説明

繊維強化複合材料

【課題】フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料の有する機械的強度及び耐熱性を維持しながら、耐磨耗性を向上させた繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】短繊維とフェノール樹脂が複合された繊維強化複合材料であって、該短繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成され、かつその繊維長が0.5〜10mmであることを特徴とする繊維強化複合材料。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化複合材料に関し、特に、フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料であり、その複合材料の有する機械的強度及び耐熱性を維持しながら、耐磨耗性を向上させた繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に、特許文献1において、ポリケトンで構成される繊維(以下「ポリケトン繊維」という。)とマトリックス材からなる繊維強化複合材料が、優れた剛性を有し、耐衝撃性等に優れていることを提案したが、フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料であり、その複合材料の有する機械的強度及び耐熱性を維持しながら、耐磨耗性を向上させたいという要求については、何ら検討されていなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2006−111682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる要求に応えた繊維強化複合材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)短繊維とフェノール樹脂が複合された繊維強化複合材料であって、該短繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成され、かつその繊維長が0.5〜10mmであることを特徴とする繊維強化複合材料。
【化1】

(2)短繊維が、その繊維長Lと繊維径Dの比L/Dが30〜1800の範囲であることを特徴とする上記(1)に記載の繊維強化複合材料。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に好ましくは99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0007】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上であり、好ましくは20dl/g以下、より好ましくは15dl/g以下、特に好ましくは10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【0008】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は、10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上であり、30cN/dtex以下であり、引張伸度は、3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上であり、15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は、100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上であり、1000cN/dtex以下である。
ポリケトン繊維の形態は、短繊維であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0009】
本発明は、かかるポリケトン繊維の短繊維と、フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料であって、ポリケトン繊維の短繊維の繊維長が0.5〜10mmのものを用いることに特徴があり、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.5mm以上、特に2mm以上であり、9mm以下、より好ましくは8mm以下、特に好ましくは7mm以下である。繊維長が、0.5mm未満では、充分な耐磨耗性と機械的強度が得られず、10mm超では解繊が不充分となり繊維の分散性が低下し、クラックの起点となったりして機械的強度が低下する要因となり、耐磨耗性も不充分となる。
又、ポリケトン繊維の短繊維の繊維長Lと繊維径Dの比L/Dが、30〜1800の範囲が好ましく、より好ましくは50以上、特に100以上であり、1500以下、特に1000以下であり、この範囲外では、充分な耐磨耗性と機械的強度が得られないことがある。
好ましい単糸繊度は、0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtexである。
【0010】
繊維強化複合材料におけるポリケトン短繊維の好ましい含有率は、3〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは15〜60質量%の範囲である。含有率が5質量%未満では、本発明の目的達成が困難となることがあり、70質量%超では成形性が低下することがある。
尚、本発明においては、繊維強化複合材料に複合する繊維は、ポリケトン繊維100重量%が好ましいが、必要に応じて、70重量%以下(複合する繊維全量に対しての割合)、より好ましくは50重量%以下、特に好ましくは30重量%%以下の範囲内でポリケトン繊維以外の繊維を用いても良く、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、アクリル繊維、ガラス繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維等の公知の繊維を混用してもよい。
【0011】
マトリックス材であるフェノール樹脂としては、ノボラック型、レゾール型が代表的であり、これらは単独又は併用して用いることができるが、ノボラック型の場合は、通常、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンが使用される。ヘキサメチレンテトラミンの配合量は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対し、10〜20重量部が好ましい。レゾール型は、自硬化性の樹脂のために、ヘキサメチレンテトラミンを用いることなく硬化させることができる。繊維強化複合材料におけるフェノール樹脂の含有率は、30〜50質量%程度であり、好ましくは32〜48質量%、特に好ましくは35〜45質量%の範囲である。
