説明

繊維強化プラスチック成形体の製造装置、及び繊維強化プラスチック成形体の製造方法

【課題】生産性の向上を図ることができるとともに、製品精度の向上も図ることができる繊維強化プラスチック成形体の製造装置、及び繊維強化プラスチック成形体の製造方法を得る。
【解決手段】成形型2は、型本体11と、型本体11に設けられ、成形面1を持つ弾性被覆体12とを有している。弾性被覆体12内には、流路16が設けられている。弾性被覆体12は、流路16内の圧力の変化によって弾性変形される。成形面1は、バッグフィルム3で覆われる。成形面1とバッグフィルム3との間の空間は、減圧可能になっている。繊維強化プラスチック成形体は、成形面1とバッグフィルム3との間で製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、減圧環境下で繊維強化プラスチック成形体を製造する繊維強化プラスチック成形体の製造装置、及び繊維強化プラスチック成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量で高強度な素材として繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)が各種産業分野で注目されている。近年では、比較的大形の繊維強化プラスチック成形体を安価に製造するために、真空吸引による減圧環境下で繊維強化プラスチックの成形を行う真空含浸成形法(VaRTM:Vacuum assist Resin Transfer Molding)が採用されつつある。真空含浸成形法は、成形型に配置した繊維をバッグフィルムで覆い、バッグフィルム内を真空吸引した後、液状の樹脂をバッグフィルム内に注入し、樹脂を繊維に含浸させて硬化させることにより、繊維強化プラスチック成形体を得る方法である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来、繊維強化プラスチック成形体を成形型から外しやすくするために、成形型に貫通孔を設け、成形体を押し上げるためのボルトを貫通孔に螺合した繊維強化プラスチック成形体の製造装置が提案されている。貫通孔は、シール材でシールされている。ボルトは、回されながら成形型にねじ込まれることにより、シール材を介して成形体を押し上げるようになっている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−83826号公報
【特許文献2】特開2007−45005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に示されている繊維強化プラスチック成形体の製造装置では、ボルトを回す作業に手間がかかってしまい、繊維強化プラスチック成形体の生産性の向上を図ることができない。また、貫通孔がシール材でシールされているので、繊維強化プラスチック成形体の成形型に接する面にシール材の段差が残ってしまう。また、シール材と貫通孔との間の気密性も悪くなってしまうこともある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、生産性の向上を図ることができるとともに、製品精度の向上も図ることができる繊維強化プラスチック成形体の製造装置、及び繊維強化プラスチック成形体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る繊維強化プラスチック成形体の製造装置は、型本体と、型本体に設けられ、成形面を持つ弾性被覆体とを有し、流路が弾性被覆体内に設けられ、流路内の圧力の変化によって弾性被覆体が弾性変形される成形型、及び成形面を覆い、成形面との間の空間が減圧可能なバッグフィルムを備え、成形面とバッグフィルムとの間で繊維強化プラスチック成形体を製造する。
【0008】
この発明に係る繊維強化プラスチック成形体の製造方法は、型本体に設けられた弾性被覆体の成形面上に繊維を配置する繊維配置工程、繊維及び成形面をバッグフィルムでまとめて覆うカバー工程、成形面とバッグフィルムとの間の空間を減圧する減圧工程、減圧工程後、成形面とバッグフィルムとの間の空間に液状の樹脂を注入し、繊維に樹脂を含浸させる含浸工程、繊維に含浸された樹脂を硬化させることにより、繊維を含む樹脂の成形体である繊維強化プラスチック成形体を製造する成形工程、成形工程後、弾性被覆体内に設けられた流路内の圧力を上昇させて流路を膨張させることにより成形面を変形させる昇圧工程を備えている。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る繊維強化プラスチック成形体の製造装置では、成形面を持つ弾性被覆体内に流路が設けられ、流路内の圧力の変化によって弾性被覆体が弾性変形されるので、流路内の圧力を変化させるだけで成形面を変形させることができ、繊維強化プラスチック成形体を成形面から外しやすくすることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体を成形面から外すときの手間を軽減することができ、繊維強化プラスチック成形体の生産性の向上を図ることができる。また、弾性被覆体自体が弾性変形されるので、成形面に貫通孔の開口が形成される構造や、貫通孔の開口をシール材で塞ぐ構造をなくすことができる。これにより、成形面にシール材の段差が生じることを防止することができ、成形面とバッグフィルムとの間の密閉空間内の気密性の悪化も防止することができる。従って、繊維強化プラスチック成形体の製品精度の向上も図ることができる。
