説明

繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物

【課題】 高い耐熱性、高い靱性を有する硬化物を得ることのできる繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、(A)環を構成する炭素原子にエポキシ基が単結合により結合している脂環を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(A1)及び分子内に2個以上のジエン骨格と2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物と、(B)アミン硬化剤と、(C)硬化促進剤を含む。さらに、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物[但し、前記(A1)及び(A2)を除く](D)を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化複合材料を製造する上で有用な繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料であり、自動車部品、土木建築用品、風力発電のブレード、スポーツ用品、航空機、船舶、ロボット、ケーブル材料等の分野で広く利用されている。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が用いられる。マトリックス樹脂としては、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられるが、なかでも優れた耐熱性、弾性率、耐薬品性を有し、かつ硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が最もよく用いられる。
【0003】
国際公開第01/092368号パンフレットには、脂環式エポキシ樹脂とポリアミンと潜在性酸触媒とを含む繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物によれば、従来の芳香族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物と比較して、ポットライフが延長されるとともに、低粘度化を実現できるという利点がある。しかし、従来のエポキシ樹脂組成物と比べて、硬化物のガラス転移点が低下し、耐熱性に劣るという問題があった。また、硬化物の機械的強度、靱性についても必ずしも充分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/092368号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い耐熱性を有する硬化物を得ることのできる繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、高い耐熱性とともに高い強度を有する硬化物を得ることのできる繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、実用的な耐熱性を保持しつつ、高い靱性を有する繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定構造を有するエポキシ化合物とアミン硬化剤と硬化促進剤とを含むエポキシ樹脂組成物を硬化させると、高い耐熱性を有するとともに、高い強度、弾性率、靱性を有する硬化物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)環を構成する炭素原子にエポキシ基が単結合により結合している脂環を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(A1)及び分子内に2個以上のジエン骨格と2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物と、(B)アミン硬化剤と、(C)硬化促進剤を含む繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0008】
前記熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、さらに、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物[但し、前記(A1)及び(A2)を除く](D)を含んでいてもよい。
【0009】
前記エポキシ化合物(D)は、エポキシ基が脂環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されている脂環エポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(D1)及び芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物によれば、高い耐熱性を有する硬化物を得ることができる。また、高い耐熱性に加えて、高い強度及び弾性率を有する硬化物を得ることができる。また、実用的な耐熱性を保持し、且つ高い靱性を有する硬化物を得ることができる。従って、この熱硬化性エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを用いることにより、高い耐熱性を有するとともに、機械的特性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物(以下、単に「本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物」と称する場合がある)は、(A)環を構成する炭素原子にエポキシ基が単結合により結合している脂環を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(A1)及び分子内に2個以上のジエン骨格と2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物と、(B)アミン硬化剤と、(C)硬化促進剤とを含んでいる。
【0012】
[エポキシ化合物(A)]
本発明においては、エポキシ化合物(A)として、環を構成する炭素原子にエポキシ基が単結合により結合している脂環を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(A1)及び分子内に2個以上のジエン骨格と2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を用いる。
【0013】
[エポキシ化合物(A1)]
エポキシ化合物(A1)は、環を構成する炭素原子にエポキシ基の炭素原子が単結合により結合している脂環(エポキシ基が直接単結合で結合した脂肪族環状骨格)を分子内に2個以上有するエポキシ化合物である。エポキシ化合物(A1)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0014】
このような化合物として、例えば、下記式(1)
【化1】

(式中、Rはq価のアルコール[R−(OH)q]からq個のOHを除した基、pは1〜50の整数、qは1〜10の整数を示す。q個の括弧内の基において、pはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物が挙げられる。
【0015】
