説明

繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物

【課題】人体への影響が少なく、室温で低粘度の液状状態を保持できるポットライフに優れた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)と、酸無水物硬化剤(C)とを含み、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると共に、酸無水物硬化剤(C)の含有量は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)とに含まれるエポキシ基に対する酸無水物硬化剤(C)に含まれる酸無水物の理論配合比率が0.8当量以上1.3当量以下である組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維にマトリックス樹脂を用いた複合材料の成形方法として、近年RTM(Resin Transfer Molding)成形法やVaRTM(Vacuum assist Resin Transfer Molding)成形法が注目されている。この場合マトリックスとして最も多く適用されている樹脂のひとつにエポキシ樹脂がある。エポキシ樹脂は、その硬化剤として、例えば、脂肪族、芳香族アミン、ポリアミン類などを含むアミン系硬化剤、酸無水物類を含む酸無水物系硬化剤、フェノール系水酸基を有するフェノール系硬化剤などが挙げられる。
【0003】
複合材料の用途としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤が多く適用されているが、近年、RTM、VaRTM成形法を用いる際に用いられるエポキシ樹脂の硬化剤には、炭素繊維やガラス繊維との接着性が良好であることなどの観点から、アミン系硬化剤が主に用いられている。
【0004】
エポキシ樹脂とアミン系硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物に関連するものとして、例えば、特許文献1〜5に記載のエポキシ樹脂組成物が挙げられる。特許文献1には、異なる複数の種類のエポキシ樹脂と、アミン系硬化剤と、S−B−M,B−M,およびM−B−M(Mはポリメタクリル酸メチル、Bはエポキシ樹脂およびMに非相溶で、そのガラス転移温度Tgが20℃以下であり、Sはエポキシ樹脂、BおよびMに非相溶で、そのガラス転移温度TgはBのガラス転移温度Tgより高い。)からなる群から選ばれるブロック共重合体とを含み、ブロック共重合体の微細な相分離構造を形成することで、繊維複合材料として好適に用いることができるエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、架橋ゴム粒子(B)およびアミン硬化剤であるジアミノジフェニルスルフォン(C)を含み、低い粘度を長時間保持することができるエポキシ樹脂組成物が記載され、高い耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られ、このエポキシ樹脂組成物はRTMによる成形に好適に用いることできる。
【0006】
また、特許文献3、4には、多官能型エポキシ樹脂(A)と、芳香族ジアミン硬化剤を含み、高い強度および高い耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られるエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【0007】
また、特許文献5には、特定構造のエポキシ樹脂(A)と、アミン硬化剤である液状アミン化合物(B)とを含み、RTMによる成形に適用可能なエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−229212号公報
【特許文献2】特開2008−169291号公報
【特許文献3】特開2010−163504号公報
【特許文献4】特開2010−150311号公報
【特許文献5】特開2003−165824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エポキシ樹脂の硬化剤としてアミン系硬化剤を用いた場合、人体に対してかぶれなどを生じ易いなど人体への影響があり、使用しにくい、という問題がある。
【0010】
そのため、エポキシ樹脂の硬化剤として、人体への影響が少なく、物性に優れた樹脂組成物が見出されていないのが現状である。
【0011】
また、酸無水物硬化剤を使用する場合は硬化触媒として三級アミンや有機リン化合物が用いられるが、これらの硬化触媒の多くは固形状であり液状のエポキシ樹脂中に懸濁させて加熱溶解させて反応させるため、硬化触媒が液状化した後の作業ライフ(ポットライフ)が短い、という問題がある。
【0012】
RTM成形用の樹脂は、低粘度の液状で強化繊維中に含浸させるためにエポキシ樹脂が低粘度の液状状態でポットライフをロングライフ化することが望まれている。
【0013】
さらに、作業安全性からRTM成形作業が室温(30℃以下)で行えることが望まれている。
【0014】
本発明は、前記問題に鑑み、人体への影響が少なく、室温で低粘度の液状状態を保持できるポットライフに優れた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、次に示す(1)〜(5)である。
(1) グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)と、酸無水物硬化剤(C)と、を含み、
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると共に、
