説明

繊維強化樹脂シートの製造方法および繊維強化樹脂シート

【課題】コンクリート構造物表面の経時観察が可能であって、施工時に未硬化の接着剤の漏出等のない補強又は補修用の繊維強化樹脂シートの製造方法及び繊維強化樹脂シートを提供すること。
【解決手段】(1)キャリアフィルム上又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、(2)メッシュ体を、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、かつ粘度50〜15000cPの予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が注入された含浸槽に浸漬させつつ走行させ、次いで樹脂液を保持したメッシュ体を含浸ローラー間に通して、ローラー線圧5〜30N/cmで含浸・脱泡する予備含浸工程、(3)前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の液層上面から前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が含浸されたメッシュ体を前記液層中に進入させ、さらにその上面に第1のカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んでメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する本含浸工程、及び(4)前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する硬化工程、を含む繊維強化樹脂シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法、及び該製造方法で得られる繊維強化樹脂シートに関するものである。
【0002】
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分がひび割れたり、剥落したり、また、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
【0003】
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、ひび割れた部分や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修又は補強用シートにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図ることができる工法として提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、その劣化したコンクリートのひび割れ部分を補修したのち、その後当該補修部位のひび割れ等の欠陥の進展の有無を目視観察することも、コンクリート構造物の管理上重要である。しかし、従来の一般的な補修方法では、表面が繊維基材などの被覆材で覆われているため、それらの目視観察が困難であった。
特許文献2には、コンクリート表面に、補強ネットを全光線透過率が30%以上の可視硬化型ビニルエステル樹脂により直貼りするコンクリート補強層の形成方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、海島型の複合有機繊維のモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体と、該メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂とを備える、コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シートが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−256707号公報
【特許文献2】特開2007−2514号公報
【特許文献3】特開2009−61718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の補修・補強用シートは施工後のコンクリート表面の目視観察についての考慮はされておらず、ひび割れの発生の有無やその程度、経時変化等を観察することができない。
また、特許文献2に記載の方法は、施工現場において、補強ネット及び補強シートを固着するための可視光硬化型ビニルエステル樹脂を塗布する作業は避けられず、不安定な足場での現場における補修又は補強作業の簡略化、短縮化が要請されていた。
一方、特許文献3に記載の繊維強化樹脂シートは、コンクリート面の目視観察は可能であるが、前記繊維強化樹脂シートからピンホール状の貫通した穴を完全に無くすことは困難であると考えられる。その貫通した穴が存在すると未硬化の接着剤が漏出しやすく、施工の貼り付け作業で表面をローラー等でしごく場合に、接着剤が漏洩した表面ではその接着剤が塗り広げてられてしまうため、その接着剤の拭取りなどの施工上の手間が発生することがあり、さらに接着剤を完全に拭き取りきれないと表面に汚れが付着しやすいので外観を重要視する施工現場等では問題となることがあった。(接着剤はスライム状に粘性を持たせてあるので自重で落ちてくることは無いが、シートを貼り付ける際にローラーでしごくので、漏出した接着剤を表面に塗り広げてしまう。)
そこで、本出願人は、特願2009−68817(平成21年3月19日出願)によって、貫通穴を防ぐ方法としてバリア層を設けて、貫通を遮断したコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートを提供した。しかしながらこの繊維強化樹脂シートにおいても、貫通穴は遮断されたものの透明樹脂層に、気泡が発生することは避けられず、外観上の問題(貫通穴があるかもしれないという誤解が生じることも含む)などの課題があった。
つまり、コンクリート構造物表面の観察が可能であって、メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂層に気泡のより少ない補強又は補修用の透明性繊維強化樹脂シートが求められていた。
【0008】
そこで、本発明では、上記の問題が解決できる、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法について鋭意検討した結果、メッシュ体にキャリアフィルム上に塗布された本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する(本含浸)前に、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が注入された予備含浸槽と含浸ローラーで含浸・加圧を行うことで、メッシュ体に含まれる気泡を脱泡することができ、その後本含浸することで気泡の少ないメッシュ状補強繊維入り樹脂シートを得ることができ、上記課題を解決できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔8〕を提供する。