前記pは好ましくは1〜30である。前記qは好ましくは2〜6である。q価のアルコール[R−(OH)q]としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール等の1価のアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS等の2価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどの3価以上のアルコールが挙げられる。前記アルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。前記アルコールとしては、炭素数1〜10の脂肪族アルコールが好ましく、特に、トリメチロールプロパン[=2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール]等の炭素数2〜10の脂肪族多価アルコールが好ましい。
【0016】
式(1)で表される化合物は、例えば、前記q価のアルコール[R−(OH)q]を開始剤にして、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させることによって得られるポリエーテル樹脂、すなわち、ビニル基側鎖を有するポリシクロヘキセンオキシドのビニル基側鎖を過酸(過酢酸など)等の酸化剤でエポキシ化することにより製造することができる。なお、式(1)で表される化合物は、分子内に未反応のビニル基や反応に用いる原料等に由来する基を含んでいてもよい。
【0017】
式(1)で表される化合物として市販品を用いることができる。市販品として、例えば、商品名「EHPE3150」(ダイセル化学工業株式会社製)などがある。
【0018】
[エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)]
エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)は、分子内に2個以上のジエン骨格と2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化ポリブタジエン樹脂である。エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
前記エポキシ化ポリブタジエン樹脂の末端基は、水素原子のほか、水酸基、シアノ基などであってもよい。末端基としては、特に、水素原子、水酸基が好ましい。
【0020】
前記エポキシ化ポリブタジエン樹脂は、ポリブタジエン樹脂にエポキシ化剤を反応させることによって得ることができる。原料であるポリブタジエン樹脂において、二重結合部位の立体構造は、シス−1,4、トランス−1,4、トランス−1,2、シス−1,2のいずれであってもよい。また、それらの比率は任意でよい。エポキシ化剤としては、過酢酸、過ギ酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸などの有機過酸類、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドなどの有機ヒドロパーオキサイド類などを使用できる。有機過酸としては、目的物のオキシラン酸素濃度を高めるため、実質的に水を含まないもの(例えば、水分含有量で0.8重量%以下)が好ましい。上記エポキシ化剤の中でも、工業的に安価に入手でき、且つ安定度の高い点から、過酢酸が特に好ましい。
【0021】
前記エポキシ化ポリジエン樹脂の数平均分子量は、例えば、500〜50000、好ましくは2500〜30000、さらに好ましくは3500〜20000である。エポキシ化ポリジエン樹脂のオキシラン酸素濃度は、例えば、3〜15%、好ましくは5〜12%である。1分子中のエポキシ基の数は5個以上(例えば、5〜200個)が好ましく、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは20個以上である。
【0022】
前記エポキシ化ポリジエン樹脂として市販品を用いることができる。市販品として、例えば、商品名「EPL PB3600」(ダイセル化学工業株式会社製)などがある。
【0023】
[エポキシ化合物(D)]
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ化合物(A)に加えて、必要に応じて、さらに、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物[但し、前記(A1)及び(A2)を除く](D)を含んでいてもよい。エポキシ化合物(D)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
エポキシ化合物(D)としては、特に限定されず、例えば、(D1)エポキシ基が脂環(環状脂肪族骨格)を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されている脂環エポキシ基を2以上有するエポキシ化合物、(D2)芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、(D3)脂肪族多価アルコールポリグリシジルエーテル、(D4)その他のエポキシ化合物などを使用できる。
【0025】
エポキシ基が脂環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されている脂環エポキシ基を2以上有するエポキシ化合物(D1)として、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化2】

【0027】
上記式(2)で表される脂環式エポキシ化合物は、対応する脂環式オレフィン化合物を脂肪族過カルボン酸等によって酸化することにより製造され、実質的に無水の脂肪族過カルボン酸を用いて製造されたものが高いエポキシ化率を有する点で好ましい。
【0028】
上記式(2)において、Yは単結合又は連結基を示す。連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、アミド結合(−CONH−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びこれらが複数個連結した基などが挙げられる。上記2価の炭化水素基としては、炭素数1〜18(特に1〜6)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基や2価の脂環式炭化水素基(特に2価のシクロアルキレン基)等が好ましく例示される。前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基などが挙げられる。また、2価の脂環式炭化水素基としては、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2−シクロへキシレン、1,3−シクロへキシレン、1,4−シクロへキシレン、シクロヘキシリデン基などが挙げられる。
【0029】
式(2)で表される脂環式エポキシ化合物としては、具体的には下記の化合物が例示される。
【0030】
【化3】

【0031】
上記式中、nは1〜30の整数である。
【0032】
芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル;両末端にグリシジルエーテル基を有する、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合生成物等)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ビスフェノールFジグリシジルエーテル;両末端にグリシジルエーテル基を有する、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合生成物等)、ビスフェノールS型エポキシ樹脂(ビスフェノールSジグリシジルエーテル;両末端にグリシジルエーテル基を有する、ビスフェノールSとエピクロロヒドリンとの縮合生成物等)などのビスフェノール型ジエポキシ樹脂のほか、4,4′−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′,5,5′−テトラメチルビフェニルジグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンとフェノールの付加物のグリシジルエーテル、9,9′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0033】