【0010】
この発明に係る繊維強化プラスチック成形体の製造方法では、弾性被覆体内に設けられた流路内の圧力を上昇させて流路の断面を膨張させることにより成形面を変形させるので、流路内の圧力を上昇させるだけで繊維強化プラスチック成形体を成形面から外しやすくすることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体を成形面から外すときの手間を軽減することができ、繊維強化プラスチック成形体の生産性の向上を図ることができる。また、弾性被覆体自体が弾性変形されるので、成形面に貫通孔の開口が形成される構造や、貫通孔の開口をシール材で塞ぐ構造をなくすことができる。これにより、成形面にシール材の段差が生じることを防止することができ、成形面とバッグフィルムとの間の密閉空間内の気密性の悪化も防止することができる。従って、繊維強化プラスチック成形体の製品精度の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1による繊維強化プラスチック成形体の製造装置を示す断面図である。
【図2】図1の型本体を下方からみたときの状態を示す斜視図である。
【図3】図1の型本体を上方からみたときの状態を示す斜視図である。
【図4】図1の型本体を示す断面図である。
【図5】図4の溝に弾性チューブが嵌められた状態を示す断面図である。
【図6】図5の型本体が弾性被膜で被覆された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による繊維強化プラスチック成形体の製造装置を示す断面図である。図において、繊維強化プラスチック成形体の製造装置は、樹脂に対する剥離性の高い成形面1が設けられた成形型2と、成形面1を覆うバッグフィルム3と、成形面1とバッグフィルム3との間に配置されるピールプライ4及びフローメディア5とを有している。
【0013】
成形面1の縁部には、成形面1及びバッグフィルム3間を密着させるシール材6が設けられている。従って、成形面1とバッグフィルム3との間には、シール材6によって囲まれた密閉空間7が形成される。
【0014】
シール材6には、密閉空間7を減圧するための吸引管8と、成形面1上に樹脂を供給するための注入管9とが通されている。吸引管8及び注入管9のそれぞれの開口端部は、密閉空間7内に挿入されている。密閉空間7の減圧は、密閉空間7内の気体が吸引管8を通して外部へ吸引されることにより行われる。密閉空間7内の気体の吸引は、図示しない真空ポンプの動作によって行われる。成形面1上への樹脂の供給は、樹脂タンク(図示せず)に貯蔵された液状の樹脂が注入管9を通して密閉空間7内に注入されることにより行われる。成形面1上に供給される樹脂は、熱硬化性樹脂とされている。この例では、成形面1上に供給される樹脂が、常温硬化が可能な常温硬化樹脂とされている。
【0015】
吸引管8には吸引管バルブ(図示せず)が設けられ、注入管9には注入管バルブ(図示せず)が設けられている。吸引管8の管路は、吸引管バルブが開くことにより開放され、吸引管バルブが閉じることにより遮断される。注入管9の管路は、注入管バルブが開くことにより開放され、注入管バルブが閉じることにより遮断される。
【0016】
成形面1上への樹脂の供給は、密閉空間7が減圧された状態で行われる。成形面1上に供給された樹脂は、成形面1上に配置された繊維10に含浸される。成形面1上には、繊維10に含浸された樹脂が硬化することにより、繊維10を含む樹脂の成形体が繊維強化プラスチック成形体として出来上がる。
【0017】
繊維10としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ザイロン繊維、ケプラー繊維等が用いられる。この例では、軽量性及び高強度のいずれも実現可能な炭素繊維が繊維10として用いられている。また、密閉空間7内に注入される樹脂としては、例えばビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等が用いられている。この例では、常温硬化が可能で、かつ低粘度で含浸性に優れるビニルエステル樹脂が、密閉空間7内に注入される樹脂として用いられている。
