説明

繊維強化樹脂製ローラおよびその製造方法

【課題】 本発明は、低慣性モーメントを有するローラおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 樹脂含有量が50重量%未満の繊維強化プラスチックからなる内層と、樹脂含有量が50〜95重量%の繊維強化プラスチックからなる外層とを有するFRP管体の表面に無電解メッキを施してローラを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製造ラインに用いる搬送用ローラ、特に印刷用、フィルム搬送用、紙製造欄ライン、おむつ製造ラインに適する軽量かつ低慣性の繊維強化プラスチック製のローラに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム、箔、紙等の製造に用いられる搬送用ローラは、従来、スチール製やアルミニウム製等の金属製のものが多く用いられてきた。しかし、製造ラインの搬送速度に急激な速度変化が生じたような場合には、金属製ローラは慣性モーメントが大きいため、速度変化に対する追従性が悪く、搬送物と摩擦が生じて傷をつけてしまうなどの問題があった。そのため、高速運転に障害を生じたり、高精度、高品質の製品を製造することの妨げとなっている。
【0003】
そこで、繊維強化プラスチックの管体の表面に金属メッキしたローラが提案されている。特に強化繊維として炭素繊維を用いたローラは、高剛性かつ軽量であるため、低慣性を示すことから、ラインの高速化と製品の高精度化が可能になってきている。
【0004】
炭素繊維強化プラスチックの管体にメッキを施す方法としては、特開昭51ー150581号公報(特許文献1)では炭素繊維の導電性を利用して直接電気メッキを行っているが、表面の導電性の不均一性のためにメッキの厚みむらができるため、全面をメッキ層で被覆するためには非常に厚くメッキを形成する必要があった。また、特開平7―276538号公報(特許文献2)では、炭素繊維強化プラスチックの最外層をフィラメントワインディング法を用いて周方向巻きして炭素繊維を周方向に配向させ、その表面を研削して炭素繊維を露出させて電気メッキする方法が記載されている。この文献には、表面に露出している炭素繊維の間隔が狭いために均一なメッキができると記載されているが、微細的には、繊維と樹脂層が交互に存在するために、メッキが不均一に析出することに変わりはなく、平滑性のよい表面を得るためには金属メッキ層を厚く形成する必要がある。
【0005】
特開平6―117430号公報(特許文献3)では、炭素繊維強化プラスチックの管体の表面に、銀粉体を配合したエポキシ樹脂の導電樹脂を塗布硬化してメッキの下地層とし、その上に銅メッキおよびクロムメッキを電気メッキにて行う方法が記載されている。しかし、実際上は、炭素繊維強化プラスチックの研削時に生じるささくれや欠けの処理のために煩雑な前処理工程が必要であり、また炭素繊維の筋が表面に出やすく炭素繊維強化プラスチックの表面の平滑性を上げることが困難であるため、クロムメッキ面の平滑性を上げるためにはやはり下地めっきの銅メッキ層を厚く形成する必要がある。
【0006】
このように、従来の技術では、電解メッキ法を用いた場合には、ロール精度(真円度、円筒度、振れ)を出すためには、下地前処理、導電性追加処理、および銅メッキまたはニッケルメッキ等の下地メッキ層形成を行った後、円筒研磨により精度を出した後、硬質クロムメッキしてバフ研磨仕上げをするという非常に長い工程を経る必要があり、生産コストの上昇が避けられなかった。しかも、下地メッキ層が200μm以上にもなり、薄くて低慣性ローラが求められている現状では無視できない質量である。
【0007】
また、特開平6―210797号公報(特許文献4)には、繊維強化プラスチックの管体の表面に金属筒を圧入して、その表面にクロムメッキを施す方法が記載されているが、回転慣性モーメントが大きくなるために、軽量低慣性ローラとしての効果を損なっていると言わざるを得ない。
【0008】
さらに、特開平5−286058号公報(特許文献5)には、炭素繊維強化プラスチック製管体の表面に樹脂をスプレー塗布した上で、無電解メッキを施してローラとすることが記載されている。無電解メッキ法を使用することで薄い金属層を形成できるので、低慣性化が図れると考えられるが、通常の炭素繊維強化プラスチックでは、繊維の筋が表面に出たり、欠け、ささくれ等の前処理が必要であり、実際上は簡単には平滑性を出せない問題があり、表面精度を出そうとするとスプレー塗布後に機械加工による仕上げが必要になるか、またはメッキを厚くせざるをえない問題があった。
【特許文献1】特開昭51ー150581号公報