脂肪族多価アルコールポリグリシジルエーテル(D3)としては、特に限定されず、広範な脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物を使用できる。該脂肪族多価アルコールポリグリシジルエーテルにおける「脂肪族多価アルコール」としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの3価以上のアルコールが挙げられる。
【0034】
脂肪族多価アルコールポリグリシジルエーテルの代表的な例として、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
その他のエポキシ化合物(D4)としては、例えば、下記式で表される化合物や、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレン−ビスベンズアミンなどのポリグリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。下記式中、a、b、c、d、e、fは、それぞれ、0〜30の整数である。
【0036】
【化4】

【0037】
エポキシ化合物(D)としては、上記の中でも、(D1)エポキシ基が脂環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されている脂環エポキシ基を2以上有するエポキシ化合物、(D2)芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物が特に好ましい。
【0038】
なお、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、上記以外のエポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0039】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、エポキシ化合物(A)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ化合物の量に対して、通常、5重量%以上、より好ましくは10重量%以上であり、20重量%以上であってもよい。また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、エポキシ化合物(A)とエポキシ化合物(D)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ化合物の量に対して、70重量%以上が好ましく、より好ましくは85重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0040】
本発明において、エポキシ化合物(A)として前記エポキシ化合物(A1)を用いると、従来の芳香族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物と比較して、耐熱性が大幅に向上するとともに、曲げ強度及び曲げ弾性率も大幅に改善される。エポキシ化合物(A)として前記エポキシ化合物(A1)を用いる場合、エポキシ化合物(A1)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量に対して、例えば、5重量%以上(5〜100重量%)、より好ましくは10重量%以上(10〜100重量%)、さらに好ましくは30重量%以上(30〜100重量%)である。なお、エポキシ化合物(A)として前記エポキシ化合物(A1)を用いる場合、エポキシ化合物(A1)とともに、前記エポキシ化合物(D1)及び/又は芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)を用いてもよい。この場合、エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(D1)の比率(重量比)は、前者/後者=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは30/70〜70/30である。また、この場合、(A1)と(D1)と(D2)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量に対して、例えば、70重量%以上(70〜100重量%)、より好ましくは85重量%以上(85〜100重量%)、さらに好ましくは95重量%以上(95〜100重量%)である。
【0041】
本発明において、エポキシ化合物(A)として前記エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)を用いると、実用的な耐熱性を保持しつつ、従来の芳香族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物と比較して、特に、靱性が大幅に改善される。エポキシ化合物(A)として前記エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)を用いる場合、エポキシ化合物(A2)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ化合物の量に対して、例えば、5重量%以上(5〜100重量%)、より好ましくは10重量%以上(10〜100重量%)、さらに好ましくは20重量%以上(30〜100重量%)である。なお、エポキシ化合物(A)として前記エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)を用いる場合、エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)とともに、前記エポキシ化合物(D1)及び/又は芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)を用いてもよい。この場合、エポキシ化合物(A1)と芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)の比率(重量比)は、前者/後者=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜70/30である。また、この場合、(A2)と(D1)と(D2)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量に対して、例えば、70重量%以上(70〜100重量%)、より好ましくは85重量%以上(85〜100重量%)、さらに好ましくは95重量%以上(95〜100重量%)である。
【0042】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において用いるエポキシ化合物は、調合時及び繊維強化複合材料を製造する際の作業性を向上させる観点から、0〜50℃の何れかの温度[例えば、室温(25℃)]で液状であることが好ましい。ただし、単体としては固形のエポキシ化合物であっても、各成分を配合した後の硬化性エポキシ樹脂組成物の粘度(25℃)として、例えば150000mPa・s以下になるものであれば使用可能である。エポキシ化合物(使用する全てのエポキシ化合物の混合物)の粘度(25℃)は、例えば、150000mPa・s以下、好ましくは100000mPa・s以下、さらに好ましくは80000mPa・s以下である。この粘度が大きすぎると、作業性等が低下しやすくなる。