〔1〕メッシュ体に透明硬化性樹脂組成物を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法であって、該製造方法は下記の工程(1)〜(4)を含むことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
(1)キャリアフィルム上、又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、
(2)メッシュ体を、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、かつ粘度50〜15000cPの予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が注入された含浸槽に浸漬させつつ走行させ、次いで樹脂液を保持したメッシュ体を含浸ローラー間に通して、ローラー線圧5〜30N/cmで含浸・脱泡する予備含浸工程、
(3)前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の液層上面から前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が含浸されたメッシュ体を前記液層中に進入させ、さらにその上面に第1のカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する本含浸工程、及び
(4)前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する硬化工程。
〔2〕さらに、前記液層形成工程(1)の前に、キャリアフィルムの上部にバリア層を形成するための、下記のバリア層の形成工程(5)を含む前記〔1〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
(5)キャリアフィルム上にバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)を塗布し第2のカバーフィルムで挟み込んで硬化してバリア層を形成した後、該第2のカバーフィルムを剥離して該バリア層を前記液層形成工程(1)に供するバリア層形成工程。
〔3〕前記メッシュ体が積層布であって、海島型複合糸を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布である前記〔1〕又は〔2〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔4〕前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及び予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が(メタ)アクリル系樹脂組成物である前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔5〕前記バリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)が(メタ)アクリル系樹脂組成物である前記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔6〕前記メッシュ体のJIS K6768に準じる濡れ性試験方法による表面濡れ性が55〜75mN/mの範囲である前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔7〕前記第1のカバーフィルムがバリア層形成工程(5)に用いた第2のカバーフィルムを剥離したフィルムを連続的に再利用したものである前記〔2〕〜〔6〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔8〕透明硬化樹脂からなる非通気性のバリア層と、補強繊維によって所定の開口部が形成されたメッシュ体に該バリア層と相溶性を有する透明硬化性樹脂組成物を含浸・硬化させた繊維強化樹脂本体層とを積層一体化させてなる透明性繊維強化樹脂シートであって、該繊維強化樹脂本体層中における直径2mm以上の気泡含有数が、1個/m2以下である、ことを特徴とするコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法によれば、メッシュ体を一度樹脂に浸漬し、樹脂が含浸したメッシュ体を含浸ローラーにて適切な圧力で加圧することでメッシュの内部まで樹脂含浸を行うと同時に気泡を除去する予備含浸工程を経て、予備含浸されたメッシュ体をキャリアフィルムに塗布された液層(樹脂プール)上面から進入させて本含浸を行うので、メッシュ体による気泡の持ち込みや、キャリアフィルムとの接触時の気泡の発生を排除できるので、結果として気泡が少なく、特に直径2mm以上の大きさの気泡がほとんどない繊維強化樹脂シートを得ることができる。
本発明の繊維強化樹脂シートは、気泡の少ない繊維強化樹脂シートなので、コンクリート構造物表面の観察が可能な補強又は補修用繊維強化樹脂シートとして有効に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの一例の上面図、(B)A−A線断面図である。
【図2】(A)本発明の実施例1で得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大模式図、(B)比較例4の製造方法で得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大模式図である。
【図3】比較例4で得られた繊維強化樹脂シートにおいて発生した気泡を示す拡大写真である。
【図4】(A)補強繊維の一例としての海島型複合糸を構成する芯鞘型複合繊維の説明図、(B)鞘成分を融合させた海島型複合糸の説明図である。
【図5】本発明の製造方法の一例の工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法は、(1)キャリアフィルム上、又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、
