説明

繊維強化樹脂シートの製造装置及びその製造方法

【課題】マトリクス樹脂を強化繊維基材に良好に含浸することができる繊維強化樹脂シートの製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】一対の押圧部材の間に、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材Fと、流動可能な状態のマトリクス樹脂Pとを供給し、一対の押圧部材11、12で、強化繊維基材Fとマトリクス樹脂Pとを押圧することにより、強化繊維基材Fにマトリクス樹脂Mを含浸させる繊維強化樹脂シートの製造方法である。一対の押圧部材11、12のうち少なくとも一方の押圧部材11として、表面に複数の突起11aが形成された押圧部材を用い、一対の押圧部材11、12の間において、強化繊維基材Fを押圧することにより、複数の突起11aで強化繊維をほぐしながら、マトリクス樹脂Pを強化繊維基材Fに含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に引き揃えられた強化繊維基材の繊維間に、流動状態のマトリクス樹脂を、好適に含浸することができる繊維強化樹脂シートの製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂からなるマトリクス樹脂を、強化繊維からなる強化繊維基材に含浸させた繊維強化複合材料(繊維強化樹脂材料)は、金属材料に比べて軽量かつ高弾性であり、高分子樹脂のみに比べて高強度であるので、車両用の部材等の適用に注目されている材料である。
【0003】
強化繊維の本来の特性である、引張に対する高強度及び高弾性の特徴を活かすためには、一方向に引き揃えられた強化繊維を強化繊維基材とし、この強化繊維基材に予め高分子樹脂を含浸、または半含浸させて、プリプレグシート(繊維強化樹脂シート)として使用されるのが一般的である。
【0004】
このようなマトリクス樹脂を含浸させる方法として、例えば、開繊されたシート状の強化繊維基材に、溶融状態の帯状のマトリクス樹脂を会合させて、強化繊維基材にマトリクス樹脂を含浸させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−29912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すような含浸方法を利用して、開繊した強化繊維基材に、マトリクス樹脂を含浸しようとしても、強化繊維基材にマトリクス樹脂が十分含浸されず、強化繊維とマトリクス樹脂とが充分に混ざらないことがあった。特に、マトリクス樹脂が、熱可塑性樹脂の場合には、溶融状態であってもその粘度は未硬化の熱硬化性樹脂に比べて高いため、このような現象はより顕著なものであった。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて成されたものであり、マトリクス樹脂を強化繊維基材に良好に含浸することができる繊維強化樹脂シートの製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、含浸時において、強化繊維基材の強化繊維およびマトリクス樹脂を、幅方向および厚さ方向に積極的に移動させることにより、強化繊維間に存在する気泡を脱気し、この強化繊維間にマトリクス樹脂を好適に含浸できるとの新たな知見を得た。
【0009】
本発明は、この新たな知見に基づくものであり、本発明に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、一対の押圧部材の間に、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材と、流動可能な状態のマトリクス樹脂とを供給し、前記一対の押圧部材で、前記強化繊維基材と前記マトリクス樹脂とを押圧することにより、前記強化繊維基材に前記マトリクス樹脂を含浸させる繊維強化樹脂シートの製造方法であって、前記一対の押圧部材のうち少なくとも一方の押圧部材として、表面に複数の突起が形成された押圧部材を用い、該一対の押圧部材の間において、前記強化繊維基材を押圧することにより、前記複数の突起で前記強化繊維をほぐしながら、前記マトリクス樹脂を前記強化繊維間に含浸させることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、押圧部材による押圧時に、押圧部材の表面に形成された複数の突起で、一方向に引き揃えられた強化繊維基材の強化繊維が幅方向および厚さ方向に分散(移動)するように強化繊維がほぐされ、押圧部材の押圧力により、このほぐされた強化繊維間に存在する気泡を脱気し、この強化繊維間に流動可能な状態のマトリクス樹脂が入り込む。これにより、強化繊維間にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを得ることができる。