【0043】
[アミン硬化剤(B)]
アミン硬化剤(B)としては、一般にエポキシ樹脂用硬化剤として知られているものの中から任意に選択して使用することができる。アミン硬化剤(B)として、ポリアミンを好適に使用できる。ポリアミンとしては、常温で液状のものが好ましい。常温で固体のポリアミンを使用する場合は、常温で液状のポリアミンに溶解させ、常温で液状の混合物として使用することが好ましい。アミン硬化剤(B)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
ポリアミンの具体例として、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ペンタンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′−メチレンビスシクロヘキシル、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどの環状脂肪族ポリアミン(脂環式ポリアミン);ポリエーテルポリアミン;m−キシリレンジアミン、4,4′−メチレンジアニリン、4,4′−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−イソプロピルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−クロロアニリン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−イソプロピル−6−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−ブロモ6−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(N−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(N−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(N−sec−ブチルアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−シクロヘキシリデンジアニリン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ビス(N−メチルアニリン)、4,4′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−オキシジアニリン、2,4−ビス(4−アミノフェニルメチル)アニリン、4−メチル−m−フェニレンジアミン、2−メチル−m−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、2−クロロ−p−フェニレンジアミン、2,4,6−トリメチル−m−フェニレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン(2,4−ジエチル−6−メチル−m−フェニレンジアミンと4,6−ジエチル−2−メチル−m−フェニレンジアミンの混合物など)、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン[6−メチル−2,4−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンと2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンの混合物等]、4,6−ジメチル−m−フェニレンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α−ビス(4−アミノフェイル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(m−アミノフェニル)ベンゼン等の芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
【0045】
このうち、耐熱性に優れ、且つ弾性率の高い硬化物を得るという点からは、ポリアミンとして、芳香族ポリアミンを用いるのが好ましい。また、低粘度で、しかも高い耐熱性を有する硬化物を得るという点からは、ポリアミンとして、環状脂肪族ポリアミンを用いるのが好ましい。特に好ましいポリアミンは、例えば、ジエチルトルエンジアミン(2,4−ジエチル−6−メチル−m−フェニレンジアミンと4,6−ジエチル−2−メチル−m−フェニレンジアミンの混合物など)、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン[6−メチル−2,4−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンと2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンの混合物等]、4,4′−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−イソプロピル−6−メチルアニリン)である。
【0046】
アミン硬化剤(B)の配合量は、その種類によっても異なるが、一般に、エポキシ化合物(A)[エポキシ化合物(A)とともにエポキシ化合物(D)を用いる場合はそれらの総量]100重量部(又は、組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部)に対して、1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは10〜70重量部である。特に、アミン硬化剤(B)は、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物におけるエポキシ基1当量当たり、0.5〜1.5のアミン当量となるような割合で使用することが好ましい。
【0047】
[硬化促進剤(C)]
硬化促進剤(C)としては、アミン硬化剤を用いてエポキシ化合物を硬化させる際の硬化速度を促進させるために一般に使用される硬化促進剤であれば特に制限はなく、例えば、第三級アミン、第三級アミン塩、イミダゾール類、有機リン系化合物、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等のオニウム塩、強酸エステル、ルイス酸と塩基の錯体、有機金属塩等を用いることができる。硬化促進剤(C)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、強酸のオニウム塩、強酸エステル、ルイス酸と塩基の錯体等は潜在性酸触媒とも称される。
【0048】
第三級アミンとしては、例えば、ラウリルジメチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)などが挙げられる。
【0049】
第三級アミン塩としては、例えば、前記第三級アミンのカルボン酸塩、スルホン酸塩、無機酸塩などが挙げられる。カルボン酸塩としては、オクチル酸塩等の炭素数1〜30(特に、炭素数1〜10)のカルボン酸の塩(特に、脂肪酸の塩)などが挙げられる。スルホン酸塩としては、p−トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩などが挙げられる。第三級アミン塩の代表的な例として、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)の塩(例えば、p−トルエンスルホン酸塩、オクチル酸塩)などが挙げられる。
【0050】
イミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0051】
有機リン系化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニルなどが挙げられる。
