説明

繊維強化熱可塑性樹脂成形品とその製造方法

【課題】接合部が十分に接合した繊維強化熱可塑性樹脂成形品と、その製造方法を提供する。
【解決手段】複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品10であって、各接合部が、被接合面22a,32aを含む内側繊維強化樹脂層24,34と、前記内側繊維強化樹脂層24,34の外側に設けられた外側繊維強化樹脂層23,33とからなり、前記外側繊維強化樹脂層23、33は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化樹脂層24、34の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化熱可塑性樹脂成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の分野において、部品の材質を金属から樹脂へと変更することが検討されている。なかでも、剛性、耐衝撃性などの点から、強化繊維によって補強された繊維強化樹脂を金属に代えて採用することが試みられている。
繊維強化樹脂には、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂が用いられた繊維強化熱可塑性樹脂があり、例えば、自動車等の車両分野においては、エンジン周りに使用されるフレーム材や、バンパービームなどへの適用が検討されている(例えば特許文献1〜4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−9301号公報
【特許文献2】特開平6−313292号公報
【特許文献3】特開平7−88840号公報
【特許文献4】特開平9−216225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように繊維強化熱可塑性樹脂を用いて、種々の形状の部材を製造するにあたっては、複数の繊維強化熱可塑性樹脂成形品をそれぞれ製造した後、これらを接合することが必要となる場合がある。
しかしながら、繊維強化熱可塑性樹脂成形品同士は、接合しにくい場合があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、接合部が十分に接合した繊維強化熱可塑性樹脂成形品と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化樹脂層と、前記内側繊維強化樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化樹脂層とからなり、前記外側繊維強化樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い。
前記内側繊維強化樹脂層に含有される強化繊維は、ランダムに分布していることが好ましい。
前記内側繊維強化樹脂層に含有される強化繊維の繊維長は、数平均で5〜100mmであることが好ましい。
前記外側繊維強化樹脂層のうち、前記内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い前記少なくとも1層の強化繊維は、連続繊維であることが好ましい。
前記連続繊維は、該連続繊維が一方向に引き揃えられた一方向材、または、該一方向材が織られたクロス材であることが好ましい。
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法は、複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化樹脂層と、前記内側繊維強化樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化樹脂層とからなり、前記外側繊維強化樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い。
前記接合を振動溶着法により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接合部が十分に接合した繊維強化熱可塑性樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の縦断面図である。
【図3】図1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の内側繊維強化樹脂層に使用されるランダムシートを模式的に示す斜視図である。
【図4】図1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の成形に使用される成形用金型の一例を示す斜視図である。
【図5】図1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品を構成する部材を示す斜視図である。
【図6】実施例1で使用された積層シートを摸式的に示す斜視図である。
【図7】実施例2で使用されたプリプレグ積層シートを摸式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の一例を示す斜視図であり、図2は、図1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の縦断面図である。