【特許文献2】特開平7―276538号公報
【特許文献3】特開平6―117430号公報
【特許文献4】特開平6―210797号公報
【特許文献5】特開平5−286058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、低慣性モーメントを有するローラおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の事項に関する。
【0011】
1. 樹脂含有量が50重量%未満の繊維強化プラスチックからなる内層と、樹脂含有量が50〜95重量%の繊維強化プラスチックからなる外層とを有するローラ。
【0012】
2. 前記外層の厚さが0.2〜1.5mmである上記1記載のローラ。
【0013】
3. 前記外層の強化繊維が有機繊維である上記1または2記載のローラ。
【0014】
4. 前記強化繊維の形態が不織布である上記1〜3のいずれかに記載のローラ。
【0015】
5. 表面に金属メッキ層を有する上記1〜4のいずれかに記載のローラ。
【0016】
6. 表面粗さが2.0S以下である上記5記載のローラ。
【0017】
7. 前記金属メッキ層は無電解メッキにより形成され、厚さが10〜100μmである上記5または6記載のローラ。
【0018】
8. 前記金属メッキ層は電解メッキにより形成され、厚さが55〜150μmの下地メッキ層と表面のクロムメッキ層からなる上記5または6記載のローラ。
【0019】
9. 前記金属メッキ層は電解メッキにより形成され、厚さが55〜150μmのメッキ層からなる上記5または6記載のローラ。
【0020】
10. 前記内層が炭素繊維強化プラスチックである上記1〜9のいずれかに記載のローラ。
【0021】
11. 硬化後に樹脂含有量が50重量%未満となるようにマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させた内層用プリプレグをマンドレルに巻回す工程と、硬化後に樹脂含有量が50〜95重量%となるようにマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させた外層用プリプレグをマンドレルに巻回す工程と、巻回した内層用および外層用プリプレグを硬化させて繊維強化プラスチック管体を得る工程と、硬化した繊維強化プラスチック管体の前記外層の表面を円筒研磨する工程とを有するローラの製造方法。
【0022】
12. 前記研磨した繊維強化プラスチック管体の表面に無電解メッキ法によりメッキ層を形成する工程をさらに有する上記11記載のローラの製造方法。
【0023】
13. 前記研磨した繊維強化プラスチック管体の表面に電解メッキ法によりメッキ層を形成する工程をさらに有する上記11記載のローラの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、表面に無電解メッキ層を形成した態様では、表面の精度がよく且つ軽量で慣性モーメントの小さな高性能のローラを提供することができる。本発明では、繊維強化プラスチック管体の内層を樹脂含有量50重量%未満の繊維強化プラスチックとすることで強度、剛性などの機械的性質を確保し、一方、外層を樹脂含有量50〜95重量%の繊維強化プラスチックとすることで、表面精度を向上させることができる。無電解メッキを用いた形態では、上記の高性能のローラを簡単な工程により製造する方法を提供することができる。
【0025】
また、表面に電解メッキ層を形成した態様においても、電解メッキ法を用いた従来のローラよりも、クロムメッキ層に対する下地メッキ層を薄くすることができる。またクロムメッキ層を表面層としない場合でも同様にメッキ層を薄くできる。このため、軽量で低慣性モーメントを達成したローラを提供することができる。また、繊維強化プラスチック管体表面のパテ埋めなどの表面前処理が不要になり、またクロムメッキ前の銅メッキ、ニッケルメッキ等の下地メッキ層等の研磨処理等も不要になる場合があり、生産性の高い製造方法を提供することができる。
【0026】
本発明のローラは、軽量かつ低慣性モーメントであるため、そのような特性が特に要求される搬送用ローラ(特にフリーローラ)として、各種用途に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明のローラは、繊維強化プラスチック管体(以下、FRP管体ともいう。)と通常はその表面に形成された金属メッキ層を有する。金属メッキ層を有しないローラも表面精度がよいため、用途によってはそのまま使用することも可能であるが、表面に金属メッキ層を形成することで耐磨耗性が向上し、表面精度、平滑度も上がるので、通常の用途では金属メッキ層を有する。
