
【0055】
まず図5に示すように、図3,4と同様の方法で音波センサー本体21を設置した後、音波センサー固定手段22の側面部から中心へ貫通させた穴へ、固定手段33を挿入している。次に図6に示すように、固定手段33によって、音波センサー本体21を締結している。ここで固定手段33として、ボルトやねじを用いることができる。
【0056】
本発明においては、このような手順で音波センサー本体21を締結することによって、鉛直下向きに音波センサーが落下することを防ぎ、安定して液状体の含浸状況を検出し、かつ、必要に応じて厚さを測定することができる。
【0057】
図7は、本発明にかかわる空中伝搬方式の音波センサーを用いた液状体の含浸状況のモニタリング方法の一実施形態を模式的に表す側面図である。ハッチング部分11は液状体の含浸が進行している部分を表す。空中伝搬方式の音波センサー4が、強化繊維基材12とツール13を垂直方向に挟むように設置されている。垂直方向に対向する2個の音波センサーの、一方から音波を送信し、他方で受信している状況を示している。
【0058】
本発明においては、このように音波を測定することで、図1の状況と同様に、液状体が含浸していない部分では強化繊維の間隙に空気または真空部分を多く含むため音波が透過せず、液状体が垂直方向に完全に含浸しきった部分では音波が透過することを、音波の音波強度の変化より読み取り、液状体の含浸状況を検出することができる。
【0059】
また、図7では、強化繊維基材12やツール13と間隔を開けて、音波センサー4を配置しているので、対抗する音波センサーと同期してさえいれば、モニタリング中に音波センサー4を動かすことができる。
【0060】
さらに、図7では、上下に音波センサー4を設置しているが、音波が強化繊維基材12若しくはツール13の内部若しくは表面で屈折し、一方から発信した音波を十分な強度で測定できない場合には、図1の状況と同様に、他方の長音センサーを計算によりおよび/または試行錯誤により位置をずらすことによって、十分な強度を確保できる位置に設置してもよい。
【0061】
また、さらには、一方の音波センサーから発信された音波が液状体の含浸部分11の一部分を伝搬した後、どこかで反射される場合、図1の状況と同様に、その反射先に他方の音波センサーを設置して受信しても、反射された結果元の位置に戻って来て、発信した音波センサー自体で受信してもよい。
【0062】
図8は図7の平面図である。図8では、音波センサー4が水平にどの方向にでも動くことができる状況を表している。強化繊維基材とツールを挟んで対向する音波センサーに音波を発信する、または音波センサーからの音波を受信することができれば、必要に応じて任意の場所に、任意の個数設置してもよい。
【0063】
本発明においては、このように空中伝搬方式で音波を測定することにより、寸法の大きな強化繊維基材への液状体の含浸状況のモニタリングであっても、少ない個数の音波センサーで、広範囲の液状体の含浸状況を検出し、かつ、必要に応じて厚さを測定することができる。
【実施例】
【0064】
[参考例]樹脂組成物の調整
“アラルダイト”(登録商標)MY−721(N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)40重量部に、“JER”(登録商標)630(N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、ジャパンエポキシレジン社製)を25重量部、“Epon”(登録商標)825(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジャパンエポキシレジン社製)を35重量部加え、70℃で1時間攪拌してエポキシ主剤とした。また、“JERキュア”(登録商標)W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン社製)26.6重量部に3,3’−DAS(3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン社製)を11.4重量部加え、100℃で1時間攪拌した後、70℃まで降温した。次いで硬化促進剤としてTBC(t−ブチルカテコール、宇部興産社製)1重量部を加えた後、更に70℃で30分間攪拌しTBCを均一溶解させた混合物を硬化剤とした。
【0065】
すなわち、エポキシ主剤100重量部に硬化剤39重量を混合してエポキシ樹脂組成物とした。
[実施例1]
