説明

繊維強化樹脂構造体の製造方法

【課題】繊維強化樹脂構造体30を製造するに際して、強化繊維糸3の配向方向を容易にかつ自在に制御できるようにする。
【解決手段】樹脂を含浸した長尺状の強化繊維糸3を間隔をおいて配置した2本の支持軸1,2間に所定の幅に亘って巻き付けて繊維巻き付け体10とし、それに捻りを与えて繊維に配向を与える。捻りを与えた繊維巻き付け体10aの横幅を調整して配向角度を適宜調整した後、所定の型を用いて賦形し、加熱成形して所望の繊維強化樹脂構造体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続長尺状の強化繊維をマトリックス樹脂中に含浸させてなる繊維強化樹脂(FRP)で作られる構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(FRP)は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂と強化繊維とを一体化したものであり、軽量でかつ強度特性に優れていることから多くの分野で使用されている。用いられる熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等を挙げることができる。強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を挙げることができる。
【0003】
繊維強化樹脂シートを製造するにあたっては、長尺状の強化繊維糸を用いて織物とし、あるいは単一方向のシートを角度を変えて多層シート化し、その織物または多層シートにマトリックス樹脂を含浸させるのが一般的である。特許文献1に記載のように、樹脂中に希望方向に向けて連続長繊維を埋め込むようにすることも行われる。予め樹脂を含浸させた長尺状の強化繊維糸を用いて、織布あるいは多層シートとすることも行われる。そのようにして作られた繊維強化樹脂シートを所定の型を用いて賦形し、加熱成形して、所望の繊維強化樹脂構造体とされる。
【特許文献1】特開平06−270277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の織布を用いる方法は、繊維強化樹脂シートにおける繊維の配向方向は一般的に直交方向である。多層シートを用いる方法は、任意の2軸方向に配向した繊維強化樹脂シートを得ることができるが、1品1様の対応となるために量産性が乏しく、他種類の任意の2軸方向に配向した繊維強化樹脂シートを製造しようとすると、コストアップになる。特許文献1に記載の方法は、基本的に、任意の2軸方向に配向した繊維強化樹脂を得ることは容易でない。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、強化繊維が任意の2軸方向に配向している繊維強化樹脂シートからなる構造体を、簡単な手段でかつ容易に製造することのできる繊維強化樹脂構造体の製造方法を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による繊維強化樹脂構造体の製造方法の第1の態様は、樹脂を含浸した長尺状の強化繊維糸を間隔をおいて配置した2本の支持軸間に所定の幅に亘って巻き付けて繊維巻き付け体を得る工程と、前記繊維巻き付け体に捻りを与える工程と、前記捻りを与えた繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形し、加熱成形して所望の繊維強化樹脂構造体とする工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0007】
本発明による繊維強化樹脂構造体の製造方法の第2の態様は、長尺状の強化繊維糸を間隔をおいて配置した2本の支持軸間に所定の幅に亘って巻き付けて繊維巻き付け体を得る工程と、前記繊維巻き付け体に捻りを与える工程と、前記捻りを与えた繊維巻き付け体に樹脂を含浸させる工程と、前記樹脂を含浸した繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形し、加熱成形して所望の繊維強化樹脂構造体とする工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
前記第1の態様は予め樹脂を含浸した強化繊維糸を用いる場合であり、前記第2の態様は樹脂を含浸していないドライの強化繊維糸を用いる場合である。いずれの態様でも、繊維巻き付け体に180度の捻りを1回または1回以上与えることにより、当初は互いにほぼ平行に巻き付けられた強化繊維糸の群は、角度を持って互いに交叉する強化繊維糸群に変化する。そして、2本の支持軸間の距離および巻き付け幅を適宜異ならせた繊維巻き付け体を用意することにより、強化繊維糸群が異なった配向方向と角度で交叉する繊維巻き付け体を得ることができる。そのようにして得られたねらいの方向に繊維方向を配向させた繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形し、加熱成形することによって、強化繊維糸の配向方向が異なる所要の繊維強化樹脂構造体を容易に得ることができる。
【0009】
なお、捻りを与えた繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形する前に、繊維巻き付け体から前記2本の支持軸を取り除くようにしてもよく、そのままで賦形してもよい。
【0010】
上記いずれの態様の製造方法においても、前記捻りを与えた繊維巻き付け体の横幅を調整する工程をさらに含ませることは好ましい。この横幅調整する工程を行うことにより、強化繊維の配向方向と交叉角度をさらに容易に調整することができる。
【0011】
上記の各製造方法において、前記2本の支持軸として、製造後の繊維強化樹脂構造体の取り付け用ブラケットを用いることもできる。この態様では、支持軸を持つ繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形し、加熱成形して得られる繊維強化樹脂構造体を、そのままの形で製品化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維強化樹脂構造体を製造するに際して、強化繊維糸の配向方向を容易にかつ自在に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1〜図3は、捻りを与えた繊維巻き付け体を説明するための図であり、図4はそれを用いて繊維強化樹脂構造体を製造する工程を説明する図であり、図5は製造された繊維強化樹脂構造体の一例を示す図である。
【0014】
最初に、図1(a)に示すように、鋼棒などからなる2本の支持軸1,2を用意する。2本の支持軸1,2をほぼ平行に配置し、長尺状の強化繊維糸3を、所要幅に亘って所要回数巻き付けて、繊維巻き付け体10とする。繊維巻き付け体10において、巻き込まれた強化繊維糸3のそれぞれは互いにほぼ平行に位置している。
