説明

繊維強化樹脂組成物

【課題】軽量で機械的強度の高い成形品が得られる繊維強化樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂及び(B)レーヨン繊維を含む樹脂含浸長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物であって、(B)成分のレーヨン繊維が、繊維径が5〜30μmで、X線配向度が86%以上のものであり、前記樹脂含浸長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で2,000〜30,000本束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態で含浸させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、繊維強化樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で機械的強度、特に比弾性率が高い成形体が得られる繊維強化樹脂組成物と、それから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量化の目的で金属代替品として樹脂成形体が使用されているが、その機械的強度を高めるため、繊維が配合された樹脂組成物を成形することが知られている。
【0003】
特許文献1は、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)とスチレン系樹脂(SR)が重量比(TPU/SR)20/80〜90/10である組成物100重量部に対して強化繊維が25〜200重量部を配合してなる自動車外板部材用長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の発明である。
強化繊維として、ガラス、カーボン、シリコンカーバイド、玄武岩、ボロン製の無機繊維;ステンレス製の金属繊維;アラミド、レーヨン、ナイロン、ポリナフタレート、ポリエステル、セルロース製の有機繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種の繊維を含むことが記載されているが、実施例ではウレタン系長繊維ガラス繊維が使用されている。
【0004】
特許文献2は、ポリカーボネート樹脂(PC)とスチレン系樹脂(SR)からなる組成物100重量部に対して強化繊維11〜200重量部を配合してなる長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の発明である。
強化繊維として、ガラス、炭素、シリコンカーバイト、玄武岩、ボロン製の無機繊維;ステンレス製の金属繊維;アラミド、レーヨン、ナイロン、ポリナフタレート、ポリエステル製の有機繊維;セルロース繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種の繊維を含むことが記載されているが、実施例ではガラス繊維が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−013693号公報
【特許文献2】特開2008−202012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、軽量で機械的強度、特に比弾性率が高い成形品が得られる繊維強化樹脂組成物と、それから得られる成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)熱可塑性樹脂及び(B)レーヨン繊維を含む樹脂含浸長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、繊維径が5〜30μmで、X線配向度が86%以上のものであり、
前記樹脂含浸長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で2,000〜30,000本束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態で含浸させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、繊維強化樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維強化樹脂組成物に含まれている樹脂含浸長繊維束は、セルロース分子が繊維の長手方向に高配向した(即ち、X線配向度が86%以上)引張弾性率や強度が高いレーヨン繊維を使用していることから、成形後の成形体中に残存するレーヨン繊維の繊維長を長くすることができる。
このため、従来の無機繊維や有機繊維を使用したものと比べると、成形体の機械的強度(特に比弾性率)を高くできることから、厚みを小さくするなどして、軽量でかつ高い機械的強度を有する成形体(例えば板状成形体)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<繊維強化樹脂組成物>
本発明の組成物は、(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂含浸長繊維束(樹脂含浸レーヨン長繊維束)を含むものであり、前記樹脂含浸長繊維束のみからなるものでもよいし、必要に応じてさらに他の成分を含有するものでもよい。
【0010】
〔(A)成分〕
(A)成分の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができる。
(A)成分の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれるものを含むものが好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれるものがより好ましい。