図1に示すように、FRP構造体製造時の樹脂含浸工程において、300mm×600mmの寸法の厚さ10mmのステンレス製のツール13を、図1における方向の左右両端100mm程度を支持して設置した。この上に離型処理を施し、100mm×400mmの強化繊維に炭素繊維を用いた強化繊維基材12を配置した。この強化繊維基材12は疑似等方積層の構成で、52枚の炭素繊維織物(東レ(株)製CZ8431DP、T800の一方向織物)を積層したものである。これらの上から、密閉するようにバギングフィルムを被せた。なお、図面では省略しているが、離型布および樹脂拡散媒体を強化繊維基材と、ツールやバギングフィルムとの間に挟み、バギングした強化繊維基材を減圧し、70度に加熱した。このように配置することで、図1における強化繊維基材の左上から流入した樹脂(液状体)が最初に最上層に流れ込んで樹脂溜まりを形成することで上側から下側へ含浸するようにし、その後、左側から右側へ流動するようにし、その結果、樹脂が左上側から右下側へ含浸できるように調整した。樹脂としては、上記参考例のエポキシ樹脂組成物を用いた。
【0066】
次に、バギングフィルムの上とツール13の下から、図1、2に示すように音波センサー2(ジャパンプローブ(株)製、B0.5C20N)を6個設置した。各音波センサーはバギングフィルムを被せた強化繊維基材の上からおよびツールの下から、100mm×400mmの領域に、図2における方向の上下の中心軸上に、隣り合う音波センサーの間隔が100mmになるように、中心の音波センサーが100mm×400mmの領域の中心に来るように、長手方向に並べた。
【0067】
その後、強化繊維基材12側に設置した3つの音波センサー2に高周波電源((株)エヌエフ回路ブロック製、HSA 4101)を介してファンクションジェネレーター(ヒューレットパッカード(株)製、8116A)を接続して、波高が130Vであるパルス状の電圧を入力した。次に、ツール13側に設置した3つの音波センサー2にオシロスコープ(テクトロニクス(株)製、TDS744A)を接続して、樹脂含浸部分を伝搬した音波を検出したツール13側に設置した3つの音波センサー2から得られる電圧波形をモニタリングした。この結果を、樹脂注入開始時刻を0秒として、図9に示す。
【0068】
図1、2の構成では3点の位置の液状体の含浸状況をモニタリングでき、左から1〜3チャンネルとした。図9に示すように、樹脂は左から右へ流動し、時間の経過に伴って順次各測定点での樹脂含浸状況に応じて音波強度が上昇し、それぞれの測定点で含浸が完了すると音波強度の上昇が止まる。ここでいう音波強度とは、受信側の音波センサーで最大の電圧波高値が観測される時を1.0(樹脂完全含浸)、最低波高値が観測される時を0.0(樹脂未含浸)としている。
【0069】
ここでは、1160秒の時点で、3chの測定点まで強化繊維基材に樹脂が完全含浸していることが読み取られるので、樹脂注入を止め、130℃に昇温し硬化したのち、切断してCFRPの断面を検査すると3chまで完全に樹脂が含浸していることを確認できた。このように、液状体の含浸状況をモニタリングすることができた。
【0070】
また、2チャンネルの音波の伝搬時間を示したものが図11で、図11に示すように、樹脂注入開始からの経過時間が800〜1300秒では増加、1300秒以降では減少している。具体的には、初期値9.76μ秒、最長値10.01μ秒、最短値9.20μ秒となっており、ツール10mmの音波伝搬時間が2.00μ秒とわかっていて、ツールを除いた伝搬時間はそれぞれ7.76μ秒、8.01μ秒、7.20μ秒となる。ツールを除けば音波が伝搬するのは強化繊維基材、フィルムおよび副資材であって、通常フィルムや副資材は薄いので、ツールを除いた伝搬時間は強化繊維基材での伝搬時間と近似することができる。強化繊維基材中では1300m/秒の速度で音波が伝搬することがわかっており、この速度を伝搬時間に乗じることで、強化繊維基材の初期厚さが10.09mmで10.41mmまで厚くなり、最終的に9.36mmに薄くなったとわかる。このように、強化繊維基材の厚さをモニタリングすることができた。
[実施例2]
図7に示すように、FRP構造体製造時の樹脂含浸工程において、400mm×400mmの寸法の厚さ20mmのステンレス製のツール13を、図1における方向の左右両端100mm程度を支持して設置した。この上に離型処理を施し、200mm×200mmの強化繊維に炭素繊維を用いた強化繊維基材12を配置した。強化繊維基材12の積層構成、図面で省略した事項および樹脂の流動方向については実施例1と同様にした。
【0071】
次に、バギングフィルムの上とツール13の下から、図7、8に示すように空中伝搬方式の音波センサー4(The Ultran Group製、NCG500−D19−P50)を2個配置した。各音波センサーはバギングフィルムを被せた強化繊維基材の上から40mm離して、およびツールの下から20mm離して、200m×200mmの領域の図8における水平方向の中心に配置した。
【0072】
