説明

繊維強化プラスチック成形材料の製造方法及び製造装置

【課題】繊維を均一に分布でき、且つ外観の良い成形材料を製造できる繊維強化プラスチック成形材料の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】回転体4に形成された散布室6の内面に樹脂コンパウンド2を塗布する。この樹脂コンパウンド2の表面に繊維3を散布する。この繊維3を回転体4の回転に伴う遠心力により樹脂コンパウンド2に食い込ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチック成形材料の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から繊維強化プラスチック(FRP(Fiber Reinforced Plastics))の成形材料として、SMC(Sheet Molding Compound)やBMC(Bulk Molding Compound)が利用されている。
【0003】
例えば特許文献1にはSMCの製造方法が開示されている。この特許文献1では、SMCを製造するにあたって、搬送されるフィルム上に樹脂コンパウンドを供給し、この樹脂コンパウンドの上にガラス繊維を散布し、この上に他のフィルムを重ね、これを上下一対のネットコンベア間に通して挟んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−32358号公報(段落[0002]、段落[0003]、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の製造方法では、ガラス繊維を樹脂コンパウンドの上から散布するため、製造されたSMCにおいて、ガラス繊維が表面側に偏って存在し、ガラス繊維の分布が均一にならないことが懸念される。また、ガラス繊維を散布した成形材料の上に前記他のフィルムを重ねる際に、当該他のフィルムと成形材料の間に空気が入り込む等し、これにより製造されたSMCの表面にピンホールが生じて外観を損ねる恐れもある。また、前記ネットコンベアを設置するには一般的に5〜15mの長さが必要となり、製造装置が大きくなる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、繊維を均一に分布でき、外観の良い成形材料を製造でき、製造装置を小型化できる繊維強化プラスチック成形材料の製造方法及び製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の繊維強化プラスチック成形材料の製造方法は、回転体に形成された散布室の内面に樹脂コンパウンドを塗布し、この樹脂コンパウンドの表面に繊維を散布し、この繊維を前記回転体の回転に伴う遠心力により前記樹脂コンパウンドに食い込ませることを特徴とする。
【0008】
また、前記繊維が散布された樹脂コンパウンドの表面に前記樹脂コンパウンドよりも厚みが薄い樹脂コンパウンドを塗布することが好ましい。
【0009】
また、前記回転体を回転させた状態で、前記樹脂コンパウンドを前記散布室の内面に継続的に塗布すると共に、この樹脂コンパウンドを前記回転体に形成された取出部側に継続的に送り、且つ前記取出部側に送られる樹脂コンパウンドの表面に前記繊維を継続的に散布することが好ましい。
【0010】
また、本発明の繊維強化プラスチック成形材料の製造装置は、散布室が形成された回転体と、前記散布室の内面に樹脂コンパウンドを塗布する樹脂塗布手段と、前記散布室の内面に塗布された樹脂コンパウンドの表面に繊維を散布する繊維散布手段と、前記回転体を回転して前記樹脂コンパウンドの表面に散布された繊維を遠心力により前記樹脂コンパウンドに食い込ませる駆動手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、繊維を均一に分布でき、外観の良い成形材料を製造でき、製造装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の製造装置を概略的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を添付図面に基づいて説明する。本実施形態では、繊維強化プラスチック成形材料を図1に示す製造装置1を用いて製造する。製造される繊維強化プラスチック成形材料は、母材となる樹脂コンパウンド2を樹脂コンパウンド2よりも比重の大きい強化用の繊維3に含浸させたものであり、従来のSMCやBMC等の成形材料と同様に繊維強化プラスチックの成形に用いられる。
【0014】