【0011】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、高密度、低密度及線状低密度ポリエチレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンの共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(原料としてのジエン成分が10質量%以下)、ポリメチルペンテン、エチレン又はプロピレン(50モル%以上)と他の共重合モノマー(酢酸ビニル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル等)とのランダム、ブロック、グラフト共重合体等を用いることができる。これらの中でもポリプロピレンが好ましい。
【0012】
(A)成分としてポリオレフィン系樹脂を使用するときは、(B)成分のレーヨン繊維束に含浸させやすくするため、酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。
酸変性ポリオレフィンとしては、マレイン酸変性ポリオレフィン(マレイン酸変性ポリプロピレン)、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(無水マレイン酸変性ポリオレフィン)が好ましい。
(A)成分として酸変性ポリオレフィンを併用するとき、(A)成分中の酸量(酸変性ポリオレフィンに含まれる酸の(A)成分中の量)が、無水マレイン酸換算で平均0.005〜0.5質量%の範囲になるように配合することが好ましい。
【0013】
ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドから選ばれるものが好ましい。
脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12等を挙げることができる。
芳香族ポリアミドとしては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミン又は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンから得られるもの、例えば、ナイロンMXD(メタキシリレンジアミンとアジピン酸)、ナイロン6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸)、ナイロン6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸)、ナイロン9T(ノナンジアミンとテレフタル酸)、ナイロンM5T(メチルペンタジアミンとテレフタル酸)、ナイロン10T(デカメチレンジアミンとテレフタル酸)を挙げることができる。
これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミドが好ましい。
【0014】
(B)成分のレーヨン繊維は、Lenzinger Berichte 87(2009)p98-p105に記載されたものを使用することができ、例えば、ビスコースレーヨン、ポリノジック、モダール、キュプラ、リヨセル(テンセル)、BocellやFORTIZAN(〔CELANESE社製〕セルロースアセテートを延伸した後、アルカリでケン化させて得られる繊維)等を使用することができる。
(B)成分のレーヨン繊維は、レーヨン繊維の束に樹脂を含浸し易くするため及び成形品の機械的強度を高めるため、繊維径が5〜30μmで、X線配向度が86%以上のものである。
(B)成分のレーヨン繊維の繊維径は、好ましくは6〜20μm、より好ましくは7〜15μmである。
(B)成分のレーヨン繊維のX線配向度は、好ましくは90%以上である。
ここでX線配向度は、特開平9−31744号公報の段落番号0012と段落番号0013や特開平9−256216号公報の段落0020から段落0021の数式から求められるものである。
(B)成分のレーヨン繊維は、上記の繊維径で、かつ上記のX線配向度であり、さらに引張弾性率(ヤング率)が10GPa以上のものが好ましく、より好ましくは13GPa以上、さらに好ましくは15GPa以上である。
【0015】
(B)成分のレーヨン繊維は、セルロース分子が繊維の長手方向に高配向した(X線配向度が86%以上)ものであり、引張弾性率が高く、樹脂との界面強度も高く、長繊維としての特性にも優れるために、長繊維強化樹脂用の繊維として非常に優れている。
(B)成分のレーヨン繊維は、結晶性が高い天然セルロース繊維等に比べると繊維表面の活性が強く反応性が高い。よって、(B)成分を含有することによる効果をより高めるため、(A)成分として酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。(A)成分として官能基含有樹脂を含有することで、レーヨン繊維と(A)成分の樹脂との界面強度がより高くなり、物性がさらに向上されるとともに、長繊維化することによる物性向上効果もさらに大きくなる。
【0016】
〔樹脂含浸長繊維束〕
樹脂含浸長繊維束は、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で2,000〜30,000本束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態で含浸させて、一体化した後に、3〜30mmの長さに切断して得ることができる。このとき、レーヨン繊維束の中心部にまで溶融させた熱可塑性樹脂を含浸させるようにする。
【0017】
レーヨン繊維束の本数は、30,000本を超えると繊維束の中心部にまで溶融させた(A)成分の熱可塑性樹脂を含浸できなくなり、繊維強化樹脂組成物を成形加工した場合に、繊維の分散が悪くなり外観や機械的強度が悪くなる。レーヨン繊維束の本数が3,000本より少なくなると、樹脂含浸繊維束の製造時に繊維束が切れる等の製造上の問題が発生する。レーヨン繊維束の本数は好ましくは3,000〜25,000本であり、より好ましくは5,000〜25,000本である。
