説明

繊維強化樹脂シートの製造方法

【課題】透明な硬化性樹脂を硬化してなる非通気性のバリア層をキャリアフィルム上に安定して連続的に形成する方法を提供すること。
【解決手段】メッシュ体に透明硬化性樹脂を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法において、少なくとも下記の工程(1)〜(2)を含む製造方法。
工程(1):キャリアフィルム及びカバーフィルムが共に2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであり、キャリアフィルムの厚みT1が25〜100μm、カバーフィルムの厚みT2が12〜50μmであり、かつ、厚みの比T1/T2が1.5〜5である、キャリアフィルム及びカバーフィルムをそれぞれ選択し、該キャリアフィルム上に、厚みが30〜100μmで非通気性のバリア層を形成するため、透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布して液層(a)を形成し、該液層(a)を該カバーフィルムで積層して硬化炉に導き、透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する工程、及び
工程(2):前記キャリアフィルム上の硬化された透明硬化樹脂からなるバリア層の表面からカバーフィルムを剥離して、該剥離されたカバーフィルムを後の工程のカバーフィルムに使用すべく迂回させるカバーフィルムの剥離・迂回工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法に関するものである。
【0002】
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分がひび割れたり、剥落したり、また、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
【0003】
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、ひび割れた部分や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修又は補強用シートにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図ることができる工法として提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、その劣化したコンクリートのひび割れ部分を補修したのち、その後当該補修部位のひび割れ等の欠陥の進展の有無を目視観察することも、コンクリート構造物の管理上重要である。しかし、従来の一般的な補修方法では、表面が繊維基材などの被覆材で覆われているため、それらの目視観察が困難であった。
特許文献2には、コンクリート表面に、補強ネットを全光線透過率が30%以上の可視硬化型ビニルエステル樹脂により直貼りするコンクリート補強層の形成方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、海島型の複合有機繊維のモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体と、該メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂とを備える、コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シートが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−256707号公報
【特許文献2】特開2007−2514号公報
【特許文献3】特開2009−61718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の補修・補強用シートは施工後のコンクリート表面の目視観察についての考慮はされておらず、ひび割れの発生の有無やその程度、経時変化等を観察することができない。
また、特許文献2に記載の方法は、施工現場において、補強ネット及び補強シートを固着するための可視光硬化型ビニルエステル樹脂を塗布する作業は避けられず、不安定な足場での現場における補修又は補強作業の簡略化、短縮化が要請されていた。
一方、特許文献3に記載の繊維強化樹脂シートは、コンクリート面の目視観察は可能であるが、繊維強化樹脂シートにピンホール状の多数の貫通した穴を完全に無くすことは困難であると考えられる。その貫通した穴が存在すると未硬化の接着剤が漏出しやすく、施工の貼り付け作業で表面をローラー等でしごく場合に、接着剤が漏洩した表面ではその接着剤が塗り広げてられてしまうため、その接着剤の拭取りなどの施工上の手間が発生することがあり、さらに接着剤を完全に拭き取りきれないと表面に汚れが付着しやすいので外観を重要視する施工現場等では問題となることがあった。
【0008】
そこで、本出願人は、特願2009−68817(平成21年3月19日出願)によって、貫通穴を防ぐ方法としてバリア層を設けて、貫通を遮断したコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートを提供した。しかしながらこの繊維強化樹脂シートにおいても、貫通穴は遮断されたもののメッシュ状物の透光部の透明樹脂層に、気泡が発生することは避けられず、外観上の問題(貫通穴があるかもしれないという誤解が生じることも含む)などの課題があった。
【0009】
また、透明なバリア層を形成する上で以下の問題が発生した。
すなわち、バリア層はキャリアフィルム上に透明な硬化性樹脂組成物を所定の厚みに塗布し、これを硬化して形成される。しかし、通常ラジカル重合は空気中では酸素による重合阻害を受けるため、フィルムに必要とする厚みに樹脂を塗っただけでは、UV照射や加熱を行っても硬化が進行しない。この対策として、酸素を除外して窒素(N2)ガス下や二酸化炭素(CO2)ガス下であれば、硬化させることが可能であるが、硬化性樹脂の粘性が大きいと均一な厚みで塗布することが困難であり、また表面張力により表面に斑ができ、さらにガス置換装置が必要になるため装置が複雑で高価となることや、置換ガスのコストが付加されコスト高に繋がるなどの問題がある。
