説明

繊維強化プラスチック複合部材の継手構造

【課題】
継手部に剪断力が作用した場合にも、繊維強化プラスチック部材の接合面を剥離、又は補強層を剥離する力が作用しない様にし、繊維強化プラスチック部材の継手強度を向上させる。
【解決手段】
芯材3を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層4,5を設けた複合部材同士を交差する方向に接合する継手構造に於いて、一方の複合部材1に溝11を形成し、該溝に他方の複合部材2の端部を嵌合させ、前記一方の複合部材と前記他方の複合部材間に掛渡り第1の布状繊維材6を設け、該第1の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第1の補強層7を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層を設けた複合部材同士を交差する方向に接合する継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材等の芯材を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層を設けた複合部材(以下サンドイッチパネルと称す)同士を接合する場合、特にサンドイッチパネルを交差する方向に接合する場合は、繊維強化プラスチック層が不連続となる為、接合強度を確保することが必要である。
【0003】
従来のサンドイッチパネルの継手構造について、図5、図6に於いて説明する。
【0004】
図5は、サンドイッチパネル1、接合サンドイッチパネル2をT字状に接合する場合の継手構造を示している。
【0005】
前記サンドイッチパネル1は、芯材3の表面、裏面にそれぞれ繊維強化プラスチック層4,5を形成したものであり、前記接合サンドイッチパネル2についても同様の構成となっている。
【0006】
前記接合サンドイッチパネル2の端面2aを前記サンドイッチパネル1の表面1aに当接させ、該表面1aと前記端面2aとを接着し、更に前記接合サンドイッチパネル2の側面2b,2cと前記表面1aに掛渡って布状繊維材6を設け、該布状繊維材6に液状プラスチックを塗布含浸させて繊維強化プラスチックの補強層7を形成し、又該補強層7を複数層形成する。
【0007】
前記接合サンドイッチパネル2は、前記サンドイッチパネル1に端面で接着されると共に前記補強層7により前記サンドイッチパネル1と前記接合サンドイッチパネル2との接合が補強される。
【0008】
上記した従来の継手構造であると、前記接合サンドイッチパネル2に圧縮力が作用した場合は、充分な強度を有するが、前記接合サンドイッチパネル2に図中左方からの剪断力(水平力)HFが作用した場合、前記接合サンドイッチパネル2には剪断方向に対して該接合サンドイッチパネル2端面の下流側の角A点を支点とした回転力が作用する。該回転力は、前記接合サンドイッチパネル2端面の接着力、及び上流側の前記補強層7が負担するが、前記回転力が大きい場合は、前記補強層7の剥離、前記接合サンドイッチパネル2端面の剥離を引起す。
【0009】
次に、図6は従来の他のサンドイッチパネルの継手構造を示している。尚、図6中、図5中で示したものと同等のものには同符号を付し説明を省略する。
【0010】
図6が示す、サンドイッチパネルの継手構造では、サンドイッチパネル1と接合サンドイッチパネル2とが成すコーナ部にコーナ部材8を設け、該コーナ部材8と前記サンドイッチパネル1表面間の接合面8a、前記コーナ部材8と前記接合サンドイッチパネル2側面間の接合面8bを接着剤により接着し、コーナ部の補強をしたものである。
【0011】
図6の継手構造の場合、図中左方からの剪断力が作用すると、前記接合サンドイッチパネル2には、該接合サンドイッチパネル2端面の下流側の角A点を支点とした回転力が作用し、或は下流側の前記コーナ部材8の角B点を支点とした回転力が作用する。
【0012】
この為、前記接合サンドイッチパネル2端面の上流側の角C点、及び上流側の前記コーナ部材8の角D点に応力が集中し、前記接合サンドイッチパネル2の端面の剥離、補強層7の剥離を引起す。
【0013】
【特許文献1】特開2000−102982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は斯かる実情に鑑み、芯材を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層を設けた複合部材同士を交差する方向に接合する継手構造に於いて、継手部に剪断力が作用した場合にも、繊維強化プラスチック部材の接合面を剥離、又は補強層を剥離する力が作用しない様にし、繊維強化プラスチック部材の継手強度を向上させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、芯材を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層を設けた複合部材同士を交差する方向に接合する継手構造に於いて、一方の複合部材に溝を形成し、該溝に他方の複合部材の端部を嵌合させ、前記一方の複合部材と前記他方の複合部材間に掛渡り第1の布状繊維材を設け、該第1の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第1の補強層を形成した繊維強化プラスチック複合部材の継手構造に関するものである。
【0016】
