説明

繊維強化樹脂プレートの定着具及び構造物補強工法

【課題】補強構造物の外観を損なうことがなく、また施工性に優れた繊維強化樹脂プレートの定着具及び構造物補強工法を提供する。
【解決手段】構造物の面に貼り付けられた繊維強化樹脂プレート12の端部を該構造物に定着させるための定着具1であって、繊維強化樹脂プレート12を横切るようにその表面に載置されて、該繊維強化樹脂プレート12を押さえ付ける押さえ部2と、押さえ部2の裏面両側に設けられ、構造物に埋め込まれる1対のアンカー3,3とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維強化樹脂プレートの定着具及び構造物補強工法に関し、より詳細には構造物の表面に貼り付けた繊維強化樹脂プレートの剥離を防止するための定着具とそれを用いた構造物補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を耐震補強する技術として、近年、繊維強化樹脂(FRP)特に炭素繊維強化樹脂(CFRP)を用いた工法が広く実施されている。炭素繊維強化樹脂にはシート状のもの(以下、CFシート)と、プレート状のもの(以下、CFプレート)とがあるが、CFプレートを用いた補強工法はCFシートを用いた工法に比べて、施工性に優れるという利点があることから、特に、梁やスラブの下端などの上向き作業を余儀なくされる施工部位に適用されている。
【0003】
このようなCFプレートを梁やスラブなどのコンクリート構造物に貼り付けて補強する場合、コンクリート構造物に作用する曲げモーメントによりCFプレートの端部が剥離しやすく、端部が剥離するとそれがCFプレート全体に及び、補強効果が低減するという問題が生じる。この剥離は、CFプレートとコンクリートとの間の接着剤の剥離ではなく、コンクリートの表面部分が引っ張り応力によって破壊され、その結果、CFプレートにコンクリート片が付着した状態で剥離するという現象である。
【0004】
このようなことから、従来、コンクリート構造物に貼り付けたCFプレートの端部上に定着具を配置し、それによってCFプレート端部を押さえ付けるようにしている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、従来の定着具は、コンクリート構造物に埋め込まれて定着具から突出するアンカーボルトと、これに螺着されるナットにより構造物に固定されるため、定着具表面が平坦面とならない。すなわち、構造物表面に突起物が出た状態となり、補強構造物の外観が損なわれる。また、施工時にはボルトの取付け作業工程が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−68921
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、補強構造物の外観を損なうことがなく、また施工性に優れた繊維強化樹脂プレートの定着具及び構造物補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、構造物の面に貼り付けられた繊維強化樹脂プレートの端部を該構造物に定着させるための定着具であって、
前記繊維強化樹脂プレートを横切るようにその表面に載置されて、該繊維強化樹脂プレートを押さえ付ける押さえ部と、
この押さえ部の裏面両側に設けられ、前記構造物に埋め込まれる1対のアンカーとを備えたことを特徴とする繊維強化樹脂プレートの定着具にある。
【0008】
より具体的には、前記押さえ部の裏面に前記繊維強化樹脂プレートを受け入れる溝が形成されている。前記押さえ部は略矩形のプレートである。
【0009】
また、この発明は、上記定着具を用いた構造物補強工法であって、
補強すべき構造物の面を下地処理し、所定位置に1対の穴を穿孔する工程と、
下地処理した構造物の面に接着剤を塗布し、繊維強化樹脂プレートを貼り付ける工程と、
前記1対の穴に樹脂を注入し、請求項1〜3のいずれか1に記載の定着具の前記アンカーを各穴に挿入して該定着具を前記繊維強化樹脂プレートの端部表面に載置し固定する工程と
を備えたことを特徴とする繊維強化樹脂プレートによる構造物補強工法にある。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、定着具は押さえ部の裏面に1対のアンカーを設けたものであるので、この定着具によって繊維強化樹脂プレートを構造物に定着させた後の構造物表面には、突起物がなく、外観が損なわれることがない。また、定着具は、従来のようにアンカーボルトによって構造物に取り付けられるものではないので、ボルトの取付け作業工程が不要となり、施工性が優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明による定着具の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は下面図である。
【図2】構造物補強工法の手順を示す図である。
【図3】施工後の定着具を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1に示すように、この発明による定着具1は、押さえ部を構成する押さえプレート2と、1対のアンカー3,3とを備えている。押さえプレート2は矩形形状を有し、四隅が面取りされている。
【0013】
押さえプレート2の押さえ付け面となる裏面には溝4が形成されている。この溝4はCFプレートの端部を受け入れるためのものでCFプレートの厚み寸法と略等しい深さ寸法(例えば2mm)を有している。その結果、押さえプレート2の裏面と補強コンクリート構造物の面とが略一致するようになる。
【0014】