【0011】
本発明でいう「繊維強化樹脂シート」とは、強化繊維基材と、この強化繊維基材に含浸されたマトリクス樹脂と、からなる複合材であり、強化繊維と合わせて所定の強度を保つことができるのであれば、特にその種類は限定されるものではない。また、本発明でいう「強化繊維基材」とは、一方向に引き揃えられた強化繊維束のことをいう。
【0012】
また、「マトリクス樹脂」とは、この強化繊維同士を繋ぐための高分子樹脂のことをいい、マトリクス樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれの樹脂を用いてもよい。また、「流動可能な状態のマトリクス樹脂」とは、熱可塑性樹脂の場合には、加熱して軟化した状態の熱可塑性樹脂のことをいい、熱硬化性樹脂の場合には、未硬化の状態の熱硬化性樹脂のことをいう。
【0013】
このような一対の押圧部材は、強化繊維基材の強化繊維間に、流動可能な状態のマトリクス樹脂を含浸させるべく、いずれか一方の表面に複数の突起が形成され、一対の押圧部材の間に、供給された前記強化繊維基材とマトリクス樹脂とを押圧し、マトリクス樹脂を含浸させることができるのであれば、特に、この押圧部材は限定されるものではない。例えば、平板状の押圧部材、ロール状の押圧部材、いずれの押圧部材を用いてもよい。また、このような突起は、この押圧部材に機械的又は化学的に表面処理を行うことにより形成してもよい。
【0014】
しかしながら、好ましい態様としては、前記突起が形成された押圧部材として、押圧基材の表面に、前記複数の突起が形成されたシート材を配置した部材を用い、該シート材として、シート基材の表面に、前記強化繊維基材の強化繊維よりも硬質である硬質粒子を付着させることにより前記複数の突起が形成されたシート材を用いる。
【0015】
この態様によれば、複数の突起が形成されたシート材を用いることにより、押圧基材の形状が、平板状であっても、ロール状であっても、このシート材を押圧基材の表面に容易に配置することができ、押圧部材の表面に突起を形成することができる。また、シート材を用いることにより、押圧基材の表面にマトリクス樹脂が付着することを防止することができる。
【0016】
例えば、ロール状の押圧基材を用いる場合、シート材をベルト状にして、押圧基材の表面に巻き付けてもよい。さらに、シート材は、シート基材の表面に、上述した硬質粒子を分散して付着させることにより前記複数の突起が形成されるので、強化繊維の繊維径、強化繊維の材質等に応じて、硬質粒子の粒径及び材質を選定し、これをシート基材の表面に分散させることができる。
【0017】
例えば、押圧基材は、金属製等からなる押圧部材の基材となるものであって、押圧時に塑性変形しないような剛性を有し、例えば、平板状、ロール状の金属製の基材を挙げることができる。
【0018】
またシート基材は、シート材の基材となるものであって、例えば、紙、布等を挙げることができ、硬質粒子は、シート基材に接着剤等を介して付着している。硬質粒子としては、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などのセラミックス粒子などを挙げることができる。従って、シート材として、例えば、研磨紙、研磨布などを用いてもよい。
【0019】
また、より好ましい態様としては、前記突起が形成された押圧部材の表面の中心線平均粗さRaは、8μm以上である。押圧部材の表面をこのような表面粗さにすることにより、複数の突起で強化繊維基材の強化繊維をほぐしながら、マトリクス樹脂を前記強化繊維間に含浸させることができる。すなわち、突起が形成された押圧部材の表面の中心線平均粗さRaが8μm未満の場合には、押圧時に、突起により強化繊維を充分ほぐすことができないため、強化繊維間にマトリクス樹脂が含浸できないことがある。
【0020】
さらにより好ましくは、前記突起が形成された押圧部材の表面側に、前記強化繊維基材が接触するように、前記強化繊維基材を供給する。この態様によれば、突起が形成された押圧部材の表面に、強化繊維基材が供給されるので、強化繊維基材の強化繊維を複数の突起に直接的に接触させて、強化繊維をほぐすことができる。
【0021】