【0018】
樹脂含浸長繊維束は、ダイスを用いた周知の製造方法により製造することができ、例えば、特許文献2(特開平6−313050号公報)の段落番号7、特許文献3(特開2007−176227号公報)の段落番号23のほか、特公平6−2344号公報(樹脂被覆長繊維束の製造方法並びに成形方法)、特開平6−114832号公報(繊維強化熱可塑性樹脂構造体およびその製造法)、特開平6−293023号公報(長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法)、特開平7−205317号公報(繊維束の取り出し方法および長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−216104号公報(長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−251437号公報(長繊維強化熱可塑性複合材料の製造方法および製造装置)、特開平8−118490号公報(クロスヘッドダイおよび長繊維強化樹脂構造物の製造方法)等に記載の製造方法を適用することができる。
【0019】
樹脂含浸長繊維束の長さ(即ち、樹脂含浸長繊維束に含まれている(B)成分のレーヨン繊維の長さ)は、3〜30mmの範囲であり、好ましくは5mm〜20mm、より好ましくは6mm〜15mmである。3mm以上であると組成物から得られる成形体の機械的強度を高めることができ、30mm以下であると成形性が良くなる。
【0020】
樹脂含浸長繊維束中の(A)成分と(B)成分の含有割合は、
(A)成分は95〜30質量%が好ましく、90〜40質量%がより好ましく、80〜40質量%がさらに好ましく、
(B)成分は5〜70質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましく、20〜60質量%がさらに好ましい。
【0021】
本発明の繊維強化樹脂組成物には、本発明の課題を解決できる範囲内で、公知の他の難燃剤及び難燃助剤、熱安定剤、滑剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、離型剤、帯電防止剤を含有することができる。
これらの成分は樹脂含浸長繊維束に含有させてもよいし、樹脂含浸長繊維束とは別に含有してもよい。
【0022】
<繊維強化樹脂組成物からなる成形体>
本発明の成形体は、上記した樹脂含浸長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物を成形して得られるものである。
本発明の成形体を得るときは、上記した樹脂含浸長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物に加えて、必要に応じて上記した(A)成分の熱可塑性樹脂を加えることができる。
本発明の繊維強化樹脂組成物に含まれている樹脂含浸長繊維束は、溶融した樹脂に対する分散性が良いので、得られた成形体中にレーヨン繊維を均一に分散することができる。
【0023】
本発明の樹脂含浸長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物を成形するとき、成形時に加えられる力によって、樹脂含浸長繊維束に含まれているレーヨン繊維が破損して短くなることが避けられないが、本発明ではセルロース分子が繊維の長手方向に高配向した(X線配向度が86%以上)のレーヨン繊維を使用しているので、繊維の強度が高く、前記のような破損によりレーヨン繊維が短くなることが抑制される。
また繊維そのものの強度や弾性率も高いことから、得られた成形体の機械的強度(曲げ弾性率等)を大きくすることができる。
【0024】
さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体は、所定の引張弾性率を有するレーヨン繊維を含有しており、ガラス繊維等の無機繊維を含有するものと比べると軽量であることから(即ち、密度を小さくできることから)、比弾性率(曲げ弾性率/密度)の大きな成形体を得ることができる。
そして、例えばレーヨン長繊維含有ポリプロピレン成形体とガラス長繊維含有ポリプロピレン成形体を比較すると、レーヨン繊維又はガラス繊維の配合量が高くなるに従い比弾性率は大きくなってくるが、その度合いは、レーヨン長繊維含有ポリプロピレン成形体の方が大きくなる。
本発明の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体は、厚さ4mmの成形体の比弾性率が4,000MPa以上のものであることが好ましく、より好ましくは4,500MPa以上のものであり、さらに好ましくは5,000MPa以上のものである。
【0025】
本発明の成形体は、用途に応じた所望形状にすることができるが、上記のとおり、比弾性率を大きくすることができるため、薄い板状成形体にした場合には、軽量でかつ高い機械的強度を有するものを得ることができる。
本発明の成形体を薄い板状成形体にする場合には、例えば1〜5mmの厚さにした場合でも、高い機械的強度のものを得ることができる。
また本発明の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体は、レーヨン繊維を含有していることから、燃焼したときにもガラス繊維のような燃焼残渣が残らない。
【0026】
本発明の成形体は、軽量で機械的強度(特に比弾性率)が高いため、電気・電子機器、通信機器、自動車、建築材料、日用品等の各種分野で使用されている金属部品の代替品として使用することができ、特に各種機器のハウジング、板状の外装材として好適である。