樹脂コンパウンド2としては、熱硬化性樹脂に充填材、硬化剤、顔料、改質剤、離型剤等を添加したものが用いられ、強化材としての繊維3にはガラス繊維が用いられる。
【0015】
製造装置1は、回転体4、第一樹脂塗布手段、繊維散布手段、第二樹脂塗布手段、及び取出手段を具備している。
【0016】
回転体4は両端が開口した横筒状に形成されている。添付図面に示す回転体4は中心軸線5が略水平となった円錐台筒状に形成されている。回転体4の内側には回転体4で囲まれた散布室6が形成されており、散布室6の内面は回転体4の内周面によって構成されている。回転体4の両端開口のうち一方の開口は取出口7を構成している。本実施形態ではこの取出口7により、散布室6から繊維入り樹脂コンパウンドを取り出す取出部を構成している。
【0017】
回転体4の内周面は、取出口7側に行くに従って漸次直径が大きくなるテーパー状に形成されている。回転体4は回転自在に設けられており、図示しないモーター等の駆動手段によって回転させることができる。
【0018】
前記第一樹脂塗布手段は、回転体4から独立して散布室6内に設けられた第一樹脂供給部8で構成されている。第一樹脂供給部8は樹脂コンパウンド2が供給される樹脂供給路9の下流端に接続されている。第一樹脂供給部8は回転体4の軸方向に長いスリット状の第一供給口10を有しており、樹脂供給路9より供給された粘性の高いペースト状の樹脂コンパウンド2を第一供給口10から回転体4の内周面に沿ったシート状にして下方に流出させることができる。
【0019】
前記繊維散布手段は、回転体4から独立して散布室6内に設けられたロービングカッター11で構成されている。ロービングカッター11は、回転体4の取出口7と反対側の開口12から供給されたガラスロービングのガラス糸を一定時間毎に一定長さに切断することで繊維3(ガラス繊維)を生成し、この繊維3を下側に均一に散布することができる。ロービングカッター11は、平面視で回転体4の軸方向と直交する方向において第一樹脂供給部8の第一供給口10と並べて配置されている。
【0020】
前記第二樹脂塗布手段は、回転体4から独立して散布室6内に設けられた第二樹脂供給部13で構成されている。第二樹脂供給部13は樹脂供給路9から分岐した分岐路14の下流端に接続されており、第一樹脂供給部8と同じ供給源から同一の樹脂コンパウンド2が供給される。第二樹脂供給部13は回転体4の軸方向に長いスリット状の第二供給口15を有しており、分岐路14より供給された樹脂コンパウンド2を第二供給口15から回転体4の内周面に沿ったシート状にして下方に流出させることができる。以下、特に区別する場合には、第一樹脂供給部8から散布室6内に供給された樹脂コンパウンド2を第一樹脂コンパウンド16と記載し、第二樹脂供給部13から散布室6内に供給された樹脂コンパウンド2を第二樹脂コンパウンド17と記載する。
【0021】
第二樹脂供給部13の第二供給口15は、第一樹脂供給部8の第一供給口10よりも幅の細いスリット状に形成されている。このため、第二供給口15からは、第一供給口10から散布室6内に供給される第一樹脂コンパウンド16よりも厚みの薄いシート状の第二樹脂コンパウンド17が供給されるようになっている。
【0022】
第二樹脂供給部13は、平面視で回転体4の軸方向と直交する方向においてロービングカッター11と並べて配置されている。すなわち、平面視で、第一樹脂供給部8、ロービングカッター11、及び第二樹脂供給部13は、この順序で並べて設けられている。
【0023】
前記取出手段は、回転体4から独立して取出口7の内側に設けられた掻き取り板18で構成されている。掻き取り板18はその片面で構成された樹脂受部19が回転体4の内周面に対向するように取出口7の下部に設けられている。掻き取り板18の下端部は、回転体4の回転時において回転体4の内周面に滑る状態で接するようになっている。
【0024】
樹脂受部19とこれに対向する回転体4の内周面の間には、回転体4の回転方向前側に行く程、樹脂受部19と回転体4の内周面の間の距離が短くなる樹脂溜空間20が形成されている。また、掻き取り板18は、回転体4の円錐面状の内周面の母線に対し、取出口7側が回転体4の回転方向前側に位置するように傾斜している。
【0025】
前記製造装置1を繊維強化プラスチック成形材料を製造するには、まず駆動手段により回転体4を中心軸線5を中心にして図1の矢印a1に示す方向に回転させる。そして、このように回転体4を回転させた状態で、第一樹脂供給部8及び第二樹脂供給部13の夫々から樹脂コンパウンド2を供給し、また、ロービングカッター11を用いて繊維3を散布する。ここで、前記第一樹脂供給部8及び第二樹脂供給部13による樹脂コンパウンド2の供給、並びに繊維3の散布は、回転体4の回転時において継続して行う。
