説明

繊維強化複合材料の加工方法

【課題】バリの発生や毛羽の発生を最小限に抑え、端面の処理の必要が無く、尚且つ高い寸法精度を維持した状態でトリミングおよび/または打抜することが可能な繊維強化複合材料の加工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】平均繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる成形体を固定しながら、50℃〜200℃に加熱・保温された抜刃を用いてトリミングおよび/または打抜を行う成形体の加工方法であって、上記成形体を固定する部分は、当該抜刃が当該成形体に接触する部分を基準にして300mm以内の範囲であり、かつ、上記成形体の単位面積あたり0.3MPa〜100MPaの圧力で固定することを特徴とする、成形体の加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも平均繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる成形体のトリミングおよび/または打抜する加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を強化繊維として用いた複合材料は、その高い比強度、比剛性を利用して、航空機等の構造材として多く用いられてきている。これらの複合材料は、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸された中間製品であるプリプレグから、加熱・加圧・賦形といった成形・加工工程を経て成形される場合が多い。
【0003】
繊維強化複合材料の成形・加工をするにあたり、一般的には形状を賦形した後、切削・トリミング加工が行なわれるが、工程が煩雑になることで生産性が低くコストも高くなるという問題がある。これらの問題を解決するための手段として金型を用いたトリミングおよび/または打抜の方法が提案されている。特許文献1では同一箇所を2〜10回繰り返しパンチを作動させて加工端面を研磨することにより、加工端面に残るバリを軽減し加工精度の高い成形体を得ている。しかし、1回の加工のためにパンチを2〜10回作動させる必要があるため、加工サイクルが長くなってしまう傾向がある。また、剛性が高い(硬い)繊維強化複合材料を加工するわけであるため、パンチの作動回数が多くなるとパンチ自体も磨耗しやすく、交換頻度が増える問題があった。特許文献2では金型を加熱することにより、賦形とトリミングおよび/または打抜の加工を同時に行うことができ、かつ、バリの発生量を抑えることが出来るというものであるが、金型を加熱するため高い寸法精度を得ることが困難であった。
【0004】
強化繊維が連続繊維の場合、繊維と樹脂との界面でのすべり力により、繊維が抜け落ちることも少なくバリや毛羽、割れは発生しにくい。また、強化繊維が5mm未満の短繊維では、繊維長が短いため、割れも発生せず、繊維の抜け落ちは起こるがバリや毛羽の発生になることは少ない。それと比べて繊維長が5mm〜100mmの強化繊維の場合、繊維の抜け落ちによりバリや毛羽の発生が起こったり、強化繊維が抜け落ちるときに熱可塑性樹脂ごと引張ることで割れの発生原因につながるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−172753号公報
【特許文献2】特開2011−084038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、少なくとも平均繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる成形体をバリの発生や毛羽の発生を最小限に抑え、端面の処理の必要が無く、尚且つ高い寸法精度を維持した状態でトリミングおよび/または打抜することが可能な繊維強化複合材料の加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる成形体を固定しながら、50℃〜200℃に加熱・保温された抜刃を用いてトリミングおよび/または打抜を行う成形体の加工方法であって、上記成形体を固定する部分は、当該抜刃が当該成形体に接触する部分を基準にして300mm以内の範囲であり、かつ、上記成形体の単位面積あたり0.3MPa〜100MPaの圧力で固定することを特徴とする、成形体の加工方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加工方法を用いることで、端部のバリ、毛羽が少なく、寸法精度の高い繊維強化複合材料からなる成形体を容易に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における代表的な金型の模式図である。
【図2】本発明における抜刃の具体形状例である。
【図3】実施例で使用した打抜形状1である。