前記酸無水物硬化剤(C)の含有量は、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)とに含まれるエポキシ基に対する前記酸無水物硬化剤(C)に含まれる酸無水物の理論配合比率が0.8当量以上1.3当量以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(2) 前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)は、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、ジグリシジルアニリンの何れか1種以上を含むことを特徴とする上記(1)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(3) 前記酸無水物硬化剤(C)は、20℃以上30℃以下で液状である成分を1種又は複数含むことを特徴とする上記(1)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(4) 20℃以上30℃以下で2.5時間以上3.5時間以下保持した後の樹脂粘度が10mPa・s以上300mPa・s以下であることを特徴とする上記(1)から(3)の何れか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(5) 75℃以上85℃以下で12時間以上18時間以下保持した後の樹脂の示差走査熱量測定による残発熱量が、未加熱樹脂の発熱量に対して0%以上20%以下であることを特徴とする上記(1)から(4)の何れか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、人体への影響が少なく、室温下で低粘度の液状状態を保持できるポットライフに優れ、RTM成形に適した繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することができる、という効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明について詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
本実施形態に係る繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物(以下、「本実施形態の組成物」という。)は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)と、酸無水物硬化剤(C)とを含み、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると共に、前記酸無水物硬化剤(C)の含有量は、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)とに含まれるエポキシ基に対する前記酸無水物硬化剤(C)に含まれる酸無水物の理論配合比率が0.8当量以上1.3当量以下である。
【0019】
<グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)>
本実施形態の組成物に用いるグリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する多官能型エポキシ樹脂である。グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)の官能基の数は、特に限定されるものではないが、好ましくは2個以上5個以下、より好ましくは2個以上4個以下がよい。このようなエポキシ樹脂は、具体的に、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)として、下記式(1)で示されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、下記式(2)で示されるトリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、下記式(3)で示されるジグリシジルアニリン、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂、テトラグリシジル−m−キシリレンアミン樹脂、N,N−ジアミノクレゾール樹脂及びその他各種変性エポキシ樹脂や結晶性エポキシ樹脂等が好ましく挙げられる。これらのエポキシ樹脂を、単独又は2種以上を組み合わせて使用することにより、マトリックス樹脂に要求される靭性、耐熱性等の機械的特性を確保しながら、プリプレグのタック性・ドレープ性を調整することができる。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量の和(以下、単に全エポキシ樹脂という場合がある。)に対して30質量%以上100質量%以下であるのが好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)の含有量を、上記範囲内とすることで、得られる樹脂組成物は、室温下、例えば30℃程度の作業温度で3時間経過後においてE型粘度計による測定で、例えば10mPa・s以上300mPa・s以下の低粘度性を維持することができ、RTM成形法を好適に用いることができる。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)を全エポキシ樹脂に対して上記範囲内の比率で配合とすることで、得られる樹脂組成物の引張弾性率を例えば3.5GPa以上とすることができる。
【0024】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)のうち、3官能以上のエポキシ樹脂成分は70質量%以上100質量%以下であるのが好ましい。これは、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)の成分中、3官能以上のエポキシ樹脂成分を70質量%以上100質量%以下とすることで、得られる樹脂組成物の引張弾性率を例えば3.5GPa以上とすることができるからである。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と後述するビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると得られる樹脂組成物は、室温下、例えば30℃程度の作業温度で3時間経過後においてE型粘度計による測定で、例えば10mPa・s以上300mPa・s以下の低粘度性を維持することができ、RTM成形法を好適に用いることができる。なお、本実施形態における室温とは、20℃以上30℃以下であり、好適には25℃付近の温度である。
【0025】