(2)メッシュ体を、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、かつ粘度50〜15000cPの予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が注入された含浸槽に浸漬させつつ走行させ、次いで樹脂液を保持したメッシュ体を含浸ローラー間に通して、ローラー線圧5〜30N/cmで含浸・脱泡する予備含浸工程、(3)前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の液層上面から前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が含浸されたメッシュ体を前記液層中に進入させ、さらにその上面に第1のカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する本含浸工程、及び(4)前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する硬化工程、を含み、特に上記予備含浸工程(2)に特徴を有する。
【0014】
本発明において、補強繊維によって所定の開口部が形成されたメッシュ体としては、織布、網、編布、および積層布からなる1種又は2種以上の組み合わせから選択でき、積層布が好ましく用いることができる。
積層布は、組布とも称されるもので、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層した3軸のものを一般的に使用できる。積層布は、メッシュ体としての低コスト性を有しているので、経済的なメリットもある。積層布の製造は、例えば特開平11−20059号公報に記載の方法により製造できる。
開口部は開口率が30%以上であることが好ましく、開口率が30%未満では、コンクリート表面層の観察もし難い。
【0015】
メッシュ体は、補強繊維を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布とすることができる。
図1(A)は、本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの一例の上面図であり、メッシュ体10は透明樹脂層を介して見えている状態を示している。同図に示すメッシュ体は、補強繊維1を構成糸として、下経糸層11上に、斜交層13及び逆斜交層14、上経糸層12を積層し、各層の交点を加熱により熱融着したものである。
メッシュ体10を形成した後、さらに加熱加圧してメッシュ体10全体を薄肉化してもよい。これによりメッシュ体10の柔軟性や可撓性を更に向上させることができる。その際の加熱温度は、海部を構成する熱可塑性樹脂の融点近傍がよい。加圧はローラー押圧などの方法で行うことができる。
【0016】
メッシュ体に用いられる補強繊維は、繊維強度、伸度等の物性が、メッシュ体の構成糸として補強効果を有するものであれば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、芳香族ポリアミド繊維等その種類を問わない。
なかでも、メッシュ体は、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分と、からなる芯鞘型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸を用い、該複合糸の交点を熱融着してなるメッシュ体、特に3軸積層布とすることが好適である。
本発明の海島型複合糸に使用できるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィンの2元共重合体、又は3元共重合体等が挙げられる。
芯成分と鞘成分の好適な組み合わせとしては、例えば、芯成分としてアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分として直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を用いる組み合わせが挙げられる。
かかる、海島型複合糸は、例えばスピンドロー方式により、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズルを用い、所定の鞘/芯断面比となるように紡糸し、直結する延伸装置に導いて、飽和水蒸気圧下で延伸し、延伸と共に鞘成分で複数数の繊維間を融合して得ることができる。また、特開2003−326609号公報に記載の方法により製造することができる。
【0017】
海島型複合糸において、島部と海部との質量比は20:80〜80:20であることが好ましい。島部及び海部の合計質量に対する島部の質量比が20質量%未満であると、メッシュ体による補強効果が小さくなる傾向があり、80質量%を超えると熱接着強度が低下する傾向がある。同様の観点から、島部と海部との質量比は40:60〜70:30であることがより好ましい。
海島型複合糸の繊度は100〜5000dtexが好ましい。100dtex未満であると、目的とする物性が得られ難くなる傾向があり、5000dtexを超えると柔軟性や追随性が損なわれ易くなる傾向がある。500〜3000dtexの繊度がより好ましい。
【0018】
図4は、海島型複合糸の一実施形態を示す説明図である。
図4の実施形態は、単一の芯部(島部)3及びこれの外周面を覆う鞘部5aから構成される芯鞘構造を有する芯鞘型複合単繊維9を複数本集束して芯鞘型複合単繊維束15(図4A)を延伸しつつ鞘部5aを溶融し、鞘部5a同士を融合して複数の島部3を内包する海部5を形成した形態(図4B)を備える海島型複合糸である。
【0019】
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及びバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)としては、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)とバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)が相溶性(接着性を含む)を有し、機械的物性において繊維強化樹脂シートの構成材料としての機能を有する透明性樹脂から選択される。この種の主体樹脂として、(メタ)アクリル系樹脂又はビニルエステル系樹脂が好ましい。特に(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーの重合により形成される重合体を主成分とする樹脂である。
キャリアフィルム上への本体用透明硬化性樹脂組成物(A)又はバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)の塗布には、一般的な塗工装置が使用でき、例えばグラビアリバース、グラビアダイレクト、三本リバース、ダイコートなどの中から選んで使用できる。
【0020】
図5は、本発明の製造方法の一例の工程説明図である。図5に係る製造方法においては、キャリアフィルム21上にバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)20cを塗布し、第2のカバーフィルム23で挟み込んで硬化してバリア層101を形成した後、第2のカバーフィルム23を剥離するバリア層形成工程(5)を経て、当該バリア層上にポンプ43からノズル48を経て本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aを供給している。