【0028】
FRP管体の内層には、樹脂含有量が50重量%未満の繊維強化プラスチックを使用する。即ち、強化繊維の割合が大きくして、軽量に加えてローラの強度・剛性を確保する。さらに好ましくは42重量%以下、特に35重量%以下であり、また通常20重量%以上が好ましい。
【0029】
内層に用いる強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、チタン繊維等の無機繊維、ポリアミド(6−ナイロン、6,6−ナイロン等の脂肪族系が好ましい。)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、アクリル繊維等の有機繊維が挙げられる。この中でも、比強度・比剛性の大きな炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、ピッチ系でもPAN系でもどちらでも使用できる。これらの強化繊維は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。強化繊維の形態としては、一方向材、織布、マット、不織布等どのような形態でもよいが、剛性が出やすい一方向材の形態が好ましい。
【0030】
内層を構成するマトリックス樹脂は、ローラの用途に合わせて選ぶことが好ましいが、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができるが、取り扱い性と性能の面からエポキシ樹脂が好ましい。
【0031】
FRP管体の外層には、樹脂含有量が50〜95重量%の繊維強化プラスチックを使用する。このように樹脂含有量を大きくすることで、繊維の筋の影響がほとんどない状態に表面加工することが可能になり加工精度が向上するため、その後の無電解メッキ層を薄く形成しても表面の平滑性がよい。また電解メッキ層を形成する場合も金属メッキ層を薄くすることができる。外層の樹脂含有量は、好ましくは55重量%以上である。
【0032】
外層に用いる強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、チタン繊維等の無機繊維;6−ナイロン、6,6−ナイロン等の特に脂肪族系のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維およびポリプロピレン繊維等の有機繊維が上げられる。この中でも、マトリクス樹脂に比べてあまり硬くない方が好ましく、6−ナイロン、6,6−ナイロン等の特に脂肪族系のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維およびポリプロピレン繊維等の有機繊維が好ましい。特にポリエステル繊維が好ましい。
【0033】
尚、外層における「強化繊維」は、必ずしもマトリックス樹脂の強度・剛性等の機械的性質を強化する必要はないが、後述するように外層を研削・研磨する際に割れや欠けを防止して高精度加工を可能にするという意味において、本発明では強化繊維と呼んでいる。
【0034】
外層に用いる強化繊維の形態としては、通常のFRPに適用される形態が挙げられるが、樹脂含有量を多くできる形態が好ましく、特に不織布の形態が好ましい。
【0035】
外層を構成するマトリックス樹脂も、ローラの用途に合わせて選ぶことが好ましい。但し、樹脂含有量が多いことから粘度はある程度大きい方が好ましく、特に作業時(特に硬化のために加熱して粘度が下がった時)の温度における樹脂粘度(最低粘度)が1〜10Pa・sであると、作業が簡単であり、内層と外層とを一体成形できる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができるが、取り扱い性と性能の面からエポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
FRP管体を形成する方法として、例えば、内層用として強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを所定の構成(繊維配向および積層数等)になるようにマンドレルに巻回し、一旦硬化または硬化させずに、外層用として強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを内層上に巻回した後に硬化させるシートローリング法が好ましい。あるいは、内層用としてフィラメントワインディング法により強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させながら所定量マンドレルに巻回した後、一旦硬化または硬化させずに、シートローリング法により外層用のプリプレグを巻回し後、硬化させてもよい。特に、外層の強化繊維の形態が不織布であるときは、マトリックス樹脂を予め含浸させたシート状のプリプレグを使用したシートローリング法で外層を形成することが好ましい。