【図4】実施例で使用した打抜形状2である。
【図5】実施例で使用した打抜/トリミング形状3である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において用いる成形体は、少なくとも平均繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化複合材料からなるものである。そして、当該成形体は、抜刃を用いてトリミングまたは打抜またはその両方を施される。その際、該成形体は金型に設置して行うとバリの発生や毛羽の発生を抑制し、尚且つ精度よく、生産性にも優れるものである。
【0011】
[強化繊維]
本発明においては、繊維強化複合材料を構成する強化繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、セラミックスなどの無機繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などを使用することが出来るが、好ましくは比強度、比剛性が高い繊維であり、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などが好ましく例示される。それらの中でも、炭素繊維を使用することが更に好ましい。
上記強化繊維の形態としては特に制限は無く、連続繊維および/または不連続繊維を使用することが出来るが、本発明においては、平均繊維長5mm〜100mmの不連続繊維が少なくとも強化繊維全体の30体積%であると、本発明の効果、特に毛羽の発生の減少効果は大きく、繊維の抜け落ち防止にも効果的である。かかる繊維長の強化繊維は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上有するものがよい。
上記強化繊維には、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などの表面処理が施されていてもよい。また、かかる強化繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0012】
[熱可塑性樹脂]
本発明における熱可塑性樹脂としては、特に制限は無いが、例えばポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートあるいはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリ(スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン)系共重合体(ABS樹脂)、ポリ(アクリロニトリル−スチレン)系共重合体(AS樹脂)あるいはハイインパクトポリスチレン(HIPS)等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂等を好ましく挙げることができる。熱可塑性樹脂の形態は特に制限が無く、例えば、フィルム、不織布、パウダー、繊維状のものが使用できるが、後述する繊維強化複合材料を安定的に作製するためにはフィルム、パウダーを使用することが好ましい。
【0013】
[繊維強化複合材料]
本発明では、上記特定長さの強化繊維と上記熱可塑性樹脂とを含有する繊維強化複合材料からなる成形体を加工する。
ここで、上記熱可塑性樹脂と上記強化繊維との量比に特に限定はないが、強化繊維100容量部に対し、熱可塑性樹脂50〜1000容量部であることが生産性と機械的強度のバランスの点で好ましい。100〜1000容量部であることがより好ましく、熱可塑性樹脂150〜500容量部であることがさらに好ましい。
なお、上記繊維強化複合材料中には、本発明の目的を損なわない範囲内で(例えば、強化繊維の量と上記熱可塑性樹脂の量の合計量の20Vol%以下、好ましくは10Vol%以下、より好ましくは5Vol%以下、さらにより好ましくは1Vol%以下の割合)、必要に応じて、例えば耐候安定剤、離型剤、樹脂着色剤、あるいはこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0014】
[成形体]
本発明で用いる上記繊維強化複合材料は1枚のシート状1層からなるものでよいが、2層以上積層したものでもよい。ここで、2層以上積層する場合には、構成の同じシート状のものを用いてもよいし、構成の異なるシートを用いることも出来る。例えば、2層を積層する場合には、1層は、平均繊維長5mm〜100mmの強化繊維が不連続繊維からなる、特定の配向を持たずに存在しているシートであり、もう1層は、上記強化繊維が連続繊維からなり、実質的に一方向に引き揃ったシートである。
本発明で加工する成形体は厚み0.1mm〜4.0mmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは0.3mm〜2.0mmである。0.1mmより厚みが薄い場合は成形体自体を得ることが実質的に困難であり、4.0mmよりも厚みが厚い場合は、抜刃の磨耗が早く耐久性に問題がある。