【0026】
このようにすると、前記第一樹脂供給部8の第一供給口10から流下した第一樹脂コンパウンド16は、回転する回転体4の内周面に連続したシート状に塗布されていく。また、回転体4の内周面は、取出口7側に向かって直径が大きくなるテーパー状に形成されているため、前記回転体4の内周面に塗布された第一樹脂コンパウンド16には、回転体4の回転に伴う遠心力が加わる。このため、当該第一樹脂コンパウンド16には取出口7側に向かう分力が働き、当該第一樹脂コンパウンド16は回転体4の内周面に沿って図中a2に示すように取出口7側に移動する。従って、前記第一樹脂供給部8から回転体4の内周面に継続的に供給されたシート状の第一樹脂コンパウンド16は、取出口7側に向かって螺旋状に広がっていく。
【0027】
また、前記ロービングカッター11から散布された繊維3は、前記回転体4の内面に塗布された直後の第一樹脂コンパウンド16の表面に均一に付着する。ここで、前記第一樹脂コンパウンド16の表面とは、散布室6内側に臨む面、すなわち上側の面である。そして、このように第一樹脂コンパウンド16の表面に付着した繊維3は、以後、回転体4の回転に伴う遠心力により第一樹脂コンパウンド16に食い込んでいく。
【0028】
前記第二樹脂供給部13の第二供給口15から流下した第二樹脂コンパウンド17は、前記繊維3が散布された直後の回転体4の内面に塗布された第一樹脂コンパウンド16の表面に連続して第一樹脂コンパウンド16よりも薄いシート状に塗布されていく。これにより、回転体4の内周面には、第一樹脂コンパウンド16の表面に付着した繊維3が第二樹脂コンパウンド17によって覆われたシート状の混合物が形成される。
【0029】
この混合物は、前述のように回転体4の遠心力により取出口7側に移動し、最終的に掻き取り板18の樹脂受部19に対向する位置に至り、この後、掻き取り板18の樹脂受部19によって掻き取られて図1に示すように樹脂溜空間20に溜まる。そして、この樹脂溜空間20に溜まった混合物21の一部は、回転体4の回転に伴い、掻き取り板18の樹脂受部19の傾斜に沿って塊状の繊維強化プラスチック成形材料として取出口7から図中a3に示す方向に継続的に押し出される。本実施形態では、このようにして塊状の繊維強化プラスチック成形材料が継続的に得られる。
【0030】
以上説明した本実施形態の繊維強化プラスチック成形材料の製造装置1は、散布室6が形成された回転体4と、散布室6の内面に第一樹脂コンパウンド16を塗布する樹脂塗布手段を備える。さらに、散布室6の内面に塗布された第一樹脂コンパウンド16の表面に繊維3を散布する繊維散布手段と、回転体4を回転して第一樹脂コンパウンド16の表面に散布された繊維3を遠心力により第一樹脂コンパウンド16に食い込ませる駆動手段を備える。
【0031】
この構成により、本実施形態で示したような製造方法を採用できる。すなわち、回転体4に形成された散布室6の内面に第一樹脂コンパウンド16を塗布し、この第一樹脂コンパウンド16の表面に繊維3を散布し、この繊維3を回転体4の回転に伴う遠心力により第一樹脂コンパウンド16に食い込ませることができる。このため、回転体4の回転に伴う遠心力を用いて繊維3を第一樹脂コンパウンド16の厚み方向に略均一に分布させ、これにより繊維3を略均一に分布させた繊維強化プラスチック成形材料を得ることができる。また、従来では必要であった成形材料をネットコンベアで挟み込むための上下のフィルムが不要になる。このため、前記フィルムを省略して成形材料の表面にピンホールが生じることを防止できる。また、長いネットコンベアを設置する必要がないため、製造装置1の小型化も実現できる。
【0032】
また、本実施形態では、繊維3が散布された第一樹脂コンパウンド16の表面に第一樹脂コンパウンド16よりも薄い第二樹脂コンパウンド17を塗布する。このため、第一樹脂コンパウンド16の表面に散布された繊維3を第二樹脂コンパウンド17で覆うことができ、繊維強化プラスチック成形材料の表面に繊維3の毛羽が生じ難くなり、外観の良い繊維強化プラスチック成形材料を製造できる。
【0033】
また、本実施形態では、回転体4を回転させた状態で、第一樹脂コンパウンド16を散布室6の内面に継続的に塗布すると共に、この第一樹脂コンパウンド16を取出口7側に継続的に送り、且つ第一樹脂コンパウンド16の表面に繊維3を継続的に散布する。このようにすることで、繊維強化プラスチック成形材料を継続的に製造することができ、製造装置1にあっては連続式とすることができる。