【0021】
バリア層形成工程(5)は、先ず、キャリアフィルム21上に、所定厚みのバリア層を形成するための重合性モノマーを含むバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)〔本態様ではバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)と本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を同一としている。〕20cを調合槽40aで調合してリザーブタンク40に投入しポンプ41により、ノズル42からキャリアフィルム21上に塗布し第1スクイズローラー52で所定の塗布厚みに調整し、加熱炉70に挿通して、硬化したバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)からなるバリア層101を形成する。次いでバリア層101の上に所定厚みの繊維強化樹脂本体層(102)を形成するための本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aを供給(塗布)して液層(樹脂プール)20a'を形成し、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20bが含浸されたメッシュ体10aを前記液層上面から液層中に進入させて、メッシュ体10aに、さらに本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aを含浸し、含浸ローラー55で含浸・脱泡、及び厚み調整をし、次いで、その上面に第1のカバーフィルム22を第2スクイズローラー56にて載置して、キャリアフィルム21との間にメッシュ体10aを挟み込んで、硬化炉71での硬化及び熱処理炉72での熱処理を経て巻き取られる。
なお、この実施態様では、第1のカバーフィルム22は、バリア層の形成に用いた第2のカバーフィルム23を、バリア層の硬化後にローラー53aの部分で剥離し、ガイドローラー53b〜53cを経て第2スクイズローラー56の部分で第1のカバーフィルム22として再利用している。なお、ガイドローラー53b〜53c間には、テンションローラー(図示省略)を設けて、第1のカバーフィルム22の張力を調整し、キャリアフィルム21側との速度バランスを調整している。
【0022】
次に、メッシュ体へ予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20bを含浸・脱泡する予備含浸工程(2)について説明する。
予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)としては、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、粘度50〜15000cPの組成ものから選択される。
予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20bは、例えば、スチレンモノマーなどの溶剤(粘度50cP以下、25℃)とビニルエステルや不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂(粘度100〜6000cP、25℃)を混合した組成であって、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)(ウレタンアクリレート)に相溶するものを用いることができる。予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20bの粘度が低ければ低いほど脱気効果が高いので、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を加温し粘度を下げて利用しても良い。ただし、熱硬化性樹脂は、硬化反応が起きないような温度にする必要がある。本体用透明硬化性樹脂組成物(A)による液層中にメッシュ体を進入させる本含浸工程(3)に送るまでに、メッシュ体は予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20bで濡れていることが重要なので、溶剤を使用した際は揮発する前に速やかに本含浸工程(3)に送る必要がある。
【0023】
メッシュ体への含浸性とメッシュ体に内包する気泡を脱離させる観点から、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20bの粘度は50〜15000cP、予備含浸ローラー47の線圧は5〜30N/cmとすることが必須である。ここにおいて、ローラー線圧とは、ローラーを押さえる加重(N)をローラーの長さ(cm)で除したものである。
粘度が50cP未満では、液垂れが発生し易くなる傾向がありメッシュ体による樹脂の保持量が不十分となり、15000cPを超えると含浸不良となって、形成される透明樹脂層内に気泡が発生し易くなる傾向がある。
また、線圧が5N/cm未満では、メッシュ体が保持する樹脂組成物に気泡が多量に含んだ状態で本含浸工程に移行することになり、硬化した繊維強化樹脂シートに気泡が出現する。一方、線圧が30N/cmを超えると、予備含浸ローラー47により、メッシュ本体10aが変形し、皺が発生するなど外観不良を来す。
【0024】
予備含浸されたメッシュ本体10aは、キャリアフィルム上又はキャリアフィルム上に形成されたバリア層101上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aを塗布して形成した液層20a'に導かれ含浸ローラー55にて含浸され、次いで第1のカバーフィルム22に挟持されて第2スクイズローラー56で厚みが調整される。
次いで、硬化炉71、熱処理炉72を経て、引取機60を経て巻取機61で巻き取られる。硬化炉71では透明硬化性樹脂組成物が、放射線や、熱により硬化され、熱処理炉72では、さらに未硬化状モノマー等のアフターキュアと繊維強化樹脂シートの熱的安定性を向上させるための処理が行われる。
【0025】
キャリアフィルム21、第1のカバーフィルム22及び第2のカバーフィルム23としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルムを用いることができる。なお、図5では、第1のカバーフィルムは、バリア層の形成に用いた第2のカバーフィルム23を硬化後に剥離し、これを第2スクイズローラー56の部位から再度導入して、本含浸、硬化工程以降で使用している。これらのキャリアフィルム21及びカバーフィルム22(23)は、保護フィルム21及び22(23)としてそのまま用いてもよい。保護フィルムは繊維強化樹脂シートが製造された後、検査、保管、輸送、切断などの作業等において繊維強化樹脂シートの表面を保護するもので、施工時には除去されるものである。