アンカー3,3は、押さえプレート2の裏面両側に溝4を挟むように設けられている。アンカー3,3は定着に必要な所定の長さ及び径を有する棒状のものである。アンカー3,3は図示の例では断面円形のものであるが、四角形その他多角形の断面角形としてもよい。定着具1は、押さえプレート2とアンカー3,3とが鋳造により一体成形された鋳鋼品である。押さえプレート2とアンカー3,3とを個別に成形し、アンカー3,3を押さえプレート2に溶接やねじ込み式その他の固定手段により固定することもできる。
【0015】
次に、上記定着具1を使用したコンクリート構造物の補強工法について、図2を参照しながら説明する。ここで、強化繊維樹脂プレートとしては、一般にはCFプレートが用いられるが、以下に説明する本補強工法は特にCFプレートに限定されるものではなく、他の強化繊維、例えばガラス繊維、アラミド繊維その他有機繊維によるFRPプレートを用いる場合にも同様に適用できる。
【0016】
まず、図2(a)に示すように、梁やスラブなどの補強すべきコンクリート構造物の表面10の下地処理を行う。すなわち、CFプレートを貼り付ける表面部分にプレート幅よりもやや広い範囲でブラストやサンダー掛けを行い、表面に付着したゴミや汚れを落とす。また、ひび割れ等がある場合は樹脂注入などを行って修復する。そして、下地処理した表面10に、1対の穴11,11を穿孔する。穴11,11はアンカー3,3を挿入するためのものであり、その径及び深さはそれぞれアンカー3の径及び長さよりも幾分か大きくする。なお、穴11,11はCFプレートの一方の端部に設置される定着具のためのものであり、図示しないが他方の端部に設置される定着具のための穴も穿孔される。
【0017】
次に、図2(b)に示すように、CFプレート12を貼り付けるコンクリートの表面部分に接着剤を塗布し、CFプレート12を貼り付ける。接着剤は、コンクリートとの接着性を向上させるために、CFプレート12にも塗布することが望ましい。CFプレート12の貼り付け後は、ローラー等でCFプレート12の表面を押さえ付け、CFプレートとコンクリートとの間に空隙が残らないようにする。
【0018】
次に、図2(c)に示すように、CFプレート12の端部を横切るように、より具体的にはCFプレート12の長さ方向に対して直角となるように定着具1を設置する。すなわち、穴11,11に樹脂13(図3参照)を注入し、定着具1のアンカー3を穴11,11に挿入して、定着具1をCFプレート12の表面に載置・固定する。このとき、互いに接することとなる定着具1の押さえプレート2の裏面及びCFプレート12の表面にも接着剤を塗布するとよい。定着具1の設置後、所定時間養生し、施工を終了する。ここで、上記接着剤及び穴11に注入する樹脂13としては、従来、この種の補強工事に使用されているエポキシ系樹脂を使用することができる。
【0019】
上記のような補強工法によれば、図3に示すように、CFプレート12の貼り付けによる補強後のコンクリート構造物は、その表面10に突出する突起物等がなく、外観が損なわれることがない。また、従来のアンカーボルトを用いる定着具のように、ボルトの取付け作業工程が不要であるので、施工性が優れたものとなる。
【符号の説明】
【0020】
1 定着具
2 押さえプレート
3 アンカー
11 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の面に貼り付けられた繊維強化樹脂プレートの端部を該構造物に定着させるための定着具であって、
前記繊維強化樹脂プレートを横切るようにその端部表面に載置されて、該繊維強化樹脂プレートを押さえ付ける押さえ部と、
この押さえ部の裏面両側に設けられ、前記構造物に埋め込まれる1対のアンカーとを備えたことを特徴とする繊維強化樹脂プレートの定着具。
【請求項2】
前記押さえ部の裏面に前記繊維強化樹脂プレートを受け入れる溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の繊維強化樹脂プレートの定着具。
【請求項3】
前記押さえ部は略矩形のプレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の連続繊維補強材の定着具。
【請求項4】
補強すべき構造物の面を下地処理し、所定位置に1対の穴を穿孔する工程と、
下地処理した構造物の面に接着剤を塗布し、繊維強化樹脂プレートを貼り付ける工程と、
前記1対の穴に樹脂を注入し、請求項1〜3のいずれか1に記載の定着具の前記アンカーを各穴に挿入して該定着具を前記繊維強化樹脂プレートの端部表面に載置し固定する工程と
を備えたことを特徴とする繊維強化樹脂プレートによる構造物補強工法。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂プレートは、炭素繊維プレートであることを特徴とする請求項4記載の構造物補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−99206(P2011−99206A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252823(P2009−252823)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼刊行物名 2009年度大会(東北)学術講演梗概集 C−2分冊 ▲2▼発行日 2009年(平成21年)7月20日 ▲3▼発行所 社団法人 日本建築学会 ▲4▼該当ページ 第727〜728ページ
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
【出願人】(504289473)株式会社川金テクノソリューション (7)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000130374)株式会社コンステック (8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(591028108)安藤建設株式会社 (46)
【Fターム(参考)】