この繊維強化熱可塑性樹脂成形品10は、繊維強化熱可塑性樹脂成形品からなる第1部材20と第2部材30とが、それぞれの各接合部で接合した中空形状の成形品である。この例の第1部材20と第2部材30は、同じ大きさ、形状を有するものであって、長手方向に沿う凹状部21,31と、その両側に長手方向に沿って形成された一定幅の縁部22,32とを有している。
そして、第1部材20と第2部材30とは、凹状部21,31同士、縁部22,32同士が互いに対向するように配置された後、対向する縁部22,32の表面(被接合面)22a,32a同士が振動溶着により接合され、中空形状とされている。
【0010】
第1部材20と第2部材30とは、図2に示すように、連続した強化繊維(連続繊維)が一方向に引き揃えられた一方向材(UD材)を強化繊維として含む1層の外側繊維強化樹脂層23,33と、強化繊維として束状の短繊維がランダムに分布した1層の内側繊維強化樹脂層24,34の2層構造になっている。そして、第1部材20と第2部材30とは、内側繊維強化樹脂層24,34側が内側に位置するように配置され、縁部22,32同士が接合されている。そのため、第1部材20および第2部材30の各接合部において、縁部22,32の表面、すなわち被接合面22a,32aを含む部分には、内側繊維強化樹脂層24,34が位置し、その外側に外側繊維強化樹脂層23,33が位置した状態になっている。
【0011】
繊維強化熱可塑性樹脂を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられる。外側繊維強化樹脂層23,33と内側繊維強化樹脂層24,34には、通常は同じ種類の強化繊維が使用されるが、目的により、異なる種類の強化繊維が使用されてもよい。
この例で外側繊維強化樹脂層23,33に使用されている一方向材は、多数本の強化繊維フィラメントからなる束が開繊され、引き揃えられたものである。この外側繊維強化樹脂層23,33は、一方向材に熱可塑性樹脂が含浸したプリプレグから構成されている。
また、この例の内側繊維強化樹脂層24,34は、束状の短繊維が層中でランダムに分布したものである。この内側繊維強化樹脂層24,34は、例えば上述の一方向材に熱可塑性樹脂を含浸した後、これを例えば5〜100mmの繊維長に切断し、この短繊維をランダムに分散させた状態で型内で加熱、加圧、冷却して得られた、図3に示すようないわゆるランダムシート40から構成されている。図中符号41は分散している短繊維を示す。
なお、ここでランダムな分散とは、多数本の強化繊維フィラメントからなる束として、強化繊維が特定の方向性を持たずに分散している状態、個々の強化繊維フィラメントとして、特定の方向性を持たずに分散している状態のいずれをも含む。
【0012】
繊維強化熱可塑性樹脂を構成する熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド6等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどを使用できる。また、これら各樹脂の変性体を用いてもよいし、複数種の樹脂をブレンドして用いてもよい。また、熱可塑性樹脂は、各種添加剤、フィラー、着色剤等を含んでいてもよい。
外側繊維強化樹脂層23,33と内側繊維強化樹脂層24,34には、通常は同じ種類の熱可塑性樹脂が使用されるが、目的により、異なる種類の熱可塑性樹脂が使用されてもよい。
【0013】
内側繊維強化樹脂層24,34中の強化繊維の体積含有率(JIS K 7052に準じて測定。)は、10〜60%であることが好ましい。強化繊維の体積含有率を60%以下とすることにより、接合部において、第1部材20と第2部材30とがより良好に接合する。強化繊維の体積含有率が60%を超えると、接合しにくくなったり、接合したとしても接合の度合いが不十分で、一旦接合した後に剥がれてしまったりする可能性がある。一方、強化繊維の体積含有率が10%以上であると、内側繊維強化樹脂層24,34中の強化繊維に由来する物性を発揮させることができる。
【0014】
内側繊維強化樹脂層24,34に含まれる短繊維41の繊維長は、数平均で5〜100mmであることが好ましい。5mm以上であれば、短繊維41をなす強化繊維に由来する物性を発揮させることができ、100mm以下であれば、第1部材20と第2部材30とを良好に接合することができる。
【0015】
外側繊維強化樹脂層23,33中の強化繊維の体積含有率は、10〜60%であることが好ましい。強化繊維の体積含有率が10%以上であると、外側繊維強化樹脂層23、33中の強化繊維に由来する物性を発揮させることができる。強化繊維の体積含有率が60%を超えると、強化繊維を十分に樹脂で覆うことができなくなる可能性がある。
また、外側繊維強化樹脂層23と内側繊維強化樹脂層24の厚みの合計100%に対して、外側繊維強化樹脂層23の厚みは5〜95%、内側繊維強化樹脂層24の厚みは、95〜5%とするのが好ましい。外側繊維強化樹脂層23の厚みを5%以上とすることにより、強化繊維層に由来する物性を発揮させることができる。内側繊維強化樹脂層24の厚みを5%以上とすることにより、第1部材20の被接合面22aと第2部材30の被接合面32aを良好に接合することができる。また、外側繊維強化樹脂層23と内側繊維強化樹脂層24の厚みの合計は0.5mm〜10mmが好ましい。外側繊維強化樹脂層23と内側繊維強化樹脂層24の厚みの合計を0.5mm以上とすることにより、物性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂の成形品を提供することができる。外側繊維強化樹脂層23と内側繊維強化樹脂層24の厚みの合計が10mmあれば、十分に優れた物性を有する。
