説明

繊維強度向上剤およびこれを用いた繊維強度の向上方法

【課題】 簡単かつ経済的な手段により、繊維の剛性等の強度を、これが本来持っている以上に高める手段を提供すること。
【解決手段】 中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤および被処理繊維の表面を、当該繊維強度向上剤で処理することを特徴とする繊維の強度向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強度向上剤に関し、更に詳細には、繊維、特に天然繊維の剛性を、それらが本来有する剛性より高めることを可能とする繊維強度の向上剤およびこれを用いた繊維強度の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維は、我々の身近で広く利用されており、その一つの形態として、寝具等の綿としての利用も挙げられる。従来、綿は綿花から得られるものが利用されていたが、近年は、そのほかに、再生セルロース繊維を用いたものや、高級品として、羊毛、らくだの毛、生糸などを利用したも使用されるようになっている。
【0003】
上記のような寝具に用いる綿には、種々の性能が要求され、長期間使用してもへたらない、すなわち、ある程度の弾力性を有することもその一つである。しかしながら、繊維によっては十分な剛性がないため、綿とした場合の弾力性が低いものもあり、繊維の剛性を高めることにより、弾力性を上げることが要求されている。
【0004】
繊維の剛性を高める方法としては、ホルマリン処理による内部架橋やグラフト反応によるポリマー鎖の導入等の方法が知られているが、これらの方法は、処理剤の毒性や合成高分子の導入により機材が持つ生分解性の特性を損なうという欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡単かつ経済的な手段により、繊維の剛性を、これが本来持っている以上に高める手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、繊維の剛性を向上させるための技術に関し、種々検討していたところ、天然素材である中性グルコマンナンを繊維表面に付着させることにより、繊維の剛性が高まり、これを綿としたときの弾力性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤である。
【0008】
また本発明は、被処理繊維の表面を、中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤で処理することを特徴とする繊維の強度向上方法である。
【発明の効果】
【0009】
KMを表面に付着した繊維は、その剛性等の物性強度を向上する。また、繊維表面に付着したKMは、乾燥処理の後は水に不溶性となり、洗濯しても取り除けず、繊維強化の作用が長時間維持できる。
【0010】
従って、本発明の強度向上剤を利用することにより、種々の繊維において、その剛性を高めることで、弾力性を高める等、その物性を変えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の繊維強度向上剤(以下、「強度向上剤」という)は、その有効成分として、中性グルコマンナンを含有するものである。この中性グルコマンナンは、コンニャク粉の主成分で、β−D−グルコースとβ−D−マンノースがほぼ1:1.6で結合したものであり、コンニャクマンナンともいわれるものである(以下、中性グルコマンナンを「KM」と略すことがある)。
【0012】
本発明の強度向上剤は、上記KMを、0.01ないし0.2質量%(以下、単に「%」で示す)、好ましくは、0.1ないし0.15%で水溶液中に溶解することにより製造される。この際、必要に応じて、防腐剤としてアジ化ナトリウム等の成分を加えても良い。
【0013】
本発明の強度向上剤により、その強度が向上させることのできる繊維としては、特に制約はないが、本来的に剛性が低い繊維が好ましい。
【0014】
例えば、再生セルロース繊維であるテンセルは、ドレープ性、通気性、吸放湿性などの機能を持った生態系に優しいとして知られている。このテンセルを始めとする再生セルロース繊維は、これを綿として寝具などに使用した場合、弾力性の面で必ずしも十分とは言えず、本発明の強度向上剤の利用が有効である。また、絹も、高級寝具等で綿として使用されているが、これを綿として使用した場合の弾力性は十分といえないため本発明の強度向上剤の利用が有効である。
【0015】
本発明の強度向上剤を用いて被処理繊維を処理する方法の一例としては、例えば、室温(20℃)〜 80℃程度の、水溶液状態の強度向上剤に、被処理繊維を浸漬し、これを10〜30分間程度放置した後、引き上げて脱水し、更に、80〜120℃程度の温度で乾燥する方法が挙げられる。
【0016】
浸漬工程において、使用する強度向上剤の量は、被処理繊維に対する浴比(重量比)で
10〜100程度、好ましくは20〜50である。また、脱水は、浸漬後の繊維における、下式で示される絞り率が、100ないし250%程度となるまで行なえば良い。
【0017】
絞り率(%)=(B−A)/A×100
A:最初の繊維重量
B:脱水後の繊維重量
【0018】
また、被処理繊維を処理する別の方法の例としては、被処理繊維に前記強度向上剤を噴霧し、これを乾燥する方法が挙げられる。この場合、強度向上剤は、粘度が高めであるため、多連装シャワーシステム等の噴霧装置を使用することが好ましい。
【0019】
以上のようにして処理された繊維は、例えば剛性率が、テンセルで200%程度まで、絹で200%程度まで向上し、これを綿としたときの弾力性が向上したものとなる。
【0020】
本発明の上記効果は、KMが水には可溶であるが、これを熱乾燥することにより変性して水に不溶性となる性質に基づくものと考えられる。すなわち、水溶液状態のKMに繊維を浸漬することにより、KMは、繊維表面に均一に付着する。そして、この状態で脱水、乾燥することにより、洗濯などによっても取り除けない水不溶性のKMとなり、繊維の強度を高めるものと推定される。
【実施例】
【0021】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0022】
実 施 例 1
テンセルの強度向上処理:
KMによる強度向上性能を、一般に布団に使用されるテンセル綿(6デニール;レンチング社製)を用い下記のように調べた。KMとしては、市販の特級コンニャク粉(荻野商店株式会社製)を使用した。
【0023】
テンセル綿100gを、所定濃度のKMを含む強度向上剤2000g(浴比20)に浸漬した。テンセルが十分に膨潤した後、脱水した。脱水後の繊維重量を測定し、最初の繊維量からそ絞り率を算出した。
【0024】
次いで各試料を80℃で、12から16時間乾燥し、一定重量(恒量)となった時点で乾燥を終了してKM処理テンセルを得た。
【0025】
絞り率は前記した式から、KM固着率は次の式から算出した。
固着率(%)=C/Ax100
A:最初の繊維重量
C:繊維に固着したKM重量(残存KM量から算定)
【0026】
本実施例で使用した強度向上剤ならび絞り率および固着率を表1に示す。なお、強度向上剤4では、溶液粘度が高かったために、脱水後水洗を行った。
【0027】
【表1】