【0026】
さらに、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及び/又は予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)には粘着剤成分を含有してもよい。粘着剤成分(例えば粘着性付与剤)を含むことによって、施工時にコンクリート構造物側の接着剤層と接着し易くなって、施工がはかどるなどの効果が期待できる。また、保護フィルムとの粘着により、繊維強化樹脂シートを有効に保護できる。
【0027】
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20a、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20b、及びバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)20cは、例えば(メタ)アクリル系樹脂と、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーを含有する組成のものを用いることができる。前記重合性モノマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸エステルがある。
前記透明硬化性樹脂組成物(A)〜(C)は、所望の透明性が得られる範囲内で、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを更に含有していてもよい。前述した予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)以外の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及びバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)の粘度は50〜15000cPであることが好ましく、800〜1000cPであることがより好ましい。
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及びバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)の粘度が低いと液垂れが発生し易くなる傾向があり、硬化性樹脂組成物の粘度が高いと含浸不良となって、形成される透明樹脂層内に気泡が発生し易くなる傾向がある。
【0028】
前記透明硬化性樹脂組成物(A)〜(C)は、放射線硬化タイプであってもよく、この場合は、塗布後に放射線を照射して硬化させることができる。
放射線硬化性樹脂としては、放射線によって架橋ないし重合反応を起こして硬化するプレポリマー(又はオリゴマー)、単量体、或いは両者を混合したものを用いる。かかるプレポリマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、不飽和ポリエステル、エポキシ化合物等が用いられる。また、単量体としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどグリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルなどビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンなどオキセタン類等が用いられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する表記である。また、放射線としては、電子線等の粒子線、或いは紫外線、可視光線、X線等の電磁波が用いられる。特に、紫外線或いは可視光線で硬化させる場合には、通常、ベンゾフェノン、アセトフェノン、芳香族ヨウドニウム、メタロセン化合物等を光反応開始剤として添加する。
【0029】
メッシュ体10は、繊維強化樹脂シートを形成する際に接触する各樹脂との接着性をよくするために、必要に応じて表面の濡れ性を調整することが好ましい。表面の濡れ性は、前記各樹脂に応じて適宜調整すればよいが、概ね、濡れ指数として55〜75mN/mの範囲に調整することが好ましい。特に、メッシュ体10を構成するモノフィラメントの海部5がポリオレフィンからなる場合、表面活性が低いためにモノフィラメントと透明硬化樹脂20との接着性が低下して、繊維強化樹脂シート100による補強効果が小さくなる傾向や、保護フィルム21若しくは22(23)を剥がした際に透明硬化樹脂20の一部が保護フィルム側に剥離してしまい易くなる傾向があることから、親水化処理により表面濡れ性が調整されたメッシュ体10を用いることが効果的である。親水化処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0030】
本発明の製造方法により得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大図を図2(A)に示す。同図においてメッシュ体の構成繊維がバリア層101側にも埋設した状態になっているが、これは一旦硬化したバリア層101の表面が、未硬化状の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)との接触によって相互の相溶性により膨潤するので、メッシュ体10aがローラー55、56等による作用を受けて、バリア層側にもその一部が埋設される。バリア層とのかかる界面状態は、繊維強化樹脂シートとして、界面剥離が発生し難いので好ましい。なお、同図において、保護フィルム21及び22(23)は、製造時にはキャリアフィルム21及びカバーフィルム22(23)も兼ねたものであり、繊維強化樹脂シートとしての施工時には剥離される。
【0031】
本発明の製造方法では、キャリアフィルム及び/又は第1のカバーフィルムを透明な(メタ)アクリル系樹脂フィルムとすることができる。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムを用いると、当該(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、キャリアフィルムとバリア層、さらには保護層を兼ねる機能をもたせることができる。
【0032】