また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)の中にある窒素(N)成分が硬化触媒の役目をするために本実施形態の組成物は硬化触媒を必須成分として含む必要がない。更に、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)の中にある窒素(N)成分は硬化反応を緩やかに促進するので、ポットライフをロングライフ化することができる。
【0026】
<ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)>
本実施形態の組成物に用いるビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する液状エポキシ樹脂である。ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)は、温度25℃で液状であり、液状であることは、流動性を確保して、プリプレグの十分なタック性、ドレープ性を保持するために有用である。
【0027】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の温度25℃におけるE型粘度計で測定される粘度は、1000mPa・s以上6000mPa・s以下、好ましくは1500mPa・s以上4000mPa・s以下、粘度が上記範囲を超えると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり、RTM成形に適さなくなる。
【0028】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比は、90:10〜30:70の範囲であり、好ましくは80:20〜40:60、より好ましくは70:30〜50:50である。ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の比率が、上記未満であると樹脂硬化物の伸びおよび靭性が低下する虞があり、上記範囲を超えると樹脂硬化物の耐熱性および剛性が低下する虞がある。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると得られる樹脂組成物は、室温下、例えば30℃程度の作業温度で3時間経過後においてE型粘度計による測定で、例えば10mPa・s以上300mPa・s以下の低粘度性を維持することができ、RTM成形法を好適に用いることができる。
【0029】
本実施形態の組成物は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)に加えてその他のエポキシ樹脂を含むことができる。その他のエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(4)で示されるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、又はトリフェニルグリシジルエーテルメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンビスベンゼンアミン型エポキシ樹脂等の4官能型エポキシ樹脂、下記式(5)で示されるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールビフェニレンノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンなどの多価アルコールのグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
<酸無水物硬化剤(C)>
本実施形態の組成物に用いる酸無水物硬化剤(C)としては、一般的なエポキシ樹脂の硬化剤として公知の硬化剤が用いられ、酸無水物系化合物が用いられる。酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、下記式(6)で示されるメチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、下記式(7)で示されるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、無水ヘット酸、下記式(8)で示される無水メチルハイミック酸(MHAC−P)、下記式(9)で示されるオクテニルコハク酸無水物などが挙げられる。
【0033】
本実施形態の組成物をRTM成形法に適用する上では、特に室温下、例えば20℃以上30℃以下で粘度500mPa・s以下の液状酸無水物が特に好ましく、上記の中ではテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、オクテニルコハク酸無水物が好適に用いることができる。
【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
<硬化促進剤>
本実施形態の組成物は、更に硬化促進剤(硬化触媒)を含有することができる。本実施形態の組成物に含有される硬化促進剤は、本実施形態の組成物を硬化させるための縮合触媒である。本実施形態の組成物は、硬化促進剤(硬化触媒)の役目をするグリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)を含むが、ポットライフを短縮して速硬化性を持たせる場合には、更に硬化促進剤(硬化触媒)を添加してポットライフ等をコントロールすることができる。本実施形態の組成物に用いられる硬化促進剤(硬化触媒)は特に限定されず、従来公知の硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤(硬化触媒)としては、第3級アミン、イミダゾール類、有機ホスフィン、ルイス酸触媒等を挙げることができる。
【0039】