同様に、外側繊維強化樹脂層33と内側繊維強化樹脂層34の厚みの合計100%に対して、外側繊維強化樹脂層33の厚みは5〜95%、内側繊維強化樹脂層34の厚みは、95〜5%とするのが好ましい。その好ましい理由は、上述と同様である。また、外側繊維強化樹脂層33と内側繊維強化樹脂層34の厚みの合計は0.5mm〜10mmが好ましい。その好ましい理由は上述と同様である。
【0016】
図1のような繊維強化熱可塑性樹脂成形品10は例えば次のようにして製造できる。
まず、外側繊維強化樹脂層23,33を形成するためのプリプレグを形成する。具体的には、強化繊維として、多数本の強化繊維フィラメントからなる束状の連続繊維を用意し、これを開繊した後、この繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させ、テープ状またはシート状の一方向プリプレグを得る。ここでプリプレグの厚みは、用途、目的とする物性などに応じて適宜設定できるが、例えば30〜300μmの範囲である。なお、図2では、外側繊維強化樹脂層23,33を1層のプリプレグ層で構成しているが、2層以上積層して構成してもよい。外側繊維強化樹脂層としての厚みは、例えば30μm〜5.0mmの範囲である。
【0017】
一方、内側繊維強化樹脂層24,34を形成するためのランダムシート40を形成する。具体的には、上述の一方向プリプレグを例えば5〜100mmの長さに切断して、一対の平板状の金型内にランダムに分散させる。ついで、含浸されている熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えば成形温度を(樹脂の融点又はガラス転移温度)℃〜(樹脂の融点又はガラス転移温度+100)℃とし、成形圧力0.2〜2.0MPa、保持時間1〜30分間の条件で加熱、加圧後、金型を冷却することにより、短繊維41がランダムに分散したランダムシート40を得る。ここでランダムシート40の厚みは、例えば100μm〜5.0mmの範囲である。
【0018】
ついで、上述の一方向プリプレグとランダムシート40とを重ねて積層シートとし、この積層シートを赤外線ヒーターなどの加熱手段で予備加熱してから、図4に示すような上金型51と下金型52からなる成形用金型50内に配置する。そして、含浸されている熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えば成形温度を(樹脂の融点又はガラス転移温度−100)℃〜(樹脂の融点又はガラス転移温度)℃とし、成形圧力3.0〜30MPa、保持時間0.5〜10分間の条件で加熱、加圧後、成形用金型50を冷却することにより、図5の成形品を得る。この成形品は、第1部材20および第2部材30として使用される。
なお、積層シートをこの例の成形用金型50内に配置する際には、下金型52側に、外側繊維強化樹脂層23,33が位置するようにする。
【0019】
ついで、得られた第1部材20と第2部材30とを凹状部21,31同士、縁部22,32同士が対向し、中空形状をなすように配置して、対向する縁部22,32の表面(被接合面)22a,32a同士が接合するように、振動溶着法により接合する。振動溶着法は、被接合面22a,32a同士を接触させた状態で振動させることにより接合する方法であり、市販の振動溶着機により行える。
【0020】
このような方法において、第1部材20および第2部材30の接合部の被接合面22a,32aは、内側繊維強化樹脂層24,34で構成され、この内側繊維強化樹脂層24,34の強化繊維は、外側繊維強化樹脂層23,33の強化繊維よりも数平均の繊維長が短い、この例では短繊維である。そのため、振動溶着法で接合部に振動が加えられた場合には、第1部材20の被接合面22a,32aの短繊維と第2部材30の被接合面22a,32aの短繊維とが良好に絡み合い、その結果、被接合面22a,32a同士が良好に接合する。
一方、内側繊維強化樹脂層24,34の外側には、外側繊維強化樹脂層23,33が配置され、この外側繊維強化樹脂層23,33の強化繊維は、内側繊維強化樹脂層24,34を構成する強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、この例では一方向材である。そのため、製造された繊維強化熱可塑性樹脂成形品10は、この一方向材に基く耐衝撃性、剛性などの所望の特性を十分に発揮するものとなる。
【0021】
なお、以上の例では、製造される繊維強化熱可塑性樹脂成形品10として、同形の2つの部材20,30が接合された中空形状のものを例示したが、部材の数は3つ以上でもよいし、また、中空形状に限定されない。さらに、接合される部材同士は異なる形状であってもよい。
また、この例の外側繊維強化樹脂層23,33は、強化繊維として一方向材を含んだものであるが、強化繊維としては、一方向材を織ったクロス材も好適に使用され、その織り方としては、例えば、平織、綾織、朱子織、三軸織等が例示される。さらには、外側繊維強化樹脂層23,33の強化繊維は、内側繊維強化樹脂層24,34の強化繊維よりも数平均の繊維長が長ければよく、強化繊維の形態は、連続繊維や連続繊維からなる一方向材、クロス材には限定されない。例えば、内側繊維強化樹脂層24,34を構成する強化繊維よりも数平均の繊維長が長ければ、短繊維であってもよい。しかしながら、外側繊維強化樹脂層23,33の強化繊維が連続繊維であって、一方向材、クロス材などの形態であると、短繊維である場合よりも、第1部材20および第2部材30や、これらを接合して得られた繊維強化熱可塑性樹脂成形品10は、この強化繊維に基く優れた物性を効果的に発現するものとなる。