図5において、キャリアフィルム21として(メタ)アクリル系樹脂フィルムを用い、当該フィルム21上にタンク40からノズル48を経て本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20a'を塗布し、続いて予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)20b'が予備含浸されたメッシュ体10aが導入され、含浸ローラー55にてメッシュ体10aを案内しつつ、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20a'を含浸し、次いでこれらを第1のカバーフィルム22で挟み込み、その後、スクイズローラー56の間で加圧することにより、メッシュ体10aに本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20a'をさらに含浸し、厚みを調整する。
【0033】
続いて、硬化炉71内で、紫外線を照射することにより硬化する。この紫外線を照射により透明硬化性樹脂組成物20a及び20bにおいて重合性モノマーの重合が進行する。繊維強化樹脂本体層として透明樹脂層が形成された繊維強化樹脂シート100は、硬化炉71から出てきた後、さらに熱処理炉72にてアフターキュアと寸法安定化の熱処理を受け、ローラー60により引取られて、巻取機61により巻き取られる。なお、硬化炉および熱処理炉を通過させる際は、繊維強化樹脂シート100の両端はクリップで挟持して、繊維強化樹脂シートを緊張状で処理することが、皺が無く、一定幅の繊維強化樹脂シートを得る点で好ましい。
【0034】
本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートは、透明硬化樹脂からなる非通気性のバリア層と、補強繊維によって所定の開口部が形成されたメッシュ体に該バリア層と相溶性を有する透明硬化性樹脂組成物を含浸・硬化させた繊維強化樹脂本体層とを積層一体化させてなる透明性繊維強化樹脂シートであって、該繊維強化樹脂本体層中における直径2mm以上の気泡含有数が、1個/m2以下であることを特徴としている。
前記バリア層と、前記繊維強化樹脂本体層とを積層一体化させてなるとは、両層が相互に接着一体化し、コンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートとしての機能を備えている状態を言う。
本発明の繊維強化樹脂シートにおいて、バリア層の厚みは、50〜100μmとするのが好ましく、50〜100μmの範囲であれば、コンクリート構造物への補修又は補強工事時に塗布された接着剤がしごかれて漏出するなどの現象が発生することがなく、漏出防止のバリア層としての機能を発現できる。
また、メッシュ体に該バリア層と相溶性を有する透明硬化性樹脂組成物を含浸・硬化した繊維強化樹脂本体層をバリア層と積層一体化した繊維強化樹脂シートの厚みは、400〜500μmとするのが、コンクリート構造物表面への追随可能な柔軟性や取り扱い性、作業性、軽量性、補強効果、経済性等の点から好ましい。
本発明の繊維強化樹脂シートは、直径2mm以上の気泡含有数が、1個/m2以下と、直径2mm以上の気泡がほとんど含まれていないので、気泡による補強物性への負の影響が殆どなく、メッシュ体によるコンクリート構造物の補修又は補強の効果を最大限に発揮させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
<海島型複合糸の製造>
芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分にメタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を使用し、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズル(240ホール)を用い、鞘/芯断面比が35/65となるように260℃で紡糸し、直結する延伸装置に導いて、0.42MPa、145℃の飽和水蒸気圧下で、延伸倍率13倍で延伸を行い、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合したトータル繊度1,850dtex、フィラメント数240本の、芯のポリプロピレンを島成分、鞘の直鎖状低密度ポリエチレンを海成分とする海島型複合糸を得た(スピンドロー方式)。
この海島型複合糸の引張強度は、6.5cN/dtex、伸度は、15%、ヤング率は、92.0cN/dtex、140℃で測定した熱収縮率は、6.8%であった。
【0037】
<メッシュ体の作製及び親水化処理>
得られた海島型複合糸を、積層布製造装置に配置し、経方向、斜方向及び逆方向の3方向に、経糸、斜交糸及び逆斜交糸を10mmピッチで積層し、次いで表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して複合糸の海部樹脂を溶融し各層の複合糸が接着した3軸のメッシュ体を得た。目合いは10mm、単位面積当たりの質量は65g/m2であった。
得られた3軸積層布の連続メッシュ体を連続したメッシュ状物10をコロナ放電処理装置(春日電機社製、機種名:発振器AGI−023、電極アルミ製6山)に通して、電圧、処理速度等を変更して、メッシュ体の改質度合いを、表1、表2に記載の濡れ指数にそれぞれ調製した。なお、濡れ指数の評価方法は、JIS K6768による濡れ性試験方法を用いた。
以下、実施例について図5を参照して説明する。
【0038】
実施例1
(バリア層の形成工程)
キャリアフィルム21としてポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm)を繰り出し、該キャリアフィルム21上にバリア層101を形成するためにバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)の液状物20c'を塗布した。
バリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)は、ウレタンアクリレートとビニルエステルの混合液(日本ユピカ製:ネオポール8136)100質量部(希釈剤スチレンモノマーで粘度10000cPに調整、25℃)に有機過酸化物を4質量部添加して、調合槽40aで撹拌し、リザーブタンク40からポンプ41によりノズル42から供給した。これを第1スクイズローラー52により、硬化後の厚みが50μmとなるように調整した後、第2のカバーフィルム23としてポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み25μm)により挟んで、硬化炉70に導き、紫外線を照射して液状物20c'を硬化してバリア層101を形成した。しかる後、第2のカバーフィルム23は、ローラー53aの部位で、バリア層101の表面(上面)から剥離し、ローラー53b、53cを介して第2スクイズローラー56の部分から供給して、第1のカバーフィルム22として再利用することとした。