【0034】
以下、前記製造装置1を用いて繊維強化プラスチック成形材料を製造した実施例を示す。
【0035】
(実施例)
不飽和ポリエステル樹脂80部、炭酸カルシウム160部、硬化剤1部、顔料5部、ポリエチレンパウダー10部、ステアリン酸亜鉛5部を順次投入し樹脂コンパウンド2とした。
【0036】
次に回転体4を500rpmで回転した状態で、第一樹脂供給部8及び第二樹脂供給部13の夫々からシート状の樹脂コンパウンド2を回転体4の内周面に供給した。また、ロービングカッター11でガラスロービングのガラス糸を1インチの長さに切断して得た繊維3を継続的に散布室6に供給した。このとき、第一樹脂コンパウンド16及び第二樹脂コンパウンド17の合計で75重量%とし、繊維3は25重量%とした。また、回転体4を2分間回転させた。
【0037】
このようにすることで、掻き取り板18で樹脂コンパウンド2と繊維3の混合物を塊状の繊維強化プラスチック成形材料として連続的に取り出すことができた。また、得られた繊維強化プラスチック成形材料では、繊維3と樹脂コンパウンド2が略均一に混合されていた。
【0038】
なお、前記実施形態及び実施例では、回転体4の内周面に塗布した第一樹脂コンパウンド16を取出口7側に供給するにあたって、駆動手段によって回転する回転体4の内周面をテーパー状に形成した。しかし、第一樹脂コンパウンド16を取出口7側に供給する手段はこれに限定されるものではない。例えば回転体4の軸方向を取出口7側が下方に位置するように傾けて、第一樹脂コンパウンド16を自重により取出口7側に移動するようにしてもよい。なお、この場合、回転体4の内周面には本実施形態のようにテーパーを付けてもよいし、付けなくてもよい。
【0039】
また、前記製造装置1で得られた繊維強化プラスチック成形材料をシート状又はバルク状に加工しても構わない。また、本実施形態では、第一樹脂コンパウンド16に繊維3を覆うための第二樹脂コンパウンド17を塗布したが、第二樹脂塗布手段を省略し、繊維強化プラスチック成形材料を第一樹脂コンパウンド16と繊維3で構成してもよい。また、本実施形態では、繊維強化プラスチック成形材料を継続的に製造するようにしたが、断続的、すなわちバッチ式で繊維強化プラスチック成形材料を製造してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 製造装置
2 樹脂コンパウンド
4 回転体
6 散布室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に形成された散布室の内面に樹脂コンパウンドを塗布し、この樹脂コンパウンドの表面に繊維を散布し、この繊維を前記回転体の回転に伴う遠心力により前記樹脂コンパウンドに食い込ませることを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記繊維が散布された樹脂コンパウンドの表面に前記樹脂コンパウンドよりも厚みが薄い樹脂コンパウンドを塗布することを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記回転体を回転させた状態で、前記樹脂コンパウンドを前記散布室の内面に継続的に塗布すると共に、この樹脂コンパウンドを前記回転体に形成された取出部側に継続的に送り、且つ前記取出部側に送られる樹脂コンパウンドの表面に前記繊維を継続的に散布することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維強化プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項4】
散布室が形成された回転体と、前記散布室の内面に樹脂コンパウンドを塗布する樹脂塗布手段と、前記散布室の内面に塗布された樹脂コンパウンドの表面に繊維を散布する繊維散布手段と、前記回転体を回転して前記樹脂コンパウンドの表面に散布された繊維を遠心力により前記樹脂コンパウンドに食い込ませる駆動手段を備えたことを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料の製造装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−43333(P2013−43333A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181910(P2011−181910)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】