第3級アミンとしては、具体的には、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルアミルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルラウリルアミン、トリアリルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、下記式(10)で示されるトリエチレンジアミン(トリエチレンテトラミン:TETA)、N−メチルモルフォリン、4,4′−(オキシジ−2,1−エタンジイル)ビス−モルフォリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ピリジン、ピコリン、ジメチルアミノメチルフェノール、トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエタノールアミン、N,N′−ジメチルピペラジン、テトラメチルブタンジアミン、ビス(2,2−モルフォリノエチル)エーテル、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N′,N″−トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−s−トリアジン、N,N′,N″−トリス(ジメチルアミノエチル)ヘキサヒドロ−s−トリアジン、N,N′,N″−トリス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサヒドロ−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−1、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)などが挙げられる。
【0040】
【化10】

【0041】
イミダゾール類としては、具体的には、例えば、下記式(11)で示される1−ベンジル−2−イミダゾール(1B2MZ)、2−エチル−4−イミダゾール、2−ウンデルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル4−メチルイミダゾール、下記式(12)で示される2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(2P4MHZ)などが挙げられる。
【0042】
【化11】

【0043】
【化12】

【0044】
有機ホスフィンとしては、具体的には、例えば、下記式(13)で示されるトリフェニルホスフィン(TPP)、トリフェニルホスフィン−トリフェニルボレート、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、テトラフェニルホスフォニウム・テトラフェニルボレートなどが挙げられる。
【0045】
【化13】

【0046】
ルイス酸触媒としては、具体的には、例えば、三フッ化ホウ素アミン錯体、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体などのルイス酸触媒などが挙げられる。
【0047】
硬化促進剤(硬化触媒)は、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本実施形態の組成物に含有される硬化促進剤(硬化触媒)の含有量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して0質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0質量部以上5質量部以下である。硬化促進剤の含有量を上記範囲内であると、得られる本実施形態の組成物の速硬化性がより向上すると共に、得られる本実施形態の組成物が硬化後のガラス転移温度が高くなり、硬化後の耐久性もより良好となる。
【0049】
このように、本実施形態の組成物は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)と、酸無水物硬化剤(C)とを含み、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると共に、前記酸無水物硬化剤(C)の含有量は、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)とに含まれるエポキシ基に対する前記酸無水物硬化剤(C)に含まれる酸無水物の理論配合比率が0.8当量以上1.3当量以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。本実施形態の組成物は、硬化剤としてアミン硬化剤を用いず、酸無水物硬化剤(C)を用いることで、人体に対する影響を少なくすることができる。また、求核性のある3価のアミンを含有したグリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と酸無水物硬化剤(C)とを組み合わせることで、硬化促進剤(硬化触媒)を添加することなく加熱硬化が可能な熱硬化性樹脂配合物を得ることができる。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)は、液状であるにもかかわらずアミン触媒添加の場合に比べて低温での反応性が低く、液状酸無水物硬化剤(C)と組み合わせた場合には室温での低粘度保持性に優れロングライフが確保できる。このため室温下でのVaRTM、RTM成形作業が容易となる。更にグリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)の添加量を上記の範囲の比率でコントロールすることにより、70℃以上80℃以下での一次硬化によって製品をモールドから脱型することが可能となり、モールド占有時間の短縮による生産性を向上させることができる。なお、成形品のサイズが小さい場合や、更にポットライフを短縮して速硬化性を持たせたい場合には、上記の配合に対して更に硬化促進剤(硬化触媒)を加えてコントロールすることも可能である。このように、本実施形態の組成物は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)と、酸無水物硬化剤(C)とを上述した配合比率で配合した場合、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物は耐熱性、高強度性に優れることから、VaRTM成形法、RTM成形法による複合材料に好適である。
【0050】