【0018】
ピールプライ4は、樹脂に対する剥離性の高い剥離布である。成形面1及び繊維10は、ピールプライ4により覆われる。密閉空間7内に注入された樹脂は、ピールプライ4と成形面1との間に主に供給される。フローメディア5は、ピールプライ4に重ねられる。密閉空間7内に注入された樹脂の流動は、フローメディア5によって促進される。
【0019】
成形型2は、型本体11と、型本体11の外周部に設けられ、成形面1を持つ弾性被覆体12とを有している。成形型2の形状は、下面が開放された直方体状(箱状)とされている。なお、成形型2、バッグフィルム3、ピールプライ4、フローメディア5、シール材6、吸引管8及び注入管9のそれぞれの耐熱温度は、樹脂の硬化温度及び最高発熱温度よりも高くなっている。
【0020】
図2は、図1の型本体11を下方からみたときの状態を示す斜視図である。また、図3は、図1の型本体11を上方からみたときの状態を示す斜視図である。型本体11は、下方へ開放された箱状部材とされている。型本体11は、弾性被覆体12よりも剛性の高い材料により構成されている。型本体11の材料としては、軽量で加工がしやすく熱伝導性の高い材料(例えば、アルミニウム合金等)が望ましい。
【0021】
型本体11の外周部には、上面と4つの側面とが形成されている。また、型本体11の外周部には、上面及び各側面のそれぞれに形成された1本の溝13が設けられている。即ち、溝13は、型本体11の上面及び各側面のそれぞれを巡る一筆書きの溝とされている。
【0022】
型本体11の上面及び各側面のそれぞれには、互いに間隔を置いて平行に並ぶ横溝部13aと、互いに隣り合う横溝部13aの端部間を繋ぐ接続溝部13bとが設けられている。溝13は、各横溝部13a及び各接続溝部13bにより構成されている。各横溝部13a及び各接続溝部13bが順次連続することにより、分岐しない1本の溝13となっている。
【0023】
弾性被覆体12は、図1に示すように、型本体11の上面及び各側面を被覆する弾性被膜14と、弾性被膜14に設けられ、溝13に収容された弾性チューブ(弾性管)15とを有している。
【0024】
弾性チューブ15は、溝13に沿って配置されながら溝13に収容される分岐しない1本のチューブとされている。弾性チューブ15内には、弾性チューブ15の長さ方向に沿った流路16が形成されている。即ち、流路16は、弾性被覆体12内に設けられている。弾性チューブ15は、流路16内の圧力の変化によって弾性変形可能な材料により構成されている。この例では、弾性チューブ15の材料がシリコーン樹脂とされている。また、この例では、弾性チューブ15及び流路16のそれぞれの断面形状が矩形状とされている。また、流路16内には、温度を調整可能な流体が流されるようになっている。
【0025】
弾性被膜14は、弾性チューブ15の弾性変形によって弾性変形可能な材料により構成されている。この例では、弾性被膜14の材料がシリコーン樹脂とされている。即ち、弾性被膜14及び弾性チューブ15のそれぞれを構成する材料は、同一材料とされている。弾性被膜14及び弾性チューブ15の硬度としては、35(JIS-A)程度であることが望ましい。
【0026】
弾性被覆体12には、弾性被膜14の外面(露出面)が成形面1として形成されている。成形面1は、弾性被膜14の弾性変形によって変形される。成形面1上に成形された繊維強化プラスチック成形体は、成形面1の変形により成形面1から剥がれやすくなる。この例では、弾性被膜14が型本体11の上面及び各側面を被覆していることから、4つの内側面と底面とを持つ筐体が繊維強化プラスチック成形体として成形面1上に成形される。
【0027】
次に、成形型2の製造方法について説明する。図4は図1の型本体11を示す断面図、図5は図4の溝13に弾性チューブ15が嵌められた状態を示す断面図、図6は図5の型本体11が弾性被膜14で被覆された状態を示す断面図である。まず、箱状部材の上面及び各側面のそれぞれに溝13を形成し、図4に示すような型本体11を作製する。この後、図5に示すように、弾性チューブ15を溝13に収容する。この後、弾性チューブ15を溝13に収容した状態で、型本体11の外側からシリコーン樹脂を塗布して硬化させ、弾性被膜14を作製する。これにより、図6に示すような成形型2が完成する。
【0028】
次に、繊維強化プラスチック成形体の製造方法について説明する。繊維強化プラスチック成形体を製造するときには、図1に示すように、まず成形型2の成形面1上に繊維10を配置する(繊維配置工程)。
【0029】
この後、繊維10及び成形面1をピールプライ4で覆い、ピールプライ4上にフローメディア5及びバッグフィルム3を順に重ねる。即ち、順次重ねられたピールプライ4、フローメディア5及びバッグフィルム3で繊維10及び成形面1をまとめて覆う(カバー工程)。