【0037】
硬化後、マンドレルを脱芯して表面未研磨のFRP管体を得る。その後外層を、所定の表面平滑性がでるように研削・研磨する。FRP管体は、外層の円筒研磨により所定の外径精度、円筒度、真円度および振れの範囲に収まるようになるが、本発明の構成では研磨表面に繊維の筋や模様による微小凹凸がなく、高い平滑性を容易に達成することが可能である。しかも、研削・研磨の際に、欠けやはがれがないため生産性が極めてよい特徴がある。
【0038】
外層の厚さは、円筒研磨の際に、内層のうねりの影響がなく均一な表面を得るためには、研磨後の厚さで0.1mm以上が好ましく、さらに好ましくは0.2mm以上である。また外層は内層に比べると樹脂の含有量が大きく弾性率が低いことから、外層を厚くするとローラ全体の曲げ弾性率が低下してしまい、内層に剛性の高い強化繊維を使用しなければならなくなり、コスト高になりがちである。従って外層の厚さは通常は1.5mm以下が好ましく、さらに好ましくは1.0mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。
【0039】
本発明では、FRP管体に用途で必要とされる形状加工が施されてもよい。例えば、溝(例えば0.2mm幅で0.1mm深さ)をスパイラル状または円周方向にループ状に切削して設けてもよいし、例えば0.1mm程度の段差を設けてもよい。このような加工は、外層の加工(研磨等)の後に必要な加工を行えばよい。また、溝を切ったり段差加工をする場合は、段差部の最薄部の残りの厚みが前記の値となるようにすることが好ましい。
【0040】
尚、内層の厚さは用途に合わせて適宜決められるものである。特に、強化繊維の繊維配向の異なる多層構造とすることが剛性の点で好ましい。
【0041】
このようにしてFRP管体が得られるが、外層の研削・研磨の前または後などの適当な時期に、ローラの軸を取り付ける。尚、通常ローラの軸は金属製であるが、中心にあるため慣性モーメントに与える影響は小さい。
【0042】
このようにして得たFRP管体の表面に無電解メッキ法、または電解メッキ法により金属メッキ層を形成する。
【0043】
<無電解メッキ法による態様>
無電解メッキ法によりFRP管体表面に金属メッキ層を形成するには、公知の方法を適用すればよく、例えば、必要により表面の脱脂処理を行った後、必要によりクロム酸処理またはオゾン処理等により表面の粗化処理を行った後、キャタリスト液による前処理を行い、場合によりアクセレーター処理を行い、その後無電解メッキ液に浸漬することで、金属メッキ層を形成することができる。無電解メッキ層は、ニッケル、ニッケル−ホウ素系およびニッケル−リン系等のニッケル系のメッキ層が好ましい。特に、従来の硬質クロムメッキの代替として使用するには、ニッケル−ホウ素系およびニッケル−リン系等のニッケル系合金メッキが、硬度、耐磨耗性、耐熱性および耐食性の面で好ましい。
【0044】
また、無電解メッキの際に、皮膜中にPTFEなどのフッ素樹脂を含有させることも可能であり、例えば20〜30重量%のPTEFを均一に含有するニッケル層を析出させることができる。このメッキ層は樹脂コーティングと異なり、表面が硬く、すべり性、耐磨耗性に優れ、特に剥離性が要求される用途には好適である。
【0045】
メッキ層は単層でも異なる材料の多層でもよいが、好ましくは単層である。
【0046】
無電解メッキ層の厚さは、FRP管体表面の平滑性が高いため、無電解メッキ層の厚さが薄くても表面の均一なメッキ層が得られる。従って、無電解メッキ層の厚さは、好ましくは10μmあれば、通常は十分に平滑で均一な表面が得られるが、密着性と最終的なバフ研磨による変形の可能性、メッキ本来の硬度の発揮等を考慮すると、15μm以上あった方が確実である。一方、厚くしすぎても慣性が大きくなることに加え、メッキ前に行った円筒研磨の精度(円筒度、真円度等)が低下し、再度円筒研磨が必要になる場合があるので、好ましくは100μm以下である。最も好ましい範囲は、30μmから60μmである。
【0047】
このようにして、所定の内層と外層からなるFRP管体の表面に金属メッキ層を有するローラが得られる。このローラはそのまま使用しても、必要に応じてバフ研磨、鏡面研磨等を行って使用してもよい。このようにして得られるローラの表面粗さは、JIS B 0601-1994に従う表面粗さ測定により、10点平均が、容易に2.0S以下、特に1.0S以下になる。