【0010】
一方、特許文献3の繊維強化樹脂シートの製造方法において提案されているように、重合阻害を避けるためには、フィルム間に挟んで硬化することも考えられるが、バリア層を有する繊維強化樹脂シートの製造工程において、キャリアフィルム上の透明硬化性樹脂組成物を硬化して形成されたバリア層からカバーフィルムを剥離して、本体用硬化性樹脂組成物の塗布工程に進行させるためには、以下の問題点が発生した。本発明の繊維強化樹脂シートのバリア層は、機能及びコストの点から厚みは100μm以下に設定されるが、このような厚みの場合には、キャリアフィルム上にバリア層を残存させようとしても、バリア層がカバーフィルム側に付着して随伴する場合があり、キャリアフィルム上に残存するか、カバーフィルムに随伴するかは、確率的に5分5分(1/2)であった。
【0011】
本発明は、このような状況下になされたものであり、透明な樹脂層を有する繊維強化樹脂シートの製造過程において、透明な硬化性樹脂を硬化してなる非通気性のバリア層をキャリアフィルム上に安定して連続的に形成する方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、キャリアフィルムとカバーフィルムを、それぞれが所定の範囲の厚みであって、それぞれが異なる厚みで所定の関係にあるものを選択すれば、バリア層がキャリアフィルム上に残置でき、安定して連続的に事後の工程に供給できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔6〕を提供する。
〔1〕メッシュ体に透明硬化性樹脂を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法であって、下記の工程(1)〜(5)を含むことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
工程(1):キャリアフィルム及びカバーフィルムが共にポリエステル系フィルムであり、キャリアフィルムの厚みT1が25〜100μm、カバーフィルムの厚みT2が12〜50μmであり、かつ、厚みの比T1/T2が1.5〜5である、キャリアフィルム及びカバーフィルムをそれぞれ選択し、
該キャリアフィルム上に、厚みが30〜100μmで非通気性のバリア層を形成するための透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布して液層(a)を形成し、該液層(a)を該カバーフィルムで挟み込んで硬化炉に導き、透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する工程、
工程(2):前記キャリアフィルム上の硬化された透明硬化樹脂からなるバリア層の表面からカバーフィルムを剥離して、該剥離されたカバーフィルムを後工程のカバーフィルムに使用すべく迂回させるカバーフィルムの剥離・迂回工程、
工程(3):前記カバーフィルムが剥離されたバリア層の上面に、メッシュ体に含浸するための本体用透明硬化性樹脂組成物(B)を塗布して液層(b)を形成する工程、
工程(4):前記液層(b)の上面にメッシュ体を導いて液層(b)中に進入させ、さらに前記工程(2)で剥離されたカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(B)を含浸する本含浸工程、
工程(5):前記含浸された本体用透明硬化性樹脂(B)を硬化する工程。
〔2〕前記本体用透明硬化性樹脂組成物(B)が、ウレタンアクリレート樹脂(a)、重合性単量体(b)、光重合開始剤(c)、及び熱重合開始剤(d)を含有する、前記〔1〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔3〕前記硬化後の透明硬化樹脂からなるバリア層が、島津製作所製の微小圧縮試験機(MCTE−200)を用い、三角錐圧子(錘角115°)で25μm圧縮するのに必要な荷重が50〜100mNとなるように硬化する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔4〕前記メッシュ体が積層布であって、海島型複合糸を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布である前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔5〕前記メッシュ体が親水化処理されている前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔6〕前記本体用透明硬化性樹脂組成物(B)が、バリア層形成のための前記透明硬化性樹脂組成物(A)と同一組成である前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法によれば、透明な硬化樹脂からなるバリア層とメッシュ体を内包する繊維強化樹脂本体層とが積層一体化されたコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートを連続して、安定的かつ低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの一例の上面図、(B)A−A線断面図である。
【図2】本発明の実施例1で得られた保護層21、22を含む繊維強化樹脂シートの断面拡大模式図である。
【図3】(A)補強繊維の一例としての海島型複合糸を構成する芯鞘型複合繊維説明図、(B)鞘成分を融合させた海島型複合糸の説明図である。
【図4】本発明の製造方法の一例の全工程説明図である。
【図5】図4における透明硬化性樹脂組成物(A)の硬化工程及びカバーフィルムの剥離工程の部分拡大図である。