その後、強化繊維基材12側に配置した音波センサー4にパルサーレシーバー(The Ultran Group製、NCA1000)を接続して、中心周波数が500kHzのチャープ波状の電圧を入力した。次に、ツール13側に配置した音波センサー4も前記パルサーレシーバーに接続して、樹脂含浸部分を伝搬した音波を検出したツール13側に配置した音波センサー4から得られる電圧波形をモニタリングした。この結果を、樹脂注入開始時刻を0秒として図10に示す。
【0073】
図7、8の構成では1点の位置の液状体の含浸状況をモニタリングできる。また、空中伝搬方式の音波センサー4は、対向する音波センサーと同期していればどの位置に動かしても良い。ただし、測定対象とプローブの間の空間で急激に異なる温度分布があると、その分布により空気密度と音速が変化し、音響インピーダンスの差により反射または屈折が起こり対向する音波センサー4に音波が到達できなくなるので、この点に注意してモニタリングシステム周囲の雰囲気温度を一定に保つことが必要であった。
【0074】
図10に示すように、樹脂は左から右へ流動し、時間の経過に伴って測定点での樹脂含浸状況に応じて音波強度が上昇し、それぞれの測定点で含浸が完了すると音波強度の上昇が止まる。樹脂としては、前記参考例のエポキシ樹脂組成物を用いた。ここでいう音波強度とは、受信側の音波センサーで最大の電圧波高値が観測されるときを1.0(樹脂完全含浸)、最低の電圧波高値が観測される時を0.0(樹脂未含浸)としている。1000秒の時点で、強化繊維基材に樹脂が完全含浸していることが読み取られる。このように、液状体の含浸状況をモニタリングすることができた。
[実施例3]
図1に示すように、実施例1と同様の構成で、樹脂含浸部分11を伝搬した音波を検出したツール13側に設置した3つの音波センサー2から得られる電圧波形をモニタリングできるようにした。樹脂および樹脂の流動方向も実施例1と同様の構成とした。
【0075】
図1において最左側に位置する音波センサー2で測定した透過率が最高値で安定した直後に樹脂注入を止め、130℃に昇温し硬化させた。このとき、中央に位置する音波センサー2の透過率は0.8、最右側に位置する音波センサー2で測定した透過率は0.1であった。切断してCFRPの断面を検査すると厚さ方向に、最左側の音波センサーの位置では完全に樹脂が含浸しており、中央の音波センサーの位置では強化繊維束内の短繊維間隙や強化繊維基材間等の間隙に未含浸部分が点在しており、中央の音波センサーの位置から最左側の音波センサーの位置にいくに従い、まず、強化繊維基材間等の間隙の未含浸部分が減少しその後、強化繊維束内の短繊維間隙の未含浸部分もなくなっていくことが観察された。なお、最右側の音波センサーの位置では樹脂は到達してはいるもののほぼ未含浸部分が広がっていた。このように、液状体の含浸状況をモニタリングすることができ、透過率が1.0であった位置では樹脂が厚さ方向に完全に含浸していることを利用して、その位置まで確実に樹脂が含浸しているFRP構造体を製造することもできた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
上述した本発明の液状体の含浸状況のモニタリング方法は、強化繊維に液状の樹脂を含浸させるFRP構造体の製造方法に、好ましく適用されるが、適用対象としてはこれに限定されず、たとえば、繊維集合体に処理液を含浸させ、何らかの物理的、化学的処理を施すような場合の含浸状況の確認においても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明にかかわる接触方式の音波センサーを用いた繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法の一実施形態を模式的に表す側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】音波センサー固定手段を設置する方法を表す図である。
【図4】音波センサー固定手段に音波センサー本体を設置する方法を表す図である。
【図5】音波センサー本体を固定手段により上向きに設置しようとしている状況を表す図である。
【図6】音波センサー本体を固定手段により上向きに設置した状況を表す図である。
【図7】本発明にかかわる空中伝搬方式の音波センサーを用いた繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法の一実施形態を模式的に表す側面図である。
【図8】図7の模式図である。
【図9】図1の構成における音波の音波強度の変遷を示すグラフである。
【図10】図7の構成における音波の音波強度の変遷を示すグラフである。
【図11】図1の構成における音波の伝搬時間の変遷を示すグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1 液状体の含浸方向
11 液状体の含浸部分
12 強化繊維基材
13 ツール