また、本願において、繊維強化樹脂シートの製造装置をも開示する。本発明に係る繊維強化樹脂シートの製造装置は、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材に、流動可能な状態のマトリクス樹脂を含浸させるべく、供給された前記強化繊維基材とマトリクス樹脂とを押圧する一対の押圧部材を備えた繊維強化樹脂シートの製造装置であって、前記一対の押圧部材のうち少なくとも一方の押圧部材の表面には、該一対の押圧部材の間において、前記強化繊維基材を押圧することにより、前記強化繊維をほぐすための複数の突起が形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、一対の押圧部材の間に、強化繊維基材と、流動可能な状態のマトリクス樹脂とを供給し、一対の押圧部材で、強化繊維基材とマトリクス樹脂とを押圧することにより、押圧部材の表面に形成された複数の突起で強化繊維をほぐしながら、マトリクス樹脂を強化繊維間に含浸させることができる。
【0023】
より好ましい態様としては、前記突起を有した押圧部材は、押圧基材の表面に前記複数の突起が形成されたシート材を配置した部材であり、該シート材は、シート基材の表面に、前記強化繊維基材の強化繊維よりも硬質である硬質粒子を付着させることにより、前記複数の突起が形成されている。この態様によれば、押圧基材の表面にマトリクス樹脂が付着することを防止することができる。また、硬質粒子およびシート基材の組合せは、上述した如くである。
【0024】
さらに、より好ましい態様としては、前記突起が形成された押圧部材の表面の中心線表面粗さRaは、8μm以上である。押圧部材の表面をこのような表面粗さにすることにより、複数の突起で強化繊維基材の強化繊維をほぐしながら、マトリクス樹脂を前記強化繊維間に含浸させることができる。
【0025】
また、好ましい態様としては、前記突起が形成された押圧部材の表面に、前記強化繊維基材が接触するように、前記強化繊維基材が供給されるように構成されている。この態様によれば、強化繊維基材の強化繊維を、複数の突起に直接接触させて、強化繊維をほぐすことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、押圧部材により、マトリクス樹脂を強化繊維基材に良好に含浸することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的概念図であり、(a)は、繊維強化樹脂シートの製造時における製造装置の模式的斜視図、(b)は、(a)の部分断面図、(c)は、強化繊維間へのマトリクス樹脂の含浸を説明するための概念図。
【図2】図1に示す製造装置の別の形態を示した模式的断面図であり、(a)は、第2実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的な部分断面図、(b)は、その変形例を示した部分断面図。
【図3】本発明の別の形態を示した模式的断面図であり、(a)は、第3実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の部分断面図であり、(b)は、その変形例を示した部分断面図。
【図4】第4実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的断面図。
【図5】実施例1、2および比較例に係る押圧部材(シート材)の表面粗さを測定した結果であり、(a)は、実施例1に係る押圧部材の表面粗さの測定結果を示した図、(b)は、実施例2に係る押圧部材の表面粗さの測定結果を示した図、(c)は、比較例2に係る押圧部材の表面粗さの測定結果を示した図。
【図6】実施例1、2および比較例に係る繊維強化樹脂シートの断面写真図であり、(a)は、実施例1に係る繊維強化樹脂シートの断面写真図、(b)は、実施例2に係る繊維強化樹脂シートの断面写真図、(c)は、比較例1に係る繊維強化樹脂シートの断面写真図、(d)は、比較例2に係る繊維強化樹脂シートの断面写真図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面に基づき、本発明に係る繊維強化樹脂シートを好適に製造することができる製造装置のいくつかの実施形態を説明する。
【0029】
図1は、本発明の第1実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的概念図であり、(a)は、繊維強化樹脂シートの製造時における製造装置の模式的斜視図、(b)は、(a)の断面図、(c)は、強化繊維間へのマトリクス樹脂の含浸を説明するための概念図。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置10は、一対の平板状の押圧部材11、12を備えており、押圧部材は、鋼鉄、アルミニウム等の金属からなる。この押圧部材11、12のうち一方(上側)の押圧部材11には、シリンダおよびピストンからなる押圧手段13が連結され、下側の押圧部材12は固定されている。なお、ここでは、下側の押圧部材12は固定されているが、上側の押圧部材11と同じ構成の押圧手段で連結されていてもよい。