【実施例】
【0027】
製造例1(樹脂含浸長繊維束の製造)
表1に示す実施例1〜5と比較例1で使用した樹脂含浸長繊維束を製造した。
束ねられた(B)成分のレーヨン長繊維からなる繊維束(表1に示す繊維本数)をクロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機(シリンダー温度290℃)から溶融状態の表1に示す(A)成分を表1に示す量だけ供給し、その溶融物を(B)成分のレーヨン繊維束に含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さ(表1の長繊維束の長さ)に切断し、ペレット状(円柱状)の樹脂含浸長繊維束を得た。
このようにして得た樹脂含浸長繊維束を切断して確認したところ、実施例1〜5では、レーヨン繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されていた。
比較例1の樹脂含浸長繊維束を同様に切断して確認したところ、比較例1では、レーヨン繊維が長さ方向にほぼ平行になっていたが、中心部までは樹脂が十分には含浸されていなかった。
【0028】
実施例1〜5、比較例1
製造例1で得た樹脂含浸長繊維束からなる組成物を得た。
【0029】
比較例2
表1に示す成分を用いて、下記の方法(特開2008−297479号公報の実施例に記載されている方法)により、セルロース繊維含有組成物を製造した。
〔第1工程〕
ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量200L)を140℃に加温し、棒状のパルプシートを90°の角度にてミキサーに投入し、平均周速50m/秒で攪拌した。約3分経過時点において、棒状のパルプシートが綿状に変化した。
【0030】
〔第2工程〕
引き続き、ヒーターミキサー内にポリプロピレンを投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの電流値は30Aであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。
【0031】
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、電流値は50Aに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。低速回転開始1分30行後、電流値は70Aに達したので、ミキサーの排出口をあけ、接続する冷却ミキサーに排出した。
【0032】
〔第3工程〕
冷却ミキサー〔回転羽根:冷却用標準羽根,水冷手段(20℃)及び温度計付き,容量500L,クーラーミキサー〕平均周速10m/秒で攪拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で攪拌を終了した。第3工程の処理により、セルロース繊維とポリプロピレンの混合物は固化して、直径が数mmから2cm程度の造粒物が得られた。
【0033】
比較例3、4
表1に示す成分を用いて、下記の方法(特開2007−84713号公報の実施例に記載されている方法に類似する方法)により、繊維含有組成物を製造した。
〔第1工程〕
ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量200L)を140℃に加温し、ポリプロピレン樹脂とレーヨン短繊維をミキサーに投入し、平均周速50m/秒で攪拌した。ミキサーの温度が120℃に達した時に、酸変性PPを投入し攪拌を続けた。
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、電流値が50Aに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。低速回転開始1分30秒後、電流値は70Aに達したので、ミキサーの排出口を開け、接続する冷却ミキサーに排出した。
【0034】
〔第2工程〕
冷却ミキサー〔回転羽根:冷却用標準羽根,水冷手段(20℃)及び温度計付き,容量500L,クーラーミキサー〕平均周速10m/秒で攪拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で攪拌を終了した。第3工程の処理により、セルロース繊維とポリプロピレンの混合物は固化して、直径が数mmから2cm程度の造粒物が得られた。
【0035】
比較例5
樹脂含浸ガラス長繊維束として市販品(プラストロンPP-GF-20-02:ダイセルポリマー(株)製)を使用した。この市販品も、ガラス繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されているものである。
【0036】
<使用成分>
(A)成分
PP(ポリプロピレン):J139((株)プライムポリマー製)
酸変性PP:OREVAC CA100(アトフィナ・ジャパン(株)製),無水マレイン酸変性1.0%
(B)成分
レーヨン繊維束1:繊維径12μm,X線配向度93%、ヤング率20GPaのレーヨン繊維を使用した本数6,000本
レーヨン繊維束2:繊維径12μm、X線配向度91%、ヤング率18GPaのレーヨン繊維を使用した本数20,000本
レーヨン繊維束3:繊維径10μm、X線配向度91%、ヤング率13GPaのレーヨン繊維(Lenzing社製のTENCEL〔登録商標〕)の束を解いて分割し、18,000本にした束)
【0037】
(比較成分)
比較用レーヨン繊維束1:繊維径9μm,X線配向度90%、ヤング率9GPaのレーヨン繊維を使用した本数37500本
レーヨン短繊維1:レーヨン長繊維束1を3mmにカットしたもの。
レーヨン短繊維2:レーヨン長繊維束3を3mmにカットしたもの。
木材パルプ:パルプNDP−T(日本製紙(株)製),繊維径25μm、平均繊維長1.8mm