2 音波センサー
21 接触方式の音波センサー本体
22 音波センサー固定手段
3 モニタリング対象
31 接着剤
32 接触媒質
33 固定手段
4 空中伝搬方式の音波センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型内に配置した板状部を有する強化繊維基材への液状体の含浸過程において、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、強化繊維基材の第2の面の側で前記音波を受信し、受信する音波強度の変化により液状体の含浸状況を検出することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項2】
さらに、受信する音波の伝搬時間から液状体が含浸した強化繊維基材の厚さを併せて測定する、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項3】
成形型内に配置した板状部を有する強化繊維基材への液状体の含浸過程において、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し、強化繊維基材の第2の面でまたは第2の面の側で反射した前記音波を前記第1の面の側で受信し、受信する音波強度の変化により含浸状況を検出することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項4】
前記音波強度が、前記液状体が含浸していない時に得られる値から、該液状体の含浸が進行するに従い増加し、最終的に一定値となることを利用して、液状体の含浸状況を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項5】
前記音波強度を前記液状体の含浸方向における複数の位置で測定し、上流位置の前記音波強度の変化から、該音波強度の最高値を得ることで、下流の位置における最終的な一定値への到達を判定する、請求項4に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項6】
成形型内に配置した板状部を有する強化繊維基材への液状体の含浸過程において、強化繊維基材の第1の面の側からパルス状の音波を送信し液状体の含浸界面で反射した前記音波を、前記第1の面の側で受信し、受信する音波強度の変化により含浸状況を検出することを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項7】
前記音波強度が、液状体の含浸が進行している最中は最高値から徐々に小さくなり、液状体の含浸が進行して、強化繊維の間隙に液状体が満ちたとき最低値になることを利用して、液状体の含浸状況を検出する、請求項6に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項8】
送信した前記音波を受信するまでに要する時間が、最終的に液状体の含浸が進行して、強化繊維の間隙に液状体が満ちたとき最長値になることを利用して、液状体の含浸界面の位置を特定する、請求項7に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項9】
前記パルス状の音波は、その時間幅が0.83〜1.25μ秒である、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング方法。
【請求項10】
音波送信手段と、音波送信手段と対となるまたは同一体である音波受信手段を有し、音波受信手段が、音波強度を連続して測定可能なものであり、これにより得た音波強度のプロファイルを表示する表示手段を備えることを特徴とする、繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング装置。
【請求項11】
前記音波送信手段の中心周波数および前記音波受信手段の中心周波数がともに400kHz〜600kHzである、請求項10に記載の繊維強化プラスチックの成形状況モニタリング装置。
【請求項12】
強化繊維基材に液状体の樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法であって、請求項1〜9のいずれかに記載の成形状況モニタリング方法により樹脂の含浸状況を検出し、含浸工程を制御することを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−44358(P2008−44358A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185291(P2007−185291)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】