【0048】
以上のようにして、表面精度が高く、軽量で低慣性の繊維強化プラスチック製のローラが簡便な方法で形成できる。
【0049】
<電解メッキ法による態様>
軽量および低慣性の観点では、上記の無電解メッキ法によって形成したローラが好ましいが、表面クロム層が要求される用途、またはクロムと同等の表面硬さを求められる場合には電解メッキ法で形成する。前述のように形成した本発明にかかるFRP管体を用いると、表面が均一でささくれや欠けがないため、パテ埋めなどの前処理を省略し、導電性付与処理から行えばよい。導電性付与処理は特に制限はないが、背景技術で説明したように、銀粉体を配合したエポキシ樹脂の導電樹脂を塗布硬化してメッキの下地層を形成する。
【0050】
その後、その上に銅メッキまたはニッケルメッキを下地メッキ層として電解メッキで形成する。厚さは、従来は表面の均一性がでるように200μm〜300μmの厚さが必要であったが、本発明では、150μm以下の厚さに形成すればよい。尚、クロムメッキ時に大電流を流す必要性等も考慮すると、通常は55μm以上が必要であり、好ましくは75μm以上である。従来の工程では、銅またはニッケル電解メッキを施した後、再度円筒研磨を行っていたが、本発明では場合によってはクロムメッキを行ってもよい。クロムメッキ層の厚さは通常の厚さでよいが、例えば5〜30μmである。その後、必要によりバフ研磨、鏡面研磨等を行って、ローラを完成する。
【0051】
また、電解メッキの際にメッキ材料を選ぶことにより表面クロム層を有しないメッキ層とすることもできる。例えば、ニッケル系合金で表面硬度がHv550以上あるメッキ層を単層で形成することも可能である。厚さは、150μm以下の厚さに形成すればよいが、密着性を考慮すると通常は50μm以上が必要であり、好ましくは75μmである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
<実施例1、2、比較例1〜3>
内層を構成するためのプリプレグとして、引張弾性率600GPaの炭素繊維を一方向に引き揃えてエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ(厚み0.2mm)Aと引張弾性率230GPaの炭素繊維を一方向に引き揃えてエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグB(厚み0.125mm)を用意し、さらに外層を構成するための外層プリプレグとして、表2に示したものを用意し、直径90mm、長さ1700mmの芯金にプリプレグA、プリプレグBおよび外層プリプレグを、表1に示すような層構成になるように巻き付けた。
【0054】
最後にテーピングを行った後、130℃において2時間加熱硬化させた。巻き付けは、シートローリング法を用いた。
【0055】
硬化後、芯金を脱型し得られたパイプを所定の長さに切断し、金属製軸を接着嵌合させ、FRP管体を製作した。次に、得られたFRP管体の外側表面を円筒研磨機により、円筒度、真円度を0.05mmに仕上げ、表面粗さを測定した。
【0056】
次に、無電解メッキによりニッケル−リン合金めっきを50μmの厚みになるようにめっきした。メッキ後、バフ研磨にて仕上げた。
【0057】
<結果>
表3に、メッキ前後の外観および表面粗さ測定結果を示す。メッキ前の状態では、実施例1および2では、円筒研磨後に均一な表面層が得られ、粗さもそろっていた。比較例1ではポリエステルの繊維が研磨表面に毛羽立っている状態であり、表面粗さも繊維に乗り上げた場合非常に大きくなり、平均値が大きくなった。比較例2では、最表面に織物を使用しているため、研磨後の織物の交点にピンホールが発生して、表面粗さの測定が不可であった。比較例3では、繊維の方向に沿って樹脂と繊維の模様が見られたが、表面粗さは小さかった。
【0058】
メッキ後の状態については、実施例1および実施例2では、均一な表面と表面粗さ0.8Sが得られた。比較例1では、繊維毛羽がそのまま残り均一な表面とはならなかった。比較例2では、ピンホールが埋まらずそのまま残った。比較例3では、表面粗さは3.2Sが得られたが、外観に繊維の模様がそのまま残り、十分な平滑性が得られなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
<実施例3>
実施例2において、その途中までの工程で得た表面研磨済みのFRP管体を用いて、その表面に導電性塗料を塗布した後、電解メッキ法によりニッケル−リン合金メッキ層を100μmの厚さに形成した。メッキ層形成後の外観および表面粗さ測定結果を表4に示す。