【図6】バリア層とキャリアフィルム及びカバーフィルムの関係を示す模式図であり、(A)バリア層がカバーフィルム側に残る状態、(B)カバーフィルムが良好に剥離された状態、(C)カバーフィルムの曲げ半径が小さい場合、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法は、工程(1):キャリアフィルム及びカバーフィルムが共にポリエステル系フィルムであり、キャリアフィルムの厚みT1が25〜100μm、カバーフィルムの厚みT2が12〜50μmであり、かつ、厚みの比T1/T2が1.5〜5である、キャリアフィルム及びカバーフィルムをそれぞれ選択し、該キャリアフィルム上に、厚みが30〜100μmで非通気性のバリア層を形成するための透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布して液層(a)を形成し、該液層(a)に該カバーフィルムを積層して硬化炉に導き、透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する工程、
工程(2):前記キャリアフィルム上の硬化された透明硬化樹脂層の表面からカバーフィルムを剥離して、該剥離されたカバーフィルムを後工程のカバーフィルムに使用すべく迂回させるカバーフィルムの剥離・迂回工程、
工程(3):前記カバーフィルムが剥離されたバリア層の上面に、メッシュ体に含浸するための本体用透明硬化性樹脂組成物(B)を塗布して液層(b)を形成する工程、
工程(4):前記液層(b)の上面にメッシュ体を導いて液層(b)に進入させ、さらに前記(2)の工程で剥離されたカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(B)を含浸する本含浸工程、及び
工程(5):前記含浸された本体用透明硬化性樹脂(B)を硬化する工程、を含み、特に上記工程(1)の透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する工程、及び工程(2)のカバーフィルムの剥離・迂回工程に特徴を有する。
【0017】
本発明に用いられるメッシュ体は、補強繊維によって所定の開口部が形成されたものであり、メッシュ体としては、織布、網、編布および積層布からなる1種または2種以上の組み合わせから選択できるが、これらのうち積層布が好ましい。
開口部は開口率が30%以上であることが好ましく、開口率が30%未満では、透明硬化性樹脂がメッシュ体に侵入しにくく補強効果が期待できず、またコンクリート表面層の観察もし難い。
積層布は、組布とも称されるもので、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層した3軸のものを一般的に使用できる。積層布は、メッシュ体としての低コスト性を有しているので、経済的なメリットもある。積層布の製造は、例えば特開平11−20059号公報に記載の方法により製造できる。
【0018】
メッシュ体は、特に、補強繊維を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布が好ましい。
図1(A)は、本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの一例の上面図であり、メッシュ体10は透明樹脂層を介して見えている状態を示している。同図に示すメッシュ体は、補強繊維1を構成糸として、下経糸層11上に、斜交層13及び逆斜交層14、上経糸層12を積層し、各層の交点を加熱により熱融着したものである。
メッシュ体10を形成した後、さらに加熱加圧してメッシュ体10全体を薄肉化してもよい。これによりメッシュ体10の柔軟性や可撓性を更に向上させることができる。その際の加熱温度は、海部を構成する熱可塑性樹脂の融点近傍がよい。加圧はローラー押圧などの方法で行うことができる。
【0019】
メッシュ体に用いられる補強繊維は、繊維強度、伸度等の物性が、メッシュ体の構成糸として補強効果を有するものであれば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、芳香族ポリアミド繊維等その種類を問わない。
なかでも、メッシュ体は、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分と、からなる芯鞘型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸を用い、該複合糸の交点を熱融着してなるメッシュ体、特に3軸積層布とすることが好適である。
本発明の海島型複合糸に使用できるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィンの2元共重合体、又は3元共重合体等が挙げられる。
芯成分と鞘成分の好適な組み合わせとしては、例えば、芯成分としてアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分として直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を用いる組み合わせが挙げられる。
かかる、海島型複合糸は、例えばスピンドロー方式により、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズルを用い、所定の鞘/芯断面比となるように紡糸し、直結する延伸装置に導いて、飽和水蒸気圧下で延伸し、延伸と共に鞘成分で複数の繊維間を融合して得ることができる。また、特開2003−326609号公報に記載の方法により製造することができる。
【0020】
海島型複合糸において、島部と海部との質量比は20:80〜80:20であることが好ましい。島部及び海部の合計質量に対する島部の質量比が20質量%未満であると、メッシュ体による補強効果が小さくなる傾向があり、80質量%を超えると熱接着強度が低下する傾向がある。同様の観点から、島部と海部との質量比は40:60〜70:30であることがより好ましい。
海島型複合糸の繊度は100〜5000dtexが好ましい。100dtex未満であると、目的とする物性が得られ難くなる傾向があり、5000dtexを超えると柔軟性や追随性が損なわれ易くなる傾向がある。500〜3000dtexの繊度がより好ましい。