【0052】
第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。また、第四級アンモニウム塩としては、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン(p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン、4−クロロベンゼンスルホネートイオン、ドデシルベンゼンスルホネートイオン、メタンスルホネートイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン等)、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する第四級アンモニウム塩を用いることもできる。
【0053】
第四級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、テトラブチルホスホニウムラウリン酸塩、テトラブチルホスホニウムミリスチン酸塩、テトラブチルホスホニウムパルミチン酸塩、テトラブチルホスホニウムカチオンとビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸及び/又はメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸のアニオンとの塩、テトラブチルホスホニウムカチオンと1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のアニオンとの塩などが挙げられる。また、第四級ホスホニウム塩としては、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン(p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン、4−クロロベンゼンスルホネートイオン、ドデシルベンゼンスルホネートイオン、メタンスルホネートイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン等)、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する第四級ホスホニウム塩を用いることもできる。
【0054】
第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩としては、それぞれ、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン(p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン、4−クロロベンゼンスルホネートイオン、ドデシルベンゼンスルホネートイオン、メタンスルホネートイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン等)、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩又はジアゾニウム塩が挙げられる。
【0055】
強酸エステルとしては、例えば、硫酸エステル、スルホン酸エステル、りん酸エステル、ホスフィン酸エステル、ホスホン酸エステルなどが挙げられる。
【0056】
ルイス酸と塩基の錯体としては、例えば、高温で解離してルイス酸を生成するものが挙げられる。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素等のハロゲン化ホウ素、五フッ化りん、五フッ化アンチモンなどが好ましい。また、塩基としては、有機アミンが好ましい。ルイス酸と塩基の錯体の代表的な例として、三フッ化ホウ素・アニリン錯体、三フッ化ホウ素・p−クロロアニリン錯体、三フッ化ホウ素・エチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・イソプロピルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ベンジルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジメチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジブチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・ジベンジルアミン錯体、三塩化ホウ素・ジメチルオクチルアミン錯体等が挙げられる。
【0057】
有機金属塩としては、例えば、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジラウリン酸ジブチルスズ、アルミニウムアセチルアセトン錯体などが挙げられる。
【0058】
これらの硬化促進剤の中でも、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩又はジアゾニウム塩;強酸エステル;ルイス酸と塩基の錯体などの潜在性酸触媒が好ましく、特に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三塩化ホウ素・ジメチルオクチルアミン錯体などのルイス酸と塩基との錯体が好ましい。
【0059】
硬化促進剤(C)の配合量は、アミン硬化剤(B)の種類によっても異なるが、通常、アミン硬化剤(B)100重量部に対して、0.1〜60重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは5〜40重量部である。また、硬化促進剤(C)の配合量は、エポキシ化合物(A)[エポキシ化合物(A)とともにエポキシ化合物(D)を用いる場合はそれらの総量]100重量部(又は、組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部)に対して、例えば、0.2〜20重量部、好ましくは1〜16重量部、さらに好ましくは2〜10重量部である。
【0060】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、上記の成分のほか、硬化物(繊維強化複合材料)の物性に悪影響を与えない範囲で各種の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、例えば、界面活性剤、内部離型剤、着色剤、難燃剤、消泡剤、シランカップリング剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。これら各種の添加剤の配合量は熱硬化性エポキシ樹脂組成物に対して、重量基準で10%以下(特に、5%以下)であるのが好ましい。従って、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、全エポキシ化合物とアミン硬化剤と硬化促進剤の総量は、全体の90重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。
【0061】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化温度は、エポキシ化合物の種類によっても異なるが、例えば、20〜250℃、好ましくは40〜200℃である。
【0062】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)のガラス転移温度[粘弾性スペクトロメータ(DMS)による測定値]は、例えば、90℃以上、好ましくは120℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。特に、エポキシ化合物(A)としてエポキシ化合物(A1)を用いた場合には、該ガラス転移温度を、例えば186℃以上、さらには200℃以上(場合によっては220℃以上)とすることが可能である。