【0063】
<実施例4>
実施例2において、その途中までの工程で得た表面研磨済みのFRP管体を用いて、その表面に導電性塗料を塗布した後、電解メッキ法によりニッケル−リン合金メッキ層を60μmの厚さに形成した。メッキ層形成後の外観および表面粗さ測定結果を表4に示す。
【0064】
<比較例4>
実施例2において、その途中までの工程で得た表面研磨済みのFRP管体を用いて、その表面に導電性塗料を塗布した後、電解メッキ法によりニッケル−リン合金メッキ層を50μmの厚さに形成した。メッキ層形成後の外観および表面粗さ測定結果を表4に示す。
【0065】
<比較例5>
比較例3において、その途中までの工程で得た表面研磨済みのFRP管体を用いて、その表面に導電性塗料を塗布した後、電解メッキ法によりニッケル−リン合金メッキ層を100μmの厚さに形成した。メッキ層形成後の外観および表面粗さ測定結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
尚、この表4中の実施例、比較例では、その後にクロムメッキの形成を行わなかったが、クロムメッキを行った場合にも、ほぼ同等の表面粗さとなる。
【0068】
<実施例5>
実施例2において、研磨済みのFRP管体を得た後、外層に幅0.2mm深さ0.1mmでピッチ3mmのスパイラル溝(右ネジ)を全面長にわたり切削加工し、その後実施例2と同様にして無電解メッキ法にてメッキ層を形成した。その結果、溝内部にもきれいにメッキが形成され実施例1と同様に均一な面が得られた。
【0069】
<実施例6>
実施例2において、研磨済みのFRP管体を得た後、外層に
面長の両端部100mm幅および面長中央部100mm以外の1400mmの部分に深さ0.1mmの段差加工し、その後実施例2と同様にして無電解メッキ法にてメッキ層を形成した。その結果、段差部にもきれいにメッキが形成され実施例1と同様に均一な面が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含有量が50重量%未満の繊維強化プラスチックからなる内層と、樹脂含有量が50〜95重量%の繊維強化プラスチックからなる外層とを有するローラ。
【請求項2】
前記外層の厚さが0.2〜1.5mmである請求項1記載のローラ。
【請求項3】
前記外層の強化繊維が有機繊維である請求項1または2記載のローラ。
【請求項4】
前記強化繊維の形態が不織布である請求項1〜3のいずれかに記載のローラ。
【請求項5】
表面に金属メッキ層を有する請求項1〜4のいずれかに記載のローラ。
【請求項6】
表面粗さが2.0S以下である請求項5記載のローラ。
【請求項7】
前記金属メッキ層は無電解メッキにより形成され、厚さが10〜100μmである請求項5または6記載のローラ。
【請求項8】
前記金属メッキ層は電解メッキにより形成され、厚さが55〜150μmの下地メッキ層と表面のクロムメッキ層からなる請求項5または6記載のローラ。
【請求項9】
前記金属メッキ層は電解メッキにより形成され、厚さが55〜150μmのメッキ層からなる請求項5または6記載のローラ。
【請求項10】
前記内層が炭素繊維強化プラスチックである請求項1〜9のいずれかに記載のローラ。
【請求項11】
硬化後に樹脂含有量が50重量%未満となるようにマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させた内層用プリプレグをマンドレルに巻回す工程と、
硬化後に樹脂含有量が50〜95重量%となるようにマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させた外層用プリプレグをマンドレルに巻回す工程と、
巻回した内層用および外層用プリプレグを硬化させて繊維強化プラスチック管体を得る工程と、
硬化した繊維強化プラスチック管体の前記外層の表面を円筒研磨する工程と
を有するローラの製造方法。
【請求項12】
前記研磨した繊維強化プラスチック管体の表面に無電解メッキ法によりメッキ層を形成する工程をさらに有する請求項11記載のローラの製造方法。
【請求項13】
前記研磨した繊維強化プラスチック管体の表面に電解メッキ法によりメッキ層を形成する工程をさらに有する請求項11記載のローラの製造方法。

【公開番号】特開2006−90525(P2006−90525A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280283(P2004−280283)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】