【0030】
この後、吸引管8及び注入管9のそれぞれの開口端部を成形面1とバッグフィルム3との間に挿入し、成形面1とバッグフィルム3との間をシール材6によって密閉する。これにより、密閉空間7が形成される(密閉工程)。
【0031】
この後、吸引管8を真空ポンプに接続するとともに注入管バルブを閉じる。この後、真空ポンプを動作させて、密閉空間7を減圧する(減圧工程)。
【0032】
この後、密閉空間7が減圧された状態で、注入管バルブを開くことにより、注入管9を通して液状の樹脂を密閉空間7内に注入する。これにより、成形面1上に配置された繊維10に樹脂が含浸される。このとき、樹脂の硬化を抑制する温度(即ち、樹脂の粘度の上昇を抑制する温度)の流体を流路16内に流す。これにより、密閉空間7内に注入される樹脂の硬化が抑制され、繊維10への樹脂の含浸が促進される(含浸工程)。
【0033】
繊維10への樹脂の含浸が完了した後、流路16内に流される流体の温度を、樹脂の硬化を促進する温度にまで上昇させる。これにより、繊維10に含浸された樹脂が硬化され、繊維強化プラスチック成形体が成形される(成形工程)。
【0034】
この後、流路16内に流される流体の温度を下げることにより、繊維強化プラスチック成形体を冷却する。この後、バッグフィルム3、フローメディア5、ピールプライ4、シール材6、吸引管8及び注入管9を成形型2から取り外す(解体工程)。
【0035】
この後、弾性チューブ15の入口に圧縮ポンプを取り付けるとともに、弾性チューブ15の出口を塞ぐ。この後、圧縮ポンプを動作させて、流路16内の圧力を上昇させる。これにより、流路16の断面が膨張して弾性チューブ15及び弾性被膜14が弾性変形する。成形面1は、弾性被膜14の弾性変形に伴って変形する。これにより、繊維強化プラスチック成形体は、成形面1から外れやすくなる(昇圧工程)。
【0036】
この後、繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外すことにより、繊維強化プラスチック成形体の製造が完了する。
【0037】
次に、繊維強化プラスチック成形体の製造を実際に行った。成形型2の作製には、幅寸法が500mm、奥行き寸法が500mm、高さ寸法が300mmとされたアルミニウム製の型本体11を用いた。また、幅寸法が10mm、深さ寸法が10mmとされた溝13を型本体11の外周部に設けた。さらに、型本体11の上面及び各側面のそれぞれに設けた各横溝部13a間の間隔は50mmとした。
【0038】
また、弾性チューブ15は、縦寸法及び横寸法がそれぞれ10mmの矩形状の断面を持つシリコーン樹脂製のチューブとした。これにより、弾性チューブ15の寸法を、溝13に隙間なく嵌る寸法とした。流路16の断面形状は、縦寸法及び横寸法がそれぞれ8mmの矩形状とした。弾性被膜14は、シリコーン樹脂(信越シリコーン製、KE1206、硬度35(JIS-A))を型本体11の外周部に0.5mmの厚さで塗布し硬化させることにより作製した。
【0039】
繊維強化プラスチック成形体を製造するときには、成形面1に繊維10(東レ株式会社製、T300炭素繊維平織りクロス)を配置し、その上にピールプライ4(AirTech製、BLEEDER LEASE-B、耐熱232℃)、フローメディア5(AirTech製、GREEN FROW 75、耐熱161℃)、及びバッグフィルム3(AirTech製、WL7400、耐熱204℃)を順に重ね、テフロン(登録商標、ポリテトラフルオロエチレン)製のチューブ(外径:9.52mm、内径:6.35mm、耐熱260℃)で作製した吸引管8及び注入管9を成形面1とバッグフィルム3との間の空間内に挿入し、シール材6(AirTech製、AT-200Y、耐熱204℃)で密閉することにより密閉空間7を形成した。
【0040】
この後、吸引管8を通して真空吸引して密閉空間7を減圧した。この後、密閉空間7内に注入管9を通して液状の樹脂(昭和高分子製、ビニルエステル樹脂リポキシR806(100重量部)、過酸化物328E(1重量部)及びオクチル酸コバルト(0.2重量部)の混合樹脂)を注入した。これにより、樹脂が繊維10に含浸された。このとき、樹脂の硬化を抑制する温度の流体として、30℃の水を弾性チューブ15の流路16内に流した。
【0041】
繊維10に対する樹脂の含浸が完了した後、樹脂の硬化を促進する温度の流体として、80℃の水を流路16内に流した。この状態を30分程度継続し、樹脂が硬化していることを確認した後、冷却のための流体として10℃の水を流路16内に流した。これにより、箱状の繊維強化プラスチック成形体が成形面1に成形された。
【0042】
この後、バッグフィルム3、フローメディア5、ピールプライ4、シール材6、吸引管8及び注入管9を成形型2から取り外し、弾性チューブ15の入口に圧縮ポンプを取り付け、弾性チューブ15の出口を塞いだ。
