説明

繊維強化樹脂シート

【課題】 熱履歴による耐久性の低下と熱伝導の少ないFRPシートの提供。
【解決手段】 シラスバルーンを、体積として3〜40%含むことを特徴とする繊維補強樹脂(FRP)シートであって、かつ、使用樹脂が、紫外線硬化型の樹脂であり、硬化反応が紫外線によって完結することを特徴とする硬化前のFRPシート。補強繊維が紫外線透過性を有し、紫外線を照射することによって、硬化したFRPシート。建築構造物の屋上や外壁、タンクの外壁や天板として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱性及び断熱性を有する紫外線硬化型の繊維強化樹脂(FRP)シートに関する。特に、建設構造物の遮熱、断熱、防水用に適した硬化前のFRPシート及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木、建築市場において、ガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維、ポリビニルアルコール等を用いたFRPが多用されており、これに使用されている樹脂も、硬化型樹脂として、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等、熱可塑性樹脂として、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂等が使用されている。これらは、軽くて剛性や靭性が高く、施工が簡便な材料として脚光を浴び、現在では広く、構造材や補修、補強材料、風雨や水に晒される防水、防食層として使用されている。なかでも、特許文献1(特開2003−247304号公報)に記載のように、光硬化型の樹脂組成を用いたFRPプリプレグシートを使用する工法は、光硬化反応が従来の重付加型反応や縮合反応、加熱反応、加熱プレス成型等を使用する工法と比較して、極めて短時間で成型・施工加工が完結し、ひいては工期を著しく短縮でき、かつ、トータルコストダウンを図れるものとして、注目を浴びている。
【0003】
ところで、光で硬化させることによって得られたこれらのFRPは、工期短縮には有効であるが、光を透過させるが故に、太陽光などを透過し、熱を吸収しやすく、そのもの自体もしくは被着体が加熱、蓄熱されやすく、これらの経年熱履歴による膨張変化により、応力歪みが蓄積される。その結果、FRP自体が脆くなったり、膨張差による経年劣化の結果、被着体との剥離が生じ、補修、補強、防水、防食の意味を持たなくなるばかりか、被着体である構造物自体に熱が伝わることになり、熱による耐久性の低下を招きやすい。
【0004】
このため、従来のFRPは、特に土木、建築の補修、補強に関して、長期にわたる構造物の耐久性の維持を持たせることが不向きであった。さらに、防水、防食用としてみれば、屋上や天板等の被着体に熱が蓄積され、建設、建築物等の加熱によって内部に熱が伝わり、屋内の快適さが失われるだけでなく、ひいては都市部等のヒートアイランド現象を招くという実用上の深刻な問題を抱えていた。そのため、長期に亘って、そのもの自体や構造物の耐久性を維持し、かつ、建設物の場合には、屋内空間を快適にし、環境面ではヒートアイランド現象を減少させるといった、環境やエネルギー的問題に多大に貢献できる材料の出現が切に望まれていた。
【特許文献1】特開2003−247304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱履歴による耐久性の低下の少ないFRPシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、中空の空気層を有するシラスバルーン、もしくはこれを扁平化したシラスバルーンが、それ自体が有する中空構造や光反射性のために、断熱、遮熱効果が極めて高く、FRPの耐久性を高める材料であることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.シラスバルーンを、体積として3〜40%含む繊維補強樹脂(FRP)シートであって、かつ、使用樹脂が、紫外線硬化型の樹脂であり、硬化反応が紫外線によって完結することを特徴とする硬化前のFRPシート。
2.シラスバルーンの少なくとも一部が、長軸/短軸比=1.5以上の扁平化したシラスバルーンであることを特徴とする1.記載の硬化前のFRPシート。
3.前記1.または2.記載のFRPシートの補強繊維が紫外線透過性を有し、紫外線を照射することによって、硬化したことを特徴とするFRPシート。
4.前記3.に記載のFRPシートの、建築構造物の屋上や外壁、タンクの外壁や天板としての使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、中空構造を有するシラスバルーンが断熱材の役割を果たすため、FRPシートの内部蓄熱と熱伝導を抑制でき、熱履歴による耐久性低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、詳細に説明する。
本発明におけるシラスバルーンは、一般的に市販され、使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、原料であるシラスから、キルン、電気炉、流動炉等の装置で加熱発泡されたものを用いることが好ましい。この際、粒子同士がなるべく融着していないものを用いることが望ましい。扁平化したシラスバルーンも用いることができる。扁平化処理法として、スタンプミル、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル等の装置を用いることができる。