【0031】
さらに、押圧部材11の表面(対向面)には、一対の押圧部材11、12の間において、後述する強化繊維基材Fを押圧することにより、強化繊維fをほぐすための複数の突起(微小突起)11a、…が形成されている。また、突起11a、…が形成された押圧部材11の表面の中心線平均粗さRaは、8μm以上である。押圧部材11の表面粗さは、放電ダル加工、ショットブラスト等機械的な表面処理加工、エッチングによる化学的な表面処理加工により、得ることができる。
【0032】
さらに、下側の押圧部材12の対向面は、押圧部材11の如く突起がない平坦な表面(上側の押圧部材11の表面の表面粗さよりもその表面粗さが小さい表面)であり、押圧部材12の内部には、ヒータなどの加熱手段(図示せず)が設けられている。
【0033】
この加熱手段により、マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂を用いた場合には、押圧時(含浸時)に熱可塑性樹脂を加熱して、流動可能な状態にまで、軟化させることができる。一方、熱硬化性樹脂を用いた場合には、未硬化の熱硬化性樹脂を強化繊維間に含浸後、加熱して硬化させることができる。
【0034】
なお、ここでは、下側の押圧部材12の対向面は、平坦な表面であるが、後述する強化繊維をほぐすことができるのであれば、上側の押圧部材11と同様の表面性状であってもよい。
【0035】
このような製造装置10を用いて、繊維強化樹脂シートSを製造する。まず、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材Fと、シート状のマトリクス樹脂Pを準備する。強化繊維基材Fは、繊維強化樹脂シートを強化するための強化繊維からなる繊維束そのものであってもよく、より好ましくは、開繊された強化繊維束である。さらに、繊維を好適にほぐし、繊維強化樹脂シートに対する強化繊維として機能するためには、強化繊維基材Fの強化繊維の繊維径は、5〜15μmの範囲にあることが好ましく、強化繊維基材の厚さは、20〜300mmの範囲が好ましい。
【0036】
また、強化繊維基材Fを構成する強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、有機繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維が挙げられる。
【0037】
シート状のマトリクス樹脂Pは、強化繊維同士を繋ぐための高分子樹脂であり、その厚さは、20〜300mmの範囲にあることが好ましい。また、本実施形態では、マトリクス樹脂Pとして、熱可塑性樹脂を準備する。しかしながら、熱硬化性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂の場合、未硬化の状態の熱硬化性樹脂を準備する。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、結晶性熱可塑性樹脂や非結晶性熱可塑性樹脂を使用でき、例えば、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、またはABS系樹脂などを挙げることができ、これらよりも、より融点の高い(軟化点の高い)熱可塑性樹脂であってもよい。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、繊維強化樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂等を挙げることができる。
【0039】
このようにして準備した強化繊維基材Fとマトリクス樹脂Pとを、一対の押圧部材11、12の間に配置する。このとき、強化繊維基材Fが、押圧時において、押圧部材11の突起11aが形成された表面に直接接触するように、この表面側に、強化繊維基材Fを配置する。ここでは、製造装置10は、一般的に知られた搬送手段(図示せず)等を用いることにより、突起11aが形成された押圧部材11の表面側に、強化繊維基材Fが供給(配置)されるように構成されていてもよい。
【0040】