【0015】
上記成形体の製造方法に特に制限は無いが、例えば以下[1](含浸)[2](コールドプレス)の方法により製造することが出来る。以下[1]で含浸したものをプリプレグとし、[2]で成形したものをコールドプレス成形体と表記する。本発明の加工方法はプリプレグの状態でも使用でき、コールドプレス成形体の状態でも使用することが出来る。[1]、[2]のそれぞれの工程は単独で行うことも出来るし、連続して行うことも可能である。また、成形とトリミングおよび/または打抜き加工を同時に行っても良いし、個別に実施しても良い。
【0016】
[1]含浸工程
含浸工程とは強化繊維と樹脂を一体化させ、構造体としての剛性・強度を与えるための工程であり、樹脂が熱可塑性樹脂の場合は強化繊維の束内部や単糸間に熱と圧力を加えることで熱可塑性樹脂を染み込ませ(含浸させ)、一体化する工程である。
具体的には、前記強化繊維と熱可塑性樹脂を重ね合わせて(積層)熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点以上まで、非晶性の場合はガラス転移温度以上に加熱し、加圧する。加熱方法としてはオイル、電気ヒーター、誘導加熱、蒸気等を用いることができ、それらを組み合わせて用いることもできる。加圧方法は加圧機、例えばプレス機による加圧、スチールベルトによる加圧、ローラーによる加圧等を用いることができるが、安定的なプリプレグを得るためにはプレス機を用いることが好ましい。
加熱・加圧完了後、当該成形体の温度を固化温度以下まで冷却する。この時圧力はかけていてもかけていなくても構わないが、均一なプリプレグを得るためには冷却している間も圧力をかけることが好ましい。
本発明ではプリプレグは熱可塑性樹脂が完全に含浸したものを用いなくても良く、含浸率50%〜100%のものを用いることが出来るが、好ましくは70%〜100%の含浸率であり、90%〜100%の含浸率がより好ましい。ここで、含浸率とはプリプレグの体積を100%とし、プリプレグに含まれる空気の体積を求め、プリプレグの体積から減算することで求めることが出来る。
【0017】
[2]コールドプレス工程
[1]で得られたプリプレグは平板状であることがほとんどであるため、形状を付与する工程(成形)が必要となる。代表的な成形の方法としてコールドプレスがある。コールドプレスとは[1]で得られたプリプレグを加熱して柔らかい状態にした後に、金型で圧縮し、成形する方法である。
具体的には[1]で作製したプリプレグを軟化温度以上まで加熱する。軟化温度以上とは、プリプレグに用いられている熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点以上、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度以上である。加熱方法としては、例えば赤外線ヒーター、熱風循環式ヒーター、誘導加熱を用いることができるが、均一な加熱と加熱速度を迅速にすることができる赤外線ヒーターを使用することが好ましい。
加熱されたプリプレグを、所望の成形体を得るための金型内へ配置、設置する。このときの金型の温度としては熱可塑性樹脂の固化温度以下であれば特に制限は無いが、成形工程を安定化させるためと成形体の温度低下を防止するために温度調節をすることが好ましく、50℃〜180℃の範囲で保持することがより好ましい。この時の温度は一定温度で保持しても温度を上げ下げしても良い。
次いで、金型の型締めをする。型締め完了後、金型内に配されたプリプレグの熱交換を行い、十分に固化させるため、所定の圧力を加え一定時間、例えば数秒〜数分間保持する。圧力としては例えば0.5〜30MPaである。上記プリプレグは金型内で所定の形状に成形される。
続いて、型開きをし、金型内から成形されたコールドプレス成形体を取り出すことができる。
【0018】
[金型構造]
本発明の加工方法においては、前述したように、コールドプレスで得られた成形体を固定した状態でトリミングおよび/または打抜加工を行なう。固定する際には、かかる成形体を金型内に配置して行なうことが加工精度の点で望ましい。
成形体を固定するには、金型には付随していない別の治具等で固定する方法でもよいが、金型には、かかる成形体を固定するための部材を有していることが好ましい。本発明の代表的な金型構造を図1に示す。図1(a)〜(c)は打抜の工程図を示していて、図1(d)〜(f)はトリミングの工程図を示している。例えば、図1(a)には、成形体固定プレート(2)が装備されている。図1(a)〜(c)と(d)〜(f)の具体的な説明を下記、工程1〜3に示す。
【0019】
工程1)
成形体(5)を金型内へセットする。(図1(a)、(d))
工程2)