【0043】
この後、圧縮ポンプを動作させて、5kgf/cm2の圧空を間欠印加することにより、弾性チューブ15の膨張及び収縮を繰り返し行った。この後、繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外し、繊維強化プラスチック成形体の製造が完了した。繊維強化プラスチック成形体は、成形面1から容易に外すことができた。
【0044】
このような繊維強化プラスチック成形体の製造装置では、成形面1を持つ弾性被覆体12内に流路16が設けられ、流路16内の圧力の変化によって弾性被覆体12が弾性変形されるので、流路16内の圧力を変化させるだけで成形面1を変形させることができ、繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外しやすくすることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外すときの手間を軽減することができ、繊維強化プラスチック成形体の生産性の向上を図ることができる。また、弾性被覆体12自体が弾性変形されるので、成形面1に貫通孔の開口が形成される構造や、貫通孔の開口をシール材で塞ぐ構造をなくすことができる。これにより、成形面1にシール材の段差が生じることを防止することができ、成形面1とバッグフィルム3との間の密閉空間7内の気密性の悪化も防止することができる。従って、繊維強化プラスチック成形体の製品精度の向上も図ることができる。
【0045】
また、成形型2の形状が箱状とされているので、繊維強化プラスチック成形体の形状を箱状とすることができる。このように、繊維強化プラスチック成形体の形状が成形面1から外しにくい箱状になっても、流路16内の圧力を変化させるだけで繊維強化プラスチック成形体を成形面1から容易に外すことができる。
【0046】
また、流路16内には流体が流されるようになっており、流体の温度が調整可能になっているので、流体の温度を調整することにより、繊維強化プラスチック成形体を製造するときの樹脂の粘度を制御することができる。これにより、樹脂の硬化の抑制及び促進を行うことができ、繊維強化プラスチック成形体の製造時間の短縮化を図ることができる。
【0047】
また、このような繊維強化プラスチック成形体の製造方法では、弾性被覆体12内に設けられた流路16内の圧力を上昇させて流路16の断面を膨張させることにより成形面1を変形させるので、流路16内の圧力を上昇させるだけで繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外しやすくすることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外すときの手間を軽減することができ、繊維強化プラスチック成形体の生産性の向上を図ることができる。また、弾性被覆体12自体が弾性変形されるので、成形面1に貫通孔の開口が形成される構造や、貫通孔の開口をシール材で塞ぐ構造をなくすことができる。これにより、成形面1にシール材の段差が生じることを防止することができ、成形面1とバッグフィルム3との間の密閉空間7内の気密性の悪化も防止することができる。従って、繊維強化プラスチック成形体の製品精度の向上も図ることができる。
【0048】
また、繊維10に樹脂を含浸させる含浸工程では、樹脂の硬化を抑制する温度の流体を流路16内に流すので、繊維10に含浸させるときの樹脂を硬化させにくくすることができる。これにより、繊維10への樹脂の含浸を促進させることができる。従って、繊維10に対する樹脂の含浸時間の短縮化を図ることができるとともに、繊維10に樹脂をより均一に含浸させることができる。
【0049】
また、繊維10に含浸された樹脂を硬化させる成形工程では、樹脂の硬化を促進する温度の流体を流路16内に流すので、樹脂を速やかに硬化させることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体の製造時間の短縮化を図ることができる。また、樹脂の自己発熱も誘発することができるので、アフターキュア等の熱処理を不要にすることができ、繊維強化プラスチック成形体の製造時間の短縮化をさらに図ることができる。
【0050】
また、成形面1に供給される樹脂は、常温硬化樹脂であるので、樹脂を常温で硬化させることができる。通常、成形面1に供給される樹脂が常温硬化樹脂である場合、繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外しやすくするために、樹脂と成形型2との熱膨張率差を利用することはできないが、この場合であっても、流路16内の圧力を上昇させるだけで繊維強化プラスチック成形体を成形面1から外しやすくすることができる。
【0051】