次に、配置された強化繊維基材Fとマトリクス樹脂Pとを押圧手段13を用いて押圧する。この際に、マトリクス樹脂Pが熱可塑性樹脂である場合、下側の押圧部材12の加熱手段により、マトリクス樹脂を加熱し軟化させる。
【0041】
このようにして、図1(c)に示すように、押圧部材11による押圧時に、押圧部材11の表面に形成された複数の突起11aで、一方向に引き揃えられた強化繊維基材の強化繊維fが繊維強化樹脂シートの幅方向および厚さ方向に分散(移動)するように強化繊維fがほぐされる。そして、このほぐされた強化繊維f、f間の気泡が外部に送り出されると共に、この強化繊維f、f間に、流動可能な状態のマトリクス樹脂Pが入り込む。これにより、強化繊維f、f間にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを得ることができる。
【0042】
図2は、図1に示す製造装置の別の形態を示した模式的断面図であり、(a)は、第2実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的な部分断面図、(b)は、その変形例を示した部分断面図である。
【0043】
図2(a)に示す製造装置が、図1に示す製造装置と相違する点は、上側の押圧部材であり、図2(b)に示す製造装置が、図1に示す製造装置と相違する点は、一対の押圧部材である。したがって、以下の相違する点のみを説明し、同じ構成の部材に関しては、その詳細な説明を省略する。
【0044】
図2(a)に示すように、第2実施形態に係る製造装置10Aの上側の押圧部材11Aは、複数の突起が形成されており、具体的には、押圧基材15の表面に、複数の突起が形成されたシート材16を配置した部材である。シート材16は、シート基材16aの表面に、強化繊維基材の強化繊維よりも硬質である硬質粒子16bを付着させることにより複数の突起が形成されたシート材である。またこのシート材16の中心線平均粗さRaは、8μm以上である。
【0045】
押圧基材15は、金属製等の基材であって、押圧時に塑性変形しないような剛性を有し、例えば、平板状基材である。また、硬質粒子16bとしては、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、などのセラミックス粒子を挙げることができ、強化繊維よりも硬質であることが好ましい。シート基材16aとしては、布、紙等の可撓性を有した基材を挙げることができ、硬質粒子は、シート基材16aに接着剤等を介して付着している。
【0046】
この態様によれば、複数の突起が形成されたシート材16を用いることにより、押圧基材15の表面に、シート材16を配置することができ、押圧部材11Aの表面に突起を形成することができる。また、シート材16を用いることにより、押圧基材15の表面にマトリクス樹脂が付着することを防止することができる。
【0047】
シート材16は、シート基材16aの表面に、硬質粒子16bを分散して付着させることにより複数の突起が形成されるので、強化繊維の繊維径、強化繊維の材質等に応じて、硬質粒子の粒径及び材質を選定し、これをシート基材16aの表面に分散させることができる。
【0048】
さらに、図2(b)に示すように、製造装置10Bの下側の押圧部材12Aは、図2(a)に示す押圧部材11Aと同様に、押圧部材11Aに対向する表面に複数の突起が形成されており、押圧基材15の表面に、複数の突起が形成されたシート材16を配置した部材であってもよい。
【0049】
このような製造装置を用いた場合、上側及び下側の押圧部材11A、12Aの表面側に、強化繊維基材F1、F2を配置し、強化繊維基材F1、F2の間に、マトリクス樹脂Pを配置することにより、強化繊維基材F1、F2は、押圧部材11A、12Aに直接接触させ、これらの強化繊維を直接的にほぐすことができる。これにより、強化繊維を好適にほぐし、マトリクス樹脂Pを強化繊維間に含浸することができる。
【0050】
図3は、本発明の別の形態を示した模式的断面図であり、(a)は、第3実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の部分断面図であり、(b)は、その変形例を示した部分断面図である。
【0051】
図3(a)に示すように、本実施形態に係る繊維強化樹脂シート製造装置20は、シート状の強化繊維基材Fと、マトリクス樹脂Pとを、一対の押圧部材として、ロール21、22間に導入し、一対のロールを回転させながら強化繊維基材Fにマトリクス樹脂Pが含浸されることにより、繊維強化樹脂シートSを製造することを目的とした装置である。
【0052】