また、本実施形態の組成物は、室温下、20℃以上30℃以下で2.5時間以上3.5時間以下保持した後のE型粘度計により測定された樹脂粘度が10mPa・s以上300mPa・s以下となる組成物である。組成物の硬化速度が早いほどポットライフが短くなるため、組成物の粘度が上昇する。繊維強化複合材料などを成形する際、ポットライフが短いと成形する前に硬化してしまうため、低粘度を維持していることが必要である。そこで、本実施形態の組成物のように、室温付近の温度下で液状の成分のみを使用することにより、室温下、例えば20℃以上30℃以下程度の作業温度において低粘度性を有することができ、RTM成形に適した樹脂粘度及びポットライフを有することができる。
【0051】
更に、本実施形態の組成物は、75℃以上85℃以下で12時間以上18時間以下保持した後の樹脂の示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)による残発熱量が、未加熱樹脂の発熱量に対して0%以上20%以下である。示差走査熱量測定は、80℃で14時間保持した後の樹脂の吸発熱量の変化を測定することが好ましい。本実施形態において上記の残発熱量は、その時点の樹脂組成物中に含まれる未反応部分の反応熱を表すものである。例えば、未反応の未加熱樹脂の発熱量を100%とし、この発熱量100%に対して残発熱量が20%であった場合、その時点の樹脂組成物の反応率は80%となる。本実施形態の組成物を所定条件で一次硬化させた後に製品をモールドから脱型することが可能となり、モールド占有時間の短縮により生産性を向上させることができる。なお、上記の残発熱量が20%以下とは、樹脂組成物の反応率が80%以上であるという意味と同じである。
【0052】
従って、本実施形態の組成物によれば、人体への影響が少なく、かつ耐熱性および高い強度を有し物性に優れた硬化物が得られ、ポットライフをロングライフ化することができるため硬化させる際の作業性を良好に確保することができる。
【0053】
本実施形態の組成物は、上記のグリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)、酸無水物硬化剤(C)の他に、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、充填剤、反応性希釈剤、チクソトロピー性付与剤、シランカップリング剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、乾性油、接着性付与剤、分散剤、脱水剤、紫外線吸収剤、溶剤などが挙げられる。これらの中の2種類以上を含有してもよい。
【0054】
本実施形態の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えばグリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)、酸無水物硬化剤(C)および必要に応じて可塑剤等のその他の成分を、室温で均質に混合することで得ることができる。
【0055】
本実施形態の組成物は、上述の通り、耐熱性および高い強度を兼ね備えると共に、室温下で液状の成分のみを用いており、室温下、例えば20℃以上30℃以下程度の作業温度において低粘度性を有するため、RTM成形に適した樹脂粘度及びポットライフを有する。このため、本実施形態の組成物は繊維強化複合材料の形成用の樹脂として好適に用いることができる。繊維強化複合材料としては、例えば、風車の回転翼などの大型成形物等を挙げることができる。
【0056】
本実施形態の組成物を用いて繊維強化複合材料を成形する際、モールド内への樹脂組成物の注入に際してモールド内に負圧を与えるVaRTM成形(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)や、モールド内への本実施形態の組成物の注入に際してモールド内に負圧を与えないRTM成形を好適に用いて繊維強化複合材料を成形することができる。本実施形態の組成物を用いて繊維強化複合材料を製造する成形方法は、VaRTM成形やRTM成形に特に限定されるものではなく、従来公知の方法で製造することもできる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0058】
<エポキシ樹脂組成物の作製>
表1に示す各成分を同表に示す添加量(質量部)で配合し、これらを均一に混合して、表1に示される各組成物を作製した。各々の実施例、比較例における各成分の添加量(質量部)を表1に示す。
【0059】
<試験方法>
上記のようにして得られたエポキシ樹脂組成物の硬化物を用いて、樹脂粘度、残発熱、引張強度、引張弾性率、引張破断伸び、ガラス転移温度を各々測定した。樹脂粘度は、得られた各エポキシ樹脂組成物の各成分を混合した直後の30℃における樹脂粘度と、得られた各エポキシ樹脂組成物を30℃で180分経過した後の30℃における樹脂粘度を測定した。また、残発熱、引張強度、引張弾性率、引張破断伸び、ガラス転移温度は、得られた各エポキシ樹脂組成物を下記硬化条件で硬化させて硬化物を用いた。
硬化条件:第1次硬化条件(80℃、14時間)+第2次硬化条件(120℃、4時間)
【0060】
[樹脂粘度]
樹脂粘度は、得られた樹脂組成物をE型粘度計(商品番号:TVE−33LT、東機産業株式会社製)を用いて30℃での回転数2.5rpmにおける粘度を測定した。30℃における樹脂粘度が300mPa・s以下であれば作業性が良好であると判断した。
[残発熱]
残発熱は、得られた各樹脂組成物を80℃で14時間保持した後、示差走査熱量測定(型番:DSC−2920、ティー・エイ・インスツルメント社製)により10℃/分の昇温温度条件にて発熱量を測定した。そして未加熱未硬化の樹脂組成物の発熱量と比較して発熱量が未加熱未硬化の樹脂組成物の20%以下であれば良好と判断した。なお、上記の残発熱量が20%以下とは、樹脂組成物の反応率が80%以上であるということになる。
[引張強度、引張弾性率、引張破断伸び]
引張強度、引張弾性率、引張破断伸びは、得られた各樹脂組成物を80℃で14時間放置した後、120℃で4時間養生し、JIS K 7162規定の1B形(厚さ3mmのダンベル形)の試験片を作製した。得られた試験片を、JIS K7161に準拠して引張試験機(INSTRON5585H、インストロン社製)を用いて引張速度2mm/分で引張試験を行い、引張強度、引張弾性率および引張破断伸びを測定した。引張強度、引張弾性率および引張破断伸びの試験結果を表1に示す。なお、引張強度が90MPa以上であれば強度が良好であると判断し、引張弾性率が3.5GPa以上であれば弾性率が良好であると判断し、引張破断伸びが3.5%以上であれば伸度が良好であると判断した。