上型と下型の成形体固定プレート(2)で成形体(5)を固定するとともに、抜刃ブロック(3)と成形体固定プレート(2)により成形体(5)の固定と抜刃によりトリミング/打抜き位置に傷を入れる。(図1(b)、(e))
工程3)
上型をさらに下降させ、抜刃ブロック(3)の下に位置する成形体固定プレート(2)に付しているスプリング(1)が抜刃ブロック(3)に押されることで、当該成形体固定プレート(2)と抜刃ブロック(3)が一体となり下降しせん断力によりトリミング/打抜きを行う。(図1(c)、(f))
【0020】
成形体の固定の範囲については、金型の型閉時にトリミングおよび/または打抜をしたい箇所において、トリミングおよび/または打抜する抜刃が成形体と接触する部分を基準(0mm)とすると、該成形体を基準から300mm以内の範囲を押さえ圧力をかけて固定する。固定範囲は上記300mm以内の任意の範囲を押さえて固定できる。かかる範囲を面状に固定することにより、精度よく加工することができる。好ましくは150mm以内の範囲である。また、かかる固定範囲の下限値としては特に制限はないが、実質的には金型と抜き刃のクリアランスが下限値なる。
【0021】
ここで使用する金型の形状には特に限定はない。また、金型に使用される材質は一般用鋼材であれば特に制限は無いが、好ましくは炭素鋼、合金鋼、超硬鋼等の鋼材を使用することが出来る。金型形状に関しても目的とする成形体の形状に合っていれば良く、複雑形状のものや平板状のものを使用することが出来る。金型は、前記したコールドプレス成形は行わず、トリミングおよび/または打抜のみを実施できる機構としても良く、コールドプレス成形とトリミングおよび/または打抜きの双方を実施できる機構としても良いが、鋼材の使用量を減らし、軽量化を図れることから、トリミングおよび/または打抜きのみを実施できる形態とすることが好ましい。
【0022】
トリミングおよび/または打抜をしたい箇所の周囲を固定する方法に特に制限は無く、金型の形状による押さえ、金型のクリアランスによる押さえ、スプリングによる押さえ、周囲の固定部分にウレタン等の変形することが可能な素材を埋め込むことや空気圧などの媒体を用いて固定する等の方法を使用することが出来るが、金型の耐久性を維持し、傷をつけずに成形体を加工するためには、スプリングで押さえることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する抜刃と金型のクリアランスが実質的に固定範囲の下限値となり、その範囲は0.01mm〜0.3mmであることが好ましく、0.03mm〜0.15mmであることがより好ましい。クリアランスが0.01mmよりも小さいと金型と抜刃が擦れたり、抜刃が金型を傷つけてしまう危険がある。クリアランスが0.3mmよりも大きいと金型で成形体をしっかりと固定することが難しくなり、バリ、毛羽の発生原因につながる危険がある。
【0024】
固定する成形体は、加工されて最終的に得られる所望の加工成形体部分と、それ以外の部分とに分かれる。加工時には、加工成形体部分のみを固定する場合と、加工成形体部分とそれ以外の部分との両方を固定する場合がある。両方を固定する場合には、固定する範囲は同じであっても異なっていてもよい。例えば、200mm×200mmのシート状成形体の一部分を直径50mmに円形に打抜して加工する場合には、加工成形体部分の固定範囲を、例えば0.03〜50mmとし、それ以外の部分の固定範囲を例えば0.05〜8mmすることができる。
【0025】
[抜刃]
本発明で使用する抜刃の形状は特に制限は無いが図2に示すような直線状、ジグザグ状、波状のものを好ましく使用することが出来る。また、直線状の抜刃に少し角度を持たせて、成形体に当る構造としても良い。特にトリミングおよび/または打抜時の荷重負荷を分散させ抜刃の耐久性を向上させることが出来ることから波状の形状を使用することが好ましい。抜刃の材質は金属であれば、特に制限は無く、一般鋼材を好ましく使用することができる。具体的には炭素鋼、合金鋼、超硬鋼等の鋼材を使用することが出来るが、金型の耐久性を向上させるために熱処理および/または、窒化処理および/または、めっき処理を施すことが好ましい。
【0026】
また、本発明では加工するための抜刃の温度は50℃〜200℃に加熱・保温する。加熱・保温して特定の温度範囲に一定に保持された抜刃を用いることで、打抜加工時の樹脂の抵抗を減らすことが出来るため加工の安定性が増す。より好ましくは80℃〜160℃に加熱・保温することが好ましい。抜刃の加熱・保温方法に特に制限は無いが、電気ヒーター、水、蒸気、油、誘導加熱等の方法を用いることが出来る。これらの中でも、一定温度で長時間の保温が可能である水、蒸気、油を使用することが特に好ましい。抜刃を保温することで成形体のバリ、毛羽の発生を低減することができる。また、抜刃の保温温度が一定であると、長時間成形および/または加工を行う場合に工程、加工、寸法などの安定性を向上させることが出来る。