図3に示すように、本実施形態に係る製造装置20は、一対のロール21、22間に導入される強化繊維基材Fを供給する強化繊維供給部31と、一対のロール21、22間に導入されるマトリクス樹脂Pを供給する樹脂供給部32と、を備えている。
【0053】
強化繊維供給部31は、シート状に連続繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材Fを搬送方向Tに沿って供給するものであり、供給前の強化繊維基材Fは、コイル状に巻き付けられた巻体とされている。また、強化繊維供給部31には、この巻体から巻き解かれたシート状の強化繊維基材Fが、後述するロール21、22間のうちロール21側に直接接触するように配置されている。
【0054】
一方、樹脂供給部32は、本実施形態では、その一例として、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には、これを軟化点以上に溶融して、樹脂吐出口であるダイ(ノズル)を介してシート状の溶融したマトリクス樹脂Pを連続して成形するものである。樹脂供給部32は、溶融したシート状の熱可塑性樹脂が、一対のロール21、22間に供給可能なように、一対のロール21、22の上方に配置されている。
【0055】
ここで、一対のロール21、22は、水平方向に並んで配置されており、その内部には、円柱空間が形成され、加熱された媒体(例えば水など)が導入される。これにより、一対のロール21、22の周面を加熱することができる。
【0056】
また、ロール21の表面には、図1に示したのと同様に、強化繊維基材Fを押圧することにより、強化繊維をほぐすための複数の突起(図示せず)が形成されており、表面の中心線平均粗さRaは、8μm以上である。さらに、他方のロール22は、図1に示した下側の押圧部材12と同じ表面粗さであり、ロール22には、シリンダおよびピストンからなる押圧手段23が連結され、ロール21は固定されている。
【0057】
このような構成とすることにより、強化繊維基材Fは、突起が形成されたロール21に接触し、この表面に形成された複数の突起で、一方向に引き揃えられた強化繊維基材Fの強化繊維が幅方向および厚さ方向に分散(移動)するように強化繊維が連続的にほぐされる。そして、このほぐされた強化繊維間の気泡は押圧時の圧力により送り出さると共に、この送り出された箇所に、軟化したマトリクス樹脂Pが入り込む。これにより、強化繊維間にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートSを得ることができる。
【0058】
図3(b)は、一対のロールを連続して配置した変形例である。図3(a)に示す構成と同じ機能の構成は、同じ符号を付して、その詳細の説明を省略する。図3(b)に示すように、製造装置20Aは、押圧基材としての一対のロール25、25が、搬送方向Tに2組配置されており、その搬送方向Tに並んだそれぞれのロール25、25同士の表面は、シート材26がベルト状に巻きつけられている。シート材26は、図2(a)、(b)に示したシート材と同じ構成である。また、2つの強化繊維供給部31は、供給した強化繊維基材Fが、シート材26の表面に直接接触するように配置されている。
【0059】
このような製造装置20Aを用いた場合、各シート材26の表面に、強化繊維基材F1、F2が供給され、強化繊維基材F1、F2の間に、マトリクス樹脂Pを配置することにより、強化繊維基材F1、F2は、押圧部材11Aに直接接触することができるので、強化繊維を好適にほぐし、マトリクス樹脂Pを強化繊維間に含浸することができる。
【0060】
図4は、第4実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的概念図である。図4に示す製造装置は、図3(a)に示す製造装置に対して、一対のロールのうち、一方のロールの形状が相違する。従って、図3(a)の製造装置の構成と同じ機能の構成は、同じ符号を付して、その詳細の説明を省略する。
【0061】
図4に示すように、繊維強化樹脂シートの製造装置40のロール(押さえロール)42は、ロール(主ロール)21を押さえるロールであって、押圧手段23の押圧力により、押さえロール42は、押さえロール42の周面が主ロール21の周面の形状に倣って変形して、ロール間に供給物が無いときには、これらのロール同士が面圧着するように構成されている。また、押さえロール42の表面粗さは、図3に示すロール22の表面粗さと同等である。
【0062】