【0063】
また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)の曲げ強度は、例えば、80MPa以上、好ましくは120MPa以上、さらに好ましくは125MPa以上である。さらに、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)の曲げ弾性率は、例えば、1600MPa以上、好ましくは2000MPa以上、さらに好ましくは3000MPa以上である。特に、エポキシ化合物(A)としてエポキシ化合物(A1)を用いた場合には、該曲げ弾性率を3000MPa以上とすることが可能である。
【0064】
また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)、特に、エポキシ化合物(A)としてエポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)を用いて得られる硬化物は、極めて高い靱性を示し、曲げ弾性率測定において、変位20mmまでの測定で破断しない。
【0065】
繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料である。本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は前記マトリックス樹脂の原料(硬化前の前駆体)として使用される。マトリックス樹脂(熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物)の熱特性及び機械的特性は繊維強化複合材料の物性に反映される。すなわち、マトリックス樹脂のガラス転移温度が高ければ、繊維強化複合材料の耐熱性が向上する。また、マトリックス樹脂の曲げ強度が高ければ、繊維強化複合材料の曲げ強度も高くなり、マトリックス樹脂の弾性率が高ければ、繊維強化複合材料の圧縮強度や引張強度が向上する。さらに、マトリックス樹脂の靱性が高ければ高いほど、繊維強化複合材料の強じん性が増加する。
【0066】
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いることにより繊維強化複合材料を製造することができる。
【0067】
繊維強化複合材料の製造方法としては、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、RTM法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法、スプレーアップ法などの公知の方法がいずれも好ましく適用できる。好ましい製造法の一つであるRTM法とは、型内に設置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂を注入し、硬化して繊維強化複合材料を得る方法である。強化繊維基材としては、強化繊維からなる織物、ニット、マット、ブレイドなどをそのまま用いてもよく、これらの基材を積層、賦形し、結着剤やステッチなどの手段で形態を固定したプリフォームを用いてもよい。
【0068】
強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などが挙げられる。これらのなかでも、炭素繊維、ガラス繊維が特に好ましい。繊維は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。前記炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維などを用いることができる。ガラス繊維としては、樹脂強化用に通常用いられるガラス繊維を使用できる。
【0069】
型は、剛体からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛体の片面型と可撓性のフィルム(バッグ)を用いる方法も可能である。後者の場合、強化繊維基材は剛体片面型と可撓性フィルムの間に設置する。剛体の型材としては、例えば金属(鉄、スチール、アルミニウムなど)、FRP、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムとしては、ナイロン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などのフィルムが用いられる。剛体のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、液状エポキシ樹脂組成物を加圧して注入することが通常行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、かつ、特別な加圧手段を用いず、大気圧のみで液状エポキシ樹脂を注入することも可能である。
【0070】
剛体の片面型と可撓性フィルムを用いる場合は、通常、吸引と大気圧による注入を用いる。大気圧による注入で、良好な含浸を実現するためには、米国特許第4902215号公報に示されるような、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。また、型内には、強化繊維基材以外にフォームコア、ハニカムコア、金属部品などを設置し、これらと一体化した複合材を得ることも可能である。特にフォームコアの両面に炭素繊維基材を配置して成型して得られるサンドイッチ構造体は、軽量で大きな曲げ剛性を持つので、例えば自動車や航空機などの外板材料として有用である。さらに、強化繊維基材の設置に先立って、剛体型の表面に後述のゲルコートを塗布することも好ましく行われる。
【0071】
樹脂注入が終了した後、適切な加熱手段を用いて加熱硬化を行い、脱型する。脱型後にさらに高温で後硬化を行うことも可能である。
【0072】
繊維強化複合材料は、RTM法以外にも、前述のように、フィラメントワインディング法や、プルトルージョン法などの液状エポキシ樹脂組成物を用いる公知の繊維強化複合材料の製造法により製造することができる。
【0073】
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いることで、軽量、高強度、高剛性で耐熱性に優れた繊維強化複合材料を経済的に製造することができる。
【0074】
こうして得られる繊維強化複合材料は、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドアなど、宇宙機のモーターケース、主翼など、人工衛星の構体、自動車のシャシー等の自動車部品、鉄道車両の構体、自転車の構体、船舶の構体、風力発電のブレード、圧力容器、釣り竿、テニスラケット、ゴルフシャフト、ロボットアーム、ケーブルなどの構造物に好適に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0076】
実施例、比較例で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の評価は、以下のようにして行った。
[耐熱性試験]
実施例、比較例で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、110℃で2時間+180℃で2時間の条件で熱硬化させた試験片(幅5mm、厚さ1mm)を、粘弾性スペクトロメータ(DMS)[セイコーインスツルメント(株)製]でガラス転移温度(Tg、℃)を測定して耐熱性の指標とした。
【0077】
[曲げ強度試験(曲げ弾性率、曲げ強度、曲げ歪み)]
曲げ強度試験用の試験片は、上記耐熱性試験用試験片の作製条件で得た硬化物を、4mm×10mm×80mmの大きさに加工して作製した。曲げ強度試験はJIS K 6911に準拠して、曲げ速度1mm/分で行った。
【0078】
実施例1