【0028】
実 施 例 2
テンセル綿の強度向上確認試験:
実施例1で得たKM処理テンセル綿について、その物性をEZ Test小型万能試験機(島津製作所)を用い、次のようにして測定した。
【0029】
まず、各試料0.7gを、直径25mmのガラス試料管につめ、直径20mmの圧縮治具を用い、圧縮速度2mm/分で80%まで圧縮を行った(第1回測定)。第1回測定終了後、圧力をかけない状態で5分間放置し、その後同様な測定を再度行った(第2回測定)。
【0030】
この圧縮測定試験により得られた各種KM処理テンセル綿の圧縮応力および圧縮エネルギーについての結果と、それらの原料テンセル綿との比率(カッコ内)を表2に、剛性率についての結果を表3に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表2の結果から明らかなように、圧縮の最大応力は、KMの固着率の増加に伴い増加し、固着率0.44%(強度向上剤3使用)では原料テンセル綿の142%まで増大した。圧縮のエネルギーもKM処理により増加したが、強度向上剤による著しい相違は認められなかった。
【0034】
また、表3の結果から、第1回測定および第2回測定の何れでも剛性率は固着率の増加に伴い増大し、固着率0.44%では原料テンセル綿に比べそれぞれ197%および159%と極めて高い値を示した。以上の結果よりKMによる表面処理はテンセル綿のパワーアップに有効な手段と判断された。
【0035】
なお、図1に原料テンセル綿と強度向上剤3で処理したテンセル綿の応力−時間曲線を示す。両試料とも圧縮初期では応力は時間の経過に伴い徐々に増加し、700秒を過ぎると著しく増大した。また、荷重をかけたまま5分間放置すると応力緩和現象が観察された。圧縮第2工程もほぼ同様な挙動が観察された。他の試料もほぼ同様なパターンを示した。
【0036】
実 施 例 3
テンセルふとん綿試験での強度向上確認試験:
強度向上剤3で表面処理したテンセル綿を用い、試験用ふとんを作成した。作成したふとんについて、L1097−1982試験方法に従い、圧縮弾性(圧縮率・回復率)を測定した。同様、原料テンセル綿についても試験を行った。この結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
この結果、処理テンセル綿は、圧縮率50.9%で原料テンセル綿に比べ、若干高い回復率を示した。この結果は、実施例2の物性試験とも良い対応を示し、本発明の強度向上剤により、テンセルがパワーパップされたことを示唆するものである。
【0039】
実 施 例 4
絹の強度向上確認試験:
絹糸(群馬200)を、常法に従い熱と機械処理によりウェーブ処理し、これをカットしたものを試料として使用した。試料絹を、0.15%でKMを含有する水溶液(強度向上剤5)に15分間浸漬した後、過剰の溶液を絞り、除去した後、80℃の乾燥機中で乾燥して処理絹を得た。KM固着率は、実施例1と同様にして測定した。また、対照としては、同じ試料を脱イオン水に浸漬した後、80℃で乾燥したものを用いた。
【0040】
処理絹および対照の絹について、圧縮率を75%とする以外は実施例2と同様にして物性を測定した。この結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5の結果から明らかなように、絹の最大荷重値と剛性率は、本発明の強度向上剤に利用により著しく増大した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、天然物であるKMの利用により、これが表面に付着した繊維の剛性等の物性強度を向上させることのできるものである。また、繊維表面に付着したKMは、乾燥処理の後は水に不溶性となり、洗濯しても取り除けず、繊維強化の作用が長時間維持できる。
【0044】
従って、本発明の強度向上剤を利用することにより、種々の繊維において、その剛性を高めることで、弾力性を高める等、その商品価値を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】原料テンセル綿と処理テンセル綿の応力−時間曲線を示す図面である。Aが原料テンセル綿、Bが処理テンセル綿を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤。
【請求項2】
中性グルコマンナンを、0.01ないし0.2質量%で含有する水溶液である請求項1記載の繊維強度向上剤。
【請求項3】
被処理繊維の表面を、中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤で処理することを特徴とする繊維の強度向上方法。
【請求項4】
被処理繊維を中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤に浸漬する請求項第3項記載の繊維の強度向上方法。
【請求項5】
被処理繊維を中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤に浸漬後、これを脱水、乾燥する請求項第4項記載の繊維の強度向上方法。
【請求項6】
被処理繊維に、中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤を噴霧する請求項第3項記載の繊維の強度向上方法。
【請求項7】
被処理繊維に、中性グルコマンナンを有効成分とする繊維強度向上剤を噴霧後、これを脱水、乾燥する請求項第6項記載の繊維の強度向上方法。
【請求項8】
被処理繊維が、セルロース系繊維または絹である請求項3ないし7の何れかの項記載の繊維の強度向上方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114603(P2009−114603A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292101(P2007−292101)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(596094337)丸三綿業株式会社 (4)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】