押さえロール42は、押圧手段23の押圧力により主ロール21の周面の形状に倣って変形する薄肉金属外筒44と、薄肉金属外筒44の内部において筒状空間S2が形成されるように、薄肉金属外筒44に内挿された軸芯体47と、を少なくとも備えている。また、薄肉金属外筒44の周面部分の可撓性を高めるべく、薄肉金属外筒44の肉厚をt、ロール半径をrとしたとき、t/r≦0.03の関係を満たしていることが好ましい。また、筒状空間S2の内部には、加熱された媒体(例えば水など)が導入される。
【0063】
このような製造装置40を用いた場合、強化繊維基材Fは、突起が形成された主ロール21と、これを押圧する押さえロール42と間で面接触し、この主ロール21の表面に形成された複数の突起で、強化繊維基材Fの強化繊維が幅方向および厚さ方向に分散(移動)するように強化繊維が連続的にほぐされる。そして、このほぐされた強化繊維間に、軟化したマトリクス樹脂Pが入り込み、強化繊維間にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明の実施例を説明する。
〔実施例1〕
以下に示す実施例は、上述した図2(b)に示す製造装置を用いて製造した。具体的には、上側の押圧部材として、280mm×300mmの鉄製の押圧基材を準備し、この押圧基材の表面にシート材として、クラフト紙にアルミナからなる硬質粒子を分散した研磨紙(#500)を準備した。なお、シート材の表面粗さを、触針式の表面粗さ計で測定したところ、図5(a)に示すように、中心線平均粗さRa8.04μmであった。下側の押圧基材は、平坦な表面(中心線平均粗さRa0.02μm)であった。
【0065】
次に、強化繊維基材として、強化繊維が一方向に引き揃えられた厚さ20mm、繊維径7μmの炭素繊維基材と、マトリクス樹脂として、6−ナイロンを準備し、これらを一対の押圧部材の表面に配置し、プレス前に、300℃の温度条件で、30秒間、強化繊維基材を予熱し、温度30℃で加熱してマトリクス樹脂を流動可能な状態とし、圧力6MPaで、3秒、これらを押圧して、マトリクス樹脂を強化繊維基材に含浸させ、繊維強化樹脂シートを製造した。そして、この繊維強化樹脂シートの断面を顕微鏡観察した。この結果を、図6(a)に示す。
【0066】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、繊維強化樹脂シートを製造した。実施例1と相違する点は、シート材の硬質粒子の大きさを変更して、シート材の中心線平均粗さRaを20.3μmにした点(研磨紙(#180)を用いた点)である(図5(b)参照)。そして、この繊維強化樹脂シートの断面を顕微鏡観察した。この結果を、図6(b)に示す。
【0067】
〔比較例1〕
実施例1と同様に、繊維強化樹脂シートを製造した。実施例1と相違する点は、シート材を用いなかった点である。すなわち、上側の押圧基材の表面は、下側の押圧基材と同じにした点である。そして、この繊維強化樹脂シートの断面を顕微鏡観察した。この結果を図6(c)に示す。
【0068】
〔比較例2〕
実施例1と同様に、繊維強化樹脂シートを製造した。実施例1と相違する点は、シート材(研磨紙)の硬質粒子の大きさを変更して、シート材の中心線平均粗さRaを3.94μmにした点(研磨紙(#1000)を用いた点)である(図5(c)参照)。そして、この繊維強化樹脂シートの断面を顕微鏡観察した。この結果を、図6(d)に示す。
【0069】
〔結果〕
図6(a)(b)に示すように、実施例1及び2の繊維強化樹脂シートは、比較例1及び2のものに比べて、強化繊維基材の繊維束にマトリクス樹脂が良好に含浸されていた。また、実施例1及び2の繊維強化樹脂シートの厚みは、70μm〜80μmの範囲にあり、比較例1及び2のもの(90μm程度)に比べて薄かった。
【0070】
実施例1及び2繊維強化樹脂シートは、繊維束内に樹脂が侵入しており、実施例1の場合には、特に研磨紙側でその傾向か顕著であり、さらに実施例2の場合には、厚さ方向全体で、樹脂/繊維が均一化する傾向にあった。
【0071】
比較例1の繊維強化樹脂シートは、図6(c)に示すように、マトリクス樹脂が強化繊維基材に均一に含浸せず、繊維間に気泡が残存し、これが別々に存在していることが確認できた。比較例2の繊維強化樹脂シートは、図6(d)に示すように、繊維束内に樹脂が充分に侵入していなかった。
【0072】
〔考察〕
実施例1及び2の繊維強化樹脂シートは、シート材の表面に形成された複数の突起により、表面に微小圧力勾配が作用し、この結果、強化繊維が繊維強化樹脂シートの幅方向及び厚さ方向に移動し(ほぐされ)、これにより繊維間の気泡が送り出され、強化繊維基材へのマトリクス樹脂の含浸が促進されたと考えられる。これにより、実施例1及び2の繊維強化樹脂シートの厚みは、比較例1及び2のものに比べて、薄くなったと考えられる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0074】