【0021】
図3は、モノフィラメントを製造する方法の一実施形態を示す斜視図である。
図3の実施形態は、単一の芯部(島部)3及びこれの外周面を覆う鞘部5aから構成される芯鞘構造を有する芯鞘型複合単繊維9を複数本集束して芯鞘型複合単繊維束15を準備する工程(図3の(A))と、芯鞘型複合単繊維束15を延伸しつつ鞘部5aを溶融し、鞘部5a同士を融合して複数の島部3を内包する海部5を形成させる工程(図3の(B))とを備える。なお、この工程は、後述するメッシュ体10の製造工程に先立って行ってもよく、メッシュ体10の製造工程における加熱処理によって行ってもよい。
【0022】
メッシュ体10は、予め親水化処理されていることが好ましい。特に、メッシュ体10を構成するモノフィラメントの海部5がポリオレフィンからなる場合、表面活性が低いためにモノフィラメントと透明硬化樹脂層20との接着性が低下して、繊維強化樹脂シート100による補強効果が小さくなる傾向や、保護フィルム21若しくは22を剥がした際に透明硬化樹脂層20の一部が保護フィルム側に剥離してしまい易くなる傾向があることから、親水化処理されたメッシュ体10を用いることが効果的である。親水化処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0023】
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法に使用できるキャリアフィルム及びカバーフィルムは、機械的物性及び耐熱安定性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルムが好ましく、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。
キャリアフィルムは、透明で紫外線等の硬化用放射線を透過でき、かつ塗布された透明硬化性樹脂組成物(A)、これを硬化した非通気性バリア層、このバリア層上に塗布される本体用透明硬化性樹脂組成物(B)及びメッシュ本体、さらにはカバーフィルムを担持できる強力を有し、ローラー間での挟圧作用や、硬化炉、熱処理炉における加熱に対する耐性、製品として巻取り後の保護フィルムとしての機能、コンクリート構造物の補強工事等における繊維強化樹脂シートの貼付け作業時の表面保護シートとしての機能等を備えなければならない。従って、これらの性能や機能を有し、かつ経済性を備えたフィルムであることから、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。キャリアフィルムの厚みT1としては、前記の機能及び経済性の面から厚み25〜100μmのものが選択される。
【0024】
一方、カバーフィルムは、非通気性バリア層を形成するためにキュアリアフィルム上に塗布された透明硬化性樹脂組成物を硬化する際に、その表面が酸素と触れて硬化阻害を受けるのを防ぐためのフィルムであり、透明で紫外線等の硬化用放射線を透過でき、かつ、バリア層形成の硬化炉及び、メッシュ体と一体化して繊維強化樹脂シート本体を形成する硬化炉及び熱処理炉中を通過するので、キャリアフィルムと同様の耐熱性が要求され、かつ熱収縮率もキャリアフィルムと近似し、さらに、バリア層の形成後にバリア層の表面から一旦剥離し、さらにこれを再度使用するので、剥離時にフィルムが伸びたりすることのない強力を備えている必要があることから、キャリアフィルムと同一の種類の材質とすることが望ましい。この点から、カバーフィルムにも2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「2軸延伸PETフィルム」ということがある。)を使用することが好ましい。また、カバーフィルムの厚みT2としては、前記の機能の点及び経済性から12〜50μmであり、かつ、厚みの比T1/T2が1.5〜5の範囲になるものを選択して使用する。
厚みの比T1/T2が1.5未満であると、非通気性バリア層形成後のカバーフィルムの剥離がスムーズにいかず、キャリアフィルムからバリア層が剥がれる等のトラブルが発生して、以後の繊維強化樹脂シートの製造に支障を来たす場合がある。また、厚みの比T1/T2が5を超えると、硬化炉や熱処理炉を走行させて硬化、熱処理する際のキャリアフィルムとカバーフィルムの厚みがアンバランスとなって、キャリアフィルム側が上に凸に湾曲するなど厚み方向に偏曲する等の問題が発生する。
【0025】
非通気性のバリア層の厚みは、30〜100μmである。厚みを決めるスクイズローラーの自重たわみ量が20μmあるため、バリア層の厚みが30μm以下ではバリア層樹脂の斑が目立ち、また100μm以上では小さな気泡を持ち込んでピンホールを形成する可能性があるためである。
【0026】
バリア層の形成に用いられる透明硬化性樹脂組成物(A)及びメッシュ体に含浸される本体用透明硬化性樹脂組成物(B)としては、透明硬化性樹脂組成物(A)と本体用透明硬化性樹脂組成物(B)が相溶性(接着性を含む)を有し、機械的物性において繊維強化樹脂シートの構成材料としての機能を有する透明性樹脂から選択される。すなわち、この種の透明硬化性樹脂組成物としては、硬化性樹脂として、(メタ)アクリル系樹脂又はビニルエステル系樹脂が好ましい。特に(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーの重合により形成される重合体を主成分とする樹脂が好ましい。透明硬化性樹脂組成物には、これらの硬化性樹脂に重合開始剤、さらに、希釈を兼ねた重合性モノマーが含まれる場合もある。
【0027】
透明硬化性樹脂組成物(A)20a、透明硬化性樹脂組成物(B)20bが(メタ)アクリル系樹脂からなる場合、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーを含有する硬化性樹脂組成物が用いられる。重合性モノマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸エステルがある。
透明硬化性樹脂組成物(A)、(B)は、所望の透明性が得られる範囲内で、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを更に含有していてもよい。透明硬化性樹脂組成物(B)の粘度は100〜50000c Pであることが好ましく、800〜1000c Pであることがより好ましい。
透明硬化性樹脂組成物(B)の粘度が低いと液垂れが発生し易くなる傾向があり、硬化性樹脂組成物の粘度が高いと含浸不良となって、形成される透明樹脂層内に気泡が発生し易くなる傾向がある。
【0028】
透明硬化性樹脂組成物(A),(B)は、放射線硬化タイプであってもよく、この場合は、塗布後に放射線を照射して硬化させることができる。
放射線硬化性樹脂としては、放射線によって架橋ないし重合反応を起こして硬化するプレポリマー(又はオリゴマー)、単量体、或いは両者を混合したものを用いる。かかるプレポリマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、不飽和ポリエステル、エポキシ化合物等が用いられる。また、単量体としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどグリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルなどビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンなどオキセタン類等が用いられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する表記である。また、放射線としては、電子線等の粒子線、或いは紫外線、可視光線、X線等の電磁波が用いられる。特に、紫外線或いは可視光線で硬化させる場合には、通常、ベンゾフェノン、アセトフェノン、芳香族ヨウドニウム、メタロセン化合物等を光反応開始剤として添加する。
【0029】
透明硬化性樹脂組成物(A)としては、特にウレタンアクリレート樹脂(a)、重合性単量体(b)、光重合開始剤(c)、及び熱重合開始剤(d)を含有しているものを選択できる。さらに、本体用透明硬化性樹脂組成物(B)としても、ウレタンアクリレート樹脂(a)、重合性単量体(b)、光重合開始剤(c)、及び熱重合開始剤(d)を含有しているものを選択することが、繊維強化樹脂シートの高い剛性を確保できる点から望ましい。
【0030】
透明硬化性樹脂組成物(A)と本体用透明硬化性樹脂組成物(B)とは、相互に相溶性を求められる点及び、樹脂のリザーブタンクの統一化など設備の簡易化の観点から同一のものを使用することがより好ましい。
ただし、透明硬化性樹脂組成物(A)について、非通気性のバリア層を形成するための硬化速度等を考慮して、重合開始剤の種類や量を変更したりして本体用透明硬化性樹脂組成物(B)の組成とは異なるものを用いることも勿論可能である。
なお、透明硬化性樹脂組成物(A)と本体用透明硬化性樹脂組成物(B)は、ウレタンアクリレート樹脂(a)と共にビニルエステル樹脂を配合した組成としてもよい。
【0031】
キャリアフィルム上への透明硬化性樹脂(A)又はバリア層上への透明硬化性樹脂(B)の塗布には、一般的な塗工装置が使用でき、例えばグラビアリバース、グラビアダイレクト、三本リバース、ダイコートなどの中から選んで使用できる。
【0032】
図4は、本発明の製造方法の一例の全工程説明図である。図4に係る製造方法においては、先ず、キャリアフィルム21上に透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布し、塗布された液層(a)にカバーフィルム22を載置(積層)して、硬化炉70に導き、透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する工程(1)を経て、硬化炉70の出口側でカバーフィルム22を剥離し、剥離されたカバーフィルムを後の工程のカバーフィルムに使用すべく迂回させるカバーフィルムの剥離・迂回工程(2)を有している。
【0033】
図5は、図4の全工程図における、透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布、硬化しカバーフィルムを剥離する工程を拡大して示している。キャリアフィルム21上にリザーブタンク(図示省略)からポンプ41を経てノズル42から液状樹脂20a供給して液層20a'を形成し、塗布ローラー50によりキャリアフィルム21の幅方向に均一に塗布し、その上面にロール状に巻かれたカバーフィルム22を連続的に供給して、層状に塗布された液状樹脂層101'をキャリアフィルム21とで挟み込み、硬化炉70に導いて紫外線照射装置70aから紫外線を照射して、透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化した後、ガイドローラー53aを介してカバーフィルム22を剥離し、ガイドローラー53bを経て、後工程(図示省略)へ供給される。この剥離の操作性において、キャリアフィルム21の厚みT1とカバーフィルム22の厚みT2とが前述の所定の関係にあることを要する。
なお、硬化炉70は、透明硬化性樹脂組成物に熱硬化性樹脂を用いる場合は、加熱炉であってもよい。
【0034】
カバーフィルム22が剥離された硬化した透明硬化樹脂(A)は、コンクリート構造物の補強工事において、コンクリート構造物表面に塗布された未硬化状接着剤の漏出を防ぐため、ピンホール等の貫通孔のない非通気性バリア層として機能させる必要があり、重合性単量体(モノマー)が沸騰することなどのないように、樹脂組成や硬化条件を配慮せねばならない。
本発明において非通気性のバリア層とは、コンクリート表面に塗布された未硬化状の接着剤が、繊維強化樹脂本体層に万一ピンホールが存在する場合に漏出するのを防止するための層であり、JIS Z0208において水蒸気透過度を10g/m2・24h以下に抑える能力を有する層であることが好ましい。