なお、本実施例1では、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)とバリア層を形成するためのバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)とを同一とし、配管及び供給ポンプのみを区別した。このように、同一の樹脂を使用すれば、相溶性の有無の判断の必要がなく、調合槽やリザーブタンクも同一にできるので、設備の簡略化を図ることができる。
【0039】
(予備含浸工程)
ウレタンアクリレートとビニルエステルの混合液(日本ユピカ製:ネオポール8136)100質量部(希釈剤スチレンモノマーで粘度10000cPに調整、25℃)に有機過酸化物を4質量部添加して、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)としての液状組成物20bをリザーブタンク44で調製した。
含浸槽46にポンプ45により液状組成物20bを供給し、メッシュ体10を含浸槽46の液層中に走行させて液状組成物20b'を含浸し、予備含浸ローラー47で20N/cmの線圧で把持して気泡を追い出し、脱気処理を施して予備含浸を行い、予備含浸済のメッシュ体10aを得た。
なお、液状組成物20b'は、50℃に加温し、1000cPに粘度を下げて、予備含浸による脱気を行った。
【0040】
(本含浸工程及び硬化工程)
50μm厚のバリア層(アクリルバリア層)101が形成されたキャリアフィルム21上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)〔バリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)及び予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)と同一〕の液状組成物20aをリザーブタンク40からポンプ43によりノズル48から供給して、塗付し、均一な厚み(2mm)の液層(プール)20a'を形成した。
この液層上に予備含浸済のメッシュ体10aを導き、含浸ローラー55で含浸し、さらにその上に第1のカバーフィルム22として、第2のカバーフィルム23としてバリア層の形成工程に用い、その後剥離されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)で挟みこみ、第2スクイズローラー56で厚みを調整した。
その後、硬化炉71で紫外線(UV)照射を5分間行い、次いで熱処理炉72に導いて100℃で10分間加熱することによりモノマーを重合させ繊維強化樹脂シート100を得た。
得られた繊維強化樹脂シートは、厚みが520μm、単位質量500g/m2であり、直径が2mm以上の気泡は0個/m2と、気泡が大幅に減少しピンホールは確認できなかった。
【0041】
実施例2及び3
実施例1において予備含浸工程における予備含浸ローラー47の押圧を10N/cm(実施例2)、30N/cm(実施例3)としたところ、いずれの実施例においてもメッシュ体から気泡が抜けることが確認され、実施例1と同様に気泡が大幅に減少しピンホールのない繊維強化樹脂シートを得た。
【0042】
実施例4
実施例1において予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)の液状組成物20b'の温度を10℃に下げて、粘度を15000cPにしたが、メッシュ体から気泡を抜くことができることを確認し、実施例1と同様の性状の繊維強化樹脂シートを得た。
【0043】
実施例5
実施例1において予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)の液状組成物20b'として、粘度50cPのスチレンモノマーを使用したところ、メッシュ体から気泡を抜くことができることを確認し、実施例1と同様の性状の繊維強化樹脂シートを得た。
【0044】
実施例6
実施例1において、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)の液状組成物20b'及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aへの有機酸化物の添加量を2質量部とし、本含浸以降の硬化に紫外線を使用せず熱処理炉で100℃、10分の熱硬化としたが、実施例1と同様の性状の繊維強化樹脂シートを得た。
【0045】
実施例7
実施例1において、バリア層を形成することなく、第1のキャリアフィルム21上に液層20a'を形成した後、予備含浸済みのメッシュ体10aと含浸ローラー55で合体させて含浸した他は実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートを得た。得られたシートは、気泡が大幅に減少しピンホールのない、実施例1と同様の性状の繊維強化樹脂シートであった。
【0046】
実施例8
実施例7において、キャリアフィルムにアクリルフィルム(三菱レーヨン社製、「アクリプレン」HBXN47、厚み50μm)を用いた他は実施例7と同様にして繊維強化樹脂シートを得た。得られたシートは、気泡が大幅に減少しピンホールのない、実施例1と同様の性状の繊維強化樹脂シートであった。
以上、各実施例の組成、条件及び結果についてまとめて表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例1
実施例1の予備含浸用透明硬化性樹脂組成物20bにウレタンアクリレートとメタクリル酸エステルとの混合液〔希釈剤(アクリルモノマー)で25℃の粘度を30000cPに調整したもの。〕100質量部に有機過酸化物を4質量部添加した液状組成物20b'を使用したところ、予備含浸ローラー47を通過してもメッシュ体に樹脂が十分含浸しなかったため、気泡が多く、図3に部分拡大写真を示すような繊維強化樹脂シートとなった。
【0049】
比較例2
実施例1において、予備含浸ローラー47の押圧を3N/cmにしたところ、気泡を含んだ樹脂の回収が不十分となり、気泡を持ち込んだシートを得た。
【0050】
比較例3
実施例1において、予備含浸工程における、予備含浸ローラー47の押圧を40N/cmにしたところ、メッシュ体が変形し皺が発生した。
【0051】
比較例4
実施例1において、液層(樹脂プール)20a'をなくしたところ、バリア層の形成工程に用い、その後剥離された第2のカバーフィルム23であって、これを再使用した第1のカバーフィルム22と予備含浸済みメッシュ体10aの間で気泡を持ち込むため、気泡のある繊維強化樹脂シートが得られた。
以上、各比較例の組成、条件及び結果についてまとめて表2に示す。
【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法は、予備含浸工程において、メッシュ本体に内包する気泡を脱泡するので、硬化後において、繊維強化樹脂本体層における気泡の出現を極力抑えて、施工時の未硬化状接着剤の漏出がなく、気泡による外観不良や、コンクリート面の経時変化の観察障害のない繊維強化樹脂シートを、安定して効率よく製造できる方法として利用できる。