上述した実施形態では、突起が形成された押圧部材(ロール)の表面側に、直接接触するように、強化繊維基材を供給するようにしたが、複数の突起で強化繊維基材をほぐすことができるのであれば、突起が形成された押圧部材(ロール)の表面側に、マトッリクス樹脂を接触するように、マトリクス樹脂を供給してもよい。
【符号の説明】
【0075】
10、10A:繊維強化樹脂シート製造装置、11、11A、12:押圧部材、11a:突起、13:押圧手段、15:押圧基材、16:シート材、16a:シート基材、16b:硬質粒子、20、20A:繊維強化樹脂シート製造装置、21、22:ロール(押圧部材)、23:押圧手段、25:ロール(押圧基材)、26:シート材、31:強化繊維供給部、32:樹脂供給部、40:繊維強化樹脂シート製造装置、42:押さえロール、44:薄肉金属外筒、47:軸芯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の押圧部材の間に、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材と、流動可能な状態のマトリクス樹脂とを供給し、前記一対の押圧部材で、前記強化繊維基材と前記マトリクス樹脂とを押圧することにより、前記強化繊維基材に前記マトリクス樹脂を含浸させる繊維強化樹脂シートの製造方法であって、
前記一対の押圧部材のうち少なくとも一方の押圧部材として、表面に複数の突起が形成された押圧部材を用い、
該一対の押圧部材の間において、前記強化繊維基材を押圧することにより、前記複数の突起で前記強化繊維をほぐしながら、前記マトリクス樹脂を前記強化繊維間に含浸させることを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記突起が形成された押圧部材として、押圧基材の表面に、前記複数の突起が形成されたシート材を配置した部材を用い、該シート材として、シート基材の表面に、前記強化繊維基材の強化繊維よりも硬質である硬質粒子を付着させることにより前記複数の突起が形成されたシート材を用いることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記突起が形成された押圧部材の表面の中心線平均粗さRaは、8μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記突起が形成された押圧部材の表面側に、前記強化繊維基材が接触するように、前記強化繊維基材を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維基材に、流動可能な状態のマトリクス樹脂を含浸させるべく、供給された前記強化繊維基材とマトリクス樹脂とを押圧する一対の押圧部材を備えた繊維強化樹脂シートの製造装置であって、
前記一対の押圧部材のうち少なくとも一方の押圧部材の表面には、該一対の押圧部材の間において、前記強化繊維基材を押圧することにより、前記強化繊維をほぐすための複数の突起が形成されていることを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
前記突起を有した押圧部材は、押圧基材の表面に、前記複数の突起が形成されたシート材を配置した部材であり、該シート材は、シート基材の表面に、前記強化繊維基材の強化繊維よりも硬質である硬質粒子を付着させることにより、前記複数の突起が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
前記突起が形成された押圧部材の表面の中心線平均粗さRaは、8μm以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項8】
前記突起が形成された押圧部材の表面側に、前記強化繊維基材が接触するように、前記強化繊維基材が供給されるように構成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245778(P2012−245778A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122011(P2011−122011)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(300046658)株式会社ミツヤ (17)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】