カバーフィルムの易剥離性の観点から、硬化された非通気性バリア層101は、島津製作所製の微小圧縮試験機(MCTE−200)を用い、三角錐圧子(錘角115°)で25μm圧縮するのに必要な荷重が50〜100mNとなるように硬化することが好ましい。
前記バリア層の微小圧縮試験機による圧縮試験は、製造工程において切断してサンプリングし、キャリアフィルムを剥離したバリア層を、23℃、湿度50%の環境下で、SKS(合金工具鋼)平板に載置し、上部加圧圧子として、材質がダイヤモンドからなる三角錐圧子(錘角115°)を用いて測定する。
この試験において、25μm圧縮するのに必要な荷重が50mN未満の場合は、硬化が不良であり、カバーフィルムの剥離工程(2)において図6の(A)のように、バリア層101がカバーフィルム22に密着して、キャリアフィルム21から剥離してしまう。
一方、25μm圧縮するのに必要な荷重が100mNを超える場合は、反応開始剤を大量に投入すれば検証可能だが、室温で自発硬化する恐れがあり実用的ではない。
なお、カバーフィルムの剥離工程(2)において、剥離するカバーフィルム22の曲げ半径は、図6の(C)のように小さいほうが安定し、35mm以下とすることが好ましい。
【0035】
カバーフィルム22を剥離されたバリア層101は、その上に所定厚みの繊維強化樹脂本体層を形成するための透明硬化性樹脂組成物(B)20bを供給して液層20b'を形成し、ローラー54で均一に塗布した後、メッシュ体10を上面側から供給して、含浸ローラー55でメッシュ体10に、透明硬化性樹脂組成物(B)からなる液状樹脂20bを含浸し、次いで前述のカバーフィルムの剥離・迂回工程(2)により、剥離して迂回されたカバーフィルム22を載置して、メッシュ体10及び液状樹脂20bを挟み込んで、スクイズローラー56で含浸・脱泡、および厚み調整をし、硬化炉71での硬化、及び要すれば熱処理炉72での熱処理に供される。
なお、カバーフィルム22は、バリア層の硬化後にローラー53aの部分で剥離し、ガイドローラー53b〜53cを経て迂回され、再びスクイズローラー56の部分から供給して再利用するもので、ガイドローラー53b〜53c間には、テンションローラー(図示省略)を設けて、カバーフィルム22の張力を調整し、バリア層形成側のキャリアフィルム側との速度バランスを調整している。
【0036】
硬化炉71で硬化され、熱処理炉72により熱処理された繊維強化樹脂シートは、引取機60を経て、巻取機61により巻芯30上に巻き取られる。この段階では、キャリアフィルム及びカバーフィルムは保護層として積層されたままである。硬化炉71では、透明硬化性樹脂が、放射線や、熱により硬化され、さらに必要に応じて、熱処理炉72では、未硬化状モノマー等のアフターキュアと繊維強化樹脂シートの熱的安定性を向上させるための熱処理が行われる。
熱処理炉においては、繊維強化樹脂シートの端部を把持して、幅方向の自由な熱収縮を抑制することが好ましく、このためには、両端をピンテンター等で把持する方法等を挙げることができる。
【0037】
なお、硬化性樹脂組成物(A)及び/又は硬化性樹脂組成物(B)には粘着剤成分を含有してもよい。粘着剤成分(例えば粘着性付与剤)を含むことによって、施工時にコンクリート構造物側の接着剤層と接着し易くなって、施工がはかどるなどの効果が期待できる。また、保護フィルムとの粘着性向上により、繊維強化樹脂シートを有効に保護できる。
【0038】
本発明の製造方法により得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大図を図2に示す。同図においてメッシュ体の構成繊維がバリア層101側にも埋設した状態になっているが、これは一旦硬化したバリア層101の表面が、未硬化状の透明硬化性樹脂組成物(B)との接触によって相互の相溶性により膨潤するので、メッシュ体10が含浸ローラー55、第2スクイズローラー56等による作用を受けて、バリア層101側にもその一部が埋設される。バリア層とのかかる界面状態は、繊維強化樹脂シートとして、界面剥離が発生し難いので好ましい。なお、同図において、保護フィルム21及び22は、製造時にはキャリアフィルム21及びカバーフィルム22として使用されたものであり、繊維強化樹脂シートとして施工される時および施工後にはいずれも剥離される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
<海島型複合糸の製造>
芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分にメタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を使用し、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズル(240ホール)を用い、鞘/芯断面比が35/65となるように260℃で紡糸し、直結する延伸装置に導いて、0.42MPa、145℃の飽和水蒸気圧下で、延伸倍率13倍で延伸を行い、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合したトータル繊度1850dtex、フィラメント数240本の、芯のポリプロピレンを島成分、鞘の直鎖状低密度ポリエチレンを海成分とする海島型複合糸を得た(スピンドロー方式)。
この海島型複合糸の引張強度は、6.5cN/dtex、伸度は、15%、ヤング率は、92.0cN/dtex、140℃で測定した熱収縮率は、6.8%であった。
【0041】
<メッシュ体の作製及び親水化処理>
得られた海島型複合糸を、積層布製造装置に配置し、経方向、斜方向及び逆方向の3方向に、経糸、斜交糸及び逆斜交糸を10mmピッチで積層し、次いで表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して複合糸の海部樹脂を溶融し各層の複合糸が接着した3軸のメッシュ体を得た。目合いは10mm、単位面積当たりの質量は65g/m2であった。