エポキシ化合物(A1)として、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物[ダイセル化学工業(株)製、商品名「EHPE3150」]50重量部、エポキシ化合物(D1)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]50重量部、アミン硬化剤(B)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]29.8重量部、硬化促進剤(C)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。その結果、得られた樹脂硬化物は、ガラス転移温度が244℃、曲げ弾性率が3580MPa、曲げ強度が129MPa、曲げ歪みが4.6%であり、優れた耐熱性、曲げに対する特性を有していた。
【0079】
実施例2
エポキシ化合物(A1)として、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物[ダイセル化学工業(株)製、商品名「EHPE3150」]15重量部、エポキシ化合物(D1)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]15重量部、芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂[新日鐵化学(株)製、商品名「エポトートYD128」]70重量部、アミン硬化剤(B)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]25.7重量部、硬化促進剤(C)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。その結果、得られた樹脂硬化物は、ガラス転移温度が189℃、曲げ弾性率が3050MPa、曲げ強度が126MPa、曲げ歪みが9.8%であり、優れた耐熱性、曲げに対する特性を有していた。
【0080】
実施例3
エポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)として、エポキシ化ポリブタジエン[ダイセル化学工業(株)製、商品名「EPL PB3600」]30重量部、芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂[新日鐵化学(株)製、商品名「エポトートYD128」]70重量部、アミン硬化剤(B)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]24.1重量部、硬化促進剤(C)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。その結果、得られた樹脂硬化物は、ガラス転移温度が129℃、曲げ弾性率が2546MPa、曲げ強度が93MPaであり、変位20mmまでの測定で破断しなかった(曲げ歪み:>11%)。このように実用的な耐熱性と、優れた靭性を有していた。
【0081】
比較例1
芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂[新日鐵化学(株)製、商品名「エポトートYD128」]100重量部、アミン硬化剤(B)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]24.3重量部、硬化促進剤(C)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。その結果、得られた樹脂硬化物は、ガラス転移温度が185℃、曲げ弾性率が2740MPa、曲げ強度が111MPa、曲げ歪みが10.9%であった。
【0082】
比較例2
エポキシ化合物(D1)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]100重量部、アミン硬化剤(B)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]34.6重量部、硬化促進剤(C)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化を試みたが、硬化しなかった。
【0083】
比較例3
芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂[新日鐵化学(株)製、商品名「エポトートYD128」]70重量部、エポキシ化合物(D1)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]30重量部、アミン硬化剤(B)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]26.7重量部、硬化促進剤(C)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。その結果、得られた樹脂硬化物は、ガラス転移温度が182℃、曲げ弾性率が2940MPa、曲げ強度が120MPa、曲げ歪みが10.9%であった。
【0084】
実施例及び比較例の結果を表1にまとめて示す。表1において、各成分の欄の数字は重量部を示す。

表1に示されるように、実施例1、2の熱硬化性エポキシ樹脂組成物から得られる硬化物においては、高耐熱化と高強度化を達成できる。また、実施例3の熱硬化性エポキシ樹脂組成物から得られた硬化物においては、耐熱性を維持したまま、高靭性化することができる。
【0085】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させて得られる硬化物は、高耐熱、高強度、高靭性を有する。このため、炭素繊維複合材料などの繊維強化複合材料用の硬化性樹脂組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)環を構成する炭素原子にエポキシ基が単結合により結合している脂環を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(A1)及び分子内に2個以上のジエン骨格と2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化ポリブタジエン樹脂(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物と、(B)アミン硬化剤と、(C)硬化促進剤を含む繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物[但し、前記(A1)及び(A2)を除く](D)を含む請求項1記載の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ化合物(D)が、エポキシ基が脂環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されている脂環エポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ化合物(D1)及び芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物(D2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物である請求項2記載の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−167180(P2012−167180A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29052(P2011−29052)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】