【0027】
[成形加工条件]
プリプレグまたはコールドプレス成形体を成形体固定プレート2)(図面の符号2)の間に配置し、上型部を10mm/sec〜1000mm/secの速度で下降させる。より好ましくは30mm/sec〜300mm/secの型締め速度である。型締め速度が10mm/secよりも遅いと、生産性に影響を及ぼし、1000mm/secよりも速いとバリ、毛羽が発生しやすい傾向にある。具体的には、図1中の成形体固定プレート2)が成形体を押さえ固定する。また、この時の圧力は成形体押さえスプリング1)により調整され、成形体押さえ部分の面積に対して0.3〜100MPaである。より好ましくは、1〜30MPaである。0.3MPa未満であると成形体の固定が不十分であり、トリミングおよび/または打抜時に成形体が動いてバリ、毛羽が発生してしまい、100MPaよりも大きいと加圧力により成形体が損傷してしまう可能性がある。
【0028】
次いで、抜刃ブロック3)が下降し、成形体5)に圧力をかけた状態で抜刃ブロック3)の下側にある成形体固定プレート2)とともに下降し、成形体5)のトリミングおよび/または打抜を行う。その後、上型部を加工前の位置へ戻し、繊維強化複合材料を取り出す。上記一連の動作は圧縮装置を使用することで行う事ができる。具体的にはプレス機、射出成形機等が挙げられる。このようなトリミングおよび/または打抜きは、上記のコールドプレス成形と同時に行っても良く、該成形とは切り離して個別に行っても良い。
本発明の加工方法を用いることで、端部のバリ、毛羽が少なく、寸法精度の高い繊維強化複合材料からなる成形体を容易に得ることができる。その結果、加工の工程を減らしてコストを低減することができ、外観良好で機械特性に優れた繊維強化複合材料を得ることができるため、パソコンなどの電子機器筐体や自動車部品、例えば内板(内装パネル等)、外板(ルーフ、ボンネット、バンパー等)等に広く適用することが可能である。
【0029】
[打抜]
本発明の加工方法の中で打抜とは成形体の内側に穴あけ加工を行うことを意味するものであり、繊維強化複合材料の製品を他の部品と取り付けるための固定用穴や意匠用の穴を加工するために行われる。具体的にはボルトやナットの取り付け用穴、メーターやスイッチ類の嵌め込み用穴として使用される。
【0030】
[トリミング]
本発明の加工方法の中でトリミングとは成形体の外側の不要な部分を削ぎ落とす加工を意味するものであり、繊維強化複合材料の外形と寸法を製品のそれと揃えるために行われる。具体的には電子機器筐体や自動車部品のパネル類の外形と寸法を揃えるために行われるものである。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
1)成形体1
炭素繊維(東邦テナックス社製:テナックスSTS40−24KS(繊維径7μm、繊維幅10mm))を20mm幅に開繊しながら、繊維長30mmにカットし、炭素繊維の供給量を301g/minでテーパー管内に導入し、テーパー管内で空気を炭素繊維に吹き付けて繊維束を部分的に開繊しつつ、テーパー管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。また、マトリックス樹脂として、厚さ125μmのナイロン6(宇部興産製:融点220℃)のシートを4枚使用して、散布された炭素繊維を挟み込み270℃、2MPaでホットプレスして厚さ0.8mmのプリプレグAを作製した。このプリプレグAを赤外線ヒーターで250℃まで加熱後、型締め装置に搬送、60℃に設定した金型にて成形を行いコールドプレス成形体Bを得た。
【0032】
2)成形体2
炭素繊維(東邦テナックス社製:テナックスSTS40−24KS(繊維径7μm、繊維幅10mm))を20mm幅に開繊しながら、繊維長10mmにカットし、炭素繊維の供給量を301g/minでテーパー管内に導入し、テーパー管内で空気を炭素繊維に吹き付けて繊維束を部分的に開繊しつつ、テーパー管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。またマトリックス樹脂として、平均粒径が約710μmに冷凍粉砕したポリカーボネート樹脂(帝人化成社製のポリカーボネート:パンライトL−1225L ガラス転移温度145〜150℃、熱分解温度350℃)を480g/minでテーパー管内に供給し、炭素繊維と同時に散布することで、平均繊維長10mmの炭素繊維とポリカーボネートが混合されたマットを得た。このマットを4枚積層して300℃、2MPaでホットプレスして厚さ1.6mmのプリプレグCを作製した。このプリプレグCを赤外線ヒーターで300℃まで加熱後、型締め装置に搬送、100℃に設定した金型にて賦形を行いコールドプレス成形体Dを得た。
【0033】
3)バリ、毛羽の評価方法