【0022】
また、この例では、外側繊維強化樹脂層は1層から構成されているが、2層以上から構成されてもよく、その場合、外側繊維強化樹脂層を構成する層の内、少なくとも1層の強化繊維が、内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長ければよい。このような条件を満たしている限り、外側繊維強化樹脂を構成する層の組み合わせに制限はない。
例えば、外側繊維強化樹脂層が複数の層からなる場合、各層がいずれも一方向材を含み、隣り合う層の繊維方向が直交するように積層されたものでもよいし、一方向材を含む層とクロス材を含む層とが積層されたものでもよいし、一方向材を含む層と強化繊維として束状の短繊維がランダムに分布したランダム材を含む層とが積層されたものでもよいし、クロス材を含む層とランダム材を含む層とが積層されたものでもよいし、一方向材を含む層とクロス材を含む層とランダム材を含む層とが積層されたものでもよい。
【0023】
また、内側繊維強化樹脂層24,34は、強化繊維がこの例のようにランダムに分散した層であることが良好な接合の観点から好適であるが、ランダムではない分散、すなわち方向性をもった分散であってもよい。
また、この例では、内側繊維強化樹脂層24,34および外側繊維強化樹脂層23,33は、第1部材20および第2部材30の全面に配置されているが、内側繊維強化樹脂層24,34は、少なくとも被接合面22a,32aを含むように設けられていればよい。
【0024】
さらに、接合される部材同士には、同じ種類の熱可塑性樹脂が使用されていると、接合しやすいために好適であるが、接合性に問題がなければ、異なる種類の熱可塑性樹脂が使用されてもよい。また、接合される部材同士には、通常、同じ種類の強化繊維が使用されるが、目的に応じて、異なる種類の強化繊維が使用されてもよい。
【0025】
また、この例では、接合方法として振動溶着法を例示したが、例えば、熱板溶着法、抵抗溶着法、超音波溶着法などを採用してもよい。ただし、これらの中でも、振動溶着法を採用すると、他の方法よりも、繊維強化熱可塑性樹脂からなる部材同士を良好に接合でき、好適である。
【0026】
このような繊維強化熱可塑性樹脂成形品10は、例えば、フロントサブフレーム、リアサブフレーム、フロントピラー、センターピラー、サイドメンバー、クロスメンバー、サイドシル、ルーフレール、プロペラシャフトなどの自動車部品や、海底油田用のパイプ、電線ケーブルコア、印刷機用ロール・パイプ、ロボットフォーク、航空機の一次構造材、二次構造材などに好適に使用される。
【実施例】
【0027】
以下本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
(1)外側繊維強化樹脂層23,33用のプリプレグの製造
外側繊維強化樹脂層23,33用の強化繊維として、連続繊維である炭素繊維(三菱レイヨン社製、品番:TR50S)を使用した。この炭素繊維は、1本の直径が約7μmであるフィラメントが12000本集束した束状のものである。
この炭素繊維束を開繊し、熱可塑性樹脂として無水マレイン酸変性のポリプロピレン( 三洋化成工業社製、ユーメックス 1001)を含浸させ、強化繊維の体積含有率(JIS K 7052に準拠。)58%、幅12mm、厚み100μmの連続炭素繊維強化熱可塑樹脂テープを製造した。
ついで、このテープを平織して、クロス材からなる強化繊維に無水マレイン酸変性のポリプロピレンが含浸した平均厚み約150μmのプリプレグを製造した。
【0028】
(2)内側繊維強化樹脂層24,34用のランダムシート40の製造
上記(1)と同様にして連続炭素繊維強化熱可塑樹脂テープを製造し、これを30mmの長さ(繊維長)にカットして、一対の平板状の金型中に、面方向にランダム(無方向的)に分散させ、堆積させた。ついで、この金型を型締めし、成形温度220℃、成形圧力1.0MPa、保持時間10分で加熱加圧成形し、金型を冷却することにより、厚み1.85mmのランダムシート40を得た。このランダムシート40の強化繊維の体積含有率(JIS K 7052に準拠。)は、58%とした。
【0029】
(3)成形
上記(1)で製造されたプリプレグ(横150mm、縦400mm、厚み約150μm)と、上記(2)で製造されたランダムシート(横150mm、縦400mm、厚み約1.85mm)とを重ねて図6に示す積層シート60とした。図6中、符号61がプリプレグ層で、符号62がランダムシート層である。この積層シート60を270℃に加熱された赤外線ヒーター(日本ガイシ社製)により5分間予備加熱した。
ついで、この積層シートを図4に示す成形用金型50内に配置し、成形温度110℃(上金型51の温度110℃、下金型52の温度110℃)、成形圧力15MPa、保持時間1分間の条件で加熱、加圧し、該金型50を冷却して、図5の成形品を製造した。同様の方法を繰り返し、計2つの成形品(第1部材20、第2部材30)を得た。
【0030】
(4)接合(振動溶着法)
上記(3)で得られた成形品、すなわち、第1部材20と第2部材30とを凹状部21,31同士、縁部22,32同士が対向するように配置した。そして、振動溶着機(日本エマソン社製)を用いて、対向する縁部22,32の表面、すなわち被接合面22a,32a同士を接触させた状態で振動させ、接合(溶着)させ、図1の中空形状の繊維強化熱可塑性樹脂成形品10を得た。
接合の条件は、荷重16kN、振幅1.5mm、周波数230Hz、時間30秒とした。