シラスバルーンの平均粒径としてはどのような大きさでも構わないが、実用上、粒度を制御したものが好ましく、1〜500μmの範囲が好ましい。さらに、調製されたFRPの美観を損なわないように、5〜300μmがより好ましく、50〜200μmが最適である。
含有させるシラスバルーンの粒度分布は、広くても狭くても特に制限はないが、0.1〜1000μmの粒径の範囲内で用いることが好ましい。粒径分布の範囲が広い場合、粒子の体積含有量を大きくすることができ、狭ければ粒子の体積含有量を小さくすることができる。いずれにしても、FRPシートに含まれる粒子の体積含有量が3〜40%の範囲にあれば、断熱効果に差異はない。
【0009】
また、このシラスバルーンには、扁平化したものを含むことが好ましい。 シラスバルーン粉そのもの自体でも光の反射効果はあるが、より反射効率を高めるために、略球状のシラスバルーンを扁平化して用いることが好ましい。扁平化したシラスバルーンを混合することにより、太陽光の反射効果が著しく発揮され、光の吸収が減り日照による被着体構造物の熱変化が少なくなり、ひいては被着体の耐久性向上やFRP接着界面での剥離が起きにくくなる。
この際、扁平化の度合いとしては、扁平粉の長軸/短軸の比が1.5以上あることが必須である。この値が1.5以上で、扁平化されたシラスバルーンが、異方性を保つようにFRPシート内に堆積され、光の反射効率が高くなり、ひいては遮熱効果が著しく大きくなる。この値未満だと、異方性を有する堆積性を失ってしまい、逆に光を透過しやすくなる結果を生ずることがある。上記、扁平化機器を使用する場合は、シラスバルーン同士が凝集しないように、例えばステアリン酸等の長鎖脂肪酸を混入させることが好ましい。
【0010】
本発明におけるシラスバルーンの含有量としては、体積%で3〜40%の範囲にあることが必須である。3%未満であると断熱・遮熱効果が発現しにくい。また、40%超になると強靱なFRPシートが得られにくく、補修、補強、防水、防食の効果を発揮しにくい。シラスバルーンの含有率として、好ましい範囲は5〜25%であり、より好ましくは8〜15%である。
【0011】
また、本発明におけるFRPシートに使用する樹脂としては、市販されている樹脂であれば、特に何ら制限はないが、紫外線硬化できる組成のものが必須である。好ましくは、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、キシレン樹脂等が使用される。これらは、単独で使用しても二種以上を複合しても構わない。いずれも、用途に合わせた柔軟性や可とう性、伸び率、引っ張り・圧縮弾性率、引っ張り・圧縮強度、剪断強度等を考慮して選択することができる。また、本発明におけるFRPシートを作成する際に、液状の樹脂組成物をシートとする場合、増粘剤等を加え、硬化反応前の樹脂自体の粘度を高め、FRPシートの運搬や施工現場での取扱性を向上させることが好ましい。さらに、必要に応じて、充填剤、分散剤、収縮抑制剤、カップリング剤等を加えても良い。
【0012】
本発明における紫外線硬化型FRPシート中の紫外線反応開始剤としては、一般に使用されているものなら制限無く使用可能であり、紫外線で硬化を開始するものが好ましい。例としては、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系等の紫外線開始剤が挙げられる。
また、本発明における紫外線硬化型FRPシートにおいて、必要に応じて重合禁止剤や硬化促進剤などを添加しておくことも可能である。
【0013】
本発明における補強繊維としては、織布、不織布、ステンレスメッシュ等が使用可能であり、材質としてはガラス、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、ビニルアルコール、ステンレスメッシュ、アラミド等、紫外線を透過し、かつ適正な機械的性質が得られるように選択することが可能であり、必要に応じて一層としたり、多層とすることができる。ただし、炭素繊維は紫外線を透過しにくいため、使用に適さない。強化繊維の織り密度やメッシュ度合い等も用途や目的に合わせた選択が可能である。
【0014】
本発明のFRPシートの光透過率は、10%以上70%以下であることが望ましい。この範囲で、遮熱、断熱性、機械的物理的性状と紫外線硬化速度のバランスが優れる。より好ましくは20%以上60%以下であり、30%以上50%以下が最適である。ここでいう紫外線透過率は、FRPシート面の一方から、面に対して垂直方向に所定の紫外線を照射し、照射紫外線量を100とした場合に、屈折、反射が生じ、FRPシートの反対側に到達した紫外線の量の割合で規定している。なお、測定に用いる紫外線は、使用する紫外線反応樹脂組成が反応性を有する波長を主として含む紫外線を用いて行う。
【0015】
本発明におけるFRPシートを作成するには、予めシラスバルーンを分散させておいた紫外線硬化性樹脂組成物を補強繊維の一面あるいは両面から含浸、塗布するのが望ましい。その際に、予め光硬化性樹脂硬化組成物を増粘しておくと安定して作業を行うことができる。または、単に補強繊維に紫外線硬化性樹脂組成物を含浸、塗布させておき、その後に、必要により加熱して増粘させても良い。続いて、FRPシートに紫外線を遮るフィルムを貼り付けて完成させる。この硬化前のFRPシートは可塑性を有しており、被着体の形状に合わせて容易に変形させることができる。