又本発明は、前記溝を横断する様に第2の布状繊維材を敷き、該第2の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第2の補強層を形成し、該第2の補強層を介在した状態で前記溝に他方の複合部材の端部を嵌合させた繊維強化プラスチック複合部材の継手構造に関するものである。
【0017】
又本発明は、前記一方の複合部材に前記溝を断続的に形成し、前記他方の複合部材に前記溝に嵌合する端部を突設した繊維強化プラスチック複合部材の継手構造に係り、又前記他方の複合部材は柱状部材であり、前記一方の複合部材には前記他方の複合部材の端部が嵌合する凹部を形成した繊維強化プラスチック複合部材の継手構造に係り、更に又前記一方の複合部材と前記他方の複合部材がコーナ部に該コーナ部を充足する様にコーナ部材を設け、該コーナ部材を覆う様に前記第1の補強層を形成した繊維強化プラスチック複合部材の継手構造に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、芯材を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層を設けた複合部材同士を交差する方向に接合する継手構造に於いて、一方の複合部材に溝を形成し、該溝に他方の複合部材の端部を嵌合させ、前記一方の複合部材と前記他方の複合部材間に掛渡り第1の布状繊維材を設け、該第1の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第1の補強層を形成したので、前記他方の複合部材に剪断力が作用した場合に、剪断力は嵌合部に作用し、前記第1の補強層に直接作用することがなく、又前記他方の複合部材に回転力が作用した場合にも回転変位は嵌合部で拘束されるので、前記第1の補強層が剥離することが防止され、繊維強化プラスチック複合部材の継手構造の強度が向上する。
【0019】
又本発明によれば、前記溝を横断する様に第2の布状繊維材を敷き、該第2の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第2の補強層を形成し、該第2の補強層を介在した状態で前記溝に他方の複合部材の端部を嵌合させたので、前記第2の補強層により溝部分の強度が補強され、又、前記他方の複合部材の端部と溝との接合強度が増大する。
【0020】
又本発明によれば、前記一方の複合部材に前記溝を断続的に形成し、前記他方の複合部材に前記溝に嵌合する端部を突設したので、溝を形成した場合の強度低下が防止される。
【0021】
又本発明によれば、前記一方の複合部材と前記他方の複合部材がコーナ部に該コーナ部を充足する様にコーナ部材を設け、該コーナ部材を覆う様に前記第1の補強層を形成したので、コーナ部分が補強され、継手強度が増大する等の優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施の形態を示している。
【0024】
尚、図1中、図5中で示したものと同等のものには同符号を付してある。
【0025】
サンドイッチパネル1の接合面に溝11を刻設する。該溝11は紙面に対して垂直方向に連続して延び、溝幅Wは、接合サンドイッチパネル2の板厚Tより所定量大きくする。又、前記溝11の深さDは、少なくとも繊維強化プラスチック層4の厚みより深く、又、前記サンドイッチパネル1の厚みUの1/2程度とする。前記溝11の深さDを前記サンドイッチパネル1の厚みUの1/2程度としたのは、前記サンドイッチパネル1の前記溝11を刻設することによる強度低下を考慮したものである。
【0026】
前記繊維強化プラスチック層4の表面、前記溝11、前記繊維強化プラスチック層4の表面に掛渡り、又前記繊維強化プラスチック層4の表面、前記溝11の表面に添わせ、前記溝11を横断する様に布状繊維材12を敷き、該布状繊維材12に液状プラスチックを塗布、含浸させて繊維強化プラスチックの補強層13を形成する。尚、敷設する前記布状繊維材12の枚数は、1枚又は複数枚とし、敷設する枚数については要求される強度に合わせて決定する。
【0027】
前記補強層13に含浸させた液状樹脂が硬化する前に前記接合サンドイッチパネル2の接合端部(図示では下端部)を前記溝11に挿入し、その後前記補強層13の液状樹脂を硬化させる。液状樹脂が硬化することで前記補強層13と前記接合サンドイッチパネル2とが接着され、前記接合サンドイッチパネル2の繊維強化プラスチック層4と前記補強層13とは一体化する。
【0028】
次に、布状繊維材6を前記接合サンドイッチパネル2の前記繊維強化プラスチック層4と前記補強層13との間に掛渡って所要枚数設け、前記布状繊維材6に液状プラスチックを塗布、含浸させて繊維強化プラスチックの補強層7を形成する。
【0029】
前記溝11を刻設することで、前記繊維強化プラスチック層4の一部が切除され、不連続となるが、前記補強層13を形成することで、前記繊維強化プラスチック層4は前記補強層13を介在して連続する。又、前記サンドイッチパネル1と前記接合サンドイッチパネル2間の接合強度は、前記接合サンドイッチパネル2の下端面と前記溝11の溝底間の接着強度、前記接合サンドイッチパネル2下端部側面と前記溝11側壁との接着強度を合わせたものとなる。
【0030】
従って、前記接合サンドイッチパネル2の垂直引張り力VFに対する抗力は、前記接合サンドイッチパネル2と前記溝11間の接着強度に前記補強層7の強度が合算されたものとなる。
【0031】
尚、前記サンドイッチパネル1に、前記溝11を刻設することで、繊維強化プラスチック層4自体の強度は低下するが、前記溝11には前記補強層13が設けられること、更に前記接合サンドイッチパネル2の下端部が前記溝11を充填することで、低下した強度は補充される。