得られた3軸積層布からなる連続したメッシュ状物10をコロナ放電処理装置(春日電機社製、機種名:発振器AGI−023、電極アルミ製6山)に通して、電圧、処理速度等を変更して、メッシュ体の改質度合いを濡れ指数45mN/mに調製した。なお、表面改質度(濡れ指数)の評価方法は、JIS K6768による濡れ性試験方法を用いた。
【0042】
実施例1
(バリア層の形成工程)
以下、図4及び図5を参照して本実施例を説明する。キャリアフィルムとして2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製:ルミラーS10、厚み50μm)21を繰り出し、該フィルム上にバリア層(バリア層)101を形成するために透明硬化性樹脂組成物(A)をポンプ41から供給して液層20a'を形成し、塗布ローラー50により均一な厚みで塗布した。
透明硬化性樹脂(A)は、ウレタンアクリレートとメタクリル酸エステルの混合液(日本ユピカ製:ネオポール8136)100質量部(希釈剤スチレンモノマーで粘度10000cPに調整、25℃)に有機過酸化物(日本油脂製、商品名:パーオクタO−70S)を2質量部および光硬化開始剤(チバ製、イルガキュア184)を2質量部添加して、図4に示す調合槽40aで撹拌し、リザーブタンク40からポンプ41によりノズル42から供給し液層20a'を形成した。これを塗布ローラー50により、硬化後の厚みが50μmとなるように調整した後、カバーフィルムとして2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製:ルミラーS10、厚み25μm)22により挟み込み、第1スクイズローラー52(51を含む)によりさらに厚みを均一化して、硬化炉70に導き、放射線(紫外線)照射装置70aからブラックライトにより紫外線を180秒照射して未硬化状の透明硬化性樹脂組成物(A)の液状物20aを硬化してバリア層101を形成した。しかる後、カバーフィルム22は、ローラー53a(直径Φ50mm)の部位で、バリア層101の表面(上面)から剥離し、ローラー53b、53cを介して次工程で使用するように迂回させ再利用することとした。カバーフィルム22は硬化したバリア層101から連続的にスムーズに剥離された。
なお、本実施例1では、バリア層を形成するための透明硬化性樹脂(A)とメッシュ体に含浸するために本体用透明硬化性樹脂(B)を同一とし、図4に示すように、配管及び供給ポンプのみを区別した。このように、同一の樹脂を使用すれば、相溶性の有無の判断の必要がなく、調合槽やリザーブタンクも同一にできるので、設備の簡略化を図ることができる。
【0043】
(本含浸工程及び硬化工程)
50μm厚のバリア層101を担持した2軸延伸PETフィルムからなるキャリアフィルム21上に、透明硬化性樹脂(B)〔透明硬化性樹脂(A)と同一〕の液状組成物20bをリザーブタンク40からポンプ43によりノズル48から供給して、液層20b'を形成し、塗布ローラー54により均一な厚み(1000μm)の液層とした。
この液層上にメッシュ体10を導き、含浸ローラー55で含浸し、さらにその上に前記工程で剥離したカバーフィルム22であるポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)で挟みこみ、第2スクイズローラー56で厚みを調整した。
その後、硬化炉71で紫外線(UV)照射を5分間行い、次いで熱処理炉72に導いて100℃で10分間加熱することにより、硬化及び熱処理を行って繊維強化樹脂シート100を得た。
得られた繊維強化樹脂シートは、厚みが520μm、単位質量500g/m2であり、気泡が大幅に減少し、ピンホールは確認できなかった。
なお、バリア層形成後にサンプリングしたバリア層について測定した、島津製作所製微小圧縮試験機により25μm圧縮するのに必要な荷重は68mNであった。
バリア層の形成条件、本体層の硬化条件、および結果等についてまとめて表1に示す。
【0044】
実施例2
実施例1のブラックライトによる照射時間を2分に減らした他は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は安定していた。結果をまとめて表1に示す。
【0045】
実施例3
実施例1の透明硬化性樹脂(A)の有機過酸化物を4質量部に増量した他は実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0046】
実施例4
実施例1において、キャリアフィルムに25μmの2軸延伸PETフィルム(東レ製:ルミラーS10)を、カバーフィルムとして12μmの2軸延伸PETフィルム(東レ製:ルミラーS10)を使用しその他は実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0047】
実施例5
実施例1においてカバーフィルムとして12μmのPETフィルム(東レ製:ルミラーS10)を使用した他は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0048】
実施例6
実施例1のキャリアフィルムに代えて、100μmの2軸延伸PETフィルム(東レ製:ルミラーS10)を使用した他は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0049】
実施例7
実施例1において、バリア層厚みが100μmになるように第1スクイズローラー52で調整しバリア層101を形成した他は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0050】
実施例8
実施例1においてバリア層の厚みが30μmになるように第1スクイズローラー52で調整しバリア層101を形成した他は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルムの剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0051】
実施例9