図3から図5の形状にトリミングおよび/または打抜された成形体を目視と拡大鏡(倍率30倍)にて観察し、強化繊維のとび出し(毛羽)や強化繊維と樹脂の一体化物のちぎれ(バリ)が無いものを◎(良好)とし、少量(トリミングおよび/または打抜をした距離の半分以下)観察されたものを○(合格)とし、多量(トリミングおよび/または打抜をした距離の半分以上)観察されたものを×(不良)とした。実施例にて得られた成形体のバリ、毛羽の評価結果を表1に示す。
【0034】
4)寸法測定方法
図3では中心の打抜部分の対辺の距離(14)、図4では打抜部分の対辺の距離(14)、図5では丸形状の打抜部分の円の直径(14)をノギスを用いて測定し、金型の寸法(図3、図4、図5すべて50mm)と成形体の寸法のずれが1/10mm以内であるものを◎(良好)とし、1/10mm以上3/10mm未満であるものを○(合格)とし、測定が出来なかったものと、3/10mm以上のものを×(不良)とした。実施例にて得られた成形体の寸法測定の評価結果を表1に示す。
【0035】
5)角部の評価
図3の形状に打抜かれた成形体の角部の曲率半径をR定規にて測定し4隅すべての曲率半径が金型の曲率半径(5mm)と一致したものを◎(良好)とし、3隅以上4隅未満一致したものを○(合格)とし、2隅以下のものを×(不良)とした。図4の形状に打抜かれた形状のうち四角形状の部分に関して角部角度を顕微鏡にて観察測定し90°±1°であるものを◎(良好)とし、90°±5°以内であるものを○(合格)とし、それ以外のものを×(不良)とした。実施例にて得られた成形体の角部の評価結果を表1に示す。
【0036】
[実施例1]
プリプレグAを打抜金型にセットし160℃に加熱された抜刃(波状刃)で打抜を行い、図3に示す打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分とそれ以外の部分の両方について10mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して25MPaであった。打抜箇所端面のバリ、毛羽の評価は◎であった。また、打抜箇所の寸法精度と角部曲率半径は◎であった。
【0037】
[実施例2]
プリプレグCを打抜金型にセットし100℃に加熱された抜刃(波状刃)で打抜を行い、図3に示す打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は150mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分とそれ以外の部分の両方において10mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して25MPaであった。打抜箇所端面のバリ、毛羽の評価は◎であった。また、打抜箇所の寸法精度と角部曲率半径は◎であった。
【0038】
[実施例3]
成形されたコールドプレス成形体Bを設定した打抜金型にセットし160℃に加熱された抜刃(波状刃)で打抜を行い、図4に示す形状の打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分の10mm以内の範囲を固定し、それ以外の部分の4mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して10MPaであった。打抜箇所端面のバリ、毛羽の評価は◎であった。また、打抜箇所の寸法精度の評価は◎であり、角部直角の評価は○であった。
【0039】
[実施例4]
成形されたコールドプレス成形体Dを設定した打抜金型にセットし100℃に加熱された抜刃(波状刃)で打抜を行い、図4に示す形状の打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分の10mm以内の範囲を固定し、それ以外の部分の4mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して10MPaであった。打抜箇所端面のバリ、毛羽の評価は◎であった。また、打抜箇所の寸法精度の評価は◎であり、角部直角の評価は○であった。
【0040】
[実施例5]
成形されたコールドプレス成形体Bを設定した打抜金型にセットし保温されていない(室温温度)抜刃(波状刃)で打抜を行い、図4に示す形状の打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分の10mm以内の範囲を固定し、それ以外の部分の4mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して10MPaであった。打抜箇所端面に大きなバリ、毛羽は発生していなかったが、四角い形状などの直角を有する箇所で多少バリの発生が確認されたため評価は○であった。また、打抜箇所の寸法精度の評価は○であり、角部直角の評価は○であった。
【0041】
[実施例6]