ガラス長繊維強化樹脂:プラストロンPP-GF-20-02(長繊維ガラス20%強化ポリプロピレン樹脂,ダイセルポリマー(株)製)
【0038】
<測定方法>
(レーヨン繊維の引張弾性率(ヤング率))
23℃、50RHの空調で3週間保管後、チャック間距離200mm、引張速度200mm/min.で測定。
(レーヨン繊維のX線配向度)
X線配向度は,透過法で求めた。シンチレーションカウンターを(101)面の回折角度に相当する2θ=20.1°に固定し,繊維束を入射X線に対し垂直に回転させ,方位角ψの回折X線強度を測定し、E.Ott、M.Spurlin編「Cellulose and Cellulose Derivatives」2nd.ed.、Vol.II,Interscience publishers,New York(1954)に記載される次式により算出した。式中、ψ1/2 は、方位角度(degrees)で表した半値幅である。
fc(%)={(1−(ψ1/2/180))×100
【0039】
(試験片作製方法)
下記条件にてISO多目的試験片A型形状品(厚み2mm)を作製して、下記の各測定用の試験片とした。
装置:(株)日本製鋼所製、J−150EII
シリンダー温度280℃
金型温度:100℃
スクリュー:長繊維専用スクリュー
スクリュー径:51mm
ゲート形状20mm幅サイドゲート
【0040】
(1)引張強度(MPa)
ISO527に準拠して測定した。
(2)曲げ強度(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(3)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(4)シャルピー衝撃強度(kJ/m2
ISO179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
(5)成形体中のレーヨン繊維の分散状態
試験片の表面を目視にて観察した。
成形体中のレーヨン繊維の分散が良いものは、試験片表面にレーヨン繊維の塊(解繊されずに残った繊維束)が存在していないが、分散が悪いものは、試験片表面にレーヨン繊維の塊(解繊されずに残った繊維束)が見られる。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜5と比較例1〜4との対比から、実施例1〜5の樹脂含浸レーヨン長繊維束を使用した成形体の機械的強度が優れていることが確認できた。
比較例1は、樹脂含浸レーヨン長繊維束を使用しているが、製造例1に記載しているとおり、繊維束の中心部にまで樹脂(PP)が含浸されていなかったため、繊維束が十分に解繊されず、多数本の繊維がまとまった束(塊)状のものが分散していることが確認された。このため、実施例1〜5と比べると機械的強度が劣ったものと認められる。
【0043】
比較例5は、樹脂含浸ガラス長繊維束を使用した例であり、実施例1〜5と比べると比弾性率が劣っていた。この結果から、レーヨン繊維は、ガラス繊維と比較しても、弾性率向上のための長繊維強化用の強化繊維としての特性(密度とヤング率とのバランス)に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂及び(B)レーヨン繊維を含む樹脂含浸長繊維束を含む繊維強化樹脂組成物であって、
(B)成分のレーヨン繊維が、繊維径が5〜30μmで、X線配向度が86%以上のものであり、
前記樹脂含浸長繊維束が、(B)成分のレーヨン繊維を長さ方向に揃えた状態で2,000〜30,000本束ねたものに(A)成分の熱可塑性樹脂を溶融させた状態で含浸させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分のレーヨン繊維が、繊維径が5〜30μm、X線配向度が86%以上でかつ引張弾性率が10GPa以上のものである請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分のレーヨン繊維が、繊維径が5〜30μm、X線配向度が90%以上でかつ引張弾性率が13GPa以上のものである、請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分の熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド系樹脂から選ばれるものを含むものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分の熱可塑性樹脂がポリプロピレンとマレイン酸変性ポリプロピレン及び/又は無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含むものであり、
(A)成分中の酸量が、無水マレイン酸換算で平均0.005〜0.5質量%である、請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分の熱可塑性樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12の脂肪族ポリアミドから選ばれるものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の繊維強化樹脂組成物から得られる成形体。
【請求項8】
厚さ4mmの成形体の比弾性率が4,000MPa以上である請求項7記載の成形体。
【請求項9】
厚さ4mmの成形体の比弾性率が4,500MPa以上である請求項7記載の成形体。

【公開番号】特開2013−91775(P2013−91775A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182123(P2012−182123)
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】