【0015】
用いる強化繊維糸3は任意であり、炭素繊維糸、ガラス繊維糸、アラミド繊維糸、等が挙げられる。強化繊維糸3は、予めマトリックス樹脂を含浸したものでもよく、未含浸のものであってもよい。含浸させる場合のマトリックス樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂でもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂でもよい。得ようとする繊維強化樹脂構造体用途や求められる物性値等を勘案して適宜選択する。
【0016】
次に、図1(b)に示すように、下方の支持軸2を固定し、上方の支持軸1を、強化繊維の巻き込み方向に直交する方向に180度に回動する。それにより、繊維巻き付け体10には180度の捻りが付与され、捻りを与えた繊維巻き付け体10aとなる。図示のように、この捻りにより、互いにほぼ平行に位置していた巻き込まれた強化繊維糸3の群は、ある角度を持って互いに交叉した強化繊維糸3の群に変化する。すなわち、強化繊維糸3の群は互いに交叉するある配向角度を持つようになる。
【0017】
得られた配向角度が所望の角度である場合には、そのままで次の賦形工程に移行する。異なった配向角度を所望する場合には、2本の支持軸1,2を互いに近づけながら、捻りを与えた繊維巻き付け体10aの横幅を拡げるようにする。それにより、繊維群はより寝た姿勢となりながら、配向角度を変化させる。所望の配向角度が得られたときに、その状態で次の賦形工程に移行する。
【0018】
図2(a)は、上方の支持軸1をさらに180度回転させた状態を示す。これにより、繊維巻き付け体10aには360度の捻りが付与される。図2(b)は、それを、2本の支持軸1,2を互いに近づけながら、横方向に拡げた状態を示している。図示されるように、捻りが与えられた繊維巻き付け体10aは、所要の横幅となると同時に、図1(b)に示したものとは異なった繊維の配向角度を備えたものとなる。
【0019】
図3は、図2(a)に示した状態から、さらに180度の捻りが付与された繊維巻き付け体10aを示している。図示のように、捻りの回数を大きくすることにより、繊維巻き付け体10aは筒状に近づいていき、繊維の配向方向も次第に変化していく。
【0020】
上記のように、繊維巻き付け体10に所要の捻りを与えることにより、また捻りを与えた繊維巻き付け体の横幅を2本の支持軸1,2の距離を調整しながら変化させることにより、任意の異なった配向角度を持つ強化繊維糸によるシートを容易に調整することができる。
【0021】
用いた長尺状の強化繊維糸3が樹脂を含浸していないドライ糸の場合には、上記のようにして捻りを与えた繊維巻き付け体10aに対して、マトリックス樹脂を含浸させる工程を行う。
【0022】
次に、所要の配向角度を持つように調整された繊維巻き付け体10aを、必要な場合には予備的な成形を行った後、図4(a)に示すように、型20の上に乗せて賦形する。その際に、付加的にマトリックス樹脂を塗布することもできる。そして、図4(b)に示すように型20の加熱による成形とマトリックス樹脂の硬化を行い、脱型することにより、図4(c)に示す所望の製品である繊維強化樹脂構造体30が得られる。
【0023】
なお、図4に示すように、2本の支持軸1,2を備えたままの繊維巻き付け体10aを用いて繊維強化樹脂構造体30とし、その後で2本の支持軸1,2を除去してもよく、図示しないが、型20に乗せる前に、あるいは型20で賦形した状態のときに、2本の支持軸1,2を除去することもできる。
【0024】
2本の支持軸1,2として、製造後の繊維強化樹脂構造体30を他の構造体に取り付けるときに用いる取り付け用ブラケット31,31をそのまま用いることもできる。図5は、そのような製品の一例である補強用ハット形状部品を示しており、繊維巻き付け体10aを製造するときに、2本の支持軸1,2として、補強用ハット形状部品用の取り付け用ブラケット31,31を用いることによって、製造後の繊維強化樹脂構造体30をそのまま補強用ハット形状部品として製品化しかつ使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】捻りを与えた繊維巻き付け体を説明するための第1の図。
【図2】捻りを与えた繊維巻き付け体を説明するための第2の図。
【図3】捻りを与えた繊維巻き付け体を説明するための第3の図。
【図4】捻りを与えた繊維巻き付け体を用いて繊維強化樹脂構造体を製造する工程を説明する図。
【図5】製造された繊維強化樹脂構造体の一例を示す図。
【符号の説明】
【0026】
1,2…2本の支持軸、3…長尺状の強化繊維糸、10…繊維巻き付け体、10a…捻りを与えた繊維巻き付け体、20…型、30…繊維強化樹脂構造体、31…取り付け用ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含浸した長尺状の強化繊維糸を間隔をおいて配置した2本の支持軸間に所定の幅に亘って巻き付けて繊維巻き付け体を得る工程、
前記繊維巻き付け体に捻りを与える工程、
前記捻りを与えた繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形し、加熱成形して所望の繊維強化樹脂構造体とする工程、
とを少なくとも含むことを特徴とする繊維強化樹脂構造体の製造方法。
【請求項2】
長尺状の強化繊維糸を間隔をおいて配置した2本の支持軸間に所定の幅に亘って巻き付けて繊維巻き付け体を得る工程、
前記繊維巻き付け体に捻りを与える工程、
前記捻りを与えた繊維巻き付け体に樹脂を含浸させる工程、
前記樹脂を含浸した繊維巻き付け体を所定の型を用いて賦形し、加熱成形して所望の繊維強化樹脂構造体とする工程、
とを少なくとも含むことを特徴とする繊維強化樹脂構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維強化樹脂構造体の製造方法であって、前記捻りを与えた繊維巻き付け体の横幅を調整する工程をさらに含むことを特徴とする繊維強化樹脂構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂構造体の製造方法であって、前記2本の支持軸として、製造後の繊維強化樹脂構造体の取り付け用ブラケットを用いることを特徴とする繊維強化樹脂構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−248516(P2009−248516A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101769(P2008−101769)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】