実施例1において、バリア層の樹脂硬化方法を100℃で5分間の加熱硬化とした他は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、バリア層からのカバーフィルム22の剥離は円滑であった。結果をまとめて表1に示す。
【0052】
実施例10
実施例1においてブラックライトの照射時間を90秒に減らしたところ、キャリアフィルム21及びカバーフィルム22のどちらにもバリア層が密着しやすい傾向が確認されたが、工程中において、バリア層からのカバーフィルム22の剥離性は、実施例1から9よりは劣るものの、ほぼトラブルなくシートを作成することができた。結果をまとめて表1に示す。
【0053】
比較例1
実施例1において、カバーフィルム22として厚さ50μmの2軸延伸PETフィルム(東レ製:ルミラーS10)を使用した他は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを作製したが、工程中において、キャリアフィルム21及びカバーフィルム22のどちらにもバリア層が密着して、キャリアフィルム21上のバリア層として安定して連続的にメッシュ体の含浸工程へ供給することが困難であった。結果をまとめて表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法は、透明な硬化樹脂からなるバリア層とメッシュ体を内包する繊維強化樹脂本体層とが積層一体化されたコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートを連続して、安定的かつ低コストで得る方法として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 補強繊維(海島型複合糸)
3 芯部(島部)
5a 鞘部
5 海部
9 芯鞘型複合単繊維
10 メッシュ体
11 下経糸(層)
12 上経糸(層)
13 斜交糸(層)
14 逆斜交糸(層)
15 芯鞘型複合単繊維束
20 透明硬化樹脂層
20a(20b) 液状樹脂
20a'、20b'(未硬化状)液層
21 キャリアフィルム(兼保護フィルム)
22 カバーフィルム(兼保護フィルム)
30 巻芯
40 リザーブタンク
40a 調合槽
41、43 ポンプ(樹脂供給ポンプ)
42、48 ノズル
50、54、55 塗布ローラー
51、52 第1スクイズローラー
53a、53b、53c ガイドローラー
56 第2スクイズローラー
60 引取りローラー
61 巻取機
70、71 硬化炉
70a 放射線(紫外線)照射装置
72 熱処理炉
100 繊維強化樹脂シート
101 バリア層
102 繊維強化樹脂本体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ体に透明硬化性樹脂を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法であって、下記の工程(1)〜(5)を含むことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
工程(1):キャリアフィルム及びカバーフィルムが共にポリエステル系フィルムであり、キャリアフィルムの厚みT1が25〜100μm、カバーフィルムの厚みT2が12〜50μmであり、かつ、厚みの比T1/T2が1.5〜5である、キャリアフィルム及びカバーフィルムをそれぞれ選択し、
該キャリアフィルム上に、厚みが30〜100μmで非通気性のバリア層を形成するための透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布して液層(a)を形成し、該液層(a)を該カバーフィルムで挟み込んで硬化炉に導き、透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化する工程。
工程(2):前記キャリアフィルム上の硬化された透明硬化樹脂からなるバリア層の表面からカバーフィルムを剥離して、該剥離されたカバーフィルムを後工程のカバーフィルムに使用すべく迂回させるカバーフィルムの剥離・迂回工程。
工程(3):前記カバーフィルムが剥離されたバリア層の上面に、メッシュ体に含浸するための本体用透明硬化性樹脂組成物(B)を塗布して液層(b)を形成する工程。
工程(4):前記液層(b)の上面にメッシュ体を導いて液層(b)中に進入させ、さらに前記工程(2)で剥離されたカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(B)を含浸する本含浸工程。
工程(5):前記含浸された本体用透明硬化性樹脂(B)を硬化する工程。
【請求項2】
前記本体用透明硬化性樹脂組成物(B)が、ウレタンアクリレート樹脂(a)、重合性単量体(b)、光重合開始剤(c)、及び熱重合開始剤(d)を含有する、請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記硬化後の透明硬化樹脂からなるバリア層が、島津製作所製微小圧縮試験機(MCTE−200)を用い、三角錐圧子(錘角115°)で25μm圧縮するのに必要な荷重が50〜100mNとなるように硬化する、請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記メッシュ体が積層布であって、海島型複合糸を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記メッシュ体が親水化処理されている請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記本体用透明硬化性樹脂組成物(B)が、バリア層形成のための前記透明硬化性樹脂組成物(A)と同一組成である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−92238(P2012−92238A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241220(P2010−241220)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】