成形されたコールドプレス成形体Bを設定した打抜金型にセットし160℃に保温された抜刃(波状刃)で打抜およびトリミングを行い、図5に示す形状の打抜およびトリミングサンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分の8mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して10MPaであった。打抜箇所端面にバリ、毛羽の評価は◎であった。また、打抜箇所の寸法精度の評価は◎であった。
【0042】
[実施例7]
成形されたコールドプレス成形体Dを設定した打抜金型にセットし100℃に保温された抜刃(波状刃)で打抜およびトリミングを行い、図5に示す形状の打抜およびトリミングサンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分の8mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して10MPaであった。打抜箇所端面にバリ、毛羽の評価は◎であった。また、打抜箇所の寸法精度の評価は◎であった。
【0043】
[比較例1]
プリプレグAを打抜金型にセットし160℃に加熱された抜刃(波状刃)で打抜を行い、図3に示す打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、プリプレグAは固定しなかった。また、打抜箇所の寸法精度の評価はバリが多く出ており×であり、また、打抜箇所の寸法精度と角部曲率半径もバリや毛羽の影響により×であった。
【0044】
[比較例2]
プリプレグAを打抜金型にセットし室温約20℃の状態の抜刃(波状刃)で打抜を行い、図3に示す打抜サンプルを得た。この時の型締め速度は100mm/secであり、抜き刃と金型とのクリアランスを0.03mmに設定し、加工成形体部分の8mm以内の範囲を固定した。この時の圧力は成形体の固定部分の面積に対して10MPaであった。打抜箇所端面のバリ、毛羽の評価はバリが多少発生しており△であった。繊維の抜け落ちも見られた。また、打抜箇所の寸法精度と角部曲率半径もバリや毛羽の影響により×であった。
【0045】
【表1】

【符号の説明】
【0046】
1.成形体押さえスプリング
2.成形体固定プレート
3.抜刃ブロック
4.成形体押さえ範囲
5.成形体
6.抜刃と金型のクリアランス
7.抜刃の先端位置
8.直線状刃
9.ジグザグ状刃
10.波状刃
11.プリプレグ
12.寸法距離測定位置
13.打抜/トリミングライン
14.角部の曲率半径
15.コールドプレス成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも平均繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる成形体を固定しながら、50℃〜200℃に加熱・保温された抜刃を用いてトリミングおよび/または打抜を行う成形体の加工方法であって、上記成形体を固定する部分は、当該抜刃が当該成形体に接触する部分を基準にして300mm以内の範囲であり、かつ、上記成形体の単位面積あたり0.3MPa〜100MPaの圧力で固定することを特徴とする、成形体の加工方法。
【請求項2】
上記成形体を固定する部分は、当該抜刃が当該成形体に接触する部分を基準にして150mm以内の範囲である、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
成形体の単位面積あたり1MPa〜30MPaの圧力で固定することを特徴とする請求項1または2に記載の加工方法。
【請求項4】
強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維またはアラミド繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加工方法。
【請求項5】
繊維強化複合材料の繊維と樹脂の存在比が強化繊維100容量部に対して、熱可塑性樹脂50〜1000容量部である請求項1〜4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項6】
成形体を金型内に設置してトリミングおよび/または打抜し、かつ該抜刃と該金型とのクリアランスが0.01mm〜0.3mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加工方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−99817(P2013−99817A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244655(P2011−244655)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】