【0016】
施工現場では、硬化前のFRPシートを適宜、所定の長さ、大きさに切断して、紫外線を遮るフィルムを取り除いた後に、被着体の所定の部位に、形状に合わせて貼り付け、その後、必要により、紫外線硬化を促進するための照射を所定時間行う。例えば、波長380nm程度のブラックライトで照射して硬化を促進させる。これにより、数十分程度という極めて短時間で容易に施工が完了する。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例に基づき、詳細に説明する。
例示に先立ち、シラスバルーン粒子の長軸/短軸比の測定法について記述する。
粒子の形状を日立製S−2700型の走査型電子顕微鏡を用いて観察し、少なくとも100個以上の粒子の長軸と短軸を測定した。
本実施例では、その中の長軸/短軸比が最低でも1.5以上ある粒子を試験に供試した。
【0018】
(実施例1)
平均粒径60μmの(株)アクシーズケミカル製シラスバルーン粉(商品名、ウィンライトMSB)と、これをスタンプミルにて扁平化した粉体(長軸/短軸比=2.1)を1:1で混合したシラスバルーンを調製した。
次に、共栄社化学(株)製ビニルエステル樹脂(商品名、エポキシエステル3000M)に共栄社化学(株)製メタクリルモノマー(商品名、ライトエステル2EG)を7:3の割合となるように秤量し、光重合開始剤としてイソブチリルメチルホスフィン酸メチルエステルを樹脂組成物100重量部に対して0.5重量部添加して、これに先に調製したシラスバルーン粉を含有体積%で15%となるように添加し、全体を均一に混合し、紫外線硬化性樹脂組成物を得た。
目付量450g/m2のガラス繊維布(縦糸と横糸の織り込み比率が5/1のもの)に上記樹脂組成物を800g/m2塗布して、樹脂組成物が織物を包含するように調製した。その後、80℃で15分間、加熱乾燥処理を行い、可塑性のある硬化前のFRPを得た。
このFRPを15cm角のSS製の鉄板箱全面に貼り付け、380nmのブラックライトを20分間照射し、紫外線硬化を行った。
外気温が31℃の晴天日に、1時間太陽光を照射し、SS製鉄板箱内の温度を測定したところ、35℃であり、外気温との差は+4℃であった。
【0019】
(実施例2)
実施例1で用いた紫外線硬化性樹脂組成物に、体積%で5%となるように、実施例1で用いたシラスバルーン粉を加え、均一に分散し、実施例1と同様にFRPを作成し、硬化させたFRP付SS製鉄板箱を得た。次に、実施例1と同条件にて暴露試験を行い、外気温との差を測定したところ、38℃であり、外気温との差は+7℃であった。
【0020】
(実施例3)
実施例1で用いた紫外線硬化性樹脂組成物に、体積%で38%となるように、実施例1で用いたシラスバルーン粉を加え、均一に分散し、実施例1と同様にFRPを作成し、硬化させたFRP付SS製鉄板箱を得た。次に、実施例1と同条件にて暴露試験を行い、外気温との差を測定したところ、33℃であり、外気温との差は+2℃であった。
【0021】
(比較例1)
実施例1で用いた紫外線硬化性樹脂組成物に、体積%で2%となるように、実施例1で用いたシラスバルーン粉を加え、均一に分散し、実施例1と同様にFRPを作成し、硬化させたFRP付SS製鉄板箱を得た。次に、実施例1と同条件にて暴露試験を行い、外気温との差を測定したところ、45℃であり、外気温との差は+14℃であった。
【0022】
(比較例2)
実施例1で用いた紫外線硬化性樹脂組成物に、体積%で45%となるように、実施例1で用いたシラスバルーン粉を加え、均一に分散したところ、混合物が液状にならず、ガラス繊維に塗布できなかった。
【0023】
(比較例3)
FRPを貼り付けないSS製鉄板箱のみで実施例1と同条件にて暴露試験を行ったところ、鉄板の温度は48℃であり、外気温との差は+17℃であった。
以上、実施例が示すように、シラスバルーン及び長軸/短軸比=1.5以上の扁平化したシラスバルーンを、体積として3〜40%含む繊維補強樹脂(FRP)シートであって、かつ、樹脂が、紫外線硬化型の樹脂であるFRPシートは、遮熱、断熱性に優れ、従来では達し得なかった補修、補強、防水、防食の欠点を補い、かつ汎用的なものとして実現可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のFRPシートは、建築、土木、機械などの分野において、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラスバルーンを、体積として3〜40%含む繊維補強樹脂(FRP)シートであって、かつ、使用樹脂が、紫外線硬化型の樹脂であり、硬化反応が紫外線によって完結することを特徴とする硬化前のFRPシート。
【請求項2】
シラスバルーンの少なくとも一部が、長軸/短軸比=1.5以上の扁平化したシラスバルーンであることを特徴とする請求項1記載の硬化前のFRPシート。
【請求項3】
請求項1または2記載のFRPシートの補強繊維が紫外線透過性を有し、紫外線を照射することによって、硬化したことを特徴とするFRPシート。
【請求項4】
請求項3に記載のFRPシートの、建築構造物の屋上や外壁、タンクの外壁や天板としての使用。

【公開番号】特開2006−137828(P2006−137828A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327658(P2004−327658)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】