また、本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートは、コンクリート表面に塗布された未硬化状の接着剤が、繊維強化樹脂シートの透明樹脂層に気泡等に起因する貫通孔が無いので、漏出した接着剤を拭取る作業が無く、作業が非常に簡易化され、短工期で施工でき、かつ、透明なので、施工後においても、コンクリート構造物表面の経時観察が可能であり、かつメッシュ本体による補強効果を十分に発現できるコンクリート構造物の補強又は補修用繊維強化樹脂シートとして利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 補強繊維(海島型複合糸)
3 芯部(島部)
5a 鞘部
5 海部
10 メッシュ体
10a 予備含浸メッシュ体
11 下経糸(層)
12 上経糸(層)
13 斜交糸(層)
14 逆斜交糸(層)
20a 本体用透明硬化性樹脂組成物(A)
20b 予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)
20c バリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)
20a' 本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の液層
20b' 予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)の液層
20c' バリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)の液層
21 キャリアフィルム
22 第1カバーフィルム
23 第2カバーフィルム
25 気泡
40、44 リザーブタンク
40a 調合槽
41、43、45 ポンプ(樹脂供給ポンプ)
42、48 ノズル
46 含浸槽
47 予備含浸ローラー
55 含浸ローラー
52 第1スクイズローラー
53a、53b、53c ガイドローラー
56 第2スクイズローラー
60 引取りローラー
61 巻取機
70、71 硬化炉
72 熱処理炉(熱硬化炉)
100 繊維強化樹脂シート
101 バリア層
102 繊維強化樹脂本体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ体に透明硬化性樹脂組成物を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法であって、該製造方法は下記の工程(1)〜(4)を含むことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
(1)キャリアフィルム上、又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、
(2)メッシュ体を、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、かつ粘度50〜15000cPの予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が注入された含浸槽に浸漬させつつ走行させ、次いで樹脂液を保持したメッシュ体を含浸ローラー間に通して、ローラー線圧5〜30N/cmで含浸・脱泡する予備含浸工程、
(3)前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の液層上面から前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が含浸されたメッシュ体を前記液層中に進入させ、さらにその上面に第1のカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する本含浸工程、及び
(4)前記予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する硬化工程。
【請求項2】
さらに、前記液層形成工程(1)の前に、キャリアフィルムの上部にバリア層を形成するための、下記のバリア層の形成工程(5)を含む請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
(5)キャリアフィルム上にバリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)を塗布し第2のカバーフィルムで挟み込んで硬化してバリア層を形成した後、該第2のカバーフィルムを剥離して該バリア層を前記液層形成工程(1)に供するバリア層形成工程。
【請求項3】
前記メッシュ体が積層布であって、海島型複合糸を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布である請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及び予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(B)が(メタ)アクリル系樹脂組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記バリア層用透明硬化性樹脂組成物(C)が(メタ)アクリル系樹脂組成物である請求項2〜4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記メッシュ体のJIS K6768に準じる濡れ性試験方法による表面濡れ性が55〜75mN/mの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記第1のカバーフィルムがバリア層形成工程(5)に用いた第2のカバーフィルムを剥離したフィルムを連続的に再利用したものである請求項2〜6のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
透明硬化樹脂からなる非通気性のバリア層と、
補強繊維によって所定の開口部が形成されたメッシュ体に該バリア層と相溶性を有する透明硬化性樹脂組成物を含浸・硬化させた繊維強化樹脂本体層とを積層一体化させてなる透明性繊維強化樹脂シートであって、
該繊維強化樹脂本体層中における直径2mm以上の気泡含有数が、1個/m2以下である、ことを特徴とするコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−92237(P2012−92237A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241219(P2010−241219)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】