【0032】
次に、前記接合サンドイッチパネル2に水平力HFが作用した場合は、前記接合サンドイッチパネル2に前記溝11の縁A点を支点とする回転力が作用するが、前記接合サンドイッチパネル2の下端部が前記溝11に嵌合していることで、前記接合サンドイッチパネル2の回転変位は前記溝11によって拘束される。更に、前記接合サンドイッチパネル2の回転変位が拘束されることで、前記補強層7に対する剥離力は小さくなる。
【0033】
尚、前記補強層7を形成することで、前記サンドイッチパネル1と前記接合サンドイッチパネル2間に充分な接合強度が得られれば、前記補強層13は省略してもよい。
【0034】
図2は、第2の実施の形態を示しており、該第2の実施の形態は上記した第1の実施の形態に於いて接合コーナ部を補強したものである。
【0035】
サンドイッチパネル1と接合サンドイッチパネル2とが成すコーナ部に該コーナ部を充足する様にコーナ部材8を設け、該コーナ部材8と前記サンドイッチパネル1表面間の接合面8a、前記コーナ部材8と前記接合サンドイッチパネル2側面間の接合面8bを接着剤により接着し、前記コーナ部材8を覆う様に補強層7を形成したものである。
【0036】
第2の実施の形態に係る継手構造の場合、前記接合サンドイッチパネル2が前記接合面8b,8aを介し、前記サンドイッチパネル1に接着されることで、接着強度が増大する。
【0037】
従って、垂直引張り力VFに対する抗力が増大すると共に前記接合サンドイッチパネル2の回転変位に対して拘束力が増大する。
【0038】
図3は、本発明の第3の実施の形態を示している。
【0039】
第3の実施の形態では、サンドイッチパネル1に溝11′を断続的に形成したものであり、接合サンドイッチパネル2の下端には下端部2′を断続的に形成し、該下端部2′を前記溝11′と嵌合する様にしたものである。
【0040】
布状繊維材6(図1参照)については接合サンドイッチパネル2の全幅に亘って設け、補強層7(図1参照)は前記接合サンドイッチパネル2の全幅に亘って形成する。
【0041】
第3の実施の形態では、繊維強化プラスチック層4の欠切部が一部に限定されるので、前記サンドイッチパネル1の強度低下が小さくてすむ。
【0042】
図4は、本発明の第4の実施の形態を示している。
【0043】
第4の実施の形態は、サンドイッチパネル1に柱状部材15を垂直に接合する場合を示している。又、図4のA矢視図、B矢視図は、図1と同様である。
【0044】
サンドイッチパネル1に前記柱状部材15の断面形状と相似形で該柱状部材15の断面形状よりも大きな凹部を穿設し、該凹部に対して直交する2方向で補強層13を形成し、前記凹部に前記柱状部材15の下端部を嵌合させ、補強層7を前記柱状部材15の4面に対してそれぞれ形成したものである。
【0045】
第4の実施の形態に対して、図2で示したコーナ部材8を設け、コーナ部を補強してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態を示す斜視図である。
【図5】従来のサンドイッチパネルの継手構造を示す断面図である。
【図6】従来の他のサンドイッチパネルの継手構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 サンドイッチパネル
2 接合サンドイッチパネル
3 芯材
4 繊維強化プラスチック層
5 繊維強化プラスチック層
6 布状繊維材
7 補強層
8 コーナ部材
11 溝
12 布状繊維材
13 補強層
15 柱状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材を挾み、表裏に繊維強化プラスチック層を設けた複合部材同士を交差する方向に接合する継手構造に於いて、一方の複合部材に溝を形成し、該溝に他方の複合部材の端部を嵌合させ、前記一方の複合部材と前記他方の複合部材間に掛渡り第1の布状繊維材を設け、該第1の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第1の補強層を形成したことを特徴とする繊維強化プラスチック複合部材の継手構造。
【請求項2】
前記溝を横断する様に第2の布状繊維材を敷き、該第2の布状繊維材にプラスチックを含浸させて第2の補強層を形成し、該第2の補強層を介在した状態で前記溝に他方の複合部材の端部を嵌合させた請求項1の繊維強化プラスチック複合部材の継手構造。
【請求項3】
前記一方の複合部材に前記溝を断続的に形成し、前記他方の複合部材に前記溝に嵌合する端部を突設した請求項1又は請求項2の繊維強化プラスチック複合部材の継手構造。
【請求項4】
前記他方の複合部材は柱状部材であり、前記一方の複合部材には前記他方の複合部材の端部が嵌合する凹部を形成した請求項1〜請求項3のいずれか1つの繊維強化プラスチック複合部材の継手構造。
【請求項5】
前記一方の複合部材と前記他方の複合部材がコーナ部に該コーナ部を充足する様にコーナ部材を設け、該コーナ部材を覆う様に前記第1の補強層を形成した請求項1〜請求項4のいずれか1つの繊維強化プラスチック複合部材の継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−143173(P2009−143173A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324773(P2007−324773)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】