尚、繊維強化複合材料には、従来、耐磨耗性向上手段として公知の固体潤滑剤である黒鉛(粒状又は鱗片状の天然黒鉛、人工黒鉛がある)を含有させてもよく、繊維強化複合材料における黒鉛の好ましい含有率は、3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%の範囲である。
【0012】
又、必要に応じて、黒鉛以外の無機基材を用いてもよく、例えば、ガラス繊維、焼成されたカオリナイト、焼成クレー、タルク、シリカ、ガラス粉末、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト等、通常、フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料に用いられる繊維状、針状、粉末、粒状のものを単独又は併用して用いることができる。さらに、木紛等の有機基材を配合しても良い。
フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料の製法は、通常の方法が採用される。例えば、上記したポリケトン短繊維等の配合物を所定の割合で混合し、さらに、着色剤、硬化触媒を加えて加熱ロール間で混錬し、シート状にし、冷却したものを顆粒状に粉砕して得る複合材料の製法である。
【0013】
例えば、屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維の形態で紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維に紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%が好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものでなない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)曲げ強さ
JIS−K−6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準じて測定する。
(2)耐摩耗性
成形体を、鈴木式摩耗試験機により相手材をS55Cとして、4時間後の成形体および相手材の摩耗量を測定した。
【0015】
[実施例1]
配合する繊維として、1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)を5mm長さにカットしてポリケトン短繊維を得た(L/D=454)。
下記配合割合にて配合し、加熱ロール間で混錬し、シート状にし、冷却したものを粉砕して顆粒状の成形材料を得た。
得られた成形材料を用いてトランスファー成形(金型温度175℃、硬化時間3分)により試験片を作製し、特性を評価した結果、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )は、0.0および0.1以下と優れたものであった。又、曲げ強さ(MPa)は180(室温)、150(120℃)と耐磨耗性と機械的強度が両立したものであった。
<配合割合>
ノボラック型フェノール樹脂 30質量%
ヘキサメチレンテトラミン 5質量%
ポリケトン短繊維 20質量%
黒鉛(粒度100メッシュパス) 10質量%
無機基材(粉末状珪酸アルミニウム) 30質量%
着色剤・離型剤・硬化触媒 5質量%
(着色剤;カーボンブラック、離型剤;ステアリン酸、硬化触媒;酸化マグネシウム)
【0016】
[実施例2〜5、比較例1〜2]
実施例1において、繊維長を変化させた以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、特性を評価した結果、繊維長が0.5mm(実施例2)では、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )は、共に0.1以下、曲げ強さ(MPa)は140(室温)、110(120℃)と耐磨耗性と強度が両立したものであった。繊維長が2mm(実施例3)では、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )は、0.0および0.1以下、曲げ強さ(MPa)は175(室温)、150(120℃)と耐磨耗性と強度が両立したものであった。繊維長が7mm(実施例4)では、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )は、0.0および0.1以下、曲げ強さ(MPa)は185(室温)、155(120℃)と耐磨耗性と強度が両立したものであった。繊維長が10mm(実施例5)では、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )は、共に0.1以下、曲げ強さ(MPa)は170(室温)、130(120℃)と耐磨耗性と強度が両立したものであった。
繊維長が0.3mm(比較例1)では、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )では、2.1および2.5、曲げ強さ(MPa)は110(室温)、75(120℃)と耐磨耗性、強度ともに実施例対比劣ったものであった。繊維長が12mm(比較例2)では、成形体および相手材の摩耗量(mm3 )は、1.6および2.0、曲げ強さ(MPa)は130(室温)、90(120℃)と耐磨耗性、強度ともに実施例に対比して劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、フェノール樹脂をマトリックス材とする繊維強化複合材料の有する機械的強度及び耐熱性を維持しながら、耐磨耗性を向上させた繊維強化複合材料に関するものである。特に、自動車用部品、汎用機械用部品、家庭電化製品用部品、OA機器およびその周辺機器用部品等に有用であり、その中でも耐磨耗性を必要とする部品に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維とフェノール樹脂が複合された繊維強化複合材料であって、該短繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成され、かつその繊維長が0.5〜10mmであることを特徴とする繊維強化複合材料。
【化1】

【請求項2】
短繊維が、その繊維長Lと繊維径Dの比L/Dが30〜1800の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2009−46580(P2009−46580A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213830(P2007−213830)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】