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度は、得られた樹脂組成物を示差走査熱量測定(型番:DSC−2920、ティー・エイ・インスツルメント社製)により10℃/分の昇温温度条件にてガラス転移点を測定した。ガラス転移温度が120℃以上であれば耐熱性が良好であると判断した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示す各実施例および比較例の各成分の詳細は以下のとおりである。
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A):3官能のエポキシ樹脂、商品名:「MY−0510」、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B):2官能以上のエポキシ樹脂、商品名:「YDF−170」、新日鐵化学製
・脂環式エポキシ樹脂:(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、商品名「CEL−2021P」、ダイセル化学社製、(室温25℃程度における粘度が、200mPa・s以上350mPa・s以下)
・多官能エポキシ希釈剤:反応性希釈剤、商品名:「YH−300」、新日鐵化学社製
・単官能エポキシ希釈剤:反応性希釈剤、商品名:「Epiclon 520」、DIC社製
・酸無水物硬化剤(C):メチルテトラヒドロフタル酸無水物(MeTHPA)、商品名:「HN−2000」日立化成工業株式会社製
・硬化促進剤:1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、商品名:キュアゾール「1B2MZ」、四国化成工業社製
【0063】
表1に示す結果から明らかなように、比較例1は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)を含まないため、樹脂組成物を硬化させても引張強度、引張破断伸びが十分な硬化物が得られなかったといえる。比較例2は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲にないため、樹脂組成物を硬化させてもガラス転移温度が低いことから耐熱性が低下したといえる。比較例3は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)を含まないため、樹脂組成物を硬化させても引張強度、引張弾性率が低く、十分な硬化物が得られなかったといえる。また、樹脂粘度も比較的に高いといえる。
【0064】
これに対し、実施例1〜3は、いずれも引張強度が95MPa以上で高い強度を示した。また、実施例1〜3は、いずれも樹脂粘度は300mPa・s以下であり、引張弾性率は3.5GPa以上であり、引張破断伸びは3.5%以上であり、ガラス転移温度は120℃以上であり、高い強度及び伸度を有すると共に、作業温度において低い粘度を有していた。
【0065】
また、各組成物は、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物硬化剤(C)を用いているため、従来より一般に用いられているアミン類を含むアミン系硬化剤に比べ人体に対する影響を小さくできる。
【0066】
よって、実施例1〜3の組成物は比較例1〜3の組成物に比べて強度及び伸度が高く、作業温度において低い粘度を保持できるためポットライフに優れ、繊維強化複合材料の形成用の樹脂組成物としての信頼性、安全性を高めることができる。従って、本実施形態の組成物から得られる硬化物は、室温で低粘度の液状状態を保持できるポットライフと耐熱性および高い強度を有するなど物性に優れ、かつ安全であることから、信頼性の高い繊維強化複合材料などの形成用の樹脂組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と、
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)と、
酸無水物硬化剤(C)と、を含み、
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)との質量比が、90:10〜30:70の範囲であると共に、
前記酸無水物硬化剤(C)の含有量は、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)と前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)とに含まれるエポキシ基に対する前記酸無水物硬化剤(C)に含まれる酸無水物の理論配合比率が0.8当量以上1.3当量以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(A)は、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、ジグリシジルアニリンの何れか1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸無水物硬化剤(C)は、20℃以上30℃以下で液状である成分を1種又は複数含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
20℃以上30℃以下で2.5時間以上3.5時間以下保持した後の樹脂粘度が10mPa・s以上300mPa・s以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
75℃以上85℃以下で12時間以上18時間以下保持した後の樹脂の示差走査熱量測定による残発熱量が、未加熱樹脂の発熱量に対して0%以上20%以下であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−1767(P2013−1767A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132512(P2011−132512)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】