また、繊維10が炭素繊維であるので、繊維強化プラスチック成形体の軽量化及び高強度化を図ることができる。
【0052】
なお、上記の例では、成形型2の形状が箱状となっているが、これに限定されず、成形型2の形状を例えば板状や球状等としてもよい。
【0053】
また、上記の例では、含浸工程において、樹脂の硬化を抑制する温度の流体を流路16内に流しているが、流路16内に流体を流さなくても繊維10に樹脂を含浸させることができるのではれば、含浸工程で流体を流路16内に流さなくてもよい。
【0054】
また、上記の例では、成形工程において、樹脂の硬化を促進する温度の流体を流路16内に流しているが、樹脂が常温で硬化されるのであれば、成形工程で流体を流路16内に流さなくてもよい。
【0055】
また、上記の例では、流路16内に流される流体として水が用いられているが、これに限定されず、水以外の液体や気体を、流路16内に流される流体として用いてもよい。樹脂を硬化させるために成形型2が100℃以上に加熱される場合には、流路16内に流される流体として例えばシリコンオイル等を用いることが好ましい。
【0056】
また、上記の例では、型本体11の外周部に設けられる溝13が分岐しない1本の溝とされているが、分岐部を有する溝を溝13としてもよい。ただし、圧空を印加するときに弾性チューブ15の全体を均一に膨張させるためには、入口及び出口が1つずつの分岐しない1本の溝13を型本体11の外周部に設けるのが好ましい。
【0057】
また、上記の例では、弾性被膜14及び弾性チューブ15がシリコーン樹脂により構成されているが、これに限定されず、弾性被膜14及び弾性チューブ15を例えばウレタン樹脂等により構成してもよい。
【0058】
また、上記の例では、弾性チューブ15内に流路16が設けられているが、流路16は弾性被覆体12内に設けられていればよいので、弾性被膜14内に流路16を設けてもよい。この場合、溝13及び弾性チューブ15はなくてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 成形面、2 成形型、3 バッグフィルム、10 繊維、11 型本体、12 弾性被覆体、16 流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型本体と、上記型本体に設けられ、成形面を持つ弾性被覆体とを有し、流路が上記弾性被覆体内に設けられ、上記流路内の圧力の変化によって上記弾性被覆体が弾性変形される成形型、及び
上記成形面を覆い、上記成形面との間の空間が減圧可能なバッグフィルム
を備え、
上記成形面と上記バッグフィルムとの間で繊維強化プラスチック成形体を製造する繊維強化プラスチック成形体の製造装置。
【請求項2】
上記成形型の形状は、箱状とされていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造装置。
【請求項3】
型本体に設けられた弾性被覆体の成形面上に繊維を配置する繊維配置工程、
上記繊維及び上記成形面をバッグフィルムでまとめて覆うカバー工程、
上記成形面と上記バッグフィルムとの間の空間を減圧する減圧工程、
上記減圧工程後、上記成形面と上記バッグフィルムとの間の空間に液状の樹脂を注入し、上記繊維に上記樹脂を含浸させる含浸工程、
上記繊維に含浸された上記樹脂を硬化させることにより、上記繊維を含む上記樹脂の成形体である繊維強化プラスチック成形体を製造する成形工程、及び
上記成形工程後、上記弾性被覆体内に設けられた流路内の圧力を上昇させて上記流路を膨張させることにより上記成形面を変形させる昇圧工程
を備えている繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項4】
上記含浸工程では、上記樹脂の硬化を抑制する温度の流体を上記流路内に流すことを特徴とする請求項3に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項5】
上記成形工程では、上記樹脂の硬化を促進する温度の流体を上記流路内に流すことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項6】
上記樹脂は、常温硬化樹脂であることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項7】
上記繊維は、炭素繊維であることを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−116076(P2011−116076A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277537(P2009−277537)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】