この繊維強化熱可塑樹脂成形品10の長手方向の両端の2点を下部から支え、中央付近に上部から8kNの荷重をかけたが、この成形品10の接合部は破壊も分離もせず、良好な接合状態を保っていた。
なお、外側繊維強化樹脂層23,33の厚みはプリプレグの厚みと同じで、内側繊維強化樹脂層24,34の厚みは、ランダムシート40の厚みと同じである。
【0031】
[比較例]
実施例1の積層シートに代えて、実施例1の上記(1)で製造したプリプレグのみを用い、ランダムシートを用いずに、実施例1と同様に成形、接合を行って、第1部材と第2部材を製造した。そして、振動溶着法により、実施例1と同様にして、第1部材と第2部材とを接合しようとしたが、接合せず、中空形状の繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることはできなかった。
【0032】
[実施例2]
厚みが1.5mmであるランダムシート40を実施例1と同様の方法で製造した。
一方、実施例1の(1)と同様の連続炭素繊維強化熱可塑樹脂テープを製造し、これを一方向に並べることによって、一方向材からなる強化繊維に無水マレイン酸変性のポリプロピレンが含浸した厚み100μmのプリプレグを製造した。そして、図7に示すように、このプリプレグ71を5枚重ねて、総厚み500μmのプリプレグ積層シート70を製造した。この際、各プリプレグ71中の強化繊維の繊維方向が隣り合う層で直交するように、互い違いに積層した。
そして、図7の5層構造のプリプレグ積層シート70と、厚みが1.5mmであるランダムシート40とを積層したものを図4に示す成形用金型50内に配置して、実施例1と同様に成形して、第1部材と第2部材を製造した。そして、振動溶着法により、実施例1と同様にして、第1部材と第2部材とを接合させ、中空形状の繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得た。
この成形品は、外側繊維強化樹脂層を構成する5層全層の強化繊維が、内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長いものである。
この繊維強化熱可塑樹脂成形品の長手方向の両端の2点を下部から支え、中央付近に上部から8kNの荷重をかけたが、この成形品の接合部は破壊も分離もせず、良好な接合状態を保っていた。
【符号の説明】
【0033】
10 繊維強化熱可塑性樹脂成形品
20 第1部材
30 第2部材
22a,32a 被接合面
23,33 外側繊維強化樹脂層
24,34 内側繊維強化樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化樹脂層と、前記内側繊維強化樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化樹脂層とからなり、
前記外側繊維強化樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項2】
前記内側繊維強化樹脂層に含有される強化繊維は、ランダムに分布している、請求項1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項3】
前記内側繊維強化樹脂層に含有される強化繊維の繊維長は、数平均で5〜100mmである、請求項1または2の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項4】
前記外側繊維強化樹脂層のうち、前記内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い前記少なくとも1層の強化繊維は、連続繊維である、請求項1ないし3のいずれかの記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項5】
前記連続繊維は、該連続繊維が一方向に引き揃えられた一方向材、または、該一方向材が織られたクロス材である、請求項4に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項6】
複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、
前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化樹脂層と、前記内側繊維強化樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化樹脂層とからなり、
前記外側繊維強化樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記接合を振動溶着法により行う、請求項6の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−125948(P2012−125948A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277205(P2010−277205)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構 サステナブルハイパーコンポジット技術の開発